まぁ、そんな話は良いとして、今までは束くん視点で書いていましたが、今回は三人称視点です。
その場その場で、書きやすい様に変えていきたいと思います。読みにくかったらごめんなさい。
それでも良いよって方は見ていってください!
今日、何度目か分からないペナルティ。
束自身、試合に出てはいないものの、中々キツイものがある。
「どうよ烏野」
「別に弱くは無いんだけど。普通、って感じ」
「すげぇ1年ってのは? 音駒の買い被りすぎか?」
他校の選手の会話に谷地がソワソワしていると、
「ガコッ」
というと言う音と同時に扉が開き、田中の姉、田中冴子が顔を覗かせる。
「おぉー! まだやってんじゃん! 上出来!」
それを見た西谷が「姉さん!」と目を輝かせる。
「無事で、よかったぜ」
そう呟く田中の視線の先には、赤点遅刻組。日向と影山が立っていた。
日向と影山もアップを終え、今日最後のセットは、烏野高校対森然高校。
「主役は送られて登場ってかー? 腹立つねー」
黒尾が呟いた一言に澤村がニヤリと笑い、バンと束の背中を叩く。
「頼むぞ、本日もう一人の主役!」
「大地さん、痛い! まぁ、久しぶりで緊張してますけど、チームの為に全力をつくしますよ」
「頑張りすぎてぶっ倒れんなよ!」
「酷いっ。うん。多分1セットなら大丈夫」
西谷の言葉に涙目になりながら、13番と書かれたゼッケンを着る。身長は183cm、ヒョロりとした細い体型に、黒髪黒目の爽やかそうな風貌の少年は、そう言いながら背中をさする。
「おし。じゃあ、今回のスタメンな! 基本は何時も道理。潮崎は試しに月島と変わってミドルブロッカーで入ってくれ!」
「分かりました」
「おい、影山、日向! まずは挨拶がわりに1発かましてやれ!」
「「うっす!」」
ポジションにつく中、澤村の言葉に2人は嬉嬉として頷く。
今日最後のセットを終え、今回休憩の木兎が呟く。
「お前らー、今回の烏野の試合、よーく見とけ!」
「あの遅れてきた2人ですか?」
「それもあるが違う」
梟谷のセッター、赤葦の言葉に木兎は首をふる。
「潮崎、あのゼッケン13番のプレーだ」
ピィー!
木兎の二カッとして呟くのと同時に笛がなり、今日最後のゲームが開始される。
森然が放ったサーブを西谷が綺麗に上げる
「ナイスレシーブ!」
レシーブが上がったのと同時に走り出す日向に、影山のピンポイントのトス。
日向が振り抜いたスパイクはブロック、レシーブが反応出来ずに、ボールが地面に叩きつけられた音だけが響く。
「「「しゃあ!」」」
烏野のメンバーが喜ぶ中、音駒、烏野以外のこの体育館にいる全員が驚愕する。
烏野とは言ったが、勿論ベンチでそれを見ていた束も驚愕で目を見開いていた。
「どうだ潮崎! 凄いべ!?」
「はい……。あれは初見じゃ取れないですね……」
菅原の言葉に束は頷く。
速攻。と言うにはあまりにも速すぎる攻撃。変人速攻と呼ばれているのも頷ける。
(こんな凄い1年が入ってきたのか。月島と言い、あの2人と言い。確かに青葉城西にフルセット戦えるだけの実力はあるな。
ふぅ。これは僕もうかうかしてられないかな)
ピィ!
「ナイス日向ー!」
日向のスパイクが決まり、ローテーションする。日向が後ろに周り、西谷が前衛に行くローテ。
つまり……
「やっと僕の出番か!」
「頼むぜ! 束!」
「おう」
西谷とハイタッチを交わし、束がコートに入る。
(やっと、やっとだ。久しぶりの試合。やばい、ワクワクがとまらない)
「あれ、今回は11番じゃないんですね」
「あの13番、いるなあぁとは思ってたけど、出てきたの、今日はじめてじゃねーか?」
「何はともあれ、ここ1本集中して取り返すぞ!」
「「「おぉ!」」」
森然高校の主将、小鹿野がチームを引き締める中、烏野の面々も束の元へ集まる。
「おっしゃあー! 頼むぜ潮崎!」
「潮崎、無理しない程度にな」
「相手の度肝抜いてやれ」
(うーん! やっぱいいなぁ。泣けてくる)
田中、東峰、澤村の言葉に涙を流す束。
「おっ、おい、何泣いてんだ」
「いや、久しぶりすぎて。チームの温もりにジーンときました」
そう言うと、目元を抑えていた腕を外し、日向と影山の方を向く。
「2人ともよろしく! いやぁ、2人の速攻には正直ビビったよ。僕も今日初試合だからお互い頑張ろうね」
どこか、緩い感じの束に、日向と影山も気持ちが何だか緩くなる。
「とりあえず、日向はナイスサー。影山は良いトス頼むよ」
「「ウッス!」」
ピィ!
笛が鳴った瞬間、先程までの雰囲気が嘘かのように、コート全体にゾワリという感覚が響き渡る。
その感覚に、烏野、森然、両チームの集中力が一瞬にして引き締められる。
その感覚の発端である少年は、静かに、しかしその瞳は、獣が獲物を駆らんばかりに集中していた。
「日向ナイッサー!」
しかし、その掛け声も虚しく、日向のサーブはネットに当たり、自陣に落ちる。
「すいません!」
「どんまいどんまい! 気にすんなー!」
束は明るい雰囲気で日向にそう言う。
(なんだったんだ、さっきのプレッシャーは。今は全く感じない。気のせいか?)
小鹿野がそう考えている間に、日向がサーブミスした事によって、日向が外に出、西谷が中へ。
森然のサーブを西谷が上げる。少し乱れるも、影山がしっかりとカバーにはいる。
(取り敢えず、1本……)
「潮崎さん、頼んます!」
最初の澤村の助言通り、ふんわりとした打ちやすいボールがセンターへと上がる。
しかし、森然もしっかり対応し、3人がブロックに入る。
(おーおー。完全に殺す気で来てるねー)
完璧なるkillブロック。吹っ飛ばされない様、指先まで力が入った手に、これでもかと、前に出された腕。
誰もが、止められると思った、ブロック。
束が放ったスパイクは、ブロックの手首辺りに辺り、ネットとブロックの間を通り落ちていく。言わいる『吸い込み』
「だー!! すいません。腕前出しすぎた!」
「どんまいどんまい。今のはしゃーない。どんどん狙ってこー!」
「ラッキーですね。完璧な壁でしたし、もし、捕まって落とされてたら、投入された直後ですし、かなりメンタルにきますね」
試合を見ていた、赤葦はそう呟く。
「分かってねーなぁ、赤葦! 確かに、傍から見たらラッキーだよな!
けどな、あいつ、今の狙って打ってるぞ」
「「「は!?」」」
木兎の言葉に梟谷のメンバーは「まぁた、訳の分からない事を言い始めた」と思う。
「いや、何その目!? 本当なんだって」
「いや、普通信じられます? 吸い込みを狙って打つなんて。
例え、狙って打ったとして、普通あんなに上手く決まりませんよ」
「だけど、潮崎はそれが出来るんだよなぁ! ボールを直前まで見て、打つギリギリまで思考する。
そして、打つ時にプランを変更出来るほどの尋常じゃない程の柔軟性をもってるんだ」
それに関しては赤葦自身、何となく分かるものがある。
赤葦も、トスの選択、特に木兎に上げる際は短い時間で最善のパターンを考える。
(だけど、それとこれじゃ、難易度やパターンの数も考えても別物じゃ……)
「まぁ、そう言われても中々信じられないよな! 俺も最初は信じられなかったし!」
「まぁ、それが事実だとして、何で木兎さんはそんな事知ってるんですか?」
「え? 去年の全日本ユース強化合宿で一緒だったんだよ。あれ? 俺、スゲー奴が居たって言わなかったっけ?」
「は!? 全日本ユース!?」
「たっ、確かに言ってたけど、名前は言ってなかったし、基本、お前なんでも凄いって言うじゃん!」
梟谷のメンバーが驚くのも無理はない。全日本ユース強化合宿と言えば、去年、牛島若利や佐久早聖臣なんかも呼ばれた、未来の日本代表候補を選ぶための合宿であり、日本の15・16歳の有望株たちが集められた合宿だ。
「あれ? そうだっけ?
まぁ、潮崎は持病持ちだし、フルセット丸々戦えないけどなぁ。
それに今回は、入院してたから、代表入りはしなかったみたいだしな!」
そんなカミングアウトにチームメンバーの頭がついて行かない。
そんな中、赤葦は1つの事に気づく。
(まてよ。フルセット丸々戦えない? 裏を返せばフルセット丸々戦えないにも関わらず、日本代表はあの13番を欲しがっているのか!?)
そう。束にはフルセット戦えないと言う大きな欠点をもっている。
そんな選手に、選抜メンバーの貴重な1枠を使えるか? 否である。
しかし、それでも選ばれると言うのは、それをカバーする程の実力、1セットだけで試合の流れを変える事が出来ると言う事だ。
それが、潮崎束と言う選手なのである。
「また、とんでもない選手がこの合宿に参加しましたね」
赤葦は束を見て、冷や汗を流しながらそう呟いた。
「何か、先輩達が潮崎先輩の事凄いって言ってたから、どんな派手なプレーするのかと思ってたけど……」
「案外地味、か?」
山口がポツリと呟いたセリフに、菅原が反応する。
「えっ、あっ、いや、そんな事は……」
「まぁ、言いたい事は分かる。実際、日向達の変人速攻の方が目立ってるしなー。
けど、潮崎も結構、凄いプレーするよ。最初の吸い込みも狙って打ってるし」
「えっ!? あれ狙って打ったんですか!?」
菅原のセリフに山口と月島は驚く。
「それに、潮崎と変わった、月島は何となく気づいてるべ?」
「……はい」
正直、今の束のプレーは菅原が言った通り、変人速攻に隠れて、余り目立っていない。
実際、しっかりと観察しないと分からないが、コート内に立っている選手達は、束のプレーをジワジワと実感している。
「ワンタッチ!」
(くっそ、めっちゃやりずれー!)
森然の選手たちのスパイクが中々決まらない。
「マネージャー。今ので潮崎が触ったの何本目だ?」
外から見ていた烏養も異変に気付いた様で、清水に問いかける。
現在のスコアは、15-22
確かに、日向、影山の変人速攻を軸に点は取れている。しかし、森然も実力校。にも関わらず、差が開きすぎているのだ。
その理由は束にある。
前衛では甘いスパイクにはしっかりドシャットを決めるし、多くのスパイクにソフトブロックでワンタッチをしてみせる。
後衛でも、よくその細腕で腕がもげないなと言うほどに拾う。とにかく、徹底的に相手に気持ちの良いスパイクを打たせない。
実際、清水が取っているデータからもそれが伺える。
このプレーがこの点差を作り出しているのだ。
「こりゃ、期待以上だな」
烏養は、嬉嬉としてそう呟く。
ピッ、ピッピー!
18-25
烏野は9セット目にして、初のペナルティ無しを勝ち取った。
「随分、あの2人に翻弄されてたな」
生川高校の主将、強羅がペナルティを終えた小鹿野に話しかける。
「うるせぇ! 実際、目の前で見たら、何起きてるか分かんねーから!
……それに、1番やべーのは13番だわ」
「13番? 確かに、そつなく何でもこなしていたが……」
「確かに、試合しながら、横目に見てる分にはそうかもな!
けど、あいつの前じゃ、ブロックが機能しないし、何よりあいつのスパイク、めっちゃ取りにくいんだよ」
「このタラコが!」と小鹿野は強羅に言い放つ。
「いやぁ、今年は面白くなりそうだなぁ!」
2人の話を聞きながら、木兎は楽しそうにそう呟いた。
2件の感想と3件の評価ありがとうございます!