オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第92話

「おおおおおおおっ! 貴方様こそ! 我が真実の神! 魔の頂への導き主! 儂は、儂は、すべてを差し出しますぞーっ!」

 

「うわっひゃあああっ!?」

 

 今、悲鳴をあげたのはモモンガ……ではなく、タブラ・スマラグディナである。彼の目前、白髪の老魔法使い、フールーダ・パラダインがテーブル上にて跪き、胸に手を当ててタブラに顔を寄せている。その顔と顔の距離は、非常に近い。

 タブラの隣に座って目を丸くするモモンガは、漆黒ローブ(冒険者チーム『漆黒』仕様で、聖遺物級(レリック)相当。)着用の上で、悟の仮面を使用しつつの人化中だ。一方、タブラは、デザインの違う漆黒仕様の黒ローブを着用しているが、モモンガのように仮面を使用しているわけでもなく異形種化中。ただし、強力な幻術と課金アイテムの併用で、人化したタブラを出現させているわけだ。

 モモンガの厳重さと比較して、タブラは身バレ対策がゆるゆる。

 そのように思えるが、これは一つの実験なのだ。

 魔法詠唱者(マジックキャスター)の使用位階を見抜く……看破の魔眼とでも言うべきタレント(生まれながらの異能)。これを有するフールーダに対し、探知阻害のアイテム以外の装備が、どこまで影響があるかを試したいのである。

 本来なら、各アイテムのオンオフを試していく手はずだったが、探知阻害の指輪を外したが為に大変なことになってしまったようだ。

 ちなみに、帝国の冒険者チーム『フォーサイト』の一員、アルシェも同様のタレントを持つが、彼女に対しては実験済みである。結果は、探知阻害のアイテムを装備しているかどうかが重要なのであって、他の要素は影響しないというもの。

 今回、フールーダに対しては、別個人に対する同じ実験で、データ収集をしたいのだ。

 そういった思惑の下、モモンガと付き添いのタブラ(護衛名目で、人化した武人建御雷と獣王メコン川も同行している。)は、帝国の宮廷魔術師……フールーダ・パラダインと面会をした。場所は、王城の来賓室である。

 面会の開始当初は、極普通の歓談となった。

 フールーダは当たり障りのない話をし、モモンガとタブラが転移後世界の魔法知識を得て感心したような声をあげる。これは演技ではなく、本心からの反応だ。

 

(お~……そんな回りくどい儀式を……。俺なんか、プレイヤーでアンデッドで一〇〇レベルなものだから、『出来るから出来る』の状態だし? ちょちょいのちょいで、第十位階魔法とか使えるんだけど……。こっちの世界の人は苦労してるんだな~……)

 

(ちょっと手順を組み替えるだけで、大幅に効率アップできそうだね~。その辺りで恩でも着せて、色々と協力してもらえそうかな~)

 

 自分達よりも実力で劣っていても、創意工夫の有り様について知れることは重要だ。自分達の思いつかない様な手法が、意外と役立ったりする。モモンガとタブラは、ソファ後ろで立つ建御雷達の「(位階魔法の)上限が低い割に、あの素材の組み合わせを思いつくとか……スゲーな……。どんだけ、実験とかしたんだか……」とか「建御か……おっと、タケヤンも、そう思うか? やっぱ年季が入ってると色々違うよな~」といった声を聞きながら、フールーダとの歓談を続けたのである。

 実に、有意義な時間であった。

 それが、おかしくなったのは……フールーダが、第十位階魔法の話を持ち出してからだ。

 まず、過日のデモンストレーションで、第十位階魔法を使ったのは誰か……という話になる。実行者はモモンガだったので、モモンガが「私だが?」と挙手した。その彼を一瞥してフールーダ、溜息と共に肩を落とす。看破の魔眼でモモンガの位階上限を見たようだが、モモンガは探知阻害の指輪を装着しているので、オーラなどは出ていない。次いで、タブラを見るも、こちらとて結果は同じだ。彼もモモンガと同様、探知阻害系のアイテムを装備しているのである。

 必然、本当にモモンガが第十位階魔法を使用したのか……と疑われることとなり、フールーダが「失礼ながら……」と、タレントによってモモンガ達の位階魔法を探っていたことを明かした。

 

(そういう事を黙ってやるなよ……。しかも、本人()の目の前でさぁ……)

 

 と思うモモンガであったが、フールーダのタレントについては事前に知っているので、無断で『看破の魔眼』を使われることは織り込み済みである。

 

(しかし、話の流れ上だけど、フールーダに対して第十位階魔法が使えることを証明する必要があるな。本人も確認したがってるし……)

 

 ランポッサ三世達に対してやったデモンストレーションのように、実演する方法がそれだ。とはいえ、今から<転移門(ゲート)>を使って移動し……というのは面倒くさい。そこで、アルシェに対して行った手を使うものとする。

 探知阻害のアイテムを外すのだ。

 フールーダのタレントは、アルシェと同様であるらしく、指輪類を一つ外すだけで納得して貰えることだろう。ただし、同じ部屋にレイナースが居るのは問題だ。発狂ゲージの溜まり具合も関連して、彼女に圧力が掛かる可能性が高い。したがって、フールーダとは違って、『事前に一言』言っておくべきだとモモンガ達は判断した。

 

「というわけで、レイナース殿は気をつけた方が良い。引っ繰り返る恐れがあるので、しゃがむとか……その様な感じだな」

 

 モモンガがフールーダ達に説明をし、まずタブラが「じゃあ、とりあえず私だけ外してみますかね?」と、探知阻害効果のある指輪を外す。だが、その結果、噴出したオーラを『看破の魔眼』で見たフールーダが……発狂した。

 

「こ、これじゃあ! これこそが!」

 

 そう叫ぶなりピョンと跳躍。

 膝高ほどのテーブル上に降り立つと、タブラに対して跪き、先程の宣言をしたのである。

 その行動、寄せられた顔の濃さ。どれもが理解不能であり、そして気持ちが悪い。

 最も間近で接することになったタブラが、悲鳴をあげるのも無理からぬことだ。

 

「た、タブラさんが裏声で叫ぶとか……。ホラー映画を見てるときしか聞いたことないぞ……」

 

 そう呟いたのは建御雷だったが、直接に攻撃されたわけでもないので、手を出すべきかどうか迷っている。これはメコン川やモモンガも同じだ。

 

「ぐ、うぎぎ……」

 

 モモンガ達とは別で、行動に出ようとしている者も居る。

 ソファの後ろで立つ、レイナースだ。彼女は槍を杖代わりとして踏ん張っていたが、タブラから噴出する圧により、金縛りのような状態となっている。

 

(こんのぉ、ボケ老人! この前は! 自重するようなことを言ってたでしょうがぁ!)

 

 想像を遙かに超えるタブラからの圧。第十位階魔法の行使を目にするまでもなく、彼が強者である事は理解できていた。絶対に戦ってはいけない相手なのだ……と。そして、そんなタブラ達に対し、フールーダが普段どおりの奇行に出たのが許せない。

 このままだとレイナース個人の目的達成が危うくなる。それも問題だが、第十位階魔法を使う相手に無礼を働き、機嫌を損ねでもしたら……。

 食いしばった歯に力を込め、レイナースは槍を振り上げた。

 

「国を……滅ぼす気かーっ!」

 

 室内の空気を震わせる怒声と共に、槍を振るう。

 ソファの後ろからなので離れた間合いだが、槍という長柄武器なだけあり、十分に穂が届く。さすがに穂先で突いたり、斬ったりするわけにはいかないので、レイナースは刃の無い部分でフールーダの頭部を張り飛ばした。

 

 ガボン!

 

 金属製のトレイ。その底部を叩いたような音がした。

 人の頭部を殴打したというのに……だ。

 

「がはっ!?」

 

 フールーダは咳き込むように息を吐くと、前のめりに昏倒。

 そのまま倒れ込んだ場合、硬直したタブラとの顔面接触になるため、レイナースが槍の穂先で引っかけて元のソファへと放り込んでいる。フールーダが、ソファ上で白く燃え尽きたボクサーのように項垂れ、そこから数秒間、室内にはレイナースの荒い息が聞こえるだけとなった。が、精神安定化により、いち早く再起動したモモンガが、タブラの肩を掴んで大きく揺さぶる。

 

「タブラさん! 指輪! 指輪を元に戻さなくちゃ!」

 

「え? ああ、そうでした! 騎士の人……レイナースさんでしたか!? 助けて頂いて……本当に、本当に! ありがとうございました!」

 

 礼を言うタブラの声は震えていた。

 ホラー映画などでは、怖い物を見ることになるのが前提だし、それと知った上で視聴に臨んでいるのだから、ある程度の覚悟はできている。しかし、初対面に近い老人に飛びかかられ、顔面の大アップを見せられるというのは、彼にとって初体験なのだ。後日、タブラは「失禁しなかった自分を褒めてやりたい」とまで述べている。

 

「いえ、その老人は未知の魔法に関して目がなく……。時折、正気を無くすのです。こちらこそ、本当に御迷惑を……」

 

 胸に手を当てて謝罪するレイナースであるが、モモンガ達が何か言う前に「失礼します」と言い、取り出したハンカチで顔を拭った。拭った箇所は、髪で隠れた右側……。

 

 にぢゃあ……。

 

 粘着質のある液体に触れたような音がし、顔から手が離れた際には、ハンカチに膿のようなものが付着していた。

 

「見苦しいもので……申し訳ありません。私の……持病なのです」

 

「……それは……病気かな? それとも呪いの類だろうか?」

 

 ようやく気が落ち着いてきたらしいタブラが聞くと、レイナースは言いにくそうにしながら……しかし、内心では歓喜しつつ身の上の事情を語り出す。

 

「ふむ、モンスター討伐時に呪いを……」

 

 一通り聞いたタブラは、モモンガによって強めの麻痺状態にされたフールーダをチラ見しつつ、レイナースの顔に掛かった呪いについて考察した。そして、レイナースを本人の許可を得た上で観察した結果、所有する職業(クラス)に『カースドナイト』があるのを確認する。

 カースドナイトの職業(クラス)特徴は、強力な治癒魔法でなければ癒えない傷を与える力を有すること。職業(クラス)のペナルティとしては、レベル四〇程度より下のアイテムを所持できず、破壊してしまうというものがあった。

 ちなみにナザリックでは、シャルティア・ブラッドフォールンが、カースドナイトの職業(クラス)所有者である。

 

「タブラさん。ひょっとして、このカースドナイト。呪われた結果……職業(クラス)がついたんですかね?」

 

「恐らく、そうでしょう……。レイナースさんは、カースドナイトを取得するにはレベルが低いようですしね。レイナースさん? まずは、おかけになって……」

 

 タブラが勧めると、レイナースは戸惑った様子を見せたが、断るのも失礼と考えたのか、槍をメコン川に預けてからソファに腰を下ろした。護衛任務中であるのに、主武器を手放すのは問題かもしれない。だが、護衛対象のフールーダが失礼を働いた末に昏倒中なので、構わないと思ったようだ。

 

「あっ……すみません。また……」

 

 また膿が出たのだろう、ハンカチを取り出して顔を拭っている。 

 それを見たモモンガ達が思ったのは、「気の毒だ……」ということ。タブラが助けられた恩義もあるが、今は人化(モモンガは、悟の仮面の下で)しているだけあって、感情も移入してしまう。そして「なんとかしてあげたい」と最初に考えたのはタブラだった。

 

(「モモンガさん、何とかしてあげてもいいですかね?」)

 

(「こっちの世界だと難しそうな呪詛のようですしね……。対価は……さっき、タブラさんを助けて貰ったってことで、要求しなくていいかな?」)

 

 モモンガは、肩越しに後方の建御雷とメコン川を見たが、どちらもレイナースを助けるについては賛成の様子だ。

 

「レイナース殿。おっと、ロックブルズ殿?」

 

「ゴウン様。レイナースと呼んでいただいて構いません。どうか、呼びやすいように……」

 

「ならばレイナース殿と呼ばせていただこう。そして……」 

 

 レイナースさえ良ければ呪詛について相談に乗ると申し出たところ、レイナースは感激しつつ申し出を受け入れている。元々、第十位階魔法の使い手ならば、呪詛をどうにかできるのでは……と期待していたのだ。この話に乗らないわけがない。

 そして、彼女の顔に掛けられた呪いについて、考察が始まった。と言っても、今回の場合はタブラではなく、主にモモンガが考察している。職業(クラス)関係など、ゲームルールに関してはモモンガの方が詳しいからだ。

 

「さすがモモ……アインズさん。私は、ギミック関係と錬金術の方なら多少はいけるんですけどね~」

 

「俺が思うに、タブラさんが得意な錬金術の出番もあると思いますよ?」

 

「え? そうなんですか?」

 

 首を傾げるタブラに対し、モモンガは思うところを述べだす。

 まず、レイナースに呪詛をかけたモンスターだが、呪いの得意なモンスターだったと言うより、職業(クラス)の付与が可能な能力を持っていたとモモンガは考えていた。

 

「こっちの世界で言う生まれながらの異能(タレント)ってやつですか? そういうのを持ったモンスターだった可能性があります」

 

 死に際にタレントを発動し、レイナースにカースドナイトの職業(クラス)を付与したというのがモモンガの見解だ。

 

「攻撃魔法ではないから、レイナースさんの虚を突いて抵抗を擦り抜けた……と言ったところでしょうか」

 

「モモ……んんっ、アインズさんよ。それだとレイナースさんに、カースドナイトの職業(クラス)が付くだけじゃねぇっすか?」

 

 建御雷から質問され、モモンガは説明を続ける。

 確かに、そのとおりだ。だが、その職業(クラス)付与、わざと失敗すればどうなるか……。

 

「カースドナイトの職業(クラス)特性が歪むでしょうね。規定のレベルに達していなくても、職業(クラス)取得できるかもだし、失敗のペナルティで、一部の能力低下や不具合なんかが発生するんじゃないですかね? 不具合、ええと……症状がどうなるか、ランダム要素がありますけど。高い確率で良くない……状態……に……その……」

 

 流暢に語っていたモモンガだが、徐々に歯切れが悪くなった。

 彼の言う不具合こそが、レイナースの顔に生じた歪みであり、膿の発生なのだ。 

 

「ん、ごほん。失礼。結論から言いますと、レイナース殿の顔の……症じょ……ゴホ、ゴホン! 状態異常を解消することは可能です」

 

「ほ、本当ですか!? ゴウン様!」

 

 腰を浮かすレイナースに対し、モモンガは頷いてみせる。

 理屈としては簡単で、不完全な職業(クラス)『カースドナイト』が呪詛として効果を発揮しているなら、その職業(クラス)自体を取っ払えば良いのだ。

 

「手っ取り早いのは、一度死んで……蘇生する際に手を加えることですが。わざわざ、死ななくともタブラさんが居ますしね! 呪いのアイテムを外すアレです!」

 

「へっ? ……ああ、なるほど。仮死薬ですか……」

 

 タブラの有する職業(クラス)、錬金術師。様々な高位ポーションを作成可能だが、その作成可能なポーションの中に仮死薬がある。ユグドラシル時代では、プレイヤーのアバターに使用することで、一時的に死亡扱いとなる効果があった。

 

 代表的な用途は、死なないと外すことができない呪いのアイテムを、デス・ペナルティ無しで外すことができるというもの。この効果が、レイナースにかけられた呪詛を解くのに有効ではないかと、モモンガは考えたのである。

 

「確かに、あの効果なら上手くいきそうですね。……私の私室に在庫があったはずだから、アルベドに言って……いや、<転移門(ゲート)>で私が行った方が早いか……」

 

 そう呟くとタブラは席を立ち、<転移門(ゲート)>で姿を消した。そして、数分後には再び姿を現している。随分と早い戻りだが、最初に(<伝言(メッセージ)>で一報入れた上で)<転移門(ゲート)>によってナザリック地下大墳墓に転移し、施設内ではギルドの指輪(リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン)を使用したことで、行動が早くなったのだ。

 

「お待たせしました。これが『仮死薬』です」

 

 差し出すのは小さな薬瓶。下級治癒薬(マイナー・ヒーリング・ポーション)と同じ瓶であるが、中の液体はピンク色だ。

 

「これを飲むと、貴女は一時的に仮死状態となります。効果時間は数十秒ですが、その間にカースドナイトの職業(クラス)を除去しますので、御安心を……」

 

 モモンガに仮死薬のことを指摘されて、タブラも仮死薬の運用について思い出している。本来、仮死薬で職業(クラス)除去はできないが、モモンガの想定どおりの状態であるなら、レイナースのカースドナイトは『剥がれやすく』なっているはずだ。服用して一発除去できないとしても、タブラが一緒に持ち出してきたポーションの幾つかで、クラス除去が可能となる。

 

(高い確率で大丈夫だね! ……もしダメなら、流れ星の指輪(シューティングスター)を使っちゃおう)

 

 流れ星の指輪(シューティングスター)は、超位魔法<星に願いを(ウィッシュ・アポン・ア・スター)>を経験値消費なしで三回発動可能とする。しかも魔法使用におけるレベルダウンもなく、一方で効果は魔法版より高いという超々希少アイテムだ。モモンガなどは多額の課金の末に入手したが、タブラが所有するのは、知人から譲り受けたものである。

 ユグドラシル時代の感覚で言えば、他者のためにおいそれと使えるアイテムではなかったが、今のタブラは使用することに何の躊躇も感じていない。レイナースに対しては、フールーダの件で大いに感謝しているからだ。

 

「さあ! どうぞ! まずはポーションでいってみましょう!」

 

「え? あの……展開について行けなくて……。こ、高価なポーションなのでは?」

 

 戸惑うレイナースに、タブラは「必要なら、また作れますので!」と言ってグイグイ押しつけていく。

 

「タブラさん、よっぽど怖かったんだな……」

 

 そういった建御雷の呟きが聞こえる中、ようやくレイナースがポーションを受け取った。この後はレイナースがポーションを飲み、仮死状態となったところで、モモンガ達がカースドナイトの職業(クラス)を剥がし……削除に掛かる流れとなる。が、ここでモモンガが重要なことに思い当たった。

 

「カースドナイトの職業(クラス)が無くなると、レイナース殿は今の状態より弱体化することになる。その点は構わないのだろうか?」

 

 レイナースの境遇を聞くに、カースドナイトに拘りは無いと推測できた。だが、聞いておかなければならない。ユグドラシル時代では「職業(クラス)が消えるだなんて聞いてない!」などと、事前説明の不足や相手方の無知によってトラブルに到った事例があるからだ。

 

「この顔から呪いが消えるなら! 弱くなることなど問題ではありません!」

 

 両手で持ったポーション瓶を胸元に寄せ、レイナースが叫ぶ。眉間に寄せられたシワ、据わった目、震える口元。モモンガは若干引きながら思った。

 

(こわっ! マジだ……。でも、この様子だと本当に心配しなくてよさそうかな~)

 

 

◇◇◇◇

 

 

 レイナースの意思が確認できたことで、モモンガ達は解呪に向けての行動に移る。

 

「女の人を床で寝かせるのはダメだな。ソファは肘掛けがあるから駄目だし……。これを敷こうぜ」

 

 メコン川が、アイテムボックスからマントを取り出し、建御雷が「レイナースさんが仮死状態になってるの、他の奴に見られたらマズいだろ?」と、見張りのために室外へと出て行った。 

 

「では、ポーションを飲んでください。味は果実ジュースですけど、飲むと意識を失いますので、私が支えて横にします。後は、こちらのアインズさんと私でカースドナイトを除去しますので」 

 

 甲冑を外し、メコン川が用意したマントの上で腰を下ろしたレイナースは、タブラに対して頷いてから瓶の蓋を開け、口元へ寄せていく。

 そして、それらの様子を……フールーダが見ていた。

 解呪作業自体はソファ等の応接セットの脇で行われていたので、麻痺で動けない状態でも視界の端で視認できたのだ。

 

(あの呪詛を解呪できるというのか!? 儂でも手が出せぬというのに! いやはや、さすがは第十位階の使い手様方じゃあああ! 何が何でも、教えを請わねばぁあああああ!)

 

 しかし、昏倒後に施された麻痺(モモンガによるもの)が強力なので指一本動かすことができない。

 第十位階魔法の使い手達と面会できたというのに……だ。

 モモンガ達はフールーダを放置したまま、レイナースにかかり切り。それはモモンガ達にしてみれば、タブラの恩人に対する恩返しなのだが、フールーダにとっては嫉妬が蓄積される時間でしかなかった。

 

「ほいっと、これで終了。思ったとおり、仮死状態にしてからの耐呪系バフ魔法で剥がれましたね~。顔の状態も綺麗さっぱりで……おお、美人ですね!」

 

 モモンガが覗き込むと、レイナースの顔の右半分……そこを醜く歪めていたモノが、跡形もなく消え去っている。復活したレイナースの顔立ちは、アルベドやナザリックの女性らを見慣れたモモンガからしても、十分に美人だと思えた。NPC達のような完成された美形も良いが、個性ある自然のままの美も良いものだと、そう感じたのである。それはタブラやメコン川も同感のようで、二人とも、唸ったり感心したりしていた。

 

「それにしても、さすがはモモ……~ンズさんだね。職業(クラス)とは言え、取得した原因は呪詛であり、呪いとしてレイナースさんにこびりついてる。……つまり、職業(クラス)としては定着が不安定。それを見抜くとは……。いやはや、対応力のキレはユグドラシル時代と変わりないですね!」 

 

「い、いやぁ~……」

 

 タブラに褒められ、モモンガは照れ臭そうに頭を掻いた。

 

「ユグドラシルでの知識が役に立っただけですよ。それに、タブラさんが仮死薬を提供してくれなかったら、本当にレイナースさんを死なせるか、ナザリックで在庫を探したりとか手間取ったはずで……。しかし、良かったんですか? 仮死薬は消耗品ですけど、こっち(の世界)じゃ、素材が入手できるかどうか……」

 

 転移後世界では、入手の目処が立っていない素材が多い。ナザリック地下大墳墓に大量の素材在庫があるとは言え、使い切ればそれまでなので、補充できない素材の使用は控えたいところだ。今回はフールーダの一件があったので、レイナースに対してタブラの私物である仮死薬を使用したのだが……。

 

「かまわないよ。まだ私物の在庫はあるし、私からすれば……レイナースさんには恩を返したりないくらいさ」

 

 そう言ってタブラは肩をすくめる。

 それなら、それで良いのだが……と、寝かされたレイナースの前で膝を突きながら、モモンガは思った。が、直後に、隣で立つメコン川と顔を見合わせている。

 

((どんだけ怖かったんだ?))

 

 タブラの感じた常にない恐怖は、フールーダの跳躍顔面アップを目の当たりにしなければ解らないものなのだろう。その後、「もう終わったか~?」と建御雷が呼びかけてきたので彼を室内に入れ、更に数分経過したところでレイナースが目を覚ました。

 

「……うう、私は……」

 

「お目覚めですか?」

 

 タブラの声を聞いたレイナースは、暫しボウッとしていたが、数秒後には目に力のある輝きが戻る。そして勢いよく上体を起こし、手の平で顔の右側を擦った。

 

「無いっ! あの嫌な手触りが無くて! こんな、こんな……」

 

 レイナースの頬を涙が伝って落ちる。そのまま両手で顔を覆い、レイナースは泣き続けるのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「本当に、どれほどの言葉を積み上げても、感謝を表現するに足りません」

 

 ようやく落ち着いたレイナースが、ソファに腰掛け、同じくソファに戻ったモモンガとタブラに礼を述べている。その表情は歓喜に満ちており、護衛任務中の騎士とは思えないほどだ。なお、護衛対象のフールーダは、今もなお麻痺したままであり、レイナースの隣で座らされている。

 

「いやあ、危ないところを助けていただきましたので。私の方こそ、レイナース殿にはお礼を言わせていただきます。ありがとうございました」

 

 そう言って笑うタブラは、こちらもまた上機嫌だ。

 危ない目とは、フールーダに迫られたことを言っているのだが、これにはモモンガも、そして、ソファの後ろで立つ建御雷達も苦笑いである。

 

「お礼と言うなら、こちらのアインズさんにもお願いしますね。カースドナイトを呪いごと引っぺがしたのは、アインズさんなんだし」

 

「功績としては、仮死薬を提供したタブラさんの方が大きいと思いますけどね」

 

 このように謙遜しあっているが、後ろで見守る建御雷とメコン川に言わせれば、五分五分と言ったところだ。

 モモンガは、治療手順の発案者で、カースドナイトの除去を担当している。だが、それはタブラ提供の仮死薬があったからこそ、スムーズに事が進んだのであって、無駄な時間を必要としなかった点ではタブラの功績も大きい。しかも、使った仮死薬はタブラの私物なのだ。

 

「この御恩に報いるため、ナザリック地下大墳墓でお仕えしたいのですが……。帝国騎士としての任もありますので……そちらが落ち着いてから、すべてを捧げたく……」 

 

 そう言ってレイナースが上目遣いで見てきたので、モモンガとタブラは顔を見合わせる。後ろの二人も同じだ。

 このレイナースの申出は、モモンガ達にとっては……実は有り難い。スレイン法国関連ではクレマンティーヌとロンデス。王国では六大貴族や八本指。そう言った協力者や伝手があるものの、帝国方面では今のところ人材が少ないのだ。

 

(強いて言えば、ワーカーに友好的なチームが幾つかあるぐらいかな~。そっちだと、メコン川さんと個人的に親しい女性も居るし?)

 

 モモンガが肩越しにメコン川を見ると、視線の意味を察したのか、メコン川が口をへの字に曲げる。

 

(おおっと、怖い怖い。まあ、なんだな~。影の悪魔(シャドウ・デーモン)ばかりじゃ不都合もあるし、帝国の上層部に居る人間が協力者になってくれるのは有り難いんだよね~。……上層部の……協力者か~……)

 

 モモンガの視線がフールーダに向けられた。

 フールーダは今もなお麻痺したままだが、帝国上層部の者と言えば、彼こそが重要人物ではないだろうか。本来であれば、レイナースよりも先に勧誘すべきなのだ。それをせずに、レイナースと歓談しているのは、フールーダによってタブラが怖い目に遭わされたからである。警戒しているのもあるし、目を覚まして矛先が自分に向くのは嫌だという思いもあった。

 

(高位魔法に対する執着の程は理解したけど……。これって俺だけじゃなくて、建御雷さんやメコン川さんも目を付けられるかもしれないのか……)

 

 フールーダからすれば、後ろで立つ建御雷達だって、第十位階魔法を使えるかも知れない……と考える可能性がある。

 フールーダによって大接近される建御雷やメコン川の姿。それを、モモンガは想像してみた。

 

(気持ち悪っ! 誰得の光景なんだよ!)

 

 やっぱり駄目だ。人類で一番強い魔法詠唱者(マジックキャスター)は貴重だが、生理的な嫌悪感を考慮した場合、フールーダはアウトとしか言えない。以後は、フールーダを抜きにして、レイナースとだけ話をした方が……と、そういった事をモモンガは(実は他の三人も同様に)考えていた。

 現時点で、帝国はレイナースの働きもあり、モモンガ達から悪印象を持たれていない。レイナース自身は、呪いが解けて幸福の真っ只中。ただ一人、フールーダだけがナザリックの支配者四人から嫌がられている。

 このままだと、フールーダはナザリックと……第十位階魔法の使い手(本来は、その上の超位魔法も使用可能)と接触できず、縁も切れた状態で終わってしまうのだ。

 麻痺して項垂れた状態のフールーダ。彼の目には悔し涙が浮かんでいたが、そこへ救いの手が差し伸べられることとなる。

 

「レイナース殿さえ良ければ、我らは雇用することに問題はない。しかし、帝国の騎士を辞すると言っても、上司……帝国四騎士の上役と言えば、皇帝陛下なのだろうか? ともかく、陛下の許可を得ることだな。無論、後任の方への引継ぎはしておくべきだろう」

 

 それら諸問題を解決できたなら、いつでも訪ねてくると良い……そう言ってモモンガが笑顔を浮かべると、レイナースは喜びをあらわにした。が、ここで彼女の視線がフールーダに向けられる。

 今、彼女の隣で麻痺し呻いている老人。彼は、その実力や普段の人格は別にして、魔法が絡むと狂人であり変態だ。負の面が重すぎて、他の美点を帳消しにしている。だが、今回、レイナースがモモンガやタブラと出会えたのは、フールーダの護衛役だったことが大きい。

 

(借りが……あるのよね……)

 

 フールーダの目的は潰えようとしているが、自分は目的を達成して幸せだ。それが逆の立場だったらと思うと、そう思っただけで目眩がする。

 

(少しだけ、手助けしてみようかしら。後は……フールーダ様次第……よね?)

 

「ゴウン様。そして、タブラ・スマ……」

 

「長いからタブラで構わないよ~」

 

 タブラの口調は愛想で満ちあふれていた。これならば……と手応えを感じたレイナースは、一瞬、フールーダを見てからタブラに対して話しかける。

 

「こちらのフールーダ・パラダイン殿は、先程のとおり、未知の魔法を目にしたり接する機会があると、我を無くすのです。目に余る行動だったと承知していますが、どうか話だけでも聞いてあげては……いただけないでしょうか?」

 

「え、え~と……アインズさん?」

 

 タブラが、モモンガに顔を向けた。 

 今、タブラの中では様々な思いが渦巻いている。それら思考の中で、最も目立つのがフールーダの顔面ドアップだ。タブラにとっては、かなりのトラウマになっているようで、身震いを禁じ得ない。

 

(やだな~……)

 

 正直言って、お断りしたいのだ。しかし、考えてみれば気色悪い思いをさせられただけで、悪意を持って危害を加えられたわけではない。何かを追い求めて必死になるという気持ちも理解できる。

 

(おかしくなる前までの魔法談義は参考になったし。んん~……)

 

 数分ばかり黙考してから、タブラはモモンガを見た。

 

「話くらいなら、聞いてあげてもいいんじゃないですかね? アインズさんが……」

 

 

◇◇◇◇

 

 

 フールーダに見せられた狂態はひとまず脇に置いて、彼の話を聞いてみることとなった。

 ただし、手足を縛って拘束した上で……だ。

 

「猿ぐつわは噛ませないのですか? 彼は、その……魔法詠唱者(マジックキャスター)……ですが?」

 

 レイナースが聞いてくる。口を自由にしておくと、何らかの魔法を行使するのでは……と危惧しているのだ。一方、モモンガ達はと言うと、レイナースの危惧を問題視していない。詠唱が出来たとして、飛んで来るであろう魔法は第六位階が上限だからだ。

 

「まあ、危険なのは……スキンシップの方だし?」

 

 モモンガが呟くと、タブラ達……ナザリック組が頷いた。

 

「別に縛ってなくても、俺とタケヤン(建御雷)で撃退できるけどな?」

 

シシマル(メコン川)の言うとおりだ。さっきだって、あの大接近の状態からでもブッ飛ばせたんだぜ?」

 

 言い訳がましく聞こえるが、二人の実力を知るモモンガは嫌味などを言ったりしない。心から同意しつつ頷いて、フールーダに向き直る。フールーダは……手足を拘束された状態で、モモンガを見ていた。

 

「……何か?」

 

「いや、貴方様からはタブラ・スマラグディナ様のような力を感じませぬが……。もしや、同じように指輪で?」

 

「いかにも!」

 

 探知阻害の指輪について説明したモモンガは、幻影で人化状態の顔を作り出し、異形種化した上で、一瞬だけ指輪を外して即座に着け直す。

 瞬間的に、室内には魔力圧が吹き荒れた。

 

「おおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 フールーダのモモンガを見る目。そこに……タブラを見るときと同様の喜色が宿る。その視線を受けたモモンガは「うわ、タブラさんに任せたままの方が良かったかな?」と思ったが、今更タブラに振るわけにもいかない。

 

「それで……第十位階魔法に興味があるとのことだが、どうしたいのかね? 我らに弟子入りでもしたいとかかな?」

 

「そのとおりでございます!」

 

 即答であった。

 これにはモモンガも、隣で座るタブラと顔を見合わせる。

 

「あ、あ~……聞くところによると、パラダイン殿は帝国の主席宮廷魔術師だとか。その責任の重さから言って、多忙……ではないのかね?」

 

「まったく問題ございません! 私は魔導の深淵を知るためならば、すべてを投げ打つ覚悟ですぞ! 職責であろうと弟子であろうと、私を縛るには及ばないのです! 塵芥のごとし、ですな!」

 

「な、なるほど……」

 

 元々、帝国の主席宮廷魔術師には興味があったのだが、こうもあっさりと前職を放棄すると言われては、モモンガとしても鼻白んでしまう。この場合の鼻白むとは、気後れすると言うより、興醒めや不愉快な気持ちの意味合いが強い。早い話、フールーダに『責任感の無い男』という印象を持ったのだ。

 

(レイナースさんも似たようなことを言ってたけど、彼女の場合は、きちんと退職して来るって言ったのにな~。この違いって、何と言うか……ひどいな……)

 

 フールーダは転移後世界の人間として、実力的にはガゼフやクレマンティーヌと同様、レアな存在と言える。だが、ガゼフは勿論のこと、あのクレマンティーヌでさえ仕事は真面目に取り組むのだ。二人に比べると、フールーダは信用ができない。

 

(いや、クレマンティーヌは、前の職場が嫌になって勝手に退職したんだっけ? ん~、それを思うと、己の欲望や都合に忠実なのは、今更問題視するほどじゃないのかな~……。こっちに付いてから真面目にやってくれれば良いんだし……。クレマンティーヌと同じか~……そっか~……)

 

 というのがモモンガの判断であったが、これをクレマンティーヌが聞いたとしたら、「失礼ねぇ! 私は、あのジジイほど自分勝手じゃない~っ!」と憤慨したことだろう。もっとも、憤慨の場にロンデスが居合わせたなら「え? 自分勝手だろ?」とコメントして、クレマンティーヌを涙目にさせていただろうが……。

 

「パラダイン殿の覚悟は理解したが、当面は帝国での職務に専念するべきだろうと私は思う。その辺はレイナース殿と同じだ」

 

 そもそも、帝国の重鎮を事前準備なしで引き抜く形になったら、色々と面倒だ。当たり前だが、皇帝は良い気がしないだろう。警戒されるし敵対視もされるはず。そういった説明をすると、フールーダは引き下がったが、モモンガとしては「採用面接の場で、面接官から説教されてる感じか~……」と、フールーダに対する評価を更に下げていた。

 

(帝国からの情報源とか、内部操作の面ではフールーダの方が役に立つんだろうけど……。人格面ではレイナースさんの方が好感持てるんだよ……)

 

 結局、モモンガは死霊系の魔導書などを渡し、帝国内での協力者としてフールーダを雇うことにした。フールーダは「魔導書の文字が読めない」と言っていたが、記載は日本語が主体なので当然である。そこで、早く帰りたいと考えるタブラが「じゃあ、これを貸しておくから」と、翻訳機能のある片眼鏡を渡し、それでようやくフールーダとの会談はお開きとなった。

 室外に出たモモンガ達は、ナザリック地下大墳墓側に<伝言(メッセージ)>を入れた後、<転移門(ゲート)>で移動し、着いた先で一斉に脱力する。

 

「なんつ~か、凄まじい爺さんだったな……」

 

「建御雷さんの言うとおりだよ。タブラさん、お疲れ~……あと、モモンガさんも」

 

 ナザリック地下大墳墓の門前で立つ建御雷達が、疲れた様子でモモンガ達を振り返った。疲れていると言っても、フールーダと相対していたときはソファ座りのモモンガ達を前に配置していたので、比較的にダメージが少ない。そして、フールーダと間近で話すことになったモモンガとタブラは深い溜息をついた。

 

「いや~……キツかったですね~。タブラさんは、マジでお疲れ様でした」

 

「本当に疲れましたよ、モモンガさん……。何て言うんですかね、元の現実(リアル)で言えば、『刃物を持って泥酔した人と個室に閉じ込められる』的な緊張感と言うか、恐怖感と言いますか?」

 

 しみじみと語るタブラの口調は、途轍もなく重い。

 見ていられない心境になったモモンガは、「これ、アルベドには聞かせられないな~」と思いつつ、建御雷らとでタブラをショットバーに誘い、酒を飲んで忘れることにしたのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「アインズ様達が、御帰還? 特に問題は……ないのですね? それは喜ばしい。それで、今はどちらに? ショットバー……そうですか……」

 

 一般メイドからの報告を受け、プレアデスのリーダーである執事、セバス・チャンは頷いている。彼が今居るのは、ナザリック地下大墳墓の食堂付近の通路であり、ついさっきまで、執事助手のエクレア・エクレール・エイクレアーに対して、掃除の指示を出していたところだ。

 

「それではセバス様! 行ってまいりまぁ~~っす!」

 

「……さて、急ぎの御用件がないか……アインズ様に直接、お伺いするべきでしょうね」

 

 イワトビペンギンにしか見えないエクレアが、男性使用人の小脇に抱えられて遠ざかっていく。その後ろ姿を見送りつつ、セバスは呟き、自身も通路を歩き出した。歩く所作は執事として完璧なまでに整っており、町を歩けば金持ちなどが雇おうとして声を掛けてくるほどだ。ただし、足取りは僅かながら速くなっている。これは、至高の御方に接することができるため、心が躍っていることによる。ナザリックのNPCにとって、至高の御方……ギルメンに構って貰うことが至上の喜びな(当人達は『お仕えすることが至上の喜び』と言っている)ので、執事として完璧に近いセバスと言えども、平静では居られないのだ。

 

「むっ……」

 

 暫く行くと、通路の十字路、向かって右側からデミウルゴスが姿を現す。セバスは一瞬眉をひそめたが、すぐに普段どおりの表情となって歩き続けた。悠然と歩くデミウルゴスに対し、セバスはツカツカと歩いているので次第に両者の距離は詰まり、やがてセバスがデミウルゴスを追い抜き……。

 

 ツカツカツカツカ……。

 ツカツカツカツカ……。

 

「……デミウルゴス様?」

 

「何かな、セバス?」

 

 右前を歩くデミウルゴスにセバスが声を掛け、それに対してデミウルゴスが振り返ることなく返事をした。

 

「どうして急に、早足となったのでしょうか?」

 

「さて……速く歩きたいからだねぇ。それが、どうかしたのかな?」

 

 ……更に数秒ほど、二人は歩き続ける。位置関係に変化は出ない。デミウルゴスが右前で、セバスが左後方だ。

 

「デミウルゴス様……」

 

「何だね? 私は忙しいのだよ」

 

 デミウルゴスの声色に苛立ちが含まれる。それを察したセバスは、今度は隠そうともせずに顔を顰めた。

 

「デミウルゴス様は……どちらに向かわれるのでしょうか?」

 

「それを君に教える必要を感じないがねぇ。なに、取るに足らないことさ。君が気にすることはないよ」

 

「果たして、そうでしょうか。到着した先での御用件は、取るに足らないことだと?」

 

 この時点で、セバスにはデミウルゴスの行く先が把握できている。自分と同じ目的地……ショットバーで、会いに行こうとしているのは……。

 

「アインズ様でしたら、タブラ様達と御休憩中とのことですが……。取るに足らない用件とは、それをお邪魔するほどのものなのでしょうか?」

 

「君は、しつこいね……」

 

 デミウルゴスが足を止めた。

 実のところ、デミウルゴス側でも重要な用件はないのだ。セバスと同様、何か使命を与えて貰えることを期待しつつ……実際は構って欲しくてモモンガ達に会いに行こうとしている。

 

「ふむ、なるほど……。まあ、私は御用を伺いに行くのですが……。抜け駆けは感心しませんね」

 

「よしてくれないか、人聞きの悪い。速く歩いたのは忠誠心の発露だよ。他意は無いとも」

 

 言い訳するデミウルゴスに対し、セバスが鋭く突っ込む。そして、デミウルゴスが反論し、セバスが呻いた。その繰り返しに発展し、やがて二人は……傍目には仲良く並んで歩き出したのである。

 




 フールーダが自重すると言ったな? あれは嘘だ。
 レイナースが一緒じゃなかったら、ただのペロリスト扱いで返品されてたでしょうけど。
 今話で、フールーダとレイナースを一通りイベント進捗させた感じです。
 また出てくるかな~。
 法国のニグンとかも再登場させたいんですけど、機会を挟めるか不明。

 そういえばルプスレギナ関連で、寝取られ展開という御指摘を請けました。
 返信でも書きましたが、ルプスレギナのモモンガハーレム加入の辺りまで、ノリで人員増やしてた感じでして。やたらと増やすもんじゃないな~、と反省しています。
 モモンガさんをギルメンと揉めさせて、話の展開に波風立たせたかったのもありますけど……。
 
 あと、最終回は近い! そんな気がします。


<誤字報告>
 オッサマーさん、D.D.D.さん、ジュークさん、佐藤東沙さん

 毎度ありがとうございます
 今回、ヤバい……夜勤明けの疲れ目で涙止まらない~……。 
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