天才で病弱な男の奮闘記   作:宮川アスカ

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お久しぶりです。エタってないですよー!
夜中にこっそり投稿です。結構殴り書きなんで誤字あったらすいません。


第8話 高いだけじゃ勝てない世界

 ブッスー

 

「潮崎、見事に不貞腐れてんな……」

 

「まぁ、久しぶりの公式戦だし。朝から張り切ってたしなぁ」

 

 僕を見ながら、木下と縁下がそんな事を話してる。

 はぁ。だって仕方ないだろ? 春高1次予選、1回戦目の扇南戦。僕、潮崎束は、試合に出れなかったんだから! 

 

「そう、ヘコむなって。安心しろ! お前が出ずとも俺らが勝ってやるから!」

 

「おい、田中! それ逆効果だから! トドメ刺しちゃってるから!」

 

 縁下がいつも道理、頑張ってツッコミしながら、僕を慰めてくれる。

 いやね、分かるよ? 僕のスタミナを考慮してくれたり、僕の存在を出来るだけ隠したかったり、烏養コーチにも色々考えがあるのだろう。

 けどね? もし次の試合も出られない何て事があれば、次の公式戦は数ヶ月後。

 

「あぁ、気が遠くなりそうだ……」

 

 そんな僕の独り言は、体育館に鳴り響く歓声と共に消えていった。

 

 

 

 

 

 2回戦目、ウチの相手は角川学園。

 

「うわー。ネット挟んでみると、余計にデカく見えるねー」

 

 角川の9番。聞いた話しだと、2mもあるらしい。

 恵まれた体だ。バレーボールにおいて、高さは正義だ。身長が高いと言うだけでそれは才能の1つになり得るほどに。

 

 各チーム、アップを済ませ、整列をし、両チームの選手がポジションに着いた所で、試合開始の笛がなる。

 えっ、僕はって? まぁ、分かってたけど、案の定ベンチスタートですとも。はぁ、泣きたい。

 

 月島のサーブで試合が始まる。角川はサーブを落ち着いてボールを拾い、セッターがレフトへ。そこに待ち受けて居るのは、2mの巨人。

 まずは、エースのド直球勝負。それだけ、向こうにはブロックを打ち抜けるだけの自信があるのだろう。

 

「んなっ……!」

 

 しっかりと助走を取った9番は、セッターがあげた山なりのトスを、影山、日向、田中のブロック3枚の上から叩きつけた。

 予想はしてたけど、凄いな。

 

 そこから試合が進んで行くが、スパイクは勿論、ブロックに押し合いと、圧倒的なまでの高さで、角川は点を取っていく。

 一方ウチは、相手のサーブミスでなんとか1点を取る形になった。

 

(けど、ウチはただ高いだけの相手に負ける程弱くはない)

 

 

 

 角川学園 4ー1 烏野高校

 

 早速、ウチはタイムアウトを取る。

 まぁ、流れを止めたいってのもあるだろうけど、大地さん達も気づいたっぽいし、そっちの話がメインだろうな。

 

「角川の9番、多分ストレート打てないっぽいですね」

 

 スクイズを渡しながら大地さんに話しかける。

 

「あぁ、おそらくコースの打ち分けは出来ないんだろうな」

 

「体の向きそのまま、クロスに打ってる感じですね」

 

 予想通り、大地さんも西谷も気づいていたようだ。

 

「練習見た感じ、9番はまだ、バレー始めて間もないんだろう。だから、次からは9番のスパイクはストレート捨てるぞ!」

 

 烏養コーチの指示どうり、ストレートを捨て、クロス1本に絞る。

 

 これによって、攻撃は防げる。後は、どう攻めるか。

 

 しかし、その問題はいとも簡単に解決される。

 それは、日向と影山の変人速攻。それも新しい方の速攻。

 バレーを始めたての9番にとって、マイナステンポの速攻は、ボールを見てから飛ぶのでは追いつけない世界。

 

 

 

 21ー24

 

 速攻が決まるようになり、試合のペースを掴み、マッチポイント。

 

(おぉー、影山、今日は特に調子いいみたいだな。新しい方の速攻も良く決まってる)

 

 角川も何とか食らいついてるけど、日向の速攻が決まり、第1セットはウチが取る形となった。

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────

 

 

 

 1セット目を取り、烏養は、チラリと何処かソワソワした様子の束を見る。

 

(はぁ、流石に限界が近いかねぇ)

 

 ため息を1つつき、選手達に集合をかける。

 

「潮崎、次のセット、日向と変われ」

 

「! はいっ!」

 

 その言葉に、束は一瞬ピクリと反応し、満面の笑みで返事をする。

 

 

 

「あの、良かったんですか?」

 

 選手達がコートに入って行くのを見ながら、武田が烏養に問いかける。

 

「まぁ、この作戦に関してはあんま期待してなかったし、我慢させ過ぎて、ストレス抱えられるよりはマシだからな」

 

 今の烏野は、多くの武器を身に付けた。変人速攻以外にも点を取れる現状、烏養としては、束の存在は2次予選まで隠して起きたかったのが本音だ。

 しかし、当の本人はそんな事お構い無しに、この試合、このたった1セットでこの体育館の全ての人を魅了する事になる。

 

 

「ありゃ? 烏野の10番代えちまうのか? 折角リズム出来てきたのに」

 

「ホントだー。なんで翔ちゃん代わっちゃったんだろ?」

 

「何かひょろひょろ〜」

 

 烏養一繋の隣で試合を見ていた大野屋の言葉から始まり、その更に横に居る子供達もそんな事を話し出す。

 いや、この3人だけでは無い。恐らくこの試合を見ている殆どの人間が思っただろう。「何故?」と。

 第1セットの烏野の得点源の殆どが日向と影山による変人速攻だ。その攻撃で試合のリズムも掴めている。そんな中でその片割れを代えてまで、出てきた選手は特別背が高いわけでもない、パワーがとんでもなくある訳でも無さそうな、細身の少年なのだから、疑問を抱くのも当然だろう。

 

 しかし、そんな疑問も束の間、観客の殆どの疑問が晴れぬまま第2セットは始まる。

 影山は早速、束を使うが、日向との様な速攻では無い故に、百沢はしっかりとブロックにつく。

 

「あぁ、ほら言わんこっちゃない」

 

 圧倒的に束の打点より上にいる百沢のブロックに、大野屋はそう嘆く。

 

「お前達、チビ太郎みたいな攻撃が出来ないと勝てないのか聞いたな?」

 

「え? はい」

 

 烏養は自分の教え子を見ながらそう呟いた。

 

「いいか、烏野のシンクロ攻撃なんかは、圧倒的な高さに勝つための手段の1つだ。けどな、チビ太郎とは別にああやって、個の力で捩じ伏せる戦い方もある事を覚えておくんだぞ」

 

 烏養がそう言ったのと同時に、束のスパイクは上に向かって放たれ、ボールは百沢の指に当たり、そのままコート外へと吹っ飛んでいった。

 それは日向が合宿中にリエーフ相手に使ったスパイク。しかし、それとは似て非なる程、無駄のなく、偶然でもまぐれでも無い、完璧なまでのブロックアウトであった。

 

「「「しゃあ!」」」

 

 烏野の選手達の喜びが静寂に包まれた体育に響き渡る。

 

「うぉぉぉ!」

 

「おいおい、なんだよあれハンパねぇ!」

 

「何あれ、狙ってやったの?」

 

「あんな選手、烏野に居たか!?」

 

 その喜びの声が火種ななり、会場のボルテージは燃え上がり始める。

 

「潮崎さん、ナイスキーです」

 

「ありがとう。影山もナイストス。今日はいつにも増して調子良いみたいだね」

 

「お前らもっと喜べよ!」

 

 こんな中でも、冷静でいる2人に、田中はついツッコミを入れてしまう。こう見えて田中は意外とツッコミ役なんだぞ。と、束は影山に話していた。

 

 

「うおぉ! すげぇな今のスパイク! 烏養さん、あんたあの13番の事知ってたのか?」

 

「あぁ、昨年少し烏野の練習見る事があってな。ちょっと、体が弱い見たいだけどあの頃から頭1つ抜き出てたよ」

 

 大野屋の問に、烏養はそう答え、「そんでもって」と付け加える。

 

「俺が教えてきた選手の中で唯一化け物と呼べる存在だよ。潮崎は……

 アイツにとって、ただ背が高い相手じゃ、壁にはなり得ない」

 

 そこからの試合の流れはあっという間であった。

 基本的に遅めのテンポの攻撃がメインかと思えば、虚を突くようなタイミングで速攻。百沢のブロックは主に皿で対応し、特に、跳ぶタイミングを遅らせ、体を仰け反るようにして触ったブロックが角川のコートに入った時の体育館の盛り上がりは最高潮に達していた。

 

 蓋を開けて見れば圧勝。圧倒的な技術の前に、角川学園は為す術なく第2セットを落とし、これが潮崎束にとっての春高の初陣となった。

 これによって、烏野高校、春高1次予選突破が決定した。

 

 

 百沢雄大にとってバレーとは高さだけで勝てる単純なスポーツだと思っていた。

 しかし、そんな甘いスポーツでは無い事をこの試合で、変人速攻や束の存在に思い知らされた。

 この試合は、百沢が進化する為のターニングポイントとなり得る試合となったのだ。

 

「角川の9番。次会った時は相当化けてるかもね」

 

 束の言葉はまたもや、体育館に響き渡る熱狂の渦の中へと消えていった。

 

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