オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第62話

「じゃあな! モモンガさん。アルベドによろしくな!」  

 

 リザードマン集落で、人化した武人建御雷が手を振っている。

 モモンガが先にタブラへ<伝言(メッセージ)>したところ、既にリザードマンとは平和的接触に成功しており、更には養殖関連で助力したい旨の要望を告げられた。これに対しモモンガは、各ギルメンに<伝言(メッセージ)>で伝達。全員の了承が得られたことで、必要な物資については後日、タブラから申請書が提出されるということで話がまとまっている。

 その後、まずヘロヘロ班がリ・エスティーゼ王国王都のヘイグ防具店に残留、モモンガは弐式班を……ルプスレギナは残して……バハルス帝国帝都へ送り、最後に建御雷をトブの大森林……タブラと茶釜が居るリザードマン集落へと送り届けたのだ。

 建御雷から声をかけられたのは、各班転送の最後と言うことになるが、モモンガとしては「え? ああ、はい……」という何とも締まらない返事をするしかなかった。

 アルベドによろしく。

 その言葉の意味するところは、建御雷からアルベドに対して「頑張れ」「しっかりやれよ」といったことを言いたい……のではない。いや、少しはあるのだろうが、本音としてはルプスレギナを伴ったモモンガがアルベドと再合流することについて、モモンガをからかっているのだ。

 

(くう~っ。他人事だと思って~……)

 

 ニヤニヤしている建御雷に背を向けるモモンガだが、事実、他人事なのだから面白いのだろう。更に言えば、ナザリックに集結したギルメンの内、建御雷は異性との交際話題がない人物だ。他にはタブラや茶釜が居るが、この二人に関しては制作NPCに異性が居るという、建御雷とは決定的な違いがある。コキュートスを性転換して人化させ、その上で交際すれば話は別だろうが、建御雷からは冗談で触れられたことはあっても、本気で実行する気配はない。NPCを除外しても交際している女性は居ないとのことだ。故に、色恋沙汰に関して、今のところ建御雷は身軽な身であり、気軽に異性ネタでモモンガを弄れるのである。

 (しか)めっ面で<転移門(ゲート)>をくぐったモモンガだったが、その顔は門を通過したところで引きつることとなった。ニュッと顔を出した先では、ルプスレギナが居て、モモンガの渋い顔を見るなり肩を揺らしたからである。

 

「え? え~……と」

 

 困った顔で視線を巡らせたところ、モモンガはソリュシャンを隣に立たせたヘロヘロが額に手を当てている姿を目撃した。

 

「モモンガさん。これからアルベドの所へ行くんでしょ? そんな顰めっ面で出てきたら……同行するルプスレギナが不安に思うじゃないですか」

 

「そ、そうです……ね?」

 

 チラッとソリュシャンを見たが、こちらはモモンガにではなくルプスレギナに言いたいことがあるらしい。大方、「至高の御方の御尊顔を拝して怯えるなど、不敬!」とでも思っているのだろう。面倒くさくなったモモンガが咳払いをすると、ソリュシャンはルプスレギナからモモンガに視線を戻し、小さく一礼した。 

 

(これで良し、いや良くない)

 

 ルプスレギナへのフォローが残っている。

 

「いや、すまなかったな、ルプスレギナ。転移前に建御雷さんにからかわれてな……うむ、気にすることは何もないぞ?」

 

「は、はい! 気にしてないっす!」

 

 気にしていない人は、そういう気張った物言いをしない。とは言え、彼女には別の緊張する要因があると、モモンガは感じ取っていた。

 

(ヘロヘロさんも言ってたけど、この後、アルベドが居るところへ行くんだものな~……)

 

 場所は、エ・ランテルの宿なのだが、その一室では冒険者ブリジットとしてのアルベドが待ち構えている。ルプスレギナにとっては直属の上司ではないが、紛れもなく上役の一人であり、そして同じ男性を愛する女性でもあるのだ。考えてみれば、アルベドがブリジットとしてモモンガ班に配属された際、ルプスレギナは入れ替わる形で弐式班へ異動している。このため、冒険者チーム漆黒のモモンガ班で、アルベドとルプスレギナが同時配属されるのは、今回が初めてだった。

 

(ど、どうなるんだろう……)

 

 二人がモモンガを巡って喧嘩した場合、喧嘩の内容にもよるが、片方だけの肩を持つわけにはいかない。三人は三角関係ではなく、円満交際中なのだから。

 だが、しかし、敢えてアルベド達に優先順位をつけるとするならば、モモンガとしてはアルベドに軍配が上がる。最初の交際相手であるし、容姿はタブラが言ったとおりモモンガの好みの集大成だからだ。性格も、中途半端な改変をしたことで心苦しく思うものの、今のアルベドは非常にモモンガ好みである。お互いに長寿命なのでノンビリと構えているが、これがもし二人とも人間であるなら、数年の交際期間を経て結婚という流れになっていた可能性が高い。

 

(いや、ルプスレギナが好みでないのかと言われると、彼女は彼女で好みなんだけどな)

 

 燃えるような赤い髪が良い感じだし、褐色美人というのも良い。顔立ちだって、獣王メコン川が気合いを入れて作成しただけあって、まさに天上の美……だ。性格は……設定上、極悪らしいが、モモンガの前では明るく振る舞ってくれている。気を遣わせて申し訳ないと思うが、明るいルプスレギナのことをモモンガは好いていた。

 ……。

 

(この上、外に出るとエンリとニニャから好意を寄せられているか……。俺、こんなにモテる奴だったっけ?)

 

「ごほん、それではエ・ランテルに行くか……」

 

 最後に浮かんだ戸惑いに似た気持ちを振り払い、モモンガはルプスレギナに声をかけた。対するルプスレギナは一瞬目を泳がせたが、それでも笑顔になって返事をしている。

 

「はい! モモンガ様!」

 

 

◇◇◇◇

 

 

 アイテムボックスから手鏡を出す。

 服装の乱れなし、髪型オッケー、化粧完璧。

 これからモモンガを出迎えるにあたって、一点の曇りもないはずだ。そう判断したアルベドは、手鏡をアイテムボックスにしまいヘルムを被った……ところで肩を落とす……。

 

(わたくし)、何をしてるの……。ヘルムを被ったら、見えるのは良くて鼻元までじゃない……」

 

 そう、ブリジットとして着用するヘルムは、顔の下半分が露出している。下から仰ぎ見れば鼻の穴ぐらいは見えるだろうか。しかし、逆に言えば顔の上半分は見えないのだ。

 いったい、何のための身だしなみチェックだったのか。

 自分に呆れるアルベドだったが、いつモモンガが姿を現すか解らない。速やかにヘルムを取り、もう一度髪型のチェックをしているところへ<転移門(ゲート)>の暗黒環が出現した。

 

「アルベドよ。随分と待たせて、すまなかったな。……本当に、すまなかった」

 

「いいえ、モモンガ様。モモンガ様のお戻りを心よりお待ちしていましたが、モモンガ様が謝罪されることは何一つとしてありません。そして、ルプスレギナ?」

 

 モモンガに対して一通り思うところを述べたアルベドは、モモンガの後ろから顔を覗かせているルプスレギナに話しかける。

 

「良く来てくれたわ。モモンガ班には回復魔法の使い手が居ないから、あなたの合流は大助かりよ」

 

「はあ、はい。それはどうもっす……」

 

 愛想良く話しかけているためか、ルプスレギナは徐々にではあるがモモンガの後ろから出てきた。そのモモンガを盾にするような姿に、多少イラッと来たアルベドであるが、その思いは乙女の笑顔で塗りつぶしている。

 

「モモンガ様。これからの行動予定は、何かありますでしょうか?」

 

「これと言ってない……が、冒険者組合に出向き、次なる依頼を物色するのも悪くはないな。当面、目指すはアダマンタイト級だ。私とアルベドがオリハルコン級になったからと言って、満足するわけにはいかない。この転移後世界の何処かに居るであろうギルメンに知らしめるべく、我らには『名声』が必要なのだからな!」

 

 今のモモンガは人化中だ。本人は冴えない風貌だと思っているそうだが、アルベドに言わせれば、凜々しくも気優しい青年である。そして何より、愛する男性なのだ。

 

(いけないわ……見惚れてしまって……。ふう……でも、素敵……)

 

 精神の停滞化が発生した。

 これはモモンガなどアンデッドの、一気に平静に戻される精神安定化とは少しばかり毛色が違う。

 異世界転移直前、モモンガがアルベドの設定を読み、文末の『ちなみにビッチである。』を酷いと思ったことで『モモンガを愛している。』と改変しようとした。が、その入力途中でヘロヘロが出現したことで驚き、『モモンガを』とだけ入力して確定してしまったのである。これによりアルベドは、モモンガ関連の思考で精神が高ぶると『モモンガを』とまでは考えるのだが、そこで目的入力がされていないため、一瞬、思考停止するようになってしまった。

 もっとも、思考自体はすぐ復帰するので生活や業務に支障はない。どちらかと言えば、モモンガ関連においては一度立ち止まって自分を省みることができるようになったことで、実に有効に機能している。時には鬱陶しさも感じるが、この『精神停滞化』にアルベドは助けられることが多かった。

 

(タブラ様のお話では、モモンガ様は異性交遊に奥手。ならば、ガンガン押し込んでいくのは愚策よ。まずは好感を高めないと……) 

 

 そうした判断から、ルプスレギナと協調することにしたアルベドであるが、今のところ事は順調に進捗している。今日とて、暫し別行動をしていたモモンガが、戻ってきた時にルプスレギナを伴っているというハプニングがあった。しかし、前述の判断から、アルベドは快くルプスレギナに相対したのである。

 一方、アルベドに親しげな微笑みを見たルプスレギナは、アルベドの意図こそ読めないものの、胡散臭さを感じ取っていた。ただ、アルベドは多少の打算こそあれど、本心からルプスレギナと親しくしようとしていたので、『胡散臭さ』というのはルプスレギナの錯覚である。

 

「あの、モモンガ様?」

 

 ルプスレギナが明るい表情の裏……内心で小首を傾げている前で、アルベドは申し立てた。

 ルプスレギナが帰班したなら、自分は守護者統括としてナザリック地下大墳墓に戻り、本来の業務に戻るべきではないか。現状、パンドラズ・アクターがアルベドの代わりを務めているが、彼に負担がかかりすぎるのではないか。そして、モモンガの制作NPCであるパンドラを、たまにはモモンガの供回りとしてあげても良いのではないか。と、そのような申し立てだ。

 これに対してモモンガは唸り、ルプスレギナに到っては澄ました表情を維持できず、目を丸くしている。

 

(ルプスレギナ……(わたくし)がナザリックへ戻るように言うとでも思ったのね。まあ、それは良いとして……モモンガ様は、どうお答えになるかしら?)

 

 奥手のモモンガにしてみれば、アルベドとルプスレギナ……交際相手を二人同時に連れ回すのはプレッシャーだろう。わざわざ<転移門(ゲート)>で連れ戻したルプスレギナを、ここでナザリックに戻す選択はしないはず。となると、精神的な平穏を得るために、アルベドの申し立てを聞き入れてナザリックに戻し、供回りを一人のままとする可能性が高い。

 

(ここで(わたくし)をナザリックへ戻すかどうか。それで(わたくし)に対する好感の度合いを見ることができるわ……)

 

 至高の御方の心を測るなど不敬極まるが、申し立て自体は真っ当なものなので許される範囲だろう。

 モモンガ班に残るよう言われるなら、モモンガの好感度が高いと見るべきで実に喜ばしい。問題は、ナザリックへの帰還を命じられた場合だが、そうなったとしてもアルベドは抗議や抵抗など一切なしで命令を受け入れるつもりだった。何なら、自分と入れ替わりでモモンガ班に残るルプスレギナに対し、親しく励ましの言葉をかけてやってもいい。モモンガとの別れ際には、目の端で涙を浮かべるぐらいしても良いだろう。

 

(そう、ナザリックへ帰還するよう命じられたとしても、これはチャンスよ。ルプスレギナには、(わたくし)が『聞き分けのいい女』を演出するための、アシストをして貰うまでのこと。くふふ~)

 

 このようにアルベドは、モモンガの自分に対する好感向上を目論んでいた。ただし、これはモモンガを、自分との結婚へ追い込む意図があってやっているのではない。あくまで好感度を高めるためだ。では、アルベドの当面の狙いは何なのかと言えば……実は『モモンガからの自発的なプロポーズ』である。

 

(抱かれて既成事実を作ったりして、殿方を結婚するしかない状況に追い込むなんて……美しくないわ。と言うか、夜這いしようにも精神の停滞化が発生するし……。だったら、モモンガ様からプロポーズしていただけるよう頑張った方が断然いいじゃない!)

 

 最大の障害は、今の自分以上にガツガツしているシャルティアだったが、こちらは創造主のペロロンチーノが戻ったことで、完全に色目の向きが変わっている。モモンガに対しては『后の座狙い』から『猛烈な一ファン』になったと言って良いだろう。そうなると、残る当面のライバルはルプスレギナだ。しかし、アルベドには容姿がモモンガ好みという強力なアドバンテージがあるので、モモンガの心証さえ悪くしなければ問題にならないと思われる。

 

(くふ、くふふふ……ふう)

 

 モモンガ達が戻って来てから、何度目になるかわからない精神の停滞化。これによって高揚感には大きくブレーキがかかった。アルベドはモモンガに気取られぬよう、静かに深呼吸すると、モモンガの返答を待つのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 ルプスレギナが戻った以上、自分(アルベド)はナザリックに戻るべきではないか。

 そうアルベドから申し出られた時、モモンガは唸るしかなかった。

 申出自体は、ありがたい。パンドラの負担が減るし、ナザリックの運営は、やはりアルベドに任せるのが最適だろうからだ。それよりも重要なことは、交際中の女性二人を連れ回さなくて済むこと。これは大きい。

 

(いがみ合ってる二人……というのじゃないだけ随分とマシなんだが。これはこれで俺の精神疲労が……)

 

 では、アルベドをナザリックに戻すべきだろうか。

 モモンガは……即断できなかった。

 

(あれ? ……上手く言葉が出ないな……。アルベドをナザリックに戻し……んん? なんか嫌な気分だぞ?)

 

 アルベドがモモンガ班から居なくなる。

 アルベドの申出を受け入れた場合……モモンガ班で発生する事態を思うと、何やら苛立つのだ。モモンガは視線を下げると自分の下顎に手を当てる。数秒間、自分の気持ちと向き合い、おもむろにアルベドを見た。

 

「いや、すまないが……アルベドには暫く同行して欲しい」

 

 これを聞き、アルベドは微笑みの『笑み』の度合いを濃くし、ルプスレギナは口元を口笛でも吹くような形に変えている。もちろん、モモンガの前で口笛を吹くようなことはしないのだが……。

 

「ルプスレギナに引き継いでおくこともあるだろうし、その……あれだ。ええと、アルベドとルプスレギナが私の班で在籍しているのを、エ・ランテルの人間に印象づけておきたいしな」

 

 かなり苦しいが何とか言い切ったところ、アルベド達はモモンガに「承知いたしました」と一礼した。

 

「ぬう……」

 

 モモンガは、アルベドに対し「さっそく冒険者組合へ行く」と告げ、アルベドがヘルムを装着する様を見ながら口をへの字に曲げる。

 

(何なんだろうなぁ。女二人連れ回してバツの悪い思いをするより、アルベドに居て欲しいと思ったわけか? 離れたくないとか子供じゃあるまいし……いや、これは俺の我が儘なのか? 私は我が儘なのだ……とか、たまに俺言うけど……。何だか恥ずかしい気分になる我が儘だな……。わからん……)

 

 頬が火照っている気がするのだが、ひょっとして今の自分は赤面しているのだろうか。そう思ったモモンガは手で頬を擦ってみたが、その様をアルベドらがニコニコしながら見ているのに気づく。

 

「わ、私の顔など見ても面白いことはないぞ! しゅ、出発する!」

 

 完全なる照れ隠しであり、モモンガは言い終えるや二人に背を向けた。そのモモンガの背に、アルベドとルプスレギナは綺麗に揃った言葉を投げかける。

 

「「承知しました! モモンガ様!」」

 

「ぐむっ……」

 

 先程聞いた同じセリフよりも元気溌剌であり、モモンガは小さく呻くのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 モモンガ班にルプスレギナが帰班してから、数日が経過している。

 モモンガ班は、リ・エスティーゼ王国の都市エ・ランテルにて高難易度の依頼を物色。バハルス帝国帝都の弐式班(弐式炎雷、ナーベラル・ガンマ)も同じく依頼を物色……しつつ、ナザリック地下大墳墓ダンジョンアタックを行うワーカーチームの情報を集めていた。王国王都のヘロヘロ班(ヘロヘロ、セバス・チャン、ソリュシャン・イプシロン、ツアレニーニャ・ベイロン)は、ヘイグ武器防具店を切り盛りしている。もっとも、ヘロヘロはソリュシャンとデートしていることが多かったし、セバスはセバスで合間を縫って情報収集に勤しんでいる。基本的に、店で常駐するのはツアレと言うことになるが、それでは不安が大きいので、ナザリック地下大墳墓より新たな人員が派遣されていた。ある程度、人間相手の接客が可能で、いざとなればツアレを守れる者。ブレイン・アングラウスである。

 

「六腕の誰かに来て貰うことも考えたんですけど、さすがに王都で店番させるのはね~」

 

「はあ……」

 

 店内の入口付近で立つヘロヘロ。人化した彼がゆるく言うと、黒基調の店員服を着込んだブレインが返事をした。無精髭を剃られてサッパリした顔は、気が乗らないと表情で語っている。先日まで、ナザリックの第四階層でコキュートスと稽古していたのだが、ブレインにとってはその方が充実していたらしい。ちなみに、コキュートスにとっては、手加減の練習相手として最適だったとか。

 

「まあまあ、ちゃんとお給料は出ますし。売り上げによっては、私から建御雷さんに頼んで、良い感じの刀とか打って貰いますよ?」

 

「それマジっすか!? この前、俺が頼ん……おっと、お願いしたら『クレマンティーヌのは作るが、お前は練習刀で我慢しろ』って言われたんすよ! うっひょー! やる気が出てきた!」

 

 ころっと態度を変えて喜ぶブレイン。その様子を見たヘロヘロは満足げに頷いている。

 

(もっとも建御雷さんの性格からして、ブレインの実力に見合った……ちょっと良い感じの刀を作ってくれるってところですかね~)

 

 ブレインが今所有している刀も、実は建御雷の作成品だ。ただし、練習刀の位置づけであり、ある程度の魔法防御を斬ることはできるものの、壊れにくさと自動修復に重きを置いている。今の話のとおりヘロヘロが頼んだ場合、その刀より上質の物を建御雷は作るだろうが、ブレインの育成を鑑みて、過ぎた強力武器にはならないはずだ。

 

(建御雷さんは武器作成に燃えてましたけど、頭から武器頼みって人じゃないですし)

 

 強力な武器には、それに見合った実力が必要。その信念に基づき、建御雷は自身を鍛えることも怠らなかった。現に異世界転移後は、現地の『武技』なる技術も習得している。

 

「そう言えば、建御雷さんは斬撃以外の武技を覚えたんですか?」

 

「旦那っすか? 旦那なら、クレマンティーヌを呼びつけて要塞を教わってたっけ」

 

 要塞は防御系の武技で、武器や防具で攻撃を跳ね返すものだ。上位の武技には重要塞、不落要塞が存在する。クレマンティーヌは不落要塞の使い手であるから、建御雷の依頼により、まずは最下級の要塞を伝授していたのだった。

 

「ほへ~。熱心ですね~。私も何か覚えてみますかね~」

 

 ヘロヘロの真の姿は古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)なので、敵からの攻撃を跳ね返すというのはイメージ的に合わない……と、ヘロヘロ自身は思っている。しかし、柔らかいスライムが防御堅固で……となると、それはそれで意外性があって面白いかもしれない。それに、外を出歩く時は人化するか人間形態を取るので、例えばゼロの打撃などを腕一本で弾き返すという戦い方は、ヘロヘロからすれば格好良いようにも思えた。

 

(今のままでも出来るんですけど……同格のプレイヤーに通じるものじゃないですしね~。ソリュシャンに格好良いところを見せたいのもあるし……。建御雷さんが要塞を覚えたら、俺も教わってみるかな~)

 

 そのように考えるヘロヘロだったが、話が脱線していることに気づき、仕事の話を再開する。

 

「様子を見て、ロンデスやクレマンティーヌにも店に出て貰うことを考えています。二人には別の仕事もありますから、交代制になりますかね~。もちろん、休暇日も予定してますから……働きづめにはならないですよ?」

 

 元の現実(リアル)では、ブラック過ぎる勤務形態のおかげで過労死しかけたヘロヘロである。転移後世界で人を雇う立場になったからには、利益優先で従業員を使い潰す気は毛頭なかった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 こうした中、モモンガを始めとしたギルメン達は、時折ではあったがトブの大森林……リザードマン集落に顔を出している。リザードマン集落が重要というわけではないが、手頃な都市育成シミュレーションをしている感覚があり、生け簀等の進捗状況を見物しに行っていたのだ。

 その意味ではカルネ村も対象になるのだが、こちらはすでにナザリック出張所が存在し、戦闘メイド(プレアデス)のユリ・アルファが常駐。彼女を介して、細々とした技術や知識がもたらされていた。そこへ新たにリザードマン集落との接触があり、助力する方針となったことで……モモンガらの目がリザードマン集落に向いたのである。

 リザードマン集落とカルネ村。どっちの方がより発展するか、関わるギルメンを分けて競争しても面白いのでは……という提案もあったが、建御雷の「本腰入れて関わるわけじゃないが、それでも遊びでやってんじゃねぇんだからさ。その都度、適当に……でいいんじゃねぇか? どっちもさ」との発言により、お流れとなっていた。

 近々、バハルス帝国皇帝の命令で、ワーカーチーム……異世界転移直後の茶釜姉弟が世話になった面々が大半……のナザリック地下大墳墓ダンジョンアタックがある予定だが、それまでは皆、したい事や、するべき事をして日々を過ごしていたのである。

 そして、ある日の昼過ぎ……。

 

「兄貴ぃ! ヘイグの兄貴ってばよ! 俺に稽古つけてくれって!」

 

「ああ、もう! 兄貴って呼ぶのやめて貰えますかね? ガラが悪い感じでしょ!」

 

 ザリュース・シャシャのリザードマン集落。もっとも部族名は緑爪(グリーン・クロー)と言い、族長は彼の兄である、シャースーリュー・シャシャなのだそうだが……その集落の中で、ヘロヘロが一人のリザードマンにつきまとわれていた。

 全高二メートルを超える巨躯で、右腕は巨躯と比べた上でも不釣り合いなほどに大きく太く鍛えられている。彼の名は、ゼンベル・ググー。リザードマン部族の一つ、竜牙(ドラゴン・タスク)の族長だ。

 彼とヘロヘロの出会いは、タブラと茶釜による緑爪(グリーン・クロー)族との接触を受け、ヘロヘロが「じゃあ、俺も! ソリュシャンと遊びに……いえ、探索に行きます!」と思い立ったのが発端となる。シャースーリューから大まかな位置を聞いたヘロヘロは、トブの大森林を進み、即日、ゼンベルが統治する竜牙(ドラゴン・タスク)族の集落へ行き当たったのだが……そこで出てきたゼンベルが、ヘロヘロに対して腕試しを申し込んだのである。

 結果は、ゼンベルのボロ負け。

 ヘロヘロが観衆に解るようにと、見える範囲での速さで戦ったこと。そして、見て貰う以上は派手に……と考えたことで、過日に手合わせしたゼロよりも(ひど)いことになった。もちろん、殺しはしなかったのだが、結果としてゼンベルはヘロヘロに心酔。兄貴と慕ってつきまとい、稽古をせがむようになったのだ。

 

「兄貴って呼び方は嫌か?」

 

 ゼンベルが首を傾げる。

 

「じゃあ、ヘイグの叔父貴(おじき)で!」

 

「ヤクザっぽくなってるじゃないですか!」

 

 なんて呼び方してるんだ! とヘロヘロが抗議したとき、視界の東向き、遠く奥の方……森の茂みから何かが飛び出してきた。巨大なジャンガリアン・ハムスター、モモンガ達の家来を自称するハムスケである。ちなみに雌。その背には人化した茶釜が跨がっており、茶釜の前にマーレがちょこんと座り、後ろではアウラが嬉しそうにしがみついていた。

 

「ヘロヘ……ヘイグさーん!」

 

 ヘロヘロの冒険者名を呼びながら、茶釜がハムスケに乗ったまま駆けて来る。巨大なハムスターが地響きを立て、雑草と土煙を巻き上げながらヘロヘロに迫るのは、見ていて圧巻だ。

 

「殿ぉおおおおっ!」

 

 殿……それはハムスケが、ナザリックの男性ギルメンを呼ぶときの呼称である。では、女性ギルメンである茶釜を呼ぶときはどうなるかと言うと……。

 

御姫様(おひいさま)を、お連れしたでござるよぉおおおお!」

 

 四肢で急制動をかけ、ハムスケがヘロヘロの前で停止した。ヘロヘロは舞い上がる土埃を掌で払いながら、茶釜を見上げる。

 

「おひいさま……ですねぇ。茶釜さん?」

 

 ニカッと笑うのは、『おひいさま』という呼び方が何度聞いても可笑しいからだ。対する茶釜は、ハムスケの上で胸を反らしている。

 

「うふん。女は幾つになっても『お姫さま』なのよ!」

 

 そう言って笑う茶釜は、二枚の大盾を背負っていない。後ろにアウラを座らせる都合上、アイテムボックスに収納しているのだろう。そんな風にヘロヘロが推察していると、「……と、それどころじゃないんだった!」と言うや、茶釜がハムスケの背から飛び降りてきた。

 

「茶釜さん、何か面白いものでも見つけましたか?」

 

 近くに来た茶釜に問うと、茶釜は続いて飛び降りてきたアウラ達を一瞬振り返ってから説明を始める。それによると、茶釜はアウラ達と共にトブの大森林の南部……未調査区域を探索していたらしい。その際、冒険者組合の依頼を受けて行動中だったモモンガ班と遭遇し、途中まで行動を共にしていたのだとか。

 

「モモ……ンさんですか。モモンさん達は、どうしたんです?」

 

「ええと、順を追って話すわね」

 

 まず、モモンガ達だ。モモンガは、エ・ランテルの冒険者組合で高難易度の依頼を受けたらしい。その内容は、トブの大森林で効能の高い薬草を採取してくること。元よりトブの大森林は強力なモンスターが徘徊しており、大変に危険だ。しかし、モモンガとしては名声を高める機会であったため、自信満々で引き受けてきたという。第一、危険と言っても大方の生息モンスターは調査が出来ているのだ。多少手に余るモンスターが居たとしても、今のモモンガには六人ものギルメンがついている。一度引き上げて、ギルメンらと共に再度アタックするという選択肢もあった。

 そうして、アルベドとルプスレギナを引き連れたモモンガが森に入り、途中で茶釜達と遭遇して合流。共に森の奥を目指したのだが、一人のドライアードと出会ったことから話の方向が変わる。

 

「ドライアードって木の精霊ですよね?」

 

「そっ、ピニスン・ポール・ペルリア……だったかな? 見た目は裸の女性なんだけど、肌が木質でね。髪の毛は新緑色って言うのかしら? 葉っぱそのものだったけど……。 で、その()が助けを求めてきたわけよ」

 

 ピニスンは、モモンガ達が遭遇した場所に生える木の精霊だが、彼女の木よりも更に東側……そこに封印された魔樹が居ると言う。最近になって封印が解ける気配があり、ピニスン感覚では近くの自分にも危害が及ぶため、七人組を呼んで欲しいとのことなのだ。

 

「七人組? 冒険者ですか?」

 

「どうかしらねぇ、冒険者なのかな? ピニスンは日数感覚が薄いから、下手したら何十年も前の話ってことになるし……。でね、その七人組ってのが前に魔樹の触手……枝かな? んん、触手が暴れたときに助けてくれたらしいんだけど……。呼ぶって言っても……ねえ?」

 

 本当に何十年も経過していたとしたら、探し出せても戦える年齢ではない可能性が高いし、すでに死んでいることも考えられる。そうなると、その七人組を探すよりも、もっと手っ取り早い対策を講じる方が確実だ。

 つまり、モモンガ達で魔樹を封印するか倒してしまうのである。

 と、それだけならトブの大森林における安全度が高まったろうし、モモンガ達にとって良い感じの暇潰しにもなっただろう。しかし、茶釜の話はまだ終わっていない。

 

「それでね、ヘロヘロさん。ピニスンが言うには、私達より先……彼女感覚で陽が三回沈むくらい前に……別の誰かが彼女に出会ってたそうなの。一人で行動してたらしいんだけど……」

 

「ほほう……。この危ない森で一人?」   

 

 やはり冒険者かな……と思うヘロヘロだったが、続く茶釜の説明を聞いて表情が固まり、次第に驚愕のそれに変貌していく。

 その出会った人物の風貌とは、一見したところは人間。身長は二メートルに迫るほどだったそうだが、身の丈の割に細身で……。

 

「フェドーラ帽にレザージャケット。シャベルを持った黒髪の長髪で、髭面の……男性型木像……いや、植物系異形種ですか。それって……」

 

「ブルー・プラネットさんが使ってた、ユグドラシル・アバター……の見た目よね?」

 

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の初期メンバー、ブルー・プラネット。自然をこよなく愛する彼は、現実には岩のようにガッチリした巨漢で、現実(リアル)での建御雷よりも大柄だ。そんな彼は、自由度の高いユグドラシルに仮初めの自然を見いだすべくプレイヤーとなったのだが……。

 

「タブラさんに大昔の冒険活劇映画の話を聞かされて、資料を集めてアバターを作り直したんだっけね?」

 

「そうですね~……さすがに映画そのままの容姿だと問題があるから、漫画か何かで似たようなキャラを探して、デザインを混ぜたと聞きましたが……」

 

 あとは己の自然愛を大いに反映して、植物系の異形種から始め、ブループラネットは一〇〇レベルに到達している。その彼が、このトブの大森林に居るのだろうか。ヘロヘロの胸に熱い思いが込みあげるが、腑に落ちない点もある。

 どうして、ブルー・プラネットは今ここに居ないのか。どうして茶釜が、今ここに居るのか。ブルー・プラネットと合流を果たせていないのであれば、何故探しに行かないのか。

 次々に湧き上がる疑問を口に出したところ、茶釜は伏し目がちになって両脇に居るアウラとマーレの頭を撫でた。

 

「ピニスンがね……その人、出会ったときから凄くはしゃいでて、魔樹の話を聞くなり魔樹が居る方へ走っていって、そのまま戻らないんだって……」 

 

 更に詳しい話を聞き出すべく、モモンガ班がピニスンの木の場所で残り、茶釜はペット代わりに連れ歩いていたハムスケに乗ってヘロヘロに知らせに来たというのが現状らしい。

 

「慌ててたから<伝言(メッセージ)>するの忘れちゃって……。でも、聞いた話からブルー・プラネットさんだと思うし、でも……様子が変だし……」

 

「それは……」

 

 普段は明るく気の強い、ぶくぶく茶釜。その彼女が不安がっている。

 ヘロヘロは衝撃を受けて掠れた声を出したが、その瞬間……少し離れたところで<転移門(ゲート)>の暗黒環が出現した。顔を出したのは人化したモモンガだ。

 

「だいたいの話は聞けました! このまま探しに行った方が良さそうです! って、ヘロヘロさん!? 事情、聞いてますよね! 俺、これからタブラさんに連絡を取って<転移門(ゲート)>でギルメンを集めます! 全員で行きますよ! ブルー・プラネットさんのところへ!」

 

 一気に言い放ち、モモンガは顔を引っ込める。そして暗黒環も消失した。

 モモンガの慌てぶりを見たヘロヘロは、暗黒環のあった場所から茶釜に向き直る。

 

「何となく俺……解りましたよ……。ブルー・プラネットさん……おかしくなってるんですね?」

 




 アルベドが純愛頑張り系になっていく……。
 人間蔑視とか、ナザリック以外は価値がない……とかは、原作のままなんですけどね~。
 モモンガさんの心証を悪くするから口に出さないだけなのです。
 追い込まれるでもない状況からのモモンガさんの自発的プロポーズ。
 果たして書く機会があるのか……。

 久々にブレイン登場。
 建御雷さんが外出してるときは、コキュートスによってボコボコにされてますので、今では原作の対ゼロ戦時より強くなってます。
 振られた刀を拳で受けようものなら、斬り裂かれて腕の数が増えちゃいますね。

 ゼンベルも登場。
 ヘロヘロさんとの遭遇シーンは端折りましたが、憎めない近所の悪ガキポジションを確立しています。ソリュシャンには睨まれてますが……。

 ピニスンは『封印の魔樹』のカバーイラストを参考にしています。次話以降で会話シーンも入れてみたいです。ドライアードって言ったら人間男性を誘惑するイメージがあるんですけど、ピニスンってどうなんでしょうね。

 ハムスケは、冒頭のモモンガさん視点を書いてる時点では出すつもりは無かったのですが、良い機会なので出しました。茶釜さんを「御姫様(おひいさま)」呼びするシーンを入れられたので満足。

 新たに登場した……する予定? のギルメンは、ブルー・プラネットさん。
 見た目は、ハリソン・フォードのインディアナ・ジョーンズ……を元に弄った感じで、顔つき髪型は漫画『頑丈人間スパルタカス』(安永航一郎:著)に登場する、マッキンリィ飢村(うえむら)。画像検索したんですけど、中々見つからず(笑
 漫画がキンドルになってないし……。
 連載開始は1993年という古い漫画なのですが、御存知の方、いらっしゃいます?
 元ネタの飢村は、典型的な安永氏風味のアレなキャラですが、本作では中身がブルプラさんなので、基本的に穏やかな人柄です。ちなみに、人化すると異形種形態より大柄になるという……。
 あとは異形種にする必要があったので、ウィキを見ても種族的な情報が無い……のを良いことに、木人像に見える植物型異形種としました。造形がゴツゴツしたマネキンみたいな感じですかね。初期のバーチャファイターみたいな感じかな~。足なんかは一見靴履いてるように見えますが、根っこの集合体だとか何とか……。
 原作等で容姿が公式に発表されたら、絶対に本作の容姿と違ってると思いますが、本作ではこれで行きたいと思います。
 
 例によって不穏な引きになってますが、まあ本作のいつものアレですので、ノンビリと次回をお待ちください。

 そうそう、評価コメントで応援していただき、ありがとうございます。
 しっかり読んでますよ~。
 ここで個別に返信とかしていいのかな……。評価コメントって、後書きで書いていいんだっけ?

<誤字報告>
D.D.D.さん、ARlAさん、佐藤東沙さん、サマリオンさん

毎度ありがとうございます 
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