オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第78話

「ああ、すみません。俺です。え? 俺じゃ解らない? ……もう、見てるくせに。アインズですよ。ちょっとメコ……シシマルさんと話が……え? 見てたから知ってる? ぐぬぬ……。そ、そんなわけで、話が終わるまで通路操作で竜狩りをグルグル迂回させて下さい。その分、木箱にサービス? そこは、お任せで……はい、それじゃ……」

 

 ナザリック地下大墳墓、第二階層の最奥玄室。

 獣王メコン川(人化中)とフォーサイトの面々に背を向けて<伝言(メッセージ)>をしていたモモンガは、クルッとメコン川に向き直った。

 

「タブラさん達の了解を得ましたので、少しぐらいなら話をする時間がありますよ」

 

「今の<伝言(メッセージ)>の相手、タブラさんか……。まあ、いいや……。フォーサイトの皆も、こっちに来な……」

 

 モモンガの<伝言(メッセージ)>応答を聞いて、タブラがモモンガをからかっていたのが解ったのだろう、メコン川は一瞬呆れたような顔を担ったが、すぐに気を取り直し、本題に入る。

 ……。

 

「ほう? そちらのお嬢さんの親御さんが、借金を……」

 

 モモンガが視線を向けると、アルシェは怯えたようにメコン川の後ろに隠れた。

 

(人化か!? 人化してるかどうかの差なのか!?)

 

 若い娘さんに怖がられている。

 モモンガは密かに傷ついたが、そんな彼を、メコン川の隣りで居るロバーデイクとヘッケランが囁き合いながら見ていた。

 

(「なんか、骸骨の人……さっきまでと雰囲気が違くね?」)

 

(「あれが素なんですかね~」)

 

 もちろん、異形種化して聴力が強化されたモモンガには聞こえているのだが、咳払いでヘッケラン達を黙らせてから会話を再開した。

 

「まあ、茶が……かぜっちさん達が世話になったので、相談に乗るのは(やぶさ)かじゃないですけど。金貨数百枚とかは(ナザリックの見得とか面子にかけて)出せるでしょうが……問題の解決にはなりませんよね?」

 

 今ある借金をチャラにしたところで、アルシェの両親が無駄づかいすれば新たな借金ができあがる。ナザリック側も、そう何度も助けてやるほどお人好しではない。メコン川がアルシェを気にかけているのであれば、以後はメコン川が私費を投じて……という事になるが、それだと終わりがないのだ。

 そこはメコン川も理解ができているらしく、肩をすくめてみせる。であるならモモンガとしても一安心なのだが、肝心のアルシェは……と見ると、メコン川の左脇から顔を覗かせていたのが、今では真っ赤になって俯いていた。大きな声では言えない家庭事情、それを会って間もない人物同士が相談しているのが、余程恥ずかしいのだろう。

 

「わかってますって。……そこで相談なんですけど。なんか上手い考えとか……ないですかね?」

 

「ぶっちゃけましたね~。ん~……」

 

 モモンガは下顎を掴むと考え出した。

 現金支給が悪手だから、親の方を何とかする……意識改革などが適切だろうか。しかし、教育者でもないモモンガには、上手い手など思いつかない。

 

(やまいこさんの本職は教師だって話だから、彼女の合流を待って丸投げ……いやいや、半魔巨人(ネフィリム)が鉄拳制裁する姿しか思い浮かばないぞ!? ええい、ここは魔法か? 魔法なのか? さっきロバーデイクに使った<支配(ドミネート)>は……ああ、支配されてる間の記憶が残っちゃうか。あれで意識が改善するってものでもないし……。ならば……)

 

 モモンガはピッと右の人差し指を立ててみせる。

 

「<記憶操作(コントロール・アムネジア)>で記憶を弄って、真人間にしちゃうと言うのは?」

 

「モ……アインズさん。例えばだけどさ、『ペロさんの記憶を<記憶操作(コントロール・アムネジア)>で弄って、真人間にしちゃう』とか言い出す奴が居たとしたら……どう思います?」 

 

「ぐぬ……」

 

 どれほど自分が非道な発言をしたのか思い知り、モモンガは呻いた。見ればフォーサイトの面々からの視線が厳しいものになっている。言っただけでこれでは、実行したら完全に敵対することだろう。フォーサイト程度のワーカーが敵に回ったところで、蟻のように踏みつぶせるが、それでは茶釜姉弟の面目が丸つぶれなのだ。

 

「魔法が駄目となると、俺達みたいな異形種が手出しするのも本来は良くないんでしょうねぇ。人の手で何とかできそうな方法限定か~。だったら、俺に相談することじゃないと思うんだけどなぁ……。……他で、御両親を更生させる方法はと言うと~……。……おっ?」

 

 左手でレプリカのスタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを弄び、再び下顎を掴んだモモンガであるが、手持ちのカードを吟味し直したところで一つ思い当たる事があった。

 

「シシマルさん? アルシェさんの御両親が主に借金している相手というのは、帝国の闇金でしたっけ?」

 

「や、闇金……。まあ、そうですね。ヤクザの(しのぎ)みたいなものなのかなぁ」

 

「それだ!」

 

 モモンガがメコン川を指差すと、呟いていたメコン川とフォーサイトの視線がモモンガに集まる。

 

「ヤクザにはヤクザですよ! 八本指から圧力をかけさせて黙らせちゃいましょう!」

 

「おっ? おおっ!!」

 

 それは名案だと、メコン川が表情を明るくした。帝国側の闇金組織のバックが、どれほどの規模なのかは不明である。しかし、王国側の八本指とて相当なものだし、もしも戦力的に不足しているなら、ナザリック側から兵を出しても良い。これならアルシェの両親が闇金の餌食になることもないだろう。

 

「そりゃあいい。名案だよ、アインズさん。けど、その場合でも御両親の悪い癖が心配だな……」

 

 メコン川の反応を見て、フォーサイトの面々も顔を見合わせる。

 

「シシマルの言うとおりだ。あの八本指を顎で使えるのはたまげたけど……闇金が手を出さなくなったとして、アルシェの親父さん達が有り金で無駄づかいしたら……。それで、あっと言う間にゼニ無しだぜ? 余所で金借りるかもしれねぇし……」

 

「やはり私が、神の教えを拳に乗せて説法しましょうか?」

 

 やや過激な対処法をフォーサイトの男性陣が話し合うが、これに対してイミーナが口を開きかけたところで、モモンガが続く事案を披露した。

 

「フフフッ。それも対処可能だ。まず、八本指から帝国闇金に睨みを利かせて、アルシェの御両親から手を引かせるし、金を貸さないようにさせる。続いて、八本指でアルシェの両親を引き取り、働いて食べていけるように『研修』させるのだ。まあ借金分ぐらい……は厳しいだろうから、八本指視点でマシな感じになるまで働いて貰うかな。堅気の仕事でな……」

 

 犯罪組織だからと言って、収入源は違法行為ばかりではない。表向きの真っ当な商業活動もしているのだ。そこでアルシェの両親を働かせ、性根を入れ替えて貰うという寸法である。モモンガは、八本指の警備部門……六腕に顔が利くヘロヘロと建御雷に<伝言(メッセージ)>で連絡をしたが、両者とも賛同してくれた。後は、アルシェの決断次第なのだが……。

 

「アルシェ嬢。そんなところで……どうかな?」

 

 モモンガが確認すると、アルシェは不安そうに目を伏せる。

 

「王国の八本指と言えば、帝国でも噂に聞いた大犯罪組織。そんなところに父や母が……」

 

 その呟きを聞いて他のフォーサイトメンバーは表情を暗くするが、モモンガは首を傾げながらアルシェに語りかけた。

 

「では、現状維持かね? 帝国の闇金については、八本指経由でアルシェ嬢の御両親に手を出させないことは可能だし、叩き潰すのはもっと簡単だろう。だが、そのままだと現状維持は確定だ。御両親は別の金貸しから金を借りるだろうし、借金生活は再開される。今回のダンジョン・アタックで入手した品を売って金に換える手もあるだろうが、借金生活が再開されるまでの時間が延びるだけだ。言っておくが私達は、そう何度も手を貸したりはしないぞ? 今が最大にして最後の機会だと、私は思うのだがね?」

 

 言うだけ言ってモモンガが口を閉ざすと、玄室内を沈黙が支配する。そして数分が経過し、杖を固く握りしめたアルシェがシシマルを見た。

 

「ん? 俺か? 俺はアインズさんの提案が、最良の一手じゃないかと思うね。厳しく接してくれるところに放り込んで、少しは現実を知って貰うのがいいんじゃないか? あと、世渡りについても勉強して貰うといい。『研修』はヤクザ組織だって話だけど、そこら辺は上手くやるさ。なあ? アインズさん?」

 

「うむ。最低限、怪我はさせな……まあ、厳しめのボディタッチはあるかもしれんが、そこはポーションを惜しまず治療することを約束しよう」

 

 そんな説明で女の子が安心すると思ってるのかよ……というメコン川の視線を敢えて無視し、モモンガが言い終える。対するアルシェは、数秒ほど視線を泳がせてからモモンガに歩み寄って見上げた。そして杖を握りしめながら言う。

 

「……了解した。父と母をお願いします……」

 

 この瞬間、アルシェ・イーブ・リイル・フルトの両親の運命は決定した。真人間となって働き、収入を得て、度を超えた無駄づかいはせずに親として子を導く存在になるのだ。ただし、そこに行き着くまでの間、二人は八本指支配下の飲食店や運送業者などで、馬車馬のように働くこととなる。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 円卓。現時点では、出番が終了した武人建御雷が戻って来ており、タブラ・スマラグディナ、ヘロヘロ、ブルー・プラネット、ベルリバーと、五人のギルメンが待機中だ。(しもべ)としてはアルベド、ルプスレギナ等が居て、それぞれの創造主の後ろ、あるいは割り当て席の後ろで立って居る。

 

「あの女の子の親ってのは……屑だな。それも純粋培養の夢見がちな屑だ」

 

 建御雷が苛立ちを隠さずに吐き捨てると、背後のコキュートスが「マッタクデス!」と憤りを見せた。ナザリックの(しもべ)の多くは、外部の者を慮るようなことをせず、創造主が怒ったから自分も怒るというだけの者が多い。ただ、コキュートスの場合は、武人として創造されているだけあって、非道な行為は気にくわない様子だ。もちろん、そこには建御雷の怒りも大いに影響しているのだろうが。

 

「ともかく、上手くいきそうで何よりじゃないですかぁ。八本指には……俺から、ゼロ達に言って投げときますかね。モモンガさんやメコン川さんと相談した後で……ですけど~」

 

 建御雷を宥めにかかるヘロヘロだが、一瞬言い淀んだのは「八本指にはデミウルゴスから……」と言いかけたからである。

 

(デミウルゴスに丸投げしたら、どんなえげつない事するか解ったもんじゃないですしね~。ゼロ達には、成功報酬で何かマジックアイテムでも出しますかね)

 

 ゼロには、魔法付与したオリハルコンのメリケンサックといった具合で、それぞれの得意とする武具で上質な物を渡せば良いだろう。確か私室の屑ドロップ品の収納に、それらしい物があったはずで……と考えていたヘロヘロは、タブラがある一点をジィッと見ていることに気がついた。視線の先にあるのは、ギルド長……モモンガの席で、その両脇の離れた場所にアルベドとルプスレギナが立って居る。二人とも遠隔視の鏡に映るモモンガを見ているのだが、ルプスレギナは上目遣いで物欲しそうに、そしてアルベドは腕組みしながら据わった目で舌打ちなどしている。

 

「うわあ……」

 

 ヘロヘロは察した。

 モモンガの現在の随行者は、パンドラズ・アクター。話し合った上でモモンガが決定したことなのだが、アルベド達にしてみるとモモンガと共に行動できないのが口惜しいのだろう。

 

(いっそのこと、あの二人も一緒に連れて行けば良かったんじゃないですかねぇ。ああ、それだと、すぐに対戦が終わるか……。悪くすると、ただ見ているだけの人が出ちゃうのか……)

 

 モモンガがアルベドと組み、ワーカーを相手に遊んでる様子。それを壁際で傍観するルプスレギナ……あるいは、その逆。想像しただけで気の毒になるというか居たたまれない。

 

(一方で、パンドラがナザリックに放置されてるのを思うと、それはそれで気の毒ですしね~。今回ばかりは、パンドラに良い目を見させたい……のかな~?)

 

 異形種化し、古き漆黒の粘体(エルダー・ブラック・ウーズ)の姿になっているヘロヘロは、ギルメン席の上でクルリと背後に向き直った。向き直った先にはメイド服姿のソリュシャン・イプシロンが居て、急に向き直ったヘロヘロに驚いた様子であったが、すぐに微笑んでいる。

 

「ヘロヘロ様? 何か御用でしょうか?」

 

「……いえ、何と言うか……。ソリュシャン、少し私の頭を撫でて貰えます? あ、酸は切ってますので」

 

「承知しました。それでは……」

 

 ソリュシャンは一瞬、恐れ多いと躊躇したが、右手を伸ばしてヘロヘロの頭頂部を撫でた。

 

「ああ~、癒されますね~。やはり創造したNPCと、創造主は仲良くあるべきなんですよ~」

 

「?」

 

 感極まっているヘロヘロの言葉に、ソリュシャンは少し首を傾げたが、それでも嬉しそうにヘロヘロを撫で続けている。周囲から見ると、「何をイチャイチャしてるの?」という光景だが、ヘロヘロは気にしなかった。

 

「……ヘロヘロさんは置いておくとして。この後で、モモンガさんが竜狩りの相手をしたら、全チームが第二階層を突破。残るは第三階層ですか……」

 

 ジト目でヘロヘロを見ていたブルー・プラネットが言う。これにタブラとベルリバーが反応した。

 

「第三階層か~……第三階層は、木箱の中身が更にグレードアップしてるんでしたっけ? タブラさん?」

 

「消耗品である試作品の巻物が多めだけど、そこに魔法補助アイテムが加わるね。ネタアイテムとかも含まれるんだけど……。ま、それより……気になるのは最奥玄室の二人かな~。きっと無事じゃ済まない……いやいや、後で酷いことになるかも?」

 

 出来れば関わりたくないと言ったタブラの口調に、アルベドが「どうかなさいまして?」と問いかけるも、タブラは力なく首を横に振る。

 

「こっちの話さ。え~と、ベルリバーさん? さっきまでのチーム同行中だけど、他のワーカーチームの状況は……」

 

 ベルリバーに対して言いながら、タブラは四基並ぶ遠隔視の鏡の……向かって右端で、アルベドと共に立つデミウルゴスを見た。

 

「デミウルゴスから報告が行ってるんだったかな?」

 

「え? ああ……その都度、<伝言(メッセージ)>で報告がありましたね……って、ああ違うな……そっちの話か……」

 

 先程、ブルー・プラネットが第三階層の話を持ち出したので、ベルリバーは木箱報酬の取得に関する話だと思っていたらしい。しかし、すぐにタブラの言いたいことを察して遠隔視の鏡の……左端の一基を見た。その遠隔視の鏡には、第三階層の最奥玄室が映し出されている。そこで入口から最も離れた場所……玄室の奥で待機している者達こそ、今回のダンジョン・アタックにおける最後の守護者なのだ。すなわち、爆撃の翼王ペロロンチーノと、鮮血の戦乙女ことシャルティア・ブラッドフォールンである。

 映像上のペロロンチーノは、暇を持て余しているのか腰を下ろして胡座をかいており、その中にシャルティアを座らせてキャッキャウフフしている。脳天気にイチャついてる光景だ。それを見たタブラを始めとした円卓のギルメン達は、溜息を禁じ得ない。

 

「ヘビーマッシャーのアレとか、フォーサイトがエロトラップに引っかかった話……。ベルリバーさんが知ってたんだから、当然、茶釜さんの耳にも入ってるんだよな?」

 

 誰に言うでもなく建御雷が呟くと、ギルメン達の気は更に重くなった。ヘビーマッシャーのメンバーで、男性が増毛罠の直撃を股間に受けたのは確かにマズい。だが、女性であるアルシェやイミーナを含むフォーサイトが、脱衣トラップを受けて全裸にされた件。これは、ヘビーマッシャーを数段上回るほどにマズいのだ。『あ~、ペロロンチーノさん。死んだな~』とは、その脱衣トラップが発動した直後、ブルー・プラネットが言った台詞だが、タブラ達にしてみれば、そうなる以外の未来が想像できない。

 

「フォローに回ります? ペロロンチーノさんの……」

 

「無理でしょ?」

 

 ブルー・プラネットの怖ず怖ずとした問いに、ベルリバーが答えた。他のギルメンも、ベルリバーと同じ考えである。ペロロンチーノは大事な友人だが、彼に非がある状況で、怒り心頭に発した茶釜の前に立つ勇気は誰も持ち合わせていないのだ。

 

「うん? ……はい。タブラですが?」

 

 タブラがこめかみに指を当てて応答する。どうやら<伝言(メッセージ)>らしいが、「はい、そうですね、はい。それは……皆との相談次第ですけど、わかりました。いいえ」という受け答えの後に、<伝言(メッセージ)>は打ち切られた。と同時に大きな溜息が聞こえ、タブラが肩を落とす。

 

「タブラさん。誰からだったんです?」

 

 何の気なしにヘロヘロが聞くと、タブラは一言「茶釜さん……」とだけ答えた。瞬間、他のギルメンが腰を浮かせたり、身動(みじろ)ぎするなどの反応を示す。

 

「な、内容を聞いても大丈夫ですか?」

 

「要望があっただけだね」

 

 ベルリバーに対してタブラは答え、会話内容を説明した。

 茶釜は第三階層について、通路変更でワーカーチームの進行速度を調整し、最奥玄室への到達は……自分が同行する竜狩りを最後にするよう要望してきたのだ。

 

「それに対して、私は『皆と相談してみないと』と答えたわけだね。で、茶釜さんの要望について、何か反対意見は?」

 

 発言する者は居ない。続いてタブラはモモンガにも伝言(メッセージ)で確認を取ったが、「茶釜さんの、よろしいように」という返事があったのみだ。

 

「モモンガさんも、あまり口出しはしたくない……か。これはペロロンチーノさん、完全に詰んだね。前にやらかしたときは、弐式さんから手裏剣の的にされてたけど……それより(ひど)いことになるかな~」

 

「なあ、タブラさん。竜狩りの第三階層最奥玄室入りを最後に回すのはいいとして、さっきの茶釜さん相手の<伝言(メッセージ)>を『いいえ』で締めてたよな? 何か、茶釜さんの言ったことに反対したのか?」

 

 建御雷が聞くと、タブラは「ああ~、あれですか」と呟く。円卓を見回したところ他のギルメンも興味があるようで、タブラは肩をすくめて次のように説明した。 

 

「最後に茶釜さんが言ったんだよ。『タブラさん、弟のこと庇い立てする?』ってね。皆さんなら、どう返事したかな?」

 

 

◇◇◇◇

 

 

 状況は刻一刻と悪くなっている。

 いや、ワーカーチームに対する報酬木箱のトラップについて、エロ要素を盛り込んだ時点で、最悪の結末へのルートは確定していたのだろう。そのことに気がついていないのか、あるいは無意識に思考を逸らせているのか……ペロロンチーノは元気一杯で、ヘビーマッシャーとフォーサイトの相手を済ませていた。ルールは建御雷が考案した『十分戦い続ける』というものを採用。男だけだったヘビーマッシャーの相手はつまらなかったが、女性が二人居るフォーサイトはペロロンチーノにとって格好の獲物だった。とはいえ、世話になった相手に婦女暴行を働くわけにはいかない。例え、自分が『冒険者の弓使い、ペロン』だと解らないよう、異形種化して居たとしても……だ。

 

「はい! じゃあ、魔力回復速度と打撃と、第六位階までの魔法効果が二割増しになる魔法の杖! 次は、<雷撃(ライトニング)>を最大五十発まで撃てる弓ね。ああ、弓だけど、撃った<雷撃(ライトニング)>は一発あたり三十分で回復するから。それと、一度に撃てるのは一発だよ~」

 

 他にも用意してあったのだが、女性メンバー対象の品を渡したのは、「女の子が喜ぶ顔ってイイじゃないですか!」というペロロンチーノの主張による。もっとも、ヘッケランはモモンガから貰った双剣で満足していたし、ロバーデイクの場合は、木箱アイテムで、野球バットサイズから二メートル程までに伸縮可能なメイス(総オリハルコン製で魔法付与増し増し)を入手していたため、特に文句は無い。ちなみに、この最奥玄室で渡したアイテム二つのうち、弓に気合いが入っているのは弓がペロロンチーノの好みの武具だからだ。

 そうして二つのワーカーチームがダンジョン・アタックを終えたが、彼らは最後のチームがアタックを終えるまで、ナザリック外部の受付棟で待つこととなる。通常、他のチームを待つという行為は、対象チームが全滅して戻って来ない可能性があるため余り行われない。しかし、今回は無事帰還することが確定しているため、ヘッケランもグリンガムも竜狩りが戻るのを待つことにしていた。

 そうして少しばかりの時間が経過し、ペロロンチーノにとっては面白くないことに、男性ばかりのワーカーチーム……竜狩りが最後の挑戦者として玄室に入ってくる。

 

「……フォーサイトが最後の方が良かったな~……」

 

 ボソリとペロロンチーノが文句を言うが、この侵入順は竜狩りに同行するギルメン、ぶくぶく茶釜が事前の根回しによって通路操作させた結果なのだ。それはペロロンチーノにとっては知らないことであり、おめでたいことに竜狩りが入ってきても普通に構えている。

 この光景を、円卓に戻ったモモンガは「うあ~……」と呻きながら見ていた。

 

「ヘビーマッシャーやフォーサイトで、ペロロンチーノさんの設定した木箱罠が炸裂しましたけど。やっぱりデッドエンドが見え……あれ? 茶釜さん、侵入順を指定までした割には怒ってないのかな? 笑顔だし……」

 

 そう、竜狩りのリーダーパルパトラ・オグリオンの隣を歩く茶釜は、そのユリ・アルファに似た(正確にはユリが茶釜をモデルにしている)少しきつめの顔を笑顔にしている。機嫌良さそうと言うよりは、愛想良く微笑んでいる感じの笑みなのだが……。

 

「モモンガさん。交際相手の顔色は上手く読まなくちゃ駄目ですよ」

 

 建御雷が忠告し、デミウルゴスに指示を出す。

 

「デミウルゴス。茶釜さんの顔をアップにしてくれ。そうそう、それでもって左のこめかみあたりに視点を移動だ」

 

 建御雷が指示したとおり、遠隔視の鏡には茶釜の左こめかみがアップで映し出された。これによりモモンガが「あっ……」という声を発している。何故なら、茶釜のこめかみにはプックリと血管が浮き上がっていたのだから。

 

「お、怒ってるね~……」

 

 ベルリバーが呟くが、その声は微かに震えている。

 この後、茶釜がどのような行動に出るのか、モモンガ達には想像もつかなかった。ただ、ペロロンチーノが酷い目に遭うのは間違いないと皆が確信している。ひょっとしたらユグドラシルでもない、この転移後世界で初めてのギルメン蘇生があるかもしれない。建御雷が手を合わせて「なんまんだぶ、なんまんだぶ」と念仏を唱える中、映像上のペロロンチーノは、本日三度目となる名乗りを始めるのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「ようこそ! 竜狩りの皆さん。俺の名はペロロンチーノ。そして、隣に居る絶世の美少女は俺の忠実なる僕、シャルティア・ブラッドフォールン!」

 

 光の粒を振りまくエフェクト。派手派手しい黄金鎧を身にまとった鳥人……ペロロンチーノが名乗りを上げ、紹介されたシャルティアが優雅に一礼する。

 

「シャルティア・ブラッドフォールンでありんす。短い時間でありんすが、どうぞよろしくでありんすえ」

 

 シャルティアがフワリと微笑み、竜狩り側ではパルパトラ以外の者が「おおっ!」と声をあげた。シャルティアの美貌に見とれたわけだが、ペロロンチーノは満足気に何度も頷いている。

 

(いや~、ユグドラシルの時もそうだったけど、シャルティアが注目を浴びるのは気持ちいいな~)

 

 ナザリック地下大墳墓で、最初に敵対者を迎え撃つのはシャルティアが受け持つ第三層までだ。強者が来た場合はよく突破されたが、多くのプレイヤーは低レベルであっても物見遊山で訪れたため、シャルティアのプレイヤー撃破率は高い。ある意味で、一番知名度の高いナザリックNPCだと言える。

 

(攻略掲示板とかでも、シャルティアの美少女ぶりは話題になったもんな~。ワーカーの最後の相手が男ばかりってのはアレだけど。やっぱり良いもんだよ、うんうん! ……うん?) 

 

 男ばかりのワーカーチーム竜狩り。その後ろにいるのは、付き添いのギルメン……姉の茶釜なのだが、その彼女がニコニコしていることに、ペロロンチーノはようやく気がついた。

 

(姉ちゃん、なんか凄く機嫌良さそ……げっ……)

 

 鳥人ゆえの優れた視力が、こめかみに浮いた血管を視認。ここでようやく姉が激怒していることに気がついたのだが、ずっと黙っていた茶釜が口を開く。

 

「どうしたのかしら? ペロロンチーノさん? 始める前の説明が中断しているようだけど?」

 

 茶釜は人化中で、ペロロンチーノは異形種化中だ。つまり、冒険者かぜっちと弟ペロンではなく、冒険者かぜっちとナザリックのペロロンチーノということでこの玄室に居るわけだから、「さん」付けは当然である。だが、今の姉による「さん」付けは、ペロロンチーノに背骨へ氷柱が差し込まれたが如き寒気を感じさせた。

 

(姉ちゃん、怒ってる! 凄い怒ってる! なんでだ!? 俺、何かした!?) 

 

 内心の独白なので、茶釜は勿論、円卓で観戦しているモモンガ達にも聞こえなかったが、もし聞こえていたら皆が口を揃えて言ったことだろう。「いや、なんでもなにも……」と。

 普段、シモの冗談やエロ関係で姉の怒りを買っているのに、そこに気づかない鈍さと脳天気さは如何にもペロロンチーノらしいと言えた。ただ、今回の茶釜の怒りはユグドラシル時代の比ではない。何故なら、ちょっとでもエロを表面に出すと垢バンされていたユグドラシル時代と違って、転移後世界ではストッパー的なものがない。やろうと思えば何処まででもやれるわけで、結果として今回は、ヘビーマッシャーの男性一人と、女性二人を含むフォーサイト全員に被害が出ているのだ。

 

「え、ええと……。だ、第三階層の最奥玄室でも、十分ルールは同じで……」

 

 しどろもどろになりながら説明していくペロロンチーノの態度に、竜狩りのメンバーが顔を見合わせているが、今は何とかイベントを終えなければならない。姉が何に対して怒っているのかは不明だとしても、ここで逃げたりしたらギルメン全員の顔に泥を塗ることになる。何としても成し遂げなければならなかった。

 

「ぺ、ペロロンチーノ様?」

 

「だ、大丈夫。大丈夫だから……」

 

 不安げに見上げてくるシャルティアの頭を撫でながら、ペロロンチーノは言う。が、それは自分に言い聞かせている言葉でもあるのだ。かくして、一通りの説明を終えたペロロンチーノはシャルティアと共に竜狩りと対戦することになるが、それは終了後に茶釜から叱られるという確定的予想を抱きながらの『作業』となった。気持ち的には、ずっと竜狩りと戦い続けたいものの、制限時間は十分間と定められている。

 

(誰だよ~っ。十分なんて制限時間を決めたのは~っ!)

 

 主武器である弓……ゲイ・ボウで、『ウルトラ手加減攻撃』をしながら、涙目のペロロンチーノは内心で絶叫した。だが、最奥玄室での時間制限を始めたのは、第一階層で最奥玄室配置だった武人建御雷であり、そのことはモモンガを始めとしたギルメン全員が知っている。無論、ペロロンチーノもだ。よって今の内心絶叫は、事情や経緯を知った上での泣き言となるが、これをもし口に出していたら茶釜はこう言ったことだろう。

 

「あ? なに? あんた、建御雷さんが悪いって言うの? 関係……ないわよねぇ?」

 

 さすがに、そこは想像できるため、ペロロンチーノは歯を……もとい、嘴を強く噛み合わせながら戦い続けた。

 そして、十分が経過。

 口から魂が抜け出そうな状態でありながらも、何とか竜狩りを送り出すことに成功する。

 今回、第三階層で最奥と定められた玄室の出口は、ナザリック外部の受付棟の玄関先に転移地点が定められており、今頃、竜狩りは受付棟内で待っている他チームと合流していることだろう。

 

「さて……と」

 

 竜狩りに続いて転移設定が成された扉をくぐろうとした茶釜が、ペロロンチーノを振り返る。その顔は笑顔のままだ。

 

「ワーカー隊が帰ったら、円卓に来なさい。モモンガさん達が居る前で、たっぷりと言いたいこと……あるんだからね?」

 

 言い出しは朗らかだった声と口調が、モモンガの名前が出たあたりからドスの効いた重苦しいものへと変貌していく。シャルティアが怯え、ペロロンチーノは仮面下の顔が汗まみれになるのを感じていた。

 

「それじゃ~ね~」

 

 口調を明るい物に戻した茶釜が、肩越しにヒラヒラ手を振って転移していく。 

 これで、玄室にはペロロンチーノとシャルティアが残るのみとなったが、ペロロンチーノはゲイ・ボウを持った左手と、空いた方の右手をダランと下げて脱力した。

 

「逃げ……逃げないと……。しゃ、シャルティア! <転移門(ゲート)>! <転移門(ゲート)>で外に出られるっ!?」

 

 普段は逃亡するところまでしないペロロンチーノだが、今回ばかりは話が別だ。このまま円卓に行ったら、何をされるか解ったものではない。しかし、数秒をおいて、シャルティアは申し訳なさそうに首を横に振った。

 

「だ、駄目でありんす。ナザリック全体の警戒レベルが引き上げられていて、外部への転移が禁じられているようでありんして……」

 

「対処済みか……。遅かった……」

 

 ペロロンチーノはゲイ・ボウを取り落とし、その場で膝を突く。いや、走って逃げたらどうだろうか。そういう考えが一瞬浮上したが、すぐに霧散している。今のナザリックには、探索役として優秀すぎる弐式炎雷が居るのだ。そこにモモンガやタブラが加わることを思うと、逃げたところでアッと言う間に捕縛されるのは間違いない。

 

『クククッ。知らなかったのか? ナザリックから逃げる事など不可能だ』

 

 魔王ロールしているモモンガの台詞を脳内幻聴で聞きながら、ペロロンチーノは人化した。これからシャルティアを伴って円卓……ではなく、ナザリック外部の受付棟へ向かうのだ。後で説教が待ってるから落ち込んでいるとは言え、見送りをすっぽかしたのでは姉の説教が酷くなるだろう。

 

「あ~……何が、いけなかったんだろうな~」

 

 先程、内心で「俺、何かした!?」と言った時とは違い、ペロロンチーノは声に出しながら呟いた。これは円卓で見ていたモモンガ達にも聞こえており、「うわ、気がついてないんだ!?」と引かれていたが、絶望の底に居るペロロンチーノには知る由もないことであった。

 




GW中に、もう一話書けましたので投稿します。

アルシェの両親に関しては、あんな感じですかね。
せっかく八本指がナザリック参加になっているので、ああいう流れにしてみました。原作で帝国の闇組織ってのは、どういう感じなのか良くわからないんですけど。八本指よりは規模が大きくないと考えました。王国と違って国のトップがジルですしね~。ヤクザ組織なんて大きくなりようがないかも。


ペロロンさんにはもっと派手な活躍シーンを用意したかったのですが、茶釜さんが見てる前なので無理でした。
次回はアンケートの結果どおり唐揚げかな~……。

<誤字報告>
ARlAさん、化蛇さん、zzzzさん

毎度ありがとうございます

今回、自分的には「創造」を「想像」と打ち間違えてるところを何カ所か発見したんですけど、他にもあるんだろうな~……。
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