オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第93話

「ふんふん~」

 

 橙色のコート。十字の飾りの付いた帽子という出で立ちで、一人の少女……人化した状態のやまいこが歩いている。

 場所は、お昼過ぎのカルネ村。お供は、こちらも人化したギルメン、ぶくぶく茶釜だ。そして、やまいこの制作NPCであるユリ・アルファ。茶釜の制作NPCのアウラとマーレも同行していた。

 

「それで、かぜっち? 帝国との戦争はなくなったんだっけ?」

 

「うん。王様やレエブン侯と相談して、帝国からの条件を呑んだらしいわね~。両国同士での休戦協定の調印だったかしら? それは、まだだそうだけど、当分は戦わないんじゃないかな~」

 

 茶釜は交渉に直接関わっていないが、大まかには<伝言(メッセージ)>で聞いているし、ナザリック内で回った供覧報板(板状の用箋鋏に報告書を挟んだもの。供覧印の押印用紙つき。)を読んだところでは、そういう事らしい。担当者欄に、モモンガの紋章の押印があったし、交渉で同席していたタブラと建御雷、それにメコン川の押印もあった。

 

「やまちゃんのところには、まだ供覧板が回ってないの? 私が見た限りでは、帝国側が譲歩しすぎてて気持ち悪いくらいだったんだけど……」

 

 ユグドラシル時代で、他ギルドと似たような交渉をして、帝国と同じような条件を提示されたとしたら……裏での狙いがあるかを勘ぐるところだ。だが、ここは転移後世界。茶釜の考えすぎかも知れないし、何かの罠があったとしても、踏みつぶせるほどの戦力差がある。

 

「問題ないとは……思うのよね~。ああ、でも、別の問題ならあるのか……」

 

 モモンガ……この転移後世界では、ナザリック地下大墳墓の代表者……アインズ・ウール・ゴウンは、帝国と王国との戦いに際し、王国側の新戦力として参戦。大活躍の末、六大貴族の新たな一人、七番目の大貴族となる……はずだった。そうなるはずだった。しかし、休戦状態となったことで、戦功をあげる機会を喪失したことになる。

 

「さすがに何も無しで大貴族になるというのは、良くないってことになって~……」

 

 アルベドやデミウルゴスなど、NPC達は「功績など無くとも高い地位に就くべきです!」と主張したが、モモンガ達の羞恥心が「うぇっへっへっへっ! 特に働いてないけど地位だけ貰っとくぜぇ!」という展開を許さなかった。

 その後も、とにかく大貴族に昇格させて、この問題から解放されたい大貴族側。そして、遠慮の塊と化したナザリックのギルメン側。双方で協議が執り行われ、アインズ・ウール・ゴウンには、辺境侯という地位が与えられることとなる。早い話が、ナザリック地下大墳墓近辺では王族の次に偉い人……という扱いだ。責任を持つ都市や集落としては、エ・ランテルとカルネ村がある。

 

「あ~……じゃあ、モモンガさんって、名実ともにカルネ村のお殿様になったんだね!」

 

「そうなのよ。モモンガさん、ここに来るたびに『ゴウンの殿様~っ』って言われてたけど、本当のお殿様になっちゃったわけ。あと、エ・ランテルの殿様でもあるのか……あそこは都市長が居るから、カルネ村とはまた違った感じかな。とはいえ、出世したものよね~……元の現実(リアル)のことを思えばだけど」

 

 茶釜は、しみじみと呟いた。

 モモンガ……鈴木悟が営業職だったことを馬鹿にしているのではない。一民間人が『殿様』になったという事実について、素直に感心しているのだ。茶釜の感覚で言えば、元の現実(リアル)を牛耳っていた大企業の、幹部にでもなったような出世具合なのである。

 

「で? そんな殿様と交際してるって、どういう気分なのかな? かぜっち~?」 

 

「うふん、幸せ~! だけど、『お殿様』とかに関しては、凄いと思っても実感が湧かな~い!」

 

 ニヨニヨ笑うやまいこの質問に対し、茶釜は笑い飛ばすように答える。

 元の現実(リアル)では声優業であり、有名人の端くれと言える茶釜であったが、自分が『殿様』と呼ばれる上位者と交際することになるとは思っていなかったからだ。

 そのように会話しつつ歩いていると、進行方向右、とある民家の陰から一人の少女が現れた。

 エンリ・エモット。それが彼女の名だ。

 辺境の村人としては整った顔立ちをしており、スタイルも良く……。

 

「何より胸が大きい! 俺的にはマイナス要素ですけどね!」

 

 と声高く叫んだのは、数日ほど前のペロロンチーノだ。が、それを円卓でやったものだから、居合わせた茶釜によって折檻されたのはいつもの流れである。

 

「かぜっち様! 今日はユリさんと……お友達の方ですか?」

 

 エンリ側で、以前から面識があるのは茶釜とユリだ。やまいこに関しては初対面。従って茶釜に最初に声をかけ、最後にやまいこについて確認するという流れになっている。お友達云々についても『初対面の女の子は、茶釜の友達?』という感覚で、それも普通なら失礼には当たらない。そう、普通ならば……。

 

(しもべ)のボク……私よりも、至高の御方を後に……」

 

 ユリが眼鏡位置を直しながら、普段は柔和な視線をキツくした。

 話題に名前が出る順番で、『至高の御方』が(しもべ)より後に呼ばれる。それが堪らなく不満で、『至高の御方』に対する不敬だと感じたのだ。

 モモンガ達が頭を痛める『行きすぎた忠誠心の発露』だが、これを聞いて茶釜の顔が引きつる。

 しかし、ここでやまいこが愛想良く挙手した。

 

「はいは~い! かぜっちさんの友達で、マイコだよ~。あと、ユリの直の主人でもあるから、そこのところもよろしく~!」

 

 ナザリックのギルメン達は、人化状態では別の名を設定している。

 モモンガは、ナザリック代表のアインズ・ウール・ゴウンと冒険者名モモン。

 ヘロヘロは、ヘイグ。

 弐式はニシキ、建御雷はタケヤン。

 メコン川が、シシマル。ベルリバーがバリルベといった具合だ。

 カルネ村の住人には、諸々バレている部分もあるが、住人達の方でモモンガ達を敬っており、普段通している『設定』に付き合ってくれている。

 

「かぜっち様の!? し、失礼しました!」

 

「いやいや、普通の対応だったよ~。……ユリ? ドヤ顔しなくていいからね?」

 

 後方で胸を反らせているユリをたしなめ、やまいこは改めてエンリを見た。

 

(元気っ娘で純朴で、慕ってくれてるか……。モモンガさんってだけじゃなくて、男の人にドストライクだよね~。……好みにも依るんだろうけどさ……)

 

 女性視点からで言えば、少々あざとい気もするが、エンリは素でやってる部分が多いのだ。だから、マイナス評価とするには当たらない。

 

(村娘として十分やっていけてるから、生活面の女子力は鍛えられてるし……)

 

 ひょっとしたらアルベドや茶釜達にとって、侮れない相手なのかもしれない。

 

「余計な助け船になるかも……うん?」

 

 ふと気がつくと、視界の端に一人の少年と少女が入ってきた。

 やまいこは知らないが、少年はンフィーレア・バレアレで、少女はネム・エモット。ンフィーレアはエンリに想いを寄せていた人物であり、ネムはエンリの妹だ。なお、ネムの年齢は幼女の範囲を脱してはいない。

 薬草らしきものが山盛りとなった籠をンフィーレアが運び、ネムは小さめの籠に盛られた薬草を運んでいる。

 

「ふ~ん? 今日は、村の周辺で枝拾いなんだね?」

 

「そうなの! 村から離れちゃいけないって、お父さんに言われてるから! 村の周りだけ!」

 

「じゃあ、薬草の積み込みが終わったら、枝拾いを手伝うよ」

 

「ほんと!? ンフィーお兄ちゃん、大好き!」

 

 実に仲が良い。

 しかし、ンフィーレアがエンリを狙って……もとい慕っていたことを知る者が見ると、複雑に感じる情景だ。エンリが駄目だったからって、妹の……幼女に手を出してるのかと、そう思われてもしかたがない。

 だが、やまいこはそういった事情を知らなかった。だから……。

 

「年上のお兄さんと親密に……かぁ~。これはこれで良いものだよね~」

 

 こういう感想となる。

 

「ちょっと良いかしら~?」

 

 やまいこの注意はンフィーレアに向けられているが、茶釜はと言うと、『予定』どおり、エンリに話しかけていた。

 

「エンリちゃん。今度、アインズさんとデートするんだっけ?」

 

「は、はい。いつになるかは……わからないんですけど」

 

「やはりか……」

 

 上背がある茶釜は、上からエンリに寄せていた顔を離す。左手は腰、右手は下アゴのあたり。実に様になっていて格好いい。エンリなどは見とれているが、茶釜は同性からの視線には気づかず考え込んでいた。

 

(モモちゃん、デートする約束を取りつけたまではいいけど……。焦らせすぎじゃない? まあ、こんな事だろうとは思ってたけどさ……)

 

 モモンガと交際中の茶釜であったが、先にモモンガと親密になった女性に対しては、協力的な態度を取っている。これは自分が後から加わった女であり、先達に気を遣っているからだ。

 

「ここは茶が……かぜっちお姉さんが、一肌脱いであげるしかないわねぇ……」

 

「ふえ? ええっ?」

 

 ペロロンチーノ張りの悪い笑みを浮かべる茶釜を見て、エンリが怯えている。茶釜は「失礼な反応!?」と、普段の表情に戻りながら、モモンガに<伝言(メッセージ)>を飛ばすのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

友人(茶釜)の提案により、ナザリックでのデートとなったが……。これで良かったのかね?」

 

 冒険者仕様の漆黒ローブをまとったモモンガ(人化中)が、エンリに話しかける。

 ここはナザリック地下大墳墓内部、第九階層「ロイヤルスイート」の……とある通路。

 茶釜とやまいこの提案により、エンリとのデート場所をナザリック地下大墳墓としたのだが、モモンガとしては「これで良かったのだろうか?」と思うことしきりだ。エンリにとっては物珍しいかも知れないが、モモンガにしてみれば家デートや職場デートに近いのである。

 

(職場に彼女を連れ込んで、遊び歩いてる感じとか……。マジで緊張するわ……)

 

 第九階層では、ブティックや衣服屋、雑貨屋、エステ、ネイルサロン等があり、エンリを連れ回してきた。総じてエンリの反応は良かったが、中でも喜んでくれたのは、雑貨屋と鍛冶長のところへ連れて行ったときだ。

 

(まさか、宝石やネイルアートよりも、雑貨や農具の方が良かったとは……)

 

「はい! ゴウン様! 色んなモノが見られて素敵でしたし! 凄いクワや鎌を買って頂けて、最高に幸せです! これで村も大助かりです!」

 

「そ、そうか……」

 

 これはデートではなく、カルネ村の必要物資を買い与えてるだけではないか。

 

(何だかな~……。俺自身は、エンリとブラブラ買い物ができて、嬉しい……と言うか、ホッコリした気分になれるんだけどさ~) 

 

 好みドストライクのアルベドと幸せデート。

 ナザリックNPCとしては、大いに合わせてくれるルプスレギナと、ノリ良くテンション高めのデート。

 ギルメン女性で、元の現実(リアル)では憧れの対象だった茶釜とドキドキデート。

 皆、路線違いで個性的なデートになりそうだが、今やってるエンリとのデートは、特に何か違うような気がする。

 

(肩の力の抜け具合って言うのか? いったい何が違うんだろう?)

 

 モモンガは首を傾げたが、エンリ自身はどう思っているのか。

 答え……幸せ気分を満喫中である。

 何しろ、通路だけで豪華絢爛。

 案内された店舗類も豪華絢爛。

 揃えられた品々も豪華絢爛だ。少なくともエンリの目には、そのように映っていた。

 

(それに、ゴウン様が買ってくれたクワや鎌……もう凄すぎ! エ・ランテルでも見かけたことないくらい高級品だし! というか、近くで並んでたミスリル製とかオリハルコン製の農具って……わけわかんないし! ここ、天国なの!?)

 

 モモンガからは「欲しいのがあったら言いたまえ」と言われたものの、あまりの豪華さに恐れおののき、エンリは遠慮している。何とか欲しいものを伝えたが、それはクワや鎌などの農具であり、しかも鋼鉄製のものであった。

 エンリの感覚では、ミスリルやオリハルコンと言った高価な品物は、農具として実用するにはもったいなさ過ぎるのだ。とはいえ、ここまで彼女が遠慮しているのは「エ・ランテルで買ったら幾らぐらいか? え~と、総ミスリル製の長剣で言うと……」と、価格比較を説明したモモンガにも責任がある。黙って買い与えておけば良かったのだ……とモモンガが思った頃には、すでに会計を済ませており、今更「やっぱりオリハルコン製にしようか?」とは言えない空気だった。

 

(鍛冶長にも迷惑かけちゃったな~……。エンリが鉄製の農具はあるかって聞いて、それが無かったものだから特急で作らせる羽目になったし……。後で労っておかないとな~)

 

 鉄製品の品揃えが無かったのは、「そんな低レベルなアイテムを置くだなんて、ナザリックの名折れだ!」と、ユグドラシル時代にギルメン会議で決めたことに因る。それも重大な議題ではなく、進行役のモモンガが事のついでに議題として出し、即決でギルメン達が決めたのだ。

 

(俺も反対しなかったしな~……。当時は、それで良かったけど今後はどうしよう?)

 

 数秒程考えてみたが、やはりナザリック内店舗に低品質の物を置くのは良くないとモモンガは判断する。ヘロヘロが王都で経営しているヘイグ武器防具店。あそこに鉄製農具を置くことも考えたが……。

 

(武器防具店に農具はないだろう。それじゃあ金物屋だよ。別で店とか作った方がいいのかな……。ナザリック農具店とかか? うん?)

 

 気がつくと、エンリが瞳をキラキラさせてモモンガを見上げていた。

 

「ゴウン様! こんなに良くしていただいて、本当にありがとうございます!」

 

「ふむ、喜んで貰えたようで何よりだ。私も嬉しいとも!」

 

 双方共に本心だ。

 しかし、エンリは『農具の良い物』を買い与えられた事による高揚感だけでない、別な胸の高鳴りを感じていた。モモンガの隣で歩き、彼と話をしていると『楽しい』のだ。そして、その一歩先の『嬉しさ』を感じ、よくよく考えると『幸せ』だな……という気持ちに気づく。

 

(茶釜様には、「エンリちゃんは、好きだって自覚と踏み込みが足りない」って言われたけど……言われてたけど! 男の人と一緒に歩いて、買い物したり話したり……。それで嬉しくて幸せって……うわわ……)

 

 元よりモモンガには憧れていたし、好意も抱いていたエンリだが、ここで気持ちが更に燃え上がった形だ。燃料投下の追加……と言うより、元々抱えていた予備燃料タンクに火がついたと言うべきだろう。

 

「うん?」

 

 歩きながら真っ赤になって俯いたエンリを、モモンガは不思議に思って覗き込もうとする。その結果、エンリが頬を染めて照れているのに気づき、その照れがモモンガに伝染した。

 

(え、何これ!? 可愛い!! って、エンリの幸せオーラが! 俺を! 支配する! ……これ、異形種化しても抵抗できなさそうだな~。する気もないけど。……いや~、何と言いますか……甘酸っぱいって言うの?)

 

 今のモモンガには交際女性が数人居る。しかし、エンリと接して得られる感覚は、他の女性にはない独特のものだ。エンリが人間だからだろうか。ニニャとも親交を深めれば、ある程度の検証が可能かも知れないが……。

 

(……目の前のエンリに集中するか……)

 

 今はデート中である。

 細かいことはさておき、エンリと一緒に居る時間を楽しむべきだろう。

 そう気を取り直したモモンガは、通路前方、右側に見えてきた店舗を指差した。

 

「そうそう、あそこは食器類を扱う店でな。アダマンタイト製の果物ナイフなどが……」

 

 

◇◇◇◇

 

 

「で、弐式さん? 聖王国方面に居るらしいギルメンって、あの二人で確定……なんですか?」

 

 青空の下、街道を歩くヘロヘロ……人化しているので冒険者の修行僧(モンク)ヘイグは、隣を歩く忍者……弐式炎雷に話しかけた。二人の後ろには、それぞれの製作NPC……ソリュシャン・イプシロンとナーベラル・ガンマが、冒険者としての出で立ちで付き従っている。今は創造主二人が会話中なので黙って歩いているが、ヘロヘロ達がギルメン同士で会話している姿というのは、ナザリックの(しもべ)にとって眼福であるらしい。程度の差はあるものの、二人でウットリとした視線をヘロヘロ達の背に向けている。

 現在、ヘロヘロと弐式は、新たに得たギルメン情報により、ローブル聖王国に向けて徒歩移動中である。聖王国は、モモンガ達が積極的に関わっているリ・エスティーゼ王国の南西に位置する国で、地図上ではUの字を横に倒したように表示されていた。途中、アベリオン丘陵の西側を通過するのだが、今のところ面倒事には巻き込まれていない。

 

「ええ、ヘロヘロさん。たっちさんとウルベルトさん……らしいですよ。確定じゃないですね」

 

 ヘロヘロの質問に弐式が答えているが、曖昧な物言いだ。これは、目撃情報が八本指からのものであり、伝聞を元に動いていることによる。

 

「法国の六色聖典で、情報収集に強いのが風花聖典だったかな? その人達にも動いて貰ってたんですけど。間にアベリオン丘陵とエイヴァーシャー大森林があるせいで、貿易できないレベルで国交が機能してないらしくて……」

 

「ああ~、なるほど。犯罪組織の方が動けてるんですね~。しかし、たっちさんとウルベルトさんね~……」

 

 頷くヘロヘロは、たっちとウルベルトが居るかもという点で、モモンガを連想する。ギルドの初期メンバーの中で、あの二人はモモンガとは仲が良かったはずだ。

 

「弐式さん。モモンガさんには誰が居そうなのか……って、話してあるんでしたっけ?」

 

「話してありますよ~……。ただ、未確認だから、期待しすぎないようにとは言ってあるんだけど……」

 

 たっち達の名を聞いたモモンガは、すべてを投げ打って聖王国へ『お出かけ』しようとしたが、居合わせたギルメン全員から止められている。その後のギルメン会議によってヘロヘロ達が出向くこととなったのだが、会議決定がされたときのモモンガの落ち込みようは、見ていられないレベルだった。

 

「モモンガさん、カルネ村のエンリちゃんと学生気分に近いデートができたって、ウキウキしてたんだけど。そこから気分が盛り下がるのは早かったな~……。ちょっと複雑かも……」

 

「ですかね~……」

 

 自室の執務机で項垂れ、置物のように固まっている骸骨。

 ギルメンを探しに行けないことで、あそこまで落ち込んでいるモモンガというのは、異世界転移をしてからだと初めて見る姿だ。モモンガと一緒に転移したヘロヘロはともかく、弐式としては、少したっち達に嫉妬してしまうのである。 

 もっとも、クラン時代のリーダーとリーダー格で、ユグドラシル時代でも皆を良くも悪くも引っ張っていたたっちとウルベルトだ。弐式自身も会いたいという気持ちは強いため、つまらない嫉妬は封印して情報収集に努めている。例えば、こうして話しながら歩いている間も、複数の分身体を数キロ間隔で周辺に配置し、警戒していたりするのだ。更に言えば影の悪魔(シャドウ・デーモン)や、モモンガから借りたハンゾウなども動員している。

 ちなみに、魔法や乗用魔獣を使用して一気に聖王国まで行かず、徒歩移動を選んだのは、たっち達が既に移動していて行き違いが発生することを懸念したからだ。

 

「今のところ、先行して聖王国に行かせた影の悪魔(シャドウ・デーモン)達からは報告はないですし……。ま、地道に探していくとしましょう」

 

 そう言って弐式が話を締めくくると、ヘロヘロは「そうですね~」と同意してから歩速を落とした。そのまま弐式から遅れる形で距離を取る。

 

「ヘロヘロ様?」

 

 自分の隣にまで移動してきたヘロヘロを、ソリュシャンがキョトンとした表情で見つめた。今のソリュシャンは、冒険者チーム漆黒仕様の盗賊服(黒基調の革鎧や衣装)だが、そんな彼女をヘロヘロは満足気に上から下まで見回す。セクハラ行為のように見えるが、創造主と被創造物の間柄なので、誰に文句を言われる筋合いもない行為なのだ。

 

「んふ~、やはり似合いますね! 気合いを入れて装備を選んだ甲斐があるというものです。ソリュシャンの魅力が増し増しになっていますよ!」

 

 ムフウと鼻息荒く褒め称える。ソリュシャンは「光栄です」と涼やかに礼を述べていたが、いつもは死んでいる(ように設定された)瞳がキラキラしているので凄く喜んでいるのは明白だ。

 ヘロヘロはNPCとイチャイチャし出したが、弐式は弐式でナーベラルが居る。ヘロヘロが後方へと移動を開始したとき、弐式は左肩越しでジイッと見ていたが、背後からピンク色の空気が漂いだしたところで自分も歩速を落とした。そして追いつく形でナーベラルが近くに来ると、気恥ずかしそうに俯いているナーベラルを覗き込む。

 

「俺もヘロヘロさんみたいに……ベタ褒めした方がいい?」

 

「い、いえ、そんな! 私なんぞが、弐式炎雷様からのお褒めの言葉を賜るなど!」

 

 真っ赤になって否定しているが、その睫毛の長い瞳がチラチラと弐式を向いていた。弐式は面の下でニンマリ笑い、ナーベラルの耳元に顔を寄せる。

 

「俺は、ナーベラルは綺麗で可愛いと思うな~……そんな風に作ったんだし~」

 

「はう! はわわわわわっ!」

 

 テンパって目をグルグルさせているナーベラルの反応が、実に心地よい。弐式は彼女から顔を離すと、前方に目を向けつつ考えた。

 

(しっかし、先行してる影の悪魔(シャドウ・デーモン)とかから、マジで報告が来ないな。たっちさん達、聖王国に居ないのか? 変装して名前を変えてる可能性が高いけど……それだと探すの難しいか? ナザリックの(しもべ)は人間のこと下に見てるから、ちょっと付け髭したぐらいで、もう見分けがつかなさそうだし……)

 

 八本指の手の者の方が、場合によっては余程役に立つ。

 そう思うが、これはナザリックの(しもべ)達には聞かせてはいけない言葉だろう。

 

(俺も……モモンガさん達もだけど、人間軽視に関しちゃ(しもべ)達のことを悪く言えないけどね~)

 

 異世界転移後、弐式はハーフゴーレムとなった。その結果、人間に対する同族意識は激減している。人化すると多少はマシになるが、それでも別種族のように人間を見てしまう部分があった。

 しかし、適材適所を考えると人間を軽視してばかりでは駄目だと、弐式は考えている。

 今回の事例のように、人間の方が効率良く優秀な面もあるからだ。

 

(能力を軽視しちゃいかんよね~。そういや、俺の美醜観は、人間だった頃のままなんだけど……。そこが変異しなくて良かったよな~)

 

 元の現実(リアル)で気合いを入れて作成したナーベラルの人としての姿。これを見て醜悪なモンスターのようだと感じるようになってたらと思うと寒気がする。

 

「さて……たっちさんとウルベルトさんか……」

 

 伝え聞いた話では、やたら仲の悪い騎士と魔法詠唱者(マジックキャスター)のコンビが、人間離れした強さで活躍しているということだ。ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルメンなら、誰もが連想する。たっち・みーとウルベルトではないか……と。

 それが期待外れに終わるか、首尾良く二人と合流できるか。今の弐式には解らない。ただ、こういったギルメン情報が入ると真っ先に捜索隊員となるのが自分であることは、能力からして当然と思うし、役得だとも思っている。

 

(何しろ、真っ先に合流ギルメンと会えるんだものな~。……モモンガさん、ごめんね~)

 

 心の中で手を合わせつつ、弐式はナーベラルをいじりながら聖王国へ向けて歩き続けるのだった。

 




 今回、ちょっと少なめです。
 気分はすっかり師走。もう12月でしたっけ?(@@; 
 まだ10月か……。
 
 切りの良いところだったのと、ここから80行ぐらい書く気力がなくて
 この辺での終了となりました。

 エンリ関係でちょっと手こずった感じですかね~。
 エンリはモモンガさんにとっての、特別枠の癒し要素……という扱いにしています。
 そうでもしないと影が薄く……。
 もうニニャまで手が回らないかも。ラスト近辺でちょっと出てくるかな……。
 
 たっち&ウルの合流なるか……。どうなんでしょうね。

 書く時間と精神的な余裕が脅かされてるので、何とも言えない感じです。
 次の投稿は、また2~3週間後になるかもです。
 今回、本当に書く気力がヤバかった……。
 そして、日曜の21時前の時点で、誤字脱字チェックにかかるという……。
 
 
<誤字報告>
 初代TKさん、D.D.D.さん、愚物さん、トマス二世さん、佐藤東沙さん

 毎度ありがとうございます
 うお~、目がショボショボする……。読み返し、読み返しをしなければ……。
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