空色少女は働きたい   作:とはるみな

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日常のようなもの 7

 魔法とは何か。

 魔法使いとなる前、後に師匠となる人物に一番初めに聞かれた質問がそれだった。

 

 神秘的な力? 奇跡の結晶?

 どれもウンとこない。

 だから正直に答えた。

 

 知ってるけど知らない、凄い力と。

 

 では、魔法を何の為に習得しようとしている?

 そんなものは決まっている。今度は間を空けず答えれた。

 

 魔王を倒すため。と。

 

 俺の即答に師匠は大層満足したのか、豪快に笑いを飛ばし、俺はその日のうちに正式な弟子となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駅前のショッピングモール。

 すなわち人の魔窟である。

 いついかなる時でも混んでいて空いている時など殆どない。

 ただでさえ見た目が派手で注目を集めやすい俺たち転生者からしたら決して行きたくない場所ランキング上位に入る場所。万が一訪れるとしたら当然フード付きの服は必須である。

 

 

 何を買うかまでは聞いてないが、黒髪剣士の行きたいところはそんなショッピングモールに存在しているらしかった。

 

 軽はずみに空いてるなんて言わなければよかった。

 パーカーを軽く抑えながら、緑髪の後に続く。

 

 銀髪小人は今日は赤髪吸血鬼の所に行く予定があったらしく来ておらず。黒髪剣士とはショッピングモールに着いた辺りで一旦別れた。

 

 職場の先輩が居たらしい。挨拶に行くとか何とか。

 俺たちのが先約なのに、なんて言葉は言わない。職場における上下関係の厳しさを知っているからだ。

 

 ーーあぁ……働きたくなってきた。末期かなぁ。

 

 …ところで。

 

「…緑髪……」

「? はい、なんですか?」

 

 キョトンとした顔で振り返る緑髪に、俺は目立たない程度の声で言った。

 

「お前…何でフード外してるんだ……」

 

 今日の緑髪の服は俺と同じフード付きパーカーの色違いである。

 この服は大きめのフードが特徴で長い髪も隠すことができるのだが、緑髪はフードを外していた。

 おかげで派手な緑髪は人目を引きつけ、同じ服で一緒に歩いている俺にまで視線が突き刺さる。

 

 しかし、緑髪は何も気にした様子を見せず、逆に不思議そうに首を傾げた。

 

「だってフードしてたら髪ボサボサになっちゃうじゃないですか。むしろ何でフードしてるんですか」

「目立つからだよ」

「フードしてても目立つと思いますけど…現に目立ってますし」

「お前のせいでな」

 

 ええー…とぼやく緑髪に、俺は頭を抑えた。

 

 そうだ、緑髪はこういう奴だった。

 パーカー着て来たからって隠す意志があると思い込んでいた俺が馬鹿だったんだ。

 

「ちなみに聞くけど髪を隠す気ないなら何でそのパーカー着てきたんだ」

「? ソラさんとペアルックですよ? 着ないわけがないじゃないですか」

「あぁ、そう…」

 

 早く黒髪剣士戻ってこないかな。

 

 適当に合流する、と言っていた黒髪剣士のことを思い出す。集合場所は決めてないが、身体能力に優れた黒髪剣士のことだ。先輩と別れ次第すぐに駆けつけてくれることだろう、多分。

 

「じゃあソラさん! 次はゲーセンに行きましょう! 私ゲーセン初めてなんです」

「………そっか。うん、よかったね」

「ええ! 行きますよ!」

 

 はしゃぐ緑髪に引っ張られながら、切実に思う。

 帰りたい、と。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、軍資金はこのくらいにしときましょうか。あれやりましょう、あれ。昔から気になってたんですよ」

 

 両替機で福沢諭吉を百円玉に変えた緑髪は、某太鼓ゲームを指差した。

 緑髪と違い、ゲーセンが初めてなわけではない。来たことは何度かある。しかし、某太鼓ゲームだけはやったことがなかった。

 

 理由は単純で、目立つから。

 観衆に晒されながらやるゲームとか何の拷問だろうか。少なくとも俺には無理だった。

 

「嫌だ」

「よし、やりますよ」

「聞けよ! あぁ…もう……仕方ないなぁ…」

 

 周りを見渡して、誰もいないこと確認した俺は備え付けられていたバチを手に取った。

 少しして難易度選択が表示される。

 

 無論難易度は簡単以外あり得ないーーー

 

「簡単じゃつまらないですよ! やるなら最難関、です!」

「は!? 馬鹿! やめろ! 無理だって! うわ、ホントにやりやがった……」

「一緒に頑張りましょう。やってやりますよー!」

 

 フンス、とやる気を出す緑髪に溜息を吐く。

 

 初心者に最難関が出来るわけないだろ……。

 

 

「………」

「…あれ? ひゃ、何で重なってるんですか!? ズルイですよ!」

「………腕痛い…」

「ああああああ…無理無理無理ー!!!」

 

 結果は見るまでもなく惨敗。

 

「あのお姉ちゃんたち下手くそー」

 

 いつの間にか近くにいた子供にもそんなことを言われる始末。

 

「うん、二度とやらない」

「はい。このゲームはハードルが高過ぎましたね。当分いいです」

 

 流石の緑髪も子供に言われたことに堪えたのか。

 静かにバチを置いて、二人で無言で頷き合った。

 

 

 刹那、太鼓ゲームから流れ出す機械音。

 

 

 

 

『ーーーもう一曲遊べるドン』

 

 

「「はぁ!?」」

 

 

 

 

「先輩、ありがとうございました。何から何まで」

「いいよ。レン君にはいつも助けられてるからね。それに名義貸しただけだし。まぁ、夜逃げされたら困るけどさ」

「そんなことはしませんよ…絶対に!」

「あはは、冗談だよ。レン君のことは信じられるからね。それにしても四台も何に使うの?」

「…流石に連絡手段がないと困りますからね。家族に渡そうかなと思いまして」

「うん、やっぱり良い子だね。レン君は。じゃあそろそろ私行くから。また職場でね」

「はい! 本当にありがとうございました!」

 

 

 去っていく先輩の後ろ姿が完全に見えなくなった後、黒髪剣士は紙袋を抱えて目を閉じた。

 

 気配探知。

 身体能力とは別に異世界で身に付けた技能を使用する。

 人が多いところだと気配が絡まりあまり効果は発揮しないのだが、転生者は歪な気配をしている為、空髪や緑髪を探す分には問題なかった。

 

 ーーー居た。

 

 場所は恐らく三階。

 ここから少し距離があるが問題ない。

 

 ーー喜んでくれるだろうか?

 

 黒髪剣士は紙袋を一瞥すると、ゆっくりと気配のする方へ歩いていった。

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