「と言うわけで、お
ナザリック地下大墳墓。第九階層の静まりかえった円卓にて、モモンガの声だけが響き渡った。室内には、現状で合流済みのギルメンが全員揃っており、自らの指定席に座っている。
皆落ち着いているようだが、内心では歓声をあげて
無論、たっち達の帰還報告(ギルメン達を呼び寄せる<
(こういうのって、『溜め』が必要なんだよ! みんなも、わかってくれてるんだなぁ!)
居並ぶギルメン達は、モモンガを始めとして全員が異形種化していた。
帰還したギルメンを迎えるのならば、この姿が相応しい。
誰が言うでもなく、そして一人の例外もなく、異形の群れとなって円卓で待機中なのだ。
ガチャリ。
扉の開く音が、妙に大きく聞こえる。
静々と言うより、恐る恐るといった挙動で入ってきたのは、白銀の騎士……たっち・みーだ。はためき効果で、深紅のマントが翻っているが、本人がオドオドしているので、どうにも締まらない。しかも、入室と同時にギルメン達の姿を見て驚いたのか、入口のところで固まっている。
「ちょっと、そんなところで止まらないでくださいよ!」
呆れの色が濃い抗議と共に、たっちの背を押してウルベルト・アレイン・オードルが姿を現した。こちらは、何の気負いもなく、引退前に皆がよく見た『悪魔』の雰囲気を醸し出している。
対照的な態度の二人が、円卓を周り込んでそれぞれの席後ろで立つと、我慢の限界を超えたのかギルメンらが我先に話しだした。
「待ってたぜ! たっち・みーさん! さあ、PVPだ! ユグドラシル時代とは一味違うところを見せてやる! 今度こそ、俺の勝ちだな! あ、それと、合流時に弐式をブッ飛ばしたそうだから、その仇討ちもやらないとな!」
立ち上がった武人建御雷が、フロントダブルバイセップスを決めながらPVPを要求する。その隣で座ったままの弐式炎雷は、「落ち着けよ、建やん。つ~か、仇討ちって……俺、死んでない~。まずは、NPC達にも帰還報告をしなくちゃだろ? 宴会は……NPC達に教えた後か……。待ち遠しいなぁ」と呆れ声の後で、ウットリした声を出していた。
「ウルベルトさんが来たら、ナザリックの魔法打撃力は一安心ですね」
そう言ったのは、単純火力ではモモンガの上を行くタブラ・スマラグディナ。しかし、言い終えた彼は、タコに似た頭部を傾げている。
「と言うか、たっち・みーさんも加わりましたし……。これ……同じ人数か、ちょっと多いぐらいのユグドラシル・プレイヤーが敵対しても、軽く蹴散らせそうですよね?」
「理解した上で言ってるんでしょうが、油断は禁物ですよ、タブラさん。その規模のプレイヤーが向こうに回ったら、まずは情報収集です。相手の嫌がることを調べてから、奇襲。何もさせずに殲滅……というのが最良です」
タブラの呟きに反応したぷにっと萌えが、流れるように説明している。それは、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の対プレイヤー戦における必勝法のようなものだ。
「この戦法を知ってる相手でも、対処できる手立ては幾つかありますし。ま、事前の準備さえ怠らなければ、危ないことにはならないでしょうよ。もちろん、先手を取られないための警戒は必要です」
ナザリックに手を出そうという輩を探し出して、先に叩き潰す。あるいは有益な踊り方をさせる。ぷにっと萌えは、人化していれば悪い笑顔を見せていたことだろう。
(「ねえ? やまちゃん……。たっちさんの話、聞いた?」)
(「奥さんと娘さんのこと? <
アイテムを利用して二人だけの囁き合いをしているのは、ぶくぶく茶釜とやまいこ。
二人の好みからは少し外れているが、たっち・みーは、その特撮趣味と、ちょっと強めの正義感に目をつむれば、男性として良物件だ。何しろ、精悍さの方面で容姿が整い、地位と資産が充実している。配偶者と娘に対する対応も、茶釜達から見れば合格点を付けて良いぐらいだ。
その彼が、異世界転移前に直面した人生最大の苦境……妻子の逃亡。
女性として、逃げた妻子の気持ちはちょっぴり理解できる。夫の不在が長いというのは、確かに辛いだろう。しかし、たっち・みーの人となりを知る友人としては、たっちの肩を持ちたいのだ。
ただし、たっちの妻は、その身勝手によって逃げたのではなく、自分を見初めた相手によって強引に囲われた可能性がある。置き手紙だって、あの内容で書くことを強要されたかもしれないではないか。この推測が正解であるなら、たっちは何としても元の
数日後、茶釜とやまいこは、たっちの自室を訪ね、自分達の推測について相談した。
「……お気遣いいただき……。……ありがたく……思います」
茶釜とやまいこを前にしたたっちは、官憲らしい硬い口調で礼を述べた後、次のように説明を行っている。
異世界転移前のたっちは、情報屋を雇うなどして独自の捜査で妻子の行方を追って居た。最終的に所在こそ掴めなかったものの、とある高級レストランで食事をする妻子の写真画像を入手できている。某大企業の幹部と思しき男性と食事を共にする妻子……元妻子は、実に幸せそうだったと、たっちは語り、そして力無く笑った。
「私が見たのは何年前か……というぐらい、良い笑顔でしたよ」
つまり、彼の妻子は、権力者によって無理矢理に……ではなく、自分の意思によってたっちを裏切り、姿を消したわけだ。
であるならば、たっちはテロリストを心中相手とするのではなく、妻子と男らが揃っているところへ、拳銃片手に乗り込むべきだったのではないか。
たっちは「そう思われるかもしれませんが……」と前置きし、「今思い返せば、それでも妻子が幸せなら……それはそれで良かったと思うんですよ。妻だけじゃなくて、娘のこともありますしね。向こうはどうだったか知らないですけど、これでも妻子を愛していましたので……。それを思うと、私の報復なんかで射殺とか……ねぇ。ただね、ただ……私の気持ちのぶつけどころと言うか、落としどころは如何しても必要だったんです。欲しかったんです。顔や喉を掻きむしって叫びたくなる程、どうしようもなくて……。おかしくなりそうで……いや、もう、おかしくなっていたもので……」と述べている。
結果として、たっち・みーは怒りや憎悪と言った負の精神のはけ口を、テロリスト……犯罪者らに向けたのだった。だが、それすらも、今回の異世界転移によって実行できないまま終わっている。
「まあ、実行できなくて良かったんでしょうねぇ……。私自身が……私の本来の敵たる、犯罪者にならないで済んだんですから……」
そう呟いて締めくくった、たっち・みーが今、引退前のユグドラシル時代のように笑い、モモンガ達と語り合えているのは、かつての友人らが集い、元の
それに、たっち自身が、自分の気持ちに折り合いを付けているのなら、敢えて他人がつつきに行くものではない。
と、このように茶釜とやまいこが納得し、溜息をつくのは、前述したとおり後日のこととなる。だが、今の二人は何となく釈然としない気持ちのまま、ちょっと曖昧な笑顔でたっち達を迎えていた。
「ところで……」
モモンガ達に「どうぞどうぞ」と勧められ席に着いた、たっちら二人。その内のウルベルトが、ある一点を見ながら発言する。
「ペロロンチーノさんは、どうしてボコボコに顔を腫らしてるんですか?」
ウルベルトが見ているのは、黄金甲冑を装備した仮面のバードマンだ。仮面の下で顔が腫れているらしく、きちんと装着できていない。その証拠に、仮面が妙な方向を向いている。
ウルベルトの指摘について答える者は居なかったが、ギルメン全員の視線が茶釜を向いたのでウルベルトは察した。
「なるほど。問題視する事ではないわけですね」
「ウルベルトさん、それはあんまり! うっ!!」
抗議しようと腰を浮かせたペロロンチーノが、茶釜の視線によって黙らされている。
一連の流れを見ていたモモンガは「ペロロンチーノさん……。諦めないで、マジで茶釜さんのところへハンコを貰いに行ったんだな~。……勇者だ!」と感心し、ペロロンチーノのエロさ加減を見直していた。
暫く前、ペロロンチーノは『エロモンスターの生息地域の探索』について、旅行命令簿の決裁権者たるモモンガから、「ぶくぶく茶釜の了承と押印を得ること」を条件とされていた。
決裁権者の押印があるとはいえ、申請書が条件付きでUターンしてきたので、ペロロンチーノは大いに狼狽えたが、数分間の熟慮の末、姉の自室(落ち着いた雰囲気の、ホテルの一室風。書棚やクローゼットなどがある。寝室と、通路につながる客間は別。)へ赴き……その、溢れんばかりの熱意を以って『エロモンスター生息地の探索』の有益さを説いたのである。
曰く、「ナザリックで把握していないモンスターとかが居たら、確保したいじゃん!」
曰く、「そうやって確保して、手下とかにできたら戦力アップにつながるし!」
曰く、「人間と交配可能な感じだったら、数も増やせ……うっ!?」
三つ目の『有益さ提示』で、姉の視線が鋭くなった。この時の茶釜は異形種化しており、ピンクの肉棒状態だったが、なぜだか眼光の鋭さが感じられたのである。
だが、ペロロンチーノはめげない。
曰く、「ふ、ふふふ、風俗通い……とか、しなくても良い職場環境づくりが……」
しどろもどろになって続けるも、触腕二本で書類を持つ茶釜は、『眼光』の鋭さを増すばかりである。
曰く、「そ、そうだ! 男っぽいエロモンスターが居たら、姉ちゃん達だって……」
ビリィィィ! ばりばりばり!
これは、ペロロンチーノの旅行命令簿(A4用紙一枚と、大まかな現地周辺の広域地図)が引き裂かれた音だ。茶釜は伸ばした二本の粘体……触腕でもって、器用に千切り捨てている。
「ね、姉ちゃんっ!?」
狼狽えるペロロンチーノに対し、書類の破り捨てを終えた茶釜はキッと顔……らしき部分を向けた。そして、先程まで書類破りに使用していた触腕を、自身の頭部(?)より高く掲げて威嚇の姿勢を取る。
「こぉんのぉ愚弟がぁああ。最初は、少しはマシなこと言ってると思ってたよ? 風俗云々も、まあギルドの男衆のことを思えば目をつむっても良かったかもしれない。けどねぇ……そこに姉ちゃんや、やまちゃんを引き合いに出す性根と、デリカシーの無さと、破廉恥さは許しがたいのよね~……」
「は、はわぁあああああ……」
必死で考えながら喋っていたが、必死なあまりに配慮が抜け落ちていた。
言われてみて気がついたのだが、放った失言は茶釜の鼓膜(?)を振るわせた後である。
すでに手遅れなのだ。
にじり寄る茶釜に対し、ペロロンチーノはジリジリと後退。そのまま部屋の壁に背が付くかと思われたが、ふと気づいたことがありペロロンチーノは姉に訴えかけた。
「ね、姉ちゃん! このことは、やまいこさんには内緒で……」
失言等で、姉の茶釜に説教されたり折檻されたりは毎度のこと。しかし、余所の家の女性に嫌われるのは避けたい。しかも、やまいこは人化した姿がペロロンチーノのストライクゾーンに近く、今の件については知られたくない相手であった。
だが、弟の訴えで動きを止めていた茶釜は、ピンクの肉棒にしか見えない身体を器用に変形させ、肩をすくめてみせる。
「残念ね。もう遅いのだわさ!」
「わさ!?」
姉の珍妙な言い回しに、ペロロンチーノの声が裏返った。一方、その声をスルーした茶釜は、右側の粘体触腕で指を鳴らす。
「やまちゃん! カムヒア!」
「どうやって指を鳴らしたのっ!? て、やま……やまいこさん!?」
ペロロンチーノが周囲を見回すと、彼から見て右方……客間側の扉が開き、一人の
その目(というより、目周りのまぶたや皮膚)は怒りに震え、両手には赤く巨大なガントレット……女教師怒りの鉄拳が装着されていた。
「弟君……いや、ペロロンチーノさん。ボクは……基本的に、かぜっちと同文!」
「ちょっと待って! 話し合いの余地があるでしょ!?」
ペロロンチーノの甲高い声は、絞められてる鶏のようだ。異世界転移後、もう何回絞められているかわからないが、こういう時に出す定番の声色である。茶釜が「話し合いの余地なんか無いわよ~」と呟いているが、ペロロンチーノは敢えて無視し、視線でやまいこに縋りついた。
しかし、やまいこの反応は冷たい。
「話し合い? もう言わずに済まそうかと思ったけど、聞きたいんだ? そっか、そっか。ペロロンチーノさんさぁ~……ボクが風俗通いとか、すると思ってたわけ? 通うこと自体は犯罪でも何でもないし、男の人の事情も理解するけどさ。そういうのが好きじゃないボクにしてみたらさ、さっきの話……結構な侮辱なんだよね~……」
ガシーン!
巨大なガントレットが打ち合わされた。
「いや、あの……その……ひぃいいいい」
後退を続けた結果、今度こそ壁に背の付いたペロロンチーノ。
その彼に、ピンクの肉棒と
そして……。
「現在に至る……と?」
そうベルリバーに確認したのは、ベルリバーの隣で座る獣王メコン川だ。彼の視線は、石像のように固まったペロロンチーノと、鋭い視線で彼を睨む茶釜及びやまいこに向けられている。
「そうなんだよ、メコさん。ここ最近のペロロンさんは、幻覚で酷い目に遭わされてたけど……。久しぶりで本当の折檻を受けたらしい。それも、やまいこさんの鉄拳制裁で……」
「聞いただけで恐ろしいな……」
メコン川は、その白獅子然とした顔を天井に向けて溜息をついた。
彼とて男性であるし、元人間なので異性の好みは人間種が基本だ。性欲も当然あるわけで、風俗通いと聞けば興味も湧くが……。
「それを茶釜さんと、やまいこさんを引き合いに出して、しかも当人ら相手に説得か……。ありえね~わ~……」
「だよな~……」
ベルリバーが頷いたところで、モモンガが議題を切り出す。
「え~、それでは、たっちさんとウルベルトさんが合流しました。お二人は、ナザリックに合流、ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』に復帰したいとのことですが……異議のある方は?」
挙手するものは居ない。
満場一致で二人の復帰が可決された。そのことをモモンガが宣言すると、ギルメン全員が拍手をする。それが収まると、モモンガは咳払いをしてから、次の議題を持ち出した。
「え~……続きまして。ギルド長こと
出席しているギルメンが全員挙手する。
満場一致で、ギルド長交代案が否決された。そのことを、モモンガが意気消沈しつつ宣言すると、ギルメンらは先程よりも音高く拍手をする。音量増加の要因は、たっち・みーとウルベルトが拍手に加わっているからだ。
「モモンガさんも、諦めが悪いですねぇ……」
「まったくです、ブルー・プラネットさん。とはいえ、あの諦めない姿はモモンガさんらしいと言えば、らしいんですけどね」
苦笑するブルー・プラネットに、カラカラ笑うぷにっと萌えが応じて言う。
ギルド『アインズ・ウール・ゴウン』。
最盛期の構成メンバーは総員で四十一人。
現在は、その半数にも満たない人数であるが、へこむモモンガを見て楽しげに笑うギルメンらの姿は、ギルドの最盛期を彷彿とさせる。
ギルド長席で頭を抱えるモモンガは……。
(これだよ、これ! この数年間、この雰囲気が欲しかったんだ! 他のギルメンも合流して人数が更に増えたら、もっと凄くて、楽しくなるぞぉ!)
悩ましく思う一方で、円卓に満ちた明るい雰囲気に歓喜するのだった。
◇◇◇◇
ギルメン会議での帰還報告が終了。
その他で話し合われたのは、異世界転移の直前、ウルベルトはともかくとして、たっち・みーが普通に話していたことだ。彼は妻子に逃げられて、精神的に参っていたはずなのだが……。
「そう言われると不思議なんですけど……。あの時は、妙に妻子のことを意識していなくて……。おかしいですよね。なんでなんだろう……」
というのが、たっち自身によって語られた当時の心境だ。
明らかに精神状態が歪められているが、それは会話ループ状態に陥っていた他のギルメンにも心当たりがある事で、皆が顔を見合わせることとなる。当時、『モモンガさんに対して申し訳ないギルメンの集い』に居合わせていなかったモモンガとヘロヘロについては、離れた席で首を傾げていた。
謎は深まるばかりだったが、ここでタブラが挙手し、「設定好きの推察ですが……」と前置きをした上で、持論を述べている。
あの集合地で居た者は、皆が精神状態をおかしくしていた。ゲーム的な見方をするならば、集合地……フィールドにはデバフ効果のようなものが存在したのではないか。
この考えはタブラが言ったとおり、推察に過ぎなかったが、モモンガ達に一定の納得感を与えている。そして、それ以上、この話題に触れることはなかった。
今となってはユグドラシルの『集合地』に戻って検証をするわけにもいかない。ある程度の納得ができれば十分なのだ。
こうして一つの話題が終わったが、次にすべきことは……となると、NPC達に対する帰還報告である。これは、異世界転移直後のヘロヘロに始まる……ギルメン帰還時の重大な儀式だ。
「まあ、アレですよ。NPCが創造主と対面して感動するシーンって、良いものですからね!」
そう言って骸骨顔のモモンガが人差し指を立てると、弐式や建御雷、既に製作NPCとの対面を済ませたギルメンらが頷く。
「確かに、そうよね~……。私なんて、萌えと欲望の具現化した存在……アウラ達に対面するとか、元の
これは茶釜のコメントだが、モモンガら男性ギルメン達は、「ピンクの肉棒の姿で、身もだえするのは止めてほしい……」と考えていた。勿論、声に出したりはしないのだが……。
そうした会話に興じていたが、モモンガが「それでは皆さん。そろそろ……」と促すと、皆が席を立ち、円卓から出ることとなる。
モモンガが先頭で、すぐ後ろにたっちとウルベルト。その後は、タブラやブルー・プラネットなどギルメン達が続く。
「まずは、たっちさん達は別室待機で……」
段取りを話しつつ、モモンガが通路に一歩出たとき……。
そこに、ティーセットを載せたワゴンとメイド、そしてセバス・チャンが居て……その彼と目が合った。
「あ、え~と……たっちさんは~……」
何となくだが、直前のセリフを繰り返そうとしてしまう。
モモンガは、セバスの視線が自分から少し左にそれて後方に向かったのを確認すると、そっとそちら側を振り返った。
「せ、セバス……チャンか……」
白銀の騎士がセバスの名を口にしている。最初戸惑った風で、言い終わりにシャンとした口調になっているあたり、たっちらしい持ち直し方だ。
(警察関係者ともなると、混乱からの復帰が早いな~……)
モモンガが感心していると、セバスがたっちに向け、一般メイドと共に一礼する。
「我が創造主にして最強の騎士、たっち・みー様。貴方様の御帰還を、心より歓迎いたします。そして、天より高く歓喜することをお許しくださいませ」
「……許そう。……セバス。長らく留守にしていて済まなかった……」
たっちにしてみれば、「ギルドの雰囲気が悪くなったのと、仕事都合で引退しただけなんだから。ここまで感激されると申し訳ない気分になるな。と言うか、偉そうに『許す』だなんて……。ああ、でも言っちゃったし……」と思っているのだが、謝罪の言葉が出たところで、セバスが下げた頭を振った。
「いいえ! いいえ、たっち・みー様! 御身が謝罪されるようなことは、何一つとしてなく……」
言葉が途切れる。
NPC基準で言えば、至高の御方に対する報告や会話を無様に途切れさせるなど、万死に値するのだが……。
通路に落ちる水滴が、セバスの心情を余すことなく表現していた。
たっちは、モモンガの右側から回り込んで前に出ると、セバスの前に立って彼の肩に手を置く。
「とにかく顔を上げてくれないか。セバスがその姿勢のままだと、私としては会話しにくいんだ」
「こ、これは到らぬ事で! この失態は死をもって……あっ」
反射的に背筋を伸ばしたセバスは、その目でたっち・みーを直視し、次いでモモンガ達を視界内で認識する。まず、把握できたことは、フルフェイスのヘルムを装着したたっちが困惑していること。そして、その彼が困ったように振り返った先で、モモンガ達が苦笑していること。
最後に、至高の御方達は、『ナザリックの下僕達が「死を以って償う」のを好んでいないこと』をセバスは思い出した。
多人数の至高の御方を直視した高揚感は一瞬で掻き消え、胸の内からは後悔が湧き上がってくる。さらには、己の存在を抹消したくなったが、責任を取るための自害は至高の御方に背く行為だ。これらのことから、敏腕執事セバス・チャンは、完全に意識をフリーズさせてしまうこととなる。
だが、そんなセバスを見て、モモンガは頬が緩むのを感じていた。
(わかる、わかるぞ~。想定外の事態って、自分のミスが乗っかってくるとパニックに拍車がかかるんだよな~。うんうん!)
元の
「そう、硬くならないでいいとも。セバスよ……。たっちさんとの話が済んだら、玉座の間に来るように」
そう声をかけると、モモンガは他のギルメンと共に歩き出す。背後からはセバスのすすり泣きが聞こえてきたが、それをホッコリした笑みと共に聞き流す。
だが、続いて……。
「そう言えば、お前……人間の女性と交際中なんだって?」
ガシッ! という音は両肩を掴んだ音だ。肩越しに振り返ったモモンガは、たっちがフルフェイスのヘルム着用のまま、首を傾げるようにしてセバスを覗き込んでいる姿を見たが……そっと正面に向き直っている。
(『親子』の会話を盗み聞きしちゃいけないよな。……たぶん……)
今見たことは忘れよう……。
そう思っているモモンガの耳に、後ろを歩くウルベルトの呟きが聞こえてきた。
「なるほど。ああいうサプライズも、中々に良いものですね」
「ですよね~……。ウルベルトさんも、デミウルゴス相手に『サプライズ』をやってみますか?」
ウルベルトなら、どういった趣向を凝らすだろうか。
モモンガは、幾分かの期待を込めて聞いてみたが、背後のウルベルトが首を振る気配が感じられた。
「やめておきましょう。たっちさんに先を越されてしまいましたからね。同じ事をするのはムカつ……面白くありませんので。ここはオーソドックスに玉座の間で……。ただ……」
「ただ? なんです?」
何か思いついたらしいウルベルトに、モモンガが聞き返す。一緒に歩くギルメン達も興味があるようだ。
「いや、既に聞いてることなんですけど、俺的に試してみたいことがありまして……」
そう言うとウルベルトは山羊頭ながら、器用に歯を剥いて笑ってみせたのである。
◇◇◇◇
ナザリック地下大墳墓、第十階層……玉座の間。
そこには各階層守護者、
そして、玉座にはモモンガが座り、彼の右にパンドラズ・アクター、弐式炎雷、武人建御雷、ぶくぶく茶釜、ペロロンチーノ(腫れた顔はポーションで治療済み)、ブルー・プラネットが立っている。左側にはアルベド、ヘロヘロ、タブラ・スマラグディナ、獣王メコン川、ベルリバー、やまいこ、ぷにっと萌えの配置だ。
こういった顔ぶれが玉座の間で集まるのは、これまでにも何度かあった。そのほとんどが『ギルメンの帰還報告』であり、呼び出されたNPCの中で自らの創造主が帰還していない者……デミウルゴスや、エントマ・ヴァシリッサ・ゼータなどは、興奮の気配を隠せない。
そんなプレッシャーすら感じる熱気を前に、モモンガは座したままで口を開いた。
「皆、よく集まってくれた。毎度のことだが、ギルメンの帰還報告会である。今回、合流し帰還を果たしたのは……二名!」
ざわりと空気が揺らいだ。
デミウルゴスら、創造主未帰還組の緊張が限界に近い。それが見て取れるため、モモンガは焦らすのをやめる。
「で、では、お二人に登場していただこう。どうぞ!」
壇上の両脇、モモンガから見て左から登場したのは、白銀の騎士……たっち・みー。右からは災厄の魔……ウルベルト・アレイン・オードルが登場している。共に、自室から取り寄せた最強装備で身を包んでいた。これらの装備は、異世界転移の直後まで霊廟で飾られていたが、弐式が合流した辺りから総て回収し、各ギルメンの自室に戻しておいたのである。
(と言っても、部屋の中の何処に置けば良いかわからないのもあったから、取り敢えず入ってすぐの所に、簡易アイテムボックスの機能がある宝箱に入れて……そのまま置いてあるんだけどな!)
そういった事をモモンガは考えていたが、今回の合流ギルメンの制作NPC……たっちはセバス、ウルベルトならデミウルゴスの反応が気になった。これまで、ソリュシャンはヘロヘロの帰還に際し、大人の女性的に涙しながら静かに喜び、アウラとマーレは茶釜との再会に際して号泣していた。コキュートスなどは建御雷の名を聞いただけで気絶してしまった程である。
では今回、創造主との再会がかなったNPC二人の反応はどうかと言うと……。
まず、セバス・チャン。
初老の完璧執事は、感極まった表情で微笑み……そして涙していた。
これには、たっち・みーが狼狽えている。
何故なら、セバスとは事前に顔を合わせ、再会を喜び合っていたからだ。ちょっと男女交際の問題で危険な気配はあったものの、無事に収まっているらしい。
「えっ!? ついさっき、私と会ったよね!」
口調が素に近くなっているたっちだが、セバスはハンカチで涙を拭い、創造主に視線を向け直す。
「失礼しました、たっち・みー様。この度は、偉大なりし至高の御方……我が創造主様の帰還報告。感動は新たな形となりまして、涙を禁じ得ないのでございます」
それを聞き、玉座の間に呼ばれたNPCら……僕達から「おおおおっ!」と声があがる。これは驚いたのではない。創造主と被創造物の正しい在り方とも言うべき情景に、大いなる共感を得たのだ。
(良かったですねぇ、たっちさん! ……セバスとツアレ関連の、アレな話題は上手くいったんだな~……。とまあ、こっちはこれでいいんだよ。問題はな~、ウルベルトさんとデミウルゴスがな~……)
玉座のモモンガは、少しだけ頭を前に出すと右端で立つウルベルトを見た。山羊頭の貴公子。災厄の魔。最強装備のウルベルト・アレイン・オードルだ。彼は悠然とした態度で立ち、その目はデミウルゴスを見ている。一方、デミウルゴスは……ウルベルトの登場時こそ表情を輝かせたが、今では少し考え込んでいるような素振りだ。
(ううっ! ……バレてる……のか?)
実は、今並んで立つウルベルトは……本物ではない。
最上級の幻像系魔法に、ウルベルト持ち出しの課金アイテムを使用し、
何故、そんなものを用意したかと言うと、発端はモモンガとパンドラズ・アクターのエピソードにあった。
『姿が変わろうとも、そこに創造主が居るのであれば存在に気づく』
そのようなことを、パンドラがモモンガに対して言った……というものだが、そこにウルベルトが興味を持ったのである。
「私が幻体で登場したら……。デミウルゴスは、私本人じゃないって気がつきますかねぇ?」
創造主との再会を夢見るNPCに対し、何という悪魔的発想だろうか。
これにはモモンガや茶釜、それにやまいこなどが「デミウルゴスが可哀想だから、やめたげなさいよ」と注意したのだが、他の多くのギルメンが「面白そうだから!」という理由でウルベルトの肩を持ったのである。最終的に二種の金貨を用いたギルメン投票にまで発展し、ここで勝ちを得たウルベルトの案が通ったことで、現在に至るというわけだ。
なお、金貨投票なので、誰がどう投票したかは明らかにされていないが、各ギルメンの投票模様は次のとおりとなる。
賛成:ウルベルト「私がやりたいんだから、当然ながら賛成です」
タブラ「課金アイテムまで使うんだし、興味がありますとも」
ぷにっと萌え「タブラさんと同じです。貴重なデータですよ、これは!」
建御雷「なんか、面白そうだから!」
弐式「デミウルゴスには悪いけど、忍者スキルが通用するか知りたいし~」
ブルー・プラネット「他のギルメンが黒歴史を作るのは、良いことだと思います」
ベルリバー「ウルベルトさんが乗り気だから」
ヘロヘロ「どっちでも良いんですけど、おもしろそうではありますよね~」
反対:モモンガ「デミウルゴスが可哀想じゃないですか」
茶釜「モモンガさんと同じ。素直に感動展開でいいじゃない」
やまいこ「モモンガさんと同じ。たちの悪い悪戯、良くない!」
ペロロンチーノ「姉ちゃんが、反対に入れろって……」
メコン川「俺の趣味じゃない」
たっち・みー「まったくもって感心しません! そもそも、ウル(長いので省略)」
結果だけを見れば、かなりの接戦だ。
ともあれ、ウルベルトの悪戯がギルメン会議で承認されたことで、事は動きだし、モモンガ達反対組は目をつむりつつ帰還報告会に参加していた。
ちなみに、幻体ではなくパンドラズ・アクターに擬態させようという案もあったが、今ひとつ演技力に信頼が置けなかったので却下されている。そもそも、幻体の操作及び発声は、ウルベルト本人がすることになっており、演技をする必要などないのだ。
では、幻体ウルベルトの登場を目の当たりにした、デミウルゴスの反応はどうだったか。
表情は……不動である。セバスのように泣くこともしない。
この態度に居並ぶ
「あ、あ~……え~と、デミウルゴスよ。お前の創造主、ウルベルトさんが帰還したのだが~……」
デミウルゴスの冷めた反応と、悪くなった場の雰囲気。
モモンガが途惑いつつ声をかけたところ、デミウルゴスは人差し指でメガネの位置を直した。
「アインズ様。これは私に対する、何らかの試験なのでしょうか? 本物のウルベルト・アレイン・オードル様でないことは理解できるのですが……」
玉座の間の空気が驚愕で揺らぐ。
NPC達は、幻体ウルベルトが本物でないという指摘に驚いたのだが、モモンガ達は「あそこまでやっても駄目なの!?」という意味合いで驚いていた。
ともあれ、問いかけられたのはモモンガであるため、皆はモモンガの回答に注目することとなる。
NPC達は、デミウルゴスの指摘が間違いないのか……と。
ギルメン達は、モモンガさん、上手く答えてあげて! ……と。
(後始末するの、俺かよ!?)
暗い眼窩の奥で赤い光点が明滅し、モモンガは精神安定化が発動するのを感じた。
強制的に混乱や同様が掻き消え、モモンガは良い気分ではないながらも咳払いをする。
「うむ! み、見事であったぞ! デミウルゴスよ! よくぞ見抜いた! さすがはウルベルトさんの子だ!」
「お褒めいただき、光栄の極みでございます!」
綺麗な動きでデミウルゴスが一礼し、モモンガは内心で胸を撫で下ろした。
シャルティアやアウラなどのNPC達は、デミウルゴスに感心しているようだし、デミウルゴス自身も表面上は気を悪くしていないらしい。
場の雰囲気は一気に明るく和やかなものとなり……モモンガは、ここが決め所だと判断した。
「デミウルゴスの推察は大当たりだったわけだが……。この実け……ん、ゴホン……試験は、ある人物によって立案されたものでな……」
ズイッと身を乗り出すように話しているのは、デミウルゴスに良く聞かせるため……ではなく、NPC達からは見えない位置に居る右方のウルベルトをチラ見するためだ。ウルベルトは自分を指差したり、顔や手を振って「やめて、とめて!」とアピールしているが、モモンガは心を鬼とする。
(知りません! とっとと出てきて、顔を見せてやってください!)
「では、登場していただこう。……どうぞ……」
どうぞ……とモモンガが言ったが、ウルベルトは動こうとしない。しかし、他のギルメンらの「はよ出てこい!」という視線の圧力に屈し、山羊頭の悪魔はヒョコッと顔を見せた。
「え~と、その……なんだ。久しぶり?」
斜めに出した顔の横で手を振ってみせるが、デミウルゴスは今度も反応を示さない。
やはり、コキュートスのように気絶してしまったのだろうか。
そう思ったモモンガは心配になったが、直後、デミウルゴスは直立不動のままで口を開いた。
「ウルベルト・アレイン・オードルさば! 貴方様のきがんを、ぐふ……心よ……り、……ふぐぅおおお……」
普段のデミウルゴスからは想像もつかない、狼狽ぶりと号泣。
シャルティアやアウラがオロオロし、セバスが目を見開いて驚愕を示す中、モモンガを始めとしたギルメン間で罪悪感が増大していく。
実験賛成組は、こんな事しなければ良かったと後悔し、反対組は、ウルベルトを何としてでも止めるべきだったと後悔するのだ。
結局のところ、慌ててデミウルゴスに駆け寄ったウルベルトが、必死に謝り、創造主による謝罪で混乱したデミウルゴスが自害を申し出る……といった酷い混乱が発生。
それは数分ほど続いたが、最終的にモモンガの「騒々しい! 静かにせよ!」との一喝で終息することとなる。
居合わせたすべての者が硬直するのを確認し、モモンガは溜息をついた……。
(練習したおかげか、上手く静まったけど……。これは……後で、デミウルゴスに謝らないとな~……。みんなで……)
今のウルベルトとデミウルゴスの有様を見ると、それはそれでデミウルゴスが混乱しそうなのだが、ケジメだけはつけねばならない。そう思うモモンガであった。
創造主との対面。
セバスとデミウルゴスで、ほとんど同じにして「普段は仲悪いくせに、反応が大して変わらない」みたいな演出も考えたのですが……。
本文のようになりました。
感激のあまり泣くのは同じなのですが、創造主の個性から展開を描き分けています。
集合地での、記憶の混乱模様については危うく書き忘れるところだったのですが、一応話題の一つとして挿入しました。
ギルメン報告会で、舞台の袖に居るだけのウルベルトにデミウルゴスが気がつかなかったのは、モモンガ達の人数が多いので気配が紛れたとか何とか……。
そう言えば、今下の方に表示されてるかもですが、アンケートをしております。
ふるって御参加くださいませ。
<誤字報告>
麟として時雨さん、佐藤東沙さん
毎度ありがとうございます
カルカの運命はどうなるべき?(〆切り11/22に日付が変わるまで)
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レメディオスと一緒にたっちの嫁
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あえて未婚の生涯