ナザリック地下大墳墓、円卓。
今居るのは、異形化したギルメンが一四人。
ギルメンの制作NPCが一二人。計二十六人だ。
ギルメン達は指定の席に座り、NPC達は各々の創造主の後ろで立つ。
それが、つい先程までの配置であった。……が、今は違う。
ギルメンでは、ぶくぶく茶釜。NPCでは、アルベドとルプスレギナ・ベータ。
この三人が円卓の隅(ギルド長席のモモンガから見て右奥)で集まり、円陣を組む形で話し合っているのだ。
その一方、ギルド長のモモンガは自分の席で項垂れ、男性ギルメンらは各自の席にて背筋を伸ばしている。
何故、そんなことになっているのか。
原因は、たっち・みーが、聖王国の聖騎士団長レメディオス・カストディオに、そしてウルベルトが、神官団長のケラルト・カストディオに会うべく、一度、聖王国へ向かうと言い出したことによる。
それを聞いたギルメンらは、一瞬、爆笑しかけたものの、たっち・みーの事情……元の
そこでモモンガは、困り果てたギルメンらの視線……期待に応じ、頭蓋骨の中は空洞ながら頭脳をフル回転。たっち達を気持ちよく送り出せる台詞を模索したのである。
そうして考えついた台詞とは、次のようなものだ。
「女性に会いに行く。いいじゃないですか。そう言えば、聖王国の王女は物凄い美人って聞きますし、興味がありますね! 俺も一緒に行っていいですかね!」
これは、ギルド長も同様に興味があるし、一緒に行くと言っている。だから、たっちとウルベルトが女性目当てで遠出しても別に構わないだろう……という雰囲気作りを狙った台詞である。
ギルド長自身が、身体を張ってギルメンに配慮しているわけで、これ自体は良い話だ。問題点があるとすれば、同じ部屋にアルベド、ルプスレギナ、茶釜という、ギルド長……モモンガの交際相手が居たことだろう。
モモンガは言い終わりの寸前に気がついたが、すでに交際女性らの鼓膜はモモンガの台詞を捉えた後だった。
直後、ピンクの肉棒……茶釜が席から降り、アルベドとルプスレギナを手招きして呼び寄せ……現在の状況に到るというわけだ。三人は盗聴防止のアイテムを使用しているらしく、弐式であっても会話内容が聞き取れない。もっとも、先程のモモンガの発言に関して話し合っているのは明白なのだが……。
(ああ、どうして……)
ギルド長席のモモンガは、俯いたまま頭を抱える。
(どうして、こんな事にぃいいいい!!)
どうしてもこうしても、たっち達のフォローに気を向けるあまり、アルベド達への配慮を失念していたから、こうなったのだ。
居合わせた男性ギルメン達は、モモンガの失敗について正しく理解していたが、同時にモモンガの苦悩と努力も理解できており、「モモンガさん! 頑張って!」と心の中で声援を送っていた。無論、モモンガの交際女性三人……中でも茶釜が、無体なことを言い出すようなら、全員で口を挟むつもりではある。もっとも、ペロロンチーノ相手なら別として、茶釜がモモンガに対して無体なことを言う事態にはならないのだが……。
◇◇◇◇
「さて……アイテムで盗聴防止はしたわよ」
隅で居る茶釜は、左右斜め前で立ち、自分を見下ろしている女性二人を見た。
その二人とはアルベドと、ルプスレギナである。
彼女らを呼んで移動した際、跪こうとしたので茶釜は立ったままで良いと伝えた。この立ち位置では茶釜の顔がギルメン達に見えてしまうので、跪かれるよりは立って貰った方が都合が良いからだ。
(スライムの顔が見えたからって、どうってことないんだけど。気分の問題よね~)
ともかく、アルベドらによるNPCバリアーによって、茶釜からはギルメン達の視線が見えない。他のギルメン側からも同様だろう。そして、さっき茶釜が言ったように盗聴防止アイテムも使用したので、弐式ですら会話内容は聞き取れないはずだ。
「さて、あなた達を呼び集めたのは~……モモンガさんを囲む女として、相談があるからなの」
「と、仰いますと?」
アルベドが聞いてきたので、茶釜は自分が思う『懸念事項』について語る。
「モモンガさんは、聖王国の聖王女様? っていう人に興味がある。会いたいって言ってたけど。私的には、たっちさんとウルベルトさんが聖王国に行きやすくする。そのために言ったと思うのよね~……ここは理解できてる?」
粘体を触手のように振りつつ言うと、アルベドとルプスレギナは顔を見合わせてから頷いた。
「アインズ様の、優しさ溢れる御配慮かと……」
「私も、そう思うっす」
二人の『賢さ』からすると、モモンガの失敗した部分には気づきそうなものだ。しかし、敢えて目を逸らしているのか、無意識に考えないようにしているのか。茶釜には今一つ、判断がつかない。
「そ、そうなの? ……でね、ここからが本題。私達、交際相手が居る場所で、他の女性に興味あります~……って、モモンガさんは言ったわけだけど。これ、どう思う?」
茶釜が知る、元の
だが、アルベドとルプスレギナはどうだろうか。
彼女らの『至高の御方』に対する敬意と忠誠心を思えば、文句など出るはずがない。しかし、一人の女性としてどう思っているのか。ここは確認しておかなければ……と茶釜は考えたのである。
(二人が嫌な思いをしているのなら、モモンガさんに言って、それなりにフォローをして貰わないとね~……)
と、このように、茶釜としてはアルベド達に配慮した上での質問だったが、対するアルベド達の回答は……こうだ。
「アインズ様は、至高の存在ですから。后は多い方が良いと思いますが?」
「同感っす! ペロロンチーノ様から教わったことで、コウキュウとかオーオクみたいなのが、あっても良いぐらいなんすよね~」
ほぼ予想していたとおりの内容である。
予想していなかったのは、弟のペロロンチーノが、ルプスレギナに対して妙な入れ知恵をしていたことだ。
茶釜は、アルベド達の考えについては「そうよね~、そう思うわよね~。あなた達なら……。無用の心配だったか……」と脱力したが、ペロロンチーノの件に関しては怒りを覚え、頭頂部に血管のようなものを浮き上がらせるという……ピンクの肉棒がやってはいけない表現をしている。
(あんのぉ、馬鹿鳥がぁ! メコン川さんの子に何を教えてるの! ……後でムキムキマッチョメンのマミーを大量に用意して、狭い部屋で揉みくちゃにしてやる!)
もちろん、ペロロンチーノが実力でマミー達を排除できないよう、モモンガらにバフ魔法を掛けさせてからの話だ。
ともあれ、アルベド達の考えは把握できた。
モモンガに交際相手……将来の嫁が増える件については、本当に問題視していないらしい。
(女性側の資格や態度、言動についてはチェックが厳しいんでしょうけどね~……。けど、人数が増えるのは構わない……と。何と言うか、私一人で気を揉んでるのが馬鹿らしくなってくるわね。ただねぇ、今回の聖王女さんについてはアルベド達が無視できないと思う要素が、一つあるのよね~)
ローブル聖王国の王女……通称・聖王女。カルカ・ベサーレス。
彼女は美しく、政治手腕はともかく人柄も良く、国民の大多数から慕われる人物だ。
そこまでは良いとして……。
「あなた達、気がついてる? 聖王女って、モモンガさんがこっちの世界に来てから、顔も見てないのに興味があるって言った……初めての女性なのよ?」
この言葉にアルベド達は衝撃を受けた。
モモンガにとって、カルネ村のエンリや、冒険者のニニャは、直接会って親しくなったり好感度が上昇した結果、二人を特別視するようになっている。
茶釜に関しては、元の
女性側から告白したケースとなると、ルプスレギナも茶釜と同様だろう。
アルベドなどは、タブラがモモンガのために設定……想像した女性であり、先に述べた四人とは一線を画していると言える。
では、聖王女カルカ・ベサーレスはどうだろう。
転移後世界における諸国の王族。
現状、ナザリックのギルメンからすれば、王国のランポッサ三世や帝国の皇帝ジルクニフなどは、遠隔視の鏡等で顔と名前が一致している程度で、これは聖王国の聖王女カルカも同様だ。
どこかの国の王族。偉い人。
元の
にもかかわらず、モモンガは噂で聞いただけの聖王女に対し、会いたいとまで言ったのだ。
茶釜は、表情が強張ったアルベド達を見ながら続けた。
「じゃあ、会ってもいない内から意識されてる聖王女カルカって……かなりの強敵かも? いや、敵ってわけじゃないんでしょうけどねぇ。これって、正妃だとか側室だとか、第何番の夫人とかの序列的に、マズいんじゃないの? 私は~、ほら? 元から序列的に第三夫人だし? 今更、序列どうこう言わないけど……。あ、でも頭の上がらない相手が増えるってのは困るのかしらね?」
そう言いながら、茶釜は「もっとも、エンリやニニャ、それにカルカって王女が相手なら……たぶん困ることにならないでしょうけどね~」と内心で呟いている。
モモンガ夫人の序列上位者が
では、人間のモモンガ夫人(ないし恋人)が上位序列となり、それを持ちだし、茶釜に大きな態度を取った場合はどうだろう。立場上、
(モモンガさんって、相手のことを考えない言動って嫌いだし……。そこは、他のみんなも同じだけど……)
モモンガや茶釜などのギルメンは、転移後世界で異形種となり、精神が人と異形種の間を揺れ動いてる。それが基本的に『人寄り』をキープしているのは、他のギルメンらが居る手前、自分だけ頭の中まで異形種化するのを恐れているからだ。そして、精神が人のままキープできている以上、元の
(だから、他人がする傲慢や我が儘な行為って、それが身内でも嫌な顔を……。おっと、思考が脱線しすぎちゃったかしら?)
結局のところ、夫人序列が茶釜より上だとして、茶釜に対して大きな態度に出て許されると言えば、現状では、やまいこぐらいのものだ。そのやまいこは、モモンガに対して恋愛感情がないようだし、モモンガの目もやまいこには向いていない。
(やまちゃんは美人可愛い系だけど、モモちゃんのドストライクはアルベドだものね~。やまちゃんには悪い言い方だけど、身長とスタイルで弾かれるか~……)
それを言い出すとエンリはともかく、ニニャも弾かれそうなものだが、そこはそれ、モモンガにしてみれば何となく照準が合ってしまい、それが外れなかっただけなのだ。また、
(さて……)
茶釜は『序列問題』に意識を戻した。
現状の序列は、第一夫人がアルベドで、ルプスレギナが第二夫人。茶釜は自分で言っていたとおり、第三夫人である。だが、モモンガが唯一、自発的に意識したカルカがトップに躍り出たとしたらどうだろう。
「という風に、私は考えてるんだけど……」
「わ、
アルベドの声が震えている。ルプスレギナはオロオロしているようだ。
自分達の序列が降下するのが嫌なのか、人間に負けるのが嫌なのか。
恐らくは両方だと睨んだ茶釜であるが、アルベドの序列一位に関しては動かないとも思っている。
(さっきも考えたけど、アルベドはモモンガさんのドストライク。何しろ、モモンガさんの好みを事前聞き取りして、タブラさんが設定組んだんだものね~……。そんなアルベドが、ゲームじゃなくて実体化してるのに……誰が勝てるってのよ……)
茶釜自身はアルベドに勝つ気がなく、モモンガの恋人ポジション……後々には嫁の座を確保できていればそれで良いのだ。
(略奪愛ってのは性に合わないから、元の
その後、茶釜はアルベド達と話し合ったが、最終的に、モモンガらの聖王国行きについて行くこととなった。
名目は「行ってみたかったから」と「モモンガさん達が気になる女性に会ってみたい」というものだ。言うまでもなく、一番会ってみたいのはレメディオスでもなくケラルトでもなく、カルカである。
真の狙いは、カルカに対する人物評価。
男性ギルメンの誰もが……そして、モモンガも察しはついていたが、反対することは出来なかった。特に反対する理由もなかったし、茶釜の狙いを思えば反対することは出来なかったからである。
◇◇◇◇
ギルメン会議が行われた翌日。
モモンガ達はローブル聖王国に到着していた。
随分と早い移動だが、<
今、モモンガ達の前にあるのは、聖王国とアベリオン丘陵を隔てる長大な城壁の北端だ。そこでは街道を旅してきた商隊などが、兵士のチェックを受けた上で入国しているのが見える。夜間であれば篝火が焚かれていたりして物々しいのだろうが、今は日中なので列の後方から見ている光景は、ある意味でのどかな雰囲気が漂っている。
「今、入国審査を受けてる商隊……。王国から来たんですかね?」
冒険者ペロンの姿で居るペロロンチーノが目を細めた。誰に対しての呟きかは不明だが、これにモモンガが反応する。
「さて、どうですかね? アーグランド評議国から来たかも知れませんよ?」
そう言うモモンガも、今は冒険者モモンの姿だ。
今回、モモンガと行動を共にするギルメンは、たっち・みー、ウルベルト・アレイン・オードル、ペロロンチーノ、ぶくぶく茶釜、弐式炎雷の五人。そして、デミウルゴスから「護衛を! 護衛をつけてください! あと、できれば私も同行……」と泣きつかれたことで、
これら総勢十一人は、全員が冒険者チーム『漆黒』として行動中なのだ。
モモンガは、漆黒のローブをまとった
たっち・みーは、板金鎧とブロードソードに方形盾。これらを装備した騎士ヒロシ・タチ。
ウルベルトは、モモンガとは違うデザインのローブ(幾分か禍々しさが強調されている)を着用した
ペロロンチーノは、革鎧着用の弓兵ペロン。
茶釜は、大盾二枚を背負った女戦士かぜっち。
弐式は、忍者のニシキ。
いずれも人化しており、チームカラーの漆黒で装備の色を統一している。
お供の
ただし、アルベドが黒い女戦士ブリジット、ナーベラルが漆黒の女忍者ナーベ、デミウルゴスが、いつものスーツの漆黒版着用と、普段とは違う姿であるのに対し、セバスとルプスレギナに関しては通常の執事服と神官風メイド服のままとなっている。
装備に変わりがないのは、セバスとルプスレギナの通常装備が、元から黒多めだからだ。
このように、チーム漆黒の名に偽りなく全員が黒色装備であったが、装備色を変えるにあたって渋い顔をした者が一人居る。
たっち・みーだ。
彼は、正義の騎士ロールの一環で、最強装備は白銀の鎧、異世界転移して暫くの間は白く塗った鎧で通していたが、今回、皆と合わせるべく黒い鎧や盾を装備することとなった。
「私のカラーじゃないんですけどねぇ……」
それが用意された装備一式を見た際の、たっちのコメントだったが、文句を言う彼を見たヘロヘロによって「たっちさん。チーム漆黒は、世を忍ぶ仮の姿なんですよ。黒い装備で良いじゃないですか。そして、ここぞと言うときに装備を白いのに換えるんです。それでこそヒーローってものじゃないですか? まあ、見た目だけだと格好悪いですから、強さと行動の正しさも要求されるんでしょうけど」と説得されたことで、一転機嫌を良くして黒い装備に身を包んでいる。
一部始終を見ていたウルベルトは「チョロい奴だな……」と思ったが、声には出さなかった。
その様な黒一色の集団が姿を現すと、入国審査の順番待ちをしていた者らは大いに警戒する。見た目の威圧感が半端ではないし、都市外で黒装束に近い集団と言えば、思い当たるのが野盗の類だからだ。
「おい、ちょっと! そこのお前達!」
当然ながら、城壁北端の砦から兵士が派遣されてくる。その数は約二十名。モモンガ達の倍ほど居るが、チーム漆黒側の誰か一人だけで蹴散らせるほど、戦力には差があった。
モモンガ達……中でもギルメンは余裕の構えだが、対照的に
「うぉ~う。モモンさん達を、お前呼ばわりっすか~……。さすが人間、命を投げ捨てるとは愚かっすね~……」
ルプスレギナが、聖印型の聖杖を背から取り出しつつ言う。口調はおどけて、表情も笑っているが……その目は害虫を見る目つきだった。
「同意見だわ。例え無知ゆえの暴言でも、駆除すべきね……」
ナーベラルも、大型の苦無を逆手に持って前傾姿勢となる。
セバスは黙ったまま、白い手袋の具合を確かめてから拳を握っているが、その様子を見たデミウルゴスが、指で眼鏡の位置を直しつつ笑う。
「おやおや、セバス。君なら止めると思っていたのだがね?」
「殺す必要はないと思いますが、殴って叱るぐらいはかまわないでしょう。……事故で命を落とすこともあるかもしれませんがね」
ほとんどの
「やめなさい。モモン達の迷惑になるわ」
これは精神が停滞化した後の発言だ。だが、怒りに身を任そうとしている同僚達を止めるには効力が不足している。しかし、更なる声が
鋭い視線で
「アル……ブリジットの言うとおりだ。ここで兵士と揉めてどうする? それにだ、ああいう役目の者達は、ああいう物言いをするものだろう? いちいち怒る程ではないな。だから、お前達の気持ちだけ、有り難く受け取っておくとしよう……」
叱られたことでシュンとなった
(アルベドが先に言ってくれたおかげで、俺も言いやすかった。マジで助かった。しっかし、キレるの早すぎだろ? セバスかルプスレギナだけなら、我慢してくれたかもって感じだが……。
ナザリックに戻ったら、タブラに相談してみるべきかもしれない。
そう思いつつ、モモンガは隊長格らしい兵士との交渉を開始した。
「ああ、兵隊さん。私達に……何か?」
「何かと言うか、黒ずくめのお前達こそ何だ? 野盗の類なら白昼堂々、大した度胸だが?」
後方に二十人近い兵を並べているせいか、隊長は強気な物言いを続ける。対するモモンガは「煽るような言い方、止めてくれないかな~。また
「私達は冒険者です。王国のエ・ランテル冒険者組合に所属していまして……私はモモン。一応、リーダーを任されています」
「ふむ、冒険者証は……本物か」
差し出された冒険者証を一瞥した隊長は、その態度を変えない。
これから入国するであろう者達に対して、特に愛想良くする必要性を感じなかったし、冒険者証に記載された等級が、モモンガ個人としてはオリハルコン級だったが、チームとしての等級記載が
実力者揃いのチーム漆黒が、なぜ銀級止まりなのか。
これは、モモンガやアルベドが白金級である一方で、茶釜とペロロンチーノの等級が
「俺と姉ちゃん、帝国じゃ
「まあ、これから頑張ればいいのよ……」
茶釜姉弟が顔を見合わせて落ち込んでいる。
その様子を見ていた弐式は、面の下で苦笑しつつ、二人の前に回り込んだ。
「そうそう、これから頑張れば良いんですよ。二人なら高難度の依頼だって、なんてことないでしょ? みんなで頑張れば、全員でアダマンタイト級になるのだって、アッと言う間ですって!」
弐式の言った言葉は、説得力のあるもので、確かにナザリックのギルメンがその気になれば、全員がアダマンタイト級……つまりはチーム漆黒がアダマンタイト級チームになるのも難しくはない。それを成すだけの実力があるからだ。
弐式の発言でチームの雰囲気が明るくなる。気を良くしたペロロンチーノが軽口を叩いて、茶釜に締められているようだが、それでも雰囲気は明るいままだ。
(俺も混ざりたいな~……)
仲間達の和気藹々とした雰囲気を背で感じながら、モモンガは入国手続きに向けての交渉を続けるのだった。
◇◇◇◇
入国審査を完了し、聖王国へと入ったモモンガ達は、まずは冒険者組合を目指している。
たっちやウルベルト、そしてモモンガの入国目的からすれば寄り道なのだが、一応、冒険者チームとして行動中なので、組合に顔を出さないと後々面倒なのだ。
その組合では、入国の報告だけ済ませ、モモンガ達は酒場でたむろする冒険者達から情報収集を行うこととした。ある程度のことは事前にデミウルゴスから聞いているが、ナマの声による情報の新鮮さを重視したのである。
「じゃあ、俺が行って来ますね~」
十人規模で座れる円テーブルがないので、隣接した二つのテーブルに分かれ……弐式が席を立つ。向かったのは最寄りのテーブルで酒を飲んでいる冒険者チームだ。
「ややや、聖王国の先輩方。ちょいと色々教わりたいんだけど……」
面をまくり上げた弐式が語りかけると、座ったままの冒険者達はジロリと弐式を睨めつけた。
戦士二人、僧侶一人、
その中でリーダーらしき戦士……三〇代の男が弐式の呼びかけに反応した。
「見ない顔だ。聖王国には来たばかりか? って、後ろに居るのはタチとアレインか……。ここ数日は見かけなかったが、知り合い……いや同じチームなのか? まあいい。ただで聞きたい……とは言わねぇよな?」
「もちろんだよ! お姉さ~ん! お酒~っ!」
弐式が女給を呼び寄せ、既にテーブルにあったものより高値の酒を注文すると、冒険者達の機嫌は一気に良くなった。
「そうそう、そういう風にしてくれると、俺達も話しやすくなるってもんだ。で? 何が聞きたい?」
……。
数分後、聞くだけ聞いた弐式は笑顔で冒険者達と別れ、モモンガ達のテーブルへと戻ってくる。ギルメンだけで座るテーブルで、空いている椅子に腰を下ろした弐式は、肩越しで一瞬だけ冒険者達を見てからモモンガに、そして皆に話しかけた。
「概ね、事前の報告どおりです。聖王国……の北部は、聖王女カルカが強気の政策を打ち出してないから、諸々景気が停滞してる感じ。国民の不満は溜まってる……ってさ。聖王女の人柄に関しては、良く思われてるみたいだから不満爆発ってところまでは達してないみたいだけど……。冒険者的には、国の方からアレコレ言われることが多くて、それも不満みたいですね。ただ、少し……」
デミウルゴスから聞いていない情報があると、弐式は言う。
それが聞こえたらしいデミウルゴスが、隣のテーブルで肩を揺らした……が、今は報告が優先するので、弐式は構わず話し続けた。
「城壁の外側で、亜人の動きが活発になってるって話です。これは、あの冒険者の感覚的な感想で、聖王国の上層部は問題視していない雰囲気だとか……。特に軍隊とかを動かしてる雰囲気がないらしいんですよね~……」
本当に冒険者が肌で感じた程度の感想なので、聖王国の上層部は把握すらしていない可能性が高い。
「そうですか……」
モモンガは頷いてから、隣のテーブルのデミウルゴスを見る。デミウルゴスは、自分の報告が不充分だったのでは……と汗をかいていたが、モモンガの視線を受けて背筋を伸ばしている。
「デミ……ヤルダ的には、どう思ってたんだ? いや、把握はしていたのか?」
デミウルゴスが裏で動くときの名はヤルダバオト。冒険者として登録した名はヤルダである。その冒険者名で問われたデミウルゴスは、首を横に振った。
「把握はしていました。ですが、モモンさん達の実力からすれば、目に見えるギリギリの距離を羽虫が通り過ぎるがごとし……です。例え、全種全氏族の亜人が束になって動いたとしても、お一人で対処できる範囲でしょう」
そういう戦力差なので、デミウルゴスは気にしていなかったのだ。
この説明を聞いたモモンガ達は、ギルメン同士で顔を見合わせる。
「一人で対処……できるんですかね?」
「相手の規模が問題だし、どう対処するかによって話は変わりますね」
モモンガの問いかけにウルベルトが答えた。
人化していて、気障……という言葉が似合う彼は、フッと笑いながら持論を述べていく。
「相手方を殲滅する場合。広範囲攻撃のできる私やモモンさん、それにペロンさんなら、何とかなるでしょう。それとて、相手方が逃げずに向かってくればの話ですが。一方で、タチさんやニシキさん、かぜっちさんの場合、大軍を殲滅するには時間がかかるでしょうね。ただ、押し包まれて負けるという展開には誰もならないと思います」
押し包まれたとしても、後衛職なら片っ端から吹き飛ばせば良い。前衛職なら、手近なところから倒せば良いだけだ。それに、
「なるほど。俺達にとっては、そんな程度……という事ですか、そして国の上層部にしてみても、今のところは気にする様子でもないと……。そう言えば、タチさんとアレインさんは最近まで、ここで冒険者活動をしていたんでしたっけ? その時は、気になってました?」
モモンガがたっちとウルベルトに聞くと、二人は顔を見合わせてから同時にモモンガを見返した。
「いいえ。聖王国の都市外で冒険依頼をこなしていたときは、襲ってきた亜人を倒したりしましたが……。気にするほどの圧力を感じてませんでしたので……」
「私もタチさんと同じです。襲ってくる以外だと、少し離れたところで亜人が目についたぐらいですかね」
ならば、やはり問題ないのか……と、モモンガは思う。
自分達には、脅威や危険という意味での問題がない。
聖王国としても、軍隊を動かすほどの問題視をしていないし、そもそも知らない可能性が高い。
ここで聞いただけの、あくまでも一冒険者の感想に過ぎないからだ。
(さて、この状況をユグドラシル的に考えた場合は……どうかな?)
少しの異変は、何かの予兆。そんな可能性だってある。
現にユグドラシル時代のイベントなどでも、プレイヤーの不意を突いてくるものがあった。イベント発生には小さな予兆があるが、それを見過ごし、後日に情報掲示板などで、自分達が未参加に終わったことを知ったときは悔しかったものだ。
「……と思うんですが、一応は気に留めておいた方がいいかもしれませんね」
モモンガが意見を述べると、ギルメン達は全員が頷いている。
亜人がコソコソ動き、それを感じた先に何かが起こるとすれば……最初に思い浮かぶのは、数を集めての襲撃などだ。
それが発生して欲しいか、そうでないか。
モモンガ達の場合は、発生して欲しい……ということになる。
「こっちの世界に来てから、全力戦闘をしたことってないですからねぇ。大軍に向けて
「人間の肩だけ持つのはどうかと思いますけど、今は人として冒険者活動中ですしね。亜人が押しかけてくるなら撃退するまでです。私も、
ウルベルトとたっちが乗り気で語り、弐式や茶釜なども同意している。
そして、それはモモンガとて同じなのだ。
(ギルメン複数と大軍を相手に大暴れか~……。うわは~……脳内で変な汁が出てくる感じだ……)
ユグドラシルでの終盤における数年間。
自分以外のギルメンがほぼ居ないナザリックで、ギルドホーム維持に奮闘していたモモンガ。その彼からすれば、今居るギルメン達と大暴れするのは待ちに待った大イベントなのである。
(亜人、攻めてこないかな~……)
そう思ってみるが、亜人には亜人の都合があるはずだ。ナザリック側で小細工して、亜人達が攻めてくるように仕向ける手もあるが、そこまでするつもりはない。それが必要なことだとしたら、ぷにっと萌えやタブラが何か考えるのだろう。
「ま、攻めてきたら攻めてきたときのことですよ。注意だけはしておきましょう。さて、組合での用事も済みましたし、首都のホバンス……でしたっけ? そっちに向かいましょうか?」
そう言ってモモンガが話を締めくくった。
そして、せっかく酒場に入ったのだからと軽食を腹に入れ、その後に酒場を出て行く。
向かう先はモモンガが言ったとおり、首都ホバンスだ。
◇◇◇◇
モモンガ達は、亜人が大挙して押し寄せることを期待した。
だが、積極的に攻めてくるように働きかけるようなことはしなかったので、期待止まりだ。
しかし、モモンガやギルメン達にとっては幸運なことに、亜人達にとっては不運なことに、亜人側では戦力が集まりつつある。
これは、ある事柄が発端だ。
ここ暫くの間で、各亜人氏族の名のある強者が討ち取られている。それが人間の冒険者によって……しかも、騎士と
各氏族の長……亜人王達は思った。
幾人もの強者が、引き連れていた手下ごと亡き者にされた。しかも、相手は貧弱な人間がたったの二人。
このまま何もしないのでは、亜人が舐められるのではないか。いや、他の氏族はいざ知らず、自分の氏族が舐められるのは我慢がならない。
報復するべきだ。
ただ、問題の二人を探すのは面倒だし、発見したとしても各氏族が月に一、二度やっている聖王国侵攻の部隊……数十人単位で攻め込む程度では返り討ちに遭う可能性が高い。実際に、幾度も討ち倒されている。
それに、同じ規模での部隊編制ではインパクトに欠けるのだ。
何しろ亜人側としては、潰された面子を取り戻したいのだから。
そこで、さしあたり戦力を掻き集めることとし、標的は聖王国に設定した。
事の発端である『例の二人』を狙うことは諦めていないが、せっかく亜人戦力を集めるのだから、ここは一つ、一大侵攻を行ってみてはどうだろうか……と考えたのである。
いくつもの氏族が集結し、勢いに任せて聖王国とやらに押し込んでいき、人間達が慌てて出てきたところを捻りつぶすのだ。それによって確保した『食料』で腹が満ちれば上々。あの忌々しい城壁を突破できれば、なお上出来で、そのまま中に雪崩れ込めれば最高だ。
そこまでやれば、その内に例の二人も見つかるだろう。
亜人達は、基本的に人間を下に見ているので、成功した場合の『獲物』や『収穫』について思いを馳せると、後はもう留まることを知らない。最初は近場の氏族同士で話し合っていたのが、複数の亜人王で会合を開くようになり、最終的には数万を超える軍勢の派遣が決定していた。全力で数を集めれば十万に達したろうが、そこまで無理をする気はなく、数万で十分と判断したのである。もっとも亜人一人の強さは、大抵の人間を優越しているので、実質的には人類の軍勢十万に迫る戦力となるのだ。
そして、その動きはモモンガ達が亜人に興味を示したことで、積極的に亜人の情報を集め出したデミウルゴスの情報網に察知され、軍勢集結が活発になったところでモモンガ達の知るところとなる。
勿論、モモンガ達は大いに喜ぶこととなるのだった。
今回の捏造ポイント。
1 冒険者チームのランクは、メンバーの最低等級で決まる。
2 亜人の部族単位を氏族にしたこと。
3 元の
本作限定設定ということで……。
まあ冒険者のランクに関しては、リーダーだけアダマンタイト級で、他全員が銅級でもアダマンタイトチームになるのかどうか……と悩んだことに寄ります。
蒼の薔薇は、チーム単位でアダマンタイト級とか言ってますけど、そこに鉄や銅の冒険者が入っても、チームランクはアダマンタイト級のままなのか……とか。チーム全員が同じランクの場合、違うランク冒険者の新規加入は駄目なことになっているのか……とか、いや、そんなわけないだろ……とか。
悩み抜いた末に、最低ランクのメンバー基準ということにしました。
なので、合流したギルメンの冒険者活動でのランクが低いままだと、チーム漆黒のランクは低くなります。ワーカーだった茶釜さんとペロロンチーノさんが加入したので、一気にランクが下がり、今は銀等級のチームということに……。
もっとも、エ・ランテルではモモンやブリジットの実力が知られているので、都市のトップランクとして扱われています。
モモンガさんが茶釜さんを意識していた件は、身近に居る芸能人で美人ですから。まあ、ちょっとは意識していたんじゃないかな……と。
今回、、ギルメン会議での『女性会議』をボツにしようかと思ってました。
茶釜さんの理屈のこね方が、どうもしっくりこなかったもので。書いてると、すぐに話が脱線するし……。
投稿版も上手くいってるとは言い難いのですが、モモンガハーレムのナザリック勢が同行するようには書けたかな……と思います。
亜人との戦いについて。
原作と違ってヤルダバオトが扇動していませんので、氏族連合となって押し寄せる理由がありません。正直、どうやって亜人軍勢とモモンガさん達を戦わせようかと悩んでいましたが、たっち&ウルの転移先が聖王国だったので、彼ら二人の行動が原因ということにしました。
小さな落石が、崖崩れに繋がる感じですかね~。
終盤、亜人王達の会話とか入れてみたかったんですが、こっちは、ちょっと余裕がなくて断念しています。
正直、聖王国編の読み込みが足りないので、亜人王達の登場シーンに関しては原作を読み返すこととなりますが……。
時間が……。
次話は、年内に書けるかどうか自信が……ああ、大晦日とか正月に書けば良いのか……。
大まかな戦闘シーンとかは考えていたりしますので、頑張ります。
そういや最近、サラサラッと書けないんですよね、本文を……。何となく、ぎこちないというか……。
四六時中、仕事のことを考えてるのが原因かも……。
<誤字報告>
爆弾さん、バイローフーさん、D.D.D.さん、佐藤東沙さん
毎度ありがとうございます。
あ、作中のキャラのセリフは話し言葉重視で書いてるので
そのままにしておくことがあります。