「ふむ。ギガントバジリスクは、この一体だけか……」
ユグドラシルから持ち込みの木製杖を握りなおし、モモンガが呟いている。
エ・ランテル冒険者組合で貼り出されていた討伐依頼の内、最も高難度だったのがギガントバジリスクの討伐だった。エ・ランテルの東側街道付近で出没するとのことで、茶釜の許可を得てアウラを(モモンガの<
なお、ギガントバジリスク自体は大した相手ではなかったため、モモンガが女性陣から声援を浴びながら、一瞬だけ異形種化し……<
「討伐完了の報告には部位提出が必要だったな。ギガントバジリスクの場合は確か、鼻先の角を根元から……あっ」
鼻先に一本角があるモンスターを、綺麗に『おひらき』にしたらどうなるか。
「つ、角が半分に割れてる……」
バジリスク本体は、それぞれの切断面を下に倒れ伏しており、鼻先の角は両方に付いていた。つまり真っ二つ……なのである。それを見下ろすモモンガは、暫し無言であった。
が、そんな彼を見て盛り上がっている者達が居る。
(「や~ん! 途方に暮れてるモモンガさん、可愛い~っ!」)
(「普段見られないお姿っす! これがタブラ様が仰る『ギャップ萌え』っすね!」)
(「失礼よ、ルプスレギナ。でも、可愛く見えるのよね……不思議だわ……。普段は、あんなに素敵なのに……」)
冒険者チーム漆黒のモモンガ班、その班員である女性達だ。なお、茶釜に関しては、ギガントバジリスク捜索のために呼んだアウラを、ぬいぐるみのように抱きしめている。その体勢で「モモンガさん、可愛い!」などと言ってるのだ。これでは前述した『ぬいぐるみのように』ではなく、ぬいぐるみ扱いそのものである。そういった扱いをされているアウラは、さぞかし不機嫌……なはずがなく、溶けそうな顔で「でへへ~っ!」と笑っていた。
(「アウラ様、幸せそうで何よりっす」)
(「
アルベドにとってのタブラ・スマラグディナは、モモンガを除けば他の『至高の御方』と比して別格の存在である。それは自らの創造主だからだ。これはナザリックに所属する者なら、一部の女性NPCを除外して皆同じ意見であろう。
そして今、茶釜とアルベドの間に『一部の女性NPC』が一人居る。
ルプスレギナ・ベータ。
この赤髪褐色肌の美女は、創造主を獣王メコン川とする女性NPCだ。当然ながらメコン川に対する忠誠心は、他の『至高の御方』よりも一段高いが、そうでありながら彼女の愛情はモモンガに向けられていた。ナーベラル・ガンマやソリュシャン・イプシロンなど、自身の創造主が帰還し、創造主に対して愛情を捧げているのとは対照的だ。
(「ねえ、ルプスレギナ?」)
(「なんすか?
周囲に人の気配はないし、遠巻きに護衛している
ルプスレギナは、異世界転移の前……頻繁にナザリックに姿を見せる唯一の至高の御方、モモンガに心惹かれ、異世界転移後はモモンガに告白して今に到る。その告白に際し、「モモンガ様は特別なんです」と言っていた。
確かに特別なのだろう。モモンガは一人で頑張っていたし、一人でナザリックを……NPCらを護っていたのだから。アルベドのように始めから『モモンガを愛する』ように作られていない者でも、モモンガを愛してしまうのは当然のように思える。
ならばこそ、アルベドは確認しておきたかった。
(「ナザリックで、貴女のように創造主様とは別で、特別にアインズ様を愛してる……そういう僕って他に誰か居るの?」)
『至高の御方に愛されたい、相手して欲しい』であるなら大多数の僕が当てはまるが、この場合は『モモンガ限定』、しかも『創造主は除外』だ。そういった僕が、ルプスレギナの他に居るのだろうか。聞かれたルプスレギナは、下唇の下に人差し指を当てて考えていたが……。
(「デミウルゴス様とか男性の方は知らないっす。女性だと……シャルティア様が、さっきの条件を別にしても筆頭枠だったんすけど。今はペロロンチーノ様が戻ってますから……。愛情と憧れは別腹ってことっすね」)
そこはアルベドも何となくだが理解できる。おそらくシャルティアには、ペロロンチーノの存在が『愛する方向』で強く刻み込まれているのだろう。
(それも男女の関係になる方向で! そう創造主様に作られたということよね……。ほんの少しだけど、シャルティアが羨ましいわ)
と、このようにアルベドは解釈したが、実は違う。
ペロロンチーノはシャルティアを作成するにあたって、自分を愛するように設定文を書き込んだりはしていない。普段から「俺の嫁を作るんですよ!」とか「見てください! 俺の理想の女の子の集大成を!」等と吹聴していたことが、シャルティアに大きく影響しているのだ。そして、それはシャルティア完成後、彼女を連れ回しているときでも他のギルメンに対して言っていたため、シャルティアの中では『ペロロンチーノ様が自分を愛してる。嬉しい。好き。大好き。自分もペロロンチーノ様を愛してる!』と熟成されていき、今に到るというわけだ。
(「じゃあ、他には居ないのかしら?」)
重ねてアルベドが聞くと、ルプスレギナは口を尖らせる。
(「全員のことを把握するのは無理っすよ~。でも、アウラ様は……アインズ様のことが特別に好きかも……」)
(「アウラが? 確かに、アインズ様に懐いてる気はするわね……」)
アルベドの視線がルプスレギナから、茶釜に抱きかかえられているアウラに移った。アルベドにとってのアウラは、『仲が悪い』という設定上のことではあるが、シャルティアといがみ合ったり、シャルティアに対して『姉』ぶったりしている姿が印象深い。アルベドからすれば、まだまだ子供なのだが……。
(ルプスレギナは……彼女自身の好みが合致した結果、アインズ様への告白に到ったと思うのだけれど。アウラの場合、何か理由はあるのかしら? ……あっ)
抱っこされて恍惚の表情で居るアウラ……のすぐ上に茶釜の顔があり、こちらは少し熱の籠もった視線をモモンガに送っている。その表情は、時折見かけるアウラがモモンガを見ているときのものと同じだ。
(男性の好みが同じ……なのね。さすがは創造主様と被創造物……)
だとすると、親と子でモモンガの取り合いになるだろうか。いや、モモンガが双方受け入れてしまえば問題はない。至高の存在には伴侶の人数制限などないのだから。
(でも、親子を纏めて妻にするだなんて……。ある意味、背徳的……なのかしら?)
アウラは茶釜が腹を痛めて産んだ実子ではない。だが、先に考えたとおり、創造主と被創造物の間柄なのだから、親子と言って良いのかもしれない。そう思えば、背徳的なのだが……。
(タブラ・スマラグディナ様なら、どう思われるのかしら?)
アルベドは、タブラが発言しそうな内容を想定してみる。至高の御方の考えを完全に読み解くのは不可能だろう。だが、普段の言動を参考にすれば、ある程度見えてくるものがあった。
目を閉じれば、敬愛すべき
『母娘を同時に妻としてオロオロしているモモンガさん……。萌えだと思わないかな?』
カッと目を見開いたアルベドの脳裏で、聞こえた幻聴がエコーを残しつつ消えて行った。
『萌えだと思わないかな?』『萌えだと思わない……』『萌えだと……』『萌え……』
(まさしく、そのとおりです! タブラ・スマラグディナ様! ……ふう)
モモンガについて思考を働かせたとき、一瞬の停滞が発生する。それは異世界転移の直前、モモンガが施した設定改変によるものだ。しかし、このときは、すべて考え終わってから発動している。それ程に、脳内妄想の『タブラによる見解』はアルベドの心を貫いたのだ。
アルベドの考察……脳内妄想により述べられたタブラの見解は、実のところタブラ本人が聞いても「そのとおりだよ!」と言うほどに正確なものである。つまり、茶釜とアウラの親子のごとき似通った感性は、タブラとアルベドであっても同様だったのだ。
そのことに思い至ったアルベドは、小さく笑っている。
(「どうかしたっすか?」)
(「いいえ、別に」)
歌うような声色でルプスレギナに返事をしたとき、アルベドの視線はすでにモモンガに向け直されていた。視線の先では、モモンガが「そうだ! 割れてても角は角だし。念のために頭を切り取って組合に持って行けば完璧じゃないか!」と一人納得している。ポンと手を打っているのだが、その仕草が何とも可愛らしく、そして愛おしい。
アルベドは深く……深く深呼吸した後、守護者統括の表情で一言だけ呟いている。
「確かに……萌えだわ……」
◇◇◇◇
離れた位置から<
「ふう……」
一息ついたモモンガは、遠くに居るアルベド達を振り返った。ギガントバジリスクは一人で倒したが、証明部位の収集に手間取っている。女性を待たせたのは不味かったのではないだろうか。そういう思いがあったのだが、アルベド達はニコニコしながらモモンガを見ている。振り向いた瞬間、何か別の表情から今の表情になったような気がしたが、モモンガは「気のせいだろう」と結論づけていた。
「本体は……爪や骨、血肉などが素材として売れるそうだから、これもアイテムボックスに放り込むとして。後はエ・ランテルに戻って冒険者組合に報告するだけか……。その後は……」
独り言だが聞かせるように言っていると、アルベド、ルプスレギナ、何故かアウラをぬいぐるみのように抱きかかえている茶釜。この三人中、向かって一番右で立つ茶釜が、左手で挙手した。ちなみにアウラは右手で抱っこしたままだ。
(アウラが……アウラが飼い主に抱えられた猫みたいになってる!)
どうしてアウラを抱っこしたままなのか。それが創造主と被創造物の正しい在り方なのか。幾つかの疑問が浮かんだが、モモンガは敢えて触れず、茶釜の挙手にのみ反応してみせた。
「茶が……かぜっちさん? どうかしましたか?」
「あのね、モモンさん。さっきブリジットが『仕事が終わったらピクニック』って言ったけれど。せっかく外に出てることだし、どこか景色の良い場所でお弁当でも広げたいな~って」
そのことならモモンガも覚えている。エ・ランテルの酒場で弁当などを作って貰えるかを考えた程度には意識していた。それを茶釜が言い出し、他の者が黙っているという事は、女性陣としては話が決まっているのだろう。
(だとしたら、俺に選択権は……ないな!)
そもそもモモンガが乗り気というのが大きい。そして、かつてのユグドラシル時代。思い起こせばギルメンの三人娘……ペロロンチーノが「はぁ? 娘?」と口走り、三人がかりで焼きを入れられたのは良い思い出だ……ぶくぶく茶釜、やまいこ、餡ころもっちもち。この三人が言い出して行動に出たとき、止められる者はモモンガを含めて誰も居なかった。余程、行動理由が間違っているなら話は別だが……。
(ピクニックで弁当なら別に構わないだろ? 今は仕事中だけど、食事を取って悪いと言うことはないし)
これらの考えを脳内でサッとまとめたモモンガは、茶釜に対して頷いた。
「いいですね! じゃあ、お弁当については、俺が<
「それがね! ……っと、え? マジ? 行動早~い! タブラさん、大好き!」
茶釜が何か言おうとしたようだが、こめかみに左手指を当ててモモンガ以外の誰かに応答する。どうやら<
しかし、「タブラさん、大好き!」とはどういうことだろうか。二人は、そういう関係だったのだろうか。何となく胸がチクッとしたモモンガであるが、アルベドやルプスレギナが居る手前、深く考えないことにする。
「モモン……さ~ん! 弁当なら当てがあると言うか、できたから! 今呼ぶわね!」
モモンガの戸惑いを余所に、茶釜が朗らかな声で言った。そして左手を空に掲げ、指を鳴らす。
「カムヒヤ! タブラ・スマラグディナ~ッ!」
「はぁっ?」
何言ってるの、茶釜さん……と続けようとしたところ、モモンガのすぐ近くで<
「どうも~。お弁当のお届けにあがりました。ナザリッ……おっと、ええと、ナザ弁を五人分! はい、これ」
タブラはアイテムボックスから弁当の包みを取り出すと、呆気に取られているモモンガに差し出した。
「タブラさん、これはいったい……」
「いやなに、茶釜さんからピクニックで弁当が必要とのことでしてね。私がナザリックの食堂で用意して貰ったんですよ。一応は無料ですし、美味しいから問題ないですよね?」
「え、ええ……それはまあ……って、あっ! タブラさん、何処へ行くんですか!?」
弁当の包みを受け取ったモモンガは、タブラが<
「もちろん、ナザ……ごほん、戻るんですよ。今は休憩時間で、ロンデス達と映画鑑賞中……」
タブラは説明するが、言い終わる前に暗黒環の暗闇から手が伸び、彼の腕を掴んだ。
「た、タブラ様! 早く戻って! エーガってのが怖すぎて、ロンデスが白目剥いてる!」
腕だけでなく頭まで出したのは、クレマンティーヌ。その顔は恐怖で引きつっているようだ。
「え~? 解りやすいように世界観を合わせたのがマズかったかな~……と言うか、君達、死霊とか悪霊とか平気じゃないの?」
「自分が戦うんじゃなくて見てるだけだから、すっごく怖いんです! 何か音楽も怖いし! それと火を噴く黒杖に、動くノコギリを手に付けた主人公とか、わけわかんないですし!」
テンパって言うクレマンティーヌによって、タブラが暗黒環に引きずり込まれていく。
「せっかくバッドエ……いや、ディレクターズカット版をチョイスしたのに~……あ、モモンガさん、頑張ってね~」
「ちょっと! タブラさーーーーん!」
呼び止める声もむなしく、タブラは姿を消した。左手で弁当を抱えたモモンガが右手を伸ばすも、伸ばした先の<
「……ピクニックに……行くか?」
気まずげな声が出てしまい、自分を叱りたくなったが……了承の意を込めて返ってきた女性らの声は、いずれも花が咲かんばかりに嬉しそうなものだった。
◇◇◇◇
ピクニックは、ギガントバジリスクを倒した場より少し南進した地点で行っている。そこは、なだらかな丘だ。南へ下った先には、木々に囲まれた湖がある。
「いい感じの湖なのに人の気配が無いわねぇ……。穴場なのかしら?」
「茶釜さん。街道から離れすぎてますから、モンスターが多く出るんですよ」
モモンガが説明すると、茶釜からは「ああ~」と納得したような声が返ってくる。遠目に観察すると、湖の畔には結構な数のモンスターが居て……ハンゾウや
(野生動物が追いやられていく……。あ、モンスターか……)
アルベドの話では、こちらにちょっかい出してきそうなモンスターを重点的に追い立ててるとのことだが……。
(ま、考えないようにするか……)
モモンガは軽く頭を振ると、昼食の場とした地点で周囲を見回した。前述の湖を一望できる、見晴らしの良い場所だ。空を見上げれば小さな雲が流れていく良い天気で、ピクニック日和と言って良いだろう。
さっそくアイテムボックスより弁当の包みを取り出すが、ここでモモンガは首を傾げている。
(このまま座って良いんだっけ? 周辺は草の背が低いから大丈夫だと思うけど)
都市外が汚染されていた元の
が、そこにタブラから<
『モモンガさん。お弁当を拡げるためのシートなら、お弁当の包みの底に、別で包んで入れてありますよ。八人用なので、ゆったり腰を下ろせるはずです』
「……タブラさん。
良いタイミングで、しかも丁度いい内容のアドバイスだ。そうも思いたくなる。しかし、タブラは笑って否定した。
『シートのことを言い忘れてただけですよ~。しかし、遠隔視の鏡ですか。実は建御雷さんと弐式さんと共同で、遠隔視の鏡の改良を目論んでましてね』
遠隔視の鏡を二台使って、映像通信を可能としたい……というものだ。
<
遠隔視の鏡の場合は、室内の映像を送信できず音声も伝わらない。
そこで双方の長所を掛け合わせ、映像通信の実現を目指すのだ。
「可能なんですか?」
『例によって課金アイテムを使うことになりますが、大丈夫なはずです。モモンガさんが執務室で、外に出てるギルメンからの報告を映像音声で受ける日も近いですね』
といった魔法アイテムの技術発展にかかる話題を振られ、モモンガは当初気にかかっていた「あんた、俺のこと観察してたの?」という疑念を忘れてしまう。それを思い出したのは、タブラが<
「……それでは昼食にしようか?」
タブラとの会話で気が削げた感覚があるものの、それでもモモンガは笑顔で茶釜達に言う。何しろ、ここに居るのは自分以外はすべて女性だ。しかも美形揃い。嬉しくないはずがない。
(自分一人で異世界転移してたら、メリットの少ない人化をすることは考えなかったろうし……こんな感覚を味わうこともなかったかも?)
自分が効率重視だという認識はある。ユグドラシル時代では、入手したアイテムの性能を確認するべく、自身は骸骨の見た目ながら女物の魔法ドレスを着たこともあった。アイテムの性能確認のためなら、見た目など関係ないのだ。
(ずっと女物を着てろって話なら嫌だけどさ……。でも、効率って大事だよね)
そんなモモンガであるから、デメリットが生じる人化のために、装備したアイテムを外すなど考えもつかなかったろう。だが、ギルメン達が多く合流した今は違う。飲食、睡眠が可能だし、人としての喜怒哀楽が機能しているのは本当にありがたい。
モモンガは人化した自分……その胸が高鳴るのを感じながら、皆と共にシートに腰を下ろす。そして、タブラが届けた弁当を拡げるが、その内容はバスケットに入ったサンドイッチ。ホットドッグや唐揚げなど。他に保温容器に入ったスープ。別容器には、お茶やコーヒーといったものだ。この世界に転移してから、食事情は劇的に改善及び向上したが……たまにはサンドイッチも良い。
(そんな風に思うようになるなんてな~。この俺が!)
営業職をしていた頃は、微妙な味付けのチューブ食ばかりだった。思い起こせば嫌な思い出なのだが、当時はちょっと我慢しながら食べていた気がする。
「んっ?」
気がつくと皆がモモンガを見ていた。
中央に並べられたバスケットと保温容器。その前に座るモモンガを基準として、右側にアルベド。左側にルプスレギナ。対面側に茶釜が座っていて、彼女とアルベドの間にアウラが腰を下ろしている。それら四人の視線がモモンガに向けられていたのだ。
はて何が……と考えるも、すぐにモモンガは思い当たる。
(一番最初に食べろ……ということか?)
どうやら当たりのようで、モモンガがバスケットに手を伸ばすと皆が笑顔になった。それをチラ見したモモンガは一瞬手の動きを止めるが、手を引っ込めるわけにも行かない。適当に一つのサンドイッチを手に取った。すると、茶釜、アルベド、アウラ、ルプスレギナの順でバスケットに手を伸ばし出す。
(なんか、大昔の家庭の食事で、こんなのがあったって聞いたな……。父親……世帯主が手をつけるまで食べちゃ駄目~……とか)
そんな上下関係、家庭に持ち込むとか運用とかするなよ……そう思いつつサンドイッチを頬張ると、口の中に肉の旨味が広がる。よく見ないで手に取ったのだが、ハムカツのサンドイッチだったらしい。
(うまっ! いやあ、思いのほか美味いな! 正直、サンドイッチをなめてたよ!)
転移後はナザリック食で鍛えられているとは言え、まだまだモモンガの舌は貧しく『お子様』だ。最初の一つを食べきり、次の一つに手を伸ばそうとしたところ、右前のアルベドが紙コップを差し出した。中は保温容器に入っていたスープらしいが……。
「アインズ様。どうぞ……」
結界アイテムを使用していることもあり、呼び方がアインズになっている。
「うむ……うむ?」
紙コップを受け取ろうとしたモモンガは、左前のルプスレギナが薄紙で包んだホットドッグを持っている姿を目に留めた。自分で食べようとしているのではない。モモンガに対して差し出そうとしているのだ。
(こ、これは! モテ男に対して我先に食べさせようとするあれか!)
大昔から流行り続けているハーレム系のライトノベル。その中でよく見かける、やたらと周囲の女性に好かれる少年あるいは青年を、女性らが取り合うように世話を焼くという構図だ。モモンガとしては、自分ではシチュエーションに釣り合わないと思っている。同時に気恥ずかしくも思うので、モモンガは次に声をかけてきそうなルプスレギナに対し、先手を打って呼びかけた。
「ルプスレギナ?」
「おかまいなく! アルベド様のから、お先にどうぞっす!」
「はい? ……あっ」
想像していたのとは違う言葉にモモンガは目を丸くしたが、差し出していた掌に紙コップを当てられたことで我に返った。
「あ、ああ、すまないな。アルベド……」
紙コップを受け取り、中のスープ……オニオンスープを飲む。タマネギの濃い味が気を落ち着かせてくれる。二口飲んで紙コップをシート上に置いたところ、待ってましたとばかりに、ルプスレギナがホットドッグを差し出してきた。
「じゃあ次は私っすね! このホットドッグが私的にオススメっす~っ!」
「お、おお。そうか……い、いただこう……」
この時点で、ようやく……モモンガは自分の置かれた状況に理解が及ぶ。
モモンガを取り合いしているのではない。モモンガに迫る順……それを、女性らが互いに納得いく順番で回しているのだ。
「いや、そんな……。……あむっ」
受け取ったホットドッグを囓ると、ルプスレギナが嬉しそうに「やったっすーっ!」と快哉を上げている。喜んでくれて何よりだが、そのルプスレギナから茶釜に視線を転じたところ、ニマニマしながら様子を窺っているのが見えた。それもアウラと共に……である。
(え? 何? 本当に仲良く順番待ちしてるの!? 電子書籍のラノベや漫画じゃ、こういう時って喧嘩してたよね!?)
自分の持つ創作劇知識では出てこない展開だ。モモンガはホットドッグの味を忘れる程に混乱する。その心理状態は……茶釜からすれば手に取るように解るものであった。
(フフフ、驚いてる驚いてる。モモンガさん、私達がモモンガさんを巡って喧嘩するとか思ってたでしょーっ? 発想がラノベ的よね~。そんなことして、モモンガさんが私達に嫌気さすなんて真っ平御免なのよ。だったら皆で仲良く、モモンガさんを囲った方が良いに決まってるじゃない)
一夫多妻が許される世界であるし、許されないとしても法律を変える手がある。そもそも自分達は、転移後世界における何処何処の国家の法律を無視……できるほどには『力』があるのだ。ならば、モモンガを独占せずとも皆で嫁になって幸せになればいい。
(ハーレム系ラノベで見かける負けヒロインなんて、必要ないのよ! みんなで幸せになろ~じゃない!)
そう内心の独白を締めくくった茶釜は、モモンガがホットドッグを食べ終えたのを見て、今度はツナサラダのサンドイッチを指し示した。
「モモンガさん? こっちのも美味しそうよ? 私も食べるから、同じのを食べない?」
その瞬間、アルベドとルプスレギナが「その手があったか!?」と言いたげに驚きの表情を見せた。茶釜は、モモンガが「そうですね! いただきましょうか!」と手を伸ばすのを見つつ、自らも手を伸ばすと……二人の指先が触れあう。
「あ、すみません! 茶釜さん!」
「い~の、い~の! ささ、食べましょ~っ」
そうして同じ種類のサンドイッチを共に頬張り、茶釜はアルベドとルプスレギナに目をやった。二人とも「あれ、いいな~」と羨ましそうにしている。茶釜はサンドイッチの残りを囓りながら笑った。
(んふふん。二人とも、まだまだね~)
◇◇◇◇
モモンガ達がピクニックに興じている頃。
ナザリック地下大墳墓を目指して移動中の一団があった。
バハルス帝国より出発した、複数の
「けどよ、四チームも集めるかね? 依頼主のお貴族様ってのは、余程その遺跡ってのに御執心と見えるな」
魔獣
「ヘッケランよ。依頼主のことを詮索せぬ方が良いと……我は思うのだが?」
向かい側の座席で座るグリンガムが、ヘッケランの呟きに反応した。苦言を呈しているようだが、顔が笑っているので単に会話をしたいだけのようだ。対するヘッケランはヘッと鼻で笑い、顔の横で手の平を振った。
「詮索してるんじゃねぇって。気になっただけさ」
「それを口に出したら、詮索してるも同じ」
ヘッケランにツッコミを入れたのはグリンガムではなく、ヘッケランとはイミーナを挟んで左側に座るアルシェ・イーブ・リイル・フルト。まだ年若い少女は、杖を抱くように固定しながら横目でヘッケランを見ている。
「こいつは汝も一本取られたな!」
グリンガムがヒゲを揺らして笑うので、ヘッケランはバツが悪くなったが、話しやすい空気にはなった。
「依頼主はともかくとしてな。現地に着いたら、三日間は馬車を中心に野営地……拠点だろ? 俺達が仕事してる間、残ってるのは金級の冒険者達だけで大丈夫だと思うか?」
今回の依頼では、墳墓と見られる遺跡に馬車はついてこない。その護衛として雇われた金級冒険者達もそうだ。あくまで依頼期間中の拠点維持と、その防衛をしているだけなのである。その金級冒険者らの実力が当てになるかと言うと……。
「未知数だな。これでアダマンタイト級……とまでは言わないが、オリハルコン級の冒険者でもつけてくれたら安心だったが……」
確かにグリンガムの言うとおりだと、ヘッケランは思う。連れている女エルフらを虐待するアホの天才剣士、チーム天武のリーダー……エルヤー・ウズルスも言っていたが、金級冒険者の警戒網をくぐってモンスターに入り込まれでもしたら目も当てられない。
「そこは信用するしかないのでは?」
フォーサイトの神官、ロバーデイク・ゴルトロンが柔和な顔で言う。ヘッケランからすると二人挟んだ左側に居るので、ロバーデイクは前屈みになって顔を覗かせていた。
「信用ねぇ……。俺らワーカーには『信用』なんて甘えた言葉は……。って、おい、グリンガムよ」
「なんだ?」
ヘッケランは話題を変えた。会話上の旗色が悪いのもあったが、信用という言葉で思い出したことがある。それは、遺跡に向かう道すがら、街道を行く二人連れの男性冒険者と合流したことだ。
一人はシシマルという刀使いの剣士。皮肉っぽい笑みを浮かべているが話してみると気の良い男だ。もう一人は気むずかしそうにしている青年で、名をバリルベと言う。彼も剣士とのことだが……。
「なるほど。ヘッケランは、仕事中に遭遇し、同行するようになった二人が信用できるかどうか不安だと……。ええと、確か二人とも、帝都に流れ込んできた旅人で冒険者登録したばかり……だったか?」
「グリンガム。連中、帝都の冒険者組合で冒険者チーム漆黒の噂を聞いた……それで会いに行きたくなったって話だ。余所の国まで冒険者に会いに行くとか、物好きだよな?」
ヘビーマッシャーの盗賊が言うと、グリンガムは顎髭を弄りながら頷く。
「そうだ。確かに、そう言っていたな。俺は覚えていたぞ? しかし、チーム漆黒か……。帝国にまで噂が聞こえてくるとはな……。クラスは何だったか?」
グリンガムとしては自分のチームの盗賊に聞いたのだが、自信が無いのか仲間と顔を見合わせている。と、ここでイミーナが挙手した。
「あ~、あたし知ってる。グリンガムのところみたいに、多人数の複数班体制で、リーダーの
「むっ? 詳しいな?」
感心したグリンガムに向け、イミーナはチロッと舌を出して見せる。
「ほら、ちょっと前まで帝都に居た、かぜっちとペロン。あの二人って、漆黒の班長の一人と知り合いだったらしくて~。その時にニシキ……だったかな? 班長さんに話を聞いたわけ」
「なるほど、かぜっちとペロンか。あの盾使いと弓使いは凄腕だったな……」
そう呟くグリンガムの言葉に乗って、荷台上のワーカー達はシシマル達について語り合いだしたが、どれもこれも憶測に過ぎない。最終的にロバーデイクが「気になるなら、本人達に聞けばよろしいのでは?」と提案したものの、それだと素性の詮索になる……とのことで会話の流れが途切れてしまった。
「お互いに素性の詮索はしない。それがマナーでありルール……」
最後にアルシェが言うと、皆納得いったのか漆黒やシシマル達に関しての話題は出なくなり、話題は目指す遺跡についてのことに移行していくのだった。
タブラさんがクレマンティーヌらに見せている映画は何だったのか……。
・ディレクターズカット版。
・クレマン達に合わせた世界観。
・火を吹く黒い杖、腕に動くノコギリをつけている。
・死霊や悪霊が敵。
ブルース・キャンベルって格好いいですよね?
アレでクレマン達が怖がるのか……とも思うのですが、まあ異世界人は感覚が違うということで。
ピクニックに関しては、もう1シーン入れたい感じです。
ここで描写しておかないと、茶釜さんとアウラが……。
今回、最後の方でワーカー編に入っています。
エルヤーさんに関しては通常運転で、助かる見込み……ないかな?
最後に、原作で登場してないのが二人出てますけど
いったい、何者なんだ……。
怪傑ライオン丸の主題歌とか、本文中で堂々と歌わせたいんだけど
……ガイドラインを見たらバッチリ登録されてますね。
これなら行けそうかな。
<誤字報告>
ワトンソくんさん、所長さん、夜猫子さん
毎度ありがとうございます。
正直、ワーカー編の原作って(精神的ダメージなアレで)滅多に読み返さないので
ワーカーに用意された馬車って何台だっけ?
スレイプニールは馬車1台に何頭?
ワーカーや金級冒険者って何人だったかな?
といったあたりが忘却の彼方でしたので、読み直しました。
他に設定上のミスとかあったら、適宜修正します。