意識が浮上する。
───────海だ。
───────見渡す限り一面海だ。回りに陸地が一切ない。
そんな馬鹿な。
「あり得ない」
自然と声が溢れた。でも、それは俺の声では無かった。
俺じゃない、女みたいな高いソプラノの声。
「そんな······」
自分の身体を見て驚いたと共に頭が冷えたような感覚に陥った。
「何で、胸?あるんだよ······」
訳が分からない。寝て、目が覚めたら海の上に浮いていて、しかも女になっていた。
正直に言えば、海の上に“立っている”という状況の方が“女になった”という事実よりも俺には奇怪に映った。
「まさか、な」
海の上に立つ。そんな非常識な現象に思い当たる節がある。
それは、『艦これ』、もしくは『アズレン』か。更にはそれ以外か。とにかく海の上に立つ何てそんな世界くらいしか思い浮かばない。
『艦これ』ならばある程度知っているが、『アズレン』はアニメしか見ていない。
どっちの世界なんだ?
て言うか、自分自身が海の上に立っているってことは、俺自身が艦娘か、鑑娘か。
確かめる方法は、『艦これ』の世界ならば妖精さんが居るだろう。
「妖精さん、居るかい?」
数分待ったが妖精さんは出てこなかった。もしかして、アズレンの世界?
いやいや、そもそもその二択で決め付けるのにはまだ早い。というより、さっさと何かしら行動しないと。
「えっと······」
あれ、そういえば艤装展開ってどうやるんだ?
そもそも俺は艤装を持っているのか?
「艤装展開!!」
取り敢えず叫んでみた。やっぱりこんなんじゃ展開するわけな──────した!!?
何処からともなく艤装が現れた。飛行甲板?を模したようなデザインがあしらわれた黒いコートが現れ、腰辺りに艤装が現れた。
その艤装はやけに近代的で、アングルドデッキだった。
てことは、現代の空母?
よし!艤装を展開したからもう一度だ!
「妖精さんいる?」
「はい、お呼びですか?」
うおっ、いきなり肩に艦これで良く見るような妖精が現れた。
「う、うん。君は?」
「私は艦載機のパイロットをしています」
「そうなんだね······じゃなくて!君の名前は?」
俺が名前を尋ねると、妖精さんは首を傾げて言った。
「名前、ですか?私たち妖精には名前はありません」
「そうなのか······じゃあ、名前つけても良いかな?名前ないと、呼び分けるときに分かりにくいから」
「ええ、そういうことなら」
妖精さんから無事に名付けの許可をもらえたので、俺の乏しいボキャブラリーから捻り出してこれだー!と思ったものを付けた。
「それじゃあ、ミカ、でいいかな?」
「はい。それでは私はミカです」
「良かった。それで、ミカ。早速なんだけどここって何処か分かる?」
「いえ、私では分かりませんが、レーダー妖精なら分かると思いますよ。呼びましょうか?」
「へぇ、そうなんだね。是非お願い」
「分かりました」
そう言うとミカはフッと消えて、暫くしたらまた現れた。ミカに良く似た顔をした妖精が。
「その子が?」
「はい。良ければ彼女にも名前を付けてあげてください」
「勿論だよ。それじゃあ、そっちの子はユミ、でいい?」
「それで、いい」
ユミはちょっと寡黙なようだ。
「ユミ、早速なんだけど、現在位置って分かる?」
「調べる。だから、しばらく待ってる」
それだけ言うとユミは消えてミカだけ残った。
「すみません素っ気なくて。ユミはあんな感じなんで」
「大丈夫だよ。あれはあれで可愛いから」
しばらくミカと雑談しながら待っているとユミが戻ってきた。
「調べ終わった。今、グアム島沖100キロメートル」
「グアム······」
グアムはアメリカ領だが、深海棲艦が跳梁跋扈しているだろうこの世界ではどうなっているのかは分からない。
そういえば、まだ自分が何者なのかも把握してなかった事を思い出し、それでは敵と遭遇したときに装備も分からなくて戦えないと思い、妖精さんに尋ねた。
「ねぇ、ミカ。今更なんだけど、俺の名前は?」
「貴女の名前は“ジェラルド・R・フォード級航空母艦一番艦”の“ジェラルド・R・フォード”ですよ」
········はい?
たっぷり数秒間の後、漸く自分の名前を理解した。
“ジェラルド・R・フォード級航空母艦”
言わずと知れたアメリカ合衆国の最新鋭原子力航空母艦で、『欠陥空母』と揶揄される。
その主な理由は最新鋭技術の電磁式カタパルトで、それに対応する航空機の少なさがある。
最新の艦上機であるF-35-Cを搭載できず、アメリカ国内でも二番艦の“ジョン・F・ケネディ”にF-35-Cが搭載できなければ受け取らないし、違反とする法律すら成立する有り様だ。
そんな欠陥空母の搭載機数は70機。
あれ?少ない?と思うかもしれないけど、艦載機の性能の向上で、少い機数でも同等かそれ以上の攻撃能力を有するようになったので無問題だ。
搭載機はF/A-18E/Fスーパーホーネット(戦闘機)、F-35C(戦闘機)、E-2C/D(早期警戒機)、EA-18G(電子戦機)、MH-60R/S(ヘリコプター、対潜戦)である。
ミカに聞いたところによるとそれらはそのまま搭載しているらしい。
「それじゃあ、警戒しつつ、先ずは日本を目指しつつ、グアム島に寄ろうか」
取り敢えずはその方針に決め、原子力機関を始動した。