空色少女は働きたい   作:とはるみな

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ロールとセーラーな集会 4

 緑髪が唐突に何かをするのは珍しいことではない。むしろ何もしない方が異常だと考えるほどに俺は毒されていた。

 

「ソラさんは元の世界に戻れたらまず何がしたいんですか?」

「え? ちょっと待って」

 

 故にこうやって唐突に質問されたとしても俺はすぐに対応できるようになっていた。

 少し時間を貰い俺は考える。

 考えて。考えて…

 

「……うん? あれ?」

「どうしたんですか?」

「…ないかもしれない」

「え?」

「戻りたい理由がないかもしれない!」

 

 え、だって戻ったら会社とか会社とか会社とか会社とか会社とか会社とかがあるんだろ?

 フツーに嫌なんだけど。

 

 確かに異世界に来たばかりの頃は、社畜だった時の方が楽だったと思えてたけど。王宮勤めとかいう勝ち組の地位を獲得した今は異世界の生活の方が楽だし。

 やっぱあんまり戻りたくないかもしれない。

 

 

 そう答えると、緑髪は不思議そうに首を傾げた。

 

「家族とかに会いたいとは思わないんですか?」

「家族…家族かー…うーん別に会いたいとは思わないな」

 

 思い浮かべるのは実親の姿。

 俺はチッと舌を打った。

 

「多分、向こうも会いたいとは思ってないだろうし。むしろ居なくなって清々してると思うよ」

「そうなんですか?」

「うん。だから正直帰れなくてもいいと思ってる、わりとマジで。元の世界に戻ったところでやることもないしな」

「そう…ですか……」

 

 緑髪は暫し考えるような仕草をして、バッと顔を勢いよく上げた。

 

「じゃあ私と一緒にシェアハウスでも借りませんか?」

「は?」

「タカシ君とレン君、レーテちゃんも誘って五人で住むんです! どうですか!」

「いやアイツらは家族がいるだろ。それにお前にも……」

「確かにそれは聞いてみないと分かんないですね…。けど安心してください! 私は大丈夫ですよ。元々親元を離れて暮らしてみたいと思ってましたから。最悪、二人でシェアハウスしましょう! あ、でも学校卒業するまでは待ってください。中卒が最終学歴なんて嫌ですから」

「いや俺も了承したわけじゃ」

「いやー楽しみですね! ソラさん! これで元の世界に戻る理由ができましたね!」

 

 まるでもう決まったことのように語る緑髪にハァと深い溜息を吐く。

 

 本当にこいつは人の話を聞かないし。手は掛かるし。めんどくさい。

 

「男五人のシェアハウスとか誰得だよ…」

「絵面最悪ですね」

 

 けどまぁ、こいつのような馬鹿と一緒なら元の世界も少しは楽しくなるのかもな。

 なんてらしくないことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか。分かった。変なことを提案して悪かったな」

 

 まるで断られることが分かっていたかのように、やけにすんなりと赤髪吸血鬼は引いた。

 

「簡単に引くのね」

「まぁ十中八九断られるだろうと思っていたからな」

「ちなみにその理由を聞いても?」

 

 俺が訊ねると、赤髪吸血鬼は「単純なことだ」と笑った。

 

「私とレーテ達とでは過ごしてきた時間が違う。共に過ごした時間というものは存外大きいものだ。それに――」

 

 赤髪吸血鬼は視線を横にずらす。

 思わず追いかけた視線の先にいたのは緑髪。

 

 それだけで彼女が言いたいことは分かった。

 

「――もはやリーフはどこからどう見ても女だからな。私から言っておいてなんだが、アレを男として見るのは無理がある」

「あは…は……でしょうね」

 

 やはり赤髪吸血鬼の目から見ても今の緑髪は女に映るらしい。

 まぁ男の面影がないからな、と納得する。

 

 割と付き合いが長いレーテも本当は元から女だったんじゃないかって疑い始めてるし……。

 

「異世界で何があったんだ?」

「それは当人に聞いてくれる? 私もあんまりよく分かんないから。気付いたらああなってたのよ」

 

 とは言え当時は驚いたな。修行で一ヶ月顔を合わせなかったとはいえ、あの変わり様だったからな。

 

 俺は普通に偽物だと決め付けて身構えてた覚えがある。

 紫髪なんて腰を抜かして化け物を見るような目を向けていたっけ。懐かしい。

 

「そうなのか。では後でリーフに訊ねてみるとしよう」

「そうして頂戴」

 

 クイっとグラスを傾け優雅に赤ワインを口にする赤髪吸血鬼。

 

 話が一区切りつき、ホッと小さく安堵するのも束の間。

 

「あぁ、そうだ」と赤髪吸血鬼は飲み干したグラスを近くの机に置いて、微笑んだ。

 

「ソラに少し頼みがあってな」

「何?」

「血を飲ませてほしいんだ」

「血を? あ、そう。吸血鬼だものね…」

 

 ――ってことはさっきのグラスの中身は赤ワインじゃなくて血だったのか。

 

「足りなかったの?」

「あれはリューの血なんだ。亜人の血は些か酸味が強く不味い。だから私は人間の血を渇望する」

「そうなの。まぁ、血くらいなら別にいいけど。飲まれたからって吸血鬼になるわけじゃないんでしょ?」

「無論だ。吸血鬼にはしない。保証しよう」

「ふーん。『ならない』じゃなくて『しない』なのね。まぁいいわ。飲ませてあげる」

 

 ――吸血鬼も大変だな。

 

 そんな同情もあり、この時俺は軽い気持ちで了承した。

 知らなかったんだ。吸血行為があそこまで快感を伴うものだなんて。

 

 

 

 

 

「………に、二度と…吸血はさせない……!」

 

 ご満悦の様子で去る赤髪吸血鬼の後ろ姿を睨みながら俺は強く決意した。

 

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