日曜日。
ついにやってきた集会当日。
俺は鏡に映る自分の姿に既に行く気を無くしていた。
ツンとした鼻は物語に出てくる妖精のようで。氷のような美しさと鋭さを持った瞳に、雪の如く滑らかで白い肌。それに空色の髪も合わさり、ファンタジー感溢れる容姿にも関わらずそれを自然に感じさせるほど上手い具合にマッチしている服装。
どこからどう見ても美少女。
これが俺なんて信じられないし、信じたくない。
この時点でもう黒歴史入りは間違いなかった。
「鬱だ。行きたくない。何であの時性別偽ったりしたんだろ。あー死にたい…」
「あーもう、ウジウジ言ってないで男ならバシッと覚悟を決めなよ。ほら口調もちゃんと直して」
「男物の服着てるお前には俺の気持ちなんて分からねぇよ…。いっそお前もセーラー服でも着てみろよ、そしたら俺の気持ちが分かるからさ」
「着てたまるか! ほ、ほらリーフちゃんだって女物着てるわけだしさ」
そう言って銀髪小人が指差す方向には手鏡を使って身嗜みを整えている緑髪がいた。
その身に着けているオフショルダートップスは肩出しタイプのもので、露出が多い。
また、豊かな胸が女らしさを強調していた。
「…アイツと比較するのはおかしいと思う」
性転換したなんて嘘嘘。絶対元から女じゃん。
にしても緑髪、改めて見ると胸でかいな。邪魔じゃないのかなアレ。いや絶対邪魔だろ、うん。
良かった、俺は無くて。
何となく自分の胸に目を見やりながら呟いたのが悪かったのだろう。
ニヤニヤと悪い笑みを浮かべた銀髪小人がグイッと肩に手を回してきた。
「まぁまぁ、ぺったんこだからって落ち込まない落ち込まない」
「な、落ち込んでねーよ! むしろホッとしてるわ! 胸なんてあったって邪魔だろ!」
「無い人が言うと説得力がまるで無いね。それにそんなにムキになって反論するってことは本当はやっぱり?」
「そろそろ殴るぞ」
ドスの効いた声で言うと、銀髪小人は「降参降参」とわざとらしく手を上げた。
「で、ぶっちゃけお前はどうなんだ。欲しいと思うのか…?」
「勿論要らないよ。それに関してはこのロリボディで良かったと思ってる。胸なんて男の視線を集めるくらいしか需要がないじゃんか。そんなデメリットしかないのなんていらない」
「だよな……本当ぺったんこで良かった」
ホッと胸を撫で下ろす。
元男として男に性的な目で見られることほど恐怖はない。想像しただけで気持ち悪い。
「二人で何話してるんですか?」
なんて会話していると、身嗜みを整え終えた緑髪がその長い髪を耳にかけながら近づいてきた。
いちいち仕草が女っぽい。
「ほら。こういうところだよ、ソラちゃん」
「何の話?」
「リーフちゃんを見習いなってこと。集会の間は女の子なんだから、恥ずかしいかもしれないけど、ああいう仕草も覚えてた方がいいよ」
「は、コレを見習うのか…!? いやいや無理無理。流石に難易度が高過ぎるだろ」
「そう? けど昔のソラちゃんは普通にやってたよ、ねぇ、リーフちゃん?」
「はい。元男だと見抜けませんでしたからね」
「え、マジ…?」
過去の俺、今の緑髪っぽいことやってたの?
…覚えてないんだけど。何してんだ俺…? 本気で過去の自分を殺したい。
「と、ところでレーテちゃんは何で着替えてないんですか? この前渡したはずですけど」
不穏な空気を感じ取ったのか、緑髪が露骨に話題を変えた。
自然と視線が銀髪小人の体へと向く。
いつも通りのジャージ姿だ。
「い、いや僕はこれでいいんだよ……」
視線を向けられていることに気づいたのか、たじろぐ銀髪小人。
「なんて言ってますけど、ソラさん。どう思います?」
「……」
顎に手を当て考える。
自分がやられて嫌なことは人にやらない。
子供の頃からよく言い聞かされてきたことだ。これが黒髪剣士とかなら俺も止めてあげよう、そう思えただろう。
だが銀髪、お前はダメだ。
「……」
「ソラちゃん、僕達の仲じゃないか……」
「…俺はさ、考えたんだ」
「な、何を?」
恐る恐る訊ねてくる銀髪小人。
そんな銀髪小人に俺は、口角を吊り上げながら言った。
「これが逆の立場だったらお前がなんて言うかをな。悪いな、有罪だ」
「ギルティですね!」
「ソラちゃん!? 嫌だ!? 僕に近寄るな!? 助けてえええ!?」
ボロ部屋に銀髪小人の声が響いた。
ちなみに余談だが、防音性はほとんどないのでこの部屋での叫び声は他の部屋に丸聞こえである。
黒髪剣士がアパートの住民から鬼畜下衆野郎と囁かれている原因でもあった。
◇
十分後。
部屋の中にはセーラー服に身を包む銀髪小人の姿があった。
無論用意したのは緑髪である。事実俺は知らないし関わってない。
が、銀髪小人は先の会話から俺が関与していると思ったようで。
緑髪にセーラー服を見せつけられた時の銀髪小人の謀ったな! という表情が忘れられない。
許せ銀髪。確かに似合うとは思ってたけど、本当にセーラー服があるとは思わなんだ。
手を合わせ合掌。黙祷した。
「ぐすん……ぐすん……もうお婿になれない…」
「いや元々もうお婿にはなれませんよ」
「……冷静なツッコミをどうもありがとう…」
目に手を当て啜り泣いている銀髪小人に冷静なツッコミを入れる緑髪。
「ま、まぁ。セーラー服は元々海軍の服だったっていうしさ…」
「何のフォローにもなってないから少し一人にして……心の整理をするからさ」
そう言い残しトイレへと向かっていく銀髪小人。
その哀愁漂う後ろ姿を見ると、少しやりすぎたかと罪悪感が僅かに込み上げてくる。
まぁ後悔も反省もしていないわけだが。
むしろ少しスカッとしたのは内緒である。
「それにしても、よくセーラー服なんて買えたな」
「普通に服屋に売ってましたよ」
「普通売ってるものなのか…」
「それにセーラー服姿の銀髪美少女って素晴らしいと思いません?」
「いやまぁ確かに……良かったけどさ…」
けどなんて言うか、犯罪臭がするって言うか。
「じゃあ着替えも終わったことですし、そろそろレンさん呼び戻しましょうか」
「黒髪も難儀だよなぁ。別に着替えを見られたところで何とも思わないのに」
「私も見られても構わないって何度か言ってるんですけどね……全然聞いてくれなくて」
顔を見合わせて二人でため息。
「じゃあそろそろソラさんもソラちゃんに切り替えた方がいいですよ」
「そう…ね……。あぁ…本当行きたくないわ…ね」
いよいよ今日。
数時間後には集会が始まる。
俺は大きく溜息を吐いて、「隕石よ降れ」と神に祈った。