瓦礫の中から
ここはR03地区の外れ、金と女が腐るほど投げ捨てられる歓楽街。当然人形も打ち捨てられるこの場所はナターシャにとって今すぐ焼却したいゴミ溜めだが、そんな場所でも役に立つ時がある。
「今この辺が動いたような・・・おっと、噂をすれば。」
ゴミと瓦礫の隙間に蠢いていたのはボロボロになった人形、全身に生々しい傷痕が残るその人形はナターシャを見るや否や唐突に暴れだした。
「あ〜やめてやめて私悪い人じゃないから、ほらコレ!グリフィンのエンブレム!君を助けに来たの!」
「たす・・・け、に・・・」
「そ、早くこんな街出よう。もっといい生活が待ってるよ。」
ボロボロの人形を抱えて歩き出すナターシャ。他にも棄てられた人形は山程いるのだろうが、その全てを助ける事などできはしない。彼女はいつだって目の前で零れ落ちる命を助けるのに精一杯なのだ。
「もうちょっとだけ我慢しててね・・・絶対助けてあげるから・・・」
《2時間後、16labにて・・・》
「で、この子を戦術人形に改修してほしいと。」
「そ。報酬は弾むから♪」
ナターシャが相手にしているのは16labきっての天才、ペルシカである。基本的にナターシャはI.O.Pに発注をかけず、拾ってきた人形を改修する形で自分の戦力に加えている。正式な取引ではないため一部の職員からは苦い顔をされるが、それでも改修を依頼されたら断らないのである。ナターシャの本音としては毎回ペルシカに頼みたいところだが、向こうが忙しい故になかなか都合が合わないので片手で数えるぐらいしか会った事はない。今回は偶々会えたから依頼を出したわけだ。
「・・・まあ四方八方から君に協力するように言われてるけど、なんでそんなにこのやり方に拘るの?」
「自分が助けた相手と一緒に仕事ができるって最高じゃない?」
「だと思った。」
聞くだけ無駄だった。どうせナターシャはナターシャで、変わる事はないとわかっただけだ。
「にしても、こんなに傷だらけの人形は中々みないわね・・・前の持ち主が相当ぞんざいな扱い方をしてたのか、それとも・・・」
喉まで出かかった言葉を慌てて引っ込める。目の前にいるナターシャが今にも襲い掛からんとする殺気を放ち始めたのだ。
「お願いだから私のラボで殺気立たないで・・・」
「ごめんごめん、ついカッとなって・・・」
「じゃあ修理と改修始めちゃうから、終わったら連絡するわね。」
「OK♪」
修理と改修が終わるのにはいくらか日にちが経つ。その間ナターシャは基地に戻ってやらなきゃいけない事がある。ペルシカからの連絡を待つのと同じぐらい重要な事である。
「戦力拡充の計画書、グリフィン上層部への申請書、そしてI.O.Pへの修理とメンテナンスの契約書・・・よし、全部揃った!」
「相変わらず早いよね、あたし手伝わなくても。」
重要な事とは即ち、各所へ送る書類である。これが無ければ戦術人形の拡充だって出来ず、最悪の場合は犯罪扱いで緊急逮捕である。武力の私物化は認めらないのだ。
「まあVectorには日頃頑張ってもらってるからね。少しぐらいは、ゆっくりとね。」
各所への書類提出と協議を重ねているうちに日付けはあっという間に過ぎた。そして迎えたお披露目の日、ナターシャはルンルン気分で16labへと足を運んだ。
「あら、やっと来たわね。」
「やっとなんて事ないと思うな。」
ペルシカとのお喋りは後、何よりもまずは改修を終えたはずのあの子が大事だと急かすナターシャ。だが急かされる側のペルシカは何とも言えない表情だった。
「・・・どうしたの、そんな顔して。」
「いや・・・改修は成功したんだけどね・・・とりあえずその姿を見てほしいのよ。」
ペルシカの背後に立つ人形の姿、ところどころ傷跡が目立つがそれ以上に目立つ物が一つ。その手に握られた、あまりにもデカ過ぎる拳銃である。
「えーっと・・・そのご立派なブツは?」
「知ってるでしょ、戦術人形は素体との相性から銃が選ばれるって。」
「あー・・・この子と相性のいい銃はこれしか無かったと。」
「そう、しかもよりによって市場にも出回ってないような「あー、ストップストップ。後ろのあの子が泣きそうになってるから。」
涙目で拳銃を握りしめる彼女・・・Thunderはプルプル震えてナターシャを見つめていた。表情はぶっちゃけ変わっていないがナターシャの眼にかかれば泣きそうは事ぐらいわかる。
「泣かないでー泣かないでー、君は強い子だねー・・・ねえ、この子なんて名前?」
「『Thunder』よ、大事にしてあげてね。」
「OK、じゃあThunderちゃん一緒に帰ろうね〜。バイバ〜イ♪」
ナターシャは風のように去っていった。後に残されたペルシカは1人、コーヒーを飲むのであった。
「ここが君の新しい家だよ、まだ何にもないけど・・・」
「家・・・ですか?」
「そ、ここで皆と楽しく暮らせるんだよ。」
Thunderはずっと不思議そうな目でナターシャを見つめている。恐らく真っ当な生活が保証されるような環境に戸惑っているのだろう。なにせ彼女が棄てられていた場所は掃き溜めに等しい街だし、そもそも「道具」ではなく「部下」という形式での仕事も初めてなんだろう。
「何か困った事があったらいつでも呼んでね、すっ飛んで行くからさ。」
「・・・はい。」
初めて自分を「道具」と認識しない人間との出会い、そして近いうちに出会う事になる「友達」の存在、それらが彼女にどのような変化を齎すのか・・・今はまだ、誰も知らない・・・。
という訳で、Thunder回でした。友達はまた近いうちに・・・