オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第84話

「と、言うわけで……やまいこさん、ぷにっと萌えさん。俺達ギルメンには、異形種化と人化したとき、そして隠しパラメータみたいなもので、発狂に関する精神ゲージがあるようなんです」

 

 人化したギルメンらが見守る中、モモンガが『口頭』での説明を終える。モモンガからは、明らかに安堵した様子のブルー・プラネットが見えているが、敢えて触れはしない。モモンガにしてみれば、発狂時のブルー・プラネットの言動にカチンと来ていたものの、今では何も気にしていないからだ。更に言えば、ギルメン達も必要以上に弄るのは『単なるイジメ』と認識しており、モモンガと同様でブルー・プラネットの発狂状態については触れなかった。

 

「凄い!」

 

 説明を聞き終えたやまいこが、感心した目でモモンガを見てから、次いでぷにっと萌えを見た。

 

「ぷにっと萌えさんの言ったとおりだよ!」

 

「ほう? ぷにっと萌えさんは、この現象というか事態を把握されていたと?」

 

 モモンガは驚きつつ聞いてみる。ただし、驚いてはいるが意外だとは思っていない。彼にとって、ぷにっと萌えはギルドきっての知恵者。軍師と呼ばれた男なのだから。 

 一方で、ぷにっと萌えは肩をすくめている。

 

「自分の他に、やまいこさんが居ましたからね。私の言動が変になっているのは、やまいこさんの指摘で解りましたので、アイテムボックスに入れてあった精神安定系アイテムを装備しています。後は、装備したり外したりを繰り返して検証してました。……やまいこさんは、アイテム無しで平気だったみたいですけど……」

 

 皆の視線が、やまいこに向かう。

 やまいこはキョトンとしていたが、やがて舌を出して笑ってみせた。

 

「だって、平気だったし。特に精神安定のアイテムも使ってないけど……。……僕が変なの?」

 

 モモンガは「うっ、可愛い……」と呟きそうになったが、同じ部屋に茶釜が居るので唇を噛んで抑え込んでいる。

 

(と言うか……なんで、やまいこさんは若返ってるんだ? 茶釜さんも二十代ぐらいまで若返ってるけどさぁ。俺達、男衆は人化した姿が元のままなのに……なんか不公平? いやいや、今はやまいこさんが『精神的に普通に見える』件についてだ) 

 

 もう一度、モモンガはやまいこを見たが、至って普通であり、発狂している雰囲気などはない。

 

(ブルー・プラネットさんとは発狂のしかたが違ったり? 普段どおりに見えて、実は変になってるとかだったら……)  

 

 モモンガの背筋に悪寒が走る。

 ブルー・プラネット型の狂態は、本人にとって絶叫ものの黒歴史であるが、周囲の者にしてみると、悪い状態であるのが解りやすくて良いのである。だが、見た目に解らない状態で発狂されていたら、重大な場面で『事故』が発生するかもしれない。

 

「やまいこさん。嫌かもしれませんが、念のためです。精神安定系のアイテムは身につけておいて貰えますか?」 

 

「うん。わかった。モモンガさんが、そう言うなら!」

 

 思ったよりも簡単に了承して貰えたので、モモンガは肩の力を抜いた。が、ギルメン達の視線が自分に集中しているので、左右を見回す。

 

「な、何ですか……皆さん?」

 

 だが、誰も返事をしない。

 

(「どう思う? ペロロンチーノさん?」)

 

 突然、耳元で弐式炎雷の声が聞こえたので、ペロロンチーノは肩をビクリと揺らした。そして口元を手で覆い、(「弐式さん、いきなり声を飛ばさないでくださいよ。スキルですか?」)と囁き返す。

 

(「ごめんごめん。いやね、やまいこさん……モモンガさんの言うことに、随分と素直に従ってるじゃん? ひょっとして、モモンガハーレムに加入とか?」)

 

(「ええっ? おっと……いや、それはないんじゃないですか?」)

 

(「ほほう? ペロロン先生は違うと仰る? ならば、その根拠は?」)

 

 面白そうに言う弐式に対し、ペロロンチーノは小声であったがキッパリと言い放つ。

 

(「やまいこさんのモモンガさんを見る目。あれは友達を見る目ですよ。まあ、親しみはあるだろうから、親友ですかね?」)

 

(「へ~っ……」)

 

 自信を持って言うペロロンチーノを、弐式は感心しつつ見直した。この鳥は(今は人化中だが)、こんなにも色恋について自信家だっただろうか。もっとこう厨二病気味の、空気を読まない変態紳士ではなかっただろうか。

 

(シャルティアと毎日ベッドインしているそうだし、そういう感覚が鍛えられていくのかね~)

 

 ひるがえって弐式自身はどうかと言うと、ナーベラルとはまだ身体を重ねていない。デートまがいの外出は何度かしているのだが、そこ止まりなのだ。

 

(俺も……そろそろ一皮剥けるべきなのか?)

 

 そんなことを考えている間に、やまいこが茶釜とガールズトークを始め、再会の喜びや、先に転移後世界に来た茶釜はどうだったかを語り合っている。

 

「ふふふ、やまちゃん。私ね、モモンガさんと交際してるのよっ! アルベドとルプスレギナに続いて三番目だけど!」

 

「ええええっ!? ついに思い切ったんだ! しかも、交際に漕ぎ着けるとは大成功じゃない! おめでとーっ! って、モモンガさんの交際人数が凄い!」 

 

 茶釜が、モモンガ(彼氏)の居る前で交際報告をし始めたものだから、モモンガは顔が熱くなるのを止められなくなった。ここで男性ギルメンらの生温かい視線が飛んできたら、モモンガは両手で顔を覆っていたことだろう。しかし、タブラを始めとした男性陣は目を逸らしたり、そっぽを向いたりと、知らん顔を決め込んでいる。いったい如何したというのか。

 

(女同士で盛り上がってるのに、口とか挟めねーよ!)

 

 これは建御雷の感想であったが、それは他の男性ギルメンも同じであった。更に言えば、ここでモモンガをからかって茶釜の機嫌を損ねるのも怖かった。連動してやまいこも怒る可能性があることを思えば、触らぬ神に祟りなし……というわけだ。

 結局、茶釜達の会話が一段落したところで、モモンガが咳払いと共に、次の議題へ移行することとなる。

 

「あ~、ゴホン。では、恒例のギルメン帰還報告会について話し合いたいと思います」

 

 ギルメン帰還報告会とは、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルメンが、転移後世界で合流を果たした際、玉座の間に主だった僕を集めて報告することだ。最近では、獣王メコン川とベルリバーが帰還したときに執り行われている。

 ちなみにモモンガは、ギルメン帰還の都度、招集をかけることについて面倒だと思われていないか……と心配になったことがあった。そこで、第九階層の通路を歩いていた際、通りがかったデミウルゴスに確認したことがある。以前の報告会で、似たようなことを聞いていたものの、改めて確認したくなったのだが……。

 

「面倒などと恐れ多い! 以前にも申し上げましたが、至高の御方の帰還は、我らナザリックの僕の悲願! 無上の喜びだけがあるのです!」

 

 このように、真剣な顔で力説され、モモンガは「あ、うん……」としか言うことができなかった。念のためにアルベドとルプスレギナにも聞いてみたが、ほぼ同じ反応となっている。ルプスレギナなどは、対外的に『妖艶かつ真面目ぶる』際に使用する態度と口調であったため、モモンガは気圧されてしまったものだ。

 

「え~、そんなわけで、ナザリックの僕達が大変に喜びます。彼らの都合にもよりますが、今回も報告会は行いますので、やまいこさんと、ぷにっと萌えさんは参加をよろしくお願いします」

 

 このように締めると、ぷにっと萌え達は同時に頷く。

 ここで「え? 照れ臭いから嫌」と言われた場合、モモンガとしては困るので、すんなり話が纏まってホッとした。

 

(あとは、最終日にナザリックに行けなかった件で土下座……とか言い出さなければいいんだけど……)

 

 合流を果たしたギルメンには、モモンガと会った際に土下座をする者が居る。

 それはユグドラシルの最終日、「モモンガを一人きりにして申し訳ない、顔向けできない!」と思った者達が集っていた場で、弐式が提案した「みんなでナザリックに押しかけてジャンピング土下座しようぜ!」が発端なのだ。

 モモンガからすれば、気持ちだけで充分すぎるほどに嬉しいため、実際に土下座をされると逆に申し訳ない気分になってしまう。

 この時点でモモンガに対し、土下座を敢行したのはヘロヘロ、弐式、建御雷、タブラ、ブルー・プラネットの五人。

 土下座に成功したのは、ヘロヘロ、弐式、建御雷、ブルー・プラネットである。

 他のメンバーは、茶釜のように自身の信条から土下座をしていなかったり、ベルリバーやメコン川のように話題にも出さなかったりと様々だ。

 後日、モモンガは、ぷにっと萌えと、やまいこ……そして、ベルリバーとメコン川に対し、それとなく聞いてみた。全員が茶釜と同じで、相手……すなわちモモンガに申し訳ない気持ちはあれど、土下座は変に圧力をかけるからしないという回答を得ている。なお、メコン川がニヤリと笑って「じゃあ、今からでも一発……気合いのこもった土下座を~」とやり出したので、モモンガは慌てて止める羽目になるのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「……はい? あ、アインズ様!?」 

 

 ナザリック地下大墳墓、戦闘メイド(プレアデス)の待機室で居たユリ・アルファは、不意に接続してきた<伝言(メッセージ)>に応じた。そして、相手が『至高の御方』の纏め役、アインズ・ウール・ゴウンであると知って声を裏返らせている。

 同時に、同じ部屋に居たソリュシャン、ナーベラル、ルプスレギナ、シズ、エントマが直立不動となって、ギュルンと音がしそうな勢いで首を回し……ユリを凝視した。至高の御方からの<伝言(メッセージ)>となれば、内容を問わず最優先事項。ユリだけでなく、自分達も行動する可能性があるため、モモンガの声は聞こえずともユリの発言には注意しなければならない。

 

『うむ、私だ。実は……だな、この転移後異世界の現地人で新たにメイドを雇うことになった。種族は……人間だな。勿論、女性だ。名前はマイコ……と言うのだが……。今から向かわせるので、ユリに面倒を見て貰いたい。他の戦闘メイド(プレアデス)にも、よろしく頼む』

 

「アインズ様。その人間の新人メイドを、研修指導的に扱えばよろしいのでしょうか?」

 

 転移後世界における現地雇いの新人メイド。

 これは初めてのことではない。王国の王都でセバス・チャンが拾い……最終的にはナザリックで雇用することになった、ツアレニーニャ・ベイロン(通称はツアレ)が既に存在するからだ。

 

「へ~、また人間のメイドが増えるんすね~」

 

 少し離れた場所で立っているルプスレギナが呟いているが、すぐ隣のソリュシャンに「静かに……」と窘められている。

 

「承知いたしました。責任を持って指導しますので、アインズ様におかれましては御心配なく……はい、はい。それでは、失礼します」

 

 <伝言(メッセージ)>を終えたユリは、その場で深く一礼すると頭を上げて一息ついた。アンデッド……デュラハンのユリに呼吸の必要はないが、至高の存在との会話は極度の緊張を伴う。仕草のみとは言え、一息つきたくなるものなのだ。

 

「ユリ姉様。新人のメイドが来るのですか? それも私達、戦闘メイド(プレアデス)の指導を受けに?」

 

 ナーベラルが小首を傾げている。

 そう、考えてみればおかしな話なのだ。単にメイドとしての教育や指導を行うのなら、ツアレがそうだったように、メイド長であるペストーニャに任せるのが筋だ。なのに、今回の新人は戦闘メイド(プレアデス)であるユリたちに指導を任せるとアインズ……モモンガは言うのである。

 

「人間の女に、戦闘メイド(プレアデス)が務まるとは思えないわ……。一般メイドとしての教育指導で良いのでしょうけど……。何か……理由があるのかしら……」

 

 濁った瞳のソリュシャンも不可解そうにしているが、ユリは皆を見回しながら腹筋に力を入れた。

 

「アインズ様には深いお考えがあってのことなのよ。僕達は理解できずとも従い、与えられた任務を遂行するのみ。ともかく、その新人が来るのを待ちましょう」

 

 きびきびとした口調で言うと、戦闘メイド(プレアデス)達が表情を引き締めて頷く。一方、ユリは同じように気を引き締めていたものの、モモンガからの直接の<伝言(メッセージ)>に感動していた。ナザリックに存在する僕達にとって、最大の喜びは『ギルメンに構って貰うこと』なので、自分一人を指定して……ということになる<伝言(メッセージ)>を、ギルメンから貰うことは大きな喜びなのだ。

 ユリは妹たちに見えないよう、大きな胸に手を当てた。

 

(アインズ様からの勅命。命に代えても果たさなければ……。それにしても……)

 

 閉じていた目を開き、ユリは懐かしい気分に捕らわれている。

 

(マイコ……。あの方の、真のお名前と同じ……。僕の創造主様は……合流できる可能性が高いそうだけど……。早く、お目に掛かりたいな……)

 

「ところで……」

 

 ユリは、先程から黙ったままのシズに目を向けた。シズが口数少ないのは普段からのことだが、今の彼女は両手で自分の口を塞いでいる。

 

「シズは、さっきから何をしているの?」

 

「知ってることを話してはいけないと、アインズ様が……」

 

 もごもご言いつつ、シズは首を横に振った。あからさまに怪しいが、「アインズ様の名を出して言うのだから追及してはいけない」とユリは判断する。

 

「そうなの? であれば大任ね。頑張って務めなさい」

 

「わかった……」

 

 そう言ってシズが黙り込んだので、ユリは皆と共に新人を待つことにした。ふとシズから視線を逸らすと、ルプスレギナとナーベラルが「新人メイドは、どのような人物か?」について語り合っているのが見える。 

 ユリも気になるところではあるが、どうせすぐに来るのだ。戦闘メイドの取り纏め役としては、弛んでいる室内の空気を引き締めなければならない。

 パンパンと手を叩き、ユリは皆の注目を集めた。

 

「皆、新人が来るから気を引き締めなさい。先輩として、お手本になるような態度が必要よ?」

 

 

◇◇◇◇

 

 

 ギルメン帰還報告会は、毎度のように玉座の間で執り行う。

 モモンガ達はアルベドとデミウルゴス、そしてパンドラズ・アクターに事前に知らせ、準備を任せていた。

 その間、極短い時間ではあったが、やまいこが行動している。

 戦闘メイド(プレアデス)の待機部屋に、現地雇いの新人メイド……として顔出しするサプライズを目論んだのだ。

 

「ユグドラシル時代の人化は、デフォルトデザインだったから。この顔を知ってるのは、オフ会で会ったことがあるギルメンだけなんだよね~。しかも、今の僕は若返ってるし~」

 

 通路を歩くやまいこは、お供として同行しているモモンガとパンドラズ・アクターに対し「ぬっふっふっ!」と笑ってみせる。

 偽装は完璧だ……とのことだが、ユリに新人メイドの名が『マイコ』と伝わっている時点で、すでに綻びが出ている。<伝言(メッセージ)>でユリに伝達したモモンガも、そこには気がついていたし指摘もしたのだが……やまいこが「大丈夫!」と言って取り合わなかったのである。

 

「まあ、ほどほどでお願いしますね。とは言え、探知阻害のアイテムに加えて、弐式さんから借りた気配隠蔽アイテムか……。支配者オーラは隠しきれると思うんですけど、それが僕……特に自身の制作NPCに通用するか。中々に興味深いですね」

 

 そう言いながら骸骨顔のモモンガは、やまいこのテンションが上がっていることが気になっていた。異形種ゲージや発狂ゲージ。それらを上手くバランス取りするためのアイテム類を、やまいこは装備しているはずだ。なのに彼女のテンションは高い。

 

(何か……あるのか?)

 

 いざとなれば、ナザリック地下大墳墓に集結しているギルメン全員に連絡を取り、やまいこを取り押さえる。あまりやりたくはないが、そのプランを考えていると、隣を歩くパンドラズ・アクターが何度か頷きながら呟いた。

 

「やまいこ様。楽しそうですね。ユリ殿と再会するのが、よほど嬉しいのでしょう」

 

「ああ……」

 

 そういう事だったか……とモモンガは、自分の心配が空回りであったことを悟る。やまいこはゲージ云々で変になっていたのではない。ただ、ユリとの再会が嬉しかったのである。 

 モモンガの位置からは、少し前を歩く黒髪のメイド……の後ろ姿が見えていた。調子外れな鼻歌を聴いていると、肩に入った力が抜けていくのを感じる。

 

「なあ、パンドラズ・アクター?」

 

「はい、アインズ様!」

 

 敬礼などはしないが、歩きながら背筋が一瞬伸びた。元々姿勢は良いので、反り返ると言った方が適切かもしれない。

 

「お前が、俺の人化した顔を知らないとしよう。その上で、今のやまいこさんのように、アイテム効果で俺が気配を隠したとして……。お前、俺の正体を見破れるか?」

 

 この質問に対し、パンドラズ・アクターは即答しなかった。

 

 カツカツカツカツ……。

 

 通路を歩き続け、数秒後に俯いていたパンドラズ・アクターがモモンガを見る。

 

「さすがに、ここまでの状態では難しいかと……。しかし……」

 

「しかし?」

 

「我が創造主であるアインズ様。貴方様を前にしたとき、私はアインズ様を感じずには居られないでしょう!」

 

「ふむ……ふむ、なるほど。そういうものか……」

 

「はい!」

 

 今のパンドラズ・アクターは、穴が三つ開いた卵顔だ。軍服にマント、軍帽を着用しているので、基本形である。その顔から表情は読み取れないが、確かな自信をモモンガは感じ取っていた。

 

「それは……何と言うか……。嬉しいものだな……」

 

 パンドラズ・アクターを黒歴史として認識していた頃だと、この言葉は出なかったに違いない。だが、異世界転移して月日が経過、パンドラズ・アクターと触れ合い語り合う機会は多くあった。今のモモンガは、父と子の間柄……と言うには、まだ照れがあるが、パンドラズ・アクターを大切に思っているのである。

 一方、このモモンガの発言を聞いたパンドラズ・アクターは声を弾ませている。

 

「光栄でっす! んんんアインズさまっ!」

 

「歩きながら敬礼すんなって言ってるだろ……」

 

 文句を付けるが腹は立たない。

 親子という認識は前述したとおり強くはないが、兄弟のような家族が居たら、こんな感じだったかも知れないな……と思いつつ、モモンガは歩き続けるのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「失礼します! ぼ……私、今日からお世話になります……マイコです!」

 

 一人で戦闘メイド(プレアデス)の待機室に入ったマイコこと、やまいこは元気に言い放ち、お辞儀をした。前方にはユリ・アルファを始めとして戦闘メイド(プレアデス)が居並ぶのだが、頭を下げているやまいこはニヤつきが止まらない。

 

(うっは~! 部屋に入ったときに見たけど、みんな美人さんだよ~っ! 特に親の欲目かも知れないけど、ユリが一番美人~っ! やばい! 女の子同士のアレとかコレとか超苦手なんだけど、これは何と言うか……別腹! 別問題! 別カテゴリーだよーっ!)

 

 かつて、冗談半分ではあるが、茶釜がやまいこにモーションをかけた事があった。やまいこは、以前に同性から言い寄られたことでトラウマを持っており、元から百合関係に関心が無かったこともあって、このときは茶釜を振っている。

 

(「うわ、なにこれ。やまちゃん、超嬉しそーじゃん。傷つくわ~。ユリは私と同じ顔なのに……」)

 

 やまいこが入室した直後、モモンガを探していた茶釜(異形種化)が通りがかり、そのまま隠蔽アイテムを使用して交ざってきたのだ。今はタブラ作成の遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)ポータブルで、室内を見物している。ちなみに、ナザリック内限定だが、音声も受信できる優れものだ。

 モモンガとしては「通路で何してるんだかな~」と思うが、ここまで来たら最後まで付き合うしかない。

 

(「ほんと、悔しいけど……やまちゃん、楽しそうね~。私とユリと、いったい何が違うって……まあ、色々と違うんだけど……」)

 

 友人と娘の如き制作物。

 これだけで、すでに大きく違う。

 

(「友情パワーも、親子の絆の前には無力なのね~」)

 

 よよよ……と、わざとらしく泣き崩れているのを、彼氏としての立場から放置できないモモンガは、頭を撫でる等して慰めようとした。だが……。

 

(ピンクの肉棒の頭頂部を、手で撫でていいのかっ!?)

 

 あまりに酷い絵面になると考え、差し出そうとした手の動きが止まる。ユグドラシルでやったとしたら、運営による垢バンの可能性が高い行為だからだ。

 

「うん? ああ、なるほど……」

 

 モモンガの硬直に気づいた茶釜は、即座に人化。二枚の大盾はアイテムボックスに収納しているので、長身の女戦士の姿でモモンガに擦り寄る。

 

(「これなら、撫でてくれる~? 慰めて~」)

 

(「うええ!? い、いいですけど……」)

 

 美人の二十代女性。それも交際相手の頭を撫でるという行為に、モモンガは精神の安定化を繰り返した。

 

(「俺も人化した方がいいのかな?」)

 

(「むふふ、(しゃ~わ)せ~。別に骸骨のままでも良いわよ。恋人に撫でられてることに変わりはないんだし~。あ、そうだ! いいこと思いついた!」)

 

 頭を撫でられて気持ち良さそうにしていた茶釜は、突然、表情を明るくするとモモンガから離れた。こめかみに指を当てているところを見ると、誰かに<伝言(メッセージ)>をしているのだろう。

 

(ラビッツ・イヤーで聞き取るか? いやいや、目の前でやるのはヤバいだろ!? って……普通に聞こえるし……)

 

 一瞬、盗聴を思い立ち「何を考えてるんだ俺は!」と断念したモモンガは、茶釜が普通に声に出して話していることに気づいた。隠蔽アイテムを使っているから室内のユリたちには聞こえないが、余りに堂々と<伝言>に興じているので、モモンガの下顎がカクンと落ちる。

 

(茶釜さんは……相変わらず、茶釜さんだな~)

 

 自分の恋人ながら感心してしまう。

 そして、茶釜が誰と何の話をしているかと言うと……。

 

「そうなの! 今来たら、モモンガさんが撫で撫でしてくれるのよ! あなたも来なさい! タブラさんは、そこに居る? ラッキー! じゃあ<転移門(ゲート)>してもらってね! 今すぐ!」

 

 話しているうちに気が乗ってきたのか、声の圧が増している。凄く悪そうな口調だ。

 

(しかも相手は……アルベドか……。恋人同士? 同士? え~と、俺の彼女同士で仲良くて大いに結構なんだけどさ~……。会話内容が……無条件で撫でるのを前提で話してるとか……) 

 

 内心で口を尖らせていると、すぐ近くで<転移門(ゲート)>の暗黒環が出現する。中から出てきたのは、やはりと言うべきかアルベドだ。

 

「あ、アインズ様……。あの……ですね。茶釜様から、お話を……」

 

「皆まで言わなくてよろしい。……こっちへ……」

 

 モモンガが堂々と対応しているように聞こえるだろうか。違う、そうではない。あまりの展開に気が動転し、魔王ロールで話しているだけなのだ。一方、アルベドも「はぅうう! アインズ様に撫で撫で……。……いけないわ。無様な姿をご覧に入れては駄目よ。(わたくし)……でも、サキュバスとしての本能がぁあああ!」と、モモンガによる設定改変で生じた『精神の停滞化 ※モモンガ限定』で、交互に興奮状態と冷静状態になっている。だが、彼女だけが悪目立ちしたりはしない。何故ならモモンガも、精神の安定化を繰り返しているからだ。

 

「何と言うか……二人とも、難儀よね……」

 

 茶釜から呆れと同情の入り交じったコメントを貰いつつ、モモンガは近寄ってきたアルベドの頭に手を載せた。サラリとした黒髪の感触が、骨の指に伝わってくる。

 

「アインズ様。(わたくし)、幸せですぅ~」

 

「俺の方は、綺麗な女の人の頭を次々に触って……もう何が何やら……おっと」

 

 思わず本音を口走り、モモンガは口をつぐむ。だが、その音声は既にアルベドの鼓膜を揺さぶっていた。もちろん茶釜にも聞こえている。そして<転移門(ゲート)>の暗黒環から上半身を乗り出し、ハンディカメラ型のデータクリスタルを構えているタブラにも……だ。

 

「あ、アイ……モモンガ様が、(わたくし)を綺麗な女の人って……。ふ、ふええ……くっ、感涙して余韻を楽しめないというのは辛いわぁ……」 

 

 精神の停滞化が発生したようで、アルベドが口惜しそうにしている。その姿が、これまた可愛らしいのでモモンガは追加で頭を撫でてやったが、その彼に茶釜が寄って話しかけた。

 

「モモンガさん? 女性の好みのポイントの一つに……黒髪ロングがあったわよね?」

 

「え? なんで知ってるんですか? まあ、そうなんですけど……。茶釜さんは、今の髪型が似合ってると俺は思いますよ?」

 

 モモンガがサラッと返したことで、茶釜は驚きの表情となる。

 

「そ~ゆ~ことを、狙わずに言うのがモモンガさんよね~。……破壊力凄いわ……」

 

「え? なんです? 俺、なんかしました?」 

 

 茶釜の呟きの意味がわからずモモンガがオタオタするが、手の届く位置で居たアルベドが半歩寄って下からモモンガを見つめた。

 

「な、何かな?」

 

「モモンガ様は、そういったことは解らないままで良いと、(わたくし)は愚考します」

 

「は、はい!?」

 

 ますます訳がわからない。

 混乱の魔法でも掛けられたかのようなモモンガをよそに「おお! アルベド、解ってるじゃ~ん!」と茶釜がサムズアップし、それを受けてアルベドが優雅に一礼している。

 放っておけば、このまま恋人同士三人でイチャイチャし続けていたかもしれないが、ここにタブラからの声がかかった。

 

「三人とも、室内が興味深いことになってると思うんだけど?」

 

 

◇◇◇◇

 

 

「マイコだっけ? 私、ルプスレギナ・ベータ。今日からビシビシしごくっすよ! 覚悟はいいっすか~? ミスをしたら折檻っす!」

 

 戦闘メイド(プレアデス)らが次々に自己紹介しており、今はルプスレギナが親指で自分を指している。先輩風を吹かしている相手が『至高の御方』だとは、まるで気がついていない様子だ。アイテムの効果が正しく発揮されていることを確認したやまいこは、ニッコリ笑う。

 

「はい! 頑張ります!」 

 

「良い心がけね」

 

 ルプスレギナの次に話しかけたのは、先に自己紹介を終えていたナーベラルだ。異世界転移が発生して暫くの頃は、人間に対する蔑視を隠そうともしなかったが、ペストーニャの『苛烈な再指導』を受けたことで、今では少々きつめながら普通に話すことができている。

 

「メイドとしての仕事を覚えることも大事だけど、何より優先しなければならないのは『至高の御方』のために全力を尽くすこと。他は一切合切、二の次よ。わかった? ミスしたら本来は死ぬべきだけど、最近は至高の御方が寛大だから……」

 

「は、はい……。……うわ~、重い~。みんなの苦労が偲ばれるよね~」

 

「今、何か言った?」

 

「いいえ、何も! それでは……まずは何をすれば良いのでしょうか?」

 

 誤魔化すように微笑みかけたが、この微笑みがナーベラルにとっては感じるものがあったらしい。気圧されるように小さく仰け反ると、少し頬を染めて「そ、それは……ユリ姉様に聞きなさい!」と投げた。この指示を受けてやまいこはユリの方を向くが、後方で「ナーちゃん、何赤くなってるっすか? そっちの趣味っすか? 弐式炎雷様がお気の毒っす」「そんなわけないでしょ! ただ、何と言うか……シズに通じる可愛らしさが……」といった会話がなされていたが、やまいこは敢えて聞かない振りをして、ユリを見上げた。

 

(ぐふ~……柔和な顔立ちのかぜっち(茶釜)って感じで、ドストライク~……。NPC作成に気合いを入れて本当に良かったよ~)

 

 女性同士の色恋に対する忌避感はあるものの、可愛いモノや綺麗なモノを愛でる乙女心は消えていない。更に、今はユリだけでなく他の戦闘メイド(プレアデス)達に囲まれおり、やまいこは幸せであった。

 が、そのやまいこの表情が曇る。

 目の前で立つユリ・アルファ。彼女が怪訝そうな表情で顔を覗き込んできたからだ。

 

「あ、あの……私が何か?」

 

「あなた……マイコ……という名だったわね?」

 

 

◇◇◇◇

 

 

「気づかれましたね。あるいは、センサーに引っかかったと言うべきでしょうか?」

 

 モモンガ達と共に遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)ポータブルを覗き込んでいたパンドラズ・アクターが呟く。

 

「お前の言うとおり、創造主の気配には気がつくものなのだな」

 

「はい、アインズ様!」

 

 パンドラズ・アクターが言うには、マイコという名が切っ掛けらしい。やまいこの本名は山瀬舞子なので、名前をそのまま使用したのだが……。

 

「おそらく、やまいこ様の本名と似ている……そう思った瞬間、ユリ殿は違和感を覚えたはずです。違和感と言いますか……創造主との絆感と言うべきですかね」

 

 それに気づくと、後は感じるままに創造主だと確信するに至る……とのこと。

 

「なるほど、興味深いですね」

 

 いつの間に暗黒環から出てきたタブラが、パンドラズ・アクターの説明を聞いて頷いている。

 

「今度、その絆感とやらを誤魔化せるようなアイテムを作ってみますか!」

 

 この場に、僕が二人居ること。それを微塵も気にしない物言いだ。

 モモンガも、さすがに乾いた笑いしか出なかったが、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)ポータブルに映し出される光景が気になったので、視線を画面に戻した。

 そこでは……床に膝を突いたユリ・アルファが、戸惑うやまいこに縋り付いている。

 

「僕が、やまいこ様を見間違うはずがありません! 姿は違っても……いいえ! 他の至高の御方のように、人化されているんですよね! ねっ!?」

 

 瞳に涙を浮かべながら、ユリの口元は引きつった笑みで歪んでいた。

 肩を掴んで揺さぶられるやまいこは、ユリのあまりの剣幕に驚いていたが、やがて足腰に力を入れて揺さぶりに耐えると、ユリの両頬に手を添える。

 

「バレちゃあ仕方ないか……。と言うよりも、そんな顔をさせて御免ね?」

 

 そして異形種化。装備もユグドラシル時代に愛用していたもので揃えており、やまいこはナザリックの僕なら誰もが知る姿となった。

 半魔巨人(ネフィリム)

 その姿を目の当たりにしたユリの頬を涙が伝い落ちる。先程からも涙していたが、それまでの不安から来る狂気の涙とは違い、今流しているのは歓喜の涙だ。

 

「う、ああ、ああああ! やまいこ様! やまいこ様ぁあああ!」

 

 ユリが立ち上がり、再びやまいこに縋り付いていく。それをしっかりと抱き留めるやまいこ。実に感動的な再会シーンだ。

 通路のモモンガ達、そして室内の戦闘メイド(プレアデス)達。

 皆が二人の再会を喜び、やまいこ達を祝福していた。

 ただ、そんな中で二名、顔色の悪い者が居る。

 正体が知れる前のマイコ……やまいこに対し、先輩風を吹かせて大きな口を叩いた……ルプスレギナとナーベラルだ。

 




やまいこさんに焦点を当ててみました。
よそのオバロ愛読SS様とシチュエーションが被ってて
どうしようかと思いましたが、独自色が出せてるかな……。

この話でギルメン帰還報告会まで書こうかと思ってましたが、再会シーンに力を入れたので次回に持ち越しです。

ぷにっと萌えさんの出番もねじ込むつもりだったり。

ベル&メコの帰還報告会は省略しました。
関係NPCにルプスレギナが居るので、回想的にチョット触れるかも知れません。

<誤字報告>
Mr.ランターンさん、トマス二世さん、戦人さん、D.D.D.さん、
佐藤東沙さん

毎度ありがとうございます

いつも後書き書いてるあたりで、疲れ目で涙出てくるという……

あ、息抜きにオリジナルも投稿してるので、暇潰しにでも読んで頂ければ……。
ざまぁ系ですけど、追放する側を主人公にしています。いわゆる悪役転生系。
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