異世界において俺と一番付き合いが長かったのは緑髪、次点は紫髪だった。
別に深い理由はない。
そもそも男と女で生活が別れていたため、女とされていた俺は緑髪や紫髪と関わる機会はほとんど無かった。
それでも一緒に行動していた理由は、魔王討伐の手掛かりを得るためという題目で各自バラバラに別れた際、偶然同じ方向に歩いていたから。それだけである。
故に街に着いたら緑髪達ともバイバイする予定だった。
まぁ、緑髪に変に懐かれた所為で別れるに別れられなくなったわけだが……。
…話を戻そう。
紫髪がどんな人物か。
一言で言えば彼は厨二病だった。邪気眼系の。
異世界転生が後押ししたのか、かなりなほど重症化していた。
俺たちが魔法使いになったのも、紫髪の影響であると言える。
緑髪とは違うベクトルで厄介だった。
明らかに貴族っぽい人にも突っかかるし、勝てない魔物にも命が危なくなるまで強者アピールを欠かさない。
その一方で緑髪は自ら奴隷になろうとするし、もうキャパがオーバーしてバルスしていた。
常識人である黒髪剣士と銀髪小人と合流した時には、思わず感涙してしまうほど振り回されたものだ。
それは現代に戻っても変わらず。
紫髪が一人暮らしがしたいと別れを切り出した時には、寂しさより安堵が先に出たほど。
まぁ、その結果がコレなんだけどな……。
どうして普通の生活を送れないんだ……普通の家を借りろよ…。
蜘蛛の巣が張り巡らされている玄関。天井には蝙蝠がいて、床には赤い絵具で描かれた魔法陣らしきものが。
壁には無数の西洋人形と何故か熊の頭の剥製が飾ってある。
いかにもB級ホラー映画に出てきそうな光景に、俺は頭を抑える。
悪態を吐くなって言う方が無理があるだろ…。もうアホかと。
アンデッドが出てきたらどうするんだよ、俺は帰るぞ。いやホントマジで。
「ここがタカシ君のお家ですか。何というか独特ですね。けどこの熊さんと魔法陣はカッコいいです。人形もいい感じに雰囲気を醸し出してますし、センスあり! ですね」
「!?」
だからこそ、緑髪の言葉に俺たちは戦慄した。
緑髪の表情は真剣そのもの。
冗談でもなく本気で言っている。
「いやいやいやセンスはないぞ!」
「ええ、これはセンスないわ!」
「うん、センスはないと思うよ」
「え…そうですか? 外装と内装がこれほどまでマッチングしてるのでセンスがあると思ったんですけど」
「そもそも外装から零点なんだよ。零点に合った内装なんて零点に決まってるでしょ」
「うーん、そう言うものなんですかね」
「そう言うものなんだよ!」
「…ですけどーーー」
納得したような、してないような。そんな微妙な表情を浮かべる緑髪に、銀髪小人は強引に話を切り替えた。
「それとここではタカシじゃなくて
「え、あ! そうでしたね。忘れてました。私達だけの秘密、でしたね! で、さっきの話―――」
「さぁさぁ無駄話はそこまでにして、そろそろ行こうか! カガリに早く会いたいんでしょ!」
緑髪に話は通じない。説得するだけ時間の無駄。有無も言わせず、緑髪の背中をぐいぐい押して前に進ませる銀髪小人。
緑髪は俺には止められないから本当助かる。
ホッと胸を撫で下ろし、先頭を歩く緑髪の背後に付いてギシギシと軋む廊下を進んだ。
◇
そこは異様な空間だった。
黒いソファの上に優雅に座り、真っ赤な液体の入ったグラスを傾ける赤髪の吸血鬼。
その側に立っているのは血の付いたナイフを片手にした白髪の龍人。
カーペットの上に座禅をしている六対の羽を生やした藍髪の天使。
頭の上にチョコンと獣耳が生えている以外、人間と殆ど容姿が変わらない、なんちゃって獣人。
全身シルエットのように真っ黒な人型。
他にも金髪のエルフや、犬の頭をしたガチな方の獣人。ギターを片手に持った茶髪の少女、いかにもならず者っぽい強面のスキンヘッドがいた。
あまりにも強力且つ個性的な面子を前に、思わず「うっ」と言う声が漏れる。
「相変わらず濃い面子だね……」
「知り合いじゃなかったら間違いなく逃げ出しているわ」
「カガリさーん」と躊躇なく、あの集団の中に平然と入っていく緑髪と黒髪剣士に畏敬にも似た何かを感じる。
「その気持ち、我にも理解できるぞ」
背後からかけられた聞き覚えのある声に、うんざりしながら振り向くと案の定、紫髪が立っていた。
「いや
「違いないわね。こんな家に住む奴に理解できるはずがないわ。人を呼ぶならもっとマシな家にしなさいよ。悪趣味にも程があるわ」
「ひ、酷い言われようだな。大体、我は元より我が城に誰かを呼ぶつもりなんて微塵もなかったのだよ。あの白い龍が勝手に上がり込んで、場所を貸せと脅してきたから……」
「……」
余程強く脅されたのだろう。
ガクブルと体を震わす紫髪の言葉には、いつもの傲慢さがまるでなく素が出ていた。
そんな紫髪を何となく不憫に感じてしまう。
やがて震えが止まった紫髪はゴホンとワザとらしく咳払いをして、誤魔化すように口を開いた。
「と、ところで…さっきから気になっていたのだが。何故レーテとソラはそんな格好を―――むぐっ!?」
合図は不要だった。
爆弾を落としかけた紫髪の口元を俺が押さえ、銀髪小人が首元にボールペンの先端を当てる。
一瞬の間の出来事に、紫髪は何が起こったか分からないと言った表情をしていた。
「………あ、あの? 二人とも…?」
「余計な口出しはしないでくれる? 次は寸止めじゃ済まないわよ」
「僕たちはやりたくてやってるわけじゃないんだ。仕方なくなんだ。ねぇ、分かってくれるよね、タカシ君?」
他の人には聞こえないよう、耳元に口を近づけて脅し。
紫髪が何度も頷くのを確認して解放する。
「ほ、本気で死ぬかと思った……目がガチだった……」
冷や汗をダラダラと流し、涙目になっていた紫髪は、高慢な態度が抜けすっかり素に戻っていた。