ダンジョンに神殺しの魔王がいるのは間違っているだろうか   作:dukemon

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断章 神殺しを探す者 二

 

 

1

 

ニョルズの予想より早く、カーリー・ファミリアが明日の朝ロキ・ファミリアを襲撃し、団員を一人攫った。

そのことを聞き及んだフェルはすぐにカーリー・ファミリアの動きを追跡し、攫われたレフィーヤという団員の居場所を突き止めた。

 

黄昏の時、遠目でカーリー神が監禁場所から離れるのを見ると、フェルは行動を始めた。

カーリーは名高い戦女神、たとえ凡人の力をしか持っていなくても、警戒すべき相手だ。

カーリーさえいなければ、レフィーヤを救い出すなんて容易いものだ。

 

一連の動きは簡単だ。

まず、フェルは洞窟を正面から突破する。

相手を倒す必要はない。レフィーヤの傍に辿り付ければいい。

次はレフィーヤを掴み、《電光石火》を発動して脱出する。

 

「【我は黒王子の雷光に希う。レミエルの神速を我が身に!】」

 

そして、洞窟が雷電で崩し、フェルとレフィーヤはメレンについた。

 

「え…」

 

「…う。やはり、神速の反動が大きいな。それより、まずロキとニョルズのところに行こう…」

 

フェルは激しい時差ボケのような目まいを耐えながら、そう言った。

信じられないものを体験したレフィーヤもフェルに同意し、メレンの街中を駆け抜いた。

 

「レフィーヤ!大丈夫か!」

 

「よくやった、フェル」

 

「聞いてください!カーリー神の目的は!」

 

ロキとニョルズはレフィーヤの話を聞いて、険しい顔をした。

 

「死合か…なら、やることができている。オイラにとって、メレンには恩がある。それを荒らそうとしたカーリー・ファリミアは止めなければならない」

 

「感謝する。フェル・クサナギ」

 

ニョルズがフェルにそう言った。

そして、外に騒ぎが起きた。

 

食人花のモンスターが街中で暴れている。

 

 

2、

 

稲妻の両刃斧を肩に担いで、レフィーヤはフェルという名のLV.1冒険者を支援し、易々と周りの食人花たちなを蹴散らした。

 

「絶対にLV.1ではないでしょう!あなた!」

 

「オイラを呼んだのか?ちなみに、あんたのサポートは上手いな」

 

レフィーヤの大声を聞いたフェルは着地し、エルフの少女に賛辞を投げた。

 

「あと、オイラは正真正銘のLV.1冒険者だ。ただ、恩恵を授ける前にLV.5の冒険者と同格な戦闘能力を持っているだけだ。信じないなら、背中を見せてもいい」

 

フェルが言っていたことはレフィーヤの常識を反するものだ

しかし、眼前の少年が堂々なる態度を見せた。

一時的に、何が言えばいいのかがわからない。

 

その時、一人のアマゾネスの戦士が二人に目掛けて突きこんできた。

 

「あれ、こいつはカーリーの眷族じゃないようだ」

 

「なんですって!?……確かに、ティオネとティオナの戦い方と全然違います」

 

確かに、よく見ると彼女の戦闘技術はカーリー・ファミリアに似ていない。

元カーリー・ファミリアのティオネとティオナの動きを何度も見てきたレフィーヤは先入観を捨てると、一瞬で見抜いた。

フェルは彼女の後ろに回り、斧の柄で頭を打って意識を奪った。

 

「恩恵を見て犯神の特定はしたいが」

 

「いいえ、その必要はないようです」

 

金髪の剣士と戦っている相手を見ると、レフィーヤは今メレンを荒らしている眷族の名前を呼んだ。

 

「彼女たちはイシュタル・ファミリアです!」

 

 

 

 

 

 

 

アイズは敵の策に嵌められ、魔法を封じられた。

彼女は剣士の能力のみで敵を立ち向かう時――

 

「【解き放つ一条の光。汝、弓の名手なり。狙撃せよ、妖精の射手――」

 

その声を聞いた瞬間、アイズは即座に右側に跳んだ。

 

「【穿て、必中の矢――アルクス・レイ】!!」

 

大光閃はアイズがいた場所を突き破り、フリュネに肉薄する。

直前まで、相手に視線を塞がれたため、彼女の反応は一瞬遅かった。

慌てて左側に跳んだが、追尾性能を持つレフィーヤの魔法を避け切れず、側腹に命中した。

鎧の中で、フリュネは痛みで顔を歪めた。

 

アイズはこの千載一遇の好機を絶対に逃しはしない。

《剣姫》の細剣がフリュネの腹に一閃した。

レフィーヤの魔法で開いた鎧の穴を正確に捉えた。

 

「このっっ、不細工ゥゥゥ――!!」

 

手応えがある。重傷だ。

しかし、戦闘不能になるほどではない。

それでも、レフィーヤの支援があれば数分でかたを付けられると、アイズが確信した。

 

「後ろはがら空きだぞ!」

 

先日、アルガナと戦ったフェルという少年はフリュネの後ろから両刃斧を振り下ろした。

目に刺すような眩しい光と共に、雷轟が周りに響き渡った。

 

視力が回復したアイズが見た。

鎧が細々の砂になって気絶したフリュネは倒壊した建物の上で倒れた。

そして、フェルは静かに周りのイシュタル・ファミリアを警戒している。

 

それを見ながら、アイズはレフィーヤの傍に移動した。

 

「レフィーヤ!傷はない?」

 

「大丈夫ですが、私のせいでティオネさんとティオナさんが!」

 

「ここはオイラ、レフィーヤとロキ・ファミリアの団員たちが食い止めよう。ロキが援軍を呼んだそうだから、時間を稼げればいい。あんたは仲間を救っていって!あと、これを貸してやる!」

 

フェルという少年が鞘と共に投げてきたロングソードはかなりの業物だ。

使い慣らした愛剣より少し重いが、代剣よりずっとマシだ。

 

「かなり特殊な剣だから、無茶な使い方でも耐えられるぞ。折っても直せるからな」

 

「ありがとう」

 

剣を抜いたアイズは戦場を後にした。

 

 

4、

 

「まだ戦うのか?」

 

アイズを見送ったフェルは、冷徹に周りの敵に言い放した。

 

「あんた達の最大戦力は倒した。《剣姫》はこの場を離れたが、少し時間を経てば、ロキ・ファミリアの第一級冒険者が参戦してきたぞ」

 

それを聞いた女戦士たちは、不安そうな表情を表し、ある人に視線を投げた。

 

「ア、アイシャ……!?」

 

アイシャという戦士は二番手に違いない。

そして、彼女の選択は……

 

「退却だ」

 

夜の闇に消えるアマゾネスたち。

彼女たちが視線から消え去った後、フェルは屋根の上で崩れ落ちた。

 

「おい、大丈夫か!」

 

近くにいるロキ・ファミリアの人が慌てて駆けてくる。

フェルは苦笑した。

 

「正直、かなりきつい。頭はスキルの反動でぐらぐらしてるし、魔力もわずかしか残っていない」

 

「さっきのあれはハッタリなのですか!?」

 

レフィーヤはフェルの大胆さに呆れたようだ。

 

「いざとなれば切り札を切るよ。あんたを救い出したときに使ったアレだ。さあ、あんたたちは《剣姫》に追え。こっちは大丈夫だ」

 

この場に数人残して、ロキ・ファミリアは仲間を救いに行った。

辛うじて立ち上がったフェルは彼らに言った。

 

「……ニョルズ様を探しに行く」

 

ニョルズが湖の中に、食人花を放したことにとっくに気づいた。

食人花が魔法の粉に追っていったのを見たから、その理由も推測できる。

 

雇い主の重大な決断を見届けなければならない、とフェルは思った。

 

「オイラはどうやら、かなりこの場所に気に入ったようだ…まあ、それも終わったか」

 

ニョルズがやっていることに、ギルドは重い罰則を下すだろ。

もちろん、表向きにはいつも通りの関係を維持するが、他の世界から来たフェルをこれ以上隠すのは無理だ。

他の雇い主を探すしかない。

 

フェルはその時、ちょうどギルド支部に繋がる大通りを駆け抜いている。

近くは避難指示のため、無人であった。

が、妙な気配を感じた。

 

「何者だ!」

 

姿は見えない。たぶん魔道具を使っているだろ。

しかし、見えないだけだ。

目を閉じて、心眼を使うと相手の居場所を判明した。

 

「支部の正門前にいるだろ。隠しても無駄だぞ!」

 

「わかった。攻撃しないでくれ」

 

フェルの眼前にいるのは、黒いローブを纏った人間だった。

 

「おまえもメレンの街を荒らしにくるのか」

 

「いいや、まったく違うよ」

 

「それじゃ、ロキ・ファミリアが呼んだ援軍なのか?」

 

「ロキ・ファミリアが通報したから来たが、援軍ではない」

 

「なるほど、ギルドの職員なのか?ああ、すまない。この問題には答えられないだろ」

 

ギルド支部とニョルズ・ファミリアの癒着はひどいものだから、ギルド本部からの使者が来たことについて驚くことはないが、これほど早いとは思わなかった。

 

「別に、答えてもいい。現に、同僚が私のことをばらしたせいで、フィンが直接に私のところに強制捜査の許可を得ようとした…まったく」

 

「ひでぇな。あんたのような裏方が存在を知られたらだめだろ」

 

真顔で、フェルは言い切った。

さっきの隠れ身はかなり見事なものだ。

忍者の訓練を受けていなかったら、見破れないかもしれない。

自分が知らない場所で、存在がバラされたのは流石に酷い。

 

「いい人で、実力が計り知れない同僚だが、時々このようなわけがわからないことをするから、先日も…」

 

「オイラも似たような経験がある!あるお方の目付け役に任された時…」

 

思い出したのは護堂叔父さんと一緒に神獣の封印を調査した時のこと。

なぜか、山一つと貴重な遺跡が壊された結果になった。

 

「しかし、まさかニョルズがあんたのような腕利きの眷族を持っているとは」

 

「オイラは傭兵だ。契約を交わしただけ。ニョルズの眷族を手伝うかわりに、恩恵を得た。ダンジョンを潜るために、恩恵が必要だからな。ダンジョンは結構面白い場所だけど、探したい人は見つからない……」

 

「探したい人とは?」

 

「オイラの祖父だ。叔父さんは彼に伝言があるから探している。旅行大好きな人で、連絡の仕方がないから、苦労しているぜ」

 

「私のほうから探してあげよう?」

 

「いや、彼は仮名がいっぱい持っている。姿が変えられるけん…スキルを使えるから…ギルドの情報網でも探せないだろ」

 

言葉を交わしながら、フェルズという魔術師は支部の中で犯罪証拠を押さえていく。

ロキ・ファミリアがある程度集めたが、それでも巧みに隠された記録などを見逃していた。

その点に関して、フェルズはさすがにギルドの役人だった。

 

「……これだ、ついに見つけた!!」

 

「これは…手帳?帳簿かな?」

 

フェルがその手帳を覗くと、フェルズは素早くそれを懐に収めた。

 

「あれはニョルズ様が運んだ物の詳細だろ」

 

「知っているのか?」

 

「遠くからで観察した事がある。酒とか、金目のものとか。後、生き物を運んだようだ」

 

「…やはり」

 

裏付けが得たようで、フェルズは支部を後にし、水晶のような魔道具を取り出して、それに向って話した。

 

「ウラノス。彼らが都市から運び出した経路が判明したぞ」

 

《よくやった。後のことをミハイルに任せよう。彼たちなら、数日で彼らを救い出せるだろ》

 

フェルはその名前を聞いた途端、目を見張った。

思わず、そう聞いた。

 

「待て、そのミハイルは二重人格者で、もう一人の人格はミカエルっていうのか?」

 

「なぜそれを…」

 

「彼こそオイラが探している人だ!我が祖父、ミハイル・ミカエル!」

 

 

5、

 

次の朝、ニョルズに別れと告げた。

 

「そうか。あの神殺しを見つけたのか。おめでとう」

 

「ありがとうございます。今日で、メレンに会う予定だ」

 

「……なんというが、対面場所は他の場所に変えてくれないか。神殺しの獣に近づきたくはないぜ」

 

乾いた笑いをしたニョルズ。

フェルも同じ思いだった。

 

「砂漠の真ん中で会いたいが、祖父が早くおいらの姿を見たいから……」

 

「何も起きないことを祈ろう」

 

神様らしくないセリフを吐き出したニョルズは今回の事件の後始末をしている。

食人花が使えなくなった今、海中のモンスターを排除するのは難しい。

傭兵や冒険者を雇っても、一時凌ぎに過ぎない。

下界の海は生態系が破壊されたと、ニョルズは断言した。

 

「食人花を利用する発想はいいが、供給が相手の手に握られたから。あんたの立場は受動的なものだ。そういうものは長く続かないと、知らないわけではないだろ」

 

 

 

「ああ、だからこっちも食人花を生産できるかどうかをいろいろ試してみたが、成果はない。養殖には結構自信があるけど、モンスターは流石に専門外だ」

 

もう少し時間があれば、なんとかなるかもしれない。

しかし、ロキの調査によって、すべてが破算した。

 

「しかし、これでいいかもしれない。俺が運んだのは……とうてい許されることはないものだ……」

 

「………人口売買か」

 

「よく見えてないが、助けてくれと叫んだ声が檻の中から透き出してきた……」

 

「たしかに、ロッドたちに言えないことだ」

 

自分のやり方が目の前の子供達を救えると、ニョルズは今でも信じている。

しかし、救われた本人がそのようなやり方を受け入れるか?

答えはノーだ。

だから、ニョルズはフェルにだけ、真実を話した。

 

今回の事件で、もっとも真相に近づいているニョルズの眷族はフェルだけだ。

 

「何も言わないぞ。あんたには恩がある、この場所にも気に入った」

 

「ありがとう」

 

『まあ、理解できなくもない理由だから。許してやってくれ。リド』

 

「…仲間を守りたい気持ちは一緒だ。それに、最初から恨んちゃいねぇ。オレっちの相手は同胞を捕まる闇派閥(イヴィルス)だ」

 

突然現れた一人と一匹に、フェルとニョルズは唖然とした。

赤髪の大男をニョルズの傍に、赤い鱗と雄黄の瞳を持つリザードマンがフェルの後ろにいる。

これほど近くで、話がすべて聞かれたことについて何も気づいてない。

 

「幻術の権能か?」

 

「確かに、祖父がインドラジットの権能を手に入れたそうだ…」

 

『あんたがアリシアの息子だな!』

 

ミカエルはいきなりハグしてきた。

髪が乱暴に撫でられた。

 

フェルは頭がいきなりの展開に追いつかない。

 

「ミカエルっち、娘の息子が何か伝えたい事があるじゃねぇのか?」

 

『あ、そうだった。護堂の用件はなんなのだ?』

 

「ヒューペリオンという神域が何かがある。現に羅濠教主、護堂叔父さん、アレクさんサルバトーレ卿がそこに行った。それを祖父に伝いたい」

 

『おじいちゃんだ』

 

「はい?」

 

『おじいちゃんと呼べ!』

 

「…おじいちゃん」

 

ミカエルは手で目から流した涙を拭き去った。

 

『なんというが、感動した。孫におじいちゃんに呼ばれることがなんというすばらしいことだ、兄弟』

「いや、別にそれほどでもないでしょう…」

 

「はじめまして、ミハイルおじいちゃん」

 

「…………」

『ははは、照れたぞ!兄弟!』

 

「それより、叔父さんへの返事は?」

 

『ここの仕事が終わった後、そっちに行くぞ』

「長くて二ヶ月、短くては来週で終わるでしょう」

 

「ええ、ここを離れるの?ミハイルっち」

 

『俺たちは旅の途中だし、それにあんたたちも強くなったから、もう教えられるものはないと思うぞ』

「アステリオスも自主訓練を続けると強くなるし、僕たちは戦い方を教える段階が過ぎた。最後の仕事はあなた達の敵である闇派閥(イヴィルス)を殲滅することだ。その後がもっとも大変なことだよ」

 

「なるほど、知性を持って喋られるモンスターか…確かに、大変だな。何か手伝えることがあれば言ってくれ」

 

ニョルズはたぶんここで一番、モンスターと人間の対立を身をもって体感している者だ。

彼の子供たちが海のモンスターに殺されたことが多い。

海のモンスターを討伐する必要性があると思っている。

それでも、目の前のリザードマンがそれらのモンスターと違う、とニョルズは感じた。

だから、彼らの立場を同情し、罪滅ぼしのために協力を持ちかけた。

 

それを聞いたリドが目が見張った。

 

「……本当なのか?」

 

「もちろんだ…泣くほどのことか?これは」

 

困った表情で、ニョルズは泣き出したリドに慰める

 

『ニョルズのために、俺たちも手伝おう!』

「同意だ」

 

「「「待て!!!」」」

 

神殺しの悪名は天界に轟くほどのものだから、ニョルズは止めようとした。

経験で神殺しの不条理さと傍迷惑を知っているから、リドとフェルは死ぬ気で止めようとした。

 

だが、もう遅い。

 

『汝は天則(リタ)に基づいて……』

 

結果だけを言おう。

メレンの海は確かにモンスターがいなくなった。

が、海底の地形を丸ごと変化したから、百年以上に亘り作り上げた海図はゴミクズになった。

漁ができるようになったが、その代わりにメレンの輸送業は壊滅的な打撃を受けた。

 

ニョルズは卒倒した。

フェルズがそれを聞いたとき、自分が死なない体になったのを呪った。

ウラノスが頭を抱えた。

 

逃げるように、フェルはこの世界から姿を消え去った。

 

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