帰る場所を君に   作:小池蒼司

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CHAPTER:1
1.あふれる可能性


【ブルーファンフラワー】

・・・ブルーファンフラワーとはクサトベラ科クサトベラ属の一つである。

花言葉は「あふれる可能性」

______________________

 

 

 

『昨日警戒区域で近界民出たの知ってる?』

 

防衛任務の為に、指定されたエリアを一通り巡回し終えると宇佐美栞からのチャット通知が飛んできた。

昨日(ゲート)が開いた事はもちろん知っている。

『知ってるよ』と返すとすぐに返信が返ってきた。

 

『近界民を倒した隊が分からないんだって、一番最初に現着した三輪隊が駆けつけた時にはもうバラバラだったらしいよ』

『誰がやったかわからない?』

『うん』

 

そういえばそんな話を昨日聞いた気がする。

しかし、レーダーにもログにも載っていない誰かが倒したというのか。

 

「でもすごいな、倒した人。……っ!?」

 

《緊急警報 緊急警報 門が市街地に発生します》

 

シオンの呟きと同時に大地の震える感覚、そして警報が鳴り響いた。

驚いて顔を上げると上空には門が開いていた。

 

「まじか!任務中で良かったッ」

 

シオンは携帯をしまうとその場を高く飛び、近くの建物の屋根へと登った。走って行くよりこちらの方が早いからだ。

 

 

 

「見えた」

 

大きな音が聞こえる。目的地へと辿り着いたシオンはその現状に目を細めた。

既に門から出たトリオン兵、モールモッドは暴れているようで、悲鳴と爆発音が聞こえてくる。

 

現場である中学校では避難した生徒が大勢いるのを見ると、被害者は居ないようだ。

そしてどうやら校舎内で何者かが戦闘中らしい。

 

「園田シオン現着っと。誰が戦ってるんだぁ?これ」

『戦闘中の隊員情報が分かりません』

 

校庭に降り立つと周りからは「ボーダーだ!」

「ボーダー隊員よ!助けが来た!」等の叫び声が沸き起こる。当の本人は無関心だが。

 

 

そして、耳元から聞こえるオペレーターの指示に従って戦闘中の校舎へ入ろうとした時、

 

ーードッッッッ

 

突然大きな爆発音と共に窓ガラスを突破ってモールモッドが吐き出された。

 

そして音が止まる。

 

『近界民の反応が消えました。どうやらもう終わったみたいですね…』

「うそー、何もしてないよ僕!」

 

シオンはそう言いながら真っ先に生徒たちのほうへ駆け寄る。

 

「遅くなりました、怪我人はいますか?」教師陣を一瞥するとまだ二人いないと告げられる。

 

「それにしても一体誰が…」

『今確認してみます、とりあえず現場調査と屋内にいる生徒を救出してください』

「園田了解」

 

 

 

 

 

 

 

その後、あとからやってきた嵐山隊に事情説明、そして三雲修というC級隊員が今回の近界民を倒した、という情報が手に入った。

 

訓練用トリガーでモールモッド二体を倒した彼は恐らく相当強いだろう。

もしかしたら昨日の件も彼がやったのかもしれない。

どちらにせよ、市民を守ることを優先した彼の心意気は褒められるべきだ。

 

「と、僕は思います」

 

会議室にやってきたシオンは入室早々今回の件について述べた。

三雲修の処罰についてだ。

仁王立ちになって堂々と言うシオンに三雲は安心感を覚えるが、それと同時に不安も感じた。

 

「迅悠一、お召しにより参上しました!」

不意に会議室の扉が開き二人の男女が入室した。

「…御苦労」城戸が静かに言った。

 

「あれ、もう始まってんの?」

 

迅は目の前にいるシオンを見て声をかける。

シオンは振り返るとハッとして「まだだよ、僕が勝手に喋っただけ」と申し訳なさそうに言った。

 

「揃ったな、本題に入ろう」

 

城戸は手を組むと"イレギュラー門の対応策"について話し出す。本来の会議内容ではあるが、今話したいのはそうじゃない。

シオンが待ってください、と言うよりも先にボーダー本部長である忍田が城戸を止めた。

 

「まだ三雲くんの処分に結論が出ていない」

「結論?そんなの決まっとろう、クビだよクビ!重大な隊務規定違反。それを一日に二度だぞ?」

 

忍田の発言に反発したのは本部開発室長鬼怒田だ。

それに続けてメディア対策室長根付も続けて反論をした。

 

「他のC級隊員にマネされても問題ですし、市民にボーダーは緩いと思われたら困りますしねぇ」

「そもそもコイツのようなルールを守れんやつを炙り出すためにC級にもトリガーを持たせとるんだ」

 

バカが見つかった、処分する、鬼怒田の言うことも正しい。

元々そういうルールだ。

それにしては酷い言われようだが。

 

「先程も言いましたが、僕は彼の処分には反対です。彼のしたことは確かに違反かもしれませんが、それで救われてる人がいます。彼の行動は間違いじゃない、僕は彼を支持します。」

 

シオンはキッと上層部のメンバーを見た。

お世話になっている根付や鬼怒田と言い合いになるのは避けたいが、こればっかりはシオンも譲れない。SE(サイドエフェクト)でもなんでも使って三雲の処罰を軽くするつもりだ。もっとも、そういった事に使えるような能力ではないが。

 

「私も反対だ、三雲くんは市民の命を救っている」

 

シオンの援護をするように忍田が発言した。

 

「近界民を倒したのは木虎くんでしょう?」

「木虎が彼の援助活動の功績が大きいと報告しています!」

 

根付の言葉に反論したシオンを見て、迅が感心する。それは木虎が三雲を推したことに対してだろう。

 

「さらに嵐山隊の報告によれば、三門第三中学校を襲った近界民は三雲くんが単独で撃退している。隊務規定違反とはいえ緊急時にこれだけの働きができる人間は貴重だ。彼を処分するよりB級に昇格させてその能力を発揮してもらう方が有意義だと思うが?」

 

忍田の怒涛の反論により会議室は一瞬静けさに包まれた。

 

「本部長の言うことには一理ある。…………が」城戸はゆっくり口を開く。

「ボーダーのルールを守れない人間は私の組織にはいらない。」

 

「…!」

 

「三雲くん、もし今日と同じようなことがまた起きたら君はどうするね?」

「……それは………………」

数秒考え込んだ後、三雲は意を決して言った。

「目の前で人が襲われてたら……やっぱり助けに行くと思います」

 

ーー面白い

 

今は規定違反の話をしているのに、また同じことを繰り返すと宣言したのは、シオンにとって面白いと感じた。

それは唐沢も同じだったようで、一瞬目が合った。

 

「ほれみろまるで反省しとらん、クビで_」

「彼はボーダーに必要です」

 

鬼怒田の言葉を止めたのはシオンだ。

大きく立ち上がり、堂々と言う姿は負ける気がしない、と言ったところだろうか。

 

「まず今日の三門第三中学校の件ですが、嵐山隊の到着が遅れたのは事実です。もしその場に彼がいなければ中学校から被害が出ていたでしょう、そうすればボーダーの評価は下がったと思いますよ。到着する予定の隊が嵐山隊だったら尚更。ね、根付さん」

「それは…むぅ…」

 

ボーダーの顔として広報担当にされている嵐山隊が、到着に遅れて被害を出した、しかも中学校で、なんて信用度が下がるだけじゃすまないだろう。

 

「それに、今ボーダーには彼のような人材が必要だと僕は考えます。一日に二度も隊務規定違反?違います、一日に二度も自分の命を顧みず人を救ったのです。彼の行動は間違いじゃない、評価されるべきだ」

「だからルールを破っていい、そう言いたいのかね」

「城戸さん、ルールと人の命どっちが大事なの?」

「…」

「…」

 

数秒の沈黙が長く感じる。

 

 

 

「…あー、彼の処分は俺に任せてもらえませんか?」

三雲の肩に手を乗せ、迅が沈黙を破った。

「…なぜか説明してもらおうか」

「んーと、じゃあ説明する為にもイレギュラー門の説明してもらっていいですか?」

 

 

はぁ、とシオンは椅子に腰掛けた。

迅のおかげ、と言うべきかヒートアップした言い合いは一度止まった。

 

「ここまで話持ってきたのに台無しだよ悠一」

小声で迅に言えば「お前熱くなりすぎ」と軽く小突かれた。

 

 

「イレギュラー門の事ですが、先程の爆撃で分かっているだけでも十八名が死亡。重軽傷者は百名以上、建物への被害は数知れず。第一次近界民侵攻以来の大惨事です」

 

このままでは三門市を去る人間も増え、被害者への補償も大変な額になる、と根付は語った。

それに対し唐沢は

「いや、金集めは私の仕事ですから、言ってもらえれば必要なだけ引っ張ってきますよ。」

と余裕な表情を見せる。

 

 

「しかし今日みたいな被害が続くとさすがにスポンサーも手を引くかもしれませんね、開発室長」

「……それは言われんでもわかっとる。まぁシオンがいる分多少はマシだろう」

「…えぇー…」

「なんだ不満か」

「イイエ…」

鬼怒田から向けられた視線を逸らす。

 

「しかし開発部総出でもイレギュラー門の原因がつかめんのだ。今はトリオン障壁で門を強制封鎖しとるが…。それもあと四十六時間しかもたん。それまでにどうにかせんと…」

 

それで迅が呼ばれたわけか…と一人納得する。

玉狛支部支部長林藤も同じようなことを迅に聞いた。

 

すると、迅は話を戻すかのように「そ、れ、で」とまた三雲の肩に手を置いて話し出した。

 

「話を戻すんですけど、彼の処分は俺、あ、いや、俺達に任せてもらえませんか?」

 

さりげなく混ぜられた気がするが、流れに乗って頷く。

「彼が関わっているというのか」

城戸は表情を一つも変えずに聞いた。

 

 

 

「はい、俺のサイドエフェクトがそう言ってます」

「好きにやれ、解散だ。次回の会議は明日二十一時からとする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふはー、疲れたー!!」

「あの、ありがとうございました」

 

会議室を出ると三雲が勢い良くシオンに頭を下げた。慌てて頭を上げさせるが、三雲からの感謝は止まらない。

 

「僕がやりたいからやっただけ、気にしないで!それに嵐山も上層部に掛け合ってくれてたから、お礼言うなら嵐山達の方だよ」

「はい、本当にありがとうございます」

「あ、あはは…」

 

ーー真面目なんだなぁ

 

何度も感謝を伝えてくれる三雲に悪い気はしない。第一印象は真面目そう、と言ったところか。

 

「さて、よろしく頼むぞメガネくん」

「は、はい!」

 

シオンの横をフッと通り三雲にそう告げた迅はそのまま鬼怒田、根付の順に声をかけて今後についてや様々な会話していった。

まるで先程の会議での険悪な雰囲気がなかったかのように空気が変わる。

 

「どうした?」

「あ、いや…迅さんは凄いなって」

 

ぼーっとしている三雲に話しかけると、予想外の答えが返ってきた。

確かに迅はすごい。自分で実力派エリートというだけあるようなやつだ。

 

だから、

 

「きっと、これから君はもっと凄いと思うよ迅のこと。」

 

 

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