それにしても、何か急に伸び始めてビビりましたね。
今回は、原作からあんま変えられなかったので繋ぎの話です。
なので気楽に読んでもらえるとありがたいです。
「日向。昨日、烏養監督のとこ行ったんだって?」
「はい!」
遠征から帰って来てからの初練習。
烏養コーチが昨日、烏養監督の所に日向を連れてったのを聞いた。
「退院したばっかなのに暴れやがって」と烏養コーチは愚痴っていたが、自分もそうだったから笑えない。
「で? なんて言われた?」
「テンポの話と、影山以外の誰とでも合わせられる様にしろって。あとは、常にボールに触っておくよう言われました!」
「うん。流石烏養監督。説明されただろうけど、ボールに触るのは本当に大事だよ。僕だっていつも触ってる」
バレーはボールを持てない球技。ボールに触れるのは、ほんの僅か。故にボールに慣れることは必要不可欠。
僕みたいに、その僅か数秒を操る事を武器にする選手にとっては特に。
「まぁ、言っちゃなんだけど、日向は経験も技術もまだまだ。僕も教えるとは言ったけど、僕が教えられるのは、今の日向の次の段階だ。
だから、今は烏養監督の所でみっちりしごかれてきな。僕もトスあげるの手伝うからさ」
「えっ? 潮崎さん、トス上げれるんですか!?」
「まぁ、影山やスガさん程じゃないけどね」
「後は、良く考えてプレーする事! 本能と直感は違うからね」
「はい!」
まぁ、当面は烏養監督に任せれば大丈夫かな。僕も僕でやらなきゃいけない事が山積みだし。
「これって、ブラジルの攻撃の動画?」
「うぉ、いっせいに動き出した」
「確か、森然の攻撃がこんなだったよな」
「シンクロ攻撃ですね」
各々がやりたい練習が多すぎて、第2体育館だけでは収まりきらないため、第1体育館を女子バレー部の練習終わりに貸してもらい、烏養コーチが持ってきたタブレットでシンクロ攻撃の動画をスガさん、田中、大地さんと一緒に見る。
今の僕に必要なのはコンビネーション。シンクロ攻撃は絶対に僕一人ではどうにもならない。チーム全体が噛み合わなければいけない攻撃だ。
後は、少しでも戦える時間を延ばす為にも、圧倒的に体力作りが必要かな。
ふと、ネットを挟み反対側のコートを見ると、影山がトスの練習をしている。
何をしようとしているのかはイマイチ分からない。けど、何かをやろうとしているのは事実。日向だけじゃない。影山も含め、チーム全体が変わろうとしている。
「うーん! いい傾向だねー。まっ、1人を除いて、だけど……」
「ん? どうした潮崎、練習すんぞ」
おっと、つい声に出してしまっていたらしい。
「すいません、今行きます!」
僕はそう言い、練習に頭を切り替えた。
「なぁ、なぁ、スカイツリーどこ!?
あっ! あれってもしかして東京タワー!?」
日向が鉄塔を指さし、音駒のセッターに尋ねている。
うーん。凄いデジャブ。
あと日向、ここ埼玉だからね。
今回の合宿は前の2日間と違い、森然高校でやるらしい。
その名の通り、自然豊かな場所にあり、涼しい環境でプレー出来る。
「今回は、どんどんメンバー変えてくから、そのつもりでな!」
「「「はい!」」」
初日の1セット目は今回も梟谷。
「あの変な速攻来るぞー!」
木兎さんの読み通り、日向、影山は速攻を仕掛けたんだが……
影山のトスは日向の元へ届く事なく、手前で落ちる。
「ドンマイ影山!」
「うっ、すんません」
おっとー? 影山がミスるなんて珍しいけど、なんだあのトス。急激に落下する様なトスだったけど。
次の速攻はトスが長すぎるが、今度は日向が咄嗟に左手を伸ばし反応する。
うん。ボール毎日触ってる成果だね。烏養監督の所での練習がきっちり生きてる。
その後も東峰さんのジャンプサーブに、西谷のバックゾーンから踏み切ってのトス。
「あっ!」
練習を始めたシンクロ攻撃も、スガさんのトスは悲しい事に、僕の頭上を越えていった。
「スガさん、すいません! 入るタイミング早かった」
「すまん! 俺のトスも高かった!」
新しい事は、まったく持って上手くいかず、結果は16ー25。
「おうおう。どうした潮崎! 烏野の調子悪いのかー?」
「いやぁ、どうですかね? ウチ、成長期なもので」
木兎さんの問いかけにそう答えると、頭に疑問符を浮かべ、ポカンとした顔をしている。
はたから見たら、確かに調子が悪く見えるだろう。
けど違う。僕達は今、新たな事を取り入れ、超速で進化していっている最中なのだ。
「今回のペナルティは、森然限定、【さわやか! 裏山森緑坂道ダッシュ!】だ、そうだ」
体育館を出ると、そこには聳え立つ巨大な緑の坂。
マジですか。これダッシュすんの?
「それじゃあ、GO!」
まぁ、ウダウダ言っても仕方ない! 負けは負け!
大地さんの合図と共に、いっせいに走り出す。
「草、気持ちい」
「大地さーん! 潮崎死んでます!」
今日の全日程を終え、本日最後のペナルティ。坂を走り終え、地面に突っ伏す。いやぁ、見事に全敗。
いくら涼しいとは言え、季節は夏。ジリジリとした太陽が余計に体力を奪っていく。無理。死ぬ。動けない。
「大丈夫か、束」
「生き返れー」
西谷と田中が僕の元へ来て、田中がスクイズボトルでピューと頭に水をかけてくれる。
中々に気持ちい。
「ちょっと、烏養さんにタブレット借りて、シンクロ攻撃の練習すんべ」
「そうですね」
大地さんの言葉に反応し、僕は起き上がる。
「うおっ! 復活はやいな!」
いきなり起き上がった僕に水をかけていた田中はビクッとする。
まぁ、キツイけど勝つためには練習あるのみだ。
東峰さんは、サーブ練習へ。僕と大地さん、スガさん、田中はシンクロ攻撃の練習をしに体育館へ向かう。
その途中、練習をあがる月島の姿が見えた。
「大地さん、月島の事どう思います?」
「ん? どうって?」
「いや、月島の事で気になる事があって。
確かに、月島は冷静沈着でクレバーなプレーが売りな選手なのは分かっているんですけどね。
どうにも、合格点は取りつつも、完璧を目指してないように感じるんですよね……」
「まぁ、確かにな。
けどな、俺は、最初の3対3をやった時からそこまで心配してないよ。だから信じて待とう。それが俺たち先輩の役目だろ?」
3対3が、何なのかはよくわかんないけど、大地さんがそう言うならそうなのだろう。
合宿2日目。我ながら驚く程に華麗なる全敗。
チーム自体、やる気に満ち溢れているが、それが逆にチーム内での衝突を起こそうとしていたが、今日最後のゲームで東峰さんが1本のスパイクでチームを引き締めていた。
いつもメンタルの弱い東峰さんだけど、ここは、流石エースと言う一言につきる。
「ヘイ、メガネくん。今日もスパイク練習付き合わない?」
「遠慮しときます」
木兎さんが、月島を自主練に誘っているが月島は一言いれ、その場を去っていった。
うん。分かるよ。木兎さんのスパイク練って、際限ないもんね。まぁ、月島の場合はそういう理由じゃないだろうけど。
「えー。じゃあ、くろおー、しおざきー」
「「えー」」
「まだ、何も言ってねぇだろ!」
月島が断った事により、その飛び火が僕と黒尾さんの元へと飛んできた。
「木兎さんのが終わったら、潮崎にもトスあげるから、頼まれてくれないか?」
すると、赤葦が僕に近寄り、そう頼んでくる。
うーん。まぁ、そういう条件なら参加してもいいかな。
「もう1本!」
「もう1本!」
赤葦が上げ木兎さんが打つ。これを永遠に繰り返す。際限がない理由が分かったでしょ?
まぁ、やるからには、ガチでやる。
クロスをきっちりと閉める。
ストレートを打ちたくなるような、甘い甘い誘惑。
そうして、罠に引っかかり、ストレートに打ってきた所を、確実に仕留める。
「だぁああ!」
「さっすが、潮崎。やるねー」
リエーフくんのレシーブ練をしている、黒尾さんがそう言い、口笛をふく。
そんな事をしていると、扉の前に1人の少年が現れる。
「おや?」
「おやおや?」
「おやおやおや?」
「おやおやおやおや?」
僕としては、その少年、月島がここに来た事に驚いた。
その目には何かもやが晴れた様な表情。覚悟が見受けられる。
ふむ。この短時間で何かあったのかな?
「あの、質問良いですか?」
「「「いいよー」」」
「! ……すみません。ありがとうございます。
お二人のチームは、そこそこの強豪ですし、潮崎さんも上手いと思います。
けど、全国優勝するのは難しいですよね。
……これは僕の単純な疑問何ですけど、何でたかが部活にそんなに頑張れるんですか?」
「メガネ君さぁ、「月島です」……月島くんさぁ、バレー楽しい?」
「いえ。特には」
「それはさぁ、下手くそだからじゃない?」
うおっ、凄いストレートに言うな。正直こんな事言われたらグサッと来るぞ。
「俺は3年で、全国にも行ってるし、お前より断然上手い!
けどな、バレーを楽しいと感じ始めたのは最近だ。
今まで得意だった、クロスを止められまくって、悔しくてストレートを練習した。
そんで、次の試合で、同じブロック相手に全く触らせずに打ち抜いた。
その一本で「俺の時代キタ!」くらいの気分だったね!!」
木兎さんは、そう言い、高らかに笑ってみせる。
しかし、次の瞬間、目から鋭い光を放ち、プレッシャーが溢れ出す。
「その瞬間が有るか、無いかだ。
将来がどうだとか次の試合で勝てるかどうかとか、一先ずどうでもいい。
目の前の奴ブッ潰すことと、自分の力が120%発揮された時の快感が全て。
もしもその瞬間がきたら……」
そう言い、月島を指さす。
「それがお前がバレーにハマる瞬間だ!」
正直、ゾクリとした。これが五本の指。通りで強いわけだわ。
「まぁ、その自慢のストレート、今さっき僕に捕まってましたけどね」
「おい、潮崎! 俺がせっかくカッコイイ事言ったのに、それじゃあかっこよさが薄れちまうじゃねーか!」
だが、自分でカッコイイとか言っちゃう辺り、木兎さんらしい。
「はい! 質問おしまーい! 質問答えたからブロック飛んでねー」
「えっ、ちょ……」
こうして、また1人、犠牲者が増えた。
「月島、次は僕も打つからよろしくね」
「……お手柔らかにお願いします」
ニコリと笑い、僕がそう言うと、月島はペコリとお辞儀した。
(……良い目してるじゃん)
どうやら大地さんの考えに間違いは無かったらしい。
束くんの持病持ちが、良いと言ってくれる人が結構いて嬉しいです。
この様な設定にした理由としては、まず第1にかっこいいから(ここ重要)。
次に、上手い主人公を書きたかったけど、最強すぎると、チームバランスやゲームバランスが崩れてしまうと思ったからです。
更に、ストーリーの進めやすさ的にも、烏野に入れたかったのですが、烏野のは、一人一人にスポットの当たった物語がある為、あまりスタメン等のメンバーを変えたく無かった。
なので、フルセット丸々戦えない様にしてバランスを保つことにしました。
この辺りが大きな理由ですね。