天才で病弱な男の奮闘記   作:宮川アスカ

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お久しぶりです。忘れた頃のこっこり投稿。


第12話 質実剛健

「ナイスキー!」

 

 ほんっと、しつこいと言うか、やりにくいと言うか……

 囮にはつられてくれるし、点は取りやすいんだけど、どうにも点差が離せない。

 条善寺は全員が全員、サボること知らない感じ。だから中々にしぶといな。

 

「任せろー!」

 

「カバー!」

 

 とかなんとか考えてたら、4番と5番が2人で取りに行って衝突……

 あれ? 何か凄い既視感あるんですけど。

 

 

 烏野 19ー17 条善寺

 

 僕を囮に使った、東峰さんのバックアタックを条善寺のリベロが拾う。

 さて、何処に上げてくるかだが……

 

(んなっ、ツーかよ!)

 

 リベロが上げたボールにセッターがそのまま跳ぶ。

 しかし、それを影山がギリのところで反応してくれる。

 

「ナイス影山! って、……え?」

 

 結果的に言うと、影山のブロックは相手コートに落ちた。影山の鼻血付きでだが……

 どうやら影山のブロックは顔面ブロックだったらしい。

 

「タイム!」

 

 鼻血が出た事により武田先生のタイムの声がかかる。

 

「大丈夫か影山」

 

「死ぬな! 影山!」

 

「勝手に殺すなよ」

 

 落ち着いた対応の大地さんとは真逆な日向に、思わず田中がツッコミを入れる。

 

「まぁ、血止まるまで出れないし、一応見てもらった方が良いかもね」

 

「鼻血なんて出てないです!」

 

「いや、出てるから」

 

 どんだけコート離れたく無いんだよ……

 

 しかし、血が出てるのに試合に出れる筈もなく、清水さんに連れて行かれる。

 

「まっ、ここは先輩に任せときなって」

 

 そう言いながらコートに入るスガさん。

 

「スガさん、良いトスお願いしますね」

 

「任せとけ潮崎! どんどんあげてくからな!」

 

 まぁ、スガさんとの連携に関してはそこまで心配してない。

 実際、トスあげて貰った数なら、影山より多いわけだしね。

 

 

 

「潮崎!」

 

 スガさんからセンターへの山なりの高いトス。

 空中での選択権を持つ僕にとってはベストなトスなのだが……

 

「あれ? 条善寺、ブロック誰もとんでない」

 

 誰が言ったのかは分からないが、その言葉通り、条善寺は僕のスパイクにブロック付かずに、全員がレシーブの体制に入っている。

 

 なるほど。ブロック付いても抜かれるんなら、ブロック無しにして視界をクリアにした状態で全員で取ろうって事か。

 

 けど……

 

 その対策じゃ50点かな

 

 僕のスパイクは相手のレシーブを弾き飛ばし、コートの外に落ちる。

 

「「「しゃあ!!」」」

 

「おいおい。あの13番、強打も打てんのかよ」

 

 条善寺の1番の言葉が聞こえる。

 確かに、普段から僕は強打を打たないし、強打を得意としてはいないが……。はて、僕がいつ強打を打てないと言っただろうか。

 まぁ、牛島さんや東峰さんの様に普通に毎回毎回、強打を打てるわけでは無い。

 ただ、高い打点から、身体を反るようにしならせれば強打は打てる。

 だけどそれは、ブロックが入れば、そんな余裕もないし、ブロックに捕まるリスクの方が大きいから普段はやらないだけ。

 つまり、条善寺は自分達から僕に強打を打つシーンを作ってくれたわけだ。

 

 

 

 

 烏野 21ー19 条善寺

 

「照島ナイスキー!」

 

 1番のノータッチエースにより、条善寺に点が入ったところで、再び1点差。

 この手の相手はあんまり、調子に乗らせたくないんだけど……

 

「おっ、影山戻ってきた」

 

 鼻血も止まり小走りで戻ってくる。

 しかし、アップゾーンに入ったと言う事は、恐らくこのセットは、このままスガさんでいくのだろう。

 

 

 

「チャンスボール!」

 

「オーライ!」

 

 僕が上げたボールにスガさんがセットアップに入る。

 その瞬間、スガさん以外の全員が動き出す。

 スガさんバージョンのシンクロ攻撃。

 一瞬身構えた条善寺はブロックに跳ぶことが出来ず、そのままライトに上げられたボールを大地さんがしとめ、マッチポイント。

 

「潮崎ナイスサー!」

 

 僕のサーブを条善寺のリベロが上げたわけなんだが……

 

(えっ、ウソ……)

 

 条善寺の選手達が一斉に動き出す。

 まさかの条善寺もシンクロ攻撃。

 そして、1番のバックアタック。

 

 は、そのまま彼の頭上を超えていき、トンッと言う音と共に、ボールは条善寺のコートに落ちる。

 なんだろう。またしてもデジャブ。

 

 ピッピー

 

 主審の笛が第1セットの終了を知らせる。

 

 ……恐らく、条善寺にとってあれが初めてのシンクロ攻撃なのだろう。

 てか、それをこんな大事な場面でやるかね普通。

 

 ほんっと、怖いねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────────────

 

 

 第2セット。烏野は束と日向を交代。

 

「あっれ? あの13番変わっちゃったの!? せっかくこれからだったのによぉ」

 

「あっ、あの!」

 

「ん?」

 

 照島の言葉に日向が声をかける。

 

「俺は確かに、潮崎さんや刈り上げさんみたいなとんでもプレーはできません」

 

「刈り上げさんって、変な渾名「でも!」無視!?」

 

「俺は飛べます!!」

 

「! ……まっ、次はウチが遊び勝つ!」

 

「俺達も負けません!」

 

 日向にはまだこの力では束や照島には勝てないだろう。

 でもチームでなら負けない。日向は本気でそう思っているのだ。

 

 

「ピッ!」

 

 

 第2セット開始の笛がなる。

 

 

「東ナイッサー!」

 

「西谷!」

 

「おっしゃい!」

 

 条善寺のサーブを西谷があげる。

 そして、それと同時に日向が走り出す。トスが上がる前に跳ぶ、マイナステンポの速攻。

 第1セットでは無かったマイナステンポでの速攻に、条善寺のブロックの足は完全に止まる。

 

 影山の手からボールが離れる。

 後は、日向が腕を振り抜けば決まるはずだったのだが、影山のトスは日向の打点を超えていく。

 日向は瞬時に、腕を伸ばし、ボールを触ろうとするがその右腕はボールに届かない。

 

 しかしその次の瞬間━━━

 

「ふっ!」

 

 日向の後方か出て来た、澤村が拾い、何とか相手コートに返す。

 

(あっ、大地さんあれ読んでたっぽいな……)

 

 早すぎる澤村の反応に、コートの外から見ていた束は、思わず苦笑いをしてしまう。

 

「大地さんナイス尻拭い!」

 

「その言い方辞めろっての!」

 

 西谷のセリフに澤村がツッコミを入れる。確かに今のはナイスカバーだが、条善寺からしてみればチャンスボール。しっかりと繋ぎ、多少無理な体制ではあるが、助走に入った照島がしっかりとミートさせる。

 が、そのスパイクを読んでいたかの様に、澤村がコースに入りレシーブをあげる。そして、そのボールを日向と影山の速攻により、今度こそ決まる。

 

「すっ、すいません。ナイスカバー」

 

「あざっす」

 

「どんなに落ち着けって言っても、お前ら一発目は絶対やらかすと思ったんだよね」

 

 影山と日向の言葉に、澤村は笑いながらそう答える。

 

 澤村には、ド派手なプレーはない。束や日向や影山の様に、周りより秀でた特別な何かを持っている訳でもない。

 しかし、周りがプレーしやすい環境を、土台を作ることが出来る。まさに質実剛健。チームを支える根強い根っこ。この点においては、束すらも凌駕する。

 それが澤村大地と言う男。先に進めば進む程、敵が強くなればなるに連れて、チームに無くてはならない存在なのだ。


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