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日向翔陽は知っている。トイレは危険人物と遭遇する場所だと。
1番最初にそれを体験したのは、中学の頃。彼にとって中学生活最初で最後の公式戦で影山飛雄に遭遇した。そして、高校に上がり、夏の合宿で灰羽リエーフに、春高1次予選では十和田良樹との遭遇。
故に日向は慎重に、仙台大会のトイレの前で身構える。
「何してんの?」
しかし、危険はトイレの中だけではなかった。
日向がその声に、恐る恐る振り返ると、そこには、青葉城西高校の主将、及川徹と、エースである岩泉一が立っていた。
「試合になるとこのチビちゃん、本当厄介だから今のうちにどっか埋めちゃう?」
「しっ、失礼しますぅ!」
及川の冗談半分の脅しに、日向ビビりながら走り去るが、そこで「ドン」と1人の男とぶつかる。
その相手を見た瞬間、日向から声にならない様な悲鳴があがる。
その人物は、白鳥沢学園の主将であり、エースであり、ユース日本代表。牛島若利であった。
「日向翔陽……。と、及川、岩泉か」
「何このタイミング……!」
「知るか……!」
インターハイ予選で決勝を戦った両者に険悪な雰囲気が流れる。
「お前達は高校最後の大会か。検討を祈る」
「ほんと腹立つ」
「全国行くんだから最後じゃねぇんだよ」
及川と岩泉の言葉に、牛若は首を傾げ、「全国に行ける代表枠は1つだか?」と呟く。彼は別にふざけてる訳でも、馬鹿にしている訳でもない。悪意も無ければ嫌味でもない素直な言葉。
それ程、牛島若利は自分が負ける事に疑いを持っていない。
いや、この場合は、勝つ事への圧倒的な自信だろうか。
険悪な雰囲気にギャラリーが集まり、視線が日向達に集まる。
「かっ、勝つのは烏野で」
日向も負けじとそう言うが、3人の圧のある視線に再び萎縮してしまう。
アワアワしながら後ろに下がると、再び衝突。見上げると、そこには伊達工業高校、伊達の鉄壁の1人、青根高伸が立っていた。
「誰だろうと、受けて立つ」
そう言い放ち、牛若がこの場を去ろうとすると、トイレのドアが開く。
「あれ、何してんの日向。てか、牛島さんに、及川さんと岩泉さん。それに伊達工の1番まで。
えっ? 何この状況」
このピリついた空気を壊すように、少年、潮崎束はタオルで手を拭きながら、トイレの中から現れた。
「……潮崎」
束の登場で牛若の足が止まる。
日向も束が現れた事によって、少し落ち着いたのか、束に事の成り行きを説明する。
「あぁ、だからこんな険悪な雰囲気なのね……」
あはは、と少し苦笑いをしながら納得したような素振りを見せる束は、「あっ」と呟き、牛若の方を見る。
「そう言えば牛島さん、去年、何で僕が白鳥沢に来なかったのか聞きましたよね」
「ああ。東京ではなく宮城に来たのなら、間違いなくお前は及川同様ウチにくるべき存在だった」
その言葉に、日向と岩泉はピクリと反応する。
「あはは。それは嬉しいお言葉ですね。けど、牛島さんの質問の答えは大して難しい話じゃないですよ。
まず烏野に行ったのは、単純に家から近かったから。次に白鳥沢に行かなかった理由。これはもっと簡単です。
牛島さんは僕と中学の時、試合したの覚えてますか?」
「ああ。だから、俺は去年のユース合宿でお前に声をかけた」
「だからこそですよ。僕が負けず嫌いなの知ってるでしょ? 確かに、将来プロになれば牛島さんと戦えるかもしれないけど絶対じゃない。
けど何の偶然か、僕が引越して来たのは牛島さんがいる宮城県。
なら最短ルート突っ走るしかないでしょ?
牛島さん、僕は貴方を倒したいんですよ」
一瞬、ゾクリとした感覚が駆け巡る。束の言葉が向けられていた牛若だけでく、他の4人にも。
普段の束からは考えられない。彼が時折見せる獣のような目。
だか、その瞳に、臆するだけの牛若ではない。
「そうか。お前がどう考えようとも、その選択が間違えだと思う程に、再び完膚なきまでに叩き潰そう」
牛若はそう言うと、この場を去って行く。
牛島若利は試合に勝つという思いはあっても、チームをましてや個人に勝ちたいと思う事はあまりない。それは自分が勝つと言う圧倒的な自信があるから。
しかし彼は、潮崎束と言う男には、その感情を向けていた。絶対に勝ちたい相手。完膚なきまでに圧倒したい。そんな相手。
潮崎束は中学2年の全国大会で、牛島若利に敗れた。
高さとパワーと言う純粋で最強なバレー。病弱な自分とは真逆の戦い方をする牛若の強さに憧れた。
憧れと言うのは、その人の様になりたい。その人と肩を並べてみたいと思うものだか、遅かれ早かれ、皆、ある真実に気づく。
それは、憧れていた人を超えなくてはいけない日が来ると言う真実。
大抵の人間はどんなに早くてもその思考に至るまでにある程度の時間がかかる。
しかし、潮崎束という男は、その思考に辿り着くまでの速度が尋常ではなく早かった。
彼は、牛若に憧れたと同時に牛若に勝ちたいと思ったのだ。
「あーあっ。潮崎に言いたい事全部言われちゃった」
「すいません、及川さん」
「いーよっ。てか、おたくら、白鳥沢倒す前に、順当に行けばウチと先に当たると思うんだけど?」
「そうですね。けど、負けませんよ。今の烏野は強いですから」
「あっそう。だからと言って、烏野にも伊達工にも白鳥沢にも、何処にも負ける気なんてさらさら無いから。行こう岩ちゃん」
及川の言葉に岩泉は「ああ」と答えるが、束ねの前に立つ。
「潮崎。絶対に負けねぇ」
「望むところです」
それだけ言うと、岩泉も及川と共にこの場を去って行った。
「それじゃあ、僕達も戻ろうか」
青根とお辞儀している日向に、束はそう言い足を進めた。
烏野の初戦は条善寺高校。インターハイ予選ベスト4と言う実力高。
試合は主審の笛と、東峰から放たれるサーブによって始まった。
この数ヶ月間磨かれた東峰の強烈なサーブに条善寺のレシーブが乱れるが、何とかカバー。
「照島ラストー!」
「チャンスボール!」
繋がっては居るものの、乱れたボールによってチャンスボールだと思った烏野のだが、その言葉を打ち砕くように、照島はエンドラインから振り向きざまに強打を打ち込む。
急な出来事に烏野は反応出来ず条善寺に先制点が入る形となった。
その得点を火種とし、どんどん出てくるトリックプレーの連発。
ネットにかかったボールを足であげるなどして、得点を積んでいく。
「なんか、こう、体育ですげー運動神経の良い野球部と試合してる感じだな」
「確かに、型にはまって無くて、何してくるか分かんない感じがそうですね」
菅原の呟きに、縁下がそう答える。
しかし、それだけでは無い。条善寺と体育でのサッカー部や野球部との違いは、それをまぐれでは無く、狙ってこなしていると言う所である。
「不確定要素は条善寺にとっては当たり前で、レシーブが上がりさえすればどんな状況でも攻撃に変えられる。そんな感じですね」
「だな」
束の言葉に菅原は静かに頷く。そんな事を話していると、条善寺のサーブミスで烏野に点が入る。
「それじゃあ行ってきますね」
束はそう言うと、西谷とハイタッチをし、コート内へ。
「月島ナイサー」
月島の放ったサーブを東山が上げる。そこから二岐と飯坂の速攻。
「ワンタッチ!」
束が触るものの、そのボールはコートの後方に落ち、条善寺の得点に。
「あちゃー。当然だけど普通の速攻もできるのか。反応遅れちゃったな」
「すまん、潮崎。対応遅れた」
「いえ、僕も取り切れなかったですし、切り替えて行きましょう」
澤村の謝罪に束は笑顔でそう答える。
「……あの突然の速攻の中で13番だけが反応してたな」
「……」
スタンドから試合を見ていた二口の言葉に青根は無言で頷く。
周りから見れば、たかがワンタッチに見えるかもしれないが、ブロックに力を入れている伊達工だからこそ分かる。あの普通とはかけ離れたプレーの連続からの虚を突くかのような普通の速攻。その状況下であのスパイクに反応できるのはヤバいと。
条善寺が点を取った事によって、月島が下がり再び西谷IN。
条善寺のサーブはネットにかかるも烏野のコートへと落ちていく。
「ラッキー」
照島は入ったと思ったが、田中が何とか拾う。
「ナイス田中!」
「カバーカバー!」
乱れたボールを影山が何とか繋ぐ。
「潮崎さん! ラスト頼んます!」
ギリギリの繋ぎに、束は十分な助走が取れぬまま、コートの外から中へと、ネットと隣り合わせになるように跳ぶ。
「クロスクロス!」
無理な体制に、クロスにしか打てないと読み、条善寺のブロックはクロスを閉める。
しかし、束は体の向きそのままに、腕だけを使い、ボールをストレートに打ち込んだ。
体育館が静寂に包まれる。彼がスパイクを打った後はいつもこうだ。その枠に囚われないプレーは観客を魅了する。
烏野の選手を含め、この体育館にいる束以外の全ての人がクロスに打つと思った。いや、クロスにしか打てないと思ったのだ。
しかし、それを嘲笑うかのように打ち込まれたストレート。
「皆動きが硬いですよー。まぁ、確かに相手のプレーは何をしてくるか分からないですよね。
けど…… 不確定要素が当たり前で枠に囚われないプレーは皆が1番近くで見てるじゃないですか」
歓声へと変わるまでの静寂の中、