チーム竜狩りのリーダー、パルパトラ・オグリオンがナザリック地下大墳墓、その第一階層を探索中だ。緑竜の鱗を削り出した逸品……緑の鎧を着用、肩には愛用の槍を担ぎ、周囲をチームメンバーの戦士や僧侶が固めている。先頭ではヘビーマッシャーと同じく盗賊が配置され、罠の有無などを警戒しながら歩いていた。
そして……。
「ふんふん~」
背に二枚の大盾。重装の戦士として同行する『かぜっち』……ぶくぶく茶釜。その彼女が、鼻歌交じりでパルパトラの隣を歩いていた。パルパトラは最初、やりにくそうにしていたが、次第に調子を取り戻したらしく茶釜に向けて質問などしている。
「なるほ
「そうなの! 雪原や森なんかもあるのよ!」
「ほ、ほほう……」
茶釜は上機嫌で喋っているが、パルパトラやチームメンバーはテンション下がることおびただしい。名の知れたワーカーチームとは言え、事前情報の無い(ある程度は弐式達から聞いているが)ダンジョン攻略は厳しいのだ。そこへ来て、森や雪原の存在である。
(さすがに嘘じゃろ? 地面の下に潜って、何で森や雪原が出てくるんじゃ?)
乾いた笑いしか出てこない。しかし、茶釜の口ぶりにはハッタリを感じさせる物は何も無いのだ。そもそも、パルパトラの長い冒険者及びワーカー人生から見ても、今回のダンジョン入りは異常である。ダンジョン主の了承の下、案内人まで付けて貰って探索するなど、前代未聞だ。やはり、罠なのではないか。このまま『かぜっち』を名乗る女と行動を共にして良いものか。ヘッケランやグリンガムと相談の上で乗った探索だが、今更ながら後悔し始めるパルパトラだった。
だが、そうした後悔や不安は、四つ目の玄室で消し飛ぶことになる。
「<青竜
雷の追加効果と共に、竜の牙の槍が突き出された。対するモンスターは、玄室配備のモンスターのリーダー格、
「ぐああううう!」
顎下から頭部を突かれた
「こんなものかの。麻痺
どうと言うのは、この玄室の木箱だ。これまでに入手したのは、人数分の治癒ポーション、<
「
「例によって、また羊皮紙が貼ってあるぜ?」
盗賊が指差すのは、木箱後ろの壁。これまでにも見てきた腰高の位置に貼られた羊皮紙だった。
『順調な様子で大いに結構です~。今回は~特別サービスとして、板金鎧並みの性能を有する革鎧を入れてみました。対魔法防御も一つ付いてて、盗賊の方には最適の防具かと。もちろん罠もあるんですけどね。頑張って!』
木箱付近に貼られる羊皮紙の警告文。これはモモンガやヘロヘロが交代で書いており、今回はヘロヘロが書いたらしい。ギルメンである茶釜には一目瞭然だが、パルパトラ達は嬉しさと渋さが入り交じった複雑な表情になっている。これまでに開けた木箱は三つ。一つ目の罠解除は失敗。罠は、衣服にも効果がある吸盤付きの矢。当然ながら殺傷力は無いが、ハリネズミの様になった盗賊は涙目になっていた。二つ目の罠解除は成功。茶釜によって知らされた罠の内容は、<
「ちくしょーっ! 見ないでくれーっ!」
半泣きでカミソリを振るう盗賊に背を向けた茶釜は、<
(あんの愚弟めぇ……。アルシェ……は、罠解除しないにしても、イミーナが引っかかってたらどうすんのよ! 破廉恥馬鹿鳥! 絶対に殺す!)
ちなみにペロロンチーノ自身は、タブラから<
「男が掛かったらギャグですが、女性が掛かると美人らしからぬギャップが良いと思うんですけど? ある意味ハイブリッドですよ、これは!」
「んん~……ホラーやグロは良いですし、清楚に見えてビッチとかも良いんですけど。下品なのはね~……でもまあ、気の強い女性が羞恥に悶えるとか……。それもまたギャップ萌えなのかな~……」
このようにタブラを言いくるめて設置した、幾つかの木箱罠。その中に、少数ではあるが渾身のエロトラップを仕込んでいるのだ。それらもワーカー隊の動向によっては、今回の増毛罠のように不発で終わるだろうが、ペロロンチーノとしてはどちらでも良かった。
(垢バンの無い世界で、ユグドラシル風に振る舞えるとか最高だよな~。思う存分エロができるし。失敗しても次がある! 非道はしないけどエロは大事! これ、男の真理だよね~)
自分の配置場所として設定されたのは、第三階層の最奥部。そこでシャルティアと共に課金罠を設置しながら、ペロロンチーノはニンマリとほくそ笑む。そんな彼には、ワーカー隊が帰った後で、苛烈な折檻が待っているのだが……この時点では知るよしもないことであった。
一方、竜狩りであるが当然と言うべきか、発見した木箱罠の解除を行うこととなっている。罠の存在は不安だし警戒に値するが、羊皮紙に書いてあるとおりの品が入っているとしたら、とんでもないレアアイテムだ。少なくとも竜狩りメンバーの感覚においては、そう呼べるほどの価値があった。何しろ、魔法で強化された鎧というものは、この世界……モモンガらが言う転移後世界で出回っているが、大方は防御性能が五分上昇する程度。十年に一つの品と言われる物でも、良くて一割上昇する程度なのだ。具体的に言えば、転移後世界で出回っている魔法強化した革鎧は、かなりの良品であっても鎖帷子やリングメイルの防御性能には及ばない。だが、この木箱内の革鎧は、板金鎧並みの防御性能があるらしいのだ。
「あり得ねえぜ……。本当に貰って帰っていいのか?」
盗賊が呟きつつ木箱に手を掛ける。相も変わらず鍵穴一つだけの施錠であり、他に細工などはない。ただ、ここまでの経験上、解錠に失敗すると罠が発動するのは間違いなかった。問題は、どんな罠が発動するかだが……。
「ぬ~……今までより簡単っぽい?」
盗賊が、ピックや針金類を鍵穴に差しこみつつ首を傾げた。手に伝わる感触から、解錠の進捗がスムーズだと感じたのである。実は、他のチームの失敗状況がひどく、タブラが解錠の難易度を下げたのだ。
「絶対に発動する罠なんて、テンション下がるじゃないですか」
とのことであり、モモンガ達も了承の上で解錠は難易度が下げられている。更に解錠作業が、一定時間内に五割ほど進捗した場合、木箱には異変が生じる様に設定変えが成されていた。その異変とは……。
「よ~し、よしよし。いいぞ~……現在、俺の鍵開けは道半ばを過ぎて……おおっ!?」
盗賊が声をあげる。竜狩りのメンバーが身構えたが、これは解錠を失敗したのではなく、木箱上にて文字が魔法光で表示され、そのことで驚いたのだ。
「脅かすなってんだ。……ええと、『解錠進捗のスピードボーナス。罠の内容情報。解錠に失敗すると、木箱正面に向けて<
今度は命に関わる驚きだ。威力次第では一発で死にかねない。いきなり殺しに来た木箱罠を前に、竜狩りメンバーには動揺が走るが……おもむろに立ち上がった盗賊は、木箱正面方向からメンバーをどかせる。そして、自身の短剣を引き抜くと木箱の蓋の合わせ目に差し込み、短剣の柄に向けてブーツ底にて一蹴り。その瞬間、盗賊は横っ飛びに逃げ、勢いよく開いた木箱から蒼い極太電光がほとばしった。見た目にも解りやすい、当たったら死ぬ威力である。それが誰も居ない方向へ放たれると、後に残るのは開放された木箱のみだ。
「ひょっひょっ。やる
槍を構えて姿勢を低くしていたパルパトラが、警戒を解きつつ言い、立ち上がった盗賊は照れくさそうに頭を掻く。
「いや~、まだまだですよ。てゆうか、俺を一人前にするの何回目なんです? それより、お宝~」
防御性能が板金鎧レベルとは言え、革鎧ということは自分に回される可能性が高い。盗賊は声を弾ませながら中を覗き込んだ。竜狩りメンバーもパルパトラを始めとして苦笑しながらゾロゾロと集まって行く。木箱から取り出されたのは、事前情報と違わずに革鎧。革製手甲とブーツに装着する革製足甲もセットで収納されている。そして、一枚の紙片も入っていた。
「なんだこりゃ? 羊皮紙じゃないのか? えらく綺麗な……紙だな?」
盗賊が紙片を摘まみ上げて言うが、後方で見ている茶釜には解る。
(タブラさん、羊皮紙に書くのが面倒くさくなったのね……)
コピー用紙を小さく切り分けたものだが、そこにはこう書かれている。
・板金鎧レベルにまで硬化処理済み。
・自己修復機能(小)。
※破損の程度によっては、修復不可。
・第二位階までの魔法の無効化。
※味方の治癒魔法も無効化するので注意
(……ゴミだわ……。それもオークションに出したら笑いものにされて、拡散されるレベル……)
茶釜の評価が実に厳しい。
一〇〇レベルプレイヤーからすれば当然の見解で、鉄製の板金鎧並みと言うのは、紙装甲で知られる弐式の防御力を大きく下回っている。ユグドラシル初心者の最初期の装備品と言って差し支えないだろう。極短い運用期間の後、新たな防具を入手したら売り飛ばされるか捨てられる程度の品だ。茶釜は「あんなの渡して気を悪くしないかしら?」と不安だったが、当の竜狩りメンバーは躍り上がって喜んでいる。飲酒が許される状況であれば、どんちゃん騒ぎになっていたことだろう。
「さっきまで着てた革鎧と同じ重さだ! よし! 胸のあたりを一発、剣でやってくれ!!」
「よしきた! まずは軽めで!」
「……今、『ガキン!』とか言ったぞ!? 革鎧なのに!?」
「手応え硬いな!? ちょっと傷入るだけとか、嘘だろ!?」
盗賊と戦士で大いにはしゃいでいる。
パルパトラも白髪眉を揺らしながら笑っているので、お土産アイテムは喜ばれていると見て良い。
(結果オーライかしらね~)
異世界転移の直後、彼らの世話になった茶釜としては、パルパトラ達が喜んでくれているとほっこりする。それほどに見知らぬ世界に放り出されたときは心細かったのだ。弟が一緒だったから、まだしも気を張って居られたものの、一人で転移していたらどうなっていたかわからない。転移後暫くして、冒険者達の業界事情を教わったのだが、あの状況の茶釜達が野盗や冒険者に襲われなかったのは奇跡と言って良い。撃退は出来たろうが、訳もわからないままに人殺し……という展開にならなかったのは、まことにもって幸運である。そういった事情から、茶釜がヘッケラン達に感じている恩は、モモンガが思うよりも大きく深いものだった。
(あ~……阿呆な弟に対する怒りが浄化されていく~)
内心呟いてしまうほど、気が優しくなる茶釜。
このままワーカー隊が何事もなく帰っていれば、茶釜はペロロンチーノに対して簡単な口頭注意だけで済ませていた可能性がある。だが、そうはならない。何故なら、竜狩りの盗賊を襲った以上の破廉恥罠が、フォーサイトの前に出現したからである。
◇◇◇◇
「う~ん。上手く罠回避しましたね。モモンガさんは、今のをどう思います?」
タブラが聞いてくるので、モモンガは朗らかに答えた。
「良かったと思いますよ? 機転を利かせるあたり、熟練の冒険者って感じじゃないですか。映画みたいですね!」
最初、モモンガは<
(本来なら、鍵穴からピックを差し込んで、中のワイヤーを切ったり、落ちそうな薬瓶を固定したりするんだろうけど……)
木箱内に映像の送信アイテムを設置し、盗賊のテクニックを堪能することも考えたが、それだと時間がかかるのだ。木箱罠の解除が、箱の鍵解錠と連動しているのは、そういった見物人側の都合による。
「おや? フォーサイトが玄室の守護者を撃破したようですね」
ヘロヘロの声を聞き、モモンガが
もっとも、ヘッケラン達はロバーデイクが轢かれたり、ヘッケランが反転した『騎馬』に後ろ足で蹴られたりと大いに苦戦したらしい。今は、最後の一体を倒したところで、フォーサイトのメンバーらは手を叩き合ったりして喜んでいた。
実に微笑ましい。だが、そんな風に感じるモモンガ達の空気は、デミウルゴスの報告によって凍りつくこととなる。
「アインズ様。フォーサイトが居る玄室の木箱は、十五番木箱です」
「十五番……だと?」
モモンガ、そしてタブラとヘロヘロが顔を見合わせた。
十五番木箱とは何か。それは、ペロロンチーノが罠を設定した木箱の一つである。
「ぐぬうっ! あの木箱の部屋に、よりにもよってフォーサイトが入ってしまったのか……」
「こっそり罠を入れ替えちゃえば良かったかな?」
タブラが呟くが、モモンガは力無く首を横に振った。ペロロンチーノには罠の設置許可を出したのだ。それを勝手に入れ替えることなどできない。例え茶釜が罠の変更を迫ったとしても、モモンガはペロロンチーノの承諾がない限り、手出ししないつもりだった。
「他の男性だけのチームが入ってくれれば良かったんですけどね~」
ヘロヘロが呟くと、モモンガとタブラは揃って頷く。
「何事もなければ良いんだけど……。無理だよな……。いや、解錠さえ上手くいけば……」
モモンガの呟きは空しく宙を彷徨い、円卓の中で消えていった。
◇◇◇◇
「『今回の品は、自己修復及び自己洗浄、先端発光機能のあるキーピック一式。魔力消費により、着衣の防御力を(鉄鎧まで)上昇させる髪飾りだ』」
第一階層のとある玄室で、イミーナが木箱後ろの壁に貼られた羊皮紙……壁貼りの警告文書は羊皮紙の使用が継続している……の内容を読み上げていく。ここまでは良い。ヘッケラン達の感覚では大したお宝なのだ。フォーサイトの面々が、「このナザリック地下大墳墓とやらに挑んだ甲斐があるというものだ」と言いたげな表情になっていく。だが、問題は続く一文にあった。
「『今回の罠については、チームメンバー全員の装備を解除するというものだ。解除された装備は、足下に置かれるとのことだから喪失することはない。しかし、すべて解除されるので……その、なんだ、罠の設置申し立てに抗しきれなかった私を許して欲しい。本当に申し訳ない』……ですって」
しゃがんでいたイミーナが肩越しに振り返ると、後方で待機するヘッケラン、ロバーデイク、照明補助としてランタンを持つアルシェの三人は、何とも言えない困り顔で顔を見合わせた。困り顔になっているのは、お目付役として同行している獣王メコン川も同様である。
(「書いたのはモモンガさんで、罠のチョイスはペロロンチーノさんか。あの鳥め……ギルド長を謝らせやがって……。しかも、なんて罠を仕掛けてやがる」)
いつもは口の端を持ち上げる笑みが特徴的なメコン川だが、この時ばかりは口をへの字にしていた。ここまで幾つかの玄室を突破し、フォーサイトメンバーとは親密度が上昇している。それに、
「別に無理して鍵開けしなくてもいいぞ? 第三階層の最奥まで行くか、無理なら降参して帰っても良いんだから」
遠慮がちにメコン川が言うと、振り向いたヘッケランが、イミーナとアルシェが頷くのを確認してから答える。
「いや、挑戦させて貰うぜ。これだけのアイテムを、怪我したり死んだりせずに入手できるんだろ? イミーナ達も大丈夫……いや、我慢するって言ってくれてる」
不敵な笑みは格好良い。だが、口元がひくついているのがメコン川には見えていた。
(ふざけた罠を用意しやがって……って感じか? けど、俺が選んだ罠じゃないしなぁ)
同僚のミスで自分が代わりに苦情対応をする。社会人あるあるだが、当然ながら良い気はしない。メコン川は、ペロロンチーノに対する苛立ちを新たにしていた。なお、木箱の罠を選んだのがペロロンチーノであるのは、
「そうか。わかったよ……」
メコン川は少し肩を落とすと、諦めたような口調で呟いた。
「けど、俺個人としちゃ何かフォローはする。解錠失敗しないのが一番良いんだけどな」
タブラからの<
それは、解錠作業の進捗が半ばに達したところで発生した。
木箱上に表示される魔法光の文字であるが、今回は一文字あたりのフォントサイズが手の平大。それが画面一杯に『うわあああああああああああああああああああああ!』と転移後世界の標準文字で赤色表示されたのだ。しかも、今回は表示画面が数十センチ四方ではなく、畳二畳分ほどとかなり大きい。声こそ出ないものの、その文字のみの絶叫を目の当たりにしたイミーナが「はあ?」と声をあげ……手を滑らせた。
次の瞬間、フォーサイトメンバー着用している全てが消失。各自の足下で配置される。
「ぬわあああっ!?」
「神よっ!?」
男二人が股間を手で覆った。女性二人も例外ではない。
「ごめん! やっちゃった!」
「ひっ!?」
イミーナが叫ぶように謝罪し、アルシェが引きつった声をあげる。胸と股間を手で覆う仕草は双方とも同じだ。本来であれば、メンバー同士で気まずい思いをしながら衣服と装具を身に纏い出すのだろうが……ここには今、メコン川が居る。
「ほらよ!」
アイテムボックスに突っ込んでいた手を引き出すと、メコン川はマントを四人分取り出して放り投げた。異形種としてのフル装備がマント着用の姿なので、替えのマントを常備しているのだが、それらはフォーサイト各メンバーの頭上に落ち……ヘッケランらは慌てて身を覆っている。
「すまねぇ! 助かる!」
マントを羽織ったままで着用開始。一人の例外もなく顔が真っ赤だ。ちなみにメコン川も顔が赤い。苦虫を噛みつぶしたような顔で居るが、その脳内にはアルシェとイミーナの裸体背面……腰の曲線や尻の形などが鮮明に思い出されていた。
(離れて後ろの方で居たもんだから、位置的になぁ……。オマケにさぁ……)
人化していると言っても、元の
(やっべぇ……イミーナは知らんが、アルシェって絶対に俺より一回り以上年下だろ? これって事案じゃないよな?)
こういう時、モモンガのように精神の安定化があればと思うのだが、あったとしても今は人化しているのだから意味がない。妙にドキつく胸を甲冑の上から押さえながら、メコン川は嘆息する。イミーナとアルシェ、どちらかと言えばアルシェの方が印象に残るのだ。
(俺、もうちょっと年上好みのはずなんだけどな……。妙に懐かれてるから、そのせいなのかもな……。それにしてもペロロンさんめ、ヒント機能で妨害してくるたぁ……)
解錠作業が設定時間よりも早く進捗すると、木箱上で出現する魔法文字。ヒント機能のようなものだが、今回は嫌がらせの罠だったようだ。もっとも、ヒント機能の追加はタブラの進言を受けたモモンガが許可したことで、ヒント内容については罠の設置者の責任で記載することになっている。ここが、モモンガとタブラにとって盲点となったようだ。ヒント機能を使って解錠の妨害をするなど考えつかなかったのである。そして、考えついたペロロンチーノが文面で驚かせる設定を仕込み、イミーナがまんまと引っかかったというわけだ。
いそいそと着込んでいるヘッケラン達を前に、メコン川が頭を掻きつつ謝る。
「すまんなぁ。罠を仕込んだ奴は、後で絞めておくから……(鳥だけに)」
ヘッケランとロバーデイクからは「覚悟の上だったんだし、気にすんな」「これも一つの試練ですよ」と優しい言葉が返ってきた。が、気がつくと普段の装備を着込んだアルシェが、畳んだマントを持ってメコン川の前に進み出ている。
「うあ、あ~……と。ごめんな?」
気まずさから頭を掻くメコン川だったが、その彼をアルシェはジッと見上げた。そして薄暗い中、しかし、メコン川にはハッキリと見える赤らめた顔で……彼女は口を開く。
「……見た?」
「いや、ええと……その……。見えました。ごめんなさい」
誤魔化したいのは山々だが、この状況で嘘を言っても仕方がない。正直に言って謝ったところ、アルシェは「んっ!」とマントを差し出した。
「お、おお?」
戸惑いつつメコン川が受け取ると、アルシェはヘッケラン達に向き直って歩き出す。「嫌われたかな?」とメコン川が口の端を持ち上げようとしたとき、アルシェの足が止まって肩越しに振り返った。
「お、怒ってないから……」
それだけ言い残し、仲間達の元へと駆けて行く。戻ったアルシェは、にやけ顔のイミーナから指でツンツンされて何か言い返しているようだが、からかうように笑うイミーナは意にも介していない。それを見てヘッケランとロバーデイクが楽しげに笑うのを、メコン川は今度こそ口の端を持ち上げながら見つめ続けるのだった。
◇◇◇◇
「ちょっと行って、あの下等生物をブッ殺してくるっす!」
「待てーっ! ルプスレギナ、ステイ! ステイーッ!」
メコン川のギルメン席。今は空席となっている椅子の後ろで、ルプスレギナが駆け出そうとする。それをモモンガが必死になって呼び止めたのだが、ルプスレギナはアッサリと聞き入れて椅子の後ろへ戻っていた。その顔には不満の要素が一欠片も浮かんではいないが……いや、訂正しなければならない。遠隔視の鏡を見る彼女の眉間には、シワが寄っている。
(メコン川さんが謝ったことが、相当気にくわない様子だな~。ナザリックのNPCなら当然か~……)
ギルメンが外部の者に対して頭を下げるというのは、モモンガにしてみても腹立たしいことだ。しかし、ギルメン側に落ち度があった場合なら話は別である。それにしても今の展開……。
(メコン川さん、あのアルシェって娘と良い感じじゃないかぁ? 春か!? またしてもギルメンに春が来たというのかっ!?)
自分の色恋には鈍いモモンガだが、ギルメンが対象となると妙に勘が鋭い。かつて……アルベド達と交際し始める前までのモモンガならば、ギルド長権限を振りかざしての妨害行動を夢想するところである。しかし、アルベドと茶釜、そしてルプスレギナと交際している今となっては、ギルメンの春を応援したいという気持ちが強く出ていた。
(今のところ確認できてる俺以外のカップルは、ヘロヘロさんとソリュシャン、弐式さんとナーベラルってところか~。どっちも交際報告は受けてないけど……。ナザリック外の異性が相手なのは、メコン川さんが初なのかな~……うっ!)
ナザリック外の異性との交際という点では、メコン川が初ではないことにモモンガは思い当たる。モモンガ自身が、カルネ村のエンリや冒険者のニニャと良い感じなのである。
(いや、俺はエンリやニニャとは正式に付き合ってないし! ……告白されて、断らなかった時点で付き合ってるようなものか……)
そもそも、今更、交際を断る気はないし、二人のことは気に入っていた。そうなると、久しぶりで二人の顔を見たくなってくる。
(ここのところ忙しかったし、久しぶりにカルネ村に顔出してみたりするかぁ? でも、帝国と揉めそうなんだけど、時間とかあるかな~)
しかし、メコン川もそうだが、ナザリック外の女性と交際するとしたら、何処まで相手に正体を明かすべきだろう。ユグドラシル時代は効率重視で、人化する気などサラサラなかったが、今は体質の変化もあって人化することに抵抗はない。ギルメン達も人化能力を得ていない建御雷なども含めて、頃合いを見て人化を繰り返している。やはり、精神の異形種ゲージや発狂ゲージを気にしているのだ。
(ブルー・プラネットさんの悲劇は繰り返してはならないものな……。っと、そうではなくて……)
モモンガは、「あ~、ペロロンチーノさん。死んだな~」と呟いているブルー・プラネットをチラ見してから、脱線しかけた思考を元に戻した。今考えなければならないのは、エンリやニニャが
(エンリは俺が骸骨だって知ってるんだっけ? ニニャは~……難しい……のかもな)
異世界転移してから、それなりの日数が経過した。転移後世界の人間達が、人外の者……異形種に対してどういう認識を持っているかは理解できているつもりだ。改めてエンリ達にお付き合いオーケーを出したとして、その後でニニャに異形種であることが知られたら……。
(それで怖がられたり、騙した呼ばわりとかされたら……。俺、心折れちゃうかも……)
いざとなったら記憶操作するなど、魔法で洗脳する手もある。だが、それで自分のことを好きにさせるなど吐き気がするし、やるとしても自分のことを忘れさせるぐらいだろう。とはいえ、そんな事にはならない方が良いし、なって欲しくはない。
(自分のまいた種だけど、気が重いな~……)
まいた種。そう表現したモモンガだが、エンリとニニャとの出会いを悪いものだとは思っていなかった。ただ、この辺で留めておかないと、交際女性の増員に際限がないというのも理解できている。
今更ながら、今後は女性との付き合いについて、慎重にならなければと思うモモンガであった。
◇◇◇◇
第一階層、最奥。
最奥と言っても、通路の組み替えで今回『最奥』となった場所である。木箱のある玄室と同じ造りだが、広さは数倍ほども大きい。具体的にはテニスの試合が二つ同時に行える程度だろうか。
この日、ナザリック地下大墳墓へ侵入したワーカーチームの中で、最も早く第一階層最奥に到達したのは、エルヤー・ウズルスの天武である。モモンガ達の通路操作により、玄室に行き当たることなく移動していた為、到達が早いのは当然なのだ。
「随分と広いところに出ましたね? 奥には……むっ?」
先頭に立って歩いていたエルヤーが前方を注視する。かなり離れた奥、両開きの扉付近で人影が確認できた。人影と言っても随分と大柄だ。オーガほどではないが、それでも人の背丈ではない。遠目に見えるシルエットも何だか変だ。
「腕の数が六本? モンスターで確定ですね……」
スラリと刀を引き抜きながら呟くエルヤーだが、すぐにエルフ達を怒鳴りつけた。
「何をしてるんです!? 敵ですよっ!?」
その一声で、それまで何をするでもなくボウッとしていた女エルフらが身構える。怠慢なのではない。奴隷として買われた上、日頃からエルヤーの暴行にさらされている。探索活動に意欲や積極性などあるはずがないのだ。ただ、反抗心はへし折られているので、彼女らは言われるまま支援行動に移った。
「ふむふむ、まあ良いでしょう。けれど、こういうのは言われる前にするものですよ?」
刀の一時的な魔法強化や、肉体能力の向上など、幾つかの魔法を帯びたエルヤーは、自信たっぷりに笑みを浮かべて前に出る。
「ここまで雑魚ばかりでしたが、多少は歯ごたえがあると良いのですけどねぇ……」
自分の勝利に微塵の疑いも抱いていない。
だが、エルヤーは気づいていなかった。彼の前で立つ者こそ、ナザリック地下大墳墓の支配者の一人、大食らいの魔法剣士こと……ベルリバーなのだ。一〇〇レベルプレイヤーを相手にして、エルヤーに勝ち目などあるはずがない。彼に残された道は、どのように負けるか。ただ、それだけであった。なお、生死に関してはベルリバーに対する態度次第とも言えるが……。
「そこのモンスター。さっさと掛かって来なさい……と言っても理解できないでしょうねぇ。モンスターというのは、人様の言葉など理解できない下等生物なのですから。ハハハハッ」
この嘲笑を聞いたベルリバーは特に反応を示さなかったが、遠隔視の鏡で見ているモモンガ達は「道化ですねぇ」と顔を見合わせ、アルベドやデミウルゴスなどは怒髪天を衝くほどに激怒している。このようにナザリックの僕達の怒りを買ったことで、いきなり生還率が低くなった。
そうとは知らないエルヤーは、抜いた刀を両手で持ち、ベルリバーとの間合いを詰めていく。
「来ないなら……こちらから行きます!」
エルヤーは駆け出した。
スライドするように間合いを詰める武技、<縮地改>を会得している彼だが、それを使うまでもないと普通に走っている。要はベルリバーを舐めてかかっているのだ。不用意な接近によって、敗北への到達時間が短くなったわけだが、エルヤーは自身の勝利を確信したまま駆け続けた。そして、刀の届く間合いに到ったところで攻撃……それまでに斬り倒してきたゾンビらと同様に、目の前のモンスターも倒す。それがエルヤーの脳内でのプランである。
直後、彼の思い描いたように刀が振られ、その刃はベルリバーの肉体を捉えた。だが、生じた結果は、エルヤーが想像していたものとは大きく違っていたのである。
第一階層の最奥まで到達。
この辺からダイジェストになるのかな。
エンリとニニャが、正式にモモンガ奥さんズに加入するかどうか。
モモンガ・ハーレムについては、特に思惑があって出来たものではないです。
アルベド……モモンガさんの嫁と言えば彼女
ルプー……後で合流するメコン川さんと揉めるか、話のネタにでもなれば~
茶釜……ギルメンの彼女とか居てもええやん
後は、原作イベントの改編でエンリとニニャが……。
気がつくと奥さん候補が5人という……。
すみませんね~、無計画にノリでハーレム化しちゃって。
……後はカルカをねじ込めたら……と思うんですけど、駄目かな?
他のギルメンに受け持って貰えば良いかな……。
エロトラップに関しては、装備解除罠で終わりな感じです。たぶん。
これ以上やると、ペロロンさんの命がマジでヤバいのだ。
……第三階層の最奥で、何かあるかも知れませんが……。
エルヤーの相手はベルリバーさんになりました。
ブレインを出そうかと思ったのですが、女エルフの押しつけ先を何と言うか……アレだったのです。
エルヤー、どうしようかなぁ……。
次は4月3日か4日か……。どうだろう、年度始めで書き進められるかな~。
<誤字報告>
D.D.D.さん、サマリオンさん、佐藤東沙さん
毎度ありがとうございます