オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第88話

 ランポッサ三世を始めとした王族や貴族達は、今、空を見上げている。

 荒野の上空には、先程から雲がかかっているのだが、彼らが注目するのは雲ではない。その雲を引き裂いて降る巨大な隕石だ。しかも隕石は一つではなく三つ降ってくる。<魔法三重化>により数が増え、<魔法効果範囲拡大化>により被害半径が増大した……第十位階の魔法なのだ。

 大気を震わせて落下する隕石群は、荒野に落着するや……。

 

 ドフッ! キュワアアア!

 

 閃光と共に、ドーム状の炎の塊を作り出し……。

 

 ズガァアアアアアアアアン!

 

 落雷を百倍化したような轟音を発して、破壊を撒き散らす。

 それぞれの落下地点には巨大なクレーターが生じ、周囲数キロメートルの距離にあったあらゆるモノを吹き飛ばしていった。

 

(う~ん。隕石を落としてる割りに、爆風の範囲が広島型原爆並みか少し上ぐらい……とか、ぷにっと萌えさんが言ってたけど……。やっぱり成層圏から落ちてくるのとは違うのかな~)

 

 などと、呑気に考えているモモンガ。それにランポッサ三世以下の観客らも爆風や衝撃波の被害域に入っている。しかし、あらかじめモモンガが結界系の魔法を展開していたので被害なしだ。もっとも、自分達を避けていく爆風というのも凄まじい光景であるから、身体的には安全でも精神面では混乱の極みだった。全員が顔ごと視線を右往左往、あるいは真上に向けたりしている。護衛として付いて来ているガゼフも同様なので、彼らの驚愕の度合いが知れるというものだ。

 ただし、一人だけ、終始態度の変わらない者が居る。ラナー王女……彼女のみ、ニコニコ笑顔のままなのだ。いや、「まあ、凄い魔法ですのね~」などと言ってはいるのだが……。彼女の一人浮いた姿は、やはりモモンガやアルベド達には見えていない。

 しかし、ナザリック地下大墳墓の円卓……で、宴会中のギルメン達は、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)改により、ラナーの姿を見ていた。

 

「お、おー……。あの王女さん? 肝が据わってるな……」

 

 両手に持った丸盆。その左手の方で股間を隠していた半魔巨人(ネフィリム)、建御雷(アイテムボックス収納の私物だろうが、額にネクタイを巻いている)が、踊りの動きを止めて呟く。それは単なる感想だったが、隣……ではなく、少し離れた別ギルメンの席で座る弐式が、そっぽを向いたままで反応した。

 

「王国には蒼の薔薇とかが居るから、<火球(ファイヤーボール)>なんかは見る機会が多いだろうけど……。<隕石落下(メテオフォール)>を見て驚かないってのは凄いな。と言うか、いい加減で服を着てくれ……たけやん……」

 

 疲れた声で弐式が言う。

 建御雷は「しょーがねーな~。酒飲んで脱ぐのは気持ちいいのに……」と、ぼやいてから弐式に背を向けた。いらない情報だが、弐式からは建御雷の尻が丸見えである。

 

「……異形種化! ふう……。ハーフゴーレム体だと、嘔吐できないから助かるぜ……」

 

「失敬だな、弐式はよ~。俺は毎日ちゃんと風呂に入ってるぞ? つまりだ、身も心も清潔漢ってことよ」

 

「今の『清潔感』の『感』、絶対に普通の発音じゃないだろ? てか、風呂入ってないとかの汚いって話じゃないから!」

 

 ゴソゴソと着込みながら抗議する建御雷に、弐式がツッコミを入れている。

 親友同士であっても、親しき仲に礼儀あり。

 どうも今日の建御雷は、いつもより酒量が過ぎているようだ。  

 今のは弐式と建御雷の場合だが、他の酒気帯びギルメンも程度の差こそあれど、酷いことになっている。

 

「今、敵性ユグドラシル・プレイヤーが乗り込んできたら……危ないですかね? ぷにっと萌えさん?」 

 

 麦茶の入ったグラスを持つ樹人……ブルー・プラネットが、ぷにっと萌えに聞いた。聞きながら、グラスに人差し指を突っ込んで吸水していたりする。

 

「指から吸えるって便利……なのかな? 味覚的にはどうなんだろう? ……ええと、大丈夫だと思いますよ? 元の現実(リアル)で、ゲーム中に実際に酒盛りをしたなら、各々が自宅でバイザーを着けて飲んでて、急な襲撃には対応できなかったでしょうけど……」

 

 転移後世界には魔法が存在する。

 酒酔いというのは状態異常だから、毒消し系の魔法で解決できるのだ。だから、プレイヤーの襲撃があったとして、この状態からでもすぐに対応可能である。

 

「……そうか、モモンガさんの二次会参加は無理かと思ってたけど。皆を回復させたら、大丈夫かな~」

 

 ぷにっと萌えの視線の先では、帯回し終了後のペロロンチーノが円卓に上がり、黄金鎧着用のままポールダンスに移行……しようとして、茶釜とやまいこからブーイングを受けているところだった。

 

「誰が、そこまでしろと言ったぁ! 愚弟~っ!」

 

「ブー、ブーッ! 引っ込めー!」

 

 何故かアイテムボックスに収納されていた座布団を取り出し、ペロロンチーノに投げつけている。

 

「あ、こら! 物を投げないでください! 物を投げ……ぶはっ!? り、理不尽だーっ!」

 

 ペロロンチーノは、手裏剣のように飛ぶ座布団の直撃を受けて悶絶しているが……。

 ぷにっと萌えに言わせると、同情するにはあたらない。

 

「帯を巻き取られた瞬間にポーズを決めて、アイテムボックスからポールを取り出してたんだよな~。何が理不尽なんだか……」 

 

 悪乗りしたんだから、ペロロンチーノの自業自得。

 しかも、投じられた座布団ごときでダメージを受けることはないし、躱そうと思えば躱せるのだ。つまるところ、ペロロンチーノは姉たちと楽しく戯れている……と判断したぷにっと萌えは、遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモートビューイング)改に注意を戻す。

 そこでは、呆然としたままのランポッサ三世達を、展開した<転移門(ゲート)>の暗黒環に押し込んでいるモモンガの姿が映し出されていた。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「ふう、やっと終わった……」

 

 謁見の間を出たモモンガは、小さく呟いている。勿論、今は人化中だ。

 魔法実演の後、<転移門(ゲート)>で王城の謁見の間に戻ったモモンガは、その場で簡単な打合せを行った。

 帝国との戦いにおいては、ナザリックの軍勢を前に出し、モモンガの<隕石落下(メテオフォール)>を使用。壊乱ないし壊滅した帝国軍に対し、王国軍が突撃を敢行する。帝国の最強魔法詠唱者(マジックキャスター)、フールーダ・パラダインが出てきたら、ナザリック勢で対応する……というものだ。

 

(細かいことは、レエブン侯とボウロロープ侯とで相談して決める……だっけ? 何だか王様、すっごい脱力してたけど。……バルブロ王子は真っ白になってたかな~。ざまぁ。ん~……レエブン侯達との打ち合わせには、ぷにっと萌えさんにも入って貰おう。うん、それがいい!)

 

 対人関係ではタブラ。軍事関連では、ぷにっと萌え。索敵や調査では弐式、直接の戦闘面では建御雷やメコン川にベルリバー。他にも相談に乗ってくれるギルメンが数人居る。ギルド長としての責任は重いが、モモンガとヘロヘロの二人だけだった当初を思えば遙かに気楽だ。

 そんなモモンガが足取りも軽く歩いていると、案内役として前を歩くガゼフが、肩越しに振り返ってきた。

 

「ゴウン殿には久しぶりで会うのに、挨拶が遅れましたな」

 

「いえいえ、こちらこそ。正直、王様や貴族……様? の前に出る機会などなかったもので、緊張し通しでして……」

 

 緊張云々は混じりっけなしの本音だったが、ガゼフは謙遜と捉えたらしい。苦笑あるいは困ったように笑うと、その表情を引き締めた。

 

「第十位階魔法でしたか……。かの帝国の大魔法使い、フールーダ・パラダインでも第六位階が限界と聞きます。どうやら私は、とんでもない人物と出会ってしまったようだ。カルネ村での一件では、御友人と手合わせするなど、無礼を働いてしまい……本当に申し訳ない」

 

 真摯に真面目に誠実に、むせるような男臭も加えてガゼフが頭を下げる。モモンガとしては謝られるような事ではないので内心、大いに慌てた。が、その後ろで控えるデミウルゴスは、ニヤリと笑いながら横を向いて眼鏡位置を指で直し、アルベドは幾分ドヤ顔になった後で……精神が停滞化したのか、すまし顔に戻っている。

 

「そんな、無礼なんて……。弐式さんも手合わせは楽しんでましたし。そうだ……近頃、私の友人がまた合流しまして。ストロノーフ殿さえ良ければ、また手合わせなど……。いえ、彼らが武技の習得に熱心なものですから……。御指導もお願いできれば……」

 

 この時、モモンガが手合わせの対象として考えていたのは、建御雷とメコン川、そしてベルリバーの三名である。ナザリックにおける『アングラウス先生の武技教室』には、今ではギルメンの前衛系のほとんどが参加しており、中でも剣や刀を使うギルメンとして、この三名を連想したのだ。

 

「それは……願ってもない! 弐式殿との手合わせで感じましたが、遙かな高みを体験できるのは望外の喜びです! 是非とも!」

 

 笑顔で言うガゼフの目が、爛々と輝いている。 

 こういった戦士の気質はモモンガには理解できない。だが、魔法詠唱者(マジックキャスター)として考えた場合は、ある程度の納得が可能だ。

 

(俺だって、見たこともない魔法とかがあったら興味あるしな! ……ん?)

 

 前方……すでに見えてきている控え室の手前に、一人の男性騎士が立っている。遠目に若く見えて十代ぐらいだろうか……。そうモモンガが考えていると、ガゼフが口を開いた。

 

「クライムではないか。そこで何をしている?」

 

 知り合いか、それとも部下か……。

 今のところは口を挟むべきではないと、モモンガが口をつぐんでいると、クライムと呼ばれた少年は一礼してから駆け寄ってきた。

 

「ラナー様……いえ、ラナー王女殿下が、ゴウン様とお話をしたい……と」

 

(え? 俺、この後はレエブン侯とちょっと話をして帰るだけなんだけど!?)

 

 予定に無かった会談でありモモンガは狼狽えたが、かろうじて顔には出していない。とはいえ、アルベド達に匹敵する知謀の持ち主と聞かされているので、「会いたくないな~」という気持ちは強かった。

 

「クライム。このことは、陛下も御承知のことなのか?」

 

「はい! 許しは得ているとのことでした! ただ、ゴウン様の都合を優先する……とのことで……」 

 

 言い終わるにつれ、クライムの視線がガゼフからモモンガに移動していく。ここで初めて、モモンガは戸惑いを顔に出した。

 

(俺の都合次第かよ!?)

 

 都合は、悪いと言えば悪い。

 何しろ、ギルメン達の酒盛りに混ざるべく、早く帰りたいと考えているからだ。しかし、ここで断って良いものだろうか……とも、モモンガは考える。

 

(営業先で、会議後に重役から個人的に話があると言われた! みたいな感じか? 営業職としては、断るわけには行かないんだよな~……。とほほ、相手は王女様だよ? デミウルゴスに丸投げしたら駄目かな?)

 

 ここに居るのがデミウルゴスとアルベドだけなら、「そのような些事は、デミウルゴスに任せよう」とか言って逃げられただろう。

 だが、ガゼフが居る。

 彼に対して誤魔化すような対応をするのは、モモンガは何とはなしに嫌だった。

 

「少しだけなら大丈夫ですよ」

 

 そう言うしかない。

 言ってしまった以上は、行く先が控え室からラナーの私室に変更される。

 一国の王女の部屋に入って大丈夫なのだろうか。

 今更ながら後悔するが、こうなった以上は会って話をするしかない。モモンガは足取りも重くクライムの後をついて行く。そうして暫く歩いた先に、ラナーの部屋があった。クライムが言うには、本来の私室ではなく来賓用の控え室を臨時使用しているらしい。

 

(少し気が楽になったかな……。女の子の私室に入るのは、どうも……ねえ?)

 

「ゴウン様。こちらです!」

 

 歳の若さにしてはしわがれた声でクライムが言うので、モモンガは扉の開かれた部屋へと入って行く。その際、ガゼフが「では、私は失礼します……」と去って行ったので、モモンガは内心「俺を置いて行かないで~~~っ!」と手を伸ばしたくなったが、実行に移すわけにも行かない。なので、そのまま入室する。

 室内は、控え室という字面から言えば豪華だ。ソファやテーブル、窓枠にカーテンなど、一々金が掛かっているように見える。

 

(さすが、来賓用。まあ、ナザリックには劣るけど……あっ) 

 

 サッと室内を眺めたモモンガは、ある人物に目を止めた。それは座っていたソファから立ち上がった少女で、謁見の間でも見た……ラナー王女だ。

 

(やっぱり、すっごい美少女だな~)

 

 と言うのがモモンガの感想である。モモンガが見たことのある現地人として、アルベドに迫るレベルの美人というのは、今のところラナーぐらいだろう。ナザリックで美人を見慣れているので助かったが、異世界転移の直後ならテンパってただろうな……とモモンガは思う。

 

(更に言えば、俺の恋人は三人も居るからな! ニニャが入ったら四人だけど! その内の一人はアルベドで……今、一緒に居るし……)

 

 さすがに恋人同伴の状態で、別の女性に対して鼻の下を伸ばすわけにはいかない。

 と、そこまで考えたモモンガであったが、室内にはラナー以外にも人が二人居たので、そちらにも目を向けている。入ってすぐに意識を向けなかったのは理由があり、まず一人が以前に会ったことのあるイビルアイだったからだ。

 王国のアダマンタイト級冒険者、蒼の薔薇の一員。それが仮面の少女アンデッド、イビルアイである。以前、イビルアイが所属する蒼の薔薇は、冒険者チーム漆黒としてのモモンガ達と手合わせすることになり、弐式や建御雷にヘロヘロ、そしてモモンガが彼女らと対戦した。蒼の薔薇は、王国の犯罪組織『八本指』、その警備部門の幹部……六腕と組んで戦ったのだが、結果としてチーム漆黒が全勝している。

 その中でモモンガと対戦したのが、イビルアイと六腕の不死王デイバーノックのコンビだった。そして先に単独で戦ったイビルアイは、事前にモモンガ達を怒らせた言動が仇となり、念入りに叩きのめされている。なお余談であるが、戦闘模様を観戦したデイバーノックは、不戦敗を選択し、その後はナザリックで不定期に働きつつ、現地人からすれば貴重極まりない書物に触れて幸せに過ごしていた。

 と、そのような経緯があるイビルアイを見たので、モモンガは彼女を意識するまでに時間が掛かったというわけだ。嫌なモノは見たくないのである。残るもう一人、こちらへの対応が遅れたのは、その人物が白金の鎧で全身を覆っており、肌の露出がないこともあって、一瞬、置物のように思えたからだった。

 

「ふむ……。失礼します、ラナー王女殿下。謁見の間でお目に掛かりましたが、アインズ・ウール・ゴウンと申します」

 

「ええ、その後は見事な魔法を見せていただきました。ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイセルフです。第三王女ですが……そこは気になさらず、楽に話していただければ……と思います」

 

(気楽にってねぇ……。営業先で出てくる偉い人は、たいがいそう言うんだけどさぁ……)

 

 酒の場の無礼講というのは、真に受けてはいけない。

 それと似たようなものだと判断し、モモンガは気を楽にする事はなかった。

 

「……失礼します」

 

 指定されたソファの中央に座ったモモンガは、左にデミウルゴス、右隣にアルベドを座らせている。アルベド達は、モモンガの座るソファの後ろで立とうとしたのだが、ラナーが「お二人も、どうぞ……」と勧めてきたので、両脇に座らせていた。

 テーブルを挟んで正面にラナー。左手前にイビルアイ、右手前に白金の鎧。

 クライムのみはラナーの指示も謝絶し、彼女の向かって右斜め後方で立っている。

 

「さて、王女殿下? 私にお話があるそうですが……。その前に、そちらの鎧の方について、紹介して頂けますか?」

 

 王女の用件を先にすべきかとも思ったが、誰とも解らない人物が居たのでは話もできない。モモンガの要望を「もっともだ」と判断したのか、ラナーは小さく頷いて鎧の人物を見た。その視線を受け、白金の鎧が頷く。

 

「はじめまして。アインズ・ウール・ゴウン殿」

 

 鎧の人物は、落ち着きのある声と口調で話し出した。

 

「僕のことはツアーと呼んで欲しい。そこに居るイビルアイの友達なんだよ」

 

「なるほど、了解した。私がアインズ・ウール・ゴウンだ。それで? そのイビルアイ殿の友達が何故、ここに居るのかな? ちなみに言っておくが、私はイビルアイ殿の友達ではない」

 

「ぬぐっ!?」

 

 イビルアイの呻き声が聞こえたが、モモンガは聞こえないフリをする。

 いつまでもイビルアイの態度の悪さについて引きずるわけではないが、第一印象が悪かった事でモモンガの気分はよろしくない。好きではない上に嫌いの部類に入るイビルアイの友達と聞き、モモンガの態度は自然と冷たいものとなっていた。

 

(って、いか~ん! つい言っちゃったけど、俺はまだ仕事中! 喧嘩売るような事を言ってど~する!)

 

 こんな事では、ナザリックの僕達の喧嘩っ早さを強く咎められない。

 モモンガは深く反省した。

 

「いや、すまないな。イビルアイ殿とは少し事情があるもので……。ツアー殿に対して、悪く思うところはないのだ」

 

「解ってるよ。イビルアイは、この世界では強い部類だから、大抵の相手には強い態度で出ちゃうんだよね。喧嘩を売る相手は、よく見てから……と、常々……いや、時々かな~、言っているんだけど……」

 

「わ、私は! その……だな……」

 

 反射的にイビルアイが声をあげたが、反論できる余地がないと見たのか、特に何を言うでもなく黙り込む。その様子を目の端で見たモモンガは、再びラナーに視線を戻した。

 

「申し訳ない、王女殿下。つい話し込んでしまって……。それで……私に何か御用件でしたか?」

 

「私はゴウン様を、神のごとき魔法詠唱者(マジックキャスター)と見込んで御相談があるのです。とは言え、そこは些細な話ですから。イビルアイさんとツアー様の御用件を先に……」

 

 それで良いのかと思う一方、モモンガは『アルベドぐらい賢い』というラナーの『些細な相談』を警戒してしまう。しかし、その話は後だと言われたので、モモンガは頷いてツアーに話しかけた。

 

「では、ツアー殿の話が先だ。ときに……先程の質問には、まだ答えて貰っていないように思うのだが?」

 

「僕が、何故ここに居るか……だったね。表向きはラナー王女の護衛かな。普通なら蒼の薔薇か、イビルアイ一人で事足りるのだろうけど。イビルアイは、君に負けちゃったそうだしね」

 

 ツアーは身振り手振りを交えながら答えるが、モモンガはツアーの動きを妙に感じていた。なめらかに動いているように見えて、動きが若干ちぐはぐなのだ。

 

(後ろから二人羽織をしている……と言うのかな……)

 

 出会ってすぐに戦闘となれば、こうした事には気がつかなかったかもしれない。落ち着いて話し合っているからこそ、気がつけたのである。

 

(この人、本当に人間なのかな?)

 

 イビルアイと同じようにアンデッドという可能性もあるが、弐式炎雷のことを思えばゴーレムのような存在なのかもしれない。幾つか魔法をかけて調べてみたいと思うものの、初対面の相手に「ちょっと魔法をかけてもいいですか?」とは言えないのだ。

 

(さすがに非常識だものな~)

 

「イビルアイ殿に勝ったのは、たまたま(元々勝つつもりだったのと、俺が頭にきてたから)だな。しかし、表向きが護衛? では、ツアー殿の本当の用件は別にあると?」

 

「それは……」

 

 ツアーが口籠もる。

 とはいえ、軽く握った拳を口元に当てるといった仕草をするでもなく、座ったままで微動だにしない。ここだけ見ても「突然、挙動が無くなるってのは不自然だな~」という印象を持ってしまう。

 

 

(そもそも、全身鎧を着てるって言っても、呼吸してたら多少は身体が動くよな? やっぱり、このツアーって人……弐式さんみたいなゴーレムじゃないの?) 

 

 少なくとも油断するべきではない。

 転移後世界における魔法位階の程度を思うと、『喋るゴーレム』なんてものがあったら大事件だ。

 

(いや、ゴーレムにスピーカーみたいな魔道具を埋め込めば、こっちの世界でもいけるのかな? ……うん?)

 

 ツアーが口籠もっている間に色々考えたが、思いのほかツアーが黙ったままなので、モモンガは首を傾げる。黙ったままという以前に、もはや置物の雰囲気だ。

 

「お、おい……ツアー?」

 

 イビルアイが対面のツアーに呼びかけている。だが、返事がない。

 モモンガの両側では、アルベドとデミウルゴスが視線を交わしている。それに気がついたモモンガはアルベドに目を向けてみたが、フルフルと首を横に振るのみだ。

 

(アルベド達でも把握できないか……。こういうわけの解らない事態って、本当に嫌なんだけど!)

 

 もう暫く待つべきか、ツアーに声をかけるべきか。

 悩んだ末に、モモンガは声をかけることにした。

 

「ん、ごほん。ツアー殿? どうかされたのかな? 体調でも悪いのであれば、話などは後日に……」

 

「うんっ?」 

 

 鎧は動かないものの、ツアーが反応を示す。

 

「あ、ああ、すまないね。ちょっと客……じゃなかった、体調……そう、体調が悪かったんだよ。もう回復したから、心配ないよ。ハハハハ……」

 

 笑っているが、全身鎧は微動だにしない。いや、途中から『笑っているように』動き出した。どう見ても不自然である。それに今、モモンガにとって聞き流すには不審過ぎる発言があった。

 

(今、『客』って言ったか?)

 

 モモンガは膝に置いた右手をあげ、自分の下顎を掴む。

 

(ツアーに客が来てるってこと? 客って、何処(どこ)に? ここじゃない何処かでツアーに客? <伝言(メッセージ)>でも受信したか? そうでないとしたら、ここじゃない何処かって……)

 

 俯き考えていたモモンガは、ふと、イビルアイを見た。左方で座るイビルアイは、モモンガの視線に気づくや、仮面着用のままの顔をプイと逸らす。モモンガが上体を傾けて覗き込むようにすると、今度は身体ごと捻るようにして顔を逸らした。

 

(イビルアイは何か知っている……か? おっと……)

 

 一連のモモンガの動作は皆の注目を集めていたようで、集まる視線に気づいたモモンガは姿勢を元に戻している。

 

「ふむ、まどろっこしいな。ツアー殿? 何か隠していることに関連して、都合の悪いことでもあったかな?」

 

「おい!」

 

 イビルアイが立ち上がった。仮面をつけているので表情は見えないが、声を聞くに恐らくは血相を変えているのだろう。そのまま何か言いかけたようだが、ツアーが手を挙げて彼女を黙らせた。

 

「いや、本当に済まないね。ある程度は見抜かれているようだし、もういいのかな? 実は僕……こういう者なんだよね」

 

 言いながら自身のヘルメットに手をかけたツアーは、そのままヘルメットを脱ぐ。いや、直後にモモンガが見たモノからすると、『脱ぐ』ではなく『外した』と言った方が良いだろう。

 取ったヘルメットの下には、何も無かったのだから……。

 この事実に最も驚いたのは「えっ!? なっ!?」と声をあげたクライムだったが、その次に驚いたのはモモンガだ。しかし、アルベド達の目がある手前、根性と営業魂で驚きを封じ込めている。

 

「……ここまでの会話から察するに、ツアー殿の本体は別の場所に居る……ということで良いのかな?」

 

「御明察だね」

 

 ツアーはヘルメットを装着……鎧にはめ直すと、肩をすくめてみせた。

 

「改めて自己紹介と行こうかな? 僕はアーグランド評議国の関係者だ。そこで永久評議委員を任されている。本名は……役職を言っちゃったからすぐに解るだろうけど、ツァインドルクス=ヴァイシオンだよ。普段は、ツアーって呼んでいいからね」

 

「ほう……。アーグランド評議国……」

 

 王国の北西……無数に山脈がある辺りに存在する国家だが、モモンガが知っている情報では確かドラゴンが統治する国だったはずだ。その評議員ということは、このツアーの正体はドラゴンということになるのだが……。

 

「では、ツアー殿は評議員閣下ということか……。ツアー閣下と、お呼びすべきかな?」

 

「別に公式の場ではないから、好きに呼んでくれて構わないよ。で、ゴウン殿の質問に答えていなかったね。僕の本当の用件……。それはね……『ぷれいやー』と話が出来るかどうか。そして、話が出来る相手かどうかを確認に来たのさ」

 

 『ぷれいやー』、つまり、ユグドラシル・プレイヤーと言いたいのだろう。今日までにモモンガらを指して『ぷれいやー』かどうかを聞いた人物は、他にも居る。今、同じ部屋に居るイビルアイだ。その時は、彼女の失礼な言動に腹を立てていたので、モモンガは知らないフリをした。しかし、今のところ、ツアーはイビルアイほどに悪い態度を取っていない。また、モモンガは事前にぷにっと萌えやタブラと協議していて、「『ぷれいやー』かどうかを聞いてくる者が居たら、自分の判断で回答して良い」と決めていた。

 

「『ぷれいやー』というのが、ユグドラシル・プレイヤーのことを指すなら、そうだ……と言っておこう」

 

「ちょっと待て! 前に私が聞いた時は、知らないと言っていただろうが!」

 

 左方のイビルアイが腰を浮かせて抗議をするが、「それは君の態度に問題があって、私が気を悪くしていたからだよ。あの時は、感情的になっていてすまなかったね」とモモンガが言うと、一言呻いて腰を下ろしている。

 

「普段からの言動には気をつけるべきだよね~」

 

 イビルアイが黙ると、ツアーが会話を再開した。

 

「まあ、僕は国の顔役みたいなものだから。強大な存在が出現すると、気にはなるんだよ。『ぷれいやー』は……ゴウン殿は、一人じゃないって聞いたけど?」

 

 今度は人数を探ってくる。当然、正確な人数まで喋るのは情報を渡しすぎなので、モモンガは曖昧に答えることにした。ただし、蒼の薔薇と手合わせをした際、イビルアイには弐式やヘロヘロ、建御雷などの姿を見られているので、「いいや? 俺しか居ないが?」と言う手は使えない。

 

「そうだな。私の他にも幾人か……。で? 話というのは何かな? 実のところ、私は忙しい身でね」

 

「せっかちだね~。けど、約束なしで会いに来たのは僕の方なんだし、そうだね。聞きたいことを聞くとしようか……。あっ……」

 

 ここでツアーは、再び黙り込んだ。

 それは話を切り出すのを躊躇っている……のではなく、先程のように遠隔操作を止めたように見える。

 

(客が……とか言ってたから、本体の前に居る誰かと話してるのか?)

 

 それはそれで失礼な話だが、そもそもツアー本人が来ていないので仕方がないのかもしれない。

 

(元の現実(リアル)で言う、ウェブ会議みたいなものだし……。それでも離席したりするときは、一言断るものだけど。ドラゴンに人間のマナーを求めるのも、ちょっとな……)

 

 モモンガが一定の理解をしていると、ツアーが再起動する。

 

「本当に申し訳ないね。ちょっとリグ……いや、客が……」

 

「さっきから挙動がおかしいと思ってたが……。あのババアが来てるのか……」

 

 イビルアイの呟きから察するに、ツアーの本体前で居る『客』とは老齢の女性らしい。新たな情報にモモンガが頷き、その仕草を見たのかツアーが咳払いをした。

 

「あ~、ゴホン。用件、そう、用件だったよ。僕はね、アインズ・ウール・ゴウン……君に確認したいのさ。君達が、この世界に破壊をもたらす存在か、混乱をもたらす存在か……どうかをね……」

 




 2~3話前までは、ラナーと話すシーンすら用意してなかったんですけど、ここでラナーを出さないと、出ないままで終わっちゃいそうな気がしたもので。あと、クライムも。
 で、せっかくだからツアーも出しちゃえ……と。
 少しは展開が早くなったかな?

 本当なら、ツアーがモモンガさんと顔を合わせるのは、第十位階魔法の実演が伝わった後で……とか考えてたんですけど、イビルアイとの一件がありましたので、彼女から先に伝わって正体を探りに来ても良いかな……と思いました。
 本作とツアーが戦うとしたら、原作14巻のような展開の後で、ギルメン全員で袋叩きですかね。その戦いが発生する頃には、ギルメンは更に2~3人増えてると思います。

 イビルアイ、ツアーが一緒に居るので、雰囲気が初対面時に近い感じに戻ってます。いいのか~? ツアーが助けてくれるとは限らないぞ~。

 そして、やはり入れてしまった宴会シーン。
 いやもう、ギルメン同士の会話とか書いてたら止まらないんですよ。


<誤字報告> 

戦人さん、佐藤東沙さん

毎度ありがとうございます
ここ最近、土曜の朝の涼しいうちに一気に書き上げてるので
どうも誤字チェックが……暑い……
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