【ストック】
・・・ストックはアブラナ科のアラセイトウ属。
和名はアラセイトウ。
紫のストックの花言葉は「おおらかな愛情」
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ーーそれは今から六年前の事。
生まれてすぐ親に捨てられたシオンは孤児院で育った。しかし施設では大人の手が足りずシオンはほぼ放置状態。五歳になる頃にはSEも発現し、触れた相手の心が聞こえるようになっていた。
当然周りからは気味悪がられ、話しかけたり触れる人などもいない。完全に孤独であった。
そんなシオンが十三歳になった頃、シオンは一つの決断をする。
ーー施設を抜け出そう
行く場所はない。しかし帰る場所もない。ただひたすら遠い場所へ走って一人になりたい。
そして逃げ出したシオンはその後様々なアクシデントの後、機密組織ボーダーに加入することとなった。
「触れた相手の思考を読めるサイドエフェクトか……」
ボーダーに加入して少し経った頃、普段なら悠花と稽古をするはずの日に、シオンは何故かとある部屋に連れていかれた。
師匠として正式にシオンの相手をしていた悠花は、「君のことをきちんと調べておきたい」とシオンの能力を解析し始めたのだ。
そして、検査を終えた悠花がパソコンを前に呟いた。
「……」
「所謂テレパシーってやつね!今のところ触れてから三秒間しか聞こえないみたいだけど、SEもトリオン器官も成長するものだからこの先どうなるかは分からないなー。もしかしたら一ミリでも触れたら聞こえてしまったり、触れなくても近くにいるだけで声が聞こえるかもしれない。」
「やっぱり僕は化け物なんだ」
「違う違う!凄い才能だねってこと!」
「才能……」
シオンは自分の力が嫌いだった。人の心が聞こえてしまうことは決して気持ちのいいことではないからだ。故に、今までその力を才能などと言われたことは無かったし、言われることはないと思っていた。
ーー悠花は初めて自分を肯定してくれたのだ。
「シオン、自分に自信が無いのは悪いことじゃない。でもこれだけは知っておいて。少なくともボーダーにいる私達は貴方を見放したりバカにすることは決してない。だから安心してここを貴方の帰る場所にして欲しい」
向き合った瞬間、瞳がぶつかり合う。
帰る場所にして欲しい。ーーそれは綺麗事にはあまりにも真っ直ぐすぎる、シオンにはもったいない言葉だった。
「悠花さんは変な人すぎる。」
「あはは!なにそれ!悪口?」
「ううん、凄く変だけどそこに救われた」
この人について行きたいと素直に思った。それは6年経った未来でも変わらない。
弟子としてだけではなく、的場シオンという人間として心から思っている。
「ねぇシオン」
悠花は優しい声で名前を呼ぶ。シオンは不思議そうに返事をする。
「あのね、この前最上さんや城戸さん達と少し話したんだけど……」
悠花は息を吸って、
「ーー私の苗字を貰う気はない?」
「……は」
吐くと同時に衝撃の言葉が耳に入り、シオンはぽかんと口を開けた。
「的場って苗字、あまり好きじゃないんでしょ?」
「……そう、だけどでも」
「私は師匠として、家族としてシオンを受け入れる覚悟は出来てるよ。貴方が良ければだけどね!」
「いいの?」
うん。コクリと頷く悠花が、小さく微笑む。
「やだ、何、泣いてる!?」
「ないてない!」
純粋に嬉しかったのだ。生まれた時から家族と呼べるものもいなかったシオンにとって、これ程の幸せはない。
「もー!悠一が見たらぜっったいまた私が泣かせた!って言うやつなんだからね!よし、落ち着いたら訓練行くよ。''園田シオン''!」
△
十二月も後半に差し掛かり、玉狛の新入り達の訓練もラストスパートに入っていった。
グツグツと煮える鍋を前に全員でテーブルを囲む。
冬には鍋だよね!とシオンが言ったことから今日の晩御飯は鍋になった。
「訓練お疲れ様、最近中々顔見せられなくてごめんね、どう?調子は」
煮えた鍋をよそいながら新入り達に聞いてみる。師匠組からある程度報告は聞いていたので順調なのは分かっているが、やはり本人からどんな調子かは聞いておきたいところだ。
「はい、おかげさまで」
三雲がははと苦笑しながらお茶を飲んだ。
「遊真は小南に勝てそう?」
「後少しってやつだ」
「ちょっと!後少しも何もぜんっぜんなんだからね!!!!」
むふふ、と余裕な笑みを浮かべる遊真と、それにすかさず否定を入れる小南。
随分と玉狛も賑やかになったものだと苦笑する。
まだ宇佐美も烏丸も来る前の事を思い出して、隣に座っている迅を一瞥した。
「何?」
「いや、賑やかなだなって思っただけ」
「あー、そうだな」
(師匠がいればもっと騒がしかっただろうにな)
迅は目を逸らし、シオンも気まずそうに鍋を見つめた。
「そういえば、宇佐美先輩から聞いたんですけどシオンさんの師匠ってどんな人なんですか?」
グツグツと煮える鍋の向こうで、少し曇ったメガネがこちらを見て尋ねた。玉狛の新人、三雲修。彼は迅の師匠である最上の事は話として知っているが、シオンの師匠は知らないので知りたい、と言う。
以前黒トリガーを見せてこれが師匠だとは言ったが、それ以外特に変わったことを言っていないからだろうか
「あはは、そうだなぁ。まぁすっごく騒がしい人だったよ」
「騒がしい人、ですか」
「うん。凄く騒がしくて明るい、そんでお節介な破天荒すぎるお姉さんだった」
ーーもしここにいたら、きっとびっくりするよ
シオンはポケットに入ったトリガーに触れて懐かしい師匠の顔を思い出す。彼女の話をしていると、何となく隣にいるような気がした。