アズールレーン&艦これ ~蒼き航路に集いし少女達~ 作:モンターク
記憶の残響(前編)
一航戦の書斎にやってきたのはまさかの長門であった。
(なんで長門さんが……)
瑞鶴は押入れの中から引き続き開けたちょっと隙間から様子を見つめる。
「…妙だ…誰かが触った形跡がある…加賀は病室にいるはずだが…」
(やばっ…急ぎすぎて乱雑になってた…!)
隠れるのに必死になりすぎて、見ていた書類や本などを無理やり戻したがため、ゴチャゴチャになってしまった。
そして――
ガタッ
それで瑞鶴が少し動いてしまい、物置から音がしてしまった。
「…なにやつ!?」
(しまっ!?)
そして長門は押入れに近づき、思いっきりふすまを開けた。
「…瑞鶴!?」
「あ……ははははははは…」
もはや瑞鶴にとっては笑ってごまかすしかなかった。
その後、瑞鶴は長門の前で正座をしている。
「………」
「………」
(…ど、どうごまかす……?)
瑞鶴はこの状況をどうくぐり抜けるかを一生懸命思考していた。
だが押入れの中に入っていたというのはどうやっても誤魔化しきれないのは逆立ちしたってわかるものである。
だが先に長門がため息をついた。
「はあっ……お主も結局余と同じということか…」
「え?同じ?」
瑞鶴が目を点にしていると長門はこう話す。
「余も気になることがあったのでな。書斎にお邪魔したということなのだが……まあお主の様子を見る限り、収穫はなかったようだな」
「ま、まあ………そんなところというのか……なのか…」
「そう気にするな。今の余は非番である。そして余も潜入している時点で言えることもなかろう」
(玄関から堂々となのは潜入とは言わない気が……)
「…お主が知っていることは他にあるか?余もオロチ計画については知らぬことばかりなのでな…」
「………これからの話、他言無用でお願いできますか?公表したら重桜内で混乱しかねないので」
「わかった。余の口は固いからな」
瑞鶴はすーっと息を吸い、覚悟を決めて再び口を開いた。
長門へは自分が知るある一点のことと、それに関する推測を話した。
もちろんセイレーンの上位個体と赤城、加賀の両名が手を組んでいる…いや、セイレーンに利用されていることである。
「………よもやそこまでとは……」
「やっぱりこれって……たとえ利用されていたとしても反逆行為になりますよね?」
「ああ、重桜を事実上裏切ったも同義と言わざるを得ない以上、軍法会議は確定であろう」
「ですよね……」
「もちろん余の個人としてなら極刑は避けたいが…他の艦や上はそうはいかないのは明白であろう…」
「……」
瑞鶴が少し暗い表情をする。
翔鶴のほうは少し先輩方に恨みを持っていそうであるが、瑞鶴はあくまでも先輩達を慕っている。
もちろんだが追い出そうとも思っていない。
だが重桜の健全化にはこのブラックボックスの告発が不可欠なのは事実である。
そこで板挟みになっていた。
「…だが今は赤城は行方不明、加賀は回復傾向だが損傷がある。これ以上動くことはないだろう。そしてこのセイレーンとの証拠もあまりない。余はオロチを凍結して暫くは様子を見る予定だ」
「つまり…とりあえずの心配はないということですか…?」
「ああ…」
とりあえず瑞鶴を安心させようとする長門であるが、この件に関しての処理は自分の手に余るものでもあった。
そこで長門はある御方への相談を考えていた。
(やはり…あの御方の意見も仰がねばな……先代のあの方に…)
―――――――――――
(またこの光景……)
エンタープライズは海上で炎上する風景を見ていた。
恐らくは海戦によるも私は繰り返す。時を巡り 海を越え 戦い続けるのである。
人類側らしき損害もあれば、セイレーンもあり
上位個体の屍らしきものが多数あり、ここで凄まじい戦いがあったことを示していた。
そしてそこにある別の人影
「お前は何だ?私にこれを見せてどうしようというのだ?」
その人影は屍を少し手にとった後、こう話し始める。
「戦い」
振り向くと、その顔はエンタープライズにそっくりであった。
だが服装などは違い、髪型も短いものであった。
「私は繰り返す。時を巡り…海を越え…戦い続ける」
その人は黒いメンタルキューブを片手に持っていた。
「…それは…!」
「終わらない戦い……炎燃えるこの海こそ、紅に染められた我が航路」
そして一面は再び火に包まれた。
「お前もいずれ……」
「くっ…!?」
―――――――――――
「…エンタープライズ?」
「…はっ…お前は…」
「おはよ、エンタープライズ」
エンタープライズが目を覚ますと、その前には瑞鶴が居た。
どうやらエンタープライズを起こしに来たらしい。
「何故お前がここに…」
「ベルファストさんに頼まれたのよ。自分は手が離せないことがあるから代わりにエンタープライズを起こしてあげてって」
「……そうか…」
「やけにうなされてたみたいだけど、大丈夫?立てる?」
「それくらいは大丈夫だ…私達は普通の人間じゃないからな…」
「………」
そのエンタープライズの表情はどこか光が消えているようなものであった。
そして用意されていた朝食にもいかず、そのままどこかへいってしまった。
(エンタープライズ……)
―――――――――――
一方、プリンス・オブ・ウェールズとクリーブランドは黒いメンタルキューブを確かめに行こうとしていた。
「重桜は戦力を失った。立て直しには時間がかかるだろう。だがこちらはこちらで動きにくい事情がある」
「ああ、黒いメンタルキューブとエンタープライズのことだね」
「問題は山積みだ……大和のほうもなんとかやってもらってはいるが……」
そして2人は明石達の工廠にたどり着いた。
「にゃ…」
「はぁっ……」
「これはね……」
「うーん…」
「これは……」
そして工廠では2人の明石及び夕張、ホーネット、ベルファストが悩みまくっていた。
「何かわかったか?」
「さっぱりにゃ」
「全然わかりません……」
「そこまでなのか……?」
ただでさえ工作艦として能力が高い明石であり、しかもそれが2隻いるにも関わらず黒いメンタルキューブのことは何もわからなかったようだ。
そして夕張も同様であり、頭を抱えつつもこう話し始める。
「文字通りのブラックボックスってやつ……前よりも光が強くなってるし」
「確かに…」
「セイレーンに関わることだ。危険な兆候と考えるべきだろう」
「姉ちゃんも悩んでいるみたいだし……はぁ…」
ホーネットは帽子を深く被り直す。
「まったくにゃ…赤城のやつはなんて面倒なことをしてくれたにゃ…こっちの赤城のほうが大飯食らいだけどマシにゃ!」
「まあまあ、「私」もそこまで直球で言わなくても…」
どこかでその空母がくしゃみをしたようだが、今は触れないでおく
だが赤城が居ないとは言え、まだ加賀は健在である。
プリンス・オブ・ウェールズはそこが気になっていた。
「セイレーンと組んでいた赤城がいない今、加賀がどう出るか気になるな…」
「短気を起こさないと良いんですけどね……はあっ」
艦娘の明石はため息を付いた。
黒いメンタルキューブの悪しき輝きはまだまだ増すばかりであった。
―――――――――――
「あつい……」
「効きますね…これ……」
一方、ジャベリン、綾波、ニーミ、ラフィー、ユニコーンは風呂のサウナに入っていた。
なお他の艦娘達はまだ風呂のほうへ入っているようだ。
「…大丈夫?綾波ちゃん、もう上がる?」
「いえ、考え事していただけです……今のあっちのみんなが心配なのです」
「綾波……」
「……アズールレーンのみんなはいい人たちです。でも重桜、鉄血のみんなだって大切な人たちで……綾波、レッドアクシズのみんなを助けたいです」
そしてその次にニーミも話し始める。
「私も心配です。セイレーンは多分レッドアクシズを利用しようとしている…そんなこと……させたくないです!」
その綾波とニーミの話を聞くと、ジャベリンはその2人の手を取った。
「うん、うん!頑張ろう綾波ちゃん!ニーミちゃん!」
「綾波とニーミの大切な人、ラフィーにとっても大切な人」
「ユニコーンも!」
どうやら力を貸してくれるようである。
「どうしたらいいか分からないままだけど…」
「大丈夫。私たち友達になれた。だからあっちの人たちとも仲良くなれる」
「ありがとう…みんな」
「あ、ありがとう…ございます……」
綾波は表情が柔らかいが、ニーミはまだ少し恥ずかしいのか顔を少し逸していた。
―――――――――――
一方、重桜基地では長門があるところに足を進めていた。
(オロチ計画の一時休止を通達したのは良いが……加賀のあの様子では……立ち直ってくれると良いのだが……)
そして竹やぶの中に進んでいくと、ある小さな離れを見つけた。
そこには既に引退したある御方が住んでいるのである。
長門はその方に相談をしようとしていたのだ。
「……「三笠」様、いらっしゃるか?」
戦艦「三笠」
敷島型戦艦の4番艦であり、武装としては前弩級戦艦ということもあり特徴はそれほどない。
だが史実において日本海海戦では連合艦隊旗艦として参戦し、東郷平八郎連合艦隊司令長官の指揮下の元、勝利を収めた。
なおその後は軍縮条約による廃艦そして記念艦となったため、当然ながら太平洋戦争には参戦していない。
そのためか艦娘としては存在していない。
だが、KAN-SENとしては存在し、かつてのセイレーンとの大戦では多大なる成果を上げていたが、現在は隠居し、静かに離れで饅頭とともに住んでいる。
「長門か…入っていいぞ」
三笠は長門を招き入れた。
その後、2人は対面で正座をして、三笠はお茶を用意した。
「…で、我に話とは何だ?」
「三笠様…実は……」
長門は今までの経緯を話す。
開戦、そしてそこまでの作戦失敗やオロチ計画、そしてセイレーンこと全てである。
そしてそれを話し終えると三笠はこう話し始める。
「うむ……一応風のうわさで聞いていた通りだが……まさか赤城と加賀がセイレーンと……」
「ああ…恐らくはセイレーンに唆された…と考えるのが妥当である…だが余としては確たる証拠もない以上は加賀を罰するつもりはない。オロチ計画を凍結し、しばらくは様子を見るつもりだ」
「そうか…長門らしい判断であるな」
「これ以上なにも起こらなければ…であるが……そしてこれからの重桜のこともある」
「上…上層部はどう言っている?」
「何も変わらぬ。アズールレーンとの交戦を継続せよとしか伝令が来ぬ……実質こちらに丸投げされていると言っていい」
当然ながらこの世界はKAN-SENだけではない。普通の人間も存在する。
だが現状はほぼ戦争はKAN-SEN同士が行っており、人間同士は小競り合い程度しか行っていない。
前大戦の際に人類の通常兵器は敵への攻撃力の割に過大な損害を負い、その結果KAN-SENのほうに戦力主体を切り替えため、そもそも出せないということもあるが
それでも参謀の一人もよこさずに作戦立案すらKAN-SEN側に丸投げされているのだ。
「このまま戦い続けても破滅しか無いのだがな……でも何故止められないのか……余にはわからぬ……現状ではこちらから交戦するつもりはないが、こちらに攻めてきた際は迎え撃つしか無い。どうするべきか……」
「………それが戦争だからな…そもそもふっかけてきたのはこちらからである。元々冷戦であったとは言え……いざという時は我も前線には出るつもりではあるが…」
「……ああ、それまでは様子を見ることになろう……というより、それしかできないのだがな…」
長門は未だ解決の糸口を掴めなかった。
「我もツテでなんとか上層部を説得してみるが……それでもアズールレーン側がどう出るかは未知数だ。人間の敵は同じ人間…「あの時」から変わらない…か」
「……」
(…しかし「同一艦」か……もしかすれば……)
一方三笠は艦娘達のことである「同一艦」についても気になっていた。
この件の解決の糸口になるかもしれないと思いながら……。
(三笠さんを出して)良いん…だよな……?