空色少女は働きたい   作:とはるみな

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ロールとセーラーな集会 3

「久しぶりだな、ソラ」

「久しぶりね、赤髪吸血鬼」

 

 紫髪との一悶着の後。

 そう言って俺たちを訊ねてきたのは先程まで緑髪と喋っていた赤髪吸血鬼だった。

 既に他の人の所へ挨拶しに行ったのだろう、その側に緑髪の姿はない。

 珍しいことにいつも仕えている白髪龍人の姿もなかった。

 

 ちなみに辺りに紫髪の姿もない。トイレで泣いてるんじゃないかな。知らんけど。

 

「家に向かっても中々会う機会に恵まれなかったからな。会いたかったぞ」

「そ、そう?」

 

 俺は別に会いたくなかったんだけどな。

 ていうか今後も会いたくないです。

 

「ああ…会いたくて会いたくて会いたかった」

「え……う、うん。わ、私もよ。ええ…」

 

 目を赤く光らせ、手を広げながら近づいてくる赤髪吸血鬼。

 心なしか頬も紅潮しているように見える。

 

 何か怖いんだけど…。

 

 ジリジリと寄ってくる赤髪吸血鬼に、少し引いていると、傍にいた銀髪小人が俺の前に出て手を広げた。

 

「ソラちゃん、下がって」

 

 赤髪吸血鬼を警戒心丸出しで睨みつける銀髪小人。

 

「やあやあ、カガリ。僕には挨拶はないのかな」

「なんだ、小人じゃないか。いたのか、小さすぎて気づかなかったよ。て、な、なんだ貴様その格好。ふっ、ふふふふ、わ、笑い殺す気か…!?」

「う、うるさいな。これには深い深い事情があってだね」

 

 そうだ、緑髪の暴走っていう深い深い事情があったんだよ。あれ、別に深くなくね?

 

 暫しの間、お腹を抑えてヒィヒィと息を溢していた赤髪吸血鬼は何とか呼吸を整えると、銀髪小人の肩に手を置いて、真剣な眼差しを向けた。

 

「どんな事情があったらセーラー服を着ることになるんだ。まぁ、ともかく似合ってるぞ。うん可愛い可愛い」

「黙ってくれる!? 別に可愛いなんて言われても嬉しくないんだよ!」

「ソラも勿論可愛いぞ。あぁ、可愛すぎる。そこいらのアイドルなんかよりもずっと可憐だ。愛おしいほどな」

「そ、そう。ありがと」

 

 うっとりした目で見つめてくる赤髪吸血鬼から目を逸らし、コイツを何とかしろと銀髪小人に視線を向ける。

 

 確かに自分が可愛らしい容姿だって自覚はあるけどさ。言われ慣れてないから恥ずかしい。

 

 可愛い、って言葉よりも髪色が変、派手って言われる方が多いからな。面接でも毎回毎回……あれ、なんか悲しくなってきた。

 

「それじゃ挨拶も済んだことだし、さっさとリューの所に戻ったら?」

「いや、挨拶もそうだが、ソラに個人的な用があってな。悪いが小人は席を外してくれるか?」

「私に? 銀髪が近くにいたらダメなの?」

 

 え、銀髪小人と離れたくないんだが。と言うより赤髪吸血鬼と二人っきりとか嫌なんだが。

 

 銀髪小人も自分が外されたことに不満があるようで、口元をピクピクさせていた。

 

「なに、僕が近くにいると出来ない話なのかな?」

「あぁ、そうだ。元男の貴様が近くにいると出来ないガールズトークだ。分かったなら去れ」

「ガ、ガールズトークだって!?」

 

 ガールズトーク。そう言われると流石の銀髪小人も、退かざるを得ないと判断したのか顔を横に振った。

 

 待て待て待て。ガールズトークは俺にも出来ねーよ。

 

「分かった。ガールズトークとなれば僕は君の言う通り引くよ。てことで悪いね、ソラちゃん。何かされそうだったらすぐ呼んでくれれば駆けつけるから」

 

 そう語る銀髪小人の目には先程まであった警戒心は嘘のように消え失せ、代わりに好奇心が強く映っていた。

 

 うん、分かった。コイツ……今の現状を面白がってやがるな。

 

「じゃあまた後で」

「…ええ」

 

 この集会が終わったらぶん殴ってやる…。

 強く決意して、赤髪吸血鬼の方を見る。

 

「で、何の用よ。言っとくけど私にガールズトークってやつを期待しても無駄よ。友達いなかったから」

 

 俺は平然と言葉を連ねた。

 そこに嘘はない。確かに友達はいなかったし。

 

「そ、そうか…」

 

 赤髪吸血鬼の俺を見る目が、一気に可哀想なものを見る目になった。どうやら同情を誘えたらしい。これでガールズトークを止めてくれればいいんだけど。

 

「まぁ、ガールズトークと言っても簡単な確認なんだが」

 

 続けるのかよ。クソが!

 

「簡単な確認?」

「あぁ、ソラはレンと付き合っているのか?」

 

 暫しフリーズした。

 

 レン? 黒髪剣士のことか。

 黒髪剣士と俺が付き合っている?

 

 は?

 いや、は?

 

「ないわ、ありえない。無理無理、男と付き合うとか選択肢にないでしょ」

「そ、そうか!? で、ではリーフとレーテとは?」

「元男じゃない。ないわよ」

「そうか!」

 

 当たり前だろ。元男同士が付き合うとかありえないっつーの。

 そもそもアイツらは家族だ。愛せども、恋なんて感情を持つことはねぇよ。

 

 って、何でコイツこんなに目をキラキラ輝かせてるんだ?

 疑問に思っていると、唐突に赤髪吸血鬼が口を開いた。

 

「ではソラに聞くが、私の家に来る気はないか?」

「え…?」

「その家には男と元男しかいないのだろう? 純粋な女子のソラには窮屈な環境だと思う。その点私の家には、現在は男とは言え元女のリュー。それに私とシルが居る。今よりは居心地が良くなるはずだ。それに私の家とそちらの家も距離が近いからな。いつでも会えるだろう」

 

 魅惑的に微笑む赤髪吸血鬼。

 確かに魅力的な案だ。

 

 俺が元男じゃなければ。

 

「悪いけど………私は家族と離れたくない。皆大好きなの。だからその提案は遠慮させてもらうわ」

 


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