オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第76話

 ナザリック地下大墳墓、第二階層。

 本来、第三階層まではシャルティア・ブラッドフォールンが守護する階層域だが、ワーカー隊への対応については階層ごとに守護者を置いていた。例を挙げると、第一階層の最奥玄室には、武人建御雷とコキュートスが配置されるという具合だ。

 現状、ワーカー隊は、ヘビーマッシャーとフォーサイトが第一階層を突破している。突破と言っても、建御雷らに十分間挑み続ければ最奥玄室クリアとなるので、本人らにやる気さえあれば突破は難しくない。竜狩りに関しては、リーダーのパルパトラが慎重に行動しているため、攻略速度は他チームに比して遅かった。しかし……。

 

「ヘビーマッシャーとフォーサイトなら、ちょっと前に第二階層へ降りて行ったぜ?」

 

 と建御雷に聞かされると、さすがに顔色が変わって行動を早めることとなる。

 最奥玄室の突破報酬は、全チーム漏れなく入手可能だが、途中の玄室で入手できるアイテム類は早い者勝ちだからだ。

 第二階層については、各玄室に配置されるモンスターの強さが少し上昇し、木箱の中身が豪華になっている。豪華さ上昇というのは、各種巻物(スクロール)類が増えている点だ。本来、巻物に使用される羊皮紙は消耗品であり、転移後世界では材料の調達が困難である。と言うのも、現地調達できる羊皮紙を使用して、ユグドラシルの製法で魔法を封入すると……羊皮紙が燃えあがるのだ。原材料を人皮とすることによって、ある程度の代用が可能だが、後で合流するギルメンの心情に配慮して試製したのみである。では、こういった状況下で巻物(スクロール)を、報酬あるいは景品として出して良いものだろうか。いや、駄目だろう。そこまでの大盤振る舞いはできない。

 ……そうなるはずだった。

 ここで、タブラ・スマラグディナとブルー・プラネットの出番となる。

 まず、タブラが、大昔のエジプトという国で作成されたパピルス紙のことを思い出したのが発端だ。パピルスは羊皮紙の代用品になるのではないか……と考えたのである。ユグドラシルでは『動物皮』ではなく『植物由来の紙』でも巻物(スクロール)の原料にでき、原材料のグレードによっては動物皮に勝ることもあった。

 とは言え、現実のパピルス原材料となるカミガヤツリ(必要なのは茎の繊維)を一から栽培するのは面倒……となったところで、すでに合流していたブルー・プラネットが「じゃあ、俺が」と挙手し、手始めに木の皮で試してみようという事になったのである。そして、これがいきなり大当たりとなった。ブルー・プラネットがスキル使用して生やした木は、その皮が魔法封入能力に優れ、タブラ考案の巻物(スクロール)作成術と上手く噛み合ったのだ。

 

「役に立てて良かったですよ。いや~、この特殊木を植生する特殊技能(スキル)で、本当に……本物の巻物(スクロール)を作ることになるとは……。普通は取得しないネタ特殊技能(スキル)だし、巻物(スクロール)の原材料として運用するためには、一見関係なさそうな専用イベントを、四つも単独クリアする必要があるという隠し要素がありましてね~……苦労したな~。自然愛がなかったらヤバかったな~。普通に羊皮紙の巻物(スクロール)を作る方が、手間もかからず安上がりってのも、精神的にキツかった……。あ、そうそう、そこまでして樹木を生やしても、資材運用が可能になるまでの成長速度が遅くて……。その成長促進には、課金アイテムの成長促進剤が必要になるという……うごご……」 

 

 円卓で話していた時、ブルー・プラネットは人化していたのだが、ユグドラシル当時を思い出したのか滅多に見ない表情となっており、モモンガ達は大いに怯えたものだ。

 幸いだったのは、ブルー・プラネットがスキル使用で生やした樹木に、成長促進系の魔法が効果を示したこと。これにより巻物(スクロール)の原材料が、ある程度は安定供給されることとなった。ちなみに駄目元で成長促進の魔法をかけたブルー・プラネットは、効果があったことで狂喜乱舞している。

 こうして作成された巻物(スクロール)は、封入可能位階が第六位階までと、それまでの巻物(スクロール)と比して大きな飛躍を遂げていた。まさにブルー・プラネットの自然愛と、ユグドラシル時代における『流した血の汗と、涙を拭かなかった努力』の結晶と言えるだろう。現時点でも売り物として通用するが、更なる改良により、超位魔法は難しいにしても第十位階までの封入を目指すことで、研究開発の続行が決定となっていた。

 そういった経緯があって今回、第二階層の木箱には試作品の巻物(スクロール)が多めに入っている。

 デザインが気に入らない。

 もうちょっと質感を柔らかくしたい。

 見た目を羊皮紙っぽくできないだろうか。

 という指摘や要望によって量産化を見送られ、気楽に使い潰すつもりだった巻物(スクロール)だ。ちなみに第一階層で出た巻物(スクロール)も、基本的にブルー・プラネット式の巻物(スクロール)である。

 以上が、第二階層における木箱の変更点だ。階層としての変更点は前述したとおりもう一つあり、それが配置されるモンスターの変更である。第一階層ではアンデッド系のモンスターが多かったが、第二階層からは獣系、ゴーレム系など多くの種類を盛り込んでいくのだ。危険度が一気に上昇するが、手加減するように言ってあるので問題は無いとモモンガ達は判断した。また、どれも別階層から引っ張ってきたポップモンスターだったり、低レベルのドロップモンスターだったりするので、やはり使い潰すことに問題はない。

 

「一番良くて第六位階か~。しょぼいけど、喜んで貰えるだろうか……。第三階層では奮発して第八位階とかの巻物(スクロール)を入れてもいいかもな~」

 

 そう呟くモモンガは、第二階層最奥として設定された玄室で待機中だ。お供……随行者はパンドラズ・アクター。ちなみに、この人選にはアルベドとルプスレギナが難色を示している。パンドラズ・アクターが実力不足というのではなく、単に自分が随行者になりたかったらしい。だが、モモンガは反対を押し切ってパンドラズ・アクターを選んだ。最近まで、アルベドの代行としてナザリックの運営を仕切っていたパンドラズ・アクターに、褒美として随行を許すことにしたのだ。

 

「モモンガさん……。あんなに黒歴史だとか言っていたのに……」

 

「複数のギルメンに目撃されてる時点で、黒歴史も何も無いもんですよ。ブルー・プラネットさん」

 

 ワーカー隊の侵入前、感動している風のブルー・プラネットに対して、モモンガはフッと笑いつつ言っている。そのすぐ後、咳払いをした弐式がモモンガの前に進み出たのだが……。

 

「モモンガさん……。あんなに黒歴史だとか言っていたのに……」

 

「弐式さん……。笑いを堪えながら言うの、やめて貰えます?」

 

 プププ……と吹き出しそうにしている弐式に対し、モモンガは憮然としながら言ったものだ。なお、弐式は近くで聞いていた建御雷によって、脳天に拳骨を落とされている。

 そういった経緯により、モモンガは軍服姿のパンドラズ・アクターと並んで立っていた。円卓からの報告によると、ワーカーチームの一つがこの玄室に辿り着こうとしているらしいが……。

 

「すまないな、パンドラズ・アクター」

 

 呟くように言うと、パンドラズ・アクターが特徴的な卵顔をギュルンと回し、モモンガを見た。

 

「いかがなされましたか? 父上?」

 

「そういや、その呼び方にオーケー出したんだっけな~。……じゃなかった。せっかくの随行なのに、外に連れ出してやれなくて悪いと思ったんだが……」

 

 ブルー・プラネットに言ったとおり、今のモモンガにはパンドラズ・アクターがそれほどの黒歴史には思えない。ただし、言動の大仰さとドイツ語に関しては、現在進行形で羞恥を感じてしまうのが困りものだ。

 

(それを考えると、今回のワーカー達の侵入は丁度良かったな~。外の人間に対して、パンドラがどういう風に振る舞うかチェックできるし!)  

 

 つまりは、御褒美を兼ねた試験運用ということだ。考えてみればワーカー隊が帰った後は、彼らを派遣したバハルス帝国に対し、パンドラズ・アクターを差し向けることになっている。それもウルベルトの格好で行かせるのだから、ウルベルトの評判を落とすようなことはさせられない。

 

(タブラさんは「マズい具合になったら、後でウルベルトさんに謝りましょう」って言ってたけど、やらかさないに越したことはないし)

 

「お気遣いいただき、ありがとうございます! しかし……」

 

「うん?」

 

 感極まったパンドラズ・アクターの声に、モモンガは考えるの止めた。

 

「ぅ(わたくし)! 父上のお側に居られるだけで(とぇん)にも昇るほど幸せなのです! いえ、この場! こそが天上世界と言えるでしょう! ええ、絶対に!」

 

 クルリと回って右手は胸に当て、左手は斜め上で、掌は天井に向けられている。

 何度言っても改まらないのだが、他の姿……外装を使用しているときは控えめになるようだ。アクターの名が示すとおり、外装の『キャラクター』を演じているのだろう。

 

「なんだな~……お前のそれも……あれも……。もう見慣れてきたかな……。いや、まだ、ちょっと……」

 

 『それ』は、今の振る舞いだが、『あれ』はパンドラズ・アクターの振る舞いを見て笑う人々の態度だったりする。最初はヘロヘロや弐式達の反応が非常に恥ずかしかった。何度、パンドラズ・アクターを宝物殿に戻して二度と出さないようにしようと思ったことか。しかし、パンドラズ・アクターを見た際のギルメンの反応を繰り返し見ていくうち、それほど心が痛まなくなっていたのだ。早い話が慣れである。ギルメンらの方でも、パンドラ自身が話のわかる常識人であることから、単なるネタキャラではないように認識していることも大きい。

 

(今回は、試験運用みたいに考えてパンドラを連れてきたが……。ひょっとしたら俺自身の心を試すことになるかも知れないな~)

 

 そうあれかしと生み出されたパンドラは、制作意図に従って行動しているだけなのだ。彼に苦手意識を持つのは良くないし、慣れてみると、ちょっと目に余ることもあるが、我慢できる範囲だとモモンガは思う。

 

(第一、タブラさん達は自分の制作NPCと仲が良いのに、俺だけパンドラを邪険にしていたらギルド長として示しがつかないじゃないか)

 

 決意を新たにし、モモンガは手に持ったスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを握りしめた。本物のギルド武器ではなくレプリカである。破壊されるとギルドが崩壊するため、製作過程で出来たハリボテを用意したのだが、建御雷を始めとしたギルメンらが「ギルド長はたとえハリボテ……レプリカでも、それなりの物を持たなくちゃ!」と言い、各自が材料等を供出、タブラと建御雷によって魔改造されている。見た目は本物と変わらず、性能は遠く及ばない……という点は変わらないものの、当初より強力になっている。詠唱時間の短縮効果や魔法の攻撃ダメージの増加、各種防御効果など盛り盛りだ。作成者の一人である建御雷からは、「武器なんてものは、剣でも杖でも、実戦で使い倒してこそ値打ちがあると俺は思ってます。まあ、ギルド武器は軽々しく持ち出すもんじゃねぇけどな。だからこそのレプリカであり代用品! 壊したってかまわねぇんだ、思いっきり活用してくださいよ! ギルド長!」とまで言われている。モモンガとしては、ギルメン達の心遣いが身にしみて目頭が熱くなったほどだ。実際、異形種化していなければ、年甲斐もなく号泣していたかもしれない。

 

(危ないところだったよな~。精神の安定化が、これほどまでに有り難いとは……)

 

 醜態を晒さずに済み、モモンガはアンデッド特有の体質に感謝するのだった。

 そうしてワーカー隊を待ち受けること十数分。最初に玄室へ入ってきたのはヘビーマッシャーであり、一通りの会話を終えると、ヘルムのみ建御雷から貰った赤い物に換えたグリンガムが、鼻息荒く挑みかかってきた。とはいえ、モモンガには上位物理無効化Ⅲと上位魔法無効化Ⅲがパッシブ……常時発動している。見た目が魔法詠唱者(マジックキャスター)っぽい骸骨(グリンガム達はエルダーリッチと誤認していたが)でも、グリンガム達の持つ武器では傷一つ付けられないのだ。

 

「な、なんて硬いエルダーリッチなんだ……」

 

 斧を下げて肩で息するグリンガムが呟いている。

 

「さっきも言ったが、私はエルダーリッチではないぞ?」

 

 では何だ……と言うグリンガムの問いに、モモンガは「死の支配者(オーバーロード)だ。聞いたことはないか?」と返したが、グリンガムは首を横に振っている。

 

(む~ん? 帝国のワーカーも知らないのか……。ブレインやクレマンティーヌも知らないって言ってたし、転移後世界では死の支配者(オーバーロード)は目撃例すらないのか? ……まあ、現地モンスターに死の支配者(オーバーロード)とか居たら危険だし、居ないで結構なんだが……知名度低いってショックだな~)

 

 知名度の低い種族として死の支配者(オーバーロード)を挙げるのなら、弐式のハーフゴーレムやヘロヘロの古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)も知名度は低いだろう。おそらく転移後世界には存在しないのだから。そう考えると、自分だけのことではないので気が晴れるが、モモンガが長考している間も、ヘビーマッシャーの攻撃は続いていた。

 

「ふん! はあ! てやぁ! ろ、ローブに切れ目すら入らないぞ!?」

 

「俺の<浄化>も効果が無いようだ……。もうペースを落としていいんじゃないか?」

 

 戦士と神官がゲンナリしている。モモンガは建御雷と同じように、砂時計を使用した時間制限を設けていたが、戦闘開始より五分が経過……ヘビーマッシャーは、基本的にその場を動かないモモンガに対し傷一つつけられないでいた。モモンガの方も、ただ立っているだけではなく、低位階のデバフ系魔法を使用していたりする。

 

「ぬわー、目が見えない!」

 

「痒っ!? 全身が妙にかゆいぃいい!?」

 

 視力低減(フィールド視認距離の低下)や麻痺(の劣化版)を受けて、神官と魔術師が悲鳴をあげた。もっとも端から見れば変な踊りを踊っているようにしか見えない。そして、そのまま残り時間を過ごされても面白くないので、モモンガは<魔法解体(マジックディストラクション)>等で、その都度魔法効果を打ち消していた。

 

「とまあ、こういった魔法攻撃をされることもあるので、アイテム類で魔法耐性を上昇させておくのは重要だな」

 

「んアインズ様ぁ! 頑張(ぐわんば)ってーっ!」

 

 出口の横で立つパンドラズ・アクターから声援が飛ぶ。モモンガがチラッと視線を送ると、軍服姿のパンドラズ・アクターが手を振っている姿が確認できた。初戦は自分一人で相手するからと待機を命じたので、声援を送るしかすることがないのだろうが……。

 

(正直言って微妙!)

 

 盗賊がスリングで飛ばしてきた鉄球を頭部に受けながら、モモンガは暗い眼窩の奥で赤い光を強めた。悪い気はしないが、応援ならアルベドかルプスレギナの方が良かったとモモンガは思う。やはり、男性より女性だ。それが交際中の『彼女』であれば、なお良しである。

 

(後な~、あのオーバーアクションに、まだ抵抗がな~……)

 

 うんざり気味の視線をパンドラズ・アクターに向けると、その視線を受けたパンドラは暫し声援を止めた。そして、カクンと首を傾げた後、右手をモモンガに突き出してサムズアップしてくる。

 

「えっ? 何を……ちょっ、おまっ! なにぃいいいいっ!?」

 

 戸惑うモモンガは、精神の安定化を発生させつつ見た。パンドラズ・アクターが姿を変貌させ、アルベドになる瞬間を……。遠目には本物と見分けがつかず、さすがの擬態能力である。パンドラズ・アクターが擬態したアルベド(以下、『パンベド』という。)は、花咲くような笑顔でモモンガに向け手を振った。

 

「んアインズ様ぁ! 頑張(ぐわんば)ってーっ!」

 

 言ってることは先程と同じ。しかし、声はアルベドの物なので耳に心地よいし、口ぶりはパンドラズ・アクターのままなのに、可愛らしく感じてしまう。

 

(本物に負けず劣らず清楚で上品というのが、妙に腹立つんだよな~……あっ!)

 

 ヘビーマッシャーの攻撃を一身で受け止めているモモンガは、パンベドの向かって左に<転移門(ゲート)>の暗黒環が出現するのを目撃した。そこから飛び出てきたのは本物の守護者統括アルベドであり、その伸ばした右手でパンベドの胸ぐらを掴み挙げている。無表情ながら眼差しだけ極寒のアルベドと、引きつった表情のパンベド。二者は数秒ほど視線を交わしていたが、やがてアルベドが手を離し、モモンガに向けて深々と一礼する。そして、今度はパンベドの右耳を掴むと強引に引っ張り、暗黒環内へと戻って行った。なお、暗黒環が閉じる前に、ひょっこり首を出したシャルティアが笑顔と共に手を振っていたりする。

 

(あ~……第三階層からシャルティアを呼び出して、<転移門(ゲート)>役を頼んだんだな。創造主のタブラさんが同じ円卓に居たはずだが、さすがに<転移門(ゲート)>役を頼むのは無理だったか……NPCの忠誠心的に……)

 

 そんなことをしている間に砂時計の砂が落ちきり、ヘビーマッシャーの挑戦時間が終了した。時間いっぱいを戦い抜いたので、当然ながら第二階層を突破したことになる。モモンガの方でも、実力派ワーカー達の連係攻撃を堪能できたし、諸々あった合間に、低位階の攻撃魔法を数撃ちして相手方の度肝を抜いていた。それにもめげず戦闘を継続したわけで、モモンガの心証においても合格点である。

 

(冒険者……おっと、ワーカー相手の良い練習になったしな~) 

 

 モモンガにとってのワーカー隊は、茶釜姉弟の恩人であるのは確かだ。だが、臨時雇いのアルバイトのようなものでもある。それが頑張りを見せたことで満足を得たモモンガは、上機嫌でアイテムボックスに手を突っ込んだ。

 

「これは疲労低減の指輪だ。労働による疲れや空腹感が半減することだろう。これが人数分と、リーダーのグリンガムには、建御雷さんから預かっている物がある」

 

 言いつつ、指輪の次に取り出したのは真っ赤な鎧だ。部分的に色分けしてあり、サーモンピンクの部分がある。ちなみに既に入手したヘルムも、どちらかと言えばサーモンピンク色である。

 

「これは総オリハルコン製の鎧だ。ええと、渡されたメモによるとだな、衝撃吸収や打撃と斬撃に刺突耐性、体力回復効果……それと第二位階までの魔法耐性があるとのことで……うわ、大盤振る舞いの盛り盛りだな……ゴホン。建御雷さんからの追伸では、『完全耐性じゃないから性能を過信することなく、お守り程度に思っておくように』とのことだ」

 

「おおおおおっ!?」

 

 受け取ったグリンガムが、瞳をキラキラさせながら感動し叫んだ。

 ヘビーマッシャーの面々は、手渡されたアイテムを掲げたり抱きしめたりしながら大喜びの最中だが、モモンガはふと思った疑問を投げかけてみる。

 

「今のところアイテムばかりだが、どうだね? やはり金銭の方が良いということは……」

 

「いや、アイテムがいい! そうだな? みんな!」

 

 赤い鎧を抱きしめたグリンガムが言うと、ヘビーマッシャーのメンバーらは声を揃えて「おう!」と答えている。中でも、神官と魔術師の喜びようが印象的だ。聞けば、モモンガが待機する第二階層最奥の玄室へ到達するまでに、建御雷に聞かされた『第四位階上限で、使用者の位階を一つ上げる魔法書』を二冊入手したらしく、「帰ったら猛特訓と猛勉強だ! 自力で第三位階に達するぞ! それでもって第四位階だ!」と息巻いている。

 

(やる気に満ちてるっていいな~……。異世界転移する前の俺と比べたら大違いだ……)

 

 何となくしんみりするが、すぐに気を取り直したモモンガは第三階層への扉を開いた。

 

「ここを通過すれば第三階層へ降りられる。モンスターは更に強力になるが、ここまでで入手したアイテム類があれば何とかなるだろう。基本的に最奥玄室へ追い立てるように指示しているが、逃げてばかりでは途中のアイテム類を取りこぼすことになるぞ? 自分達の力量を考慮した挑戦を期待する」

 

「うむ! 世話になったな、ゴウン殿! では、ちょっと行ってくる!」 

 

 豪快に笑いながらグリンガムが扉向こうの階段を降りて行き、他のメンバーらも付いて行った。

 

(世話になったか……。ま、俺も色々と参考にはなったし。人間と話してると何と言うか、良い感じで俺の感覚が人間寄りになるんだよな……)

 

 異世界転移して我が身がアンデッドとなったとき、モモンガからは人間に対する同種族意識が霧散している。それが今のように感じて振る舞えるのは、鈴木悟としての記憶や意識が残滓として存在していたからであり、更にはギルメン達が共にあるのが大きい。大切な友人らに、心の底まで化け物になった有様など見せたくはないのだ。その思いがモモンガの心を人として留め、熱心に精神の異形種ゲージや発狂ゲージのバランス取りをさせているのである。このような状態だから、グリンガムらのような人間と会話していると、人間寄りの精神ゲージのようなものが上昇していくのを感じるのだ。

 

「外部の人間と、もっと関わりを持つべきだろうな。精神系アイテムのやりくりで何とかできてる部分もあるけど、そういうアイテム頼みのバランス調整だけじゃなくて…………うん?」

 

 ついさっきアルベド達が消えたあたりで、再び<転移門(ゲート)>の暗黒間が展開された。呟くのを止めたモモンガが見ていると、中から軍服姿のパンドラズ・アクターがペッと吐き出される。そのパンドラに近づきながら、モモンガは聞いた。

 

「ヘビーマッシャーの相手をしながら見てたが……。何をしとるんだ、お前は……」

 

「いやあ、父上の勇姿を目の当たりにしてですね……。感動のあまり、最も効果的な応援をしようとしたのですが……」

 

 その明晰な頭脳から導き出したのは、アルベドの姿による声援だったとのこと。聞かされたモモンガにしてみれば「天にも昇る幸せ……だったか? 舞い上がりすぎだろ?」という感想しか出てこない。ただ、アルベド本人の承諾を得ていなかったこと……そして、見た目振る舞いはともかく、自分の口調で応援したことが、パンドラズ・アクターにとって致命的なミスとなった。その様子を遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)で見ていたアルベドが激怒(直後に精神が停滞化)したことで、先程の乱入につながったのだとか。

 

「で? 先程、<転移門(ゲート)>でアルベドに拉致、いや連行されてから……何があったんだ?」

 

「はあ……それが……」

 

 言われてもいないのに正座するパンドラズ・アクター。彼が言うにはこうだ。

 転移した先は円卓だったが、そこで今やってるように正座させられた彼は、アルベドから大説教を受けた。極短い時間ではあったが「今後、無断で擬態することがあっても、(わたくし)のイメージを損なわないように!」と強く言いつけられて、シャルティアが開いた<転移門(ゲート)>に放り込まれたのだとか。

 

「うむ、確かに。知人友人に身内、そのイメージを損なうようなことがあってはいけないな。アルベドが言ったことは正しいぞ。アルベドには私の方からも詫びておくが……。ワーカー達が帰った後は、お前をウルベルトさんに擬態させて送り込む予定なのだから……今、失敗したのは良かったかもしれないか……」

 

「アインズ様……。私が軽率でした……」

 

 シュンとなっているパンドラズ・アクターを見ていると、モモンガは「しょうがないな」という気分になる。これは親心だろうかと考えたが、どちらかと言えば失敗した後輩を見ている気分に近い。

 

(創造主であり親でもあると言って、やはり実の親子ってわけじゃないからな。でも、こいつにとっての俺は創造主で親なんだ。複雑だな~……)

 

 いっそのこと、ユグドラシル時代に『息子である』と設定しておけば良かったか。そんなことを考えても今更である。そもそも、息子だと思いたいなら今からでもそう思えば良いのだ。

 

(要するに、俺の気持ち次第なんだな……)

 

 パンドラズ・アクターとは、スパリゾート・ナザリックで一緒に風呂に入ったこともあるが、ここに来てまた少し気持ちが解れた気がする。モモンガは、自分がパンドラズ・アクターにとって良き創造主や良き父になれるか、その点についてまだ自信はない。だが、取りあえずは頑張ろう。その様に決意を新たにしていると、正座したままのパンドラズ・アクターが見上げてきているのに気がついた。  

 

「ああ、すまないな。もう立って良いぞ?」

 

 言われたまま素直に立つ、自分が作ったNPC。パンドラズ・アクターを上から下まで見て確認したモモンガは、おもむろに呟いている。

 

「なんだ……改めて見ると、やっぱり格好いいじゃないか。さてさて、パンドラズ・アクターよ。次に乗り込んでくるのは、どのチームだったかな?」

 

「は、はい! アインズ様! 最も近くまで来ているのはフォーサイトでして……」

 

 一瞬前まで落ち込んでいたパンドラズ・アクターが嬉々として報告を始め、モモンガは骸骨顔ながら唇が笑みの形に変わるのを感じるのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「ほうほう、御両親に浪費癖が……」

 

「そう。だから、私にはお金が必要……」

 

 ナザリック地下大墳墓、第二階層。

 フォーサイトは順調に階層を攻略しつつあり、今は数カ所の玄室をクリアした後で通路移動中である。身の上話をしているのは、チームの魔法詠唱者(マジックキャスター)、アルシェ・イーブ・リイル・フルト。聞き役は旅の剣士シシマルこと、獣王メコン川だ。人化してフォーサイトに同行するメコン川は、あくまでチームのお目付役なのだが、アルシェに懐かれており、こうして身の上話を聞かされるほどに関係は良好だった。

 

(「おい? 俺達だって、最近になってようやく聞けた家庭事情なんだぜ?」)

 

(「それを知り合って間もないシシマルさんに……。何だか複雑ですね~……」)

 

 チームリーダーのヘッケラン・ターマイトと、神官ロバーデイク・ゴルトロンが囁き合っている。いい歳した大人の男が、肩越しに後方をチラ見しながらやっているので、一番前を歩くイミーナは、肩をすくめつつ溜息をついた。

 

(二人揃って、お馬鹿よね~。女は惚れた男に頼りたいとか縋りたいって思うものなのよ。そう思う私だって、アルシェはもう少し強がると思ってたんだけどね……)

 

 今の会話の発端は、チームの最後尾を歩いていたメコン川が「ワーカーって冒険者より危険なんだろ? 冒険者をしてれば良いんじゃないのか?」と話題を振ってきたことで、聞かれた側のヘッケラン達にしてみれば、個人の事情に踏み込まないのがマナーであるから無視しても良かったのだ。しかし、見たこともないアイテムを複数手に入れ上機嫌になっているヘッケランが饒舌に語り出し、ロバーデイクが孤児のためであるとか話したことで、つられてアルシェも自身の事情を話したのである。そして今は、アルシェのみがメコン川と会話を継続している。

 

「だから、入手したアイテムの幾つかは……お金に換えないと借金を返せない……」

 

「手に入れたアイテムは自分のモノなんだから、好きにすればいいと思うけどさ」

 

 赤塗りの南蛮具足胴。転移後世界では珍しい型の甲冑を着込んだメコン川は、いつものニヒルな笑みを引っ込めている。話題が話題だけに、ニヤニヤしてはいられないのだ。それに、今のアルシェの話には気になる部分がある。

 

「でもよ? そうやってアルシェが金作っても、親父さん達が無駄づかいしたら駄目なんじゃないか? 余所の家の話で意見して悪いんだけどな」

 

「そんなことはない。シシマルに聞いて貰えるだけで少しは気が楽になる。……本当に救われた気分になる……」

 

 そう言ってアルシェは俯き気味に前方に目を逸らすが、その耳が赤くなっているのはメコン川からはハッキリ視認できていた。人化しているとは言え、五〇レベル前後の身体強化なので、薄暗くとも視認できるのだ。

 

(アルシェには直接言えないが、その両親……糞だな。汚物だ。こっそり殺処分して、アルシェを記憶操作すればいいんじゃないか? モモンガさんあたりに頼めば……いや、駄目か。外道が過ぎる……)

 

 聞けばアルシェには幼い妹達が居るとかで、いきなり両親を亡くすのは良くないだろう。その妹達も記憶操作で……と思ったところでメコン川は、軽く頭を振った。

 

(だ~か~ら、なんでそう物騒な方向に考えが進むかね~……。試しで精神安定化アイテムを外してるんだが、人化してるのにこの有様とか冗談じゃないわ)

 

 いそいそとアイテムボックスに手を突っ込み、取り出した精神安定効果のある指輪をはめる。何となく頭が冷えたような気分になり、メコン川はホッと一息ついた。これで暫くは人の心を保てる。とはいえ、この状態が続くと異形種で居られないストレスが溜まって、発狂ゲージが上昇するのが困りものだ。発狂ゲージを下げるには、精神回復効果も含む安定系アイテムを装備するか、強化した<獅子のごとき心(ライオンズ・ハート)>をかける必要がある。

 

(ペストーニャがギルメンのかかりつけ医みたいになってて笑う。ああ、笑い事じゃないか……。一度、発狂しきって発散するのも良い手らしいけど、事例がブルー・プラネットさん一人ってだけじゃあなぁ~)

 

 円卓で、タブラが録画したブルー・プラネットの発狂模様を見せられたが、ああはなりたくないとメコン川は思うのだ。自分の心の奥底にある、恥ずかしい部分をさらけ出すなんて容認できない。

 

(タブラさんが、俺とベルさんにアノ映像を見せるって言ったときの、ブルー・プラネットさんの顔。一気に萎れたあの顔は気の毒だったな~……あんな顔、俺自身がすることがあってはいけないのだ。うん)

 

 この先、たっち・みーやウルベルトが合流しても、ブルプラ発狂映像は研修資料的に用いられるのだろう。その資料の一つには加わりたくないメコン川は、人の心を保ち続けることの決意を新たにするのだった。

 

「よお、シシマル~?」

 

「うん? どした? ヘッケラン」

 

 前の方からヘッケランが呼びかけてくるので、メコン川は注意を向けたが、ヘッケランからの質問は、最奥玄室の守護者はどんな人物か……というもの。

 メコン川は下顎を掴むと、目を閉じて考え込むような素振りをする。

 

「ん~……確か、ここで一番偉い人が出てくるはずだ」

 

「えっ!? じゃあ、一番強い人ってことか!?」

 

 ヘッケランの声が裏返った。見れば、イミーナやロバーデイクも驚きの表情をメコン川に向けている。

 

「ああ、いや、強いは強いんだけど、一番強い人ってのは他に居るんだ。この先に居るのは死の支配者(オーバーロード)って言って、エルダー・リッチなんかよりも上位の種族なんだが……」

 

 ヘッケラン達は、死の支配者(オーバーロード)が何なのかは良く知らないらしいが、エルダー・リッチよりも上と聞いて顔色を悪くする。話しながら片目を開けたメコン川は、ヘッケラン達の反応に気づいて手をヒラヒラ振った。

 

「ははっ。怖がるこたぁないさ。建御雷さんの時と同じで、設定時間を戦いきれば玄室クリアなんだと。その人は魔法詠唱者(マジックキャスター)だけど、かなりの戦闘巧者だから……まあ倒し切れはしないだろうけどな」

 

 そう言って説明を終えたところ、前方のヘッケラン達からは「うえ~、また体力勝負かよ~」とか「良い訓練になると思って頑張るしかないですね」や「建御雷って人みたく、矢が跳ね返されるの~? ……あれ、自信なくすのよね……。でも、ロバーが言ってるみたいに、怪我しない人目がけての弓の練習だと思えば……」といった声が聞こえてくる。練習になるのはナザリック側としても同じで、メコン川はニンマリと笑う。そしてアルシェにも目を向けたが……。

 

「私が頑張らないと……」

 

 などと思い詰めた表情で呟いている。

 

(重症だな。責任果たさないどころか害にしかならない親なんざ、見捨てて逃げたっていいのに。妹達とか連れてさぁ……)

 

 アルシェは第三位階の魔法詠唱者(マジックキャスター)であるから、親の借金のことさえなければ、普通に働いていけるはずだ。なのにアルシェは親を見捨てることなく、借金の返済で奔走している。見れば見るほど不憫で何とかしてやりたいが、短絡的な行動は悪手だと先程考えたばかりだ。

 

(後でモモンガさんに相談してみるかな……)

 

 先頭を行くイミーナが最奥玄室の扉に行きあたり、罠の有無を確認している。特に何も無いと判断したのか、しゃがんだままで脇に退き、ヘッケランとロバーデイクが扉に手を掛けた。自分の隣ではアルシェが緊張した様子で杖を握りしめている。

 

「ともかく、後での話だな……」

 

 今は割り当てられた役目を果たすことに集中しよう。気を取り直したメコン川は、フォーサイト共に最奥玄室へと入って行くのだった。

 




 職場の2年目は、前年度まで居たベテランが何人か異動で抜けてるので、忙しいのだ。

 というわけで、週一が難しくなってきております。
 ワーカー編が長くなってる感じですけど、あと3~4話分ぐらいですかね~。
 その後は予定どおり、パンドラが帝国に殴り込む感じです。
 ベル&メコのイベントも消化できてる感じだし……ああ、アルシェの家庭事情も何とかしなくちゃ。
 本作は現状終盤戦のような感じでして、100話前後で終われれば良いかな……と思っています。後は、たまに外伝的な話を書ければ良いかな……と。年内で完結に持ち込めるかな~……。台風さんの機嫌にも寄るんでしょうけど。
 終わり方は、余程の路線変更がなければ『俺達の冒険は続く!』で行こうと思います。我がギルド『アインズ・ウール・ゴウン』は永遠に不滅! な感じで……。

 ……カルカ、出せるのかな……。

 今回の捏造ポイントは、タブラさんとブルー・プラネットさんが合わさると、木の皮で上等な巻物が作れること。人皮巻物作って揉め事起こすぐらいなら、多少の御都合主義には目を瞑ろうと思いました。作中設定で、達成難易度が激ムズになってるようにしましたので、バランスが取れてる……と良いんですけど。

 モモンガ&パンドラ。パンドラが下手打つのもどうなのか……と思ったんですけど、ホンワカした感じで書けたかな……と思います。
 ちなみに修正前は、アルベドに胸ぐらを掴まれるんじゃなくて、一撃のもとに殴り倒してました。ただ、モモンガさんの作製NPCに暴行を加えるのは遠慮するんじゃないかと思ったので、本文のような展開になっています。
 
<誤字報告>

D.D.D.さん、ARlAさん、トマス二世さん、戦人さん

毎度ありがとうございます
執筆は一太郎でやってるんですけど、ドラッグコピーで転写すると、ところどころ段落最初の一マスあけが、半角スペース×2になって、結果的に一文字分詰まるとか……。
投稿前にチェックはやってるんですけど、その頃には疲れ目で涙ボロボロ出てることが多くて何ともはやなのです。
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