夜中にこっそり投稿です。結構殴り書きなんで誤字あったらすいません。
ブッスー
「潮崎、見事に不貞腐れてんな……」
「まぁ、久しぶりの公式戦だし。朝から張り切ってたしなぁ」
僕を見ながら、木下と縁下がそんな事を話してる。
はぁ。だって仕方ないだろ? 春高1次予選、1回戦目の扇南戦。僕、潮崎束は、試合に出れなかったんだから!
「そう、ヘコむなって。安心しろ! お前が出ずとも俺らが勝ってやるから!」
「おい、田中! それ逆効果だから! トドメ刺しちゃってるから!」
縁下がいつも道理、頑張ってツッコミしながら、僕を慰めてくれる。
いやね、分かるよ? 僕のスタミナを考慮してくれたり、僕の存在を出来るだけ隠したかったり、烏養コーチにも色々考えがあるのだろう。
けどね? もし次の試合も出られない何て事があれば、次の公式戦は数ヶ月後。
「あぁ、気が遠くなりそうだ……」
そんな僕の独り言は、体育館に鳴り響く歓声と共に消えていった。
2回戦目、ウチの相手は角川学園。
「うわー。ネット挟んでみると、余計にデカく見えるねー」
角川の9番。聞いた話しだと、2mもあるらしい。
恵まれた体だ。バレーボールにおいて、高さは正義だ。身長が高いと言うだけでそれは才能の1つになり得るほどに。
各チーム、アップを済ませ、整列をし、両チームの選手がポジションに着いた所で、試合開始の笛がなる。
えっ、僕はって? まぁ、分かってたけど、案の定ベンチスタートですとも。はぁ、泣きたい。
月島のサーブで試合が始まる。角川はサーブを落ち着いてボールを拾い、セッターがレフトへ。そこに待ち受けて居るのは、2mの巨人。
まずは、エースのド直球勝負。それだけ、向こうにはブロックを打ち抜けるだけの自信があるのだろう。
「んなっ……!」
しっかりと助走を取った9番は、セッターがあげた山なりのトスを、影山、日向、田中のブロック3枚の上から叩きつけた。
予想はしてたけど、凄いな。
そこから試合が進んで行くが、スパイクは勿論、ブロックに押し合いと、圧倒的なまでの高さで、角川は点を取っていく。
一方ウチは、相手のサーブミスでなんとか1点を取る形になった。
(けど、ウチはただ高いだけの相手に負ける程弱くはない)
角川学園 4ー1 烏野高校
早速、ウチはタイムアウトを取る。
まぁ、流れを止めたいってのもあるだろうけど、大地さん達も気づいたっぽいし、そっちの話がメインだろうな。
「角川の9番、多分ストレート打てないっぽいですね」
スクイズを渡しながら大地さんに話しかける。
「あぁ、おそらくコースの打ち分けは出来ないんだろうな」
「体の向きそのまま、クロスに打ってる感じですね」
予想通り、大地さんも西谷も気づいていたようだ。
「練習見た感じ、9番はまだ、バレー始めて間もないんだろう。だから、次からは9番のスパイクはストレート捨てるぞ!」
烏養コーチの指示どうり、ストレートを捨て、クロス1本に絞る。
これによって、攻撃は防げる。後は、どう攻めるか。
しかし、その問題はいとも簡単に解決される。
それは、日向と影山の変人速攻。それも新しい方の速攻。
バレーを始めたての9番にとって、マイナステンポの速攻は、ボールを見てから飛ぶのでは追いつけない世界。
21ー24
速攻が決まるようになり、試合のペースを掴み、マッチポイント。
(おぉー、影山、今日は特に調子いいみたいだな。新しい方の速攻も良く決まってる)
角川も何とか食らいついてるけど、日向の速攻が決まり、第1セットはウチが取る形となった。
──────────────────────────────
1セット目を取り、烏養は、チラリと何処かソワソワした様子の束を見る。
(はぁ、流石に限界が近いかねぇ)
ため息を1つつき、選手達に集合をかける。
「潮崎、次のセット、日向と変われ」
「! はいっ!」
その言葉に、束は一瞬ピクリと反応し、満面の笑みで返事をする。
「あの、良かったんですか?」
選手達がコートに入って行くのを見ながら、武田が烏養に問いかける。
「まぁ、この作戦に関してはあんま期待してなかったし、我慢させ過ぎて、ストレス抱えられるよりはマシだからな」
今の烏野は、多くの武器を身に付けた。変人速攻以外にも点を取れる現状、烏養としては、束の存在は2次予選まで隠して起きたかったのが本音だ。
しかし、当の本人はそんな事お構い無しに、この試合、このたった1セットでこの体育館の全ての人を魅了する事になる。
「ありゃ? 烏野の10番代えちまうのか? 折角リズム出来てきたのに」
「ホントだー。なんで翔ちゃん代わっちゃったんだろ?」
「何かひょろひょろ〜」
烏養一繋の隣で試合を見ていた大野屋の言葉から始まり、その更に横に居る子供達もそんな事を話し出す。
いや、この3人だけでは無い。恐らくこの試合を見ている殆どの人間が思っただろう。「何故?」と。
第1セットの烏野の得点源の殆どが日向と影山による変人速攻だ。その攻撃で試合のリズムも掴めている。そんな中でその片割れを代えてまで、出てきた選手は特別背が高いわけでもない、パワーがとんでもなくある訳でも無さそうな、細身の少年なのだから、疑問を抱くのも当然だろう。
しかし、そんな疑問も束の間、観客の殆どの疑問が晴れぬまま第2セットは始まる。
影山は早速、束を使うが、日向との様な速攻では無い故に、百沢はしっかりとブロックにつく。
「あぁ、ほら言わんこっちゃない」
圧倒的に束の打点より上にいる百沢のブロックに、大野屋はそう嘆く。
「お前達、チビ太郎みたいな攻撃が出来ないと勝てないのか聞いたな?」
「え? はい」
烏養は自分の教え子を見ながらそう呟いた。
「いいか、烏野のシンクロ攻撃なんかは、圧倒的な高さに勝つための手段の1つだ。けどな、チビ太郎とは別にああやって、個の力で捩じ伏せる戦い方もある事を覚えておくんだぞ」
烏養がそう言ったのと同時に、束のスパイクは上に向かって放たれ、ボールは百沢の指に当たり、そのままコート外へと吹っ飛んでいった。
それは日向が合宿中にリエーフ相手に使ったスパイク。しかし、それとは似て非なる程、無駄のなく、偶然でもまぐれでも無い、完璧なまでのブロックアウトであった。
「「「しゃあ!」」」
烏野の選手達の喜びが静寂に包まれた体育に響き渡る。
「うぉぉぉ!」
「おいおい、なんだよあれハンパねぇ!」
「何あれ、狙ってやったの?」
「あんな選手、烏野に居たか!?」
その喜びの声が火種ななり、会場のボルテージは燃え上がり始める。
「潮崎さん、ナイスキーです」
「ありがとう。影山もナイストス。今日はいつにも増して調子良いみたいだね」
「お前らもっと喜べよ!」
こんな中でも、冷静でいる2人に、田中はついツッコミを入れてしまう。こう見えて田中は意外とツッコミ役なんだぞ。と、束は影山に話していた。
「うおぉ! すげぇな今のスパイク! 烏養さん、あんたあの13番の事知ってたのか?」
「あぁ、昨年少し烏野の練習見る事があってな。ちょっと、体が弱い見たいだけどあの頃から頭1つ抜き出てたよ」
大野屋の問に、烏養はそう答え、「そんでもって」と付け加える。
「俺が教えてきた選手の中で唯一化け物と呼べる存在だよ。潮崎は……
アイツにとって、ただ背が高い相手じゃ、壁にはなり得ない」
そこからの試合の流れはあっという間であった。
基本的に遅めのテンポの攻撃がメインかと思えば、虚を突くようなタイミングで速攻。百沢のブロックは主に皿で対応し、特に、跳ぶタイミングを遅らせ、体を仰け反るようにして触ったブロックが角川のコートに入った時の体育館の盛り上がりは最高潮に達していた。
蓋を開けて見れば圧勝。圧倒的な技術の前に、角川学園は為す術なく第2セットを落とし、これが潮崎束にとっての春高の初陣となった。
これによって、烏野高校、春高1次予選突破が決定した。
百沢雄大にとってバレーとは高さだけで勝てる単純なスポーツだと思っていた。
しかし、そんな甘いスポーツでは無い事をこの試合で、変人速攻や束の存在に思い知らされた。
この試合は、百沢が進化する為のターニングポイントとなり得る試合となったのだ。
「角川の9番。次会った時は相当化けてるかもね」
束の言葉はまたもや、体育館に響き渡る熱狂の渦の中へと消えていった。