異世界で勇者してた親友がTSして帰ってきた件 作:(๑╹◡╹)ノ
俺には親友の少年がいた。
最初の出会いは小学校。
それ以来、中学校高校と同じ学校に進みながら仲良くやってきた。
俺はやんちゃな悪ガキでアイツは大人しい優等生タイプ。
一緒に遊んだり旅行に行ったりと様々な思い出を共有してきた、人生の一部だったと思う。
いや、誇張抜きで事実そうであっただろう。……高校一年の冬までは。
今はもう、アイツとバカやったり笑い合うことは出来ない。
別に喧嘩とかをしたってわけじゃない。
アイツは俺の目の前で光に包まれて、
あれは忘れもしない高校一年の冬休みの頃。
近所のスーパーで俺の家族とアイツの家族がバッタリ出会ったのだ。
互いが互いにそれぞれの母に荷物持ちとして連行されている、そんなよくある光景。
俺たちの仲がきっかけなのか、お互いの母親も親友と言える間柄になっていた。
だから、そんな二人が世間話に花を咲かせるのもいつものことで。
俺たちは互いに顔を見合わせ合い、「またか」とため息を吐きながら待つのもいつのこと。
ただ、いつもと違っていたことは…
「あぶないっ!」
目の前で小さな女の子がトラックに轢かれてしまいそうになったこと。
それを助けようとアイツは女の子を突き飛ばし、トラックの前に身を躍らせたこと。
……いつだったか、アイツととある話をしたことを思い出す。
目の前で人が脅威に襲われていたらどうするのかっていう、思春期にはありがちな話だ。
俺は「当然、助けるに決まってる!」とかなんとか、威勢のいいことを言っていたと思う。
そしてアイツは…
「……怖いな。ボクにはきっと、そんな勇気はないよ」
そう言って、笑ったんだ。
……バカ野郎。
だったら動かなければ良かったんだ。
女の子が死ぬのは気の毒だけど、おまえの命には替えられないんだぞ。
そんな、我ながらちょっとどうかと思うような人でなしなことを考えてしまったものだ。
純然たる結果として、『俺は動けなくてアイツは動けた』のだから。
母も、アイツのおばさんも気付いて悲鳴を上げている。
それでも俺は動けなくて、呼吸も忘れたまま目の前の光景に目が釘付けになっていた。
コンマ数秒の後には
その時、不思議なことが起こった。
トラックに衝突する寸前、アイツの身体が光に包まれたかと思うと急にかき消えたのだ。
その当時の俺たちは目の前の光景に揃って呆気にとられたものだ。
トラックの運転手も思わず車から降りてきてしまったほど。
後続のクラクションが鳴るのも構わずに、車の前や下を覗いてはしきりに首を傾げている。
おばさんは半狂乱になってトラックへと駆け寄った。俺たちもそれに続く。
しかし、どこをどう探してもアイツの痕跡の欠片すら見当たらない。
ついにはおばさんが運転手の胸ぐらを掴みかけたので、母と協力してなんとか宥めたが。
……結局、警察も
そもそも交通事故が起こったかどうかすら疑わしい、とのこと。
つまり、アイツは俺たちの見ている眼の前で急に光に包まれいなくなってしまった。
それだけが、アイツの家族と俺たち家族に突き付けられた事実であった。
一つだけ気がかりがあるとすれば、アイツが最後に助けた女の子。
あの子もいつの間にか姿を消しており、事故の後は消息が掴めなくなっていたことである。
それから一年と少々。
高校3年生の始業式を目前に控えた春休みのある日のこと。
俺の家の玄関のインターホンが控え目に鳴った。
折しも両親は長期旅行の真っ最中。
俺は誘われたものの謹んで辞退したので今は家に一人きりだった。
未だ気分が落ち込んだままの俺を気遣ってくれたことに気付かぬほどに、俺も鈍くはない。
アイツのことは正直まだ整理がつかない部分もあるが、それを差し引いても受験やらがある。
高校3年に向けたこの時期の春は色々と大変なのだ。時計の針は待っちゃくれない。
せめて、表向きは周囲の人に余計な心配をさせないくらいにならないとな。
……落ち込むのも後悔するのも、余裕が出来てからだ。
俺は更なる追撃を鳴らすインターホンに、はいはいと生返事をしながら部屋を後にした。
「………」
うちの玄関先にとんでもない美少女が、不安げな様子で立っていた。
くりっとした瞳に、艶々とした烏の濡れ羽色とでも言うべき黒髪。
どこか見覚えのある、ちょっと薄汚れたサイズの合ってないパーカーを着ている。
忘れるはずもない、それはアイツがいなくなった時の服装であった。
そう考えると、不意にアイツの面影を感じてしまい落ち着かなくなってしまう。
──何をバカな。
そう考える暇もあればこそ、きっと俺は反射的につぶやいてしまったのだろう。
あの事故の後から何度となく繰り返してきた、アイツの名を。
ミサキ、と。
思わずポツリとこぼしてしまった虚空に消えるはずの小さな言葉。
それをあやまたず目の前の美少女は拾ってしまったようだ。
不安そうな様子から一転、目の前の少女が花も綻ぶような笑みを浮かべて駆け寄ってくる。
思わず見惚れていると、彼女はとんでもないことを口走ってきたのだ。
「そうだよ。……ただいま、親友」
呆然としている俺の横をすり抜けて勝手知ったるとばかりに、うちに上がりこんでゆく。
いやいやいやいや、ちょっと待て。
我に返った俺は、ズンズン奥に進んでいこうとする美少女の腕を取って制止する。
折れてしまいそうなほどにか細く柔らかい、その感触に驚いていると。
「……?」
心底不思議そうな表情で、アイドル顔負けの美少女がこちらを振り返ってくるのだ。
思わず顔に熱がたまるのを感じる。
それを誤魔化すためだろうか。
俺はことさらに大きなため息を吐いて、不承不承、彼女を応接間へと案内するのであった。
「おじさんとおばさんはどうしてるの?」
旅行中だ、と麦茶を出してやりながら答える。
果たしてこの子が本当に
新手のオレオレ詐欺なのかも知れない。
そう考えるとミサキの名を出してしまったのは、いかにも不味かった気がしてくる。
俺の内心を知ってか知らずか、美少女は「ふぅん」と相槌を打ちながら麦茶を飲み始める。
一体このミサキを名乗る少女の目的はなんなのだろうか?
……いいだろう。
コイツがどういうつもりかは知らないが化けの皮が剥がれるまで試してやろう。
Q1.あなたの名前は何ですか。
「え?
面食らったような表情で美少女が返答する。どんな顔してても美少女は美少女だな。
……じゃなかった。
こんな手の込んだオレオレ詐欺をするくらいだ。名前くらいは調べているだろうなそりゃ。
よし、次の問題だ。
Q2. あなたと私の付き合いはいつからでしょうか?
「小学校の入学式からって… どうしたの、キミ? 急に私なんて…」
よく知っているな。これはひょっとして本物?
……いや、小学校以来の幼馴染など今までの会話で筒抜けだったかも知れない。
だが、これならばどうだ?
これを知っているものなど本人かお互いの家族だけだろう。
Q3.初めて二人で旅行にいった…
「中学二年の夏休みに山梨、長野に五日間かけて」
むむ、問題を出し切る前に回答されてしまった。
これは…
「お互いに貯めてたお年玉と小遣いを出し合ってだったよね。……懐かしいなぁ」
そう、そうなのだ。
戦国時代好きが高じて俺たちは山梨・長野をまたいだ信州旅行を決行。
俺は上杉謙信派でアイツは武田信玄派だったが、そこはそれ。
互いに良いところを認め合おうって趣旨で、親を説得して中2の身空で旅立ったのだ。
当然最初は猛反対されたが、計画書をしっかり作って提出して。
朝起きた時と寝る前は電話をすることを約束して。
アイツの妹ちゃんもお菓子で買収しながら、なんとか互いの親を説き伏せたものだ。
……今思い返してもあれは中々にハードなミッションだったなぁ。
俺が感慨に耽っていると、美少女はなおも言葉を重ねてくる。
「4日目はキミが寝坊したせいでほとんど回れなくてさ。そこだけは残念だったよ」
ぐぬぬ、その節は大変ご迷惑をおかけしました。
そもそもそれは家族にも話していないこと。ということは、やはり…
おまえ、ミサキなのか?
そうつぶやけば、目の前の美少女は目を丸くしてから非難するように唇を尖らせる。
「まだ信じてなかったの? ……ボクは正真正銘、
そんな『美少女』になった『アイツ』の言葉に、俺は思わず降参するより他なかった。
それから今まで何をしていたかについて話を詳しく聞いてみた。
すると、どうやらコイツは異世界転移を果たしていたらしい。
しかも勇者をやっていたらしい。……いや、正直何を言っているのか全然分からない。
どうにも魔族との戦争で滅びの危機に瀕していた異世界を救うために選ばれたのだとか。
なんとまぁ、燃える展開だが実際に当事者となると迷惑以外の言葉が浮かばないな。
「ボクも心からそう思う。転移の時の事故で女にされちゃうしね」
マジでか。俺だったらショックで抜け殻になっててもおかしくない珍事態だぞ。
よく頑張ったな、おまえ。
「まぁね。またキミや、家族に会いたかったから」
照れくさそうに笑うコイツに、また一瞬だけ見惚れてしまう。
……ま、そりゃそうだよな。
男の子として異世界転生には憧れるものの、実際はこの世界に残していくものが多すぎる。
せめて親孝行とか終わってからにしたいものだ。
となったら、終わる頃にはオジサンになってて余計しがらみも増えているだろうしな。
しかしどうやって帰ってきたんだ、おまえ。
そう問えば、コイツは若干陰のある表情を浮かべながらも回答をしてくれる。
「……ボクをあの世界に連れて行った女神がね、約束してくれたんだ」
約束?
「そう、約束。魔王を倒した暁にはなんでも一つだけ願いを叶えてくれるって」
ははぁ、なるほど。それで帰ってきたってわけか。
そう答えればちょっと照れくさそうに肯く。
最初から最後までちゃんと帰るべき場所に帰るって意志を貫き通したんだな。
困難に負けることなく意志を持ち続けるその強さこそが真の勇者の資質、とか?
「もう、からかわないでよ。……ホント、勇者なんて柄じゃないんだから」
わはは、照れるな照れるな。
しかし定番っちゃ定番だが、苦楽をともにした仲間たちとの別れは辛かったんじゃないか?
そう聞けば、コイツも思うところがあったのかどんよりとした表情を作り…
ポツリとつぶやいた。
「……本当に大変だったよ」
だよなぁ。
話してみ? 話してみ? 別れたくないって泣かれちゃったりしたか?
俺の脳天気なヨイショに当てられたのだろう。
麦茶をジョッキグラスのビールにするかのようにあおる。
そして、ドンと置くとコイツは訥々と語り始めた。
「まず、ボクを帰らせずあの世界のために願いを使わせようと画策してくるんだよね」
お、おう。
「というか、歴代の『勇者様』はそういうことが多かったみたいだね」
ま、まぁ… そうだよな。
私の願いはただひとつ。この世界に再び立ち上がれるだけの恵みと加護をください。
なんて、定番中の定番だ。
なるほど、心身ともに勇者な方が多かったんだな。前任者の方々は。
だけど、ちょっとそれは…
「その願いは尊いものだし否定するつもりはないよ。……でも、自由意志であるべきだ」
そう、だな。俺もそう思う。
あまり人のことを悪く言わないコイツが吐き捨てるようにつぶやいた。
それだけで、どういうことがあったのか薄々想像できてしまう。
恐らく異世界の人々は、勇者が与えてくれる恵みに依存してしまったのではないだろうか?
魔王を倒し、そして異世界のために願いを使ってくれる。
善意から始まったそれを、いつしか当然のものとして要求するようになってしまった。
勿論これは現場を知らない俺の勝手な憶測に過ぎない。
しかし、コイツに無理に喋らせるには中々ヘヴィーな話題でもある。
願わくばただの想像であって欲しい。
そう思いながら、俺は湧き上がってくる自らの好奇心にそっと静かに蓋をするのであった。
そしてコイツは鬱憤が溜まっていたのかも知れない。更に言葉を続ける。
「仲間の一人、騎士王子って呼ばれる人との婚姻の準備も進められていてね。……参ったよ」
こんいん… って、結婚のことか!? え、大丈夫だったのおまえ!?
「もちろん、バカ正直に断ったらただじゃすまなかっただろうね。歴代勇者の一部のように」
マジか。
コイツの言うことを信じるなら、都合悪くなって消されちゃった歴代勇者様もいるっぽい?
え、えぇー…
どんだけクソ世界なの、異世界さん。
「全部受け入れて思い通りに進むと見せかけて… 最後の最後で裏切ったからね」
そしてちょっぴり仄暗い表情を浮かべ「今頃怒り心頭だろうね。いい気味だよ」と笑う。
可愛い。
……じゃない。
あの真面目な優等生だったコイツが、まさかたった一年少々でここまで擦れてしまうとは。
うーむ… 異世界さん、恐るべし。
「……いや、異世界の影響なんてほんのちょっとだと思うよ」
そんなことを考えていると、声に出ていたのだろうか。
アイツがそう、やんわりと訂正してきた。
「ボクを助けてくれたのはいつだってキミだったよ。本当だよ」
そして、心からの笑顔で俺の手を取りながら言ってきたのだ。
それが真実、心からの言葉であることがよく伝わってくる。
「『こんな時、キミだったらどうするかな?』っていうのは迷った時のボクの指針だった」
そう、懐かしそうに告げる。
「もちろん、信玄公の教えも参考にしていたけれどね! 人は城、人は石垣… とか!」
……うん、やっぱおまえは
「けれど、いつだって一番にボクを勇気付けてくれるのはキミだったんだ」
そう言って、まっすぐに見つめてきた。
柔らかくすべすべした手のひらの温度が、俺の手を通じて心臓の鼓動を活発にする。
なんだか無性に気恥ずかしくなり、目が合わせられなくなってしまう。
……いつまでもこうしているのは心臓に悪い。
だから、そっと手を解きながら俺はあの日以来ずっと思っていたことを口にするのであった。
でも俺はあの時動けなかった、と。
とんだ腰抜けな俺のせいでおまえだけに負担をかけさせてしまってすまなかった、と。
すると、アイツは少し驚いたような顔をする。
失望させてしまっただろうか?
そうだよな、謝罪なんてただの自己満足だ。
そう思った時のことである。……ふわりと柔らかいなにかに包まれた。
「キミなら、他の誰も動けなくてもきっと動いていたよ」
でも。
「キミは、そういう人だから。……だからボクが先に動いたんだよ」
それは、なんとも都合の良すぎる言葉。
「だけどボクの行動がキミたちを悲しませてしまっていたなら… ごめんなさい」
それは言葉だけを聞けば懺悔であった。
しかし、俺の耳には救いを乗せた赦しの言葉となって届いていた。
静かに嗚咽を漏らす俺の頭を、『親友』は優しく撫でながら抱き締めてくれていた。
……続きは一週間後を目処に、次の休みにでも