グリフィンの基地は抱える人形の数や戦略的な存在意義によってその規模が決まる。R03地区の基地はあのS09地区あたりと比べれば小さい方だ。それでも必要な物資は決して少なくはなく、いざという時に備えて備蓄もしている以上倉庫は常に圧迫されている。後方幕僚だけでは整理しきれないため、度々指揮官自ら倉庫整理に乗り出すのだ。
「あ〜・・・腰にくる。」
「おぬし、若さはどこに置いてきたのじゃ・・・」
「もう若さなんて持ってる歳じゃないんだよナガン・・・」
現在、R03基地の倉庫ではナターシャ自ら倉庫整理を行なっている。本来ならこのような雑事は誰かに任せてしまえばいいのだが、いかんせんカリーナは他の仕事で手一杯なため、しょうがないからとナターシャがやる事になったのだ。で、たまたまその様を見つけたM1895・・・もといナガンおばあちゃんの助力で整理を進めているのである。
「・・・後はコレだ。この弾薬の塊だ。」
見るからに重そうな弾薬箱を見つけ、その重量を警戒しながら慎重に持ち上げる。何とか持ち上げる事に成功し、後は置き場を移すだけだった。その油断が悲劇を招いた。
ゴリッ!!
「あぎゃッ!?」
明らかにアカン音と同時にナターシャの動きが停止した。持ち上げた箱を元の場所に戻して、その直後力なく倒れ込んだ。
「し、指揮官・・・どうしたのじゃ?」
「こ・・・腰、やった・・・」
「ちょ!?だ、誰かー!指揮官が!指揮官が腰をやったんじゃー!」
不意打ちすぎた魔女の一撃にナターシャは呆気なく撃沈、助けをよぶナガンの声を聞いて駆けつけたVectorに抱えられて医療室まで運ばれてった。
「ぎっくり腰かぁ〜、久しぶりこの感覚・・・痛い。」
「2、3日安静にしてたらその後は良くなるから、大人しくしてて。」
「おぬし詳しいのぅ。」
「前にもナターシャが腰痛めた事あったからね。あの時は大騒ぎだったけど。」
Vectorが言うにはナターシャはここに来る前からグリフィンの指揮官をやっていたらしい。ただその時の話は中々話してくれないため、V ectorの口から語られるのみである。ぎっくり腰の件もその時なんだとか。
「Vector・・・その話はやめようか、古傷が痛む・・・腰も痛む・・・」
「昔から好き勝手やってきた罰よ。」
「うああぁぁぁ・・・・・・」
「天罰じゃったか・・・じゃあ仕方ないのう。」
ナターシャの「人形遊び」の後始末が多大なストレスを与えていたのか、今日のVectorはいつもに増して辛辣だった。人の話したくない過去を勝手に掘り下げるドSと化した彼女は止まらず、古傷という古傷を片っ端から開いて精神的に痛めつける攻撃がナターシャを襲う。
「・・・鉄血と戦った日の夜にはグリフィン本部の治安維持部隊に追っかけられる指揮官なんて他にいる?運良く顔割れなかったからギリギリ助かったけど、顔割れてたらアウトだったからね。他にもここ数年で人類人権団体の過激派が代表他数名の急死でザワついてるし、仕事放り出してどこかの特殊部隊と連絡とってるみたいだし・・・ナターシャの悪行、数えたらキリないよ。」
「サラっと人類人権団体の代表死んどったけど・・・おぬし指揮官が殺したと思っとるんか?」
「他にいないでしょ。」
「よーしこの話はまた今度にしよう、昔話を始めたら色々と積もる話も出てくるしね。Vectorわかった?ナガンもね?」
余程探られたくない過去なのか、無理矢理にでも終わらせにかかったが大した効果は無さそうだ。その証拠に多少ヒソヒソ話をした後、Vectorはイタズラっ子みたいな笑みを浮かべながらベッドに近づいて来るし、ナガンはいつのまにかベッドに乗っかっていた。
「な、なんでしょうか・・・?」
「・・・お仕置き。」ツンッ
「ひゃう!?わ、脇腹を突っつくなぁ!!」
「ほれほれー、ここか?ここが弱いんか?」ツンッ
「ナガンまでぇ!?ひゃぎぃ!?腰痛ァ!?」
2人の指が脇腹を突っつく度に体がビクンと痙攣し、激しい動きのせいで骨が割れそうな程の激痛が腰を襲う。なんとか2人のお仕置きを辞めさせようと試みるも、立つ事もままならない今の体ではただ身を任せる事しかできない。
(あぁん・・・腰無理ィ、死ぬぅ・・・)
「・・・これぐらいで許してあげる。でも、また治安維持部隊に連行されかけたりしたら、お仕置きだからね?」
「ひゃい・・・」
(力関係が透けて見えるのう・・・)
この日、ナガンは一つ学んだ。R03基地の実質的なトップはVectorだという事を・・・
《その夜・・・》
「・・・痛い。」
夜になってから腰の痛みが悪化し、寝つけない程執拗な痛みに襲われて苦しむ羽目になった。半分以上は自分のせいだが・・・隣にいる相棒はナターシャと違ってよく寝ている。
「zzz・・・」
「みんなは良いなぁ、腰痛くてもパッと直せるし。」
普段なら一緒に寝たりはしないのだが、今日ばかりは特別だ。そもそもVectorのせいで腰悪化した節あるし。
「あ〜、また痛くなってきた・・・」
急に感じた体の老化に涙が出そうになる。20代前半あたりの頃は多少無理してもすぐに治ったのだが、今や弾薬の塊を運ぼうとしただけでぎっくり腰に襲われて部下に虐められる。泣きたい。
「ママ・・・元気ですか・・・?ナターシャは今腰痛で死にそうです・・・」
遠い、遠い空、母に届くと信じて呟く。腰痛の痛みと部下に虐められる悲しみを・・・
《翌朝・・・》
「もう動いて大丈夫なの?」
「座ってればなんとかね・・・」
一晩明けてようやく動けるようになったナターシャ、これで通常の業務ができるようになったのだが・・・いかんせんいつ腰の痛みに襲われるかわからない。不用意に動くと・・・
「いだぁ!?痛い!死ぬぅ!!助けてってばぁ!」
「はいはい・・・」
このように、急な激痛で動けなくなるためしばらくはVector同伴で仕事していたそうな。
ナターシャは見た目程若くないです。見た目が若すぎなんです。