いつ、どんな時も勝者は天を見上げ、敗者は地に項垂れる。
それは、とある体育館でも同じだった。
烏野 31-33 青葉城西
セットカウント1-2の末に烏野高校の夏が終わった。
『すまん。潮崎』
「大地さん、謝らないでくださいよ。むしろ僕の方が何の役にも立てなかった」
握りしめたスマートフォンから、くぐもった主将の声が聞こえた。
3年生の大切な試合に僕はただ病室で結果を聞くことしか出来なかった。
僕は持病持ちで、最悪な事にインターハイ予選を目の前にして、入院を余儀なくされた。
決勝トーナメントの頃にはまたバレーが出来ると伝えたら、大地さん達は、絶対に僕を決勝トーナメントまで連れていくと言っていた。
全くもっておかしな話だ。3年生の先輩達が2年生の僕を連れて行くなんて……
だから余計に悔しかった。何も出来なかった自分が。
大地さんとの電話を切る。不思議な事に涙は込み上げてこなかった。
ただでさえ厄介な病期を持ってる僕は次に向けて準備を整えなくてはならないのだ。
コンコン
ドアを叩く音が聞こえ開かれれた扉から金髪の女性が顔を覗かせていた。
「アリサ。何時もごめんね。わざわざお見舞いに来てくれて」
「別に私がしたくてしてるだけだもの。束くんが謝る事じゃないわよ」
灰羽アリサ。ロシア人とのハーフで灰色に近い金髪を腰辺りまでの伸ばしている彼女は僕のガールフレンドだ。
贔屓目なしに見ても相当な美人で、最近バレーを始めた弟がいるらしい。よく僕にも自慢してくる。
まぁ、彼女自身、バレーに関してルールは把握している位で細かい事はよく分かって無いみたいだから、僕がバレーの話をすると頭の上に疑問符が沢山浮かんでいる様子。けど、そんな彼女が僕の心の支えであり、バレーを続けられる理由だ。
「束くん、そろそろ宮城に戻っちゃうのね。嬉しい様な寂しい様な」
「ハハハ。遠距離恋愛の難しい所だね」
僕は親の転勤で中学卒業と同時に東京から宮城に引っ越した。
今は東京の病院に入院してるけど、退院すればまた烏野高校がある宮城に戻る。
「束くん、カッコよすぎるから心配」
ムーとしているアリサの頭を優しくなでる。
「大丈夫。僕は何処にいてもアリサの事が好きだよ。それにほら、今年の春高は東京開催だろ? その時は近くで応援してよ」
「束くんの所って強い学校いっぱいあるんでしょ?」
顔を真っ赤にしたかと思ったら今度は心配そうに此方の顔を覗き込んでくる。
「僕を誰だとお思いで?」
「ふふ。そうね! 束くんなら絶対大丈夫って信じてるわ!」
あぁ、本当に癒される。
そして僕は無事に退院出来た。
烏野高校の夏は終わった。だけども僕の夏はまだ始まったばかりだ。