欠陥空母になりまして   作:うどん麺

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2.欠陥空母だけど、戦ってみた

 

現在グアム島に向けて約30knotで航行中だった。流石に原子力機関であるだけ機関はとても強力で、この速度をずっと維持できている。

これが前時代の駆逐艦や戦艦やらならばずっと全力航行とはいかずに、巡航速度というものに従うのだろうが、原子力機関であるからこんなものだった。

 

「現在、グアム島沖50キロメートル、敵影、なし」

 

ユミの淡々とした報告が聞こえてくる。ユミはこうして逐次、状況を知らせてくれている。

正直にこれは凄くありがたい。勿論のこと海の上を航行する経験なんて人生初めてのことだから方向感覚なんてあったものではないから、ユミが教えてくれる情報がなければ今ごろはとっくに遭難していただろう。

 

「ありがとう、ユミ。引き続き警戒をお願い」

 

「了解、戻る」

 

そう言うとユミは再び姿を消した。ユミは居なくなったがミカはあれからずっと俺の肩に居る。

ミカも戻ろうとしたが、俺が話し相手が居なくて寂しかったのでそのまま居るようにお願いしたのだ。

 

「ミカ、敵に出会うと思う?」

 

「そうですね······仮にもグアム島は深海棲艦の勢力圏ですから、そこに着くまでには出会う可能性は高いですね」

 

「そうなんだね······」

 

覚悟はしていたことだ。こんな沖合いにいて深海棲艦と未だに出会っていないこの状況が奇跡なのだろう。

果たして俺は、深海棲艦と出会ったときにまともに戦えるのだろうか。

 

「フォーちゃん?」

 

ミカが俺の様子を見て不思議そうに名前を呼ぶ。

 

フォーちゃん。というのは俺がいつまでも『貴女』とか呼ばれるのに耐えられなくなって、名前で呼んでと頼んだらフォーちゃんになった。

フォードさんとか呼ばれるよりはましだったので、取り敢えずそれで妥協していた。

 

「ううん、何でもない」

 

大丈夫。相手は現代兵器は持っていない。技術的には俺にアドバンテージがある。

怖がるな。

 

 

 

それから結局何事もなくグアム島に到着した。

 

拍子抜けだったが、出会わないに越したことは無いのでその幸運に感謝した。

グアム島へはおよそ一時間半程度で到着したのだが、やはり予想していた通り米軍の基地は無人で荒廃していた。

おそらく深海棲艦の跳梁を阻止できずに放棄されたのだと予想される。

だからと言って別段このグアム島の米軍基地が深海棲艦に占拠されているということもなかったので、ありがたくその一角を借りて身を休めていた。それと周囲の探索を偵察機でしてもらっていた。

 

「取り敢えず、グアム島及びその周辺海域に深海棲艦の姿はありませんでしたよ」

 

数時間の偵察の後にミカが報告をくれた。それによればこの近辺には深海棲艦は一隻も居ないという。

 

「本当に?流石に深海棲艦の勢力圏なのにそれは偶然すぎるような気がするんだけど」

 

「確かに、出来すぎた状況ではありますが、別に海が埋め尽くされるほどの数の深海棲艦が居るわけではないので、こうして一隻も見えないことだって確率的には有り得ない事ではないと思いますよ」

 

「うーん······ま、そうだね。確かにいくら考えても埒が明かないから、考えるのは止め止め!」

 

「それはともかくフォーちゃん。これからどうします?」

 

「そうだねぇ。特段ここに長居するわけでもないから、もう少し休んだら日本に向けて出発するつもりだよ」

 

「そうですか。それではそれまでもう少しお話でもしましょう」

 

それから数十分間の会話の後、俺たちはグアム島を発った。

 

「それにしてもいい天気だなぁ······」

 

こんなに澄み渡った空を見上げていると、人類と深海棲艦が戦争しているという現実を忘れてしまいそうになる。それほどまでに綺麗な青空だった。

 

相変わらずユミは淡々としているが、ミカは俺に親身にも話し掛け続けてくれている。

そんな此方に来てから平和な時間を過ごしていたが、そんな幻想はユミから放たれた一つの報告によってあっさりと終わりを告げた。

 

「報告。レーダーに感あり。数、十。レーダーの動きから見て戦闘中の模様。ここから北北東50キロメートル」

 

それは交戦中の艦娘と深海棲艦の発見の報告だった。俺は直ぐ様に戦闘機を発進させた。もしかしたら大丈夫かもしれないが、何事も万一を考えて行動するようにこの世界では心掛けたいところだ。

戦闘機は流石に音速を越えるだけあって直ぐに戦場へと到着した。

 

「これは······」

 

どちらが劣勢か、それは一目ですぐに判断できた。ほほ無傷の深海棲艦。そして明らかに損傷の目立つ艦娘。

俺は即座に艦載機の発艦を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

「状況は最悪だな」

 

この海域に遠征任務で訪れていた天龍はそう毒づいた。

 

「本当ね。まさか倒した後に更に増援が来るなんて······」

 

そう言って苦悩を露にするのは龍田。

 

その他、電、雷、暁、響の編成だった。

対して深海棲艦は戦艦ル級、重巡リ級、駆逐イ級二隻の合計四隻で、そのうちイ級の一隻は沈んでおり、数の上で艦娘側は優位に立っていたが、何分先の戦闘で弾薬を消耗しており、更に損傷も出ていたので全力を発揮できないでいた。

 

「······龍田」

 

「どうしたの?天龍」

 

「すまねぇが、お前はあいつらを連れて撤退して増援を呼んでくれ。ここはオレが殿を務める」

 

「ダメよ!!そんなことをしたら天龍!沈んじゃうかも知れないのよ!?」

 

「分かってくれ、龍田。ここは、誰か一人が囮にならなきゃ、全員轟沈したっておかしくない。それに、この中じゃオレが一番損傷が少ない」

 

「それでもダメよ!!だって、そんなことしたら、私······」

 

「ゴメン、龍田。オレはアイツらが沈むのは見たくねぇんだ」

 

「······分かったわ。その代わり、沈まないって、戻ってくるって約束して」

 

「分かってるよ。必ず帰ってくる!だから安心して待ってろ」

 

「それじゃあ、頑張ってね、天龍」

 

「ああ」

 

短いやり取りを終えて、龍田は駆逐艦の子達を連れて戦場を離脱しようとし、それを逃すまいと動き始めた深海棲艦達を、行かせるかと覚悟を決めた天龍。

天龍が沈む覚悟をもって深海棲艦に先制を与えようとした時、突如空からミサイルが飛んできて、それはそのまま戦艦ル級に突き刺さった。

そのあまりの威力はル級を一撃で轟沈させた。その後、リ級、イ級にも降り注ぎ、瞬く間に敵艦隊を壊滅させた。

 

何事かと天龍や、轟音に驚いた龍田達が空を見上げると、そこにはどう見てもジェット機である戦闘機が空を舞っていた。

 

「あれは何なんだ?」

 

天龍はそれを見て一抹の不安を抱えた。

 

 

 

 

 

■■■■

 

 

 

「良かった。間に合ったか」

 

俺は一先ず間に合ったことに安堵の息を漏らした。

それにしても本当に間一髪だ。あのままでは恐らく天龍が撃沈されていただろう。

 

それはともかく、このままでは天龍達が戸惑っていて動ける気配では無さそうだったので、その戸惑いを晴らすべく、俺は天龍達の方へ向かった。

 

 

 


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