オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第77話

「ようこそ! ワーカーチームの諸君! いや、フォーサイトの諸君と言った方が良いかな? くっくっくっ」

 

 ヘッケラン達が第二階層の最奥玄室に踏み込むと、待ち構えていた守護者が語りかけてくる。漆黒の、それでいて時々紫っぽい艶を見せるローブ。黄金仕立てのようであり、七つの蛇が色とりどりの宝玉をくわえている長大な杖。何より目を引くのは、ローブから覗く顔だ。骸骨。そう、白骨の顔が確認でき、暗い眼窩には赤い光が揺らめいている。装備の豪華さから言っても、ただのエルダー・リッチではあり得ない。何より、その骸骨は人語を操っている。 

 

「おお、怖ぇえ……。普通のダンジョン探索で出会したら、絶対に逃げてるわ」

 

 冗談めかして言うヘッケランだが、目が笑っていないし、強がりで浮かべた笑みも口の端がひくついている。その彼に、モーニングスターを握り部分と中程で保持したロバーデイクが声をかけた。

 

「ヘッケラン? 何か返事した方が良いんじゃないですか? 骸骨の人、黙ったままこっちを見てますけど?」

 

「そ、そうか。そうだな……」

 

 戸惑い気味に答えたヘッケランであるが、顔は「嫌だなぁ」と言っている。

 

(こういう交渉はリーダーの仕事だってのは解ってるけど、嫌なもんは嫌なんだよ。相手はアンデッドだぜ? あーっ! (うち)に帰りてーっ! 実家に戻るのは真っ平御免だけどさーっ!)

 

 ここへ来るまでに収得した数々のアイテム。これだけで一財産だ。売れば一生遊んで暮らせるだろうし、武具等を有効活用すれば、今までに踏破してきたダンジョンや高難易度の依頼程度は、鼻歌交じりで踏破や遂行が可能である。この辺で降参して帰りたいのだが、こんな好条件でレアアイテムが入手できる機会など、この先死ぬまで無いと断言できる。

 

「あ、あ~っ。ブジンタケミカヅチさんから聞いてるかもだけど、俺がフォーサイトのリーダー、ヘッケラン・ターマイトだ……です。そちらの、お名前を伺っても?」

 

 慣れない言葉遣いで下出に出ると、奥でたたずむ骸骨……モモンガは一つ頷いた。

 

「我が名はアインズ・ウール・ゴウン。このナザリック地下大墳墓では、支配者の取り纏め役となっている。短い間だが、よろしくな? 本来、ナザリックに無断で踏み込んだ者には死より重い罰をくれてやるところなのだが……今回は事情が事情だ。これまでと同じように最後まで楽しんで行って欲しい。この第二階層最奥玄室では、基本的に私と……こちら……」

 

 モモンガがローブを翻すと、その背後から向かって右に軍服姿の人物が登場する。ヘッケラン達向きに、しかし、横にスライドするように出てきた彼は……顔が真っ白で目と口に当たる部分に黒い穴が開いている。彼もまた人間ではない。

 

(わたくし)、パンドラズ・アクターと申します。アインズ様の護衛兼、随行者として参上しました」

 

 軍帽のひさしを摘まみ、優雅に一礼するのを頷きながら見たモモンガは、ヘッケラン達に向き直った。

 

「基本的なルールは、第一階層での建御雷さんと同じだ。後で取り出す砂時計で、十分間戦い続ければ玄室クリアとなる。ダラッとした戦いぶりだと、私の判断で失格となるから、注意するように。後は~……先程、ヘビーマッシャーの相手をしたときは魔法詠唱者(マジックキャスター)として対応したが、フォーサイトの諸君には他のことも試させて貰うとしよう。パンドラズ・アクターにも戦って貰うが……うん?」

 

 いつの間にかアルシェが手を挙げている。

 

「ふむ。何か質問でも?」

 

 落ち着き払って問いかけたモモンガだが、内心では「何を聞かれるのか?」と落ち着かない。ギルメン達からは対応力が高いと言われているものの、モモンガ自身は、自分は充分な準備があってこそ自信ある行動ができると思っているからだ。

 

「あなたは今、自分が魔法詠唱者(マジックキャスター)だと言った。でも、不可解。あなたからは何の魔力も感じられない……。だから、あなたは魔法詠唱者(マジックキャスター)ではない」

 

「なるほど、探知系魔法でも使っているのかな?」

 

 そうモモンガは推察したが、実は違う。アルシェは生まれながらの異能(タレント)所有者であり、その能力は相手の魔法力を探知し、魔力系魔法詠唱者に限って何位階まで使用可能か判別できるというものだ。そう言ったわけで特に魔法を使用しているわけではない。しかし、モモンガは勘違いに気がつかないままで話を進めた。

 

「魔力が感じられないというのはあれだな、私が探知阻害のアイテムを装備しているからだ。それを外せば私のMP……魔力を感じて貰えるが……」

 

 言いつつ掌を返して指先を上に向け、骨の指から指輪を外そうとした……ところで、モモンガの動きが止まる。この時、モモンガの脳裏をよぎったのは、以前、探知阻害の指輪を外す場に居合わせた人間達の反応だ。

 

(ブレインやクレマンティーヌにロンデス、あとカジットか。気絶したり引っ繰り返ったり地獄絵図だったような……。こんな未成年の女の子に耐えられるのか?)

 

 モモンガは少し上にズラしていた指輪から手を離すと、アルシェを見る。

 

「言っておくが、私の本来の魔力は膨大だ。そこのヘッケラン殿よりも強いと思われる剣士でも、圧力に負けて引っ繰り返るほどでな。アルシェ殿が、どのように魔力を感じているかは知らないが、余程気をつけないと失神する恐れがある。それでも見てみるかね?」

 

 先程、アルシェはモモンガの魔力が感知できないことで魔法詠唱者(マジックキャスター)ではないと指摘しただけで、魔力を見たいと言ったわけではない。嫌なら嫌で、探知阻害の指輪を取ることは止めよう。そう思っての問いかけだったが、アルシェは瞳に決意を宿して頷いた。  

 

「かまわない。ここ……ナザリック地下大墳墓は、想像を超えて強い存在が多い。中でも魔法詠唱者(マジックキャスター)が、どれほどの高みに居るのか。それを知ることは私にとって有益であり重要」

 

「そ、そうか。そこまでの覚悟ならば……。メコ……シシマルさんも止めてくれればいいのに……」

 

 最後にボソッと呟き、フォーサイトの後ろで居るメコン川を見たが、メコン川は口の端を持ち上げて肩をすくめるのみだ。モモンガはハアと溜息をつき、パンドラズ・アクターに指示を出す。

 

「彼女にアレを……」

 

「承知しました! アインズ様っ!」

 

 元気よく答えたパンドラスアクターは、アイテムボックスから一つのアイテムを取り出すと、ツカツカと軍靴を鳴らしながらアルシェの前まで移動した。ヘッケランとロバーデイクがアルシェの前に立とうとしたが、「一品お渡しするだけですので」とパンドラズ・アクターに言われて引き下がっている。

 

「ぅお嬢さん! こちらを、どうぞ!」

 

 どうぞ! の発音が「だぅぞ!」になっており、後方で見守るモモンガは、右手を顔面に当てた。

 

(頼むから、もうちょっと普通に!)

 

「あの……これは?」

 

 パンドラズ・アクターが手渡したのは、焦げ茶色の革袋。何の魔法付与もされていない、極普通の革袋である。アルシェの怪訝そうな視線を受けたパンドラズ・アクターは、優雅に一礼すると次のように述べた。

 

「エチケット袋でございます! 気分が悪くなったときに、遠っ慮無く! ご使用ください!」

 

 そう言い切ると、パンドラズ・アクターはモモンガの元へと戻って行く。アルシェはパンドラズ・アクターの背を見送っていたが、一瞬、革袋に視線を落とした後、モモンガを見直した。

 

「……準備はできた。どうぞ……」

 

「う、うむ……。では……」

 

 どうして進んでキツい思いをしようとするのか。モモンガにはさっぱり理解できないが、アルシェには退く気がないらしい。モモンガは先の展開を想像して気鬱になりながらも、相手方に指輪を抜く瞬間が視認できるよう手を挙げ、上に向けて指輪を引き抜いた。

 瞬間、モモンガを基点とした圧倒的な魔力オーラが発生する。渦巻く魔力圧の突風は、本来なら魔力感知できない戦士職であろうとも無視することのできない魔王的白骨パワーとなって、フォーサイトに対し無慈悲に襲いかかった。

 

「うぐほぉ!?」

 

「なん、ですか! こ、ぐはぁ!?」

 

 ヘッケランとロバーデイクが踏ん張ろうとしたものの、吹き飛ばされるように後方へ転倒した。いち早く危険を察知したイミーナは、立っていた位置でうずくまったが、それでも耐えきれなくなり這いつくばるような体勢になっている。そしてアルシェ……アルシェは吐いていた。その場で膝を突き、口を広げた革袋に顔を突っ込んで嘔吐(えず)いている。

 

「やはりこうなったか……」 

 

 以前、タブラから聞いた話によると、モモンガ達は精神安定系アイテムで抑え込んでいる異形種としての(さが)が、探知阻害系アイテムを外すことで表面化するらしい。ただ、そこには発狂ゲージを抑え込んでいる部分も上乗せされているとのことで、それが魔力感知力の鈍い戦士職……例えばブレインや、クレマンティーヌであっても影響を及ぼすとのこと。これを聞いた時、モモンガは気になることがあってタブラに質問している。

 

「タブラさん。もしも人化しないとか出来ないとかで、精神が異形種側に振り切ってたらどうでしょうね? 人の心は無くなるでしょうが、発狂とかしないわけですけど……」

 

 その状況設定の場合、探知阻害系アイテムを外したときの影響は今と違うのかどうか……。

 最古図書館のシアタールームで行った質問であるが、タブラはタコに似た頭部を傾けながら、目の前の死の支配者(オーバーロード)に向けて口を開いた。

 

「興味深い考察だね。その場合だと……。……溜まったストレス……じゃなかった発狂ゲージとかが存在しないので……。モモンガさんも私に聞く前に推測したんだろうけど、魔法詠唱者(マジックキャスター)以外には、大してオーラ的な圧力はかからないんじゃないかな? ちょっとは気圧されるかもですけどね~」

 

 じゃあ、そっちの方が良かったかもしれない。そうモモンガは思った。探知阻害系アイテム……例えば指輪を外すたびに、人間が引っ繰り返る。今のように顔を見て吐かれたりもする。正直言って良い気分ではないのだ。それをそのまま口に出したところ、タブラは苦笑しながら長い人差し指を交差する。いわゆるバッテンのマークだ。

 

「駄目です。ダメダメですよ、モモンガさん。ユグドラシルで見かけた野良の死の支配者(オーバーロード)になりたいならともかく、その考えでは、モモンガさんがモモンガさんではなくなってしまいます。NPC達は喜ぶかも知れませんけどね。あ、でも、モモンガさんなら、デイバーノックみたいになるのかな? いや、エルダー・リッチとは違うから、アンデッドとしての格の差が、そのまま比例して違いに差が出たかも? 人間に対しての当たりがデイバーノックよりキツくなったかもしれないなぁ……。これは本当の魔王降臨になるかもですね! ロールではなくて!」

 

「嬉しそうに言わないでくださいよぅ……」

 

 やはり身も心も化け物になるのか……と、身震いしたことをモモンガは思い出す。

 

(身も心も異形種化したら、後で合流するたっちさんに討伐されたりして……。う~、やだやだ。現状維持が一番だな~。もっと楽に、人としての精神を維持できる方法があれば良いんだけど。そうそう都合良くはいかないか……)

 

 モモンガは石畳上でへたり込んでいるフォーサイトを見た。

 

「で? どうするね? すぐに始めるか? 少し休憩した方が……」

 

 フォーサイトからの回答は「少し息を整えさせて欲しい」だった。無論、モモンガは鷹揚に頷いている。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 暫しの休憩時間を得たフォーサイトは、モモンガ達とは反対側……玄室の入口付近で車座になっていた。

 

「何なんだ、あのとんでもない迫力と言うかプレッシャーは!? ここの偉いさんって、みんな、あんな感じなのかぁ!?」

 

「第一階層で対戦したブジンタケミカヅチさんでしたか、あの方も探知阻害のアイテムというのを使ってたんですかね?」

 

 引きつった顔で言うヘッケランに対し、ゲンナリ顔のロバーデイクが頷きながら言っている。肩越しにヘッケランが振り返ると、後方……出口側で立つモモンガが、パンドラズ・アクターと何か話しているのが見えた。

 

「んアインズ様! 休憩時間中に何かお飲み物でも!」

 

「今、人化とか出来ないだろうが。もうちょっと大人しくしててくれ」

 

 という会話がなされているが、距離があるのでヘッケラン達には聞こえていない。

 振り返るのを止めたヘッケランは、チームメンバーを見回す。

 

「どうする? ブジンタケミカヅチさん……の時から解ってたことだが、思ってた以上にヤバいところに乗り込んだみたいだ……。このまま続ける……で良いんだよな?」

 

 この問いにロバーデイクとイミーナが頷いた。アルシェはと言うと、アインズから手渡されたポーションが効いたのか、すっかり元どおりとなって頷いている。

 

「アルシェ。気分はどうだ? 大丈夫か? あと、あのアインズって人は、どんな感じの魔力だった?」

 

「多少、口の中が酸っぱいけど問題ない。それより、あのアインズという人……アンデッドは、完全に人を超えた魔力の持ち主。位階が上に突き抜けすぎてて、何が何だか……。ロバーの前で言うのも何だけど、神が目の前に居たらあんな感じだと思う。本当の戦いなら、勝つなんて絶対無理。逃げるのも無理。誠心誠意謝って、勘弁して貰うのが最良」

 

 それもアインズ側で殺すことを前提としていたら、もうどうにもならないとアルシェは言う。だが……。

 

「これは本当の戦いじゃない。相手にとっては演習で、私達はお客様待遇で相手されてる。一生に一度あるかないかの幸運。諦めるなんて、もっての外。貰える物は全部、ありがたく貰って帰る」

 

「だな……。みんなも、いいよな?」

 

 ヘッと笑いヘッケランが確認すると、ロバーデイクもイミーナも、口の端で笑いながら頷く。

 

「よっしゃ!」

 

 両膝を音高く叩き、ヘッケランは立ち上がった。他のメンバーも次々に立ち上がってリーダーと共にモモンガに向き直っている。

 

「ゴウンの大将! 待たせたな! おっ(ぱじ)めようじゃないの!」

 

「うむ! 私の方でも色々試させて貰う。十分間、楽しもうではないか!」

 

 両手を広げて高く掲げた。そのようなポーズをモモンガが取り……その脇でパンドラズ・アクターがいそいそと大砂時計を引っ繰り返している。

 

「完了しました! んアインズ様っ!」

 

「う、うむ……」 

 

 敬礼するパンドラズ・アクターに若干引きながら、モモンガは咳払いをし、戦闘開始を告げるのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 モモンガとパンドラズ・アクター、対するフォーサイトの戦いは、当初は遠距離戦で開始された。イミーナが、モモンガの周囲を回るように駆けながら矢を放ち、ヘッケランとロバーデイクの後方からアルシェが雷撃を撃ち出すという具合だ。そして、それをモモンガが微動だにせず、鼻歌交じりで跳ね返していく。特殊技能(スキル)の上位物理無効化Ⅲと上位魔法無効化Ⅲが威力を発揮している形だが、ヘッケラン達は何らかの魔法障壁だと思っている様子だ。

 

「え~と……派手派手しく<火球(ファイヤーボール)>……だと死んじゃうから、威力減衰版で……いや、こっちの方が面白いかな? <鈍足(スロー)> !」

 

 対象の移動速度を低下させる魔法。何の強化もしていない普通の魔法発動だが、それでも対象……イミーナの魔法耐性を貫通した。

 

「うっ! うぎぎぎぎっ! 上手く動けない~~~~っ!」

 

 右手に矢、左手に弓を持ったイミーナが、歯を食いしばりながら走ろうとしている。だが、それは関節の錆びた人形が無理矢理に動いているようにしか見えない。

 

「おい、イミーナ! 大丈夫かっ!?」

 

「これ……が、大丈夫そうに、見えるっての~~~っ!?」

 

 傍目には巫山戯ているようにしか見えないイミーナ。その彼女に、ヘッケランが呼びかけているが、モモンガは構わず次のターゲットを選んでいた。

 

「ん~……よし、君に決めた! <支配(ドミネート)>!」

 

 これは精神支配の魔法である。全種族対象であり、魔法使用者を非常に親しい友人と認識させる。たとえ友人相手であっても、言えないと思ってることは言えないが……。

 

「ま、それとて物の言い様なんだよな~」

 

 モモンガは、対象者となったロバーデイクに向けて言い放つ。

 

「友よ! ここ最近で! 絶対に知られて困るほどじゃないけど、知られると恥ずかしいことを述べてくれ!」

 

「何を……はっ!? ロバーッ!?」

 

 イミーナを見ていたヘッケランが、両手に一本ずつの剣を構えてロバーデイクを振り返った。ロバーデイクは既に魔法の直撃を受けた後だったが、モーニングスターを降ろし、空いた方の手で気恥ずかしそうに頭を掻いてみせる。

 

「いや~実は、今回の仕事で出発する前日にですね。奮発して高価な菓子を買ったんですよ。ええ、一人で食べましたとも。ヘッケラン達であろうとも分けるわけにはいきません。ああ~、美味しかったな~……」

 

 玄室内を微妙な沈黙が支配した。

 

「あ~……それが、その、知られて恥ずかしいことなのかね? お菓子?」

 

「当然です! 心の友よ! 孤児院に寄附するお金も大事ですが、私は甘い物に目が……はっ!?」

 

 何か悪いことをしている気分になったモモンガが魔法の効果を解除すると、ロバーデイクは我に返ってモーニングスターを取り落とす。そして両手で顔を覆った。

 

「くううっ! 完全な個人的かつ秘密の楽しみだったのに……」

 

「ああ、そう……」

 

 気が抜けた風のヘッケランであったが、一転、視線を鋭くしてモモンガを睨みつける。

 

「ゴウンの旦那よ。よくも、俺のチームメンバー達を辱めてくれたな?」

 

「あたしも!? あたしも辱められた内に入ってるのっ!?」

 

 離れた位置で変なポーズのイミーナが叫んでいるが、取り敢えずは無視し、ヘッケランは右手の剣をモモンガに突き付けた。

 

「だが、このヘッケラン・ターマイトに小細工は通用しねぇ! この剣で叩きに叩いて、頭蓋骨に切れ目を並べてやるぜ!」

 

「えっ!? 無理だろうけど、なにそれ怖い!」

 

 ノリで後ずさるモモンガ。その彼に向け、ヘッケランが駆け出した。

 

「武技ぃっ! 双剣斬撃!」

 

 本来の本気攻撃であれば、武技の同時発動の限界を向上させる『限界突破』を併用するのだが、使用後の肉体的損耗が大きく、今回は双剣斬撃のみだ。別に命がかかっているわけではないし、無理をしてモモンガを倒す必要がないことからきた判断である。急速に間合いを詰めたヘッケランが、左右の剣を振り上げ、同時に斬りつけた。しかし、それらの剣はモモンガではなく、間に割って入った者により食い止められている。

 

「なにっ!? って、あんた……ニシキ!?」

 

 ヘッケランが目を丸くして驚き、自分の剣を止めた者の名を口に出した。彼の剣を、刃渡り五〇センチほどの苦無二本で止めているのは、グリンガム率いるヘビーマッシャーに同行しているはずのニシキ……弐式炎雷だったからだ。

 

「ん違います。私はパンドラズ・アクターですよ」 

 

 言いつつ弐式に擬態したパンドラ(以下、『パニキ』という。)は、苦無を振るってヘッケランを押しのける。ヘッケランが押された勢いで飛び退るのを見たパニキは、追撃することなく苦無二本を左手で持つと、軍服着用時のように胸に右手を当てて一礼した。

 

「弐式え……ごほん、弐式様の許可は頂いておりますので、貴方様のお相手はこの姿で務めさせていただきます。失礼ながら、力の差は大きいかと……」

 

 顔を上げながら締めくくると、ヘッケランの額に血管が浮く。ヘッケランは概ね笑顔でありながら、まったく笑っていない目でパニキを睨みつけた。

 

「言ってくれるじゃねぇか! 言葉には気をつけないと……怪我するぜ!」

 

 ヘッケランは、今度こそ武技『限界突破』を併用して『双剣斬撃』を繰り出す。これはグリンガムでも受け止めることは困難で、パルパトラであってもいなすのは難しい。しかし、パニキはまったく慌てることなく二本の苦無を放り出した。

 

「ケガ? 毛がどうしたのでしょうか? 頭髪に気をつけるべきは、そちらの方では?」

 

 素早く懐に手を突っ込んだパニキは、迫るヘッケランに向けて跳躍する。そして二人は交差……それまでの立ち位置を入れ替えるようにして互いに背を向け合った。ヘッケランは双剣を振り切った姿勢で、そしてパニキは……右手に櫛、左手に整髪スプレーを持った状態だ。

 

「う私なりにイメージチェンジを模索してみましたが! いかがでしょうか!」

 

 言いつつ振り返るパニキに対し、ヘッケランは何を言われているのか理解できない。しかし、ここでモモンガが唖然となって呟いた。

 

「よ、横分け……ヘッケラン!?」

 

「横分け? 分けるって何を?」

 

 モモンガに問いかけながら、ヘッケランは頭部に違和感を覚えている。そして右の剣を鞘に戻すと頭に手をやるのだが……そこでは短く刈り込まれただけだった頭髪が、見事な七三分けになっていたのだ。フォーサイトメンバーでは、ロバーデイクがそれなりの横分けヘアであるが、今のヘッケランは整髪料も使用しているため、カッチカチの七三分けである。

 

「な、なんじゃこりゃああああああっ!?」

 

「至高の御方(うぉんかた)の前に出るには、身だしなみを整えることが重要です。少し目に余りましたので、僭越ながら手入れさせて頂きました!」

 

 誇らしげに言うパニキは、チラチラとモモンガを見ている。褒めて欲しいのだろう。モモンガは口を開きかけたが、声を発する前にフォーサイトを見てみた。

 

「きゃひ!? あははははっ!? 何それヘッケラン! 超ウケるんだけどぉ!?」

 

「ぶふっ!? にあ、似合ってますよ! ヘッケ……げほっ! ぶはっ!」

 

「……ぷっ」

 

 これがフォーサイトのメンバーによる感想だ。モモンガとしては「うあ~、ひどいな~」ぐらいにしか思わなかったが、ヘッケランとしては堪ったものではない。左手に剣を持ったまま、右の拳を振り上げる。

 

「笑ってんじゃねぇぞ、イミーナぁ! あと、ロバーも同じ横分けのくせして、むせるほど笑うな! あ、アルシェまで!? ち、ちくしょーっ……って、髪型を崩せねぇ!?」

 

 手櫛で七三分けをグシャグシャにしようとしたヘッケランは驚愕した。髪型が崩れない……いや、正確には崩れてもすぐ七三分けに戻ってしまう。頭髪に手指を差したまま、ヘッケランはパニキに対し目を剥いた。当然と言うべきか、額には血管が浮き出ている。この時、パニキはモモンガの傍らに戻っており、腕組みをしながら状況を観察していたが、ヘッケランの視線を受けて頷いた。

 

「特殊な整髪料を使用しました! 自動修復効果がありますので、あと半日はそのままでございまっす!」

 

「おい、弐式さんの姿で敬礼するんじゃない」

 

 言い終わりにパニキが敬礼したので、モモンガが注意するのだが、ヘッケランはそれどころではない。今、パニキは何と言ったのか。

 

(自動修復効果? 効果が続いてる間は、グシャグシャにしても元に戻るのか? 半日も? いっそのこと剃っちまうか? いや、いくら何でも、つるっぱげってのは……。じゃあ、半日このままで……)

 

 考える内に進退窮まったヘッケランは、身体を震わせて叫ぶ。

 

「なんて事してくれたんだーっ!」

 

 目尻には涙が浮かんでおり、彼の怒り具合が見て取れた。モモンガは、パニキと手を取り合って「キャー、怖~い!」と反応するが、おどけてるのが見え見えなため、ヘッケランの怒りは更に燃えあがる。

 

「二人とも、俺と同じ髪型にしてやらぁーっ!」

 

「俺達、髪とかないんですけど!?」

 

 パニキ……パンドラはともかく、モモンガの場合は人化すると頭髪が存在するのだが、そこまで説明する気はない。かくしてフォーサイトでは一人、ヘッケランのみがヒートアップすることとなる。もっとも、怒ったところで、モモンガ達には何一つ通用しないのだが……。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「はい! 時間終了どぅぇっす!」

 

 軍服姿のパンドラズ・アクターが宣言し、戦闘が終了する。

 フォーサイトは時間一杯闘い抜き、先に通過したヘビーマッシャーと同様、第三階層への通過権を得た。勿論、最奥玄室の突破報酬付きだ。なお、ヘッケランの七三分けについては、あまりに気の毒だと思ったモモンガがパンドラズ・アクターに言いつけ、元に戻させている。

 

「ああ、俺の本当の髪型だ! ……ひどい目に遭ったぜ……」 

 

「はっはっはっ。悪乗りして済まなかったな。では、第二階層、最奥玄室の特別報酬を受け取るが良い」

 

 ふて腐れているヘッケランに、モモンガは二振りの剣を差し出した。これは、見た目こそヘッケラン所有の双剣に似ているが、装飾の華美さで勝り、性能面では遙かに上を行く。まず、材質は総オリハルコン製。更に建御雷の手で硬化処理がなされ、ある程度の再生能力を持つ。

 

「後は、魔力付与もしてあるという話だから、幽霊(ゴースト)死霊(レイス)なんかにも通用する」

 

「うおおおおおおっ!? 本当に貰っちまっていいのかぁ!?」

 

 さっきまでの不機嫌が一瞬で消し飛んだようで、ヘッケランが瞳をキラキラさせながら確認してくる。

 

「うむ。お持ち帰りで、どうぞ……だ。また会う機会があれば、使い心地などを聞かせてくれると、建御雷さんが喜ぶだろう」

 

 それぐらいなら、お安い御用だ……とヘッケランは言うが、受け取った剣二本を片手で持ちニヤリと笑った。

 

「これなら……ゴウンの大将が、またあの鎧姿になっても勝てそうかな?」

 

 先程の対戦時、モモンガは「テストだ」と言って、漆黒の鎧姿……戦士の姿になっている。それは魔法で作り出した鎧と巨大な双大剣を装備し、<完璧なる戦士(パーフェクト・ウォリアー)>の魔法で自身を戦士化したものだ。格下相手の戦いであるから、憧れのたっち・みーの様に戦いたかったというのが、この戦闘スタイルを取った理由である。レベルそのままで戦士化できると言っても、戦士系の特殊技能(スキル)が生えてくるわけではないので、戦い方は非常に素人臭い。また魔法の使用も、MP回復もできない有様となるのだが、これが結構、フォーサイトとは良い勝負になっていた。モモンガとしては「今度、建御雷さんに戦い方を教わろうかな」と御満悦だったが、ヘッケランから勝てそうかどうか聞かれると、鼻で笑いそうになるのを抑え込むのに苦労する。

 

「いやいや、無理だとも。その剣では、先程作り出した鎧に傷を付けることすらできないな。いや、頑張ればヘコませるぐらいは出来るのかな? 今より、もっと強くなるのが前提だが……」

 

「ちぇっ、残念!」

 

 そう言って肩をすくめたヘッケランは、フォーサイトメンバーに第三階層へ降りることを告げようとした。が、ここでメコン川がモモンガに声をかけている。

 

「ちょっと待った。モ……アインズさん」

 

 メコン川は頭の横の高さで挙手し、眼だけでフォーサイトの面々を見ると、口の端を持ち上げてからモモンガに言った。

 

「相談事があるんだ。そこのアルシェって子のことでな……」

 




仕事明けで、手直しと誤字チェックしました。
目が~……。あと、眠気もヤバい……キーボード叩いてると、何度か意識喪失……。

今回、モモンガさんの担当分の二戦目としてフォーサイトと戦って貰いました。真面目に戦うと原作より早く終わっちゃうので、本文のような感じでまとめています。

今更ですが、探知阻害の指輪を外すと戦士職も引っ繰り返るのはおかしい気がしましたので、一応の理由付けをしています。すべては発狂ゲージが悪いのだ~。

今回、せっかく同じ場所にパンドラズ・アクターが居るので、アルシェにはエチケット袋を渡しています。

ヘッケランを、横分け……七三分けにしてみました。ロバーデイクも横分け風ですが、あちらが風にそよぐ感じなのに対し、ヘッケランは塗り塗りのカチカチになっています。ちなみに、この展開の発想の元になったのは、横分け銀蝿。

戦闘後に少し触れている程度ですが、原作における戦士モモンをちょっとだけ出してみました。全話を書いてた頃は、これを主軸に書こうと思ってたのですが、どういうわけか本文のような感じに……。

第一階層での建御雷さんは、三チーム中のヘビーマッシャーとの戦闘シーンを書きましたが、基本的に最奥玄室では全チームを相手に戦っています。今回の第二階層ではヘビーマッシャーとフォーサイトの出番がありましたが、第三階層最奥玄室では……竜狩りの出番となるでしょう。乞う御期待。

<誤字報告>
zzzzさん、よんてさん、null_gtsさん、D.D.D.さん、佐藤東沙さん、戦人戦人さん

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