オーバーロード ~集う至高の御方~   作:辰の巣はせが

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第94話

 ヘロヘロと弐式炎雷が、それぞれの制作NPCを連れてローブル聖王国を目指し、ナザリック地下大墳墓を出発した……数日前。

 聖王国からリ・エスティーゼ王国に向けて、出発した冒険者が二人居る。

 一人は、白く塗装された甲冑で身を包んだ騎士。

 もう一人は、黒色基調で纏めたローブの魔法詠唱者(マジックキャスター)

 どちらも三〇代の男性だ。

 騎士は、精悍な顔つきで、話すときは溌剌としているのだが……沈黙の時が訪れると、どんより曇り顔となる。本来は陽の気が多めなのだろう。だが、今は何か悩みを抱えているらしい。

 魔法詠唱者(マジックキャスター)は、ウェーブの掛かった髪を肩まで伸ばして適当に切りそろえており、すべてを胡散臭そうな目で見ている。また、その目は地位の高い者を見るときは、厳しさを宿して細められるのだ。しかし、今は心配そうに騎士を見ている。

 騎士の名はヒロシ・タチ。

 魔法詠唱者(マジックキャスター)の名は、アレイン。

 その正体は、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』最強の騎士、たっち・みーと、最強魔法詠唱者(マジックキャスター)ウルベルト・アレイン・オードルである。

 二人はユグドラシルにおいて『モモンガさんに対して申し訳ないギルメンの集い』へ参加しており、そこで異世界転移に巻き込まれた。その際、言い争いをしていて位置が近かったためか、二人で揃って転移したのである。

 二人組で転移したギルメンと言えば、獣王メコン川とベルリバー、ぷにっと萌えとやまいこ、ぶくぶく茶釜とペロロンチーノなどが居る。だが、不仲同士での転移は初の事例であろう。

 当然と言うべきか、転移直後から二人の仲は悪かった。そして、現状把握が進むにつれ互いに自重しなくなり、口論が絶えなくなる。本来であれば、早期に喧嘩別れして別行動を取っていただろうが、そうならなかったのは……たっち・みーの様子が少し、いや、かなりおかしかったからだ。

 まず、躁鬱とでも言うべきか、明るいときと暗いとき、攻撃的なときと妙に気落ちしたときが、たっちに生じている。それらの落差は傍目にも大きなもので、精神医療の専門家でないウルベルトから見ても「こいつ、おかしいんじゃないか?」と判断できるレベルだった。それでいて、他者との会話は普通にこなしているのだから、不気味と言って良い。

 ウルベルトは最初、「何だか知らんが、リア充が落ちぶれた雰囲気で……いいざまだ」と、せせら笑っていたが、さすがに様子がおかしすぎるので心配になっていた。何より、他のギルメンと合流できた際、「たっちなら、様子が変で気味が悪かったから打ち捨ててきた」などと言えるはずがない。そもそも異世界転移という異常事態に際し、好き嫌いは別としてギルメン同士で助け合わねばならないのだ。

 ……そういった理論武装の下、ウルベルトは、時として邪険にしてくるたっち・みーに対し辛抱強く接していく事となる。このことでウルベルトのストレスは急速に増加。後日、ギルメンらに「あの時は、『なんで俺、たっちの介護みたいな事してんだろうな~』って思ってましたよ。……キツかった」と述べ、皆から労われることとなる。

 そういったウルベルトの苦境に転機が訪れたのは、街道に行き当たった後で商隊に遭遇したときだ。最低限の装備はアイテムボックスに用意があったことと、人化が可能になっていたことで、商隊に護衛のオマケとして同行することに成功。商隊が向かうという聖王国北部領へ移動することになった。

 なお、二人が聖王国北部領に到着したのは、時期的にはモモンガ達が茶釜姉弟と合流を果たした頃にあたる。

 当座の路銀稼ぎとして冒険者働きを始めた二人だったが、人化した状態でも転移後世界ではトップクラスの強者。異形種化すれば、一〇〇レベルプレイヤーの強さと本性が剥き出しになる。そんな二人の前では、高難度と称される討伐依頼など物の数ではない。たちまち頭角を現し、最強冒険者として国中に認知されていた。

 ちなみに、冒険者活動を行う上で重要なことの一つにチーム名がある。一人で行動するなら自分の名前だけで問題ないが、チームで動くとなると知名度を上げるために、チーム名が必要となるのだ。それで有名になれば、チーム名で名指し依頼を請けることがあるので、チーム名を決めることのメリットは大きい。

 このチーム名、たっち・みー案では、同様に異世界転移していると思われるギルメンらに知らしめるべく、『アインズ・ウール・ゴウン』を名乗ろうとしていた。しかし、ウルベルトから「自分達が転移してきてるぐらいだから、敵対ギルドのプレイヤーだって転移して来てるかもしれないだろ? 却下だ」と駄目出しを受け、双方で悩んだあげく『たっち&ウル』……転じて『タッチアンドール』を名乗っている。これなら、敵対ギルドのプレイヤーに素性バレしたりしないだろうが、アインズ・ウール・ゴウンのギルメン達にだってわかりにくい。しかし、考え疲れもあって「もう、これでいいだろ?」と判断し、今に到るのだった。

 こういった経緯により、冒険者チーム『タッチアンドール』として名をあげていくと、必然的に権力者の目にとまる。まず、根城にしている冒険者酒場の宿へ、聖王国の聖騎士団から使者が来た。たっち・みーが勧誘を受けたわけだが、鬱状態のたっちが乗り気ではなく、丁重にお断りしている。続いて、神殿の神官団からウルベルトに勧誘があったが、権力者嫌いのウルベルトが誘いに乗るわけもないため、けんもほろろに使者を追い返した。

 その結果、次の日の早朝、二人は聖騎士団の団長、レメディオス・カストディオと、神殿の最高司祭かつ神官団の団長である、ケラルト・カストディオの姉妹に怒鳴り込まれることとなる。

 聖王国騎士団長、レメディオス・カストディオ。二〇代半ばの女性騎士で、四大聖剣の一つ、聖剣サファルリシアの所持を許されている。その強さ、もしくは国家(及び文化面)への功績の大きさによって聖王から与えられる九色(きゅうしき)の称号のうち『白』を与えられている人物でもあった。なお、整った顔つきではあるが目つきは悪……鋭い。

 そのレメディオスの二つ年下の妹が、ケラルト・カストディオで、こちらも前述したとおり最高司祭かつ神官団団長の地位に就いている。姉のレメディオスは肩上で切り揃えた茶髪という髪型だが、ケラルトは腰まで伸ばしており、女性的な印象は姉よりも上だ。レメディオス自身も「神が三物(知性、才能、美貌)を与えた」と評価している。ただし、腹の黒い部分があり、相手の失礼に対しては表面上受け流すが、裏で報復を考えるといった性格だった。実力的には信仰系魔法の第四位階まで使える……という事にしているが、本当は第五位階までが使用可能。これは王国のアダマンタイト冒険者、チーム蒼の薔薇のリーダー……ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラを超える実力と言って良い。もっともラキュースに言わせれば、「私、剣も使えるから魔法面だけで強さを比べられても困るわよ」ということになるだろう。

 姉妹の性格上、本来であれば即座に怒鳴り込むのはレメディオスの方となる。剣腕は素晴らしいが、常識人ではなく残念人なため、感情のままに行動するのだ。一方で、ケラルトは姉と違って知的な面が優れており、このような状況では表に出ず、次の策を講じるところ……なのだが……。

 今回、ケラルトが出張ってきたのは、使者を追い返した際、ウルベルトが放った「はぁぁん? 私より弱い人の下に入れと? 冒険者活動の実績を調べたにも関わらず? そんな身の程知らずな判断をする人が最高司祭で、この国は果たして大丈夫なんですかねぇ。あなた、転職した方が良いですよ? オークの集落とかがあるそうですから、そちらなんかがお薦めです」という、ケラルトをオーク以下扱いした無礼極まる発言が原因である。さすがのケラルトも(悪口雑言を聞かされた部下達の手前もあって)一笑に付すわけにはいかず、レメディオスと議論を交わし、頭に血が上っていたこともあって二人揃っての訪問をしたのだった。

 この訪問も、基本的には勧誘が主目的だったが、乗り気ではないたっちの覇気の無さにレメディオスが激昂。さらに、ウルベルトの(こな)れた煽りによって、ケラルトの忍耐機能が破綻し……。

 

「貴様の弛んだ性根を叩き直してやる! 表へ出ろ! ケラルト! 止めるなよ!」

 

「え~え~、止めるわけないわよ。私だって、この口の躾がなってない男に教育をしないといけないもの」

 

 と、こういった展開になるのだった。

 結果から言えば、たっち達の圧勝である。

 人化した状態であっても、実力でカストディオ姉妹を上回るため、たっちは様子見で数合斬り結んだ後、溜息と共に剣の柄でレメディオスの後頭部を殴打。彼女を昏倒させている。ウルベルトは、ケラルトに魔力切れを起こすまで好き放題攻撃させた後、まったくの無傷で<火球(ファイアボール)>を放ち、彼女を吹き飛ばしていた。殺すところまでやらなかったのは、せっかく冒険者稼業が板に付いてきたのに、要人殺害の犯罪者へジョブチェンジすることを面倒だと思ったからだ。

 倒れた二人の頭にポーションをかけ、「もう来るんじゃないぞ? 連れて帰ってやれ」とウルベルトが、姉妹の従者らに言い、無言のままのたっちと共に冒険者酒場に引っ込んだことで、この一件は終了する。

 ……終了したはずだった……。

 更に翌日、今度は『清廉の聖王女』と称されるカルカ・ベサーレスが、数人の騎士と共に冒険者酒場を訪問したのである。カストディオ姉妹を叩きのめした報復にでも来たのか……と、考えたのはウルベルトだったが、(どよ)めく冒険者らのテーブルの間を縫って進んできたカルカは、出迎えたウルベルトらに対して謝罪したのだ。

 

「先日は、最高司祭と聖騎士団団長が大変な失礼を……。二人には強く言って聞かせますので、どうか……お話だけでも……」

 

 ウルベルトとしては、権力の頂点たる王女の訪問に良い顔をしなかったが、開口一番謝罪して頭を下げた点は評価した。むさい王や王子の類いが来たら、謝罪があっても対応を厳しくしたろうが、カルカは「ローブルの至宝」と評される美貌で知られる王女だ。しかも人柄が良い。そんな金髪美女に下手に出られては、さすがのウルベルトも悪い態度では居られないのである。

 

「何、鼻の下を伸ばしてるんです?」

 

「ち、ちげーよ。ふざけんな、糞たっち!」

 

 二階の宿部屋からの階段、その途中で足を止めていたたっちの呟きに、ウルベルトは憮然として答えた。気難しげな顔、その額に血の筋をプックリ浮かせて……だ。

 その後、宿泊部屋にカルカを案内して話を聞いたところ、勧誘については諦めるので、高難度の名指し依頼をすることを許して欲しいとのことだった。引き受けるかどうかは都合によるとウルベルトが回答すると、カルカは快く微笑み、そして頷いている。

 

「もちろん、問題などありません。聞けば、アダマンタイト級の認可を受ける日も近いとか……。そのような方々の協力を得られることは、本当に喜ばしいことです! 今後ともよろしくお願いします。チーム『タッチアンドール』のお二方!」

 

 用意された粗末な丸椅子に腰掛けたカルカは、再びウルベルト達に頭を下げた。

 それを見たウルベルトは、「ほぉん? 王女様って言うから、どんなのかと思ったけど、面構えに見合って人柄は良いみたいだな。甘さが目立つけどな……」との感想を持ったが、同席していたたっちも思うところがあったのか、それまでの無気力さを幾分か改善し、カルカからの名指し依頼では積極的に動くようになる。

 また、たっちはレメディオスから、ウルベルトはケラルトから稽古や魔法講義を要請され、有償ではあったが二人に付き合うこととなった。その稽古等の回数が増すに連れ、カストディオ姉妹の態度は軟化していったのだが……どういうわけか、手製の茶菓子を持って割り込む、聖王女カルカの姿が目撃されることになる。

 そして現在、商人からの情報で「リ・エスティーゼ王国に、漆黒と呼ばれる大人数の冒険者チームが居るらしい。メンバーは、モモン、ニシキ、タケヤン、かぜっち、ペロン……」と聞かされ、更には巨大な魔法の発動が目撃されたという情報も得たことで、たっち・みーとウルベルトは王国へ向かうべく、出発するのだった。

 その二人を、カルカ、そしてカストディオ姉妹の三人が(その後ろに騎士と神官が数人ずつ控えているが)見送っている。

 

タチ(たっち)! 結局、一度も勝てないままだったが、私は修行を続けるからな! 次に会うときの成長ぶりに期待してくれ!」 

 

 元気よく騎士服姿のレメディオスが叫んだ。剣がらみで興味のあることについて、レメディオスは周囲を顧みることなく行動に出ることが多く、しかも好きでやっているから鼻息は荒いし、頬も赤くなる。だが、この時の頬の紅潮はそれだけではない……と、カルカとケラルトは睨んでいた。

 乙女心の代わりに聖剣が備わっているのではないか。

 独身のまま、高齢化していくのではないか。

 そう思っていたレメディオスに春が来たかもしれないのだ。

 このレメディオスの別れの言葉に対し、たっち・みーはぎこちなくではあるが、笑みを浮かべて頷いている。

 

「期待しますよ。出会った当初は塞ぎ込んでて申し訳なかったが、少し持ち直せたのはレメディオス殿の人柄に依るところが大きい。私で役に立つなら、剣の手合わせには可能な限り応じましょう」

 

 自分で持ち直したと言うだけあり、たっちは溌剌とした態度で話した。少なくとも重苦しい様子は微塵も感じられない。レメディオスを心配させまいと頑張っているようなのだが、それでもユグドラシル時代のたっちを知るウルベルトからすれば、「無理してるな……」と思ってしまうのだ。

 

 一方、双子の妹であるケラルトは、神官衣を下から押し上げる胸を強調しつつ、ウルベルトの前に進み出た。

 

アレイン(ウルベルト)の魔法理論。学ぶところが多く、自分の浅学さを思い知りました。姉の台詞ではありませんが、次に会ったときには一層上達していますので……。また、魔法を教えてくださいね?」

 

 ケラルトは最高司祭として話すとき、このような口調であることが多い。それは外向きの態度であって、カルカやレメディオスなど気心の知れた者との会話では、砕けた口調となる。では、今のケラルトは外向きの態度で話しているのだろうか。

 

(ぬぬぬ? ケラルト、何だか艶っぽいぞ? まさか、まさか……アレインに!?)

 

(あらぁ、あらあら。ケラルトったら、あんな清楚と艶を兼ね備えた態度を取れたのね。普段、貴族の男性と話すときは、事務的な口調で通してるのに……)

 

 レメディオスとカルカが、ケラルトの常にない態度に気づき囁きあっている。ケラルトの方でも姉と聖王女の反応に気づいていたが、こちらは知らぬ振りで通していた。

 

「なぁに、私の友人達には負けるが、ケラルト殿の努力は尊敬に値すると思いますよ? 大いに期待させていただきます」

 

 これがウルベルトの返事だ。嘘は言っていない。

 彼が思うに、ケラルトの研鑽や努力は大したものなのだ。少なくともユグドラシル時代のゲーム感覚でいたプレイヤー達などより、ずっと真摯な態度で『力』に向き合っている。それも当然、この転移後世界は魔法などはあってもゲームではなく、現実なのだから。

 

(所詮、俺達の力なんて、棚ぼたみたいに備わったものだしな。一から努力してるような奴は尊敬に値するね! それに、ケラルトは腹黒いところはあるが良い奴だ)

 

 元の現実(リアル)において、特定の女性と異性交遊をしてこなかったウルベルトだが、不思議とケラルトとは気が合うようで、一緒に居ても悪い気はしていない。

 また会いに来てもいいかもしれないな……などと思っていると、たっちから視線を向けられているのに気づいて咳払いをする。

 

「ごほん。じゃあ、私達はこれで……」

 

「お待ちください」

 

 背を向けようとしたウルベルトに、カルカが声をかけた。それまで右前にケラルト、左前にレメディオスを置いて、後方で控えていたカルカだが、ウルベルトらを呼び止めるや前に出てくる。必然、カストディオ姉妹の間を割って出てくることになるのだ。

 

 ガス! ドン!

 

 ……肩で割って出てくることになるのだ。

 

(「あ痛たたた! 今の、肩で押しのけていったわよ!?」)

 

(「ケラルトはともかく、甲冑を着てる私も肩で……。怪我とかしてないのか?」)

 

 カストディオ姉妹が顔を見合わせているのを無視し、カルカは花のような笑顔を浮かべた。

 

(何よ何よ、二人とも。稽古や講義にかこつけて仲良くなって! 二人だけ良い人を確保しようだなんて、そうはいかないわ! 私にだって機会はあるべきよ!)

 

 カルカ・ベサーレスは、二〇代半ば。

 この転移後世界では、結婚していてもおかしくない年齢だ。むしろ危機感を覚える年頃と言える。彼女の危機感がどの程度のものかと言うと、肌年齢等を維持するべく、新たに信仰系魔法を開発してスキンケアを行っているほどなのだ。その他の美肌技術も含めて、カルカは門外不出にしていたが、たっちとウルベルトに関しては、二人の実力の高さから情報開示している。これが……結果として大正解だった。

 ウルベルトは専門外の信仰系魔法とはいえ、自分で魔法を開発した事について大絶賛したし、たっちは前衛職だが、新魔法の開発がただ事でないことは理解できている。こちらはカルカの努力に対して惜しみない賞賛を贈ったものだ。

 二人の男性から高い好感度を得ていたカルカは、高揚した気持ちをおくびにも出さず微笑む。

 

「貴方方が聖王国で滞在している間、いくつもの高難度依頼を解決して頂きました。本当に感謝しています。これから王国に向かわれるとのことですが……。差し支えなければ目的など……。いえ、立場上、他国のことは気になりますので……」

 

 もっともらしいことを言っているが、カルカが一番気にしているのは王国で存在するかも知れない『女性の影』である。ウルベルト達に、深い仲の女性が居るのではないかと考えているのだ。実際は全くの杞憂なのだが、婚期について焦りを覚えるカルカは真剣であった。

 このカルカの質問を受け、たっちとウルベルトは顔を見合わせ、同時にカルカを見返している。そして、「古い友人が滞在していると聞いて、久しぶりで会いに行くところなのです」と、たっちが述べた後、それぞれがカルカに対して声をかけた。

 

「また来ますよ。こちらには筋の良い……剣の稽古相手が居ますしね。それと……聖王女様の、お手製菓子も好きですから」 

 

「私も、癪ですが同じ意見です。ケラルト殿は飲み込みが早いので、しごき甲斐がある。その間につまむ、聖王女様の菓子は悪くな……絶品ですかねぇ」

 

 憎まれ口を叩こうとしたが、すんでの所でウルベルトは言い直す。そうする程度にはカルカのことが気に入っているらしい。この時、たっちは躁鬱の症状が引っ込んでいたので、ユグドラシル時代のノリでウルベルトをからかおうとしたが、止めにした。

 

(ここで喧嘩をして、カルカさんを困らせるわけにはいかない。カルカさんの笑顔は、何と言うか……良いものな。特に、今の俺にとっては……)

 

 この後、たっちとウルベルトは、いつまでも手を振り続けるカルカとカストディオ姉妹に見送られながら、王国へと向けて出発する。暫くは黙々と歩いていたが、カルカ達の姿が見えなくなった時点で、ウルベルトが口を開き、いつものように口論が始まったのは言うまでもない。ただ、たっちが節々でブツンと電池が切れたように鬱になるため、口論一回ごとの継続時間は短いものとなるのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「カルカ……」

 

 たっち達の姿が見えなくなったところで、ケラルトがカルカの名を呼ぶ。神官団長と王女だが、カストディオ姉妹とカルカは大いに親しい。名前で呼び合える程の間柄なのだ。ただ、全員が独身であるためか、女性同士の恋愛関係を噂されており、三人共が迷惑に感じている。

 そういった下世話な噂を払拭するためには、異性との交際ないし婚姻が効果的だが……少し前まで、レメディオスには恋愛願望が無く、ケラルトは自身に見合った異性と出会えていなかった。カルカに到っては、出会いの機会そのものが他の二人よりも少ない。

 このような物悲しい状況で突如として出現したのが、たっち・みーとウルベルトである。剣腕でレメディオスを、魔法分野でケラルトの上を行き、容姿人格共に不味くないという良物件だ。

 出会ってからの期間は短いものの、現時点でレメディオスは、たっちに好感を抱き、更には尊敬しているという恋愛未満の状態。カルカとケラルトは、結婚前提の異性としてロックオン中である。特にカルカは、ケラルトの目がウルベルトだけに向けられているのに対し、たっちとウルベルト双方に着目していた。

 

「何かしら? ケラルト?」

 

「なにって……アレイン(ウルベルト)は、私が狙ってるんだから。遠慮して欲しいかな~……って」

 

 ジト目で訴えるケラルトだが、カルカは何処吹く風で笑い飛ばし……もとい、華やかな笑みで受け流す。

 

「ふふっ、何言ってるの。こういう事は自由恋愛でしょ? 早い者勝ちなの!」

 

「じ、自由恋愛……。言っちゃあ悪いけど、『聖王女様』が言って、これほど似合わない言葉もないわね……。それと、タチ(たっち)も狙ってるなら、旦那二人とかって事でしょ? 最終的に片方とだけ結婚するにしても、二人キープしておきたいとか……。聖王女として本当にどうなの、それ?」

 

 ドン引きしつつ言うケラルトに「言いたいことは解るけど、納得したくはないものね~。私だって恋愛したいんだもの。何度も言うけど、早い者勝ちよ」とカルカが反撃。二人は口元に笑みを浮かべ、笑っていない目で睨み合ったが、どちらからともなくレメディオスを見た。レメディオスは少し潤んだ瞳で、たっち達の去った方向を見つめている。

 

(「む~……。その時、姉の姿は、まるで女性のようだった……なんて」)

 

(「ケラルト、それは(ひど)すぎよ。せめて『思春期の小娘のようだ』とか……」)

 

(「それはそれで、『聖王女様』の方が酷いと思うんですぅ~」)

 

 実のところ、この時点でレメディオスは、まだ色恋の対象としてタチ(たっち)を見ていなかった。ケラルトの、ウルベルトの反応には気が回っていたのに……である。

 しかし、このすぐ後、それとなく確認してきたカルカとケラルトに対し、驚き赤面しながら「わ、わわわ! 私はだな! タチ(たっち)を剣士として尊敬しているんだ! ほ、ほ、本当なんだからな!」と否定し、そこでようやく自分の気持ちに気づいている。

 余計な質問で、恋の花が咲くこととなったわけだ。

 ウルベルト狙いのケラルトはともかく、双方狙いのカルカは大いに後悔するのだった。

 

 

◇◇◇◇

 

 

 出発した背後で、カルカ達がガールズトークを繰り広げていたが、たっちとウルベルトも、それなりにカルカ達について話し合っていた。

 

「たっちさん? 聖王女やレメディオスが気になるなら、残っても良かったんですよ? 体調も良くなさそうなんだし……」

 

 丁寧な物言い。カルカ達と別れる際にも同様の口調だったが、ウルベルトが今の口調で話しているときは、敬語や丁寧語が必要な相手の時に使い分けるほか、『ウルベルトを演じている』状態だったりする。ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』のギルメンが相手だと、ほぼこの口調だが、頭に血が上ったり感情的になると、本来の荒っぽい口調が出てくるのだ。

 なので、仲の悪いたっち・みー相手でも、通常は感情的にならない限り、ウルベルトは丁寧に接している。では、この時のウルベルトが通常どおり接しているかと言えば、さにあらず。異世界転移後、ずっと躁鬱状態にあるたっちを警戒して、当たり障りないよう接しているのだ。

 無論、こうしたウルベルトの対応にはたっちも気づいており、精神的に落ち着いているときは無闇に反発しないようにしている。だが、躁鬱の状態で言えば、たっちは鬱の方に偏りがちで、少しのことでも憎まれ口を叩くことがあった。

 相手との会話で憎まれ口を叩くのは、本来であればウルベルトの方がよくやることだ。しかし、たっちがこうなってからは、ウルベルトは自重を強いられている。二人で行動しているのに、二人共が反抗的な態度や口調では、物事が一々荒れるからだ。これにより、ウルベルトの抱えるストレスは、更に増し増しとなっていくのである。

 

「私の体調自体は問題ないと、転移した時から言ってるでしょ? 大丈夫ですよ。聞かされてる聖王国と王国との距離からすれば、カルカさん達に会いに行くのはいつだってできるんですから。今は、ギルメン達と合流することを優先しなくちゃ……」

 

 ムスッとした声で言うたっちの横顔は、元の現実(リアル)におけるオフ会で見たときと変わらない。ただ、その目には疲れが見えており、時折、ブツブツ呟くのが何とも不気味だった。

 

(ギルメンかぁ……。皆と合流できたら、こいつ……少しはマシになるのかな?)

 

 この時期のナザリック地下大墳墓では、異形種化していると精神が異形種に偏り、人化していると、異形種で居られないストレスで、人としての精神が異形種化していくという症例が確認されている。これは異形種化と人化を交互に行えば、取りあえずの対処が可能だったが、今度は『どちらか片方で居続けられないストレス』が蓄積されて、最終的に発狂することとなる。これを発狂ゲージが溜まるというのだが、精神安定化のアイテムを装備することで、解消できることも判明していた。

 ウルベルトはどうだったかと言うと、異形種化と人化の交互実行で精神のバランスを取れることには気づいている。そのことをたっちにも教え、対処させていたぐらいだ。だが、発狂ゲージについては気がついていない。本来の彼であれば気がつけたかもしれないが、今はたっちがおかしい事になっているので、気が回っていない状態だった。

 

「まあ、ギルメンとの合流優先については、私も同意しますけどねぇ。はあ~、たっちと意見が同じとか、マジかよ……。……レメディオスと言えば、眼光が鋭い感じでしたけど。……彼女より、眼光の鋭い女の子が居ましたっけね?」

 

「……九色(きゅうしき)の黒……パベル・バラハさんの娘さんですよ。従者……訓練兵だったかな。確かに眼光は鋭かったですねぇ、レメディオスさんよりも……。結構、整った顔立ちの女の子でしたけど、目つきだけは父親似……なのかな。……名前は知らないんですけどね」

 

 ウルベルトが話題を変えたことで、たっちも乗ってきた。

 パベル・バラハの娘……名をネイア・バラハと言うが、聖王国滞在中、たっちとウルベルトはたまに見かける程度で、話したことはなかった。ただただ、その暗殺者の如き眼光が印象に残っていたのである。

 ネイアは聖騎士として才能が無く、どちらかと言えば弓術で名を成した父親からの才能を受け継いでいた。だが、それほど接していないことで、たっち達も彼女の『職業選択』の向き不向きにまでは気がついていない。

 ネイアについての話題はここで終わり、彼女に関して再び二人の意識が向くのは、少しばかり後日のこととなる。

 

 

◇◇◇◇

 

 

「……不本意だ」

 

 執務机で置物と化していた骸骨。モモンガが、眼窩の灯火と共に再起動する。

 八本指からの情報からすると、恐らく目撃されたのはたっち・みーとウルベルトだ。ほぼ、確定と言っていい。二人はギルド『アインズ・ウール・ゴウン』発足前の、クラン時代からのメンバーで、モモンガにとっては双方共に憧れの対象だ。たっちにはソロ活動時代に助けて貰った恩義と格好良さから、彼のファンとなり、ウルベルトに関してはその最強ぶりと悪魔的ロールに惚れ込んでいた。

 

「そんな二人を、俺が探しに行けないなんて……そんなことがあって良いのだろうか? いいや、良くない!」

 

 ダン! と執務机に拳を振り下ろす。壊してはいけないので力を加減しているが、ユグドラシル時代であれば、ダメージゼロの表示が浮かんだはずだ。モモンガは、机に叩きつけられ今では置かれた状態の握り拳をジッと見る。そして、おもむろに立ち上がった。

 

「よし、俺一人で探しに行こう! ……ふう……」

 

 苛立ちと焦りが限界を超え、アンデッドの精神安定化が発動する。

 

(ちっ! こういう事は、異形種化したままで悩むものではないな!)

 

 そう思って人化してみたが、一度落ち着いてしまうと、今度はギルメン達から言われた「弐式さんの探索力を信用しなさい」という言葉が思い出され、のし掛かってくる。

 

(……異形種化しよっと……。……ふう)

 

 精神を安定させたモモンガは、どっかりと椅子に腰を落とした。とはいえ、悩みが消えたわけではないので、今度は机上に肘を突く形で頭を抱えてしまう。

 苦悩する骸骨像の完成である。

 

「ぐぬぬぬ! 俺は、俺はどうすれば……」

 

 このまま、異形種化と人化の繰り返しを続けるかと思われたが、その時……。

 

 コンコン。

 

 外からドアがノックされた。

 

「あの……アルベドです。タブラ様からの御命令で、お茶を……」

 

 今は良い。悪いが持って帰ってくれ。

 そう言おうとしたが、タブラの名前が出たのでモモンガは言葉を飲み込む。

 タブラの指示で来たと言うのなら、ここで追い返すと次の策を講じられるだけだ。それも、『アルベドのお茶』などではなく、もっと抗いがたい何かがやってくるに違いない。そんな事をされるぐらいなら、素直に恋人が持ってきたお茶を飲んでおくべきだろう。

 

(ぬ~……タブラさんめ。俺が我慢できなくなるのを見越してたな?)

 

「……入って、よろ……」

 

 入室許可をしようとしたモモンガは、一度言葉を切り、ドアの向こうに語りかける。

 

「アルベドは、一人で来たのか?」

 

「は、はい。タブラ様からは一人で行くように……と」

 

 アルベドの声は心細げであり、その声色がモモンガの苛立ちと焦りを掻き消していった。そして、それは『自分一人での捜索』に向けた意欲の減衰をも意味する。

 

(ああん! たっちさんとウルベルトさんが遠のいていくぅ~……)

 

『モモンガさ~ん。焦らないでくださいね~、くださいね~、ね~ね~……』

 

『タブラさんに逆らうと、後が怖いですよ? たまに俺より悪魔的だし』

 

 モモンガの脳内で、妙にエコーがかかったたっちの声と、あまり聞いたことのない、神妙な口調のウルベルトの声が聞こえた。その幻聴は、二人の胸像イメージと共に消えて行く。

 

「タブラさんには、かなわないな~……」

 

 腹が立つと言うより、してやられた感が強い。次に考えてしまうのは、アルベドを遣いに出されるほど心配させていたのか……ということ。

 

(俺は……ギルド長として、まだまだだなぁ……)

 

 ギルメン達に言わせれば、本当に良くやっているギルド長……モモンガなのだが、自己評価はこのとおり低い。モモンガ当人は、自分のPVPの強さ(初見で勝てる強さではなく、最終的に勝てる強さ)に自信はあったが、組織のトップとしては自信が無いのだ。

 この先、組織運営能力に自信が持てるようになる日が来るのだろうか。

 

「はあ……駄目そう……」

 

 モモンガは軽く頭を振る。

 そして思うのだ。自分は、ちょっとユグドラシルで名が知れた程度の、元営業サラリーマンだ。頑張っても、そうそう大人物になれるわけではない。ギルメン達とNPC達の力を借りて、その時々で一所懸命にやるしかないではないか……と。

 

「あの、アインズ様?」

 

「ああ、すまないな。入っていいから……」

 

 アルベドを待たせていたことを思い出し、モモンガは入室を許可した。まだ少し口調は硬いものの、恋人向けの砕けた調子になりつつある。

 その後、応接セットに移動してアルベドと差し向かいで紅茶を飲み、茶菓子を摘まむのだが……。

 アルベドから、タブラが「追い返されたら、別のことをするから報告するように」と指示を出していたと聞かされ、更には「この話は、モモンガさんに聞かせるようにね」とまで言われていたと知り、モモンガは背筋を震わせることとなる。

 結局のところ、一切合切を諦めてティータイムを満喫することになり、モモンガとしては十分すぎるほどのリラックスタイムとなった。そして、創造主の命令から始まって愛する男性とのティータイムを得たアルベドは、一点の曇りもなく幸せだったという。

 




 今回、冒頭部分のたっち&ウルの転移後の経緯を書いてたとき。
「これ、二人の転移時期に遡って、20話ぐらい書けるんじゃね?」
 と思ったのですが、そうなるとモモンガさんの出番が激減。
 たまの幕間に、ちょろっと『そのときのモモンガさん、その他のギルメン』を書くぐらいで対応できるか? とも思いましたが、
「そんなの、たっち&ウルがメインじゃん。『集う至高』は、モモンガさんがメインじゃないと駄目! というか一部のギルメンに偏った書き方すると、自分の筆力ではギルメン多数型として破綻しちゃう。そうだ、機会があれば外伝で書いちゃえ」
 というわけで、本編では経緯を書くに留めました。
 今話も何とか、モモンガさんの出番を入れられました。ノルマ達成でございます。
 まあ、外伝を書くかは定かではないんですけど。書かないかもですけど。


 ネイアを、どうにかねじ込みました。
 モモンガさんのお供として聖王国を際来訪したたっち&ウル、そしてネイアがどうなるのか……とかは構想としてあるのですけど。書くとしても番外編で、ですかね~。
 弓つながりでペロロンチーノさんと仲良くなる感じかもです。無論、シャルティアに睨まれます。実は、その辺りを経緯書きのように10行ぐらい書いたんですけど、駆け足すぎだろ? と思ったので端折りました。

 何か、外伝前提で話が進んで行く~……。

 カルカとカストディオ姉妹に関しては、原作があんな感じでしたので、二次創作補正で幸せになっていただきます。あと書き手の贔屓。
 でも、このキャラ配置だと、誰か泣くんじゃないかな……。
 カルカとか、カルカとか、カルカとか……。
 タッチさんかウルベルトさんのどちらかに、二人面倒見て貰いますかね。 
 カルカをどっちにくっつけても、話は書けそうですし。

 いざとなったら、モモンガハーレムにブチ込んでもいいかな~……。
 また低評価つきそうなので、やめた方がイイかな。

 カルカに対するウルベルトさんの認識や感覚は、甘めで書いています。
 活動家としての継続してきた諸々が、異世界転移でブツンと切れてること。
 たっちの介護で精神的にまいってたこと。
 カルカが為政者として手ぬるく甘いけど、本心から国のことを憂いていること。
 諸々が理由ですかね。
 あと女性の美醜感覚についてはウルベルトさんは、庶民並みとして扱ってますので、ケラルトやカルカと仲良くできること自体は嬉しく感じてるように描写しています。

 たっち&ウルがナザリックに合流したら、あとは何かイベント書いて最終回になると思います。100話近く続けてきましたので、エタらないように頑張ります。

<誤字報告> 
メスガキだいすきの会さん、D.D.D.さん、トマス二世さん、戦人さん、zzzzさん、佐藤東沙さん

 毎度ありがとうございます。
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