スンスンと、ペロロンチーノが鼻をすすっている。
大釜に満たされた油で煮られる、あるいは揚げられる……というVR体験をした彼だが、半時間ほど第三階層の玄室で転がり回った後、茶釜から「もう見飽きた。てゆうか、見苦しい」という理由で解放され現在に至っていた。
ここは円卓。
ワーカー隊が帰ったので、今後の行動予定を話し合うのだが、居るのはギルメンだけでNPC達は一人も入室していない。ペロロンチーノが落ち着くまで待つとの判断だったが、それもようやく治まってきたようで、モモンガが声をかけた。
「え~……ペロロンチーノさんも落ち着いてきたようですので、始めますか」
「モモンガさん! ひどい! 俺の心はバリケードなんですよ!? もっと優しく……うひっ!?」
反射的に抗議したペロロンチーノは、すぐさま姉の視線によって黙らされることとなる。一連の会話を聞いていたギルメンらは、「なにがバリケードだよ。デリケートの間違い……。……ペロロンさんの場合はバリケードで合ってるのかもな」と思った。だが、茶釜が不機嫌そうにしているので口を出すことはない。とばっちりは御免だからだ。
「……で、では、デミウルゴスとアルベドを呼びます。他に呼ぶべき僕は居ましたっけ?」
モモンガが確認したところ、各ギルメンの創造NPCを呼ぶことになった。当然、パンドラズ・アクターも呼ぶのだが、もはや人前に出すだけで恥ずかしい……と言うほどではない。これまで幾度もギルメン達の居る前でパンドラズ・アクターを立たせているため、モモンガは慣れてきていたのだ。
(それでもオーバー・アクションは控えて欲しいけどな。ドイツ語に関しては……まあいいか。言語の運用が恥ずかしいだなんて、ドイツの人に失礼だよ。第一、格好良いのは事実なんだし!)
この転移後世界にドイツ人が居るかはさておき、暫く待つとNPC達が集合した。各NPCは創造主の後ろに移動して立つが、シャルティアのみはギルメン席で座るペロロンチーノ……の膝上で鎮座し、ぬいぐるみのように頭を撫でられている。
「ああ~、シャルティアはいいな~。癒やされるな~」
「お喜びいただき、妾も無上の幸せでありんすえ~。でへへへ……」
だらしない笑みだ。しかし、シャルティアほどの美少女となると、それもまた美しく感じられる。本当なら、アウラに自慢げな視線など飛ばして挑発でもしただろうが、喧嘩友達たるアウラ当人は、ペロロンチーノの隣、ぶくぶく茶釜の席の後ろで弟のマーレと共に立っていた。位置と角度的に視線を合わせようがなく、シャルティアの方では挑発ができないし、アウラ側ではシャルティアのドヤ顔を見ずに済んでいる。
(平和が何よりだな~)
どうせ、会議が終わって解散するとなれば、シャルティアとアウラが顔を合わせる機会があって、そこで必ず喧嘩になるのだ。今ぐらいは騒がしくなくても良いではないか。そんな風にモモンガが考えていると、例によって司会役を任されたデミウルゴスが、一礼をしてから現状の報告を始めた。
「今回のワーカー隊につきましては、様々なデータが得られました。殺傷力の高いトラップなどは一部を除き未使用でしたが、転移後世界における『程度』の把握が大きく前進しましたので、今後の防衛費の節約が見込めます」
「うむ。ヘロヘロさんが王都でやってる武器防具店が順調とは言え、出費は控えたいところだ。実に良い報告だ」
モモンガは頷きながらヘロヘロを見る。ヘロヘロは椅子の背もたれ越しにソリュシャンに肩揉みさせて「ほへ~、いいですね~」などと言っていた。だが、今のヘロヘロは異形種化した状態……
(気分がいい……ってことなのか? 若い女性に肩を揉ませるか~……いい身分だな~……)
そう思うモモンガとて『至高の御方』だ。一言命じれば、一般メイドが肩ぐらい揉んでくれるだろうし、そもそも交際中のアルベドやルプスレギナが居る。恋人に命じて肩を揉ませる趣味はモモンガにはないが、お願いすればやってくれることは間違いない。
(そう、命じるのではない。お願いだ! あ、でも、茶釜さんは……怖いから対象外で……)
『なによ、モモちゃん。私に肩揉んで欲しいんじゃないの? ……ねえ?』
言い進めるにつれて声が重くなっていく。そんな恐ろしい幻聴を、頭を振ることで打ち消したモモンガは、ヘロヘロが運営する『ヘイグ武器防具店』について考えてみた。
ヘロヘロが冒険者ヘイグの名義で運営している店、それがヘイグ武器防具店である。店長はヘロヘロ、店長代理がセバス・チャンで、従業員としてはツアレニーニャ・ベイロンや現地雇用の女性等が居た。店頭に出しているのは、良くて総オリハルコン製の武具で、ほとんどは鉄製の武具だ。今のところはユグドラシル時代にドロップした屑アイテムメインで品出ししているが、それも数が減ったら鍛冶長に頼んで、そこそこの武具を作っても良いだろう。デミウルゴスも解っているのか、続いてヘイグ武器防具店の販売実績を報告した。モモンガが言ったように順調で、武具類はよく売れているらしいし、王都での評判も上々とのことだ。更に言えば、オマケで設置した薬品コーナー……ポーション類も売れている。
「……リ・エスティーゼ王国の上層部については、六大貴族すべての取り込みに成功しております。しかしながら、以前の報告でもあったように、中には害にしかならない無能者も居るようです。なので時機を見て、その者らを親戚筋の使える者とすげ替える予定でございます。そして六大貴族の一人、レエブン侯ですが……」
デミウルゴスが報告を続けた。
レエブン侯……エリアス・ブラント・デイル・レエブンは、第二王子の命令によってナザリックを訪れたことがある。現状、モモンガ達が異形だとは知らされていないが、ナザリックの力は思い知ったらしく、デミウルゴスによると、エリアスが協力的なので思いの外事が早く進んだとのことだ。
「つい先程、使いの者が書簡を届けてきました。つまらない魔法の細工などは無いようですが、実は開封せずとも内容については把握できています」
王国の王城には数体の
「バハルス帝国との年間行事……じゃなかった、収穫期に行われる戦いに、力を貸して欲しい……かあ」
デミウルゴスからの報告を聞いたブルー・プラネットが呟くと、モモンガ達は「ふむ」とか「ふ~ん」とか、「こっちの世界は割と美形が多いですけど、帝国に金髪でナイスバディーの女性とかいますかね~?」とか「それより、美形のロリが居るかどうかですよ!」と様々な反応を示している。ちなみに最後に発言したのは、ヘロヘロと……いつの間にか立ち直っていたペロロンチーノだ。
以前、スレイン法国の番外席次と弐式炎雷が戦った際、ペロロンチーノは弐式所有の捕縛効果がある縄アイテムに対し、緊縛モデルとして『亀甲縛り』をスロット入りさせていたことがある。その仕込み自体はユグドラシルでの現役時代に行ったものだが、おかげで弐式は番外席次から変態呼ばわりされることとなった。事後、ペロロンチーノに対して折檻(逆さ吊りで手裏剣の的)が執り行われ、折檻後のペロロンチーノは先程と同じく鼻をすすっていたものだ。だが、そのときも立ち直りは早かった。
「黙れ、愚弟。せめて一日か二日は、しおらしくできないのか? ……で? モモンガさんは、どう思ってるの?」
調子を取り戻した弟を茶釜が黙らせている。そのまま質問してきたので、モモンガは首を傾げた。
「ふむ……」
モモンガが把握するところでは、ブルー・プラネットが言ったとおり、王国の東に存在するバハルス帝国が、毎年の収穫時期に侵攻してくるというものだ。転移後世界では人間なんてモンスターや亜人の餌なんだから、人類国家同士で仲良くすれば良いのに。そうモモンガは思うが、それでも争ってしまうのが『人間』なのだろうとも思っている。
「攻めてくる帝国は職業軍人が多くて、王国側は数こそ多いものの農民とかの徴兵。時期が収穫期だから、勝敗にかかわらず王国の方が疲弊するって話でしたっけね。ああ、その時期に農民で死者多数ともなれば、なおのこと王国の国力が弱まる……か」
「王国、詰んでるな……」
呟いたのはベルリバーだが、その口調には力が感じられた。モモンガ達と合流し、今のナザリックが王国を支配するべく活動中であると知らされている。ならば、その王国にちょっかいを出す帝国は、ナザリックにとっての敵だ。リスク回避が信条のベルリバーであったが、向こうから手を出してくるというのであれば、戦うことに躊躇いはない。そして、その思いはモモンガ達、他のギルメンも同じなのだ。
「ベルリバーさんが言ったとおり、王国は良くない状況です。けれど、俺達は王国を支配したいわけですから、味方になったり手助けしたりするのは
ギルメン達の多くが「そうだな、モモンガさんの言うとおりだ」と呟く。そんな中、モモンガはデミウルゴスに「何か旨みがあるんだろ?」と目線で促した。
「お察しのとおりでございます、アインズ様」
デミウルゴスが恭しく一礼する。
この年の帝国側からの侵攻、その迎撃戦に参戦して功績を挙げれば、ナザリック地下大墳墓の地権を認める……というものだ。同時に、六大貴族の一員……つまりは七番目の大貴族としての席を用意するとのこと。
おお! とギルメンから声が挙がるのだが、その中でも声が大きかった建御雷と弐式はすぐに顔を見合わせた。他のギルメンも同じだ。喜んだのは一瞬だけのことで、皆がモモンガに注目する。モモンガは歯茎どころかアゴ骨も剥き出しの骸骨顔で、口を二度ほど開閉し、正面、遠隔視の鏡の脇で立つデミウルゴスを見た。
「地権は元々欲していたものだから、めでたい話だ。これで胸を張って、我らの支配域だと主張できるわけだな。大貴族の地位については、将来的に支配者となる我らからすれば笑ってしまうものだが……。しかしな、転移後世界の現地感覚で言えば、大盤振る舞い過ぎではないか? 何かの罠か?」
一回戦っただけで、そこまでの地位を用意するというのは、話が美味しすぎて罠の存在を疑ってしまう。モモンガの質問は、ギルメン達の思いを見事に代弁したようで、皆が頷いていた。一方、質問された側のデミウルゴスは、左の人差し指でメガネ位置を直し、説明を行っている。
「六大貴族の反抗的な部分は、すでに支配下にあります。他の良識派に属する大貴族については、レエブン侯から根回しをさせ……私の方からほんの少し助力した上で……戦功の報酬としての貴族位授与は了承済みであります。何の問題もありません」
要するに、王国対帝国の『年間行事』にかこつけて、デミウルゴスがねじ込んだのだ。
「そ、そうなの? ……ゴホン……そうだったか。さすがはデミウルゴス、ナザリック随一の知恵者だ。ウルベルトさんも、この話を聞いたら大いに自慢することだろう。そうですよね? 皆さん?」
他のギルメンも巻き込もうと視線を巡らせると、ギルメン達は大きく頷いた。メコン川などは「あ~、言うねぇ。きっと言う。『どうです! 俺のデミウルゴスは凄いんですよ!』って感じでね」と、ウルベルトの口調を真似して言う。これを弐式やペロロンチーノから似てると褒められ、メコン川は口の端を持ち上げていた。
「い、いえ、その……そのような……」
少し頬を赤くして尻尾を振るデミウルゴスは、軽く咳払いしてからモモンガに向き直る。話題が脱線していたが、王国が帝国との戦いについて助力を求めている件について、どう判断するべきか。その決裁を求めているのだ。
「皆さん。デミウルゴスの働きによって、この転移後世界に出現したナザリック地下大墳墓の地権が、戦功次第で王国から承認されるようです。俺は、この話に乗るべき……と言いますか、いい感じのお膳立てができてますので、乗りたいと考えます。異議のある方は……」
誰も挙手しない。
これで王国への助力が決定した。
戦場で吹き荒れる一〇〇レベルプレイヤーの猛威。その結果、密かに監視を続けている竜の王が大いに慌てる事となるのだが、今のモモンガ達には知る由もない。
ともあれ、対帝国戦での王国への助力については話が終わった……かのように思えたが、ここでペロロンチーノが発言する。
「ところで、七番目の大貴族ということは、一人だけが対象ってことですよね? 誰がなるんです? その大貴族に?」
言い終えた瞬間、円卓が静まり返った。言ったペロロンチーノは、シャルティアをヌイグルミのように抱っこした状態で、「んっ? んっ?」と周囲を見回していたが、ギルメンやNPC達の視線が徐々にある一点へと向けられていく。
「えっ? ええっ!? お、俺ですか!?」
裏返った声で言い、モモンガが自分を指差すと……ギルメン達が頷いた。それも、ニンマリとした笑み付きでだ。
「たった一人、ギルメンから大貴族様を選ぶとなると、そりゃあギルド長……モモンガさんしか居ねぇってことよ」
「建やんに賛成! やっぱさ、うちで一番偉い人って言ったらギルド長なんだから、そういう面倒くさいことはお願いします!」
「本音が出てますよ、弐式さん……」
侍と忍者の会話を聞いて、忍者の方に睨みを利かせたモモンガであるが、やがて大きな溜息をついて肩を落とした。全員が賛成しているということは、反対しても無駄だ。金貨を使った投票でも負けるのは目に見えている。モモンガが本気で「嫌だ!」と言えば話は別だろうが、ここまで期待されている以上、ギルド長としては退くわけには行かない。
「わかりました! 皆さんが俺にって言うなら、自信はないですけど引き受けます。でも、フォローはして貰いますからね?」
ギルメンから異議は出ない。タブラが「それは当然だね。手伝えることは皆で手伝うよ」と発言し、これについても異議が出ない。
六大貴族ならぬ七大貴族の一人にモモンガがなることは、ほぼ確定だ。
「その帝国との戦いでヘマをしなければ……という事になりますけどね」
気を引き締めたかったか、あるいは単に不安なだけか、ブルー・プラネットが発言する。しかし、相手は人類国家のバハルス帝国だ。聞けば、使用可能な魔法位階は六位階までで、フールーダ・パラダインという人物が一人居るだけ。そんな相手と戦って負ける要素があるとは思えない。
「ふ~む、心配しすぎじゃないですか? 帝国の魔法は第六位階までですし、数だけは多い……と言うぐらいしか見るべき点がないですけどね~。いや、軍団運用に関しては王国よりマシなのかな? 研究するに値します……かね?」
そうヘロヘロが言うと、それも一理あるか……とモモンガは考えた。ここに居るギルメンなら、例えばモモンガやタブラにペロロンチーノ、遠距離からの広範囲攻撃に長けた者なら、一方的に帝国軍を殲滅できる。だが、大軍の運用に関しては、職業軍人である帝国軍に軍配が上がるのではないか。
(何しろ、こっちには職業軍人なんて居ないし。デミウルゴスは、要塞防衛とかは得意だろうけど……。ぷにっと萌えさんが居たら話は別なのかな……。でも、あの人はあの人でゲーマーに過ぎないし……過ぎないんだっけ?)
いずれにせよ、将来的に合流できるかもしれないが、今のところぷにっと萌えは居ない。
ぷにっと萌えに思いを馳せていたモモンガは、軽く頭を振ると提案した。
「助力するとなった以上、王国側から貰えるものは貰っておくべきですし……今回の戦争に乗っかって、得るものは得た方が良いと思います。デミウルゴスとパンドラズ・アクターに、王国と帝国軍の軍団運用について記録させましょう。それと、出陣するギルメンですが、ブルー・プラネットさんが言ったヘマをする可能性……。こちらも考慮して、ギルメンは複数人出します。基本的にはメイン火力の後衛と、それを守る前衛ですね」
モモンガの提案は概ね皆に受け入れられ、参戦メンバーが選出されることとなる。
前衛、武人建御雷(異形種化)、弐式炎雷(異形種化)、ぶくぶく茶釜(異形種化)。
後衛、モモンガ(異形種化)、ブルー・プラネット(異形種化)、ペロロンチーノ(異形種化)。
後は見栄えを重視して
モモンガに関しては基本的に『悟の仮面』着用で、仮面下では異形種化した状態だ。これだと第七位階までしか魔法を使えないが、いざとなったら『嫉妬する者達のマスク』に着け替えて全力戦闘を行う。残りのギルメンは、ナザリック防衛のために残ったり、予備兵力として控えておく予定だ。
「これだけ居たら、ユグドラシル時代の上位ギルドでも押しかけてこない限りは、大丈夫だと思うんですけど」
賛同が欲しいモモンガがタブラを見て言うと、タブラはタコに似た頭部をカクンと傾ける。
「そりゃあ大丈夫だろうね。明らかに、帝国だけを想定した布陣じゃないし。モモンガさん……他のプレイヤーへの宣伝も狙ってるでしょ? うちのギルドの人とか、よその人とか……」
「ええ、続いて説明しようと思ってたんです」
王国と帝国の戦いは、毎年の収穫時期に行われる……いわゆる年間行事だ。二国とその民草にとっては、毎度のことだが、ここでモモンガ達が王国に加勢したらどうだろう。派手に帝国軍を粉砕すれば、近隣諸国に轟く噂になるのではないか。
「まだ合流を果たしていないギルメンに、ナザリックの存在を知ってもらえる。その可能性が高まると思うんですよね」
実際、モモンガ達が冒険者活動をしている噂で、ベルリバーと獣王メコン川が釣られている。国家間の戦争で名を挙げれば、更に効果は高いはずだ。
「確かにそうだけど、デメリットっぽいこともあるわよねぇ? タブラさんがさっき言ったけど、余所のプレイヤーに知られる……だっけ?」
茶釜が椅子の両脇に立たせたアウラとマーレの頭を撫でながら、モモンガを見る。もっとも、今は異形種化しているため、ピンクの肉棒が頭頂部を傾けたようにしか見えないのだが……。
「……ええ、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の……ではなく、余所のプレイヤーの注目を浴びることになるでしょうね。居れば……の話ですが。俺は、そういう所在の不確かな余所のプレイヤーを釣り上げたいんですよ」
かつて存在したという八欲王や十三英雄。彼らはユグドラシル・プレイヤーである可能性が高い。そして現状、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルメン達が続々と集結しつつあるのだ。現時点、この転移後世界に余所のプレイヤーが居ない……とは言い切れない。
「俺は……俺達は王国を支配しようとしています。それはナザリック維持のためであるし……欲や見栄の部分もあるんだと思います。しかし、ユグドラシル時代の『アインズ・ウール・ゴウン』が悪の象徴であり、そのように偏見の目で見られることがあったとして……今のところは、他のプレイヤーに悪し様に言われることはないと思うんです。暴虐や悪逆で迷惑かけてるわけじゃないですからね。……ちょっとあるのかな?」
モモンガは首を傾げたが、この時は異形種化したまま会議をしているので、思考は徐々に異形種の方へ傾いている。なので、モモンガは心に浮かんだ疑問を無視することにした。
「ま、いいか……。そんなわけで、後から顔を出されて『悪者呼ばわり』で敵対されるぐらいなら、とっとと顔合わせして話をつけたいんですよね~……」
ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』に引き込めれば良いし、それが無理なら同盟状態に持ち込みたい。ゲームだったユグドラシルでは仲良くできなかったとしても、転移後世界はゲームではないのだから、穏便に友誼を結べるのではないか。
「相手の方でナザリックと敵対したいと言うなら……戦う。相手の規模によっては、大幅な譲歩や……最悪はナザリック地下大墳墓を放棄して逃げる……も視野に入るかな。う~ん、俺一人で囮になって帝国軍と戦う方がいいのか? 先言った人数を、そのまま出して『本当はもっと多くのプレイヤーが居る』と見せかけた方が……」
ブツブツ呟くモモンガは、タブラを始めとしたギルメンに相談したが、『戦争参加して旨味を得つつ宣伝する方針』は変えなくて良いとして話がまとまる。建御雷や弐式が「派手に暴れたいし」と主張し、ペロロンチーノも乗り気になった結果でもあるのだが……。
「では、さっきの選抜メンバーで出るのは変更無しということで……。それでですね、この際ですけど余所のプレイヤー以外でも、反応を見たい存在……組織とかかなぁ、そういうのがありまして……」
「わかってるぜ、モモンガさん。こっちの世界の強者だな……」
メコン川が、椅子の背もたれに体重を掛けつつ言う。異形種化した彼は、頭部が白い雄ライオンの獣人だ。赤い衣服に、黒い胴鎧と手甲に足甲。裏地が白の黒マントという出で立ちで、一見、侍風なので武人建御雷と被っているが、どちらかと言えばメコン川は忍者寄りの設定だ。大昔の特撮ヒーローをモチーフにしているらしく、ユグドラシル時代はたっち・みーと特撮の話で盛り上がっていた。
「どうせモモンガさんのことだ。目星は付けてあるんでしょ?」
そう言ってメコン川は笑う。人化した状態であればニヒルな笑みだが、異形種化した今は肉食獣が獲物を見つけた顔にしか見えない。
「嫌だなぁ、メコン川さん。買いかぶりすぎですよ。ただ、アーグランド評議国……でしたっけ? あそこがどう出るか、反応を見てみたいですねぇ」
リ・エスティーゼ王国の北西に位置するアーグランド評議国は、数頭のドラゴンが治める亜人国家だ。亜人は一種類に限らず、幾多の種が集まっている。
「評議国と言えば竜王とかが居るそうだな。俺としちゃあ、出向いて行って手合わせしたいところ……なんだが?」
そう言ったのは建御雷だが、今居るメンバーで「そりゃあいい、やりましょう!」と言う者は居ない。建御雷は浮かしかけた尻を降ろして肩をすくめた。
「へいへい。情報が少ない中で、危ない橋は渡らないって言うんでしょ? たっち・みーさんが居たら『面白そうだ』って言って、乗ってくれたかもだけどなぁ」
「たっちさんなら、言いそうですけどね~」
ヘロヘロの意見には、モモンガも同感だと思う。たっち・みーは正義を体現したプレイを行っていたが、基本的には脳筋寄りで、腕っ節にも自信があることから、面倒ごとには進んで乗り込んでいく悪癖があった。
「で、まあ……評議国の話です」
モモンガが話を元に戻す。
「クレマンティーヌからの情報ですけど、スレイン法国とは随分と仲が悪いようでして。評議国は亜人国家ですから、人類至上主義の法国とは仲が悪くて当然でしょうが……。以前……」
法国から、訪問使節がナザリックへ送り込まれたことがある。その際、使節のリーダーだったレイモン神官長の暴走で戦闘になったが、大筋では勘弁して帰って貰っていた。
「ああ、そんな話も聞きましたね」
それまで黙って話を聞いていたブルー・プラネットが、腕組みしながらモモンガを見る。
「俺が合流する前のことだそうですけど。モモンガさん的には、それが何かマズいんですか? 法国に売られた喧嘩を粉砕して、寛大にも死人なしで帰らせたんでしょ?」
「寛大だったのが、この場合は少しマズいんですよ。ブルー・プラネットさん」
ブルー・プラネットの質問に答えたのは、モモンガではなくタブラだ。
評議国と法国は犬猿の仲。そこへ来て、法国がナザリックに喧嘩を売り、敗北したにもかかわらず無事に帰った。これを知った評議国が、どう思うか……。
「なるほど! 敵の敵は味方じゃなくて、やっぱり敵……みたいな?」
ブルー・プラネットが納得いったように言うと、モモンガは頷いてみせた。
「『俺が大嫌いな法国と、喧嘩してたようで実は仲が良いんじゃねーか!』と、思われる可能性があるんですよね~。そこまでの事情を、評議国が知ってる前提での話ですけど。クレマンティーヌに聞いたら、ある程度把握されてるんじゃないか……って」
説明しながらモモンガは、クレマンティーヌに聞き取りをしたときのことを思い出している。
『
ちなみに縛り上げられた番外席次は、猿ぐつわをしても五月蠅いので、天幕で簀巻きにされて運ばれたらしい。
「喧嘩売ってきた法国の人間を負かしたけど、無事に帰してる。つまりは、法国寄りのプレイヤー一党と思われるかぁ……」
弐式の呟きを聞き、レイモン達を(ニグンら陽光聖典組を除いて)皆殺しにしておけば良かったかとモモンガは思うが、すべては済んだことだ。ここから評議国とどう接していくか、改めて考えればいい。
「それで今回、ギルメン複数……ユグドラシル・プレイヤー数人で派手に暴れてですね。評議国側の反応も見たいんですよね。亜人国家だそうですから、人類国家同士の戦争なんて知ったこっちゃないでしょうけど……。プレイヤーが多数居て、表だって活動してるとなると……接触とかしてくるんじゃないでしょうか?」
これは言ったモモンガ自身、思い切った案だと思う。仮に、ナザリック地下大墳墓と自分一人だけ……他のギルメンは一人も居ない状態で異世界転移したなら、絶対にやらなかったはずだ。しかし、転移後世界の大まかな『強さ事情』を考慮すると、今のギルメンの人数であれば、何とかなるのではないか。
(……ヘロヘロさん達が居ることで、俺の気が大きくなってるのか? もちろん、それもあるだろうが……。警戒を怠らなければ、不測の事態にも対処できるはず!)
心中で考えを纏めているモモンガに対し、ベルリバーが挙手する。
「でも、モモンガさん。藪を突いて蛇って言葉もありますよ? 今生きてるリーダー格のドラゴン達が、八欲王だかのプレイヤー集団に良い印象持ってなかったら……持ってないんでしょうけど、危ないんじゃないですか? 始原の魔法とかもあるそうですし……」
さっきは戦う気満々だったのに、今は慎重論。
矛盾しているようだが、転移後世界の人類国家ごときと、プレイヤーに匹敵するかもしれない未知の現地勢力では、対応や心構えが違って当然なのだ。
更に言えば、ベルリバーはギルメン会議において、「危ないから止めた方が良いんじゃないか?」といった発言をすることが多い。かつてのユグドラシル時代、このナザリック地下大墳墓にギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の全力でダンジョン・アタックを仕掛けた際も、事前の会議では慎重論を口に出していた。
(あのときも、『俺は反対しましたからね?』とか言って、最終的にはナザリック攻略に参加してくれたしな~)
昔を懐かしみながら、モモンガは「評議国側が文句を言って来たなら……そこは、やはり相手次第ですよ」と答えている。少し手合わせして強さを測るのも良いし、手強いと見たら撤退しても良い。これはさっき話したとおりだ。ベルリバーが発言したことで、再度協議されたが、方針に変更はなかった。
なんだかんだと言って結局は賭けの要素が強い方針であり、メンバーは大なり小なり不安を覚えていたりする。後日、発生したとある事件によって、この方針は揺るぎないものとなるのだが、この時のモモンガやギルメン達は、「取りあえず、やってみようか?」程度のノリで居たのだった。
その後、幾つかの議題について協議され、モモンガ達は最後の議題に取りかかっている。
帝国への報復についてだ。
ワーカー隊自体は、大半が茶釜姉弟の恩人だったので、演習も兼ねての客扱いで『歓待』し、帰って貰っている。だが、彼らを送り込んだ帝国には何らかの報復を行うべきだ。ワーカー隊の件が発覚してすぐの頃は、ウルベルトに擬態させたパンドラズ・アクターを出撃させ、皇帝に直接抗議……威圧ないし恫喝することが話し合われている。
「けど、ここに来て帝国との戦争で、王国に手助けすることになったものねぇ」
これは弐式の呟きだ。
後日に戦場でぶつかって殺しまくるのなら、今回伝える予定だった抗議は、その戦いの場で言えば手間がなくて良いのではないか。そういった意味合いが彼の呟きに込められている。これを聞き、円卓では「言われてみるとそうかも……」という雰囲気が充満しだした。
「え? じゃあ、モモンガさんが戦場で『今日、多くの帝国兵が死ぬのは、すべて皇帝が余計なことをしたせいだ。せいぜい皇帝を恨むといい』みたいなことを、帝国の兵隊に言う展開とかありますかね?」
ペロロンチーノが、モモンガの『魔王ロール』時の口調を真似て言うと、モモンガを始めとした各ギルメンが「そりゃあいい!」「似てる似てる!」と大いに笑う。茶釜などは「素人臭がするけど、演技できてる方じゃない?」と辛口コメントだが、声は朗らかなので悪い気分ではないのだろう。そして、この明るい雰囲気のまま……パンドラズ・アクターの帝国派遣は取りやめとなった。その代わり、戦場ではえげつないことになるはずだ。だが、モモンガ達はあまり気にしていない。乞われて加勢するのだし、戦争だから人が死ぬのは当たり前。異世界転移してから、ある程度の日数も経過したし、人死にや殺人に関してそれほどの忌避感はないのだ。
気になるのは、たっち・みーなどの良識派が合流したときにどう思われるかだが、モモンガ達は「王国からの依頼を引き受けるのは、仕方のないことだ」と考えている。
(仮に当初の予定のまま、パンドラズ・アクターが帝都に派遣されていたとしたら……。どうなっていたかな?)
モモンガは、ふと考えてみた。
ある程度の人的被害が、帝国側に生じていたのは確実だろう。
今回、モモンガ達の方針転換によって、パンドラズ・アクターは帝都に行かなくなった。そのことにより、悲劇的な展開を回避できたのかもしれない。
(ふふふっ、帝国は運が良い!)
そう考えを締めくくったモモンガだが、それは大きな間違いなのだ。
予定どおりにパンドラズ・アクターを送り込んだ場合。皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは、ウルベルトの姿をしたパンドラズ・アクターと交渉……その優れた判断力と行動力を活かしてナザリックに自らが赴き、謝罪をしていたかもしれない。ひょっとしたら、謝った分だけ戦場における帝国軍の損害が減少……いや、ジルクニフの頑張り次第では、戦いそのものが無くなっていた可能性もある。何しろ、攻め手は帝国側なのだから……。
しかし、そうはならなかった。
ジルクニフは、ワーカー隊の報告を受けてナザリックの強大さを知ることには成功したものの、お客様対応に感謝したワーカー達が報告内容を控えめにしたことで、『すぐに対応するべき危険』とは判断できなかったのである。
彼にとって、ワーカー隊の人的被害の程度が判断材料になっていたことも、そうなった一因だ。つまり、一人も死人が出ていない(天武は途中で逃亡したと報告されている)のでは、『その程度の脅威』でしかない……と思ってしまったのだ。そして、ナザリック側から何の抗議もなかったことで、ワーカー隊の背後に居る帝国に気がついていないのではないか……とも考えてしまう。
結果、ジルクニフはナザリック地下大墳墓に対して『それとなく監視』するにとどめ、近々予定されている王国との戦いに注意を向けることとなった。
ナザリック地下大墳墓の戦力を見誤ったこと。そのツケは後日、『必要とした戦場を失う』形で支払わされることになるが、この時のジルクニフはまったく気づいていなかったのである。
原作ではアウラとマーレがやったジルクニフに対する恫喝。
パンドラズ・アクターがウルベルトさんの姿を借りてやる予定だったのが、今回のギルメン会議で中止になりました。
発端は……ワーカー隊が帰ったら、パンドラの『こんにちわ恫喝』に向けてギルメン会議のシーンを入れようと思ったことでして。
1)会議するんだったら、デミウルゴスの現況報告を入れるとわかりやすいじゃん。
2)王国の支配状況報告とかやるやる。
3)そういや帝国との軍事衝突とかあったな~。
4)今の時点でレエブン侯がナザリックの強さを知ってて、六大貴族が支配下?
5)それって、この早い時期にレエブン侯からヘルプとかありそうじゃないの?
6)その話がジルクニフの謝罪訪問より先だったら、展開変わって面白そう。
ということで、今回の展開となりました。
哀れジルクニフ。予定どおりパンドラが恫喝しに行ってたら、自分の足でナザリックまで行って、モモンガさん達の凄さを目の当たりにできたかもしれないのよ。原作みたいに。
でも、そうならなかったので、帝国軍がヒドイ目に合うのは確定です。
ユグドラシル気分を味わおうと、異形種化してギルメン会議したことも、ジルクニフにとっては運が悪かった感じです。
あと、モモンガさん達の自信を後押しする要素も、追加投入する予定。
ぶっちゃけ、ベル&メコのイベントも一通り入れたので、次なるギルメンの投入なのですが。
誰が良いですかね?
たっち・みー&ウルベルト?
ぷにっと萌え&やまいこ?
今後も頑張って書きますので、評価など入れて頂けると励みになります
<誤字報告>
はなまる市場さん、佐藤東沙さん、ウキヨライフさん
毎度ありがとうございます
エアコン壊れてて、土日の昼からの暑さがヤバい……