小さな雲が転々と流れていく青空の下 、二人連れが石畳上を歩いている。
街道からナザリック地下大墳墓へと続く道であり、石畳を整備したのはモモンガ達だ。アウラ配下のドラゴンキンやモンスターを動員し、数日で完成させている。王国の領土内で、堂々と工事をしているわけだが、デミウルゴスによって支配事業が進んでおり、どこからも文句は出なかった。
デミウルゴスなどは「王国にやらせても良かったんですがねぇ……」と不満そうにしていたが、シャルティアから「人間なんかに任せて、良い物ができるんでありんすか?」と言われて方針転換したのは彼自身。だから、『誰にやらせるべきか』の点で文句は出ても、そこ止まりというわけだ。
「いきなり、すっごい石畳に変わったね~」
二人連れの片方、小柄な女性が相方に話しかける。
背丈は王国のアダマンタイト級冒険者、蒼の薔薇のティアやティナぐらい。腰まで伸ばされた黒髪は、いわゆる姫様カットで纏められている。服装は、白で纏められた上着にスカート。茶色のロングブーツ。白い帽子を被っているが、幅の広い円形のひさしが特徴的だ。年の頃は十代後半に思えるが……。
「これって、王国がやってるのかな?」
「違うと思いますね」
返事をしたのは、隣を歩く男。女よりも背は高いが、長身と言うほどの背丈ではない。
「国策で道路整備をするなら、こういった道より街道の方が先ですよ。都市間の行き来や流通に関わりますから……。地元の有力者から申し立てがあって、部分的に整備したとも考えられますが、まあ、例の村で聞いた話じゃあ、まず無理でしょうね。エ・ランテルとの立地関係からして、やはり重要視すべきは街道の方です。そして、もう一つ……」
男は足を止めると、その場でタップダンスのようなものを踊ってみせた。履いているのが木下駄なので、カラコロ音がリズミカルに流れる。
「すべての石のサイズが見た感じ均一で、きっちり組まれています。しかも、ぐらつきもしない。こんな施工、王国では無理ですよ」
ここへ来るついでに知り合った商人から聞いたのだが、王都では主要な大通りですら地面が剥き出しらしい。国の顔である首都ですら、そういう状態では地方都市での道路整備などは無理だろう。
「帝国との紛争を毎年やってると聞きますしね~。道路整備なんかに回す資金がないんでしょうね。あるいは、インフラ整備なんかを軽視してるのかな……。よく持ってますよね、この国……」
「ふ~ん」
男の説明に対し、女は気のない反応を示したが、すぐに表情を明るくして人差し指を立てた。
「じゃあ、この辺の現地人には難しい道路工事なんだ? やっぱり、この先に居るのって……」
「エ・ランテルの冒険者組合で見た貼り紙が正しければ……ですけどね。やれやれ、情報が少ない中で動くのは良い気分じゃないですね」
そう言って男が帽子越しで頭を掻くと、女は軽く握った拳を口元に当てて笑う。
「ふふふっ! その仕草……服装に似合ってて良いね!」
「そうですか? アイテムボックスに入ってる服で、強化魔法とかが付与されてるのがこれだけだったんですけどね。こっちの世界の店売り品は、今のところ普通の服しかないし……」
彼の着ている服装一式は、ユグドラシル時代に購入した名探偵シリーズの一つだ。ギルド長から「推理力が凄いですね! 軍師と言うより、小説の探偵みたいだ!」と言われ、調子に乗って買った物だが……。
「引退時に使ってたメイン装備でも入っていればね~……。……入ってたとして、私のは人化した状態で着られるか解らないけど」
「でも、無いよりは良いじゃない。それに本当に似合ってるし!」
「それはどうも……。そちらの服装も良くお似合いで……。それとは別で、そちらはメインの防具一式が揃ってるそうで、羨ましい限りです。……しかし、私は元の
男がジト目で見るので、女は困り顔で舌を出した。
「それを僕に言われても困るよ~。でも、まあ若くなったのは嬉しいかな~。……僕だけ若くて、ごめんね?」
「くっ。可愛さで誤魔化すとは……。若返って破壊力が増してるな~…。む~……私の服装の話が出たから、聞きたかったことを聞きますけど。その服こそ、何でアイテムボックスに入れてあったんですか? ここまで何度か着替えてるから、種類違いで複数持ってるように思うんですけど?」
「よくぞ聞いてくれました!」
女は現在も同様だが、ユグドラシル時代は可愛い物に目がなかった。ギルドメンバーの女性仲間と、人間種のアバターに偽装して買い物に行き、「あれは可愛い!」「これは可愛くて良い物よ!」と、装備の性能度外視で買いあさったものだ。それらの何種類かが、アイテムボックスに入っていたのである。
「残念なことに、メイン武器は入ってなかったけど。まあ、この転移後世界で彷徨いてるモンスターなら、殴って倒せちゃうし」
「人化した、その姿でモンスターを撲殺してるんですから、絵面としては凄いと思いますけどね……。ユグドラシルの時に見せられた、フリフリドレスの
色んな意味で感心する……と男が溜息をついた。その横顔を女は面白そうに見ていたが、やがて少し不安そうな顔になる。
「ねえ……この先に、みんなが居ると思う?」
「さて、どうですかね? 私達を釣るための罠……って事もありますし」
「そっか~……」
不安そうな顔に暗さが加味された。男は自分の見解で気を悪くさせたかと思い、慌てたが……その素振りを気合いで抑え込んで話を続けている。
「みんなが居れば最高ですし、騙ってる奴らなら退治するまでです!」
「そっか、そうだよね! モモンガさん達のことを騙る奴らが居たら、ぶっ飛ばしちゃう!」
女は清楚な顔をほころばせ、ある意味で似合っているガッツポーズをした。
「その意気ですよ! やまいこさん!」
「うん! 頑張ろうね! ぷにっと萌えさん!」
避暑地の令嬢のような服装のやまいこと、日本三大名探偵の一人……的な服装のぷにっと萌えは、仲良くナザリック地下大墳墓へ向かう石畳を歩み続けるのだった。
◇◇◇◇
そして時間が経過し、ペロロンチーノがシャルティアと空中散歩に興じていた頃。
ぷにっと萌え達は、ナザリック地下大墳墓の前に到着する。
二人は懐かしい光景に目を奪われていた。
「ナザリックだ……。ぷにっと萌えさん、ナザリック地下大墳墓だよ!」
「本当ですね。本当にギルドホームも転移してきたのか……。外壁に盛り土してあるのは隠蔽しようとしたからなのかな? 盛り土の上を歩いて、外壁上部に取りつかれそうな気もするけど……。見た感じ、毒の沼地が無くなってるし……。仕方のないことなのかなぁ」
ぷにっと萌えは、お釜帽を上から手で押さえつつ、ナザリック地下大墳墓を観察する。
(上空がガラ空き……に見えるけど、おそらく幻術でも展開してるのかな? 中に居るのがモモンガさんだったら、そうすると思うし……)
ぷにっと萌えの中では、現ナザリック地下大墳墓の中にギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルメンが居る可能性が高まっていた。しかし、推測だけで行動するのは危険だ。
「ギルメンの誰かが姿でも見せてくれたら、話は早いんだけどね」
そう呟く、ぷにっと萌えの目に……ユグドラシル時代には無かった建築物が映る。モモンガ達が建設した受付棟だ。二階建てで妙に古びた感じがし、外壁にはツタなどが見える。
「あの無駄に怪しい雰囲気……。絶対にタブラさんの趣味が入ってるな……」
そういう気がするだけだ……と、自分の中の冷静な部分が指摘し、それに押し負ける形で『仲間と合流できそうな事で喜ぶ感覚』が消えていく。
事に当たっては常に冷静であれ。
自分のモットーであるが、「素直に喜ぶこともできやしない……」と舌打ちしたい気分だ。
(ここまで、探知阻害の指輪と課金アイテムで誤魔化してきたけど。……どうする?)
おそらく、二階建ての建物(受付棟)は、来客に対応するための施設だ。いきなりナザリック内に外部の者を招き入れたくないとのことだろうが、あの施設に行くのが正しい道筋だ……と、ぷにっと萌えは考える。
(弐式炎雷さんが居たら、分身体でも送り込んで様子を見るところ……。いやいや、自分はともかく、弐式さんがユグドラシルと同じ事ができるとは限らないじゃないか。願望偏重は負けフラグですよ……っと)
作戦立案に希望や願望を加えてはならない。
敵軍は、そこに居ないはずだから……。
自分達の作戦に引っかかるはずだから……。
そういった考え方は、負けフラグ構築の『餌』となる。
(弐式さん……とまではいかないだろうけど、エ・ランテルで冒険者でも雇ってくれば良かったな……)
やまいこと自分は一緒に異世界転移し、エ・ランテル近傍の集落に出現したが、住民から聞いたエ・ランテルに一度行き、冒険者組合でナザリックの情報を得たのである。
もっと情報収集すれば、都市長経由でデミウルゴスに連絡がついたかも知れないが、やまいこの意向により、飛び出すようにエ・ランテルを出発してしまった。そして、その際、ぷにっと萌えの方でも、やまいこを強く説得することはしていない。
(自分も冷静さを欠いていたかな? ギルメンと逢えそうで浮ついてたかも? ……今からでもエ・ランテルに戻って、情報収集を再度するべきだろうか……。やまいこさんとは『騙り者は、ぶっ飛ばす』的に話してたけど、やっぱり危険は避けたいし……)
エ・ランテルまでは遠いが、自分達の身体能力なら苦にはならない。
そうだ、そうしよう。自分一人だけならまだしも、女性のやまいこが居るのだから、安全策を採らなければならない。ここまで来ておいて、引き返すことを持ち出すのは心苦しいが……
「やまいこさん……」
ぷにっと萌えは、お釜帽越しに頭を掻きむしると、振り向いて首を傾げているやまいこに話しかけた。内容は前述したとおり、エ・ランテルに戻って情報収集をやり直すというものであるが……。これを聞いたやまいこは、傾げていた首を更に傾げる。
「え? あの建物にお邪魔すればいいじゃない?」
「いや、罠の可能性もありますし……」
おそらく、こうなるだろうなと思っていたぷにっと萌えは、一応の説得を試みた。話しながら「無理なんだろうな~」とも思うが、自分の性分からして言わざるを得ない。
そして……。
「その罠を、あそこに入って確かめれば良いんじゃない! 大丈夫! メイン武器じゃないけど、ぶん殴れる道具は幾つかあるし! 相手が強くても、逃げるためのアイテムもあるから! そうそう、課金アイテムだってあるよね! だから、大丈夫!」
「ええ……」
ぷにっと萌えは呻いた。
これは無理だ……と彼は思う。何が無理なのか。
こうなったやまいこを説得するのは、やはり無理ということだ。
(く~……ここに、モモンガさんが居ればな~……)
あの気の良いギルド長なら、やまいこの説得を任せられたはず。
『無理に決まってるじゃないですか。やめてくださいよ、俺に振るのは~……』
と、ぼやきつつ、やまいこの説得にかかったであろうモモンガの姿を幻視し、ぷにっと萌えは口の端で笑った。
結局のところ……ぷにっと萌えは、やまいこに押し切られる形で二階建て建物(受付棟)を訪問することになる。後になって考えてみれば大正解の行動だったが、この時のぷにっと萌えは、万が一の事態にはやまいこだけでも逃がすべく、手持ちのアイテムを点検しながら策を巡らせていた。
◇◇◇◇
「ごめんください」
「たのも~」
ぷにっと萌えとやまいこが、並んで受付棟の玄関扉を叩いている。丁寧に言ったのがぷにっと萌えで、時代がかった物言いをしたのがやまいこだ。
中からは、「どうぞ、お入りください」と、感情がこもっていないような声が聞こえてくる。少女の声のようだが、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』に居たギルメンは、全員が社会人だった。そういうギルド加入規則なり制限があったのだ。だから、今の声はギルメンの声ではない。
(声優の茶釜さんなら声を変えられるか? いや……やはり、まずかったかな?)
ぷにっと萌えは、ユグドラシル時代では感じたことのない緊張感を味わっていた。この転移後世界はユグドラシルの魔法がある。中世ファンタジー風RPGのような世界感……しかし、紛れもない現実だ。ゲーム感覚ではない、本当の命のやり取りがある。現地人の野盗などは軽く捻ることができたが、同じユグドラシルプレイヤー相手で自分の戦い方が通用するか……ぷにっと萌えは測りかねていたのだ。
が、そんな彼の緊張をよそに、やまいこはドアノブに手を掛けて中へと入って行く。
「やまいこさ~~~~んっ!?」
「……え? やまいこ……様? え? でも、この気配……」
慌てて追いかけた先は、どうやら受付のカウンターがある場で、そのカウンターの向こうで一人の少女が立ち、やまいこを見て硬直していた。その外見は非常に整っており、赤金色のストレートヘア。都市迷彩色のメイド服を着用している。
この少女の容姿に、ぷにっと萌え達は見覚えがあった。
「ぷにっと萌えさん……。この子、
「あ~……居ましたね。やまいこさんとこの子は、ユリ・アルファでしたっけ? この子は……」
やまいこの問いかけに、ぷにっと萌えが答えているが、格好が格好なだけに考える姿は探偵そのものである。もっとも、ぷにっと萌えの容姿は映画俳優よりも、お笑い番組で探偵の扮装をしていた男性に似ているのだが……。
一方、受付の
「タブラさんのNPCだね!」
「違いますよ。ガーネットさんのNPCで、シーゼットニイチニハチ・デルタです。略称はシズ・デルタだった……かな? タブラさんのNPCは、アルベドやニグレドでしょ?」
ぷにっと萌えが間違いを指摘し、反論しようとしたやまいこは、アルベド達の名が出たところで正しい情報を思い出したようだ。
「そっか、そうだったね! ええと、シズ? 今、喋ってたよね? NPCって会話機能があったっけ? まあ、いいや!」
「良くはなくて、けっこう重要なことですよ。NPCが会話してるんですから……」
この、ぷにっと萌えの呟きをスルーしたやまいこは、なおもシズに対して話しかけている。
「僕達のこと解るかな? やまいこと、ぷにっと萌えさんだよ~?」
カウンターに寄って手を突き、顔を寄せる。それをされたシズは、眼帯の掛かっていない右目を僅かに見開き、同時に背を後方へ反らせていた。
「やまいこさん。その格好じゃ、解らないと思いますよ? 私もですけど……」
「あ、そうだったね! この格好じゃ解らないか~……」
これは失敗! と、やまいこが舌を出したが、実のところ、ナザリックの僕達にとってギルメン……至高の御方は、特別な気配を放っている。それを感知できているので、目の前のやまいこ達がギルメンである事は確信しているのだ。
そこに気がついていないやまいこは、ぷにっと萌えから指摘を受けたことで……装備を変えた。
「これでどうかな! 現役時代のメイン防具だよ~っ!」
「やまいこさん……。服装だけ変えても駄目でしょ? と言うか、その服……体格が違っても着られるんですね。見た目にサイズがピッタリなんですけど?」
そう、やまいこは小柄な黒髪女性の姿で、装備を現役時のメイン防具へと切り替えていたのである。その防具は、主に
「おっと! じゃあ……はい!」
掛け声と共に『
「あ、アアアア……」
シズは無表情だが、カタカタ震え……もはやショート寸前だ。
至高の御方が、新たに帰還した。しかも、獣王メコン川とベルリバーのように二人同時である。これがルプスレギナなどであれば、多幸感のあまり卒倒したかもしれないが、シズはオートマトン……自動人形だ。なので、比喩表現ではなく本当にショートしかけたのである。
そして……そんなシズの危機的状況に、新たな『至高の御方』が投入された。
「シズ~? お客様でありんしょうか~?」
先程まで、ナザリック上空に居たペロロンチーノである……が、受付棟に入ってきたのはシャルティア・ブラッドフォールンだ。「俺が先に覗いてみるから」と格好つけようとしたペロロンチーノを「危ないでありんすから……」と説得し、彼女が先に入ることになった。そのシャルティアも、カウンター前で立つやまいこを見て、目を見開いている。ついでに言えば、下顎が外れそうな程に落ちていた。
「や、ややややや、やまいこ様ぁああああ!?」
「ええっ!? 今、『やまいこ様』って言った!?」
シャルティアを押し退けるのを躊躇ったのか、後ろから現れたペロロンチーノがシャルティアの頭越しに身を乗り出してくる。その顔をカウンターに向けたペロロンチーノは、下方のシャルティアとほぼ同じ表情になったが、残念なことに仮面着用のため、表情は見えていない。
「……はっ! おっと……」
仮面下で我に返ったペロロンチーノは、一瞬、視線を下げてから朗らかに話しかけた。
「やまいこさんに、ぷにっと萌えさんじゃないですか! 俺です! 弐式炎雷ですよ!」
自分を指差しながら放った言葉に、室内に居たシャルティア以外の者は固まる。そして、いち早く再起動したぷにっと萌えが、お釜帽の位置を直しながら下から覗き込むように口を開いた。
「ペロロンチーノさん……。今のは引っかけですか?」
「あ~、良かったぁ! 本物だった! 俺達、『至高の御方』の気配とか解らないもので……」
ペロロンチーノが弐式炎雷と名乗ったのは、モモンガとタブラの指示による行動だ。受付棟に入ったのが、ギルメンの姿をしていた場合、今のように言うよう言われていたのである。
「あれで戸惑ったり、そのまま俺を弐式さん扱いするようだったら……シャルティアに
清浄投擲槍はアンデッドに特効のあるスキルで、『やまいこ達を騙る何者か』の正体によっては効果が上下したであろう。しかし、これは見せスキルであり、いきなり清浄投擲槍を撃ってくるような相手、それを追うことを躊躇わせる狙いがあった。
「僕達、危ないところだったんだね~」
「ですね……。戸惑うだけで清浄投擲槍とは……」
仮にそうなっていたとしても、ぷにっと萌えは逃走用に課金アイテムの類を用意していたので問題なかったろうが……。
更に聞けば、首尾良く受付棟を出られたなら、外で集合しているギルメン達と合流……建屋ごと粉砕する予定だったとペロロンチーノは言う。
「ここまで悟られずに来る相手なら、それぐらいやっても死なないだろう。後は情報を吸い出すだけって……モモンガさんが……」
「えげつないなぁ……。さすがはモモンガさん……」
ぷにっと萌えは唸った。
モモンガは、ぷにっと萌えのことを戦術等の師匠のように見ていたが、ぷにっと萌えに言わせれば、状況への対応力と決断力ではモモンガの方が上を行く。
「ともかく、上手い具合に皆さんと合流できたようで一安心です。モモンガさん達は外に居るんですよね? ……外に出ても?」
ぷにっと萌えが確認したところ、ペロロンチーノは「どうぞ! どうぞ!」と、外に案内してくれた。その後ろを付いて歩くシャルティアが、満面の笑みを浮かべているのが微笑ましい。
「シズも、おいで? 僕達と一緒にね!」
ぷにっと萌えの背後では、やまいこがシズを呼び寄せ、手を繋いで皆に続こうとしている。肩越しでぷにっと萌えが確認したところでは、
(なんにせよ一安心かな? あ、モモンガさん達から現在の状況について教わらなくちゃ……)
やることは山程あって、忙しくなるな……。
そう思ったぷにっと萌えは、
◇◇◇◇
「ぷにっと萌えさん! それに、やまいこさんも!」
合流済みのギルメン。それをペロロンチーノを除いて全員招集したモモンガは、ペロロンチーノに続いて、ぷにっと萌え達が出てきたのを見て声をあげた。
溢れ出る多幸感。爆発的な歓喜が……アンデッド特性の一つ、精神の安定化で霧散する。
「ぐぬぬ……。ならば人化だ! ……ぷにっと萌えさん! それに、やまいこさんも!」
「そこからやり直すんですね~……」
カッ! と叫んで、手を差し伸べているモモンガを見て、すぐ隣りで居るヘロヘロが苦笑交じりに呟いた。ただし、モモンガが普段から、「異形種化していると戦闘力的に安心だけど、喜怒哀楽が沈静化されるので嫌だなぁ……」と、ぼやいているのを聞いている。このため馬鹿にするような気持ちは一切ない。
「モモンガさん。それに、ヘロヘロさんにタブラさん……弐式さんや建御雷さん。他にも……結構な人数が集まってますね。これで全員ですか?」
あまり見ない着物姿のぷにっと萌えが確認してきたので、モモンガは首を縦に振った。
「ええ、ぷにっと萌えさん達を含めると十二人になります。ぷにっと萌えさん達は、いつ頃転移して来たんですか? それに、その着物は……ああ、いつぞや俺が『探偵みたい』って言ったときのアレですか!」
「うわ、覚えてるんですか……。いやあ、手持ちで強化付与のある服が、これしかなかったもので……」
驚きながらも嬉しそうなぷにっと萌えが説明するには、二人は一緒に異世界転移し、エ・ランテル近傍の集落に出現したらしい。そこで住民から聞いたエ・ランテルに一度行き、冒険者組合でナザリックの情報を得たのだとか……。
「冒険者組合に、『ナザリック地下大墳墓をお探しの方。現在の所在地は……』って貼り紙を出してたでしょ?」
それを発見したのはやまいこだったが、貼り紙を片手に駆け寄ってきて、ぷにっと萌えの腕を掴むや外へ飛び出したとのこと。おかげで、組合酒場での情報収集ができなかったと、ぷにっと萌えはぼやいた。「それは残念でしたね……」とモモンガは呟く。本当に残念だからだ。
「ナザリックを探しに来たり、アインズ・ウール・ゴウン……俺の通り名の一つですけど……それに用がある人が問い合わせてきたら、デミウルゴスに連絡が行くようになってたんですよ。受付嬢と話せてたら、もっと早く合流できてたでしょうね」
モモンガが言い終えると同時に、彼とぷにっと萌えが、やまいこへ視線を向ける。それらの視線を受けたやまいこは、わざとらしく口笛を吹き出した。
「だって僕、知らなかったんだも~ん」
「え~と……立ち話もなんですから、ナザリックへ行きますか……」
やまいこさんは相変わらずだな~……と苦笑しつつ、モモンガは<
「俺の<
言ってる端から彼の頬を涙が伝い、落ちていく。
そう言えば人化していたんだっけ……と手の甲で涙を拭い、モモンガは最後に暗黒環へと入って行った。
◇◇◇◇◇
「なるほど。ナザリック地下大墳墓を維持するため、資金調達を目的とした一国の支配ですか……」
円卓へ移動した後、モモンガが現在の状況について説明を終えると、ぷにっと萌えは頭を掻いた。ちなみに、服装の元ネタである探偵のようにフケは落ちていない。
円卓に居るのはギルメンのみで、今は全員が人化していた。
「ぷにっと萌えさん。それに、やまいこさんはどう思いますか?」
そう言って質問するモモンガが気にしていたのは、実はぷにっと萌えではなく、やまいこの反応である。やまいこはギルメンの中でも正義感の強い人物で、こうと決めたら曲げない頑固さを持ち合わせている。今のところ王国の支配や、世界征服に向けての方針があってナザリックは動いているので、できれば「そんなことは止めようよ」などと言って欲しくないのだ。
「私は良いと思いますよ。無理な力攻めじゃなくて、内部から切り崩していくというのは好みですし……」
ぷにっと萌えに関しては、半ば予想どおりの返答である。とはいえ、幾らか問題点を指摘されると覚悟していたモモンガは、ホッと胸を撫で下ろしていた。
(及第点ぐらいは貰えたかな~?)
さて、気になるやまいこの反応だが、こちらも「それで良いと思うよ!」と肯定的だ。理由を聞くと……。
「転移後世界が元の
やまいこが言う集落は、丸太の柵などで護りを固めている集落だったが、それでもモンスターや野盗の被害が絶えないらしい。王国どころか、エ・ランテルに頼んでも、軍隊はおろか冒険者すら派遣してくれないとのこと。
「冒険者には依頼料が必要だけど、国が動かないって言うのはね~……。ああいうのは、本当に嫌だよね」
必要があって王国支配して、それで王国国民達の生活が楽になるなら、その方が良い……。そう言って、やまいこは笑った。
「小さな子がね……飢えて泣いて、それを抱きかかえてる母親が子供に泣いて謝ってる。僕はね、そういうのも大嫌いなんだ……。モモンガさんなら、そんな国造り……しないよね?」
話し終わる頃には、やまいこの目が完全に据わっていた。今のやまいこは人化しているので、黒髪の綺麗な女性が睨んでいるようにしか見えない……が、発せられる圧が尋常でないため、メコン川やベルリバーが身震いした。
モモンガは、どうだったかと言うと……。
「勿論です。政治が拙いから民草が苦しむというのは、可能な限り避けたいと考えています」
やまいこの視線を真っ向から受け止め、力強く言い放っている。
元の
そして、それは意気込みだけではない。
ユグドラシルのアイテムや、転移後世界の現地勢に比べて強力なギルメン達。これらの力を結集すれば、理想の国家運営は可能なように思えていた。
(難しいことは山程あるだろうけど……そうか、そうだな。国を支配するなら、それぐらいできなくちゃ……。やらなくちゃ……)
なんとなく目の前が明るくなったような気がしたモモンガは、元の世界へ戻る気があるかどうかといった、ギルメンが合流した際に行う質問を投げかけていくのだった。
新ギルメンとして、ぷにっと萌え&やまいこを投入。
人化してるときの姿は、ぷにっと萌えさんに関しては
若い頃に志村けんがやってた、全員集合の探偵コントがモデルです。
いわゆる石坂版の金田一耕助スタイル。
やまいこさんについては、茶釜さんの時に触れたように
原作のイメージとは茶釜&やまいこで逆にしています。
石畳上で歩いていたときの服装は、王国に乗り込んでブレインに爪切りされたときのシャルティア……の服装に近いですが、幾分大人しめのデザインです。
書いてる最中「エ・ランテルに寄ったら、ちょっと聞き込みしたらナザリックと連絡がつくんじゃね?」と思いまして
やまいこさんに暴走して貰いました。
円卓でのシーンは、実は書く予定が無くて
玉座の間でのギルメン帰還報告シーンにしようかと思ったのですが
一度、円卓で話すシーンを入れないと……と思い、本文のような構成になっています。
第100話までに完結しそうかな?
<誤字報告>
はなまる市場さん、X兵隊元帥(曹長)さん、サマリオンさん、
D.D.D.さん、佐藤東沙さん
毎度ありがとうございます。
ちょっと今回、本当に余裕がないので
読み返しチェックが足りてないかもです……。