やはり俺のモカしか飲まない青春は間違っている。 作:狐月狗沙狸(黒
不定期更新になりそうですけど続けていきます
週2とか無理やったね
誤字脱字報告あったらお願いします
(その前にタイトルついてませんでしたorz)
じゃ本編どうぞ
美しいという言葉はこんなにも排他的なのか。
特徴的なアホ毛と鋭い目つきを携えた眼鏡の男の人と肩のあたりで整えられた髪、それと抜群のスタイルを持った、まるで男性の理想を表したかのような女の人を見て、そう思った。
食事の所作の一つひとつからでさえ色香を醸し出す男女の姿に何とも言えない緊張を感じる。二人とも一応の面識はあるはずだ。それにもかかわらず、この二人からは自分達以外は空気と言わんばかりの様子を見せられている。どうしてこんな事になっているのだろうか。こっそりとため息を吐きながら、あたし──奥沢美咲──は給仕としてコース料理を運んだ。
***
まだ日も上りきらない時間にモカと寝ていたベッドから降りてキッチンに向かう。四本の水筒に昨日用意した珈琲を注ぎ、そのうち三本を鞄に入れる。自室に掛けてあったオーダースーツに身を通し、髪を整えて、眼鏡を掛ければ、準備は完了。
午前六時、マンションの駐車場には黒塗りの高級車が停まっていた。
「陽乃、お待たせしました」
「……うん、及第点。大丈夫だよ、八幡。そんなに待ってないから」
「それなら良かったです。黒服さんも毎回ありがとうございます」
「いえ、お気になさらず。これも職務ですから」
「さ、乗って八幡。今日もこころと過ごしたらウチに来てもらうことになってるから」
弦巻家の使用人、通称『黒服』さんの運転で幼馴染みの家に向かう。車内では影を纏った陽乃が凍てついた目で外を眺めていた。珍しく、初めから気の抜けた状態らしい。
「八幡、今日は雪乃ちゃんがウチに帰ってきてるから仕事の合間に会ってもらってもいい?」
「いいですよ、本人からの希望ですか?」
「うん、勉強を見て欲しいんだって」
「それはまた随分と下手な誘い文句ですね」
「本当にね。雪乃ちゃん不器用だから。……羨ましい限りだよ」
皮肉げに見える笑みを浮かべる陽乃。どうやら狐が仮面を咥えて帰ってきたようだ。
「つくならもっとマシな嘘をついてください。今更貴女が雪乃の不器用さを羨ましがるわけがないでしょう」
「ありゃ、バレたか。まあそーだね。見抜けなかったから教育し直してあげようかと思ってたけど、腕を上げたね可愛いかわいい
「おかげさまですよ、優しい振りをした
談笑もそこそこに、車が門をくぐり抜ける。玄関では見覚えのある少女と共に満開の笑顔を咲かせるこころが待っていた。
「おはよう! 八幡も陽乃も元気そうね、良いことだわ!」
「おはよう、こころ。土曜に会ったばっかりだけどな。それでなんで奥沢までいるんだ?」
「それはね、陽乃にお願いがあるからよ!」
「こころが私に? どんなお願いかな?」
「今日一日、美咲をメイドさんとして雇って欲しいの!」
こころから俺や陽乃に直接頼み事をすることは今までほとんどなかった。大抵のことは黒服さんの仕事だし、こころの願いの多くは周りが勝手に汲み取る。幼い頃と週二回の約束を踏まえてこれが三回目のことだろう。にしても、また随分と趣旨の読めないお願いだな。
「んー、こころのお願いだから受けてあげたいけど、どうしてその子を私に雇って欲しいの?」
「それは── になるからよ」
「……ふーん、いいよ。受けてあげる。そのかわり今度は三人で旅行に行こう?」
「ええ、わかったわ! ありがとう陽乃!」
こころが陽乃の耳元で理由を告げると、陽乃は起伏を感じさせない声で承諾の旨を伝えた。そして陽乃に抱きつくこころ。たいへん仲が良く、微笑ましい光景なのだが、どうやら、その交代条件に俺の都合は一切考慮されてないようである。たとえクラスカースト上位に立とうが幼馴染み三人で集まればこんなものだ。奥沢から寄せられる視線にも哀れみの色が篭っていた。お前だってもうそんな他人事じゃないんだかな。
「それじゃあ美咲ちゃんだっけ? 着替えてきてね。
「えっ? ちょマジですか」
「奥沢、諦めて着替えてこい。こうなったら陽乃の言う通りにしておくのが一番マシだ」
「それでは美咲様、こちらへお越しください」
流れるように屋敷へ連れて行かれる奥沢。隣で完璧な笑みを浮かべている陽乃に、こころが何も言わないということから割と楽しんではいるのだろう。手間隙楽しめるのが陽乃の強みだ。その分周りの人間も手間隙の被害を受けるわけだが、まあ最低限の助言はしてやったし、恐らく雪ノ下家に行っても死にはしないだろう。……精神的なものまでは知らないが。
「陽乃も八幡も中で待っていましょう! 八幡の淹れてくれたコーヒーが楽しみだわ!」
「今日はどんな風味?」
「『ヴェルディスペシャルティコーヒー』を参考にしたほろ苦い感じのです」
「それは良いね。ちょうど『バランタイン』の『とりいさん家』から甘いケーキ持ってきてるから一緒に食べよっか」
徒歩数分かけて俺と陽乃用になっている応対室へ着いた。黒服さん達からカップを受け取り、持参した水筒に入っている珈琲を注ぐ。魔法瓶によって保たれた温度は飲むのに丁度いい加減だ。机の上に珈琲とケーキを並べる。食前の礼をして、こころが手を伸ばした。
「ん〜、コーティングされてるキャラメルのパリッとした食感と中のケーキの柔らかい口当たりがとっても美味しわ!」
「うん、珈琲との相性も抜群だ。持ってきてよかったね」
「美味いな、このケーキ。今度買いに行くか」
三者三様に堪能していると応接室の扉から控えめなノックが聞こえ、こころが返事をし、中に入るように促す。姿を現したのはフリルが控えめにあしらわれたロングスカートのメイド服を着た奥沢だった。髪もまとめられ、おそらく化粧も変わっている。普段のダウナーな高校生から、きっちりとしたメイドといった雰囲気に変化しているが、いかんせん普段の奥沢を知っているからか、それとも姿勢などに問題があるのか、服に着られている感覚もある。
「美咲! 似合っているわ! 可愛いわね!」
「落ち着かないか? 慣れない格好で羞恥を感じてるのかもしれんが、こういうときこそ背筋を伸ばした方がまともに見えるもんだぞ」
「ぅうう……、ありがとうございます」
奥沢も抵抗することを諦めたな。一年以上こころと付き合ってれば、楽しんでた方がマシだって気づくか。……だからといって俺がメイド服を着ろと言われても絶対に着ないが。
さて、本日のご主人様となる陽乃はどう反応するのか。陽乃は奥沢が入ってきてからじっくりとその鋭利な双眸で奥沢、というよりはその服を見つめている。雪ノ下家に来るのに弦巻家の服では都合が悪いのだろう。だから態々フリフリなんて言っていたわけだろうが、普段からメイド服を利用していない弦巻家だと、この服ではグレーといったところか。陽乃は灰色をどう扱う?
「うーん赤点だね。黒服さん、カチューシャってありますか?」
「はい、ここに」
「ありがとうございます、それじゃあ美咲ちゃんおいで」
恐るおそる美咲が近づくと、陽乃は美咲の髪にカチューシャを差し込んだ。控えめにフリルがあしらわれたそれは見た目に反してチープなものだろう。とはいえ、全体の雰囲気を損なわないのは流石陽乃といったところか。
灰色はやがて黒になる色が、白にもできる色だ。つまりは使い手次第。こと、何かを使うことにおいて完璧に近い陽乃は灰色を使いこなしてみせた。
「これで及第点だね。じゃあ美咲ちゃんは今日一日この格好で過ごして」
「……はい」
「奥沢、色々と諦めてるとこ悪いが、帰り遅くなるって家に連絡入れとけ。千葉の方に行くことになるから移動だけでもそれなりにかかるぞ」
「それじゃあ、ちょっと連絡入れてきます」
「私も家に連絡入れてくるね、雪乃ちゃんに何か伝えたいことはある?」
「それでは ''You cannot look at me because your eyes are shining".とだけ」
「優しいだけの男は嫌われるよ? 女を落としたいなら適度にクズでいなきゃね」
「生憎、大切なものを一つだけ持ち続けられれば勝ちなので」
「敗北と後悔しか知らなかった少年が言うようになったね、やっぱり腕を上げたんじゃない? プチョヘンザも程々にしないと撃たれちゃうけど」
「八幡も陽乃もそこまでよ。美咲が部屋から出られないわ」
「ありゃりゃ、ごめんなさい」
鶴の一声で言葉遊びが終わる。二人が部屋を出ると、こころが眩い笑みを向けたてきた。随分と自然に笑うようになったものだ。
「二人とも相変わらず楽しそうね。でも、私達を忘れちゃ嫌よ?」
「……出会ったあの日から俺達がこころを忘れたことなんてないし、こころが
「ふふっ、私は一度負けたけど美咲のおかげで勝ったわ。陽乃は
慈愛に満ちたその顔から孤独が抜けたのは奥沢のおかげだ。幼馴染み三人で始めたゲームは周囲の人間を巻き込んで広がっていった。いや、拡げなければならなかった。孤独を飼いならすことが負けを意味するゲームだ。仮面を被る陽乃は素顔を忘れて独りを当然のものとし、寂しさを恐れたこころは独り楽しさを求めた。そして俺は──
「──まだ負けてない。俺は陽乃のように仮面を纏い、こころのように仲間を求めた。そうして三つ可能性を見つけている」
「勝てるかしら?」
「わからない。少なくとも簡単じゃない」
「八幡は勝てると信じてる?」
「信じてはいない。だが信じたいとは思っている」
「勝ちたいと思ってる?」
「ああ。こころが見た景色を三人で見たいと思っている」
「それなら魔法の言葉を教えてあげるわ」
太陽の色をした深海が俺を見つめる。
「ハッピー!ラッキー!スマイル!イエーイ! 世界を笑顔にする絶対最強の言葉よ」
いつもの眩しい笑顔じゃない。懐かしさすら感じる深い深い暗闇が覗く笑顔が、そこにはあった。
応接室の窓から光が差し込む。珈琲からはまだ湯気が伸びていた。
***
こころの家から数時間、黒塗りのリムジンは雪ノ下家に着いた。車内には運転手の黒服さんを除いて陽乃と奥沢と俺の三人しかいない。こころはこの後やることがあるそうだ。
「はい、着いたよー。降りた降りた」
事前に陽乃から指示されていたように、まず奥沢が車を降りてドアを開ける。外に出た瞬間から陽乃と俺は雪ノ下家の人間とその客人として振る舞い、奥沢は陽乃の世話役として振る舞う。おそらく奥沢の人生史上最大の職場体験が始まった。
「八幡、雪乃ちゃんはいつもの部屋にいるから向かってもらって良いかな。この娘と会わないように部屋で待ってもらってるからさ」
「了解しました、それではまた昼時に会いましょう」
「それとあの言葉、雪乃ちゃんに伝えちゃったから頑張ってね」
雪ノ下邸の大広間から、悪戯をするような顔で笑う陽乃に手を振って返事をし、二階の奥にある雪乃の私室に向かう。奥沢は別れ際だけ頭を下げて、それ以外では会話に参加しない。顔を見る限り、俺たちの変化に戸惑っているのかもしれない。弦巻家と違って雪ノ下家では気を抜く暇などない。雪ノ下家では全て人に見せる、見られることを前提として過ごさなければならないのだ。それは雪ノ下家の気質でもあるし、教育方針でもある。そこに例外はない。一見、お転婆に見えるこころですら、ここでは礼儀を徹底する。
雪乃の部屋の扉の前に立ち、左で三回ドアをノックする。中から入室を許可する声が聞こえた。随分と可愛らしく拗ねた声だ。
「久しぶりだな、雪乃」
「久しぶり、八幡君。ところで三回ノックをしたのにあんな言葉を送ってくるなんてどういうつもりかしら?
なんて」
「お前に贈る言葉なら英語の方が良いと思ったんだが、気に入らなかったったか?」
「そんなことは聞いてないわ。私が言いたいのは──」
「── "A secret makes a woman woman." 感情に任せて想いをぶちまけるもんじゃないぞ。秘密がなくとも美しいやつなら尚更な」
「……八幡君、姉さんとは違った方向で苦手だわ」
溜め息を吐く姿が似ているなんていうと怒られるだろうが、雪乃は陽乃の妹にしては色々と未熟であり、そこが魅力だ。遊ぶのなら自分優位の方が俺の好みに合っている。とはいえ今日は遊び過ぎた。反省して本題へ移ろう。
「勉強を見て欲しいんだろ? 教科は?」
「国語と数学よ」
「国語はともかく数学も俺に聞くか。まあ良い、いつも通りわからないところがあったら聞いてくれればいい。本、借りるぞ。後ろで読んで待っているからら」
そして本の世界、新しい価値観の塊である毒と日常の痛みを薄める薬の中へと入っていく。ペンを走らせる少女の笑みは止まらない。物語まだ始まったばかりだった。
"A secret makes a woman woman."
ベルガモット嬢の名言『名探偵コナン』より
意味は秘密は女を美しくする的な感じで
『女は秘密を着飾って美しくなる』です
あと3時のおやつとそのお供に是非
『バランタイン』の『とりいさん家の芋ケーキ』と
『ヴェルディスペシャルティコーヒー』をどうぞ
現在も購入可能かはわからないですが、実在します
ちなみに雪乃さんは八幡君と同い年のままです
そしてスタート位置に戻るのは次のお話
まあ気長にお待ちください
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特に感想を頂けるとやる気出ますんで
気持ち分だけ更新早くなりますよ
お願いします(アンチも歓迎してます)
ps
英語いっぱい出ましたね