遥か遠い昔。
帝國の先祖達は、太陽神の末裔であらせられる万世一系の大君を頂点に戴き、平和な暮らしを営んでいた。
時には人心が乱れ、國内に争いの絶えない時期もあったが、豊かで厳しい大自然の恵みを一身に受け、万物のありとあらゆる事象に宿る神々を畏れ敬い奉り、温厚で秩序ある國家を形成していた。
しかし、そんな平和な時代は唐突に終わりを告げた。
遠く海を隔てた東方の大陸から、貪欲な白い巨人が大挙として押し寄せて来たのだ。
その雲をつくような異形の白い巨人共は、残虐非道の限りを尽くし、瞬く間に帝國の周辺の國々は、巨人の奴隷となってしまった。
危機感を覚えた帝國は、巨人に対抗するため、知識と技術を結集した兵器を作り出した。
それが、軍艦と呼ばれる、海に浮かぶ鐵の城だった。
帝國の先祖達は、作り上げた軍艦を駆使し、巨人共の侵略に立ち向かった。
帝國は一歩も引かず、東亜のいたるところで、巨人との熾烈な戦いが繰り広げられた。
後に大東亜戦争と呼ばれることになる、帝國の存亡をかけた大合戦の幕開けであった。
しかし、圧倒的な力を持つ巨人の前に、帝國は徐々に劣勢に追い込まれ、ついには、屈辱的な敗北を喫してしまった。
巨人の軍門に下った帝國の人々は、それから長く苦しい忍従の日々を送らねばならなくなった。
永遠に続くかと思われた巨人の天下だったが、意外なほど早く終わりを告げた。
自らの傲慢さからか、はたまた生来の残虐な本性の為せる業なのか、突如として巨人共は、壮絶な共食いを始めたのだ。
巨人共の共食いは凄惨を極め、巻き込まれたいくつもの民族や國々を滅ぼし、環境や生態系を破壊し尽くし、人類がそれまで培ってきた文明や技術を大きく後退させた。
巨人の支配下にあった帝國も例外ではなく、国民の多くが共食いに巻き込まれ命を落とした。
しかし、それは同時に、巨人を帝國から駆逐する絶好の機会でもあった。
力の衰えた巨人に対し、帝國は乾坤一擲の反撃を行い、國内の巨人を一掃することに成功したのだ。
自分達の力だけで為しえたものでは無かったものの、帝國はようやく、大東亜戦争における敗北の屈辱を晴らすことが出来たのだ。
帝國内に残された巨人共の爪痕は凄まじく、復興は容易ではなかったが、それでも帝國には、万世一系の皇室が健在であった。
皇命の元に団結した國民の努力により、帝國は着実に復興の道を歩み始めたのだ。
復興計画が軌道に乗り始めたところで、またしても災厄が帝國を襲った。
かつての白い巨人同様、新たな脅威は海からやってきた。
それは、白い巨人すら凌駕する、化け物と呼ぶに相応しい異形だった。
人間を含め、地球上のありとあらゆる生命体を面白半分に繋ぎ合わせ醜悪にしたような、正に異形と称するに相応しい形状だった。
その異形――後に深海棲艦と呼ばれることになる生物とも機械ともつかないモノ共は、海の底から突如現れ、武装など施されていない漁船や貨客船を蹂躙し、人々の血肉を食らった。
長きにわたる戦争によって疲弊の極みに達していた帝國には、軍隊と呼べるほどのものを整備する余裕すらなかったのだ。
陸にこそ上がっては来ないものの、この深海棲艦の出現で、海洋交通が全て遮断されてしまったのだ。
四方を海に囲まれ、六千を超える島嶼から成り立つ帝國にとって、海洋を封鎖されることは死を意味する。
対抗するための有効な手段を持ち合わせていなかった帝國は、このまま緩やかな滅亡を迎えようとしていた。
しかし、天は帝國を見放してはいなかった。救いの主もまた、海から現れたのだ。
それは、かつて、先人達が巨人に対抗するために作り上げたロストテクノロジーの産物――軍艦だった。
まるで、深海棲艦に呼応するように現れた何隻もの軍艦の艦首には、燦然と菊花紋章が輝き、塔のように聳えるマストには、見紛う事なき十六条旭日旗が翻っていた。
ある艦は強大な大砲の一斉射撃で深海棲艦を粉砕し、ある艦は肉薄して魚雷攻撃を敢行し、圧倒的な力で深海棲艦を帝國の近海から駆逐してのけたのだ。
一転して喜びに湧いた人々だったが、すぐに一つの疑問が浮上した。
いったい、何処の誰が、あれを操っているのか、と。
深海棲艦を追い払った軍艦は、それ以上何をするでもなく、沖合に停泊していた。
始めの内は、化け物を追い払った軍艦に万歳三唱で喝采を送った人々だったが、よくよく考えてみれば、あれが敵でないという保証は何処にもないのだ。何の動きも見せずにいるのも非常に不気味だ。
しかし、軍艦を怖がっていては、海に出ることもままならない。
このままでは、深海棲艦の跳梁に怯えていた頃と全く状況は同じだ。
ついに、何人かの勇気ある人々が、小船を使って軍艦へと乗り込んで行った。
何とか乗艦に成功した人々は驚愕した。
なぜなら、軍艦には乗組員の姿が何処にも見当たらなかったからだ。
乗組員が操艦するための設備や居住区などは存在したが、そこに人間の存在した気配は全く無かったのだ。
めぼしい場所を見回った人々は、ついに艦の指揮所である艦橋に到達した。
そこに、あれほど艦内を探してもその陰すら見当たらなかった乗組員がいた。
それは、一人の少女だった。
驚愕する人々に対して、少女は静かに語った。
自分はこの艦の全てを司る存在――艦娘である、と。
「かつての合戦に匹敵する御國の危機に、志半ばで斃れた英霊に代わり、馳せ参じました。どうか、私達を使ってください」
巫女のような姿の少女は、微笑みながら頭を垂れた。
それが、帝國と艦娘達の出会いだった。