オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第85話

「皆、良く集まってくれた!」

 

 世界級(ワールド)アイテム『諸王の玉座』に腰掛けたモモンガが口を開く。

 モモンガの右側にパンドラズ・アクター、左側にアルベド。この三人の両側、まず右方には弐式炎雷、武人建御雷、獣王メコン川、ベルリバーが立ち、左方にはヘロヘロ、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノ、ブルー・プラネット、タブラ・スマラグディナが立っている。

 モモンガを中心として、『現状の合流済みギルメン』が勢揃いだ。

 対面しているNPC等の僕達にとっては、それだけで感涙ものだろう。だが、今回のイベントはここからだ。

 

「毎度のことであるが……新たにギルメンが二名帰還した。実に喜ばしいことである! では、さっそく紹介しよう! ぷにっと萌えさん! やまいこさん! どうぞ!」

 

 告げられた名に僕達が(どよ)めき、モモンガの右方……ベルリバーの向こう側で、やまいことぷにっと萌えが出現する。響めきが歓声に変わった。僕達の中には戦闘メイド(プレアデス)も含まれており、やまいこの制作NPCであるユリ・アルファも居る。茶釜をモデルとした……元モデルとは違う柔和な笑顔で、頬に涙しているのが印象的だ。

 ……と、喜んでいるのは見て解るが、自らの創造主の帰還としては反応が大人しい。建御雷が帰還した際の報告会では、コキュートスが(立ったまま気絶したので)感動をあらわにしなかった。このことでシャルティアなどが激昂しかけたのだが、今回も一瞬、そのような雰囲気になりかけている。しかし、やまいこが次のように発言したことで、剣呑な空気は霧散した。

 

「あ、そうそう! ボクは、ユリや戦闘メイド(プレアデス)達と先に会ってるんだよ~……。ユリ~、後でお茶しようね~。他の戦闘メイド(プレアデス)の子も一緒に~」

 

 一応、式典の体を取っているのだが、やまいこは私語に興じており、これにはモモンガ達も苦笑を禁じ得ない。そして、ぷにっと萌えが咳払いと共に挨拶を始めた。

 

「え~……ぷにっと萌えです」

 

 こちらも異形種化しており、ヴァイン・デスと呼ばれる姿になっている。緑の草やツタが寄り合わさって、とんがり帽子を被った神官のような見た目。それは、かつてユグドラシルで見た『軍師』のままで、モモンガ達は「おお~」と声をあげていた。

 

「長らく留守にしていて申し訳ありません。しかし、こうして戻って来たからには粉骨砕身、ナザリックのために働こうと思います。『軍師』だとか言われてますが……正直、デミウルゴスには勝てる気がしません」

 

「そんな、私ごときが!?」

 

 許しなく発言したデミウルゴスに、僕達の視線が突き刺さる。だが、ぷにっと萌えはスッと手を挙げて場の空気を治めた。

 

「得意分野の違い……ですかね。よそのプレイヤーが来て敵対した場合などは、頭脳面での働きに関してはお約束しますよ。何しろ私は、プレイヤーとの戦いが得意なのです」

 

 対プレイヤー戦……あるいは戦術的な戦闘。

 この点において、ぷにっと萌えはデミウルゴスに後れを取る気はさらさらない。

 モモンガ達からは転移後の経緯を聞かされていたが、彼が思うに、デミウルゴスには戦闘面での経験が不足しているのだ。その他、相手を侮るというナザリックの僕に共通する欠点もある。

 

(同程度の戦力でデミウルゴスと模擬戦をしたら、俺が勝つだろうな……)

 

 最初、設定どおりの『最高の知恵者』としてデミウルゴスが存在するなら、自分はユグドラシル時代ほどに活躍できないのではないか。そう思っていたのだが、どうやらまだ活躍の場は残されているようだ。

 

(モモンガさん達と相談して、現状の合流メンバーでの最適な戦闘編成を考えてみようかな……。もう幾つか案はあるしね……)

 

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』でやることは、昔も今も変わらない。得意分野の『頭脳働き』で頑張るのみだ。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 こうしてギルメン帰還報告会は、つつがなく終了。

 多くの僕達は退出し、元の任務に戻るように命じられた。

 玉座の間に残っているのは、モモンガを始めとしたギルメン。アルベドと、パンドラズ・アクター。階層守護者、セバス、戦闘メイド(プレアデス)となっている。

 

「え~……ルプスレギナとナーベラルに関して、両者から謝罪があるとのことです……」

 

 モモンガが言うと、事情を知らないペロロンチーノ、建御雷、ブルー・プラネットなどが居並んだままで顔を見合わせた。

 

「モモンガさん。ルプー達が何かしたんですか?」

 

 事情を知らないギルメンを代表してペロロンチーノが挙手する。

 ルプスレギナとナーベラルがしでかしたこと。それは、探知阻害や隠蔽系のアイテムを複数持ったやまいこが、人化して新人メイドとして戦闘メイド(プレアデス)の部屋にサプライズ訪問した結果……。制作NPCのユリとは感涙ものの再会を果たした。そこまでは良かったが、直前にルプスレギナとナーベラルが先輩風を吹かして、やまいこに大きな口を叩いたのだ。

 状況からすれば仕方のないことであり、モモンガ達の観点からすると咎めるべき事も何もない様に思う。しかし、ナザリックの僕的には大罪だったようで、モモンガや茶釜、それに当のやまいこが「かまわないから」と言ってるにもかかわらず、謝罪を申し出たのである。

 

「と、言うわけで……二人から謝罪があるそうです」

 

「ああ~……」

 

 疲れ混じりの呻きと共に、ペロロンチーノが挙げた手を下ろした。

 見れば建御雷とブルー・プラネットも、顔を見合わせて頷いている。ナザリックの僕達が、ギルメンに対する不敬等で気に病みだすと、中々落ち着いてくれないこと。それは皆が承知しているのだ。

 であるならば、いっそ好きなように謝罪させてガス抜きをすれば良い。その上でモモンガあたりが「うむ、以後は気をつけるように」とでも言えば良いのだ。何処が悪かったか等のアドバイスもできれば上々だろう。

 ただ、もう一点、気になるところがあるのだが……。そこはルプスレギナの創造主である獣王メコン川と、ナーベラルの創造主である弐式炎雷との三人で話し合い、モモンガは打合せ済みだった。

 

「さて、謝罪する二人に緊張を強いるのも問題だし、ここは人化して聞いてみるとしますか」

 

 モモンガが提案すると、「そうだな、それがいい」や「俺達、見た目が怖いですからね~……」といった声と共に、ギルメン達が人化していく。 

 モモンガの右方、パンドラズ・アクターの向こう……建御雷は、角刈りで強面の青年。こちらは筋骨隆々の身体に冒険者『タケヤン』としての戦士スタイルの装備だ。腰には大小二本の刀を吊っている。

 弐式は、服装こそ忍者スタイルのままだが、中身は茶髪の剽軽な若者。転移直後で生じた装備制限は、ナザリックの自室から取り寄せたアイテムで解決しているらしい。

 メコン川は、長刀を背負った和風甲冑の戦士で、これはワーカー隊に同行していたときは違う武装だ。刈り込んだ黒髪で、額には前髪がかかっている。ニヒルな笑みが特徴的な……実は、気の良いおじさんである。

 ベルリバーは、両方の腰に長剣を吊っている。いわゆる二刀使いのスタイルであり、魔法も使う魔法剣士としての冒険者スタイルを彼は採用していた。武器防具に関してはメコン川と同様で、ナザリック地下大墳墓の自室から取り寄せた物に換えている。容姿は、ウェイブのかかった黒髪の青年で、前髪で目元を隠しており、口元は気むずかしさを表現するように横一文字で結ばれていた。

 やまいこは、小柄な黒髪(お姫様カット)の女性。服装は……今回は、やまいことしての装備を着用している。モモンガ達からすればコスプレにしか見えないが、本人は気に入っているようだ。

 ぷにっと萌えは、金田一耕助スタイルの青年である。転移後の当初は、やむなく着用していたが……皆から『悪くない』と言われて気に入ったらしい。本人はコメディアン顔だと言うが、見ようによっては、美男子に見えなくもない。

 モモンガの左方、アルベドの向こう……ヘロヘロは、小太りした気の良さそうな青年。こちらは黒基調の道着着用で、武道家スタイルだ。黒髪を後頭部の下の方で縛っている。

 茶釜は、冒険者『かぜっち』としての女戦士スタイル。長身であるから、二枚の大盾を背負う姿が実に様になっている。ユリ・アルファのモデルになった彼女であるが、表情はユリと比べて基本的にきつめだ。

 ペロロンチーノは、こちらも姉と同じく冒険者『ペロン』としてのスタイル。派手な革鎧に矢筒と弓を背負っている。王都で冒険者働きをしていた頃とは違い、装備の類いは聖遺物級(レリック)に変更されている。この辺は茶釜やメコン川達と同じだ。気になる見た目は、オフ会で他のギルメンにも驚かれたが……結構な美青年である。普段の言動が色々と台無しにしているが、黙っていれば見目麗しいと言って良いだろう。

 ブルー・プラネットは、農作業服に麦わら帽子。ただ、室内なので人化するなり帽子は取っていた。この行為を見たやまいこが、慌てて帽子を取っているのだが、それはさておき……人化したブルー・プラネットは、岩のような顔つきの大男である。体格で言えば、建御雷より一回り大きい。

 タブラは、白髪をオールバックで纏めた、白衣の学者スタイル。医務室などで差し向かいに座ると、人生相談をしたくなる柔和な顔つき……なのだが、映画鑑賞中の表情は、熱中しているためか凄みがあったり怖かったりと印象が変わる。

 最後に中央で玉座に座したモモンガ。こちらはメイン装備と同じ色調だが、簡易版のローブを着用。顔立ちは鈴木悟のままである。

 

「俺は、普通顔ですからね~。これで、怖くないでしょう?」

 

 と自嘲すると、ペロロンチーノが「いやいや、モモンガさんは結構なハンサムですよ」と発言し、続いて茶釜が「黙れ弟! モモンガさんは、物凄いハンサムなんだよ!」と睨みを利かせている。

 

「ほ、褒めたのに……」

 

 弱々しいペロロンチーノの呟きに苦笑しながら、モモンガは咳払いをした。

 

「では、ルプスレギナとナーベラル。前に出るのだ、そして謝罪……思うところを述べるが良い」

 

(考えてみると、人化した顔で魔王ロールとかキツいな~……。人化中だから、精神の安定化が仕事してくれないもんな~)

 

 いっそ、悟の仮面を着用すれば良かったかとも思う。

 それなら仮面の下が異形種で良いわけだから、悟の顔で喋りつつ、精神的にキツい場合は精神の安定化が生じるのだ。もっとも、部下と面と向かって話をするのに、自分は仮面着用……というシチュエーションをモモンガ自身が嫌い、今回、悟の仮面の使用は断念していた。

 さて、前に出てきたルプスレギナ達は、前からギルメン、後方の広い範囲からは同僚や守護者の視線を浴びるという状況に緊張していたが、やがて二人で視線を交わしている。視線の意味するところは「どちらから先に謝罪するか……」だ。二人で声を揃えて謝罪できれば良いが、練習していたのならともかく、ぶっつけ本番で声を揃えるのは難しい。何しろ、何を喋るかの打合せすらしていないのだ。

 ただただ、至高の御方に対して謝罪の意を伝えたいだけ。後は自分の身がどうなろうとも構わない。それがナザリックの僕というものだ……という認識が二人にはあった。しかし、異世界転移後から今日までで、ほんの少しの違いが二人には生じている。その違いは、モモンガ達には把握できていたが、この『機会』に検証してみることとなったのだ。

 

(ルプー達を使って実験してるようなものだけど、意識調査みたいなものだし。メコン川さんと弐式さんの了解は取っているから……セーフだよな? よし、やるぞ!)

 

 内心で腹を括りなおしたモモンガは、まずナーベラルを見た。

 

「気持ちはわかるが、我々とて暇な身ではないのでな。では、ナーベラルよ。お前から始めるが良い」

 

「は、はっ!」

 

 更に一歩前に出たナーベラルは、弐式……面を付けたままなので表情の読めない彼を見てから、モモンガに対して跪き、胸に手を当てた。

 

「この度はやまいこ様に対し、知らなかったとはいえ、僕にあるまじき物言いをしてしまいました。この失態について、いかような罰でもお与えください……」

 

 モモンガが思うところでは完璧だ。

 少なくとも、以前のように「自害してお詫びします」などと言い出すより、百倍も素晴らしい。チラッと右方の弐式に目をやると、パンドラズ・アクターの向こうで右手を突き出し、親指を立てているのが見えた。弐式的にも今のナーベラルには満足な様子だ。

 さて、実はナーベラルに関しては、無難に謝罪できる要素が元からあった。彼女は以前、メイド長であるペストーニャに預けられて再教育を受けている。だから、モモンガ達は「大丈夫だろう」と思いつつ見ていたのである。

 問題なのは、ルプスレギナの方だ。

 モモンガ達が「何かしでかすたびに死ぬ死ぬ言うんじゃない!」と言っているのは伝わっているはずなので、大丈夫だと思いたい。だが、彼女は、創造主のメコン川が「駄犬で申し訳ない」と言うほどのスチャラカメイドだ。

 果たして、どうなるか……。

 

(本当に、どうなるんだ……)

 

 ナーベラルが元の立ち位置に戻って行く。それを見ながらモモンガは、ハラハラする胸を手で押さえたくなるのを必死で堪えていた。

 

「次、ルプスレギナ……」

 

「はい!」

 

 ナーベラルの時よりも少し重い口調で呼ぶと、ルプスレギナが元気よく返事をする。

 何やら勝ち誇った目でナーベラルを見ており、この時点で『やらかしそう』な雰囲気がモモンガ達には伝わっていた。

 そして、一歩進み出たルプスレギナは、先程のナーベラルがそうだったように、創造主のメコン川を見た後で……モモンガに対して跪く。

 

「この度はやまいこ様に対し、知らなかったとはいえ、僕にあるまじき物言いをしてしまいました。この失態について……この場で自害してお詫び申し上げます!」

 

 この発言に対する、僕達の反応は大きく分けて二種類だ。

 それでこそ僕たるものの在り方だ……と頷く者。

 その言い方だと、至高の御方のお怒りが……と顔を引きつらせる者。

 前者にはシャルティアやコキュートスがおり、後者にはデミウルゴス、アルベド、ソリュシャン、セバスなどが居る。基本的には後者派が大部分と言って良いだろう。

 では、モモンガ達、ギルメンはどうだったか。こちらは、一人を除いて「あ~……やっぱり駄目だったか……」という反応だ。だが、多くの僕の反応を見ていると、イイ感じで意識改革が進んでいる様子であり、悪くない……という思いもあった。

 問題は、例外たる一人……獣王メコン川氏の反応である。

 モモンガが、パンドラズ・アクター越し……弐式の時よりも、身体を前に倒して覗き込むと……。

 

「チッ……」

 

 舌打ちと共に、目つきを厳しくしているメコン川が見えた。

 口元などは、富士山のような形にひん曲がっている。

 

(はわわ……。メコン川さんが、お怒りだ……)

 

 見ているモモンガの額に、変な汗が浮いた。そのモモンガの視線に気がついたメコン川は、それまでの厳しい表情を一転、明るいものとし、笑顔で右の親指を立てると……下に向けて指し示した。

 

「なっ!? あっ……」

 

 この仕草を見て驚きの声をあげたのは、跪いたままのルプスレギナで、メコン川の下に向けられた親指を凝視している。すぐ隣で立つナーベラルは「馬鹿ね……」と呟いているが、おそらくルプスレギナには聞こえていないだろう。 

 

「あ~……二人の謝罪は受け取った。罰が欲しいのであれば、くれてやろうと思う。まずは、ナーベラル」

 

「はっ!」

 

 姿勢を正したナーベラルに対し、モモンガは告げた。

 

「至高の四十一人の一人たる、やまいこさんに対しての不敬な物言いは言語道断。知らなかったとは言え、許されるものではない。従って、そのような罪を犯したナーベラル・ガンマを戦闘メイド(プレアデス)の任に付けたままにしておくことは、はなはだ不適切だと考える。そこで一時的に、戦闘メイド(プレアデス)より解任し……」

 

 解任し……とモモンガが言ったところで、ナーベラルの肩がビクリと揺れたが、続くモモンガの言葉を聞いて目を見開くこととなる。

 

「……解任し、弐式炎雷さんの専属メイドとして配置換えを行う。期間は……一ヶ月とする。なお、これは弐式さんも了承済みなので、反論は認めない」

 

 創造主様の専属メイド……罰と言うより御褒美なのでは……。

 そういった僕達の囁きが聞こえたが、モモンガが咳払いによって封殺する。

 

「で、続いてルプスレギナ……」

 

「……はい……」

 

 こちらはナーベラルと違って、返事に元気がない。先程、メコン川を怒らせているので、口から魂が抜けたような状態なのだ。

 

「至高の四十一人の一人たる、やまいこさんに対しての不敬な物言いは言語道断。知らなかったとは言え、許されるものではない。従って、そのような罪を犯したルプスレギナ・ベータを戦闘メイド(プレアデス)の任に付けたままにしておくことは、はなはだ不適切だと考える。そこで一時的に、戦闘メイド(プレアデス)より解任し……」

 

 ここまではナーベラルと同じである。

 では、ここ先はどうなるのか。死罪か……それはそれで名誉だが……と各僕は思うのだが、モモンガの口から「死をくれてやる」的な言葉は出なかった。

 

「……解任し、ペストーニャに預けてメイドとしての再研修を受けるものとする。期間は一ヶ月とする。なお、これはメコン川さんも了承済みなので、反論は認めない」

 

「は、はひ……」

 

 ルプスレギナの声が裏返っている。

 モモンガは、ナーベラルが再研修を受けるにあたって、かなり辛い目に遭ったと聞いているが、モモンガ的には「死ぬよりはマシなんじゃないの?」という感覚だ。もっとも、ナーベラルの時は、何かしでかすたびに目の前で『弐式くん人形(※弐式のお手製である)』を、ペストーニャが抱きしめたり甘噛みしたりするので、ナーベラルとしては大変な精神的ダメージを被っている。

 後日、弐式の手により『モモンガくん人形』と『メコン川くん人形』が作成されてペストーニャの手に渡り、何か失敗するたびにルプスレギナが悲鳴をあげることになるのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 そして、後日……。

 

「その考えは、アインズ様達の好むところではありません。あ、わん!」 

 

 幾つかの質疑応答を繰り返していたペストーニャ・S・ワンコは、メイドの控え室……の一室で、特徴的な犬頭を横に振った。

 対するルプスレギナは、絶望により顔を青くする。

 

「ぺ、ペストーニャ様! なにとぞ、御慈悲を!」

 

「なりません。そして、ステイ! あ、わん」

 

 厳しい声によりルプスレギナの動きが止まった。その彼女に背を向け、ペストーニャはアイテムボックスより二つの人形……ぬいぐるみを取り出す。『モモンガくん人形』と『メコン川くん人形』だ。

 

「さて……今回は、どうしましょうかしら? わん」

 

「ううううっ……」

 

 涙目で唸るルプスレギナの前で、ペストーニャは閃いた……とばかりに口を開く。

 

「そうそう、ペロロンチーノ様から教わった特殊ジャンルがあるのだったわ! わん」

 

「へっ? ペロロンチーノ様?」

 

 ルプスレギナは怪訝そうにしているが、ギルメンが同じ部屋に居たとしたら、ペロロンチーノの名が出た時点で嫌な予感がしたことだろう。

 ペストーニャは、右手にモモンガくん人形、左手にメコン川くん人形を持つと、二体が会話するかのように揺らした。

 

「これより、至高の御方を『さん』付けで呼びますが、ペロロンチーノ様の他、アインズ様と獣王メコン川様の了承は得ています。では……こほん。あ、わん」

 

 咳払いしたペストーニャは、声を太くして……モモンガ達が会話しているかのように話し出した。

 

『何か御用ですか? メコン川さん?』

 

『いやな、モモンガさん。実は俺……前からモモンガさんのことが……」

 

「ふ、ふうぉおおおおおお!? まさかのカップリング! やべーっす~っ!」 

 

 先程までの暗い雰囲気は何処へやら、鼻息を荒くしたルプスレギナが『人形劇』に対して食いつきを見せた。その様子を見ながら、ペストーニャは二体の人形を近づけていく。

 

『モモンガさん!』

 

『いけない、メコン川さん! そこは……肋骨の隙間……』

 

「うっほぉおおおおおおお!?」

 

 ルプスレギナの興奮が最高潮に達した……そのとき、ペストーニャはサッと人形をアイテムボックスに収納した。

 

「不出来なメイドに、これ以上見せることはまかりなりません。わん」

 

「むぎゃーっ! 殺生っす! 続きを見たいっす! こんなこと、何回繰り返せばいいんすか~~~っ!」

 

 猛抗議するルプスレギナに、ペストーニャは呆れ口調で言い放つ。

 

「何回って……あなたが立派なメイドになるまでですよ。あ、わん!」

 

「そんなぁ~~~~~~っ!!」

 

 更なる後日……。

 この指導方法がモモンガとメコン川の耳に入り、ペロロンチーノが『マッチョマンで寿司詰めのプールに放り込まれる幻覚を見せられる』折檻を受けたほか、ペストーニャには「その指導は止めるように」との勅命が下されることとなる。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「アルベド……楽しそうだな?」

 

 午前中の王国王都。

 冒険者……魔法詠唱者(マジックキャスター)のモモンとして歩いていたモモンガは、隣を歩くハーフヘルムの女戦士ブリジット……ことアルベドに話しかけた。

 

「それは、もちろん! ルプスレギナが研修中ですから……ふう……ではなく、久しぶりの二人行動だから、デートみたいなものだし!」

 

 途中で精神の停滞化が発生したようだ。

 アルベドは、モモンガによって自身の設定を『ちなみにビッチである。』から『モモンガを』に改編されており、モモンガについて何か考えると……この新設定に思考がリンクする。しかし、目的について記載が無いため、そこで思考が一瞬停滞するのだ。このため、アルベドの思考は冷静さを取り戻し、結果としてサキュバスとしての本能や過ぎた忠誠心が抑え込まれるのである。

 なお、ヘロヘロの見解では、例えば『モモンガを愛している。』と改編していた場合、アルベドの長大な設定項目には、すでに『モモンガを愛している。』が隠しメッセージとして盛り込まれているので、設定の効果が二倍以上で発動。その大きすぎ、かつ重すぎる愛ゆえに、アルベドが何をしでかしたか想像もつかない……とのことだ。

 後に合流したタブラは、ヘロヘロの見解に納得しているので、まさにヘロヘロの見解どおりの事態になった可能性が高い。

 

(いっそ、ビッチの設定のままが良かったのかな?)

 

 時折、そう思うモモンガであるが、アルベドと恋人同士になった今では、彼女が誰彼構わずベッドインする姿など想像するだけで吐き気がするのだ。

 

(いや、今のままで良いんだ。良いったら、良いんだ……)

 

 何故ならモモンガ自身、今のアルベドのことが好きで、彼女に愛されていることが本当に幸せだから……。

 

『私に好かれてるのは、どうなの? モモちゃん~?』

 

『アイ……モモンガ様! 私も、めっちゃ愛してるっすよ~っ!』

 

『ゴウン様……。私とデートのお約束……』 

 

『モモンさん! 僕もデートしたいです!』

 

(わたくし)、今夜は寝床を共に……ふう……』

 

(ううっ!?) 

 

 モモンガの脳内を複数女性の声が、幻聴となって通過していく。 

 茶釜、ルプスレギナ、エンリ、四人目はニニャだろうか。

 

「って、なんでアルベドの声まで!? あっ……」

 

 気がつくと、アルベドが顔を寄せていてモモンガに囁きかけていた。

 

「アル……ごほん、ブリジット……」

 

「ごめんなさ~い。だって、二人きりなのに、モモンったら心ここに在らずって感じなんだもの~」

 

 きゃっ! 恥ずかしい!

 と、アルベドのテンションが高い。先程の囁きの際、停滞化したらしいのだが、今は『精神の停滞化さん』がクールタイム中なのだろうか。

 

「ブリジット……。二人きりと何度も言ってますが……。私も居るんですけどねぇ?」

 

 うんざり気味の声は……モモンガ達の後方から聞こえた。

 アイテムにより最低限、人間っぽく姿を変えた(人化ではない)デミウルゴスが、二人の後ろを歩いているのだ。ちなみに、禍々しい悪魔仮面を着用中。

 その彼をアルベドが肩越しに振り返り、一言言い放つ。

 

「あら、ヤルダバオト。居たの?」

 

「ええ、居ましたとも。一緒にナザリックを出たでしょうが……」

 

 不満たらたらのデミウルゴスは、歩きながら肩をすくめた。

 『ヤルダバオト』というのは、レエブン侯等の王国側重鎮と交渉を行う際の、デミウルゴスの偽名だ。

 そして今日の二人……ではなく、三人の目的地は王城である。

 来たる帝国の決戦において、ナザリック勢が参戦するにあたり、事前に国王や六大貴族に顔見せをしておくべき……となったので、モモンガ達が出向くことになったのだ。

 デミウルゴスは「アインズ様に御足労願うのは、僕として不出来の極み……」と恐縮していたが、モモンガ自身は「え? 必要なら行くよ?」と、本音は嫌だったが部下の手前格好つけている。ギルメンに関しては、建御雷などが「おっ? 営業か? モモンガさん、頑張ってな!」などと言い、他のギルメンも同調したことで今回の出張決定となっていた。

 アルベドはデートだと言って喜んでいるが、この時点で王都には大量の僕が姿を隠して潜入しており、万が一の事態には、それらを盾として撤退する予定である。

 

(展開によっては、玉座? 王座? とにかく王城の謁見の場へ、ヘロヘロさん達を呼びつけることもあるだろうし……。ふ、ふつ、普通に……話をすれば……ばばば……)

 

 モモンガは、緊張で胃がどうにかなりそうだ。

 こういう時は、アンデッド体の『精神安定化』が欲しいのだが、「緊張をほぐすために、異形種化します」という姿を、アルベドやデミウルゴスに見せたくはない。悟の仮面も、封印だ。ルプスレギナらの謝罪の時と同じで、誤魔化しなしの頑張りを(しもべ)……この場合、特にアルベドに見せたいのである。

 なので、モモンガは酸っぱいものを飲み下しながら耐えていた。

 

(え~と、おさらいしておこう。王様に会って挨拶して……帝国とは、どんな風に戦うかを説明すればいいんだよな? 第十位階魔法とか、超位魔法で良い感じのを見繕って……王様達に決めて貰えば良い。そんな感じだよな?)

 

「モモン? 王城が見えてるけど、貧相な感じよね?」

 

「うむ……」

 

「支配した暁には、徹底的な改装が必要かしら?」

 

「うむ……」

 

「帰りには、城下の飲食店で『二人きり』の食事なんかいいかも?」 

 

「うむ……」

 

「きゃっ!? やったわ!」

 

 謁見でのプレゼン内容の精査。それで頭が一杯のモモンガは、基本的に生返事ばかりだ。そこに、ブリジットとしての願望をねじ込み、了承の言質を得たアルベドは、拳を握りしめて喜んでいる。

 この様子を後ろから見ていたデミウルゴスは「アルベド……。調子に乗りすぎですよ……」と力無く頭を振るのだった。

 




 次回、デミウルゴスによる「は~、軍勢を引き連れて……の方が、断然効果的だったんですけどねぇ」との愚痴が……。
 今の時点で、モモンガさんは貴族内定者であって、貴族ではありませんので。『軍勢』は見送りです。
 
 ルプーとナーベに関しては、失態役を逆にしても良かったのですが、ペスの『躾』を受けたときのリアクションが、ルプーの方が書きやすかったので、ああなりました。
 ナーベラルでも書けたと思いますけど、躾内容は同じでもスポ根風になったと思います。

 今回、良い機会なので、ギルメンの人化した姿をおさらいしてみました。
 正直、茶釜さんとやまいこさんの容姿は、逆の方が解りやすかったかな……と思うのですが、まあ、書いてて楽しいので……。

 ペロロンチーノさんには、いつも感謝しています。
 ……次の折檻を考えておかなくちゃ……。
 そうだ、感想とかで良いアイデアがあったら採用するかもしれません。
 
 平行して書いてる、オリジナルの方。
 次の2話分ぐらい、湿っぽい話になるので、盛りあがらないかも……。
 3話同時掲載と化した方が良いのかもな~。

<誤字報告>

Mr.ランターンさん、佐藤東沙さん

毎度ありがとうございます
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