天才で病弱な男の奮闘記   作:宮川アスカ

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遅くなってごめんなさい。色々、忙しかったんです。
それにしても、何か急に伸び始めてビビりましたね。
今回は、原作からあんま変えられなかったので繋ぎの話です。
なので気楽に読んでもらえるとありがたいです。


第5話 プライドが原動力

「日向。昨日、烏養監督のとこ行ったんだって?」

 

「はい!」

 

 遠征から帰って来てからの初練習。

 烏養コーチが昨日、烏養監督の所に日向を連れてったのを聞いた。

「退院したばっかなのに暴れやがって」と烏養コーチは愚痴っていたが、自分もそうだったから笑えない。

 

「で? なんて言われた?」

 

「テンポの話と、影山以外の誰とでも合わせられる様にしろって。あとは、常にボールに触っておくよう言われました!」

 

「うん。流石烏養監督。説明されただろうけど、ボールに触るのは本当に大事だよ。僕だっていつも触ってる」

 

 バレーはボールを持てない球技。ボールに触れるのは、ほんの僅か。故にボールに慣れることは必要不可欠。

 僕みたいに、その僅か数秒を操る事を武器にする選手にとっては特に。

 

「まぁ、言っちゃなんだけど、日向は経験も技術もまだまだ。僕も教えるとは言ったけど、僕が教えられるのは、今の日向の次の段階だ。

 だから、今は烏養監督の所でみっちりしごかれてきな。僕もトスあげるの手伝うからさ」

 

「えっ? 潮崎さん、トス上げれるんですか!?」

 

「まぁ、影山やスガさん程じゃないけどね」

 

「後は、良く考えてプレーする事! 本能と直感は違うからね」

 

「はい!」

 

 まぁ、当面は烏養監督に任せれば大丈夫かな。僕も僕でやらなきゃいけない事が山積みだし。

 

 

 

「これって、ブラジルの攻撃の動画?」

 

「うぉ、いっせいに動き出した」

 

「確か、森然の攻撃がこんなだったよな」

 

「シンクロ攻撃ですね」

 

 各々がやりたい練習が多すぎて、第2体育館だけでは収まりきらないため、第1体育館を女子バレー部の練習終わりに貸してもらい、烏養コーチが持ってきたタブレットでシンクロ攻撃の動画をスガさん、田中、大地さんと一緒に見る。

 今の僕に必要なのはコンビネーション。シンクロ攻撃は絶対に僕一人ではどうにもならない。チーム全体が噛み合わなければいけない攻撃だ。

 後は、少しでも戦える時間を延ばす為にも、圧倒的に体力作りが必要かな。

 

 ふと、ネットを挟み反対側のコートを見ると、影山がトスの練習をしている。

 何をしようとしているのかはイマイチ分からない。けど、何かをやろうとしているのは事実。日向だけじゃない。影山も含め、チーム全体が変わろうとしている。

 

「うーん! いい傾向だねー。まっ、1人を除いて、だけど……」

 

「ん? どうした潮崎、練習すんぞ」

 

 おっと、つい声に出してしまっていたらしい。

 

「すいません、今行きます!」

 

 僕はそう言い、練習に頭を切り替えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、なぁ、スカイツリーどこ!? 

 あっ! あれってもしかして東京タワー!?」

 

 日向が鉄塔を指さし、音駒のセッターに尋ねている。

 うーん。凄いデジャブ。

 あと日向、ここ埼玉だからね。

 

 今回の合宿は前の2日間と違い、森然高校でやるらしい。

 その名の通り、自然豊かな場所にあり、涼しい環境でプレー出来る。

 

 

 

 

 

「今回は、どんどんメンバー変えてくから、そのつもりでな!」

 

「「「はい!」」」

 

 初日の1セット目は今回も梟谷。

 

 

 

「あの変な速攻来るぞー!」

 

 木兎さんの読み通り、日向、影山は速攻を仕掛けたんだが……

 影山のトスは日向の元へ届く事なく、手前で落ちる。

 

「ドンマイ影山!」

 

「うっ、すんません」

 

 おっとー? 影山がミスるなんて珍しいけど、なんだあのトス。急激に落下する様なトスだったけど。

 次の速攻はトスが長すぎるが、今度は日向が咄嗟に左手を伸ばし反応する。

 うん。ボール毎日触ってる成果だね。烏養監督の所での練習がきっちり生きてる。

 

 その後も東峰さんのジャンプサーブに、西谷のバックゾーンから踏み切ってのトス。

 

 

「あっ!」

 

 練習を始めたシンクロ攻撃も、スガさんのトスは悲しい事に、僕の頭上を越えていった。

 

「スガさん、すいません! 入るタイミング早かった」

 

「すまん! 俺のトスも高かった!」

 

 新しい事は、まったく持って上手くいかず、結果は16ー25。

 

「おうおう。どうした潮崎! 烏野の調子悪いのかー?」

 

「いやぁ、どうですかね? ウチ、成長期なもので」

 

 木兎さんの問いかけにそう答えると、頭に疑問符を浮かべ、ポカンとした顔をしている。

 はたから見たら、確かに調子が悪く見えるだろう。

 けど違う。僕達は今、新たな事を取り入れ、超速で進化していっている最中なのだ。

 

 

 

「今回のペナルティは、森然限定、【さわやか! 裏山森緑坂道ダッシュ!】だ、そうだ」

 

 体育館を出ると、そこには聳え立つ巨大な緑の坂。

 マジですか。これダッシュすんの? 

 

「それじゃあ、GO!」

 

 まぁ、ウダウダ言っても仕方ない! 負けは負け! 

 大地さんの合図と共に、いっせいに走り出す。

 

 

 

 

「草、気持ちい」

 

「大地さーん! 潮崎死んでます!」

 

 今日の全日程を終え、本日最後のペナルティ。坂を走り終え、地面に突っ伏す。いやぁ、見事に全敗。

 いくら涼しいとは言え、季節は夏。ジリジリとした太陽が余計に体力を奪っていく。無理。死ぬ。動けない。

 

「大丈夫か、束」

 

「生き返れー」

 

 西谷と田中が僕の元へ来て、田中がスクイズボトルでピューと頭に水をかけてくれる。

 中々に気持ちい。

 

「ちょっと、烏養さんにタブレット借りて、シンクロ攻撃の練習すんべ」

 

「そうですね」

 

 大地さんの言葉に反応し、僕は起き上がる。

 

「うおっ! 復活はやいな!」

 

 いきなり起き上がった僕に水をかけていた田中はビクッとする。

 まぁ、キツイけど勝つためには練習あるのみだ。

 

 東峰さんは、サーブ練習へ。僕と大地さん、スガさん、田中はシンクロ攻撃の練習をしに体育館へ向かう。

 その途中、練習をあがる月島の姿が見えた。

 

「大地さん、月島の事どう思います?」

 

「ん? どうって?」

 

「いや、月島の事で気になる事があって。

 確かに、月島は冷静沈着でクレバーなプレーが売りな選手なのは分かっているんですけどね。

 どうにも、合格点は取りつつも、完璧を目指してないように感じるんですよね……」

 

「まぁ、確かにな。

 けどな、俺は、最初の3対3をやった時からそこまで心配してないよ。だから信じて待とう。それが俺たち先輩の役目だろ?」

 

 3対3が、何なのかはよくわかんないけど、大地さんがそう言うならそうなのだろう。

 

 

 

 合宿2日目。我ながら驚く程に華麗なる全敗。

 チーム自体、やる気に満ち溢れているが、それが逆にチーム内での衝突を起こそうとしていたが、今日最後のゲームで東峰さんが1本のスパイクでチームを引き締めていた。

 いつもメンタルの弱い東峰さんだけど、ここは、流石エースと言う一言につきる。

 

「ヘイ、メガネくん。今日もスパイク練習付き合わない?」

 

「遠慮しときます」

 

 木兎さんが、月島を自主練に誘っているが月島は一言いれ、その場を去っていった。

 うん。分かるよ。木兎さんのスパイク練って、際限ないもんね。まぁ、月島の場合はそういう理由じゃないだろうけど。

 

「えー。じゃあ、くろおー、しおざきー」

 

「「えー」」

 

「まだ、何も言ってねぇだろ!」

 

 月島が断った事により、その飛び火が僕と黒尾さんの元へと飛んできた。

 

「木兎さんのが終わったら、潮崎にもトスあげるから、頼まれてくれないか?」

 

 すると、赤葦が僕に近寄り、そう頼んでくる。

 うーん。まぁ、そういう条件なら参加してもいいかな。

 

 

 

 

「もう1本!」

 

「もう1本!」

 

 赤葦が上げ木兎さんが打つ。これを永遠に繰り返す。際限がない理由が分かったでしょ? 

 まぁ、やるからには、ガチでやる。

 

 クロスをきっちりと閉める。

 ストレートを打ちたくなるような、甘い甘い誘惑。

 そうして、罠に引っかかり、ストレートに打ってきた所を、確実に仕留める。

 

「だぁああ!」

 

「さっすが、潮崎。やるねー」

 

 リエーフくんのレシーブ練をしている、黒尾さんがそう言い、口笛をふく。

 

 そんな事をしていると、扉の前に1人の少年が現れる。

 

「おや?」

 

「おやおや?」

 

「おやおやおや?」

 

「おやおやおやおや?」

 

 僕としては、その少年、月島がここに来た事に驚いた。

 その目には何かもやが晴れた様な表情。覚悟が見受けられる。

 ふむ。この短時間で何かあったのかな? 

 

「あの、質問良いですか?」

 

「「「いいよー」」」

 

「! ……すみません。ありがとうございます。

 お二人のチームは、そこそこの強豪ですし、潮崎さんも上手いと思います。

 けど、全国優勝するのは難しいですよね。

 ……これは僕の単純な疑問何ですけど、何でたかが部活にそんなに頑張れるんですか?」

 

「メガネ君さぁ、「月島です」……月島くんさぁ、バレー楽しい?」

 

「いえ。特には」

 

「それはさぁ、下手くそだからじゃない?」

 

 うおっ、凄いストレートに言うな。正直こんな事言われたらグサッと来るぞ。

 

「俺は3年で、全国にも行ってるし、お前より断然上手い! 

 けどな、バレーを楽しいと感じ始めたのは最近だ。

 今まで得意だった、クロスを止められまくって、悔しくてストレートを練習した。

 そんで、次の試合で、同じブロック相手に全く触らせずに打ち抜いた。

 その一本で「俺の時代キタ!」くらいの気分だったね!!」

 

 木兎さんは、そう言い、高らかに笑ってみせる。

 しかし、次の瞬間、目から鋭い光を放ち、プレッシャーが溢れ出す。

 

「その瞬間が有るか、無いかだ。

 将来がどうだとか次の試合で勝てるかどうかとか、一先ずどうでもいい。

 目の前の奴ブッ潰すことと、自分の力が120%発揮された時の快感が全て。

 もしもその瞬間がきたら……」

 

 そう言い、月島を指さす。

 

「それがお前がバレーにハマる瞬間だ!」

 

 正直、ゾクリとした。これが五本の指。通りで強いわけだわ。

 

「まぁ、その自慢のストレート、今さっき僕に捕まってましたけどね」

 

「おい、潮崎! 俺がせっかくカッコイイ事言ったのに、それじゃあかっこよさが薄れちまうじゃねーか!」

 

 だが、自分でカッコイイとか言っちゃう辺り、木兎さんらしい。

 

「はい! 質問おしまーい! 質問答えたからブロック飛んでねー」

 

「えっ、ちょ……」

 

 こうして、また1人、犠牲者が増えた。

 

「月島、次は僕も打つからよろしくね」

 

「……お手柔らかにお願いします」

 

 ニコリと笑い、僕がそう言うと、月島はペコリとお辞儀した。

 

(……良い目してるじゃん)

 

 どうやら大地さんの考えに間違いは無かったらしい。

 




束くんの持病持ちが、良いと言ってくれる人が結構いて嬉しいです。
この様な設定にした理由としては、まず第1にかっこいいから(ここ重要)。
次に、上手い主人公を書きたかったけど、最強すぎると、チームバランスやゲームバランスが崩れてしまうと思ったからです。
更に、ストーリーの進めやすさ的にも、烏野に入れたかったのですが、烏野のは、一人一人にスポットの当たった物語がある為、あまりスタメン等のメンバーを変えたく無かった。
なので、フルセット丸々戦えない様にしてバランスを保つことにしました。
この辺りが大きな理由ですね。

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