「お風呂回ですね!」
人化状態のペロロンチーノが、浴場への引き戸を開け放ち叫んでいる。脱衣場に居るモモンガ達は、腰タオル一枚で騒ぐなよ……と思いつつ脱衣を進めた。
「お風呂回って、ペロロンさん。男湯には男しか居ないじゃない。何処に需要があるんだよーっ」
弐式が「この人は、しょうがねーな~」と、ぼやきつつ突っ込んでいる。すると、ペロロンチーノが弐式に向き直った。
「それはもう腐向きの方々に……おっと! いやいや弐式さん、ナザリックには美人女性がたくさん居るじゃないですか! 一応、姉ちゃんも居るし……」
「一応とか言ってると、茶釜さんにブッ殺されるぞ?」
腰タオル無しで、タオルは肩掛け。
建御雷が男らしく浴場へ踏み込んで行くと、ペロロンチーノは硬直したが、すぐに元気を取り戻して建御雷の後をついて行った。
「き、聞こえなければ問題なしですよ!」
「じゃあ陰口か? 俺は感心しね~なぁ」
二人の会話を聞いていたモモンガは、タブラ、ヘロヘロ、ブルー・プラネットと顔を見合わせて苦笑し、二人に続いて浴場へと入って行く。
そして身体を洗った後、全員で入湯。
当然ながらタオルは折りたたんで頭の上だ。ちなみに大人数で浸かれるジャングル風呂の大浴槽で並んでおり、モモンガを基準として右にブルー・プラネット、建御雷、弐式。左にヘロヘロ、タブラ、ペロロンチーノの配置となっている。
モモンガは、気優しそうな青年。
ヘロヘロは、小柄で
弐式は、茶髪でノリの良さそうな青年。
建御雷は、がっしりした体つきで実直そうな青年。
タブラは、白髪まじりの頭髪をオールバックに纏めた中年男性。
ペロロンチーノは、普段の言動だけを知ってると想像できないが、かなりの美男子であり、顔立ちは茶釜に似ていた。
そして今回、新たに合流したギルメン……ブルー・プラネットは、建御雷を上回る体格に岩のような顔つきの青年である。
全員、湯に身体を浸ける心地よさを堪能していたが、やがて建御雷が口を開いた。
「ブルー・プラネットさんよ。円卓では話題に出なかったけど、あんたはどうする? 元の
「元の
ブルー・プラネットは両手ですくった湯を顔に浴びせ、顔を上に向ける。作成担当が自分であるジャングル風呂、その上空には星空が広がっていた。第六階層の夜時間でもそうだが、ナザリック地下大墳墓で作り上げた『自然』は、ブルー・プラネットにとっては数少ない自慢事の一つだ。
しかし、それとてナザリックの外で広がる『本物の自然』を前にすると色あせてしまう。いや、ナザリックの自然も素晴らしいが、やはり本物には敵わないと言ったところか。
「俺はね、建御雷さん。いや、みんなにも聞いて欲しいかな。NPC達や女の人……茶釜さんが居る前では言えないこともあるし。そうだなぁ、未練がましい話……愚痴になるのかなあ……」
ブルー・プラネットは、ゴツゴツした顔で苦笑すると話し出した。
幼い頃の彼は、親が子供の頃から持っていた図鑑で草花の絵を見たり、かつて存在した世界一大きな木の写真を見て育っている。自然愛好家としては、その頃が出発点と言えるだろう。そうして社会に出る直前、学校の視聴覚教室で現在の汚れきった空を見たブルー・プラネットは、こう思った。
「この世界の空は汚れきっている。俺が何とかしなくちゃ……ってね」
そう思って就職した先が、アーコロジーの環境管理局である。そこで彼は、外縁都市部の排気設備点検などを志願していた。
「危険だったし事故で何人も死んだけど、実際に都市区画の外を見られる数少ない職場だったから……。そうだ、得られる物も多かったかな」
職場が職場だけに、外部の気象データや汚染物質のサンプルが入手できている。ブルー・プラネットは職員権限を利用し、時には小銭を握らせるなどして、汚染物質の解析を行った。しかし……上手くいかないのだ。
「当然だよね~。俺が頑張ってどうにかなるなら、他の誰かが何とかしてるはずだもの。やれたことは自分の権限ではどうにも出来ないほど、外の自然が駄目になっているのを再確認できたことと……。後は、外縁都市部の……空気清浄システムの性能を二割半ほど向上できたぐらいかな~……」
「「「「に、二割半っ!?」」」
話を聞いていたモモンガ達が腰を浮かせる。ペロロンチーノなどは完全に立ち上がっていた。股間で揺れるモノが目に優しくないが、今はそれどころではない。
「に、二割半って……ブルー・プラネットさん! 凄いじゃないですか!」
力んだ声でペロロンチーノが言うと、モモンガ達も頷いている。
外縁都市内部ではマスク無しだと屋外を歩けず、空調施設の老朽化もあって、屋内でも気管等を病んで死に至る者が後を絶たなかった。そんな状況下で、空気環境が二割半も向上するとしたらどうだろうか。それは外縁都市で住む者にとって大きな功績である。空気環境の悪化による死者の数は大幅に減少していたはずなのだから。
「ブルー・プラネットさん、凄い……」
モモンガの……そして皆のブルー・プラネットを見る目が、偉人を見るそれに変貌した。だが、ブルー・プラネットは笑って手の平を振っている。
「いやいや、大したことじゃないんですよ。大雑把に言えばフィルターの質を向上させて、交換周期を短くしただけだから。まあ、実行に移すまで苦労はしましたけどね……」
上からの圧力で誰も彼もが非協力的、いや妨害までされた。そんな中、ブルー・プラネットは四方八方に働きかけ、半ば脅しのような手口まで使って前述の数値を実現している。そう、並大抵の努力ではなかったのだ。
「良いフィルターを使ってマメに交換する。ただ、それだけの事だったなぁ……」
ただ、それだけの事。長年にわたり、それすらしようとしなかったアーコロジーの支配者層には本当に腹が立つ。自分達の健康と生活さえ快適なら、他はどうでも良いなど……ブルー・プラネットにしてみれば「殺意が湧きますよ!」と言ったところだ。もっとも、ユグドラシル内で人間種を相手にするならともかく、
「そんなわけで、無理が祟ったせいか胸を病んじゃいまして。病院通いが増えたことで左遷されまして……。色々、やり過ぎたから睨まれてたんだな~」
研究開発、その他計画立案といった部署から外された彼は、ひたすら都市区画外の調査に回された。そして持ち帰るデータは、活用されることなく破棄される。身体を病む前のブルー・プラネットなら、どうにかして上にねじ込めたのだろうが……。
「ちょっと躰を動かすだけで目眩とか吐き気とか……。ああ、肺とかはずっと調子悪いままだったかな……。で、待機室で仮眠してたところにモモンガさんからメールを貰ったんですけど、もう引退してたし、ナザリックがどうなってるか解らなかったもので……。ああ、やっぱり言い訳がましいな……不義理って言うんですかね。モモンガさんに申し訳なくて……」
モモンガからの誘いに応じることができなかった。その後、弐式からのメールがあって、こちらは誘われるまま集合地へ赴き……今に到る。
「いや本当に……モモンガさん、申し訳ありません。一人でナザリックを維持し続けてただなんて……。再登録して手伝えれば良かったんですけど……」
そう言ってブルー・プラネットがペコリと頭を下げたところ、左方で居るモモンガが慌てて首を横に振った。
「いや、そんな! とんでもないですよ! 皆、事情があって引退したんだし、ユグドラシルはゲームです。ブルー・プラネットさんは
モモンガが口籠もる。
これは「自分にはナザリックしかなかった」と言おうとしたのだが、一人で呟くのは良いとしても、数人のギルメンの前で言うには情けないという思いがあったからだ。いずれにせよ、モモンガには……そして一連の話を聞いたギルメン達には、ブルー・プラネットを責める気はまったくなかった。これほどまでに
この時、モモンガ達の思考は、一瞬ではあったが危険な方向に傾きかけている。
例えば妻子あるたっち・みー等を
「モモンガさん。それに、みんなも。この転移後の世界は……あんなにも自然が一杯で素晴らしいじゃないですか! ナザリック地下大墳墓が実現しているとか、もう最高ですよ! 仲間も集まってるし……他の人も合流できる可能性があるんでしょ? だったら、俺なんかのために元の
「ブルー・プラネットさん……。みれ……思い残したことは無いんですか?」
未練と言いかけたモモンガが、『思い残し』と言い直してから問いかけた。
「思い残したことですか……」
ブルー・プラネットは目を閉じ、自分の人生を振り返る。
元の
「強いて言えば仕事が心残りですかねぇ……。たぶんですけど、俺が居なくなったら外縁都市の空気環境システムって以前の運用に戻ると思うんです。でも、まあ……しょうがないですよね……」
下層民の健康など支配者層は考慮しない。下手に元気づかれて反対運動が活発化するのも厄介だと思うはずだ。すぐに外縁都市の空気環境は、ブルー・プラネットが頑張る前の状態に戻るだろう。すべては元どおり……元どおりになるのだ。
「今から戻っても、同じ事ができると思えないし……。そうできないように左遷されたし……。でも、俺……俺は頑張ったと思うんです。だけど、でも、あそこまでやって……俺がやったことと言えば、さざ波一つ立てた程度のことだったのか……ハハハッ……」
ブルー・プラネットは俯く。
湯面には岩のような顔が泣き顔となって映っていた。
「建御雷さん、それにモモンガさん……」
「おう……」
「……はい……」
モモンガ達はただ一言、返事のみをする。どう言葉を投げかければ良いかわからないからだ。
「元の
そこで言葉を切ったブルー・プラネットは、鼻をすすってから左右のギルメンらを見回し……最後に上方で広がる星空を見上げた。
「転移した後、トブの大森林でしたっけ? そこで木々の間から青い空を見て……。今見えてる空は汚れていない。汚れないよう俺が何とかしなくちゃ……。そう思えたことが嬉しくてですね……。あの本当の青空があることが、本っ当に嬉しくてですね……。ですから俺は……こっちの世界で引き続き頑張りたいと思います」
それが、精根尽きるまで
そして、こうも思っていた。
こんな偉い人を円卓であんな弄り方して、マジすみませんでした……と。
◇◇◇◇
一方、女湯では数人の女性が集っている。
ギルメンは現状唯一人の女性である茶釜。他はシャルティアと
茶釜は、円卓の間からスパリゾートナザリックの前までモモンガ達と一緒だったのだが、途中で見かけた二人を誘って女湯に入っている。そして今は、三人で湯船に浸かっていた。ちなみに、茶釜の頭の片隅に円卓で見たブルー・プラネットの印象が残っていたため、何とはなしにジャングル風呂での入浴となっている。モモンガ達と違って三人と小人数であるため、浴槽は比較的小さなものを使っているのだが……。
「それにしても……ユリが眼鏡を外すと、本当に茶釜様にそっくりでありんすねぇ……」
シャルティアが並んで座る茶釜とユリを見た感想を述べる。
背格好も同じ、顔立ちも同じ、髪の色も同じ。
これで髪型と表情に出ている性格が同じなら、もう見分けがつかないところだ。ユリは困ったような、それでいて嬉しそうにしていたが……茶釜はと言うとケラケラ笑っている。
「そりゃあそうよ。やまちゃん……やまいこさんは、私をモデルにユリを作ったんだから」
「うぇ!? そ、そうだったんですか!?」
驚きのあまり、シャルティアの口調から似非郭言葉が消えていた。それを面白そうに見た茶釜だが、気になったのはユリも驚いていることだ。
「あれ? ユリは知らなかったの?」
「ええ……いえ、はい。初耳ですが……」
「ふ~ん、そっか……」
それまで目線が横並びになるよう座っていた茶釜が、尻の位置をずらせて下顎が浸かるほどに頭の位置を下げる。その姿を追うユリとシャルティアの視線が下がるのを見つつ、茶釜は会話を再開した。
「やまちゃんがね~……私のこと格好良いって言ってね……」
やまいこがユリ・アルファを作製することになった経緯。それは、言動や性格が男性的でありながら見た目は清楚な日本人女性……そんなやまいこが、一つの理想像として茶釜を見ていたことにある。
「そ、それは! やまいこ様と茶釜様が、ラブな関係であったということでありんしょうか!?」
「違うわよ~」
否定しながら、茶釜はシャルティアの様子を注視した。茶釜やユリよりも随分と背が低い彼女は、当然ながら座高も低い。なので差し向かいで座るため、底面の岩に腰掛けていた。そのシャルティアが目を爛々と光らせ、湯あたりではない熱さで頬を染めている。
これは弟のペロロンチーノがシャルティア作成時に、自身の萌えの心を余すところなく……いや、厳選して盛り込んだ結果だ。ちなみに、今発動しているのは『同性愛』の部分だろう。
(それでいて、男もいけちゃうバイ・セクシャル設定だから……)
他にもサドやマゾといった性癖も備わっていたはずで、ゲームならともかく現実化して動くシャルティアにとっては、傍目に酷な設定だと思えた。が、それは第三者としての見解だ。当のシャルティアは「創造主様から頂いた大切な気持ちでありんす!」と御満悦なので、茶釜が口出しすることではないのだろう。ただ、その性癖を向けられる側としては困るわけだが……。
「冗談で
やまいこは言動や性格はともかく、容姿は女性的だった。清楚あるいは和風美人だったと言っていい。ゆえに、その方面の趣味がある女性からはギャップ萌えもあってか大人気で、幾人からも告白されたらしい。中にはストーカー行為に及んだ女性も居たとかで、やまいこ自身は『同性愛』に関して嫌悪感すら抱いていた。
(冗談とは言え、付き合おうとか言って……悪いことしたわね~)
「ま、そういう事で、私とやまちゃんは親友なの。わかった?」
「はい! 承知しましたでありんす!」
シャルティアが元気良く挙手し、それを見た茶釜は「うん、よろしい!」と頷きつつ立ち上がる。
「そろそろ、上がろうかしら? 貴女達はどうする?」
茶釜としては男性陣と待ち合わせしてるでもないため、そのまま自室に戻ろうと思っている。シャルティアについてはペロロンチーノと<
身体の曲線に沿って流れ落ちる湯。上気した白い肌。巨乳モデル体型。
同じ女性であっても目を引く裸身であるが、一瞬目を惹かれた茶釜は苦笑している。
(私の裸って、他人からはこんな風に見えてるんだ……。我ながらと言うか……綺麗よねぇ……)
ユグドラシル時代、NPCの衣服を脱がす行為は垢バンの対象とされていたが、転移後世界では全てが自由だ。こうしてNPCと裸の付き合いもできる。しかも、ナザリックで人の姿を有する僕は美人揃いときた。
(やっばいな~……弟の性癖を笑えないかも……)
軽く頭を振った茶釜は、スタスタと脱衣場に向けて歩いて行く。シャルティアは湯に浸かったままだが、頭を振った仕草を見たのかユリが付いて来た。
「あの、茶釜様? お身体に変わりありませんか? もしや湯あたりとか……」
「大丈夫だって、考え事してただけだから~」
努めてユリの方を見ないようにする。さっきまで同じ湯に並んで浸かっていて平気だったのに、今では意識してしまう。我ながら度し難いと茶釜は思うのだ。
(てゆうか、オッパイ揺らしながら近づくな~っ! 意識しちゃうでしょ! それも私と見た目が同じだってのに、あああああ……)
多少テンパりながら茶釜は歩を進めた。そんな茶釜にユリは付き従い、最終的には脱衣場にて茶釜の着衣を手伝うに及ぶ。結果として、暫く後に通路へ出た茶釜は、口から魂が出るような状態で自室を目指すことになるのだった。
◇◇◇◇
ブルー・プラネットの合流後。
ナザリック地下大墳墓は活動を再開している。
チーム漆黒の各班は派遣先へと戻り、ナザリックで残留する者は各々が割り振られた作業に従事していた。
各班の割り振りと、ナザリック残留者の行動予定や状況は次のとおりとなる。
<ブルー・プラネット合流直後のナザリック勢及び冒険者チーム漆黒>
【チーム漆黒】
モモンガ班……王国エ・ランテル
(班長)モモンガ (班員)茶釜、アルベド、ルプスレギナ
ヘロヘロ班……王国王都
(班長)ヘロヘロ (班員)ソリュシャン、セバス、エントマ、ブレイン、ツアレ
弐式班…………帝国帝都
(班長)弐式炎雷 (班員)ペロロンチーノ、シャルティア、ナーベラル
【ナザリック地下大墳墓】
武人建御雷
……たっち・みー合流に向けて新武器の作成中。コキュートス及び、たまに呼び戻すブレインとでPVP。
ブルー・プラネット
……スパナザで傷ついた心を癒やしつつ、第六階層でザイトルクワエの種子、万病に効く薬草の研究。その他は第六階層での耕作実験など。助手としてアウラとマーレ。なお、助手二人に関しては、モモンガ班へ出向することもある。
タブラ・スマラグディナ
……クレマンティーヌ及びロンデス、更にカジットと共に言語翻訳作業。翻訳眼鏡の量産化について研究。スクロール素材の研究。余った時間はクレマンティーヌらを巻き込んで映画鑑賞。
そんな中、午前中のエ・ランテルを歩く
モモンガだ。
帝国のワーカーチームがナザリックへ来るには少し時間的余裕があるため、薬草採取の報告及び提出を兼ね、手頃な依頼でも請けようかとエ・ランテル冒険者組合へ向かったのだが……。
「
「そぉねぇ……高難易度で~、モンスターなんかサックリ倒して~、手短に終わるやつがいいかな~」
「私も、かぜっちに賛成だわ。空いた時間で
専用のメイド服……を模した冒険者服のルプスレギナ、人化し二枚の大盾を背負った茶釜と、女戦士ブリジットとして振る舞うアルベド。これら三人を従え、
(視線が痛いな~……。すれ違う人が、み~んな振り返っていくんだもんな~。最初に茶釜さん達を見て、次に俺だろ? たまんないな~)
今は人化中なので、アンデッドの精神安定化は発動してくれない。性分ではない注目を浴びながら、モモンガは溜息をついた。
(それにしても、美人女性を三人連れて歩くとか……。俺の人生って、どうなっちゃったの?)
営業職の鈴木悟だったときは、女性に敬遠されたり嫌われたりはしなかったが、特に好かれるということも(鈴木悟が認識していた範囲では)無かったはずだ。強いて言えばユグドラシルをプレイ中、茶釜や餡ころもっちもち、やまいこといった女性ギルメンと親しく会話していたぐらいだろうか。いや、ユグドラシルのオフ会はあったので、茶釜らとは実際に顔を合わしたことがある。茶釜は今の姿より幾分成熟した三十代前後ぐらいだったろうか。やまいこは茶釜より少し年上で、意外なことに良家の出といった容姿だった。モモンガを始めとした男性ギルメンとしては、茶釜とやまいこの容姿について逆のイメージがあった為、大いに驚いたものだ。もちろん、モモンガは思ったことを口に出すほど愚かではなかったが、口に出すほど愚かだったペロロンチーノが、やまいこから鉄拳制裁されているのを目撃している。
(餡ころもっちもちさんは、気弱そうなOL風だったな~……ユグドラシルだと、あんなに自由に振る舞ってたのに)
思いつきやノリで動く餡ころもっちもちと、取り敢えず殴って反応を見るやまいこ。たっち・みーや、るし★ふぁー程ではないが、この二人もトラブルメーカーだったとモモンガは記憶していた。と、かつての女性ギルメンらを思い出していたモモンガだが、今注目すべきは茶釜だ。
今回の冒険者組合行きに際し、茶釜は「私、モモンガさんの班に入りた~い!」と申し出たのである。断る理由が思い当たらず、モモンガは二つ返事で了承した。が、直後、自分の班には交際中の女性が二人居ることを思い出している。
茶釜の付き添い及び、自分も弐式班に入りたいと同席していたペロロンチーノが「モモンガさん、地雷原に踏み込んでいくな~……。しかも、その地雷原は自分で
(気が回らなかったのは俺の落ち度だけどさ。地雷原って何だよ。茶釜さん達が地雷なわけないじゃないか。ペロロンチーノさんも失礼なこと言うもんだよ、まったく)
このように脳内で順調にフラグを構築しつつ、モモンガは背後の茶釜達をチラ見する。茶釜達三人は和気藹々と談笑を続けているようだ。
(特に問題ないな……。いつものガールズトークだ)
ただ、ふとした拍子に女性達から視線を感じることがある。背筋がゾクッとするような視線だ。険悪な視線ではない。どちらかと言えば、値踏みをされているような……。
……狙われているような……。
モモンガは軽く頭を振ると、歩くことに集中した。
(気のせい気のせい。モンスター討伐の依頼でも請けて、出向いた先でピクニック……名案じゃないか。弁当とか用意しなくちゃ……。エ・ランテルの酒場とかで作ってくれるかな?)
◇◇◇◇
モモンガが地雷原……もとい、
茶釜達はモモンガとのピクニックについて協議中であった。
(「それでね? さっき
(「ふぉおおお!? そんな嬉しいこと! いいんすか!?
(「あ、あのう、かぜっち? さっきのは、ついブリジットとしてのノリで言っただけで……」)
喜ぶルプスレギナとは対照的にアルベドは戸惑っている。だが、茶釜はヒラヒラ手を振って笑い飛ばした。
(「い~のよ! お弁当なんかは手作りが良いんでしょうけど、急な話だしぃ、<
(「し、至高の御方を配達役になど!? ましてや、タブラ様!?」)
ギルメンを使いっ走りにする。しかも、それが自分の創造主ということもあって、アルベドは息を呑んだ。すぐさま異議を申し立てたものの、茶釜が「じゃあ、シャルティアに頼む?」と言ったことで黙っている。
(良くない……良くない展開だわ……)
現時点、シャルティア・ブラッドフォールンがその愛を向ける対象は、彼女の創造主であるペロロンチーノだ。しかし、ペロロンチーノによるキャラ作成時、シャルティアには
(ピクニックに付いて来たがったり、同行したらしたで……アインズ様にベタベタするに違いないわ……)
今のシャルティアは、モモンガの本妻の座を狙った動きはしないだろうが、愛人や恋人になりたがる可能性は高い。そういう彼女がピクニックに同行することは、正直言って迷惑なのだ。
(他の時ならともかく、
ピクニックでの弁当を広げる場に、弁当を<
(今のところ恋人でない茶釜様が同行してるんだもの、シャルティアが加わることを容認されるはず!
やって来たシャルティアを追い返す理屈が用意できない以上、茶釜が言う『タブラに弁当を持って来させる』案を呑まざるを得ない。創造主であるタブラに対し、心の底から申し訳ないとアルベドは思う。だが、その一方でタブラと会う機会が増えたことに喜びを感じるのだ。
モモンガによって設定の一部を変えられたとは言え、自身の創造主に高い忠誠心と敬愛の念を持つ点については、アルベドも他のNPCと何ら変わりがないのである。
(「ふふ~ん。どうやらオーケーみたいねぇ……」)
アルベドの心情や葛藤を全て読み取ったわけではないが、表情から反対する意思がないと感じた茶釜は、さっそくタブラに<
その際……。
『せっかくだし、私も参加……顔を出して良いかな?』
とタブラが言い出したので、茶釜は首を傾げた。
「タブラさん。私は別に良いとして、
『違いますよ。逆です。そして、アルベドだけに限った話でもないし。……モモンガさんは、あのとおりの人柄だからね。アタックしても気がつかないこともあるでしょ?』
つまり、タブラは「それとなくフォローしよう」と言っているのである。これを聞いた茶釜は呆気に取られたが、次第に人化した顔……頬が熱くなっていく。
(タブラさんの言ってることは正しいわ。間違ってない。女の方から強引にアタックするのは、モモンガさん相手だと悪手になりかねないけど。ここで男性ギルメンが居て、それとなくサポートやフォローしてくれたとしたらどうかしら? モモンガさんの好感度を稼ぎやすい! でも……)
好きな男性と楽しくしている姿を、知人男性に間近で見られる。これはどう考えても恥ずかしい。
(それにアルベドは、ライバル……ってわけでもないけど、そのアルベドの『お父さん』が同伴とか、それどうなの? しかもアルベドが見てる前で、タブラさんにフォローして貰う? きっついわねぇ~)
羞恥心と実利。そこに女としての矜持も加味した茶釜は、暫し黙考した後、目を開きつつ口も開いた。
「タブラさん……。やっぱり遠慮します。お弁当は持ってきて貰うだけでいい。ありがとね?」
こうしてギルメン同士の<
「断られたか。まあ、無理だとは思っていたけど。茶釜さんの頑張りに期待だな~。いや、ここはアルベドを応援すべきか……。どっちにしろ私が見てる前で、二人がやりにくそうにしてるのを見物できなかったのは残念かな~……ハッハッハッ」
そう言えば、円卓ではブルー・プラネットさんを弄るばっかりで定番の
空気環境の二割半向上は、盛りすぎかと思ったのですが「ブルプラさん、スゲー!」感を出すために盛ったままにしてみました。ブルプラさんが居なくなったら、すぐ元どおりになる程度のものですしね~。
お風呂シーンに関しては、お色気シーンとかは最小限に留めています。
比重の関係で浮くユリの乳とか、それにシャルティアがむしゃぶりつこうとして、異形種化した茶釜に触腕状の粘体で絡め取られるとか。
建御雷さんの分厚い大胸筋の手触りをタブラさんが解説するとか。
そういうのも考えていたのですが、割愛しました。
ユリの容姿は、茶釜さんの
……という捏造設定ですが、せっかくなので女湯シーンで使ってみました。
次回はピクニック回と……そういうのをやってる間に時間経過したとして
そろそろワーカー編に入っていきたいと思います。
<誤字報告>
D.D.D.さん、みえるさん、キャストさん、狐のコンさん、佐藤東沙さん
毎度ありがとうございます。
……なんでああいう誤字を見落とすかな……。
自分の目の性能を疑ってしまいますわ~。裸眼視力は良くないんですけどね。
<オマケ:ボツ原稿>
・・・・・・・・・・・・・・・
(「そりゃあ、
聞かれたならば答えよう……と茶釜がデート順を述べたところ、ルプスレギナとヘルム装着(下半分は露出)のアルベドが顔を見合わせる。
(「あ、あのう……今は冒険者でって事になってますけど。いくら何でも、それはマズいんじゃないですか?」)
(「ルプーの言うとおりです! 一番は至高の御方が……」)
(「しゃらぁぁぁっぷ! いいこと? 現状、あんた達二人はモモンさんの恋人で、私は単なる班員で友人。恋人が優先するのは当然でしょ? あと、至高の御方とか言わない」) その後、アルベドとルプスレギナは茶釜を翻意させようと粘ったが、茶釜が首を縦に振ることはなかった。かくしてモモンガとのデート順は、アルベドに始まって二番手がルプスレギナ、三番手が茶釜として決定されたのである。
(「ブリジットが最初にモモンガさんに告白したんでしょ? 一番手、いいじゃないの!胸を張ってデートしてきなさい」)
(「茶……かぜっち……。ありがとう……」)
目元はヘルムで見えないが、震える口からするとアルベドは涙ぐんでいるらしい。茶釜はウンウンと頷くと、すぐ前にあるモモンガの背を見つめた。
(もちろん、他意はあるんだけどね~……)
茶釜は内心で舌を出す。
アルベド達と何度かデートをしているモモンガだが、茶釜の見たところでは……まだ女性慣れしていない。アルベドとルプスレギナ、この二人と数日おきにデートして、最後の茶釜の順番となったとき。少しは肩の力が抜けているのではないか。
(リラックスしたモモンガさんと、お気楽デート! そして、あわよくば告白よ!)
己の考案した完璧な計画に、茶釜は笑みを浮かべないよう表情筋を引き締める。
もっとも、
・・・・・・・・・・・・・・・・・
本文で、モモンガさんがエ・ランテルを歩いてるあたりで書いてたものです。
三回に分けてデート回を書こうとしてたのですが、書いてる途中で正気に戻りまして。
本文のようにピクニックに変更してみました。
さすがに、そろそろワーカー編に入りたいし、いつまでたってもフォーサイトとか来ないのもマズかろう……と。