前回のあらすじ。
春高、1次予選を通過した我ら烏野高校は約2ヶ月後に迫った2次予選に向け、東京へ練習試合があるのだが、前日の練習が急遽休みになった為、僕は一足先に東京へ。
そこで久しぶりに彼女である灰羽アリサとデートをしていたら、大学生らしき3人組と言い争いをしている井闥山学園排球部に所属する佐久早聖臣と古森元也とばったりエンカウントしたのであった。
回想終了。
「それで? 古森達はどうしてここに? しかも男2人で……」
「久しぶり、潮崎。
別に2人って訳じゃなくて、部活の奴らと久しぶりのOFFだし遊びに来ててさ。そんで、先輩に先、バレーコート並んどいてって言われて並んでたらさ、この状況よ」
「うん、古森も聖臣も久しぶり。で? それだけじゃこうはならないでしょうに」
「……こいつらが、後から来たのに先に使わせろって言うだよ。ホントなんなんだよ……」
「まぁまぁ、そう言うなって。何か、今日ここでバレーのイベントがあるらしいんだけど、この人達はそれに出るから先にコート使わせて欲しいんだって」
聖臣の言葉に古森が補足を入れてくれる。まぁ、少し聞いた感じ、向こうの言い方も言い方だけに、聖臣は気に入らないんだろう。
まぁ、首も半分突っ込んじゃったし、知り合いのよしみだ。少しは手助けしますかね。
「お兄さん達、お兄さん達もバレー選手ならバレーで決着つけるのはどうですか?」
「あ? んだ、お前。だからこっちはこれから試合なんだって言ってんだろ。こいつらと遊んでる暇ないだよ」
「じゃあ、彼らもそのイベントに参加するなら?」
「はっ、別に俺らは一向に構わねぇが、イベントは3対3。受付はあと10分位で締め切ると思うぜ?」
「だってさ。ここは一緒に来てる人でも誘って出てみたら?」
僕がそう言うと、古森はスマホを見ながら「うーん」と悩む。
「んな事言っても、今から先輩達呼んでも10分じゃ間に合わないよなぁ。けど、それが1番平和的な終わらせ方だろうし……」
古森は少し悩みながらも、「あっ」と呟く。
「じゃあ、潮崎が一緒に出てくれよ」
「は? おい、何で俺がこいつと組まなきゃいけないんだ……」
「いや、僕、デート中なんだけど?」
聖臣が嫌そうな顔をするが、嫌なのは僕もだから。
「あれ? よく見たら君、めっちゃ美人じゃん! ハーフ!? 良かったら一緒に遊ばない?」
「えっ? えっと……」
そんな事していると、大学生のうちの1人がアリサの肩を掴み、そう話しかけている。それを見た瞬間、僕の手は勝手に反応した。
「すいません。この人僕の彼女なんで、その汚い手、離してくれませんか?
そもそも、貴方、今から試合なんでしょう?」
大学生の手首を掴み、笑顔でそう言うと、ギロリとこちらを睨んでくる。
「は? お前が彼氏とか有り得ねぇわ。正直釣り合ってねぇぞ?」
今の言葉には正直イラッと来た。
「ねぇ、アリサ。デート中ごめんなんだけど……」
「その続きは言わなくて大丈夫。気にしないで! 私が1番好きな束くんはバレーをしてる時の束くんだから」
僕の言葉を途中で遮った彼女はニコリと笑った。今日ばかりはこの笑顔に甘えさせて貰おう。
「ありがと。ねぇ、古森。古森の提案乗った。僕も参加するよ」
「……おい待て、お前何勝手な事言って……」
「あれれぇ? もしかして君、負けるのが怖いのかなぁ? まぁ、しょうがないよね。だって君、弱そうだもん」
僕の言葉に反応した聖臣に、大学生の1人が煽ってくる。
「チッ、……束、今回だけ組んでやるよ」
彼の言葉が聖臣にとってプツンと来たんだろう。こうして僕達3人の即席チームが結成した。
イベントのルールは、3対3の25点先取、ワンセットマッチのトーナメント形式。
僕達より前の試合を見てたけど、流石に、遊ぶ為の施設である為、そこまでガチの人は参加してない。それに3対3なら結構、点も入りやすいし、そこまで長引きはしなさそうだな。
「あっ、あのユニフォームどっかで見た事あると思ったら東山大学じゃん」
古森がそう言いながら、先程の大学生達を指さす。参加者はユニフォームかビブスの着用しなくてはいけなく、大学生達は深緑のユニフォームを着ていた。
「東山大学?」
「そっ。大学バレーの中じゃ結構強いチームだった気がする」
「……それ、高校出てプロになれなかったって事だろ。興味無い……」
聖臣はこんな事言っているが、古森の話しでは結構強い大学みたいだし、口だけじゃないのかもしれないな。
「でも、何でそんな大学がこんなイベントに?」
「さっき、チラッと見たんだけど、ほらあそこ。カメラあるだろ? 何かの取材なんだと。だから、この気に乗じて、バレー部の宣伝とかじゃない?」
「……周りからしたらいい迷惑だな」
「それ僕達も言えないから」
確かに、楽しさ目的でイベントに参加してる人達からしてみればいい迷惑だろう。けど、それは僕達もおなじだろう? 正直僕も含めて、この3人がバレーで手加減できるとは思えない。
「それにしても、よく聖臣がこんな人がいっぱい居るとこ来たね。意外なんだけど……」
「……こいつに騙されたんだよ……」
聖臣はじろりと、古森の事を見る。あぁ、何とかなく予想はついたよ。
聖臣は重度の潔癖症で、人混みの様な人が多くいる場所は大嫌いな奴だ。こいつが自主的にここに来るとは思えないからね。
そんなこんなしてる内に、次は僕らの試合。東山大学の人達とは順当に行けば、当たるのは決勝だしね。ここはいっちょ、頑張りますか。
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イベントは、お互い危なげもなくトーナメントを勝ち進めていき、決勝まで駒を進めた。
束達の試合を見ていたアリサの元に、1人の眼鏡をかけた、何処か気弱そうな男性が近づいてくる。歳はおそらく、アリサと同じくらいだろうか。
「あの、今から試合する彼らと一緒にいた人ですよね?」
「? そうですよ?」
おずおずと聞いてくる青年に、アリサは首を傾げる。すると、青年は「バッ」と思い切り頭を下げる。
「すみません。ウチのチームメイトが迷惑をかけてしまって」
「えっ、ええ? それはもう大丈夫ですけど、貴方は?」
「あっ、すみません。僕は、東山大学排球部のマネージャーをしています」
いきなりの事にテンパるアリサに、青年はそう言う。そして、「お隣よろしいですか?」と許可を取り、アリサの隣に腰を下ろす。
「彼ら。高校生ですよね?」
「はい。束くん、あっ、あの13番の子は高校2年生です。後の2人の事はよく分からないですけど多分高校生だと思いますよ」
「そうですか。高校生とは思えないくらい、あの3人は上手いですね。個人技ならおそらくウチより上かと」
青年はそう言うと、「でも」と付け足す。
「恐らく、彼らはウチに勝てませんね」
「えっ?」
アリサの驚きの声に、「見てください」とコートを指さす。
そこには、東山大学の選手が打ったスパイクを拾った佐久早がいた。
「ナイス、佐久早」
「古森カバー」
「オーケー」
佐久早が上げたボールに、古森がセットアップに入り、トスを上げる。
しかし、次の瞬間聞こえたのは、スパイクを打った音ではなく、「ドスッ」と言う鈍い音だった。
「いったぁ。ねぇ、何で急にバックアタックしてくるのかなぁ?」
「……今のは俺のボールだろ……」
「いや、僕のでしょ」
「おいおい、またかよ。一旦落ち着こうぜー」
鈍い音の招待は、ボールに向かって跳んだ束と佐久早が衝突した音であった。
「ほら、あれですよ」
その光景を見て、東山大学のマネージャーである青年はそう呟く。
「確かに、彼らは個人の力は相当強いです。それで今までは勝てていましたが、今回の相手は今までとはレベルが違う。
どんなに、個人が上手かろうが、バレーは繋ぐスポーツです。特に10番と13番。彼らにはチームワークが圧倒的に足りない。勝つのは厳しいでしょうね」
青年の言う通り、この様な事は今回だけではない。時には、古森が上げたレーブをどちらも、セットアップに入らずスパイクモーションに入るなど、数え出したらキリがない。
ここまでのトーナメントは個の力で勝っていたが、今回の束達の相手は、大学バレーでは有名なチーム。古森が何とかカバーしているものの、そんな相手に個の力だけで勝てる程バレーはあまくない。
しかし、アリサはその言葉に「大丈夫ですよ」と答える。
「束くんは、約束してくれましたから。もう絶対負けないって」
しかし、アリサの言葉とは裏腹に、気づけば、点数は、20ー8。
束達のプレーは何も改善される事なく、試合は終盤を迎えていた。
「佐久早、潮崎。このままじゃ、負けるぞ。合宿での試合と、この試合は別か? ただのイベントだから別に負けても良いのか? 違うだろ?」
この状況を見かねた古森は、束と佐久早にそう問いかける。
高校No.1リベロと名高い、古森元也はユース合宿にリベロとして呼ばれる、まとめ上手で大人気のある人物だ。
その言葉に、頭を冷やしたのか、束は少し溜め息をつく。
(たしかに。負ける訳にはいかないよね。中学の頃、アリサと約束したし)
「ごめん、古森。少しアツくなりすぎた」
「いいって、いいって。けど、この試合絶対勝とうぜ」
「うん」
佐久早は何も言わないが、2人は何も気にしない。2人は知っているのだ。佐久早聖臣と言う男が超がつくほど負けず嫌いと言う事を。
「ナイスレーブ」
相手のサーブを古森が綺麗に上げる。そこからは一瞬の出来事だった。
ボールの下に移動した束は、レフトに速いトスを上げる。
「速攻!?」
東山大学の選手が、驚いた時には、佐久早は既に空中でスパイクモーションに入っていた。
しかし、束のトスは、佐久早の最高到達地点の少し下を通りすぎる。
((!!))
「チッ……」
2人に走る違和感。だが、何とか佐久早が左手でカバーし、ボールは相手コートに落ちる。
「ドンマイドンマイ! まぐれだまぐれ。切り替えてこー」
(……)
東山の選手の煽りなど、気にも止めることなく、束は古森の元へ向かう。
「古森、次もちょうだい」
「あいよー」
古森は束の要求どうり、次のサーブもきっちり束にAパスする。
そして、先程と同じ様に、一瞬で佐久早にトスを上げる。
「また速攻!」
「気にすんな! どうせ決まんねぇ! 落ち着いて対処しろ!」
(……うるさいな)
(ユース候補なめんな)
佐久早が振り抜いた右腕は今度はしっかりとボールを捉え、相手コートに叩きつけた。
ただ、先程と違うのは、束のトスが少し高かったと言う事。
深視力と言うものがある。目標までの距離を目測で性格に図る力。潮崎束と言う男は、その深視力と空間認識能力がずば抜けていた。
束がセッターをやらない理由。それは、烏野には影山と言う優れたセッターが居ること。そして何より、彼の1番の武器が判断力の高さとその柔軟な身体を生かした空中戦だから。
彼はセッターが出来ないのではない。やらないのだ。
「ったく。前より高く跳べるなら言って欲しいんだけど?」
「……1年経ってるんだ、当たり前だろ。まず、お前なら言わなくても出来るだろ……」
そう言った2人の手は「パシンッ」と言う音と共に、お互いの手を叩き合った。
そこからの展開は、あっという間であった。束達は1点も取らせることなく、17点を取りきった。
潮崎束と佐久早聖臣は犬猿の仲である。
バレーの事になると、己を曲げないし、すぐ張り合おうとする。
しかし、彼らはお互いがお互いの事を認めあっている。
去年のユース合宿で見つけたのだ、同じ学年で、自分と対等に張り合える、自分を奮い立たせてくれる存在を。
潮崎束と佐久早聖臣は犬猿の仲である。しかし同時にライバルでもある。
結構無理やり終わらせた感が凄いですが、次回からはまた原作ストーリーに戻ります。
2次予選までで特に書くことも無さそうなので、次から2次予選開始かなと考えてます。
何か意見等がありましたら遠慮なく言ってください。