楽しい楽しい高校生活 作:ライネ
"カコーン”
現代において和風と言えば結構な人が思いつく高い鹿威しが一定の間隔で特有の音を立て、この部屋まで反響する。その音の残響が残る静寂な部屋の中で俺は花瓶に向かう。
意識はただ自分が思い描く中で一番しっくり来る型を表現して、花瓶に新たな命を誕生させる事に集中する。
そして少し経ち、色とりどりの天使達に彩られることによって無機質だった空の器が生命を持ち、笑顔を浮かべているようだった。
この出来には俺も納得が行くものであった。この模様をノートに取り、改善点も書き加えて今日の作業を終わらせる。今回は着物は着ていないので直ぐに片付けて帰る準備をして、部屋を出ようとする。部屋に忘れ物が無い事を確認するのと同時にこの部屋を見渡す。
この部屋はまさに雅である。壁には掛け軸が掛けられており、部屋には書道や華道がずらっと並べられている。外を見れば鹿威しがうなずいている。最高の環境だ。
そして戸締りをして帰ろうとする。あいつの声さえ無ければ。
「ヒロヤさん!遅れました!」
これさえ無ければ、ただの華道部だったのになぁ。
「残念ながらもう今日は終業しました」
「むぅ…」
「華道やるってだけなら別に良いけど」
「勿論そのつもりです!」
「じゃあ右手に連れてる人は誰だ」
「入部希望者さんです!」
「そうなんですか?」
「い、いや私はイヴちゃんに連れてこられて…」
「違うじゃねえか」
「アヤさんは最近ずっとため息をしてました!」
「毎回言うけど華道部ってのは花を生けるだけで他人の相談はやってないんだって」
「でもヒロヤさん、前に相談に乗ってあげてました!」
「あれもお前が連れてきたのが悪いんだろうが」
今、俺と話しているのは若宮イヴという子だ。
この子はフィンランドかどっかのハーフでモデルなのかってくらいにスタイルも良い。というかモデルでもあった。あとアイドルもやっている。
そして俺が所属している華道部の部員でもある。華道部は三年の先輩が何人かと俺と若宮しか居なかったので卒業した今は二人だ。
二人で華道をやっている時に若宮から何かの相談をされた。真剣に聞いて真剣にアドバイスしたらいつのまにか若宮が華道部に悩みを持つ人を連れてくるようになった。多分こうなった理由は三年の先輩が友人を連れて談笑しながら花を生けていたので勝手に勘違いしたのだろう。
それからというもの、色々な悩みを持つ人を連れてくるようになり今に至る。つまりとても面倒だ。
「……まぁ連れてきてそのままってのも申し訳ないから上がってもらおうか」
「はい!アヤさんこちらです!」
「なんかごめんね…」
「もう慣れたんで平気ですよ」
客人であるアヤさんをひとまず部室に上げてお茶を立てて、お出しする。正直、華道専門みたいな所はあるので半分適当だったりもする。
「粗茶ですが、どうぞ」
「わ〜ありがとう!」
たかだかお茶を振る舞っただけなのに、花が咲き誇ったかのように満面の笑みを浮かべられるこの人は心が綺麗なのだなぁって思った。勘違いさせてそう。
「えーっと丸山彩さんであってますか?」
「私の事知ってるの!?」
「若宮と同じアイドルバンドにいるんで覚えてますよ。てか若宮から話はちょくちょく聞いてますよ」
「どんな話するの?」
「"アヤさんは面白いです!“とかそんな様な事ですかね」
「う〜褒めてないよね…」
「褒めてます!アヤさんがいると皆さんとても楽しそうです!」
「本当かなぁ…」
「本当だと思いますよ、若宮も楽しそうに話してますしね」
「なら良かった〜」
この人は感情が変わるのがわかりやすいし、その様子が顔に出るからいじられてるんだろうな。多分良い意味だとは思うけど。
「それで、何か悩みとかあるんですか?」
「ズバッと来るね」
「まぁ…聞かないことに始まらないんで」
ただ早く帰りたいだけでもあるけど。
「私ね、よく本番だとあがっちゃって失敗しちゃうんだ。昨日のリハーサルの時のMCも噛んじゃったし…」
「それを治したいって言う事ですか?」
「そう言う事かな」
難題が来たな。正直自分もこれは知りたい。
「緊張って物は色んな原因があります。多分丸山さんのは本能的に感じるものと、失敗を過度に警戒しているものからだと思います。僕は完全に緊張を無くすのは難しいかなと思います」
簡単に完全に無くすことが出来たら楽すぎるな。
「そんなぁ…」
「でも軽減は出来るかなって思います」
「本当に!?」
「普段なんて思ってパフォーマンスしてますか?」
「んー、トチらないようにって言うのと楽しみたいって事かな」
「なら楽しみたいって思う割合をもっと増やすってのはどうですか。普段以上に自分を良く見せたいって思いすぎな所もあるはずなので」
「なるほど〜」
「後、僕も結構あがり症で本番に弱いんですよ」
「そうなの?」
「余りにも弱すぎるので友達がくれたおまじないって物があって、それが今ではルーティンになっていてそれをする事で多少変わってきますよ」
「どんな事するの?」
「僕の場合は本番前に心臓を三回叩きます。今から頑張るぞって言う意味を込めつつですね」
「いいね!私もルーティン作る!」
「是非作ってみて下さい、結構変わりますよ」
こっから若宮も入れて緊張を解すためにルーティンを作る会議が始まり、結局ルーティンが出来たのは大分時間が経ってからだ。
「今日はありがとう!」
「それ程でもないですよ」
「また何かあったら来るね」
「それは…ちょっと…」
「そこはそう言う流れじゃなかったの!?」
「嘘です、悩んだらきてください」
「ありがとう、また来るね!」
そう言って丸山さんは走って帰って行った。
「流石ですヒロヤさん!」
「お前も帰れ」
「今帰ってます!」
してやったり!みたいなドヤ顔がとてもイラッとする。でもスタイルと顔と性格がいいから何とも言えない。
「文句を言っていてもなんだかんだ相談に乗ってくれますね」
「お前が連れてくるから追い返しにくいんだよバカ」
「む、バカって言う方が馬鹿って聞きました!つまりヒロヤさんの方が馬鹿です!」
「うるせえよ」
日本語が堪能ではあるけどもハーフに言葉尻を捉えられてるって考えると何かとても悲しい。
「華道部は花を生ける為の部活だからな。他人の相談に乗るどこかの奉仕部じゃねえんだぞ、だからもう悩んでる人を連れてくるなよ」
「わかりました…」
しょぼんってした顔が餌をお預けされた犬みたいで何か可哀想になる。俺が悪いみたいな気がしてきた。
「やっぱり本当に悩んでてやべえって人がいたら連れて来てもいい。でも基本連れてくるなよ」
そう言うと目を輝かせた。
「本当ですか!?やっぱりヒロヤさんは優しいです!」
正面から褒められるなんて事、高校生になると余りないから少しむず痒い。あと多分顔も赤くなっている。こんな美人に褒められてそうならない方がおかしいだろう。それを見られるのが嫌だったので顔を向けないようにする。
「ヒロヤさん?どうかしましたか?」
「なんでもない、てかもうそろそろ俺の家だからお別れだな」
「また明日会いましょう!」
「また明日な」
やっぱり顔は赤かったが、夕陽のせいにしよう。決して若宮のせいじゃなくて。
そして次の日…
「連れてきました!悩みがあるらしいです!」
「お前本当ふざけんな」
神様、俺のごく普通の華道ライフを返して下さい。
好評なら続くかも…?