空色少女は働きたい   作:とはるみな

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日常のようなもの 9

 好きなことだけをして自由に生きる。

 

 

 そんな夢が絶たれたのはいつの頃だっただろうか。

 自由に夢を見れるのは幼少期までだった、と。

 大人は口を揃えて言う。あの頃は楽しかったと。

 

 人とは後悔してばかりの生き物だ。

 どれだけ優れた人間でも、過去に囚われる。

 

 かく言う僕も、その一人であり。

 無邪気に夢に向かっていた過去を、妬ましく思っていた。

 

 

 

 

 

 

「け、携帯ぃいいい!?」

 

 日もすっかり傾き、夕暮れの赤い光が差し込む頃。

 ぼろアパートの一室では三人の女性の声が共鳴していた。

 

「あぁ、携帯だよ」

 

 そう言って唯一の男である黒髪剣士が袋から取り出したのは、携帯電話の写真が描かれた四つの箱。

 空色の髪の少女は恐る恐る、その箱のうちの一つを手に取り、中身を取り出す。

 割れ物を触るかのような手付きで、包装をゆっくり剥がした空髪少女は、ほう、と感嘆した。

 

「本物だ」

 

 空髪少女の言葉に、そばにいた緑髪の少女と銀髪の少女も箱の中身を手にした。

 

「ほ、本物ですよ。ソラさん、レーテさん」

「確かに本物だね」

 

「いや、そりゃそうだろ。聞いたことないメーカーならまだしも、有名メーカーで偽物掴まされてたら洒落にならないだろ」

 

 少し呆れた様子を見せる黒髪に、それもそうだね、と銀髪少女は言を挟んで、問いかけた。

 

「何でこのタイミングで買ったの?」

「このタイミングだからこそだよ。ほら、明日皆で集まるだろ? だから連絡先を交換しようかと思ってさ」

「あー、うん理解したよ。確かに今のままだとリュー達くらいにしか連絡取り合えないしね。連絡手段はあったほうがいいね。相手が持ってなくても連絡先伝えておくだけでいずれ交換できるし」

 

 したり顔で頷く銀髪少女は、まだ分かってなさそうな緑髪少女の方を向いて言う。

 

「要するに、皆と自由に連絡が取れるようになるってことさ」

「いや簡単に纏めすぎだろ…」

 

 空髪少女が思わず突っ込むが、緑髪少女は特に気にした様子も見せず、本当ですか! と目をキラキラさせた。

 

「リーフちゃんは誰と連絡が取りたいのかな?」

「カガリさんです! あの人カッコよくて、本当憧れてるんですよ。あぁ、これでカガリさんといつでも連絡が取れるんですね!」

「カ、カガリ? そ、そう………ま、まぁほどほどにね……」

 

 返答を聞き、何やら深刻そうな表情で考えだす銀髪少女。

 時折口から漏れる、『真実を知らない』『取られちゃう』『守らないと』という言葉に首を傾げつつ、空髪少女は黒髪に向き合い、頭を下げた。

 

「何から何までごめん。この借りは絶対すぐ返すから」

「いいよ、俺が好きでやったことだし」

「働けたら今度は私がスイーツバイキング奢るよ」

「それはやめてくれ」

「え、あ、そう? …けど甘いもの好きなんだろ? 今日もたくさん食べてたし…」

「やめてくれ」

「わ、わかった」

 

 有無を言わせない本気のトーンに、首を傾げながら肯定する空髪の少女。

 解せないと言わんばかりの空髪少女の後ろから、緑髪少女が身を乗り出した。

 

「はいはーい! じゃあ私が奢ればーーー」

「やめてくれ…頼むから……」

「こ、懇願だと……僕が付いてない間に何があったんだ……!?」

 

 必死に懇願する黒髪に、銀髪少女は目を剥いて緑髪少女と空髪少女を見る。

 だが、二人はキョトンとするばかり。

 

「え、だって普通にたくさん取ってたし」

「はい、全然余裕そうに食べてましたし」

 

 本気で分からないと言った様子の二人。とぼけた様子はない。

 しかし、黒髪の様子を見るに、スイーツバイキングで何かやられたのは間違いない。

 

 銀髪少女は少し考えて、二人に問いかけた。

 

「…ソラちゃん、リーフちゃん。レン君は今日たくさんスイーツを取ってたんだよね?」

「あぁ。そりゃもう山が出来るくらいにはな。正直引いた」

「あはは。言い過ぎですよ、山が出来るまでは取ってませんよ私」

「そっか……ん? まさかお前が黒髪のスイーツを持ってきたの?」

「あれ、言ってませんでしたっけ…?」

「…オーケー。ありがと、だいたい読めたよ。災難だったねレン君。リーフちゃんに悪気はないんだ、許してやってくれ」

「悪気がないからこそ困るんだよ。別に怒ってはないさ。ただ、もう二度とスイーツバイキングはいいかなって。甘いものも当分見たくない」

 

 どうやら代償は高くついたようだ。

 すっかりスイーツバイキング恐怖症になった黒髪に、銀髪少女は悪どい笑みを浮かべた。

 

「そうなると、僕一人だけスイーツバイキングがないってことかな……残念だよ…本当…甘いもの食べれると思ったのに…」

 

 今にも泣きそうな表情でうるうると目を潤わせる銀髪少女。その中学生染みた容姿も相まって、悲壮感を一層醸し出していた。

 

「え…えぇ……。わ、分かった、連れていくよ。あぁ、絶対に……」

 

 声を震わせて覚悟を決める黒髪に。銀髪少女はプッと吹き出し笑った。

 

「あはは…冗談。冗談だよ、僕は特段甘いものが好きってわけじゃないし。それに携帯も貰ったのに、そこまで求めるのは悪いよ。ね、皆」

 

 そう言って流し目で空髪少女と緑髪少女を見つめる銀髪少女。

 

「うっ…借りは必ず返します」

「はい……」

 

 シュンと項垂れる二人。

 慌てて黒髪がフォローに入ろうとするが、銀髪少女は黒髪の唇に手を当てることでそれを未然に防いだ。

 

「そうやって甘やかすのは君の悪い癖だよ。ほら、これ受け取って」

「これは…?」

 

 胸に押しつけられた封筒を手に持って困惑する黒髪。

 

「代金。多分足りないから、返済までもうちょっと待ってくれると助かるよ」

「は? いや代金はいらなーーー」

「だから甘やかすなって言ってるの。僕はもう十分施しは受けてる。これ以上は望まないし、いらない。それに勘違いしてるようだから言っとくけど君は僕たちの保護者じゃないーーー」

 

 

 

「ーーー僕たちの大切な家族なんだ。家族は助け合うもの。一人に負担かけるわけには行かないんだよ」

「そうか…分かった。これは受け取っとく」

 

「あ、あのー…ですね。レンさん……今月はちょっとピンチでして…来月まで待っていただけると……」

「分かった」

 

 気まずそうに告げる緑髪少女に黒髪は強く頷く。

 

「えーと…俺は……」

「ソラちゃんは返せないでしょ……それより明日だよ、分かってる? 少しは女の子らしい言葉遣いにしたら」

「う、うるせー…分かってるよ……。働けたら返すから……その時まで待っててくれレン」

 

 

「…! あぁ…分かった」

 

 名前を呼ばれたことに対し感動を覚える黒髪に、そう言えば、と銀髪少女が声を上げる。

 

「皆が帰ってくる前にカガリが来たんだけどさ。明日の集合場所ここらしいんだよね…」

 

 そう言って銀髪少女が地図を取り出し、ある箇所を指差した。

 

「げ…」

「墓地裏……しかもここかなり有名な心霊スポットじゃなかったですか?」

「誰が借りてるかまでは知らないけど、事故物件で安かったんだとさ……。確かにアンデッド如きに呪われるほど僕たち弱くないけどさ……常識的に考えて事故物件はないでしょ…」

「あ、アンデッド……誰がそんな家を借りたんだ! ふざけるな」

「あれ? ソラちゃんそういうの駄目だったっけ」

「はい、お化け全般苦手でしたよ。王宮に勤めてる時も、私の部屋にしょっちゅう来てましたし」

 

「ぜ、前途多難すぎる……! 行きたくねぇ!!」

 

 空髪少女の悲痛の叫びがボロ部屋に響いた。

 

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