オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第7話 これ、どういうことなんでしょう?

 衣装部屋(ドレスルーム)

 火元管理者・モモンガ……などと言うプレートは掛かっていないが、ここはモモンガの自室隣りにある衣装部屋だ。

 一歩中に入ると雑多な道具や武具類が転がっており、お世辞にも整頓されているとは言い難い。

 

「……」

 

 自分とヘロヘロだけでなく、ソリュシャン……セバスからの伝言(メッセージ)戦闘メイド(プレアデス)一人を付けるとなった際、ヘロヘロが指名した。……を連れて入室したモモンガは、暫しの間……無言であった。

 

「モモンガさん。何と言いますか……。源次郎さんの部屋よりマシなのでは?」

 

「比較対象がヒドすぎて、逆に泣けてくるんですけど?」

 

 エントマの創造主、アインズ・ウール・ゴウンが誇る(?)汚部屋マスター。ギルメンの源次郎。彼を引き合いに出され、モモンガはゲンナリ顔で突っ込んだ。源次郎はギルドの保有アイテムを整理整頓するのが好き、あるいは趣味であったが、一方で自室の整理整頓は最悪を極めた。

 いくらなんでも彼の汚部屋と比べられたのでは、マシと言われたところで嬉しいとは思えない。

 

「と、取りあえず! 適当な装備を見繕って外に出ましょうか」

 

「お待ちください。モモンガ様」

 

 モモンガの後方、ヘロヘロの更に左斜め後ろで立っていたソリュシャンが意見する。

 至高の四十一人がナザリック外へ出るのであれば、護衛を編成しなければならない。ここはアルベドかデミウルゴスに連絡し、然るべき護衛を伴うべきだ。

 と、このような内容のことを、ソリュシャンは丁寧かつ恭しく説明する。

 

(息抜きで外に出たいだけなんだけどな~……)

 

 それもNPCの居ないところで……。

 声に出して言うと泣かれそう……いや、泣くだけで済まないような気がしたので、モモンガはジッとソリュシャンを見た。が、彼女の方では引き下がるつもりは無いようだ。救いを求めてヘロヘロを見たところ……。

 

「護衛として誰か連れてけと言うなら、ソリュシャンで良いんじゃないですか? 私もソリュシャンと外に出てみたいですし」

 

 などと(のたま)うのだった。

 それを聞いたソリュシャンが「わ、私などでは力不足で……」と言い、ヘロヘロが「大丈夫ですよ。ソリュシャンのことは私達で護りますから!」と言って、慌てたソリュシャンが「いえ、あの、そうではなくてですね!」と混乱する。

 よどんだ瞳で表情を控えめにし、普段は大人の雰囲気を醸し出しているソリュシャン。その彼女がドジッ子メイドのように慌てふためいている様は、見ていて新鮮であり楽しいが……。

 楽しいが、しかし、モモンガとしては面白くない光景でもある。

 

(こんにゃろう。ヘロヘロさんだけ、自分が作成したNPCと仲良くして! 俺だってパ……)

 

 モモンガの心で生じた嫉妬の炎。それが瞬時に掻き消された。

 言わずと知れたアンデッドの特性、『精神安定化』である。

 

「ん、あ~……ゴホン。とにかく装備を見繕いましょう。私の場合だと、この剣を……」

 

 足下にあったグレートソードを拾い、一振りしようとしたところ。

 

 ガシャン。

 

 剣が手から擦り抜けて床に落下する。

 

「ありゃ?」

 

 拾い直して手に持ち、再度素振り……今度も剣は落下した。

 

「モモンガさん。もしかして装備制限じゃないですか?」

 

「装備制限って、あの?」

 

 僧侶職スキルを持つと、宗派選択にもよるが刃物武器を装備できない。

 盗賊職スキルを持つと、革鎧よりもランクが上の防具を装備できない。

 魔法職スキルを持つと、杖や短刀より重く強力な武器を装備できない。

 多くのRPGでは、そのような職業ごとの制限があったりする。無論、ユグドラシルにも、職業レベルやスキルの制限はあった。あったのだが……。  

 

「私は戦士系でレベル持ってませんから、このグレートソードなんかは装備できない。でも、それは……」

 

 ゲームの話で……と言いかけて、モモンガは口を閉じた。

 どう考えてもNPCであるソリュシャンに対し、聞かせて良い言葉ではない。

 

「……そういう事も、あるんでしょうね」

 

 幾分、うんざりしたモモンガは剣を装備することを諦め、別の手段を試みる。

 

「<上位道具創造(クリエイト・グレーター・アイテム)>」

 

 魔法発動により、モモンガの全身が漆黒の鎧で覆われた。金と紫の紋様が入り、値が張りそうな外観をしている。ヘルメットは顔を面頬で隠せるタイプで、これなら人間種の都市にだって潜り込めるだろう。

 

(もっとも、ナザリックの外が現実(リアル)みたいな感じだったら、浮きまくるんだろうな~。この格好……)

 

 できれば、ユグドラシルのようなファンタジーRPGっぽい世界観でお願いします。

 信心深いつもりは無いモモンガだが、祈らずにはいられなかった。

 

「一緒に創造したグレートソードは背に二本差しで……と」

 

「おお! 格好良いですね! その鎧は、たっちさんがモデルですか?」

 

「フフフッ。わかりますか、ヘロヘロさん。アインズ・ウール・ゴウン最強騎士を真似るのは必然ですとも!」

 

 自慢げに笑うモモンガは赤マントをバサリと羽織り、背のグレートソードを片手で引き抜く。そして……。

 

 ビュゴォアッ!

 

 凄まじい剣風と共に剣が一閃。その剣身が膝高水平にてビタリと止まった。

 この人間の腕力では不可能な動きも、今のモモンガであれば可能となる。戦士系スキルが無い魔法職とはいえ、レベル一○○ともなればレベル三○戦士並みの腕力を有するからだ。

 

「何より、魔法で創造したアイテムなら私でも扱える……か。鎧は重い気もするが、まあ戦闘には支障が無い……はずだな」

 

 外部の何者かと一戦したことも無い現状では、やはり不安がつきまとう。

 息抜きをしたいとは言え、護衛無しは無謀だったか……と、そんなことを考えたモモンガは、チラリとヘロヘロを見た。 

 

「護衛は……と言うか、お供はヘロヘロさんの言うとおりソリュシャンで良いとして。ヘロヘロさんは、どうします? 幻術の巻物か何かで姿を変えますか?」

 

 今更、ナザリックの者を相手に変装する必要があるのかどうか。そう思ったモモンガだが、外に出てプレイヤーが居た際、悪い意味で有名人なモモンガとヘロヘロは一発で素性がバレる恐れがある。

 PKKギルド。プレイヤー殺しをする者を狩っていく。異形種狩りから異形種を護る。そう言った理念により結成されたのがアインズ・ウール・ゴウンだ。他ギルドとはよく衝突したし、アインズ・ウール・ゴウンのギルメンに倒された者も多いだろう。

 それらの者から恨みを買っていることを考えれば、外出時に変装するのは悪いことではない。

 

「ふ~む。幻術ですか……」

 

 ヘロヘロが唸る。

 幻術魔法は、その字の如く幻でしか無いため、触られたりすると簡単に幻術だとバレてしまうのだ。臭いだって誤魔化せないし、自分より背丈のある者に化けたとして、気づかずに鴨居を頭が擦り抜けることもあったり。意外と運用に難があるのだ。

 

「高レベルのプレイヤーなんかだと、見ただけで見破ったりしますしね。事実、そういうスキルを持つ召喚モンスターだって存在しますし」

 

「言われてみるとそうですね……」

 

 なぜ自分で気づかなかったのか……と言いたくなる幻術魔法の穴。モモンガは恥ずかしくなったが、これはギルメンが一人とはいえ側に居ることで気が弛んだのだろう。 

 

(俺が一人だけで、この部屋にNPCと居たら……。ちゃんと気づいてたのかな……)

 

 あり得たかもしれない、もう一つの世界での自分。

 そこに思いを馳せかけたモモンガは、ヘロヘロがジッとソリュシャンを見上げていることに気づいた。

 

「ヘロヘロさん? どうかしました?」

 

「あの、ヘロヘロ様?」

 

 ソリュシャンも戸惑っている。ちなみに、うっすらと頬が赤くなっていた。

 

「モモンガさん。私、思うんですけどね。私とソリュシャンは同じスライム種じゃないですか」

 

「そうですね」

 

「ならば……ですよ?」

 

 ヘロヘロはムニュンとモモンガを振り返る。

 

「私も人間形態を取ってみたいと思うんです! 変身スキルとか持ってないですけど!」

 

「ほ、ほほう……」

 

 ヘロヘロは熱く語った。

 ソリュシャン・イプシロンは、自分が創造した最高傑作のNPCである。そんな彼女と同じ目線で話したいし、隣りを歩きたいではないか……と。

 

「そ、そうですね……」

 

 気圧されたモモンガは、口元をアワアワさせつつ何とか友人の思いを肯定した。 

 

(うあ~……ソリュシャンが呆然としたまま滝涙してるよ。ヘロヘロさん、俺と同じで嫉妬マスクを持ってたはずなんだけど、なんなの……この俺との違い、いや格差は!)

 

 嫉妬マスク。

 それは、クリスマスイブの一九時から二二時までの間に二時間以上、ユグドラシルにいた場合。問答無用でアイテムボックスに投じられるイベントアイテムである。正式名称は『嫉妬する者たちのマスク』。略称は嫉妬マスクと呼ばれる。

 泣いてるような怒っているようなデザインで、妙な威圧感と切なさを醸し出し……ながらも、特殊な能力は一切付与されていない。それどころか、新たにデータ付与することもできないという、ある意味で呪われたアイテムだった。

 ユグドラシルに入りびたりのモモンガは当然所有しており、一時期入りびたっていたヘロヘロも最低一つは所有していたはずだ。

 しかし、ここへ来てヘロヘロは女性……今のところはソリュシャンに対してだけだが、積極的になっている。

 モモンガにとって大いに口惜しさを感じる事態。そして嫉妬マスク所有者としては、取り残された気分でもあった。

 その一方で、ヘロヘロに春が来たのだ……ともモモンガは認識している。

 

(ギルメンの春! ならば!)

 

 ならば、アインズ・ウール・ゴウンのギルド長として、モモンガは行動に出なければならないだろう。

 力の及ぶ限り邪魔……もとい、友人の希望を叶えたいし彼を応援したいところである。だが、何か良い具合の手立てはあっただろうか。

 モモンガは考えた。

 最初に思いついたのは流れ星の指輪(シューティングスター)を使うこと。これは経験値消費無しで超位魔法<星に願いを(ウイッシュ・アポン・ア・スター)>を使用できる超々希少アイテムだ。未使用であれば三回使用でき、ユグドラシルだと、ランダム表示される『願い』は二百を超えていたとモモンガは記憶する。

 

(俺がボーナス溶かして手に入れた一つは現状、完全未使用だけど。もったいなさ過ぎる……)

 

 第一、首尾良くヘロヘロの願いが叶うとは限らないし、今後、どんな艱難辛苦が待ち構えているとも知れない状況だ。このアイテムを軽々しく使うわけにはいかなかった。思い起こせば、ギルメンのやまいこも一つ持っていたはずだが、彼女の部屋を漁る気はモモンガには無い。

 かと言って自分の経験値を消費して<星に願いを(ウイッシュ・アポン・ア・スター)>を使用するのも躊躇われる。何故なら、レベル九九からレベル一○○に戻すのすら膨大な経験値が必要で、ナザリック内外でレベルを戻すには、どれ程の労力が必要かが解っていないからだ。付け加えるなら流れ星の指輪(シューティングスター)でヘロヘロに人化、あるいは人化への外装チェンジ能力を付与した場合。人化時に、どれほど能力が低下するのかすら不明なのだ。

 

(駄目だよなぁ……)

 

 流れ星の指輪(シューティングスター)及び<星に願いを(ウイッシュ・アポン・ア・スター)>の使用を却下したモモンガは、他の手を考えてみる。

 

(ソリュシャンと同じ人間種の格好になれば良いのか? ……人化のアイテムってあったよな?)

 

 人化のアイテム。それは腕輪だったり、指輪だったりネックレスだったりと形態は様々だ。

 異形種が人間種のフリをして、人間種の都市へ出かけたり、異形種狩りから逃れるためというのが一般的な使用法だ。

 キャラメイク時に異形種を選択したが最後、人間種側プレイヤーで警戒するため目当ての町に入れない。これを解消するアイテムが希少だと、ゲーム的によろしくないため、ユグドラシルにおける人化アイテムは容易に入手可能だった。

 

(でも俺、持ってないんだよな~……)

 

 異形種は種族ボーナスがつくため人間種よりも強力な部分がある。なので、異形種を人化させたら、当然ながら能力は低下する。

 ユグドラシル時代のモモンガは、その能力低下等のデメリットを嫌い、人化アイテムには見向きもしなかった。入手した端から売り飛ばしてしまったほどだ。だから、彼の手元に人化アイテムは無い。そしてこの辺りの事情が、流れ星の指輪(シューティングスター)等より先に、人化アイテムを思い出せなかった理由でもある。

 モモンガにとって、人化アイテムはゴミアイテムだからだ。

 モモンガは、ふとヘロヘロを見た。

 

「ヘロヘロさん? 人化アイテムは何か所有されてますか?」

 

「人化アイテム?」

 

 ヘロヘロは首を傾げるような仕草を見せる。そして叫んだ。

 

「持ってます! 持ってますよ! 確かアイテムボックスの下の方に……あったっ!」

 

 言いつつ取り出したのは、地味な装飾の腕輪。確かに人化の腕輪である。

 

(ヘロヘロさんも俺と同じ理由で気づかなかったのか? ともあれ……なんだ、問題解決したじゃん)

 

 先に一生懸命考えたのが馬鹿らしくなってくる。

 モモンガは拍子抜けした思いだったが、そんな彼を余所に、ヘロヘロは人化の腕輪を掲げていた。

 

「じゃ、いきますよ~っ。アイテム装ちゃ……あれ?」

 

「んん?」

 

 嬉々として発した掛け声が中途半端なものに終わる。見つつ聞いていたモモンガが小首を傾げた……その時。

 ヘロヘロの身体が瞬時に変貌し、素っ裸の男性が出現した。

 小柄で糸目。人の良さそうな顔のおじさん……一歩手前の青年だ。

 

「あわわわわ! なんですか、これ! 服! 服を着ないと! ソリュシャンはアッチ向いててください!」

 

 ヘロヘロらしき青年が叫ぶと、顔を真っ赤にしていたソリュシャンがクルリと背を向けた。ちなみに、モモンガも背を向けている。

 

「もう、いいですよ」 

 

 言われてモモンガ達が振り向くと、そこにはモンク系の道着を身にまとったヘロヘロが居た。伸ばし気味だった髪は、紐で縛っている。やはり背丈は低く、ソリュシャンよりもすこし低い。

 その格好はともかく、モモンガは人化したヘロヘロの顔に見覚えがあった。

 

「ひょっとしてヘロヘロさん。現実(リアル)の姿なんじゃないですか?」

 

「ほえ?」

 

 言われたヘロヘロが衣装部屋の姿見を覗き込む。

 何度も頷いた後に本人が語ったところでは、紛れもなく現実(リアル)でのヘロヘロの姿らしい。

 

「馴染みのある顔で助かるような……。ソリュシャンや一般メイド達とは釣り合わないような……」

 

 顎や頬の無精髭を手の平で擦りながらヘロヘロは言い、ハハッと笑う。だが、そんな彼の独白をソリュシャンが否定した。 

 

「そんなことはありません! ヘロヘロ様は大変凛々しくあらせられます!」

 

「そ、そう? 女の人に褒められたこととか無いもんで、ビックリですよ」

 

 ニコニコしているソリュシャンに対し、ヘロヘロは頭を掻いてみせることで応じた。

 そこに聞こえる舌打ちの音。

 モモンガである。

 

「モモンガさん。今、何か?」

 

「いいえ、何でもないですとも。ところでヘロヘロさん。聞きたいことがあるんですが」

 

 モモンガはヘロヘロの足下を指差し、言った。

 

「人化の腕輪って、腕に通さなくても効果を発揮するんでしたっけ?」

 

 ヘロヘロの足下には、人化の腕輪が装着されることなく転がっている。

 ヘロヘロとソリュシャンは二人揃って人化の腕輪を見た後、やはり二人揃ってモモンガを見た。

 

「モモンガさん。これ、どういうことなんでしょう?」

 

「それは私が聞きたいですよ……」

 

 

◇◇◇◇

 

 

「ふんふん~」

 

 深夜の森を鼻歌交じりに忍者が行く。

 アインズ・ウール・ゴウンのギルメン、NPCらが言うところの『至高の四十一人』の一人、弐式炎雷。

 彼は、その忍者スタイルを確立するために身につけたスキルを駆使し、とある地点を目指していた。前方数キロほど先に、多数の気配がある。それはゴブリンなどのモンスターではなく、人間種の気配のようだ。

 

(一二〇人ってとこか。人数から言って村……とかだろうな。ユグドラシルだと、村っぽいギルドホームで、疑似家族を作って遊んでる感じ? でもな~)

 

 ここまで移動して来た中で弐式が思うのは、今自分が居る場所は『異世界』というやつではないかということ。そして、元居た現実(リアル)やゲーム内のユグドラシルでないのは、ほぼ確実とも思っている。

 あの絶望にまみれた現実(リアル)に、こんな広大な森など存在するはずがないし、ゲームにしては生々しすぎるのだ。そもそも、攻撃を受けて激痛を感じるだなんてゲームではありえない。

 

(いっそのことマジの異世界転移とかだと、わかりやすくていいのにな)

 

 このように、別所でモモンガやヘロヘロが考えていた結論。あるいは願望に、弐式も辿り着いていた。

 感知した気配が村の人間種で間違いないとしたら、接触して周辺地理、その他情報について聞いてみたい。何事も確認の積み重ねが重要だろう。

 

(村があって、それが国とかの一部なら最高だよ。文字どおり世界が広がるってやつだ。……言葉、通じるのかな?)

 

 場合によっては会話不可能となり、諸々考えて……行き着く先は泥棒にでもなって食っていくしかないのかもしれない。

 

「うひゅお。冗談じゃない……」

 

 一気に嫌な未来図を想像した弐式は、寒気を感じて身震いした。

 せっかくユグドラシル時代での一○○レベル能力を行使でき、どういう理屈か人化もできるようになったのだ。つまり、今の弐式はハーフゴーレムでは不可能だったであろう飲食が可能となっている。

 ここへ来るまでに、アイテムボックス内にあった食料アイテム……干し肉を試しに食べてみたが、大層美味だった。なのに……。

 

(民家に辿り着いて、食料を分けて貰って……とか、ファンタジー小説で読むみたいな行動で、やってみたいじゃん? てか、独りぼっちとか嫌じゃん? ところが、俺以外に誰か居ても話ができねーとか。働いて食っていくこともできねーとか。そういう縛りプレイは望んでねーっての。おっ?)

 

 不安を感じながら進んでいたわけだが、気がつくと視認できる距離に村の外縁部がある。

 小さな柵……木の枝で組み合わせたようなものが、不完全であるものの村を囲っているようだ。

 

「ううん。マジでファンタジーRPG……」

 

 中世ヨーロッパ風……というイメージでもあったが、どことなくゲーム臭い。民家一軒ごとの造りが、弐式の知識では上手く説明できないが、妙に洗練されているのだ。

 

(全体的に古臭いのに痒いところに手が届くっつーのか。何だろうな。そうだ、生活臭に馴染みがあるんだ……って、マジかよ)

 

 こうであって欲しいな……というファンタジーRPGの村の民家。そこから大きく逸脱していない光景に安堵し、かつ不思議に思いながら弐式は民家に近づいた。

 

(感知したとおり弱っちいのが出てくると安心なんだけど。戦闘になったら……忍者らしく逃げるか? それとも戦うか?)

 

 村へ到達するまでに何度か人化して判明したことだが、人化すると能力値がレベル三〇の人間種まで低下するらしい。ゴブリン相手に手こずったのは、そのレベル帯での戦闘が久しかったからと、命の危険にさらされる戦闘が初めてだったからだ。

 そして、道すがら(と言っても獣道だが)、出くわした獣やゴブリンを倒してみたところ、今ではレベル一○○の弐式炎雷、そしてレベル三〇の人間種としてもそれなりに戦えるようになっている。習熟が早いように思えるが、これはレベル一〇〇ハーフゴーレムとして身体を動かしている内に、なんとなく感覚を掴んできたことによる……と弐式は判断していた。

 また、人間種としてのレベル三〇だが、これはユグドラシル感覚で言えば、はなはだ不安な弱小レベルだ。人化しての戦闘は避けるべきだろう。

 

(とか心配してもさ。感知した限りじゃ、村に大した奴は居なさそうなんだけどな。あ、でも野伏り(レンジャー)は居るのか。それでも大したことないな~。マジモンの農村集落とかか? ユグドラシルでもやってる人らは居たけど、PK野郎に襲撃されたりしてたよな~)

 

 現役プレイヤーだった頃を思い出しながら、弐式は人化し民家の戸を叩く。

 

「ごめんください」

 

 コンコンではなくドンドン。しかし、乱暴に叩きはしなかった。

 現在、弐式の格好はユグドラシル時代の町歩き用平服。ファンタジーRPG的に言えば、町人Aが着ているような服だ。そこにフード付きマントを着用し、いかにも旅人が森に迷い込みました……的な格好を装っている。

 

(アイテムボックスにゴミ拾得物が残ってて良かった……)

 

 何の特殊能力も無い布きれではあるが、これなら怪しまれるとしても危険視はされないだろう。

 と、弐式は思っていた。しかし、このゴミアイテムレベルの衣服ですら、この世界では豪華な服に見える。事実、豪華なのだ。被服店などに持ち込めば、高値で売れることだろう。

 それは弐式にとって完全な埒外であり、家主であるエモット氏が戸を開けて驚いた際、リアクションの意味が分からずに弐式は小首を傾げたのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「なるほど。旅の方。しかも森に迷い込まれたと……」

 

 弐式の話を聞き、エモット氏が二度ほど頷く。

 なお、弐式は屋内に入れて貰えていない。あくまで戸口で話を聞いて貰っているのだ。

 深夜に訪問してきた見知らぬ男など、家に入れたくはないのだろう。そこを理解できる弐式は、愛想笑いを浮かべながらエモット氏から情報を引き出そうとした。

 この世界……いや、まずは村が所属する国のこと。ユグドラシルのヘルヘイム世界を知っているかどうか。そこから質問に入ったのだが……。

 

(ユグドラシル自体を知らないか。で、ここはリ・エスティーゼ王国の一角……辺境の開拓村、カルネ村ね。うん、聞いたこと無いわ)

 

 やはり異世界転移したということか。人生、何が起こるかわからないものだ。

 今のところ自分より強い者と遭遇していない弐式は、のほほんと考えている。

 続いて手持ちのユグドラシル金貨を見せてみたが、いきなり金貨を出したため驚かれたことと、「そのような金貨は見たことがない」という返事があったのみだ。

 周辺地理についても詳しく聞いてみたが……。

 

(南西にエ・ランテルって都市があるのね。三重城壁の城塞都市かぁ。見てみたいかも)

 

 この時間帯だと、徒歩で出発して昼過ぎには到着できる距離らしい。弐式が本気を出せば、一時間とかからず到着できる距離でもある。

 

「じゃあ、エ・ランテルってとこに行ってみるかな」

 

「おい、今から行くのか?」

 

 軽く口に出しただけだが、エモット氏は目を丸くしていた。

 街道を外れて夜の森に入り、生きてカルネ村に辿り着けただけでもエモット氏の感覚では奇跡に近い。森はモンスターの巣窟なのだ。森の賢王と呼ばれる強大なモンスターや、その他の実力者が仕切っているため、そうそう人里には出てこないが……。

 

「夜の森を行くのは危険だし、街道に出ても夜明けまではまだ時間がかかる。暗ければモンスターや危険な動物だって出るだろう。悪いことは言わない。村で朝になるのを待ちなさい」

 

 親切な人だ……と弐式は思った。

 こんな深夜に訪問した見知らぬ男に、ここまで親切にできるものだろうか。チラッとエモット氏の背後を見ると、微かに開いた奥の扉……その隙間から女性の顔が覗いている。

 夫人かな? と思った弐式だったが、敢えて無視することにし、どうするかを考えた。

 

(聞いた範囲のモンスター……一番強くてオーガとかなら、一人で街道へ出ても問題ないだろうな。そいつがユグドラシルのオーガと同じならだけど。けど、ここまで親切にされて言うこと聞かないのも、何だか良い気がしないんだよな~)

 

 結局、弐式はエモット氏の忠告を聞き入れ、村で夜を明かすことにした。

 異世界転移については未だ確証が持てていなかったが、よく知らない場所で野宿というのも無警戒が過ぎる。

 

(忍者は、いついかなる時も油断せず、確実な方法を模索するのだ。なんてな)

 

 本音を言えば、せっかく発見した人里だし、誰かが大勢居る場所で一夜を明かしたいという気持ちもあった。時間的に話し相手は居ないのだろうが。

 

「中央の広場あたりでゴロ寝させて貰うとしますか」

 

「……家の裏に納屋がある。窮屈だろうが、そこで寝て行きなさい」

 

 呆れ顔のエモット氏が言うと、言われた側の弐式は面食らう。

 勧められた立場なのに、危うく「正気か!?」と叫ぶところだった。

 

(親切にも程があるだろ。ありがたいけどさ……)

 

 この人、こんなので世渡りできるのか。などと弐式は失礼なことを考える。もっとも、結婚して子供二人を設け、生活を成り立たせているエモット氏。彼は、弐式などより遙かに世渡りできているのだ。

 

(なんか、俺の心にダメージ入った気がする……)

 

 幾分肩を落とした弐式は、エモット氏に案内されて納屋に入り、立てかけた農機具の隙間に腰を下ろした。一部の壁には寄りかかれるだけの空きスペースがあったので、ありがたく背もたれとし目を閉じ……もちろん、その前にエモット氏に対して礼を言うのを忘れない。

 

「何から何まですみませんねぇ。押しかけた上に納屋まで借りちゃって」

 

「まあ困ったときはお互い様だよ。おやすみ」

 

 ニッと笑ったエモット氏は、映画の俳優のようで実にイケメンだった。眉目秀麗ではないが、男っぷりが良いと言ったところだろう。

 立て付けの悪い扉が閉められるのを見てから、弐式は人化を解き装備を換えた。

 今の姿は忍者装束に、中身はハーフゴーレム。その上から人化中に使用していたフード付きマントを着用している。

 

(外から鍵をかけられる気配は無し……か)

 

 親切に乗ったようで、一応の警戒はしていたのだ。

 村全体が追いはぎ集団ということもあり得たし、他人のウマい話に易々と乗ってはいけない……というのは、現実(リアル)で得た教訓でもある。

 なんにせよ、エモット氏は疑うのが失礼なほど親切な人だったわけだ。

 屋内で寝床を提供とまでは行かなかったが、そこまでやったら『親切』ではなく『お人好し』である。

 

「ともかく、一人で放り出された俺には嬉しいことさ。人の情けが身にしみるね」

 

 ごそごそと体勢を整えつつ、弐式は人化した。こうすることで低レベルの人間種でありながら、最強防具を身につけられるのだ。

 

「これで寝てる間も安心……と。ハーフゴーレムだと『寝る』のすら難しいもんな」

 

 ギルメンらとの集合場所から飛ばされ、今の今までハーフゴーレムの躰を運用していた弐式には解ったことがある。

 ハーフゴーレム化していると、人間の三大欲求が満たされないのだ。欲求としては存在するものの、ハーフゴーレム体では何一つ成し遂げられないからである。

 それどころか、人間種に対して同族意識が無くなってしまう。元よりハーフゴーレムなら平気だったかもしれないが、元が人間の弐式にすれば寒気のする話だ。

 

「たまには人化しないと、心まで異形種になっちまいそうで嫌だし~。ヒトの心を維持しつつハーフゴーレム忍者ってのも、格好良さそうかも? ふあ~……」

 

 大あくび一発。

 弐式はゆっくりと目蓋を閉じて眠りについた。 

 そんな彼は翌朝、エモット氏による「逃げろ! エンリ!」の絶叫で叩き起こされることとなる。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

<次回予告>

 

 弐式炎雷だよ!

 カルネ村で一夜の宿を借りた俺は、突然の叫び声に……

 ちょっとモモンガさん! マイクを取らないでくださいよ!

 

 モモンガだ!

 俺とヘロヘロさんは夜空に飛んで星空を楽しんでいたが

 デミウルゴスが世界征服するとか言い出した!

 

 次回、オーバーロード 集う至高の御方 第8話

 

 モモンガ『デミウルゴスは本気で言ってるんですかね?』

 

 弐式「俺の予告~」

 モモンガ「次で喋ればいいじゃないですか」

 




 嫉妬マスク所有者の闇は深い……。
 モモンガさんの春は、現状、そこかしこに転がってるんですけど。
 モモンガさんですからゴールインはマダマダ先なのです。
 そもそもギルメン作成のNPCに手を出さないですしね。

 弐式さんの忍者装束。カパッと面を取ったら人の顔が見える……みたいにしたかったので、このような装備チェンジ仕様になっています。
 
 現状、おおむね原作どおりの時系列で進行中。
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