オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第71話

 獣王メコン川とベルリバー、彼らとの合流が果たされた。

 モモンガとしては盛大に歓迎パーティーでも開きたいところだが、目前にはワーカー隊が迫っている。転移後世界の戦力としては侮れないが、ユグドラシル基準で考えれば初心者レベル。吹けば飛ぶような有象無象であった……が、その大半は茶釜姉弟の恩人なので吹き散らすわけにはいかない。

 どうするべきか。

 メコン川らと合流した林で、モモンガ達は顔を見合わせた。そこへメコン川達が「そういうことなら、そのまま続きをやるべきだ。あと、俺達も交ぜてくれ」と主張したのである。歓迎パーティーは後で良いという事だろう。このことにより、若干の修正を加えつつ、ワーカー隊への接待対応が開始された。

 モモンガや元からナザリックに居たギルメンには、それぞれ事前に取り決めた役割があり、メコン川とベルリバーについては、ワーカー隊のお目付役としてナザリック地下大墳墓に乗り込む手はずが決定されている。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「いやぁ、すまんね。少し気になることがあってな……」

 

 悪びれず、笑いながらメコン川……冒険者シシマルが言う。隣に立つのは同じく冒険者のバリルベ……を名乗るベルリバー。

 

「シシマルを呼びに行ったが、その気になる事ってのを聞いてるうちに時間が経ってしまった。すまない……」

 

 二人揃って謝罪すると、話を聞いていたヘッケランが「いや、いいんだ。気にしないでくれ。ええと……そう、うちのアルシェが気にしてたもんでな!」と誤魔化すように言い、彼の斜め後方で居るアルシェが「ヘッケラン!」と顔を赤くして怒った。詰め寄られて言い訳しているヘッケランを見て、メコン川とベルリバーは顔を見合わせた。

 

(「ベルさん。出会ってから色々と話す機会があったが、やはり気持ちの良い連中だな?」)

 

(「まったくだ。茶釜さんが気に入るはずだ……」)

 

 戻って来たメコン川達に話しかけてきたのは、ワーカーチームの一つフォーサイトだった。途中から加わった新顔が、妙な行動をしているので偵察に来たと言ったところか。善意だけでの心配でないのは解っているが、和気藹々としたヘッケラン達を見ているとホッコリする。グリンガム率いるヘビーマッシャーや、パルパトラの竜狩り。こちらも良心の人揃いというわけではないが、悪人というわけでもないようだ。ただ……。

 

「きゃああっ!?」

 

 離れたところで声がしたので目を向けると、青い髪の女性が男性剣士に殴り倒されているのが見える。ワーカーチーム天武、そのリーダーのエルヤー・ウズルスに暴行を受けたようだ。天武は、剣士のエルヤーと女性エルフの神官、ドルイド、レンジャーからなる四人編制だが、女性エルフは三人共がエルヤー所有の奴隷だった。元はスレイン法国から流れてきた奴隷であり、バハルス帝国の奴隷市場でエルヤーに購入されたらしい。奴隷の証として、エルフ特有の長い耳は半ばから切り落とされていた。 

 

「エルヤーか。才能に全振りして、賢さがヒドいことになってる感じだな」

 

 メコン川がゲーム用語を交えて呟くと、細かい意味は解らないながらも概ね理解したヘッケランが頷く。

 

「だな。まあ、腕も人格も上々なんて、そうは居ないんだが……。あれは駄目すぎだ」

 

「……余所様のことだ。こちらに迷惑がかからなければ、放っておくべきだろう」

 

 会話の腰を折る、あるいは中断させる形でベルリバーが口を挟んだ。これにはフォーサイトの女半森妖精(ハーフエルフ)……イミーナが表情を厳しくしたが、続けてベルリバーが「それが冒険者同士の関わりというものだ。見ていて吐き気はするがな」と言うのを聞き、渋々ながら突っかかるのを思いとどまっている。ベルリバーとしては、転移後世界の『冒険者』の在り方について詳しいわけではない。今言ったのは、かつてのユグドラシルにおけるギルド間の関わり方、それを参考にしただけだ。これからナザリック地下大墳墓に侵入しようと言うのに、余計な揉め事を起こされては面倒という考えもある。では、エルフ奴隷達の扱いについてベルリバーがどう思っていたかと言うと、言ったとおり吐き気がしそうなほど苛立っていた。そもそも、地位や権力に物を言わせて弱者に好き放題する……その構図が気に入らない。これはウルベルトよりも穏やかなレベルだったが、元の現実(リアル)においては巨大企業の不正を調べ上げる程のものだ。

 

(自然に恵まれてるってだけで幸せなのに……。この恵まれた世界で何やってんだか。馬鹿か?)

 

 本音を言えば、今すぐサーベルを抜いてエルヤーを五体泣き別れにし、エルフ達を解放したいのである。だが、彼女らはエルヤーの正当な所有物だ。勝手な正義感で手出しをすることはできない。少なくともベルリバーの筋論では、そういうことになる。

 

(モモンガさんから聞いたNPC達の気性か? 彼らに言わせれば『ベルリバー様の御心のままに』ってところだろうが、強さに物を言わせて押し通すって、俺の好みのやり方じゃないんだ……)

 

 それとなく助けてやれれば良いが……と、そのように考えながら、ベルリバーはメコン川に目配せする。ここからはモモンガとの打合せどおり、ワーカー隊を誘導しなければならない。

 

「それでな、ヘッケラン。シシマルと話してた時に色々あったんだが……。どうも、これから行く遺跡ってのが……俺達の知り合いが拠点にしてる場所らしいんだ」

 

「……なんだって? どういうことだ?」

 

 ヘッケランの表情が急速に引き締まっていく。掴みはオッケーだと、ベルリバーは確信した。

 

「うん。実は……その遺跡から接触があったんだよ」

 

「なんで、それを早く言わなかった?」

 

 目つきが険しくなっているヘッケランに対し、ベルリバーは肩をすくめてみせる。

 すぐに言わなかったのは、言い出すタイミングを掴めなかったから。そうベルリバーは説明した。これは本当である。言い出すタイミングが掴めたから、今言っているだけなのだ。

 

「それで、先方からの伝言があって……それを、パルパトラやグリンガムも交えて話したいんだ。エルヤーも入れて俺達の話を聞くかは……ヘッケラン達の判断に任せたい」

 

 そこまで言って、ベルリバーは疲れたように息を吐く。事実、疲れている。こうした演技めいた会話は得意ではないからだ。一方、話を聞いたヘッケランは暫し呆然としていたが、やがてイミーナに指示を出す。

 

「老公とグリンガムを呼んでくれ……」

 

 

◇◇◇◇

 

 

 イミーナは、すぐに老公……パルパトラと、グリンガムを連れて戻って来た。

 双方、街道外なので武装したままであり、「何事かあったのか?」と訝しそうにしている。

 そうして集まった二人に元から居るヘッケランを加え、少し離れた場所に移動。イミーナなどのフォーサイトメンバーは馬車付近へと戻ってもらった。まずは、リーダー格だけで話をするのだ。

 

「結論……と言うか、大事なところから話すことにする」

 

 最初に話し出したのはベルリバーだ。軽戦士の風体で腕組みをしつつ、右手だけ挙げて、下顎付近を指で掻いている。普段から気難しげなのだが、今は一段と難しそうな顔をしていた。まずは取っかかりの部分だけを話し、全容を聞かせるのにエルヤーも呼ぶかどうか、それをヘッケラン達に決めて貰わなければならない。

 

「さっきヘッケランにも話したんだが……。これから向かう遺跡というのは、俺やシシマルの知人らの拠点らしい」

 

「なんと!?」

 

「どういうことだ!?」

 

 パルパトラとグリンガムが驚く。驚きつつ、一歩ないし半歩後退して槍や戦斧に手を掛けているが、これから侵入する場所の関係者が目の前に居たら警戒したくもなるだろう。その二人を「まあまあ」とメコン川が宥めた。

 

「それを説明するんだが、ちょっとややこしい事になっててな。べ……バリルベさんが説明するから、取り敢えず聞いてくれ」

 

 これによりパルパトラ達が落ち着いたので、ベルリバーは改めて話し出す。

 先程、シシマル(メコン川)が用便のため林に入ったところ、遺跡からの使いが姿を見せたこと。途中でバリルベ(ベルリバー)が加わり、話し合いの末、かつての魔法実験の失敗で離ればなれになった遺跡であるのが解ったこと。

 と、ここまで嘘を並べ立てたところで、グリンガムが口を挟んできた。

 

「バリルベ、ちょっと待った。魔法実験とは何だ?」

 

「拠点を大規模な魔法攻撃から守るため、拠点自体を転移魔法を応用した結界で覆ってはどうか……というものだ。要するに、飛んできた魔法を何処かに転移させてしまえば大丈夫……といった発想だったんだが……」

 

 ところが、実験段階で拠点自体が転移してしまい、外部で観察していたメコン川やベルリバー、他何人かがバラバラに転移してしまった。

 そういう嘘設定だ。

 聞いたグリンガム、それにパルパトラやヘッケランも信じられないと言った顔をしている。

 

「信じるかどうかは勝手だが、そういった事情だ。侵入予定の遺跡が元居た拠点だとは、俺もシシマルもさっきまで知らなくてな。……で、もう薄々わかってると思うんだが……」

 

 使いの者が来るということは、ワーカー隊の接近が察知されているということだ。それについてベルリバーが言及すると、ヘッケラン達の顔が渋くなる。察知された状態で侵入を試みるか、無理だと判断して撤退するか。その判断を迫られることになるからだ。

 

「あ~……バリルベ?」

 

 ヘッケランが怖ず怖ずと挙手した。

 

「遺跡には……その、あんたらの仲間……あ、いや、友達が居るんだよな?」

 

「そうだな。言っておくが、俺達より強い人が揃ってるぞ? 内部に踏み込んだ場合は、言動に注意した方がいいな」

 

 頷きながらベルリバーが言うと、それがまさしく聞きたいことであったらしく、ヘッケランが呻いた。パルパトラ達も嫌そうな顔をしている。何しろ先程、目の前で語るベルリバー一人に軽く捻られたばかりなのだ。その彼よりも強い者が何人も居る。それも、侵入しようとしていることがバレているとあっては、一刻も早く逃げることを考えるべきだろう。

 

「およその状況(しょうきょう)は把握()きたわい。じゃが(しゃか)ウズルス(うするす)(はす)して話したいこととは、なにかの?」

 

「そこだな。う~ん……話してしまうか……。大まかには、遺跡の中の連中から伝言があってな。三つの選択肢をやろうとのことだ」

 

 一つ目は、何もせずに帰ること。遺跡側では追っ手等は出さないとのことだ。

 二つ目は、客として訪れること。この場合は歓迎し、食事などして帰るのも良いだろう。

 三つ目は、遺跡体験として挑戦者的に侵入してくること。

 

「俺達に関わりたくないなら一つ目。二つ目は、美味い飯を食って帰るだけだ」

 

「バリルベ。汝のお薦めとしては、どれが一番良い選択なのだ?」

 

 背の低いグリンガムが、ベルリバーを見上げながら言う。その視線には疑いの色が混じっているものの、真剣そのものではあった。

 

「俺のお薦めは三つ目だ。地表部から入り、三層目の最奥を目指してもらう。多少のモンスターは出すが、まあ勝てる範囲だろう。言っておくが徐々に強くしていくそうだから、油断はするなよ? 後は……第三層の最奥で、強めの奴がボスとして出てくるからな。挑戦するなら気をつけるように。そいつに負けるか、それ以前に全滅判定になったら、治療してからお引き取り願う。基本的には殺さない方針だ。死んでも蘇生はするから安心して欲しい。おっと忘れてた、これは言っておかないと……」

 

 第一層から第三層まで、そこかしこに武具やアイテム等がある。入手できたなら、持って帰っても良い。自分達で使っても良いし、売って金に換えるのも良いだろう。

 

「で、第三層までの情報は、そのまま持ち帰って報告してくれて構わない。最後に……引率ってわけじゃないが、俺とシシマルが同行する。チーム単位で分散するなら、遺跡側から更に人を出す。ここまでで何か質問は?」

 

 長い説明を終えて一安心したベルリバーが、ヘッケラン達を見回す。ヘッケラン達はと言うと、更に戸惑いが深まった様子だ。暫く視線を交わし合っていたが、やがてヘッケランがベルリバーに向き直る。

 

「随分と……その、俺達に好意的なように思うんだが……。理由を聞いていいかな?」

 

「そこは俺も聞いたんだけどな。ええと……冒険者の名で、かぜっちとペロンって聞いたことはあるか? あんた方に世話になったとかでな……」

 

 だから接客待遇でも良かったのだが、部外者を簡単に呼び込むのは憚られるという意見も出た。そこで、三つの選択肢を設定したというわけだ。ちなみに、接客待遇派は茶釜、ペロロンチーノ、弐式の三人。挑戦者待遇派は、モモンガ、建御雷、ヘロヘロ。どっちでも良いとしたのはタブラとブルー・プラネット、そしてメコン川達である。割と綺麗に分かれており、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』で意見が割れたときに行われるコイン投票をするかという意見も出た。しかし、ワーカー隊に思い入れのある茶釜の意見により、ヘッケラン達に選択させることとしている。挑戦者待遇派のモモンガ達も、それぐらいなら別に……と茶釜の顔を立てたのだった。

 そういった事情を知らないヘッケランであったが、茶釜姉弟の冒険者名が出たところで、この日何度目かの驚きで顔が固まった。

 

「聞いたことと言うか、覚えているぞ? 我のチームが帝国の帝都近辺で拾った二人だな。暫くの間、ヘッケランのところで活動していたはずだが……」

 

「そうだぜ! かぜっちとペロン! あの二人……遺跡の関係者だったのか!?」

 

 グリンガムに続いてヘッケランが言い、それを受けてベルリバーは大きく頷く。こうなると、かぜっちとペロン……茶釜とペロロンチーノを探しに来た弐式炎雷も、遺跡関係者なのでは、ということになり……。

 

「え? なに? ニシキって、王国の冒険者チーム『漆黒』の一員だよな? てことは、漆黒のチームメンバーも? そ、そうなのか?」

 

 愕然とした様子のヘッケランは、震える声で呟きながらメコン川を見る。ベルリバーではなくメコン川を相手としたのは、信じられない事実を別の人物に否定して欲しかった……という思いが心の底にあったからだ。だが、メコン川は無情にも首を縦に振る。

 

「うん、そう」

 

 場の空気が一気に重くなった。

 メコン川達にしてみれば、「茶釜さん達の恩人だとか知らんかったわ~。ナザリックを楽しく体験して、手土産片手に帰れば?」程度の考えだったのだが、ヘッケラン達からすると「なんだか、えらい事を知ってしまった……」様な気分になっていたのである。

 

「大方は、バリルベさんが言ったとおりだ。ほとんど喋っちまったな~……で、この話をエルヤーにも聞かせるか? 聞かせないなら、エルヤーだけ別対応だけど」 

 

 メコン川が自分に意識を向けさせるべく、パムッと手の平を合わせて言うと、ヘッケラン達は何事かを囁き合った後、「相談したいから、ちょっと時間が欲しい」とヘッケランが申し出た。そしてメコン川達の了承を得ると、自分達の感覚ではメコン川達に聞こえないであろう位置まで遠ざかって、円陣を組んだのである。もっとも、その程度の距離なら、メコン川達には囁き合いであろうが聞き取れてしまうのだが……。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「なあ? どう思う?」

 

 ヘッケランの呟きに、グリンガムが「上手い話すぎる。あれを信じるのは馬鹿だろ?」と一蹴した。それに対し、パルパトラが白髪髭を左手でしごきながら呟く。

 

「しかしの、か()っちとペロン()仲間とか言うておった。あのニシキもじゃ(しゃ)。これを、()う思う? 敵に回すには危険す()るし……。話に乗ってみるのも一つの手()はないかの?」

 

「ぬう……。老公、一理ありますが……」

 

 唸るグリンガムを見て、ヘッケランが口を開いた。

 

「俺は……乗ってみるべきだと思う」

 

「ヘッケラン。汝……」

 

「まあ聞けよ、グリンガム。バリルベが言った三つの選択肢。このまま帰る、飯だけ食って帰る、最後は三層までだったか? 遺跡に挑戦して、アイテムとかを頂いて帰る。本来なら、元々の予定どおり『勝手に侵入する』が加わって、選択肢が四つになるんだよな。でもよ、バリルベの話を信用しないで、今から『勝手に侵入』とかして……無事で済むと思うか?」

 

 事前に察知されているのだから、相手は手ぐすね引いて待ち構えているだろう。そこにバリルベと同等以上の者達が居るとなれば、生還率は極めて低くなる。真正面から喧嘩を売って危険な目に遭うより、かぜっちやペロン、そしてシシマルにバリルベらと面識があることで遺跡側が友好的なのだから、これを利用しない手は無いだろう。    

 

「何もしないで帰るってのは論外だし? 飯にも興味あるけど、やっぱり得るものがなくちゃな。それにさ、帝都で一緒だったかぜっち達や、今一緒に居るバリルベ達も悪い奴じゃなさそうだし……」

 

 そう言ってニカッと笑うヘッケランは、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルメンの大半が、悪寄りのカルマであることを知らない。もっとも、それはゲームにおけるステータス値の話で、根っからの性悪が少ないという点ではヘッケランの見立てどおりなのだ。

 

「……」

 

 ヘッケランの考えを聞いたパルパトラとグリンガムは、「どうする?」とばかりに顔を見合わせたが、元々乗り気だったパルパトラがヘッケランに追従。グリンガムも折れる形で選択肢の三……遺跡側同意の下での挑戦的探索を選ぶこととなる。

 そして、この話をエルヤーに知らせないことで三者の意見が一致した。ベルリバー達の口ぶりからして、エルヤーに好意的でないのが感じ取れるからだ。そうなると、エルヤーの天武のみが、選択肢の四……『遺跡側の申し出に乗らず、勝手に侵入』を選んで遺跡入りすることになる。

 

「エルヤーには、その選択肢を選んだ自覚は無いだろうがな……。それなりに『危ないから止めた方がいい』とか言うつもりだけどさ……。俺、エルヤーのことが嫌いなんだよな~」

 

「ヘッケランもか? 我もだ。それに、土産用のアイテムを用意してくれているのなら、分け前は多い方が良かろう」

 

バリルベ(はりるへ)の強さからして、アイテム類の質には期待して良さそうじゃ(しゃ)しの。受けた仕事(しこと)は成功確定()、雇い主から報酬を(いたた)けよう。それにの……この機会に、ワーカーの(はし)さらしを(のそ)くのも悪うないわ。とはいえ……」

 

 パルパトラは悪そうな笑みを打ち消して、ふさふさの白髪眉を下げた。

 エルヤー・ウズルスは腕が達者なクズだ。ワーカーの評判を下げる代表格であり、死んでも構わないだろう。むしろ清々する。しかし、彼が連れているエルフ奴隷達が、チームリーダーに巻き込まれて殺されるとしたら哀れだ。

 

「そこは俺達からバリルベに話してみるか……。余所のメンバーを気遣うなんてな、ワーカーの了見じゃないんだが。寝覚めが悪くなるのも嫌だしな」

 

 そうヘッケランが言うと、パルパトラ達は同意を示すように頷くのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「そうか。エルフの娘達に関しては、俺もシシマルも思うところがある。任せておいてくれ。悪いようにはしないさ。じゃあ、エルヤーは遺跡に対する敵として乗り込んでくる……で、いいんだな? 奴のことを強いと思ってるようだが、間違いなく死ぬぞ?」

 

 ベルリバーが確認すると、ヘッケラン達は揃って頷いた。「殺して貰って構いません」と口に出して言う気はないらしい。黙認ということだ。相談した上で決めたのだろうが、それでも面白くなさそうな顔をしている。

 

嫌いな奴(エルヤー)を切り捨てるのは良いが、仕事上の仲間(エルヤー)をはめるについては自分が悪者になったような気がする……ってところか。気の持ちようってやつだな……)

 

 ヘッケラン達の気持ちは理解できるので、ベルリバーは頷いた。これでエルヤーの死は確定である。彼の態度次第では生還の目もあるだろうが、恐らく無理だろう。後は、ワーカー隊が遺跡……ナザリック地下大墳墓に入った後の、目付役ギルメンの割り振りだ。ヘッケラン達の話では、チーム別で探索させて貰うとのことで、ナザリックからは最低でも四人のお目付役を出すことになっている。遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)で監視はできるだろうが、身近に一人付けた方が面白……もとい、何かと便利だとギルメン会議で決まったのだ。

 

(俺とメコさんは、<伝言(メッセージ)>参加だったけどな……)

 

 フォーサイトには、メコン川。ヘビーマッシャーには、弐式。竜狩りには、茶釜が付くこととなる。これら三チームのメンバーには、各リーダーから今回の挑戦的侵入について、大まかな説明がある予定だ。そして天武には……ベルリバーが付くこととなった。

 

「もっともエルヤーには、俺の姿は見せない。危なくなっても助けない。……あの、女エルフ達は別だがな……」

 

 そう言ってベルリバーが話を締めくくると、ヘッケラン達は少しばかりホッとしたような表情を見せた。どうやら口で言っていた以上に、エルフ奴隷達のことが気に掛かっていたらしい。ベルリバーのような丸投げできる相手が居なければ、心を鬼にして見捨てたかも知れないが……。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「う~ん。予定どおりと言うか想定どおりと言うか……。冒険者チーム漆黒が、この遺跡……ナザリック地下大墳墓と関わりがあるって知られちゃいましたね」

 

 円卓のギルメン席。そこで座るブルー・プラネットが、遠隔視の鏡を見ながら苦笑している。言われた側のモモンガも苦笑で返すが、ブルー・プラネットが言ったように元々決めていたことなので大して気にはならない。むしろ気が楽になっている。

 

(何て言うかさ……名前を三つも取り回して、関連性を徹底秘匿するなんて肩が凝るんだよな~……。そもそも、カルネ村ではモモンガ=アインズ・ウール・ゴウン=モモンってことになってるんだし~)

 

 かつての本名は、鈴木悟。

 異世界転移を経て異形種となった後では、モモンガ。

 ギルメンを呼び寄せるために名乗った、ギルド長としてのアインズ・ウール・ゴウン。

 息抜きの冒険者活動時に名乗る、モモン。

 このうち、後者三つを運用しているのだが、先程考えたように気疲れするし面倒くさいのだ。現状、ギルメンは着実に集まってきているし、モモン名義の方ではベルリバーや獣王メコン川を呼び寄せることに成功した。今後は王国のレエブン侯などから、アインズの名も広まって行くだろうから、もっとオープンにしても良いのではないか。

 そう主張し、皆を納得させようとしたモモンガだが、それとなく本音を察したギルメン達が賛成してくれたことで、こういった展開になっていた。ありがたくも少し気が楽になった……様な気がする。だが、実のところ、モモンガがやることに大した変化はなかった。王国とやり取りする時はアインズの名を使うし、冒険者モモンの名も捨てたり変えたりする必要性を感じないからだ。

 

(アインズとモモンは別人扱いが続くんだよな~。……まあ、そっちの方が便利だけど。冒険者モモンの他、漆黒メンバーはナザリック関係者という扱いで……。多少恐れられるかも知れないけど、息抜きの名義としては暫く続けられそうかな~)

 

 少なくとも(錯覚かも知れないが)気は楽になった。それで良いではないか……とモモンガは思う。

 仮に、現時点でギルメンが一人も合流して居らず、モモンガ一人であったのなら。それぞれの名前の関連性は徹底して秘匿したことだろう。そして、そういった途切れることの無い緊張感は、アンデッド特性の精神安定化があったとしても、徐々にモモンガの精神を蝕んでいく要因になったはずだ。

 

(ただでさえ発狂ゲージとかがあるのに、この上、過度の精神負担とか冗談じゃないわ……)

 

 幸いにも多数のギルメンが一緒に居るので、モモンガの精神的負担は少ない。暫くはギルメンの捜索を続けつつ、転移後世界を楽しもう。そんな気分で居るぐらいだ。

 対外的に大きな行動と言えば『世界征服』があるが、乗り気で活動しているデミウルゴスには釘を刺してあるし、王国を支配下におければ一息つけるだろう。

 

(タブラさんが、そう言ってた! 俺も、そう思うし!)

 

 後はウルベルトが合流してくれれば、デミウルゴスの指導監督は彼に任せて良いはずだ。

 

(……大丈夫なのかな?)

 

 ウルベルトは、ベルリバーや他の二人とで、「ユグドラシルの世界一つぐらい征服しよう」と言っていた男だ。さすがにゲームと現実の区別はつけるだろうが、合流できたら確認の上で、デミウルゴスのことを頼もうとモモンガは考えている。

 

(後は……)

 

 遠隔視の鏡に映るベルリバーとワーカー達の会話を聞きながら、モモンガは、当面の気になることを考えてみた。真っ先に思い浮かぶのはアルベド達……恋人三人娘のことだが、こちらは喧嘩も起こらず上手く回っていると思う。これでいいのかな……と思うこともあるが、これまで女性との交際経験が無いのだ。手探りでやっていくしかないだろう。

 恋人と言えば、直近で加わった茶釜だが、彼女の弟であるペロロンチーノに交際開始を報告したところ、「あ~、ようやくですか。姉ちゃん、決心したんだな~」と、それほど驚いた様子はなかった。彼が言うには、随分と前から茶釜はモモンガに対して好意を抱いていたらしい。そこはモモンガも茶釜から聞いて知っていたが、驚いたのはペロロンチーノが、それを知りつつ素知らぬ顔をしていたことだ。

 

「教えてくれても良かったんじゃないですか?」

 

 もっと早くに知っていたら、元の現実(リアル)で茶釜と交際できてたかもしれない。そう思うと一言言ってやりたくなったモモンガだが、言われたペロロンチーノは顔前で手の平を振った。

 

「『お前の口からモモンガさんに伝えたら、殺す』って、昔の新機動戦記なんとかってアニメのキャラばりに言われてたんですよぉ。言えるわけないでしょ?」

 

 それが本当かどうか、茶釜に確認する勇気はモモンガには無いが、彼女なら言いそうだと思う。

 

「何はともあれ、姉ちゃんの思いが叶ってめでたい限りですよ。叱られ役も、モモンガさんと俺で分けられそうですしね! よろしく頼みますね! 義兄さん!」

 

 そう言うとペロロンチーノは、報告の場となった彼の私室で笑ったものだ。

 

(めでたいは、めでたいだろうけど。ペロロンチーノさんの思うとおりになるかな?)

 

 モモンガの考えるところでは無理だ。 

 モモンガとて、時には茶釜を怒らせたり説教されたりするだろう。しかし、シモの話題での失態ならペロロンチーノの方が格段にやらかすはずだ。 

 

「シャルティアと結婚するところまで行けば、ペロロンチーノさんは落ち着いた感じになるのかなぁ……」

 

 口の中で呟き、モモンガはペロロンチーノを見た。彼はタブラと、第三階層までのトラップの設置状況を話し合っている最中だ。費用の掛からないトラップが多い中、タブラの自腹による面白トラップも交ざっており、それを聞かされたペロロンチーノが爆笑している。他のギルメンが、それなりに静かに話し合っている中、一人爆笑しているのだから非常に浮いた存在だ。当然ながら、茶釜の視線が向けられるのだが、それに気づいた様子はない。

 

「……駄目かな?」

 

 当分は、ペロロンチーノが何かやらかしては茶釜に叱られるという光景を見続けることになるだろう。将来的に義理の弟となる男のことだ、少しはフォローするつもりだが、巻き込まれて一緒に説教されるようなことはすまいと、モモンガは固く心に誓うのだった。

 




 今回は準備回みたいな感じですかね。
 次話以降、ワーカー隊が色んな意味でヒドイ目にあうかもです。
 タブラさんの面白トラップに乞う御期待。
 感想で面白いアイデアとか書いて貰ったら、採用することがあるかもしれません。
 確定ではないですけど。

 本作を書き始めた当初、終着点はまだそんなに決めてなかったのですが、ワーカー編は書きたいと思っていまして。原作がああだったので、救済方向で進めようとは思っていました。
 ギルメンの誰かを怒らせて「お前ら同士で殺し合え」みたいな展開とかも良いかな~と思ったりしましたが、やっぱりオバロ二次は初めて書くので救済ルートで行こうかと。
 
 アルシェの借金問題とか、どうしようかな……。
 ……ちょっと考えてはあるんですけど。

 エルヤー、密かに死亡確定?
 他に三チーム居るつもりが、実は自分の天武だけで単独進入してるに近い状況という。何それ怖い。ギルメンのお目付役の展開は、最初、ナザリック正門脇の応接棟でパルパトラが茶釜と会って……みたいな感じをイメージしていたんですが、本文のような展開となりました。各員の配置状況からして、エルフ娘達はバリルベさんの担当になる可能性が高いですね。
 
 ワーカー編は、他にも幾つか案がありまして、闘技場でヘッケランが嘘ハッタリ交えた交渉の中で、漆黒のモモンの名前を出して否定され、アルシェが諦めずに抗弁したら……モモン・茶釜・ペロロンチーノ、弐式が本当に助けに来るとか。
 あるいは、合流メンバーがタブラとヘロヘロだけであり、交渉中にヘッケランの嘘が発覚。モモンガさんが激怒したら、その怒りパワーでタブラさんが調整中の防衛システムが起動。ナザリックに直接転移するところを、結界に阻まれて異空間に居た、茶釜、たっち、ウルベルト、建御雷、ペロロンチーノ等が姿を現す……という案もありました。
 
たっち「ワールドブレイク! おお! 空間が開いた! って、モモンガさん!?」
ペロ「え? モモンガさん!? 何処です、何処!?」
ウルベルト「俺にも見せろ……って、痛い!? おい、空間の割れ目に挟まっちまったぞ!?」
弐式「え? あ、ホントだ!? 痛たたたっっ!?」
ウルベルト「新たに割り込んでくるなーっ!!」
ペロ「挟まって身動きが……た、建御雷さん何とかして!」
建御雷「なんとか」(どげし!
ウルベルト「ぐはぁ!?」
ペロ「出られたけど、蹴るこたぁないでしょ!? 鬼ですか!?」
ウルベルト「痛たたた……。悪魔の所業だ……」
弐式「このロリコン~ッ」
建御雷「誰がロリコンだ!?」
茶釜「うっさい、男共! ごめんね~、モモンガさん。騒がしくしちゃって~」

 という感じですかね~。
 この後、そこに居る人間種の人達って何? ということになって、事情の説明を受けた一部ギルメンが殺気立つんですけど、異世界だって言うなら現地の人の話が聞きたいとか合流ギルメンの取りなしがあってフォーサイトが助かる感じ。
 一気に6~7人が合流を果たすわけで、短期連載だったらこっちの展開になっていたかもしれません。

 今回の展開で、冒険者チーム漆黒の素性が漏れますが、メコ&ベルの実績があるので宣伝効果重視で行く事になっています。あと、ギルメン多くてモモンガさんの気が弛んでるとか、ギルメンらも余り気にしてないとか。そういった要因もあります。ぷにっと萌えさんとか居たら、展開が変わったかな……。
 次に『名前』で引き寄せられるのは、誰になるんでしょうねぇ。
 


<誤字報告>

D.D.D.さん、戦人さん、佐藤東沙さん

毎度ありがとうございます

評価の方で、ギルメンとの再会がワンパターンにならないというコメントを頂いています。
一応、重複しない方向で書くように気をつけています。

ヘロヘロ……転移前からモモンガと合流
弐式……カルネ村近くに単独転移
タブラ……ナザリック宝物殿に転移。パンドラと共謀してモモンガさんを脅かす。
建御雷……死を撒く剣団の拠点付近に単独転移。剣団の客分。
茶釜、ペロロン……帝国方面に二人で転移。弐式に連れられて合流。
ブルプラ……トブの大森林に単独転移。大自然に感動して発狂。黒歴史を刻む。
メコ&ベル……帝国方面に二人で転移。ワーカー隊と合流。

 こう見ると、茶釜&ペロロンと、メコ&ベルが割りと近い感じなのかも。
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