オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

90 / 133
第90話

「ぶくぶく茶釜様! アインズ様! 新鮮な果物をお持ちしました!」

 

「お、お持ちしました……」

 

 ナザリック地下大墳墓の第六階層、守護者であるアウラとマーレの住居にて、アウラの元気な声が響き渡る。弟のマーレの声も聞こえるが、姉の声量に負けて打ち消されがちだ。

 現在、モモンガは茶釜に誘われて第六階層を訪れ、茶釜とテーブルを挟んでの歓談中。ちなみに、両者とも異形種としての姿。茶釜の「なんと言うか、気分! そう、気分なの!」という主張に押されての異形種化である。これには交際中でありながら、モモンガと人化状態でイチャイチャするのに照れを感じる……茶釜の事情があった。もし、ペロロンチーノが同席していたら「エロゲ声優やってたくせに、なに乙女ぶってんの?」と突っ込んで、張り倒されていたことだろう。

 さて、ここで一つの問題が発生している。

 スライム種の茶釜はともかく、アンデッドのモモンガは、異形種化していると飲食ができないのだ。ゆえに、テーブル上に置かれた細工の多いガラス器。そこに盛られた様々なカット・フルーツを見て、モモンガ達は固まることとなる。

 

「え~と……」

 

 モモンガは戸惑い気味にアウラ達を見たが、茶釜の近くで並んで立つ双子は、キラキラした目でモモンガを見ていた。はっきり言って、アンデッドであることを理由に食べない……で済む空気ではない。

 

(そもそも、俺だって人化できる以上は、美味しいものを食べたいしね~……)

 

「……茶釜さん?」

 

「はい」

 

「フルーツをつまもうかと思いますので……人化しますね?」

 

「……はい……」

 

 こういった会話がなされ、まずモモンガが人化した。同時に最強装備では肩アーマーが邪魔なので、おとなしめのローブに変更する。

 ……。

 だが、モモンガはフルーツに手を伸ばさない。

 良く考えてみれば、人化等の準備を終えたからと言って、自分だけフルーツをパクついて良いものか。彼氏としてアウトの行為ではないのか……と、そう思ったのだ。そして、この数秒間ほどの沈黙に、茶釜が耐えられなくなる。

 

「ええい! 女は度胸!」

 

 照れを振り払いつつ人化し、女戦士としての茶釜が出現した。トレードマークの大盾二枚はアイテムボックスの中。甲冑も装備して居らず、冒険者としては軽装の状態である。

 

「じゃあ、私も食べるとしましょうかね! アウラとマーレは、こっちにおいで~。一緒に食べるのよ~」

 

「はい! ぶ……茶釜様!」

 

「お、お邪魔しますぅ!」

 

 誘われるなり、それぞれが椅子を抱えて駆けてきた。なお、アウラが返事をする際に口ごもっていたが、これは茶釜が出した指示によるものだ。茶釜は、プレイヤー名が『ぶくぶく茶釜』であるが、長いので『茶釜』と呼ぶことを許している。しかし、僕達にしてみれば、至高の御方の名前は偉大なものなので、略して呼ぶのには慣れが必要なのだ。それが自らの創造主となれば、ときどきフルネームで呼ぼうとしてしまう。

 

(フルーツを持ってきたときも、アウラがフルネーム呼びしてたものね~。私が良いって言ってるんだから、早く慣れて欲しいのだけど……)

 

 両脇に座って嬉しそうにしているアウラ達を見て、茶釜は苦笑した。

 そうしてフルーツを摘まみながらの歓談となるが、その中でモモンガが帝国関連の話題を持ち出す。

 

「茶釜さん? ぷにっと萌えさんが、帝国と王国が毎年やってる戦いですけど、今年度はなくなるんじゃないかって言ってました。茶釜さんは、どう思います?」

 

「私? う~ん、ぷにっと萌えさんの言うとおりになると思うわよ? 第六位階が上限の帝国側……その立場に立って考えると、第十位階魔法の使い手と敵対するだなんて正気の沙汰じゃないもの」

 

 やはり、デモンストレーションで第十位階魔法を使わなければ良かったか……と、モモンガは唇を噛んだが、考えてみれば、第六位階より上の魔法を使用するのは元々の予定に入っていたのだ。途中でモモンガが方針を変えなくても、こうなっていたのではないか。

 

(ぷにっと萌えさん……。最初から、帝国との対戦を回避することを考えていたんじゃないか?)

 

 だとすれば、その目的は何か。

 大威力魔法による大量死。それを避けたかったのではないか。

 そこに考えが到ったモモンガは、茶釜に聞いてみたが、回答は「大方は、そうじゃないかしら?」というものだった。

 

「将来的に、帝国と交易するか支配するか、どっちにしても帝国人民は金儲けのための資源だもの。数が多いに越したことはないんだし、それを大きく減らすのってもったいないでしょ?」

 

「確かに……」

 

「とまあ、そんなことより! どんどん食べなさい! アウラ達もよ~」

 

 茶釜が言うと、彼女の両脇から元気な返事が聞こえる。声だけでなく食べっぷりも元気なのだが、そのアウラ達の視線が、時折、茶釜の方を向いているのにモモンガは気がついた。

 

「アウラ達は……茶釜さんのことが何か気になるのか?」

 

「へっ? 私っ!?」

 

 言われて気がついたらしく、茶釜が自分を指差してからアウラ達を交互に見た。一方、アウラ達はと言うと恐縮することしきりであったが、やがてアウラがモジモジしながら語り出す。

 

「ええとですね、創造主である茶釜様と、一緒に食事ができて幸せだな~……とか、茶釜様は凜々しくてお美しいな~……って思ってました」

 

「ふむ。凜々しくて美しいか……確かに……」

 

「ちょ、モモンガさん。冷静に納得しないで、その……恥ずかしいから……」

 

 照れる茶釜だが、それもまた凶悪に可愛いので、モモンガとしては眼福だ。

 

「こう恥ずかしさで悶えるって、私のキャラじゃないんだけど。でも、なんだか悪くない気分~。それにしても凜々しくて……ねぇ」

 

 自分がきつめの顔立ちというのは自覚しているが、もう少し表情を作ってみても良いのかもしれないと茶釜は思う。例えば、自分をモデルに創造されたユリ・アルファのように……。

 

「茶釜さんは、普段どおりでいいと思いますよ?」

 

「……モモンガさん、そういう事をサラッと言うんだから……。無自覚たらしってやつ?」

 

 口を尖らせる茶釜。しかし、その内心は「今のままが良いって! やだ、嬉しい! テンション上がる! 好きな人に、そういう風に言われるのって超ヤバい! 胸がドキドキするし、顔とか熱くて……嫌あああ! 今、顔に出てるっ!?」と、多幸感と羞恥の坩堝(るつぼ)と化していた。

 茶釜は両頬を手の平で挟んで俯いてしまったが、彼女をそうさせたモモンガは首を傾げて呟く。

 

「ユリ・アルファのモデルという話は前にも聞きましたけど、普段の面立ちは結構違ってますよね? やまいこさんの性格が影響してるのかな?」

 

「……う~、それもあるけど、やまちゃんの理想とかも入ってると思うわよ?」

 

 頬を擦りつつ茶釜が復活した。

 ユリの作成時、やまいこからお披露目された茶釜は「私をモデルにした……にしては、優しげねぇ……」と苦笑したらしい。

 

「そしたら、やまちゃんが『だって、かぜっちはニコニコしてるのも魅力的だから!』って言ったのよね~……」

 

 つまり、ユリが普段から優しげな雰囲気でいるのは、制作者であるやまいこの性格的影響もあるが、茶釜のニコニコ顔を見たいという、やまいこの思いも反映されているのだ。

 

「なるほど、理想ということですか。となると、茶釜さんのアウラとマーレも、似た感じで製作されたんですかね?」

 

「まあ……そうなんだけど……。私の……理想的な姉弟の在り方と言いますか……。何と言うか……」

 

「……ああ、なるほど……」

 

 茶釜が言いにくそうにし、モモンガは事情を察した。が、アウラ達は感涙しつつ聞いている。

 自分達は、至高の御方……それも創造主様の理想形として生み出された。それは、ナザリックの僕にとって、この上ない喜びをもたらす情報だったのだ。

 

(感動してるアウラ達に教えるわけにはいかないけど。茶釜さんが言ってる理想形って、そんなに褒められたものじゃないと思うぞ~?)

 

 弟、ペロロンチーノとの姉弟関係から来る不満やストレスを、ユグドラシルの特徴たる『自由さ』の中で最大限に発散した結果……。生まれたものは、容姿端麗なロリとショタ。姉は弟に対して常に上位。弟は気弱で姉には絶対服従だ。

 

(茶釜さんがどう思ってるか微妙だけど。アウラ達が幸せそうだから、別に良いんだろうな……たぶん……)

 

「ああ、ハイハイ。抱っこね。弟も、あなた達ぐらい可愛ければな~……」

 

 懐いてくるアウラ達の相手をする茶釜。

 その様子を見ているモモンガは、何だかペロロンチーノが気の毒に思えてくるのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルメンの一人、やまいこ。彼女は現在、自室にて着せ替え人形となっている。

 エ・ランテルに出かけたいけど、外出用の服で良い感じの物があるか……という問いを、自らが創造した僕、戦闘メイド(プレアデス)のユリ・アルファに投げかけたのが発端だ。

 まず、異形種化した姿で行くのか、人化して行くのか。それを聞かれたので、「人間の都市に行くんだから、人化するよね!」と答えたことで、ユリが発憤。この状況へと流れていったのである。

 

「ユリ~……。もう、この辺で良いと思うんだけど?」

 

 少し硬めのクッション型丸椅子に座らされたやまいこは、もう何着目になるか解らない黒ゴスの衣装に身を包みながら、ユリに話しかけた。周囲では多くの一般メイドが衣装を抱えて移動しており、非常に忙しそうだ。しかし、誰も彼も、皆が喜悦にまみれた表情をしている。やまいこの……至高の御方のお世話をすることが嬉しくてたまらないのだ。

 そして、ユリはと言うと、やまいこの長い黒髪を丁寧にくしけずりながら、眉間に皺を寄せる。

 

「いけません。やまいこ様には、外出されるに相応しい衣装というものがございます。徹底的に吟味するのは、(ぼく)達……ナザリックの(しもべ)の使命なのです!」

 

「「「「きゃーっ! ユリさ~ん!」」」」 

 

 言い終わりに人差し指で眼鏡位置を直し、舞台劇か何かのようにポーズを決めるユリ。そのユリに周囲の一般メイド達が、替えのブラシや別衣装を持ったままで黄色い声をあげた。

 

「あ~、うん。もう、好きにしてね?」

 

(ユリって、こういう子だったっけ?)

 

 苦笑しながらやまいこは首を傾げる。

 

「はううう! やまいこ様っ!」

 

 一方、創造主がやまいこである事。そこからくる遺伝のような可愛い物好きに、創造主のお世話をする多幸感も相まって……ユリのテンションは、高いところを維持したままなのだ。

 やまいことしては、嫌な反応ではないので好きにさせていたのだが、着せ替え人形状態も時間が長くなると飽きてくる。

 

「ふ~ん……」

 

 足の長さに比して、少し高めの椅子の上。

 やまいこは足をブラブラさせつつ、外出計画を練っていた。

 

(もう少ししたら切り上げて、誰か誘ってエ・ランテルに行こうかな~。……誰に声を掛けよっかな?)

 

 

◇◇◇◇

 

 

 王国王都に位置する、ヘイグ武器防具店。

 店長は、冒険者ヘイグことヘロヘロであり、普段店を切り盛りしているのは店長代理のセバス・チャン。外には、ソリュシャン・イプシロンやツアレニーニャ・ベイロンなどが従業員として働いている。

 今日は、珍しくヘロヘロ(人化中)が、店長として顔を出しているのだが、格好は冒険者としての装束……いわゆるモンクの修道服姿であった。よって、慣れた客でもなければヘロヘロを見て店長だとは思わない。

 客と言えば、今は午前中……店内には男性戦士が三名、女性盗賊一名、魔法詠唱者(マジックキャスター)らしき男女が一名ずつの計六名。大人数とはいかないが、武器防具店の開店直後として考えれば多い方だ。ヘイグ武器防具店は儲かっているのである。

 

(ポーションも売れてる感じですね~。こちらの世界の素材でポーション作成をさせてますが、下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)としての性能は、そこらの薬師の上を行きますからね~)

 

 錬金術の得意なタブラ・スマラグディナが合流しているので、ナザリックのポーション事情は明るいのだ。もし、エ・ランテルでポーション販売をしたとしたら、バレアレ氏に対する営業妨害になったことだろう。

 

「よっ! 店長! 珍しく顔を出してるじゃないか?」

 

 かけられた声に振り向くと、そこには王国の犯罪組織『八本指』……における、警備部門の幹部にして『六腕』の一員、幻魔サキュロントが居た。一緒に居る全身甲冑の男は同じく六腕所属である、空間斬ペシュリアンだ。

 

「これはこれは、いらっしゃい。今日は武器をお求めで?」

 

「今日は、こいつの用さ。俺は、あ~……付き添い兼の見物人ってとこだな」

 

 サキュロントが親指で後方のペシュリアンを指し示すと、少し後ろに居たペシュリアンは、サキュロントの左肩側を回り込むようにして前に出た。

 

「頼んであった、新しい斬糸剣が完成したと聞いたのでな。寄らせて貰った」

 

 以前、六腕のメンバーは、王国のアダマンタイト級冒険者『蒼の薔薇』のメンバーと共に、ナザリックのギルメンらと手合わせをしたことがある。その際、ペシュリアンは同僚のマルムヴィスト、蒼の薔薇のガガーランと共に武人建御雷と対戦し……敗北したのだ。手合わせの最中に彼の愛用する武器、斬糸剣は細切れにされてしまったのだが、気の毒に思った建御雷が「新しいのを用意してやる」と約束していたのである。

 その新しい斬糸剣の完成について、ヘロヘロは事前に建御雷から聞かされていた。

 

「そうそう! セバスに、貴方と連絡を取るよう言ってたんでしたっけ。ソリュシャン~? 建御雷さんからの届け物は……」

 

「こちらに用意してあります」

 

 いつの間に用意したのか……と思いたくなるほどの即答ぶりだが、スライム種の特徴である体内収納をしたのではなく、カウンターの下に収納してあったらしい。

 ソリュシャンの抱える木造りの収納箱を受け取ったヘロヘロは、ペシュリアンに手渡そうとして躊躇った。

 

「贈答用に包装した方がいいですかね?」

 

「いや、良ければすぐに現物を見たい。ここで取り出しても構わないだろうか?」

 

 気取った贈答包装よりも、現物。

 わかりやすくて大いに結構! と、ヘロヘロは頷き、店内に三つ用意されたテーブルへとペシュリアン達を案内した。これらのテーブルは、商談をしたり、商品の説明をするために使用されるものだ。椅子四つと共に設置された木製の円テーブル、そこに木箱を置いたヘロヘロはペシュリアンの反応を楽しみにしつつ蓋を取り払う。

 出現したのは、値の張りそうな紫の布を敷物とした……一振りの長剣だった。

 これを見たペシュリアンが首を傾げる。

 

「斬糸剣……なのだな? いや、前のも長めの鞘に収納していたが……」

 

「もちろん、斬糸剣ですよ~。鞘に収納というのも同じです。ただし……」

 

 鞘を装着したままでの殴打に耐える構造となっていた。ここまでは、普通の剣でも可能なことだが、この斬糸剣は、鍔元の操作で鞘に両刃が出現する。

 

「とまあ、普通の剣としても使えます。斬糸剣は特徴的で目立ちますからね。身分を隠しての立ち回りなども可能でしょう。鞘に刃が出るというのも特徴的なので、将来的には貴方を示す特徴になるでしょうが……。最初は鞘での殴打。危ないと感じたら両刃を出す……という運用もいい感じかもしれませんね」

 

「中々に良い細工だ。しかし、細工の多い道具は壊れやすいとも聞く。耐久性はどうなのだ? 殴打に耐えるとのことだが、両刃を出す機構に影響は出ないのか?」

 

 ペシュリアンが、実用性を重視した質問をしてきた。実にもっともな質問だが、ヘロヘロ……ではなく、制作者の建御雷に抜かりはない。

 鞘に両刃が出現するのはマジックアイテムによるもので、鍔内部にあるマジックアイテムが破損しない限り、機能不全には陥らないのだ。なお、両刃自体に関しては破損しても暫くすると再生可能である。と、この辺りの説明を受けたペシュリアンは、表情こそ見えないが何度も頷いているので気に入った様子だ。

 

「なるほど。良くわかった。それで……肝心の斬糸剣なのだが?」

 

 斬糸剣に関しての運用は、基本的に従来どおり。

 鞘での殴打や両刃を出しての戦闘中でも、手元操作で鞘が脱落し、斬糸剣の運用が可能となる。

 

「鞘には帰還の魔法が仕込まれています。王都の端と端ぐらいの距離なら、呼び戻すように念じると斬糸剣に装着されるそうです」

 

 本当は、更に数㎞ぐらい離れていても鞘の転送が可能なのだが、面倒だと思ったヘロヘロは適当に説明を行っていた。

 さて、新規に建御雷が作成した斬糸剣だが、総アダマンタイト製の逸品でもある。転移後世界では硬いことで知られるアダマンタイトだが、そこは建御雷の武器作成スキルによって、斬糸剣として運用可能なように仕立て上げられていた。

 

「総……アダマンタイト製……だと? ほ、本当なのか?」

 

「鞘も、ほとんどアダマンタイト製ですよ~。転移後……じゃなくて、こちらの世間一般では最高級素材だそうで。ふんだんに使用しました。建御雷さんも、手持ちの武器で良い感じのがなかったからって、張り切ってましたからね~。……最初から、お手製にしようと思ってた節がありますけど……。ま、それはともかく、斬糸剣ですが……炎の魔法が付与されているそうです」

 

 簡単に言えば、使用者の思念に合わせて、斬糸剣から炎が吹き出すというものだ。火力レベルは<火球(ファイヤーボール)>相当。

 

「飛んでくる魔法を撃ち落としたりできるでしょうね。あとは絡め取った相手を丸焼きにしたりとか……。ああそうそう、思念を集中すると熱が吹き出さずに、斬糸剣自体が赤熱化……標的を焼き溶かして切断……なんてことも可能だそうです。……熱量は<火球(ファイヤーボール)>の集約程度ですので、過信はしないように~」

 

 ちなみに、一日で三回までの使用が可能だ。

 本来、もっと高い性能の斬糸剣を製作できたのだが、建御雷の「無闇矢鱈に高性能な武器を持たせたら、武器が強いだけで、そいつのためにならない」という主張及び主義によって、今の性能に落ち着いている。それを言うなら、魔法付与は余計な気もするが、建御雷の中の『凝り性』の部分が我慢できなかったらしい。

 こういった事情のある斬糸剣だが、一通りの説明を受けたペシュリアンは「さっそく試してみたい!」と申し出たので、皆で試用室へ移動している。そして巻き藁を火だるまにしたり、廃棄用の全身鎧を赤熱・斬糸剣で溶断したことで、ペシュリアンのテンションは天にも昇らん程となっていた。

 

「建御雷さんからの伝言です。『良い感じの武器になったと思うが、性能頼みの戦い方に堕しないように。腕が上がったと思ったら、また訪ねて来い。上達具合によっては、もっと良い物を造ってやる。鎧とかもな……』とのことです~。気に入られてますね~」

 

「おお……おお、そうか! やるぞ! 俺は、もっと上手くなる!」

 

 鞘に戻した斬糸剣を撫でながら、ペシュリアンが吠える。

 

「ちぇっ、いいよな~」

 

 その様子を不服そうに見るサキュロントが、下唇を突き出した。そして、腰の短剣をみて、「俺も、この店で新調しようかな~……」などと呟いている。そこに商機を見出したヘロヘロは、細い目を笑みの形にし、サキュロントに話しかけた。

 

「六腕の皆さんには、王国の裏を支えて貰ってますから。これからの仕事ぶりによっては、格安で御相談に乗りますよ?」

 

「ほ、ほんとかっ!?」

 

「ええ!」

 

 色めき立つサキュロントに、ヘロヘロは頷いてみせるのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「あんた、アンデッドなのに勉強家よね~」

 

 ナザリックの最古図書館(アッシュールバニパル)

 そこで一冊の本を読んでいたクレマンティーヌは、斜向かいで座るアンデッド……デイバーノックに話しかけた。現在、最古図書館には司書達以外に、カジット・デイル・バダンテールも居るが、こちらはクレマンティーヌ達から離れた位置で書物に埋もれている。チラッと見える表情は、興奮に満ちており、魔法的情報を欲するままに得ているようだ。

 デイバーノックも、自身の左右に書物を積み上げている。多くは死霊系魔法のようだが、中にはドルイド系魔法の書物も含まれていた。

 

「エルダー・リッチとして自我を得てより、俺は魔法への興味が尽きなくてな。ここは天国だ。神の世界だ……。許されるならば、ここで寝泊まりしたいくらいだ」

 

「ご熱心ね~。私は、モンスターの資料をあさったり……たまにマンガ……だっけ? こんな風に絵本を読むぐらいかしらね~」

 

 そう言いつつクレマンティーヌは、右目に装着した片眼鏡(モノクル)を人差し指で突いてみせる。それは翻訳機能があるマジックアイテムで、タブラが私物の在庫品を最古図書館に備え付けたものだ。これにより、転移後世界の者であっても日本語等で記された書籍を読むことが可能となる。ちなみにデイバーノックも使用しているが、彼の場合は、素で読めるようになるためと、時折外していた。

 

「なんにせよ、本を読むということは大切だ。新たな知識は、自身を豊かにする。ちなみに……どのような絵本を読んでいるのだ?」

 

「んん~? ええと……超生意気な幼児が、育児施設の大人や両親をからかったり、大人の女にちょっかい出す感じの……」

 

 眉間に皺を寄せたクレマンティーヌが、下唇の下に指を当てて視線を上に向ける。聞くにろくでもない書物のようだ……とデイバーノックは思ったが、そこで最古図書館に一人の男性が入ってきた。

 元スレイン法国の騎士、ロンデス・ディ・クランプである。

 カルネ村を襲撃した後、様々な経緯があってクレマンティーヌと共にナザリック入りした彼だが、今では翻訳等の事務仕事、たまにギルメンのお供として外について行くなどして働いていた。これはクレマンティーヌも、ほぼ同様だ。彼女がロンデスと違うのは、武技の教官として、ナザリックの者達に接することがあるほか、スレイン法国の中枢に対してのコメントを求められたときに答えるなど……である。

 

「クレマンティーヌ。時間だぞ? 俺と一緒に、弐式様に同行するのだろう?」

 

「え? 時間には随分と余裕があるんじゃないの?」

 

 この日、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルメン……弐式炎雷が、ギルメン捜索の一環で、聖王国方面へ出かけることとなっていた。途中で<転移門(ゲート)>を使用して王国に寄り、ヘロヘロと合流してから本格的な行動に移るのだ。

 クレマンティーヌとロンデスについては、転移後世界に関するガイド役として同行することになってる。その他、お供としてナーベラル・ガンマとソリュシャン・イプシロンの同行が予定されていた。

 もっとも出発予定は本日の午後であり、今は午前中なのだから、クレマンティーヌが言ったとおり時間的な余裕はある。

 

「軍人たる者、時間前に準備は整えておくものだ」

 

「私、軍人じゃないしぃ。もう漆黒聖典とかでもないしぃ~」

 

 漫画本を放り出し、テーブル上に下顎をつけたクレマンティーヌは、面倒くさそうに言いながらロンデスを見る。対するロンデスは「駄々っ子か?」と呆れ、両手を腰に当てた。

 

「軍人ではないが、いい歳した大人だろう? ほら、さっさと立つ! 本を片付けるのも忘れないように!」

 

「歳のこと言うとか……ロンちゃん、モテないわよ~? ……私以外に……」 

 

 ふて腐れながら立ち上がったクレマンティーヌであったが、その顔色が青くなる。少し離れた書棚の影から、司書長、ティトゥス・アンナエウス・セクンドゥスがジッと見ていることに気がついたからだ。二本角を生やした骸骨の魔法使い(スケルトン・メイジ)は、動物の特徴を備えており、足には蹄などがある。骸骨なので表情は窺えないが、何となく視線が冷たいのは理解できた。

 すでにナザリックの一員となって久しいクレマンティーヌが、なぜティトゥスに睨まれるのか。それは『至高の御方』が関係する事柄で、クレマンティーヌがだらけた素振りを見せているからだ。

 

「あ、あは、あははははは! に、弐式炎雷様をお待たせするのは、駄目の駄目駄目だよね~っ! ロンちゃん! 特急で支度するわよ!」

 

「そのロンちゃんというの、本当にやめてくれないか?」

 

「いいから! とっとと行く!」

 

 これで誤魔化せますようにと願いつつ、クレマンティーヌは走る……のは司書長から叱られる行為なので、ツカツカと歩いて漫画本を返却。ロンデスと共に最古図書館を出て行った。

 デイバーノックは二人の後ろ姿を見送ったが、やがて一言「仲が良いな……」とだけ呟き、再び魔導書に目を向けている。ただ、クレマンティーヌが読んでいたマンガ……漫画なるものに対し、彼は興味が湧いており、後日、『女学校の生徒間における、スール制度なる姉貴分と妹分の間柄から生じるドラマを題材とした小説……を原作とした漫画』を読みふけるデイバーノックの姿が目撃されることとなる。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 ナザリック地下大墳墓……の宝物殿。

 ここでは今、二人のギルメンが居て数々のアイテム類を発掘中だ。

 一人は、ペロロンチーノ、もう一人はベルリバーである。ちなみにデストラップ対策は講じているので、安全な状況下での発掘作業中なのだ。なお、ペロロンチーノの制作NPCであるシャルティアも居て、別所で発掘作業に従事している。

 彼らが居るのは金貨類や、それほど重要ではないアイテムを山積みしている場で、本来なら一〇〇レベルのプレイヤーが、手作業で漁るような重要アイテムは存在しない。しかし、ここは転移後世界。ユグドラシルにおいては、ネタアイテムやジョークアイテムだった物が、思わぬ効果を発揮するかもしれない……ということで、ギルメン達は交代で発掘作業に当たっているのだ。

 そして、今日の当番は、ペロロンチーノ及びベルリバーのコンビとなっている。

 

「なあ、ペロロンチーノさん?」

 

「なんです? ベルリバーさん?」

 

 パーティーアイテムのクラッカーのような物を手にし「何だっけ、これ?」と呟いていたペロロンチーノは、そのクラッカーをアイテムボックスに収納しつつベルリバーを見た。

 

「聞きたいことがあるんだが……」

 

「なんです? 真面目な話っぽいですね?」

 

 完全に発掘作業の手を止めたペロロンチーノは、身体ごとベルリバーに向き直った。

 

「そう、真面目な話だ。ペロロンチーノさん、俺はな、元の現実(リアル)では割と厄介なことに関わっていた。下手を打ったら殺されるかもってレベルのな」

 

「それは物騒ですね……」

 

 ベルリバーが語った内容は、元の現実(リアル)で生きる者なら、大抵は知ってる大企業の闇に関わることだった。ベルリバーは、その大企業について重大な情報を入手しており、それを利用して大企業に一矢報いようと……。

 

「画策してたところ、志半ばで転移後世界に来たわけだ。メコさんと一緒にな。まあ、予定どおりの行動を取ってたら、数日先まで生きていられたか怪しいもんだが……」

 

「本当に物騒ですね。それで? それを俺に話したって事は……お悩みですか? 元の現実(リアル)に戻るかどうか……とか」

 

「そ、そうなんだ! そうなんだが……」

 

 ベルリバーは「意外だ!」という思いを込めてペロロンチーノを見た。エロゲー好きで下ネタ好き。明るく気の良いチャラ男……なペロロンチーノが、鋭い読みを発揮している。

 

「ちょっとしたリサーチのつもりだったけど、今の話だけで良くわかったな」

 

「ふふふっ。エロゲーで数多(あまた)のロリ(キャラ)を落としてきた俺を、舐めて貰っては困ります!」

 

 やはり、思っていたとおりの男だった……。

 ベルリバーは、肩の力が抜ける思いで話を続ける。

 自分は、元の現実(リアル)では精一杯やった。最後の最後まで行動し続けたから、悔いはない。

 

「そのつもりだったんだが……残してきたことが、どんな結果に終わったのか気になってな……」

 

「それで、他のギルメン……俺が帰るつもりかどうか聞きたかったと?」

 

 ベルリバーは頷いた。

 対するペロロンチーノは仮面着用なので、表情は解らないが……やがて小さく溜息をつく。

 

「ベルリバーさんの悩みの解決になるかは解らないですけど、俺自身は帰るつもりはないですよ。あと、姉ちゃんもですけど」

 

 ペロロンチーノと姉のぶくぶく茶釜は、元の現実(リアル)でかなり追い詰められた状況だった。姉が有力者の性玩具になるかもという……あの状況に戻るくらいなら、転移後世界で面白おかしく過ごしている方が万倍も素晴らしい。

 

「そうか……。そうだよな……。こっちの世界の方がいいものな……」

 

 ベルリバー自身、このことで何度も悩んでは居た。

 その都度、「もう色々忘れて、転移後世界で楽しく生きていこう」で悩みは解決するのだが、ふと、元の現実(リアル)のことを思い出したときに、また悩み出すのである。

 

「結局のところ、俺は無理して元の現実(リアル)に戻る気が無いんだよな~……」

 

 大企業がらみの活動については、ウルベルト・アレイン・オードルとも連携していたが、ウルベルトが合流したら、また相談してみよう。そのように、ベルリバーは判断した。

 

(って、考えるのも、もう何度目なんだか……)

 

 

◇◇◇◇

 

 

 更に数日が経過し、モモンガは自室に手を加えた執務室で書類と格闘している。

 現在、異形種化中であり、骸骨が書類仕事とか随分な光景だ、そう彼自身も思うのだが、それも最初の頃だけで、今はとにかく書類の内容に目を通すので必死だった。とは言え、多くはタブラ及びぷにっと萌えの目が通った後なので、モモンガとしては確認して決裁するだけだ。今のところ「これは間違ってるんじゃないか?」と思ったことは一度もない。

 

(俺以外の……誰も彼もが有能すぎる!)

 

 嬉しいことではあるが、組織のトップとしては少しばかり情けなく思うのだ。そういった沈んだ気分で書類の始末を続けていくと……とある報告書がモモンガの目にとまった。

 

「うん? 帝国から王国に対し、休戦申し入れの動きあり……だと?」

 

 よく目を通したところ、近日中に帝国から王国に対し、毎年行われていた戦いを休止することと、交易に関しての協議を行いたいから使節を派遣するつもりのようだ。

 

(ふ~ん? まあ、戦争しないで交易しましょうってのはいいと思うんだけど、帝国側が折れる形になるのか……。王国側が、調子に乗ってきつい条件とか付けたり……は、しないだろうな。デミウルゴスの指導が入ってるんだしな) 

 

 それでも折れた側……帝国は何らかの賠償を支払うことになるだろう。それは金銭だったり、ナザリック地下大墳墓の地権に関して口出ししないことなどだろうが、モモンガは難しく考えることを放棄した。

 

(俺の判断が必要なら、タブラさん達が相談してくるだろうし。オッケー、オッケー、問題なし!)

 

「アルベドよ。帝国との戦いがなくなりそうで、思った以上に事は簡単に運びそうだな」

 

 傍らで立つ守護者統括に聞いてみる。

 問題があるようなら何か言うだろうし、問題なしだと言うのなら……そういう事なのだろう。何しろ、アルベドはモモンガよりも遙かに賢いのだから……。

 

「はい、アインズ様。王国の支配完了は目前。次は帝国ですが、武力によらない支配を至高の御方はお望みですから、この度の展開は非常に望ましいかと。ですが……」

 

 それまで事務的に話していたアルベドが、素に戻って困り顔になる。

 

「どうかしたか?」

 

「いえ、アインズ様を初めとした至高の御方の活躍が見られず、ナザリックの僕としては残念の極みなのです……」

 

 そう言ってアルベドがはにかんだので、モモンガは破顔する。もっとも、今は異形種化しているので、骸骨がカパッと口を開けただけにしか見えないのだが……。

 

「そうか、確かにそうだな。私も建御雷さん達が突撃する様は見てみたかったな……。なぁに、この世界は広い。いずれは、そういった機会もあるだろうよ。では、特に問題はないのだな?」

 

 モモンガとしては念押しでの確認だったが、アルベドは「そう言えば……」と話し出す。

 

「帝国の使節団の中に、帝国最強……人類最強でしたか? 魔法詠唱者(マジックキャスター)のフールーダ・パラダインが含まれる可能性は高いです。帝国が休戦を考えたのは、第十位階魔法のデモンストレーションが原因ですので、向学心からアインズ様に面会を求める可能性も高いですわね」

 

「えっ……」

 

 モモンガは直前まで上機嫌だったが、それが寸断された。

 一国の上層部の人間と会うなどは、先日のデモンストレーションの一件だけでお腹一杯なのだ。正直言って勘弁して欲しいし、タブラ辺りに丸投げできないかとも思ってしまう。

 

(そうだ、タブラさんに任せよう! それがいい! いや~、俺一人で転移したんじゃなくて本当に良かった! 持つべきものは友人! ギルメンなんだよな~っ!)

 

 モモンガの機嫌は、再び上向きになった。

 そんなモモンガが、タブラに向けて<伝言(メッセージ)>をし、「何言ってるんですか。第十位階魔法を使ったのはモモンガさんだって知られてるんですから。モモンガさんが応対するのがベストでしょ?」とお説教をされ、肩を落とすのは数分後のこととなる。

 なお、対案として「パンドラズ・アクターを代わりに出す」と述べたところ、「責任から逃げちゃいけません」と真っ向から粉砕されてしまった。結局のところ、タブラの付き添いを願い出て、それが了承された事のみがモモンガにとっての安心材料となる。

 <伝言(メッセージ)>を終えたモモンガは、重々しく(こうべ)を垂れながら呟いた。

 

「なんで、そ~なるの?」

 

 後に、この台詞を口真似つきでアルベドから聞かされたタブラは「うう~ん、遙か昔のコメディアンのギャグとは、さすがはモモンガさん……」と感心しつつ唸ったという。

 




 今回は、基本的に日常回となります。
 話が進んだ部分と言えば、フールーダの出張が確定なのと、弐式&ヘロヘロが聖王国方面に出かけるところですか。

 そろそろ最終章、突入かな~。
 100話まで行かないかもしれませんね。
 ギルメン同士やギルメンとNPC達の日常回に関しては、感想などでリクエストがあったら採用するかも知れません。書くのが苦手なキャラは、無理かもですけど。

 ペシュリアンに渡した建御雷製作の斬糸剣。能力を盛りすぎたかな……と思いましたが、まあ許容範囲かな……と。
 ペシュリアンが建御雷さんに気に入られているのは、扱いの難しい武器で、裏社会でそれなりに登り詰めてるから……とか。 

 ベルリバーさんの真面目&悩みムーブは、今回で終わりかな。
 何度もやると、うっとうしさが先に来ますから。
 ウルベルトさんが合流したときに、どうなるかですけど……。

 タブラさん、厳しい感じですけど。一緒に来て! って頼んだら、付いて来てくれる人なのです。モモンガさん以外が相手だと、どうなるかわかりませんが……。
 
<誤字報告>

D.D.D.さん、佐藤東沙さん

毎度ありがとうございます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。