ダンジョンに神殺しの魔王がいるのは間違っているだろうか   作:dukemon

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断章 神殺しを探す者 一

1、

 

巨黒魚(どどばす)が出た!フェル、やっちゃって!」

 

「はい!」

 

フェル・クサナギはニョルズ・ファミリアの漁師と協力して、巨黒魚(ドドバス)を追い詰めていく。

やがて、フェルの手から投げられた銛が逃げ場を失った獲物の心臓を貫いた。

 

「よっしゃ!」

 

「完璧だ、フェル!」

 

「へへ!」

 

フェルという赤髪の少年は屈託のない笑顔で、仲間たちに笑った。

このまま、ここで漁師をやっていっても悪くないかも、と彼が思った。

 

――だけど、オイラはたぶん憧れを諦められないだろ。そして、夢を諦めない限り、漁に生きるなんて無理だ。

 

そんな矛盾を抱いてまま、彼は漁師たちと共に港街メレンに帰った。

 

 

 

出店に巨黒魚(ドドバス)を渡してから、フェルは倉庫で装備の点検をしている。

元の世界から持ってきた鎧は、質がオラリオの装備に負けるが、愛用していたから捨てないでいる。

斧はクレタ島のアステリオス神が貸してくれたもので、オラリオの第一等級武装を凌ぐ性能を誇る。

ナイフは消耗品だから、ヘファイストス・ファミリアが作った安物を使っている。安物とはいえ、質はしっかりだから安心できる。

 

すべての装備をメンテナンスした後、フェルはオラリオに向うことを伝うため、ニョルズを探し回った。

見つけた時はちょうど、一柱の女神が数人の眷族を連れて、ニョルズと世間話をしている。

動きなどを見て、その眷族たちが凄まじい冒険者だと理解している。

 

「ニョルズ様、オイラはこれからオラリオに向う。三日ぐらいダンジョンに潜る予定だ」

 

フェルはいつも通り、自分のスケージュルをフェルズに報告する。

だが、答えは意外なものだ。

 

「……すまんが、その予定は明後日に延ばしてくれないか?」

 

「……さっきの女神と関係があるのか?」

 

ダンジョンに入るため、フェルは三ヶ月前にニョルズと契約を交わし、恩恵(ファルナ)を得た。

契約内容はファミリアの仕事を手伝うかわりに、一ヶ月に5日ほどダンジョンを潜られる。

 

「ああ、ロキ・ファミリアの構成員達はこの町に入った。数日この近くにいるという話だ。彼女の子供たちは信頼できるが、騒ぎを起こさないために街の見回りを頼みたい」

 

「分かった、これぐらいなら問題ない。メレンの治安維持も契約の一部だ。しかし、オイラでもロキ・ファミリアの第一級冒険者を止められないよ。一人だけならともかく、あちらは四人もいるし、オラリオから援軍を呼ぶなんて容易いものだよ」

 

「万が一に備えるだけだ」

 

だが、しばらくしたら、カーリー・ファミリアの船を食人花のモンスターが襲われた事件が起きた。

 

 

2、

 

「彼はただの漁師だ。殺し合いが望むなら、オイラが相手してやる」

 

フェルはそう言いながら、冷や汗をかいた。

マーク達がアマゾネスの騒ぎに巻き込まれたことはいきなりのことだから、身にした装備が最低限のものだ。

それに、目の前のアルガナという戦士はたぶんLV.6、勝ても負けてもこちらの被害が出る。

しかし、彼女の注意を引き寄せるために、こうするしかない。

 

「やめろ!フェル、あんたはLV.1なんだぞ」

 

「そうしないと、マークは殺されるぞ!オイラだけなら、逃げる手段なんていくらでもある。ここにいる一般人は早く離れろ!」

 

「ほう、逃げるカ」

 

砂色の長い髪を靡かせ、獰猛な笑いを浮かべる女戦士(アマゾネス)はフェルに肉薄した。

気功を練り上げたフェルは即座に軽功で空高く飛び退って、相手の上段蹴りをかわした。

 

――まずい、跳びすぎた!

 

ここ数ヶ月、対人戦闘をあまりしなかったから、ほんのわずかなミス。

一瞬空中で身動きを取れないフェルにアルガナは容赦なく、追撃を下そうとする。

被弾覚悟で、フェルはスキルを発動しようとする。

大嫌いなスキルだが、自分がここで倒れたら漁師たちは危ない。

 

「【我は】…」

 

「はあああ!」

 

別のアマゾネスが跳び上げようとするアルガナを飛び蹴りを仕掛けた。

ロキ・ファミリアのティオネである。

 

危機から逃したフェルは屋根で着地した。

アルガナはフェルのことを興味を失ったようで、ティオネと激しい格闘戦を繰り広げた。

アルガナは左足からの蹴りを右腕で防ぎ、ティオネは左手から繰り出した手刀が砂色の髪を数本切り裂いた。

 

両方の格闘技術はほぼ互角だが、アルガナの方が有利だ。

ティオネは自分の身体能力を使いこなしていないに見える。

 

ロキ・ファミリアのアイズとティオナは戦いを止めようとしているが、バーチェという名前のアマゾネスと女戦士の一団に邪魔された。

 

大通りは乱闘の場に変えた。

人々は悲鳴を上げて押し合い、裸足で逃げ出してきた。

その中で、一人の少女が屋台に取り残された。

恐ろしいのあまりに動けなかっただろ。

 

それを見て、フェルはすぐに救援に向った。

だが、その前にティオネが屋台の前まで蹴り飛ばされた。

そして、彼女は目の前の子供を救うため、自分の防御を放棄した。

 

「【我が叔父草薙王の化身に希う!ウルスラグナ第七の化身《鳳》よ!】」

 

発動条件は高速の攻撃を受けること。

避けたアルガナの蹴りでそれを満たした。

神速の権能を擬似的に発動したフェルは少女とティオネの手を掴み、少し離れた場所に移動した。

神速を解除した途端、激しい痛みが心臓から発した。

まるでナイフが何度も心臓に突き刺さるような苦しみだった。

 

――叔父さんはすげぇな。

 

暗転した意識の中で、フェルがそう思う。

 

 

3、

 

巨大な猪が蛇の神獣たちを蹴散らしていく。

 

――ああ、これは夢だ。

 

十年前、世界を飛び回っている神殺しの叔父と最初に会ったときのことだ。

五歳のときだった。

 

あの時、母と自分は神獣によって追い詰められていく。

そして、母は彼の名前を呼んだ。

 

叔父は、瞬きの間でそれらを討ち滅ぼした。

ウルスラグナの化身『猪』は蛇たちを踏みにじり、猛威を振るった。

まるで、神話の中から切り落とした一幕のようだ。

 

その時、オイラは一つの憧れを抱いた。

愚かな憧憬だが、今でも捨てられずにいる。

 

 

 

 

 

「目が覚めたか?」

 

「ここは…オイラの部屋か。ニョルズ様……大通りのことはどうなった」

 

窓から月の光が照らしてきた。

ベッドの傍で、ニョルズが座っている。

上半身を起きて、フェルは戦いの結果を聞き出そうとする。

 

「心配ない。その後、カーリーとロキが来て、戦いを止めさせた。どころで、スキルを使ったのか?それも反動が激しいものだろ」

 

「ああ、神速の権能だ。反動があると聞いていたが、それほどのものとは思わなかった」

 

「当然だ。擬似的にとはいえ、神の力を人の身で再現させることなんて無茶だ」

 

スキル・魔王憧憬。

面識がある魔王(カンピオーネ)の権能を擬似的に再現させるスキルだ。

ちなみに、フェルは自分の目で見た権能でしか再現できない。

 

フェルと知り合った魔王は四名。

そのうち、ジョン・プルートー・スミスの権能発動条件はあまり知っていないから、発動できない。

叔父である草薙護堂が自分の権能を紹介してくれたから使えるが、《東方の軍神》を使いこなす自信がない。

『鳳』の化身が数秒間使うだけで心停止に追い込まれる可能性がある。

もっとも使いやすいのは、サルバトーレ・ドニの《切り裂く銀の腕》と《鋼の加護》。

次点は、アレクサンドル・ガスコインの《電光石火》。

 

ニョルズは破格過ぎるスキルと思っているが、フェル自身は嫌いだ。

劣化コビーだと思っているから。

たとえば、さっきの《鳳》は草薙護堂が接近戦で愛用している化身で、他の化身と組み合わせることもできる。

フェルの《鳳》はほとんど自爆技だ。

同じ神速の権能である《電光石火》はアレクサンドル・ガスコインが使えば攻防一体の技で、さらに気配を断ち、隠蔽行動もできる。

フェルの《電光石火》は神速状態になると、周囲にコントロールできない稲妻を撒き散らす。大通りで使えば、大惨事になる。

 

「オイラのスキルはあの方たちの看板に泥を塗るようなものだ。だから、あまり使いたくない。だが、LV.6の相手に使わないと勝てないだろ」

 

「……もう一度言うが。あなたの才能は破格なものだ。フィンでも、リヴェリアでも、ガレスでも、オッタルでも、ゼウスとヘラの眷族たちでもあなたほどの才能を持っていない。神の力を擬似的に発動できるのは奇跡のようなものだ。俺は戦闘向きの神ではないが、あなたが力を出し尽くしたら、たぶん朝のあのアマゾネスに勝てるだろ」

 

「……あまり実感はないな」

 

サルバトーレ・ドニの神域の剣術を目にしたフェルは自分の才能をそれほどのものではないと思っている。

 

「あなたはただ、神殺しの獣たちに気にしすぎた。憧れるがいいが、彼らの強さに惑わされるな。あの獣たちも他人に真似して、神を殺したわけではないだろ」

 

「っ!」

 

フェルは頭を冷やして、朝の戦いを思い返した。

スキルを使わずに、あのアマゾネスと戦うとどうなる?

 

最初のミスが大きいが、挽回できないほどではない

イメージすると、勝ち方は自然にできでいる。

十割の勝率ではないが、六割の勝機がある。

さらに、適当のタイミングでスキルを使うと確実に勝利できる。

 

「……たしかに、そうだったかもしれない」

 

「これからは、たぶん荒事になる。頼んだぞ、漁師に向いている傭兵」

 

「分かった」

 

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