帰る場所を君に   作:小池蒼司

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3.困難に打ち克つ

 

【サザンカ】

・・・サザンカは、ツバキ科ツバキ属の常緑広葉樹。

花言葉は「困難に打ち克つ」

______________________

 

 

シオンは三雲と遊真の二人と入れ違いに支部長室をあとにし、リビングへとやってきた。

 

待っていたのは宇佐美と見知らぬ女の子。恐らくこの子が先程聞いた千佳という少女なのだろう。

 

「こんにちは、初めまして園田シオンです」

「は、初めまして…!雨取千佳です」

 

ーー雨取…?どこかで……

 

「初めまして〜、宇佐美栞です」

「栞は違うだろ」

 

礼儀正しい所は三雲に似ているなと感心した。

「あの、園田さんはーー」

「うん?」

「シオンさんは向こうに行ったことがあるんですか?」

 

向こう(・・・)近界民の世界。それを何故聞くのかは知らないが、「うん、あるよ」頷いた。

 

「少なくともシオンくんは私よりも沢山行ってるよ」

 

宇佐美の言葉に雨取は驚いた顔をした。

 

「栞の言う通り、遠征には殆どついて行ってるかな。今回のは人数的に行けなかったんだけど、前々回のは行ったし…まぁ玉狛の中では二番目くらいに行ってるかも」

 

指を折り曲げながら数える仕草をして答えた。それを見て雨取は凄い、と呟く。

 

「何か向こうに行きたい理由でもあるの?」

 

雨取はシオンの問いかけに顔を俯かせ少し悩んだ。

何か言いづらい理由があるのであれば無理に言わせるのは苦だろう。

 

「言いづらいなら無理に言わなくても…」

「ーー兄と友達が」

 

 

__行ってしまったんです

 

儚げに吐いた言葉はか弱く、今にも消えそうだった。それでも芯は強く持っているような、この子は強い。

 

「そっか」微笑むと雨取はその笑みに固まっていた体がほぐれる。

 

「君、ボーダーに入ってみない?」

「…え?」

「向こうに行きたいんでしょ?その手もあると思うよ」

 

でも、と困惑した表情を向ける雨取に、詳しい事は栞に聞いてみて、と丸投げした。

栞は「了解!」と雨取とボーダーに関することをあれこれ喋り始め、その間にシオンは何となく、屋上へと向かった。

 

 

 

 

 

ーー向こうに行きたい理由が家族や友人を助けたい、か

 

階段を登りながら先程の千佳を思い出した。

ふと、脳裏に【師匠】が過ぎる。

頭を振って考えを吹き飛ばすが、もし自分に千佳と同じくらいの勇気があったなら、遠征中に何度も艇を飛び出していた事だろう。

 

「…大丈夫」

 

呪文のように唱えた大丈夫は誰に向けたものなのか、呟いた自分でさえもわからなかった。

 

 

 

 

 

 

支部長室にやってきた新入り達は全員入隊が決定し、三人は遠征部隊を目指すことを目標にやっていくこととなった。

 

「シオンさん、ありがとうございました」

 

突然雨取がシオンに頭を下げた。「えぇ!?!?」と手を振って慌てるが、雨取はそのまま話を続ける。

 

「ボーダーに入ってみないかって、提案してくれたおかげで入る決心が着きました。…私、必ず向こうに行って兄さん達を助けます。だから、ありがとうございました」

 

再度頭を下げた雨取に「いいんだよ」と頭に手を置いた。

 

「僕がやりたいと思ったからやっただけ」

 

だから頑張ってね、雨取に向けた言葉の裏に、傍で聞いていた迅は『僕の分も』というのが隠されていた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

新入り三人は玉狛に宿泊し、早いことに翌朝がやってきた。

 

「さて諸君!諸君はこれからA級を目指す!そのためには……」

 

ホワイトボードの前に立つ栞が、ソファに腰掛ける新入り達を前にボーダー隊員のランクシステムについて説明を始める。

シオンは途中からやってきたため、邪魔しないように端の方に腰掛けた。

 

宇佐美の説明はボーダー隊員のランクシステムからポジションへと話が進み、いよいよ三人のポジション決めが始まる。

 

「防衛隊員は戦う距離によってポジション分けされてるんだよね、「攻撃手」「銃手」「狙撃手」の三つ……で、どれが千佳ちゃんに合ってるかって話なんだけど___」

「はいはいはーい!攻撃手とかどう!?」

「シオンくんはとりあえず静かにしてて」

 

へいへい、とわざとらしく言うと気を取り直して宇佐美が仕切り直した。

突然自分のポジションを決めろ、とか自分の向き不向きを伝えなくてはならない。

自分で考えるのが苦手そうな雨取にはきっと難しいだろう。

 

「まぁとりあえずさ、何となくやってみたいのとかでいいんじゃない?」

「やってみたいの……」

「そうそう」

 

 

ポジションの向き不向きはもちろんある。しかし、その向き不向き以前にやりたいと思える気持ちが大事だとシオンは言う。

 

「緊張してる?」

 

微かに震えている千佳の手を見てシオンが聞いた。いえ、と千佳は首を振るが、否定する割にはぎこちない。

 

「千佳ちゃん、握手しよう」

「?はい」

 

千佳の小さな手を優しく握る。次第に震えは止まり、落ち着いた。

 

「うん、大丈夫。自分の気持ちを信じて。やりたくないポジションは長くは続かない。やりたいと思ったものは君にあっているはずだよ。」

「……はい」

 

シオン、と迅が名前を呼ぶ。シオンはにっこり笑うと千佳に「ほら、言ってみて」と優しく声をかけた。

 

 

「あの、私___」

 

 

 

 

 

 

新人三人とのミーティング中に帰宅してきた玉狛のメンバー小南桐絵、木崎レイジ、烏丸京介は話の流れで新人育成に手を貸すことになりーー 小南が遊真の師匠、木崎が雨取の師匠、そして烏丸が三雲の師匠となった。

 

マンツーマンで指導を受けることとなった新入り三人は果たして師匠について行けるのか。

入隊試験までの残り三週間、彼らはみっちり訓練をつけてもらうこととなった。

 

 

「そういえば迅さんとシオンくんはコーチやらないの?」

 

一番実力あるのに、と持ち上げた宇佐美にシオンは苦笑して「やることがあるんだ」と答えた。

 

「それに、僕は黒トリガー以外あまり使ったことがないし、教えるにはちょっとね」

 

そう言ってシオンは迅と共に屋上へと上った。少し話がしたいと言われたからだ。

 

 

 

 

 

 

風が心地よい。ゆるく流れる風が髪を揺らした。

 

「お前さぁ、千佳にSE使っただろ」

 

屋上に着くなり迅が言う。さぁ、と濁すが迅には全てお見通しのようだった。

 

「人の心はもう読まないとか言ってなかった」

「仕方ないよ、握手したら聞こえちゃうんだもん」

 

シオンのSE、テレパシーは触れた相手の思考が頭に流れ込み読めるというもので、相手に触れていないと発動しないが触れると強制的に読めてしまう。そのため幼い頃から気味悪がられていた。

 

「まぁ、千佳が狙撃手になるのは視えてたけどさ」

「……お前だって未来視るじゃん」

「仕方ない、視えちゃうから」

 

迅悠一のSE、未来予知。名前の通り未来が見える。

この2人はお互いにSEと呼ばれる能力を持ち、それなりに苦労してきた人間だ。

 

 

 

故に、二人にしか分からないことが沢山あった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新入り達が来てから数日、訓練も順調に進み、迅が玉狛に顔を出せない分仕事の合間を縫ってシオンが様子を見ていた。

 

 

「悪いな」

 

そんな中で、これから行う作戦のために迅とシオンは玉狛を出て大分先まで来ていた。

作戦開始位置近くまで来たところで、隣に立つ迅が前を向いたままそう言った。

 

「何だよ急に」

「遠征から帰ってきたばっかとはいえ、A級と戦わせることだよ」

「あぁ…」

 

今から行う作戦は玉狛にいる遊真を狙いやってくる予定の太刀川隊、風間隊、冬島隊、三輪隊を足止めし緊急脱出させること。

 

 

「お前もあんまり戦いたくないだろ、戦うの好きじゃないだろうし」

「大丈夫、ここを乗り越えなきゃ意味がないんでしょ?頑張るよ、先生と」

「まぁ、俺達だけじゃないから平気だとは思うけど…一人で突っ走るなよ、やばそうなら俺にーー」

 

 

静けさだけが残るこの場に、少しずつ風の音と物音が大きくなる。

 

 

「ーー来る」

シオンの言葉を合図に迅とシオンの目の前にはザッ…と予想通りのメンバーが立ちはだかる。

 

 

 

「迅……!!…と、シオンさん……」

「なるほどそう来るか」

「太刀川さん久しぶり、みんなお揃いでどちらまで?」

 

敵意剥き出しの三輪と、何を考えているのかわからない太刀川。

後ろに控える隊員達も皆戦意に満ちている。

 

「なんでシオンさんがいんの?てか久しぶりに会った気がするわ」

 

冬島隊、当真勇は続けて迅がいることにも触れた。

 

「久しぶり勇、冬島さんはどうしたの?」

「うちの隊長は船酔いでダウンしてるよ」

「余計なことを喋るな当真」

 

すんなり教えてくれた当真を止めたのは風間隊隊長風間蒼也。

シオンはそれにも関わらず話を続ける。

「冬島さんは相変わらずだね、遠征はどうだった?今回は僕行けなかったからお話聞かせて欲しいな」

「遠征艇が小さくてよー!近くの席が出水で___」

「当真。」

 

再び話を止めたのは風間だ。

シオンは心の中でチッと舌打ちをした。

 

「出来れば僕は皆にお引き取り願いたいんだけど」

「いくらおまえの言うことでも無理だな」

「そういうと思った」

 

シオンは黒トリガーを右手に構えると風間を前に戦闘態勢に入る。

 

「このシオンが珍しくこれなんで、ジャマしないで欲しいんだけど」

 

今にも風間達に飛びかかりそうなシオンを迅が手で制しながらそう言う。

 

「俺達の目的も分かってるわけだな」

 

太刀川はどこか余裕があるように言った。

 

「うちの隊員にちょっかい出しに来たんだろ?」

「なんだ迅、いつになくやる気だな。珍しくシオンも戦闘態勢に入ってるし、面白い」

 

 

バチバチと火花が散りそうな雰囲気の中、

 

「『模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く禁ずる』隊務規定違反で厳罰を受ける覚悟はあるんだろうな?迅、シオン」

 

風間の強気な台詞にシオンの体制が崩れる。

 

「それを言うならうちの後輩だって立派なボーダー隊員だよ、あんたらがやろうとしてることもルール違反だろ風間さん」

 

「立派なボーダー隊員だと……!?ふざけるな!近界民を匿ってるだけだろうが!」

 

三輪に反論するためにシオンが口を開いた。

"彼は正真正銘のボーダー隊員だ"と。

 

「いや、シオン。正式入隊日を迎えるまでは本部ではボーダー隊員と認めていない。一月八日まではただの野良近界民だ、仕留めるのになんの問題もないな」

 

太刀川の冷酷な目がシオンを写す。

 

「……なんて慶さんらしくない賢そうな発言…」

「邪魔をするな迅、シオン。お前達と争っても仕方がない。俺たちは任務を続行する」

 

風間がこの件を諦めないのは性格的にも分かっていた。だからこそこちらも諦めない。何としてもお引き取り願う。もしもそれがダメであればーー

 

「ほかの連中相手ならともかく、俺達の部隊を相手にお前達二人で勝てるつもりか?」

鋭い目線が刺さりそうなくらいだが、シオンはそんなの気にもせず呑気に「うん」と答えた。

「だそうで、うちのシオンもいるし、「俺達二人だけじゃない」からね」

 

「……!?」

 

迅の言葉と同時に近くの屋根に到着したのは

 

「嵐山隊現着した。忍田本部長の命により玉狛支部に加勢する!」

 

ボーダーA級五位、嵐山隊だ。

 

「忍田本部長派と手を組んだのか……!」

「遅くなったな迅、シオン」

 

タン、と地上に降り立った嵐山隊の面々は爽やかな顔でこちら側へついた。

 

「珍しいですね、園田先輩が前線に出るなんて」

「木虎久しぶり、何かを守るって時は出るよ、前線くらい。木虎こそ珍しいんじゃない?三雲くんのために来ちゃった感じ?」

「命令だからです!」

 

何はともあれ、心強い味方もいる。

これでこちらは勝ったも同然だ。

 

「嵐山達が居ればはっきり言ってこっちが勝つよ。おれのサイドエフェクトがそう言ってる。俺だって別に本部と喧嘩したいわけじゃない、退いてくれると嬉しいんだけどな、太刀川さん」

 

「なるほど、未来視のサイドエフェクトか……ここまで本気のお前は久々に見るな、面白い」

太刀川は弧月に手をかけ抜刀する。

 

「お前の予知を覆したくなった」

「やれやれ、そういうだろうなと思ったよ」

迅もまた「風刃」に手をかける。

それを筆頭にそれぞれが戦闘態勢に入り、互いが互いを見つめ合った。

 

「……太刀川、迅もいいがシオンにも警戒しろ」

「わーってるよ」

 

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