空色少女は働きたい   作:とはるみな

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ロールとセーラーな集会 5

「それで、私に何の魔法を教えてくれるの?」

「……お前から弟子にしてくれと押し掛けておいてその質問はないだろ…」

「仕方ないじゃない。知らないんだから」

「開き直るな馬鹿。あー、素質だけで弟子を取ったのは間違いだったか……」

 

 目を背ける空髪の少女に、壮年の男は「はぁ」と聞こえるくらい大きなため息を吐いて、続けた。

 

「温度を調節する魔法だよ」

「温度を…調整……。え? 何が出来るのソレ?」

 

 思わず素で聞き返す空髪の少女に、壮年の男は指を三つ立てる。

 

「一つ、作物の成長を抑制できる」

「う、うん」

「二つ、王宮の温度を快適にできる」

「……うん」

「三つ、飲み物を熱々にしたりキンキンに冷やせたり出来る」

「……」

「以上三つが俺がいつもしている仕事の内容だな」

「想像以上に酷かった」

 

 

 エアコンに冷蔵庫、レンジで代用できる魔法に、空髪の少女はげんなりした様子で呟く。

 

 確かに、電子機器がない異世界ではとても便利な力なのかも知れないが。

 そうじゃないと言う思いの方が強かった。

 

「もっとカッコいい使い方はできないの?」

「カッコいいとは?」

「例えば空気中の水分を凍らせて敵を倒したり――」

「無理だな。現状氷点下までは下げれない」

「そう……じゃあ逆に温度を上げて――」

「そうだな。小さな火傷くらいなら負わせられるかも知れないな。まず倒すのは無理だろうけど」

「…そ、そうなのね…」

「なんだ、嫌なのか? 嫌ならいいぞ、代わりは幾らでもいるからな」

「嫌なんて言ってないでしょ! やるわ! 電子機器になればいいんでしょ!」

 

 この日。空髪の少女が抱いていた魔法への幻想は打ち砕かれ。

 魔法は電子機器の代用品である。その一文が強く根付くことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――声……抑えてたつもりなんだけどなぁ。

 

 ――あんなに離れてた緑髪にまで聞こえたってことは……。つまりほぼ全員の転生者達に聞かれてるってことだよな……

 

 まだ来てなかった転生者は二人。つまり十七人の転生者達に聞かれていたことになる。

 

 ――あぁ、恥ずかしすぎて死ぬ。むしろ死にたい……

 

 

 先の一件から数分後。

 

 俺は緑髪に連れられ、テラスで火照った身体を冷やしながら悶えていた。

 

 

 今は七月。昼近くと言うこともあって外の気温は高い。本来ならば身体を冷やすどころか余計に暑くなる。

 

 ただ俺にとってはどこにいても同じだった。師匠から魔法を受け継いだあの日から今日まで意識せずとも俺の周囲の温度は常に一定になっている。

 もっとも魔法が使えなかったとしても俺は外に出ただろうが。

 流石にあの空間に居続けるのは無理。羞恥で死ぬ。

 

「大丈夫ですかソラさん…? まだ顔真っ赤ですよ」

「ありがとう緑髪。他の人との話はもういいの? 私はもう大丈夫だから行ってきたら?」

 

 緑髪は静かに首を横に振って微笑んだ。

 

「いいんです。ソラさんより優先すべきことはないですから」

「私は当分ここにいるけど、本当にいいの?」

「全然大丈夫ですよ。情報はレーテちゃんが集めてくれるでしょうし」

「そっか」

 

 テラスに並んで立ち、ぼんやりと風景を眺める。枯れ木だらけの庭は不気味だが、気を紛らわすには不気味なくらいが丁度よかった。

 

 

 暫くして唐突に「それにしても」と、緑髪が言った。

 

「やっぱりソラさんの魔法は便利ですよね。涼しいですし」

「まぁ。それだけが取り柄だからね。ていうかそれを言うなら緑髪の魔法もでしょ」

 

 確かに俺の魔法は温度を調節出来るが、夏の敵は温度だけじゃ無い。特に厄介なのは虫だ。

 

 緑髪の魔法はそんな虫を近づけさせない効果があった。

 曰く副作用みたいなものらしいが。

 尚、主作用は作物の成長を促す事らしいので都会では活用できないとのこと。

 

 本人もそれを痛感しているようで、苦々しい笑みを浮かべた。

 

「私は虫除けくらいしか役に立ちませんけどね」

「私もこういう時しか役に立たないわよ。普段は電子機器で代用できるし」

「それを言ったら私も普段は網戸と虫除けスプレーで代用できますよ」

 

 俺と緑髪は互いに顔を見合わせて笑った。

 

「儚い天下だったわね。チヤホヤされていたあの頃が懐かしいわ」

「現代に戻るとほぼ無能ですからね私たち」

「ホントこっちの世界は世知辛い。就職もできないし」

 

 俺が告げると、同意とばかりに緑髪も深く頷いた。

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、赤髪吸血鬼は白髪の龍人と共にいた。

 

「それで、ソラはどうでした。お嬢?」

「すっごい美味しかった」

「いえそうじゃなくて。お嬢って時折救いようのないレベルでアホになりますよね」

 

 白髪龍人の辛辣な言葉に、赤髪吸血鬼はピクリと眉を動かしぶっきら棒に告げる。

 

「勿論、分かってるとも。お前にはユーモアってやつが分からんのか」

「で、どうでした?」

「ふん、そうだな。リーフもソラも少し依存が激しいな。あれは引き剥がしようがない」

「じゃあ諦めるんですか?」

「まさか」

 

 白髪龍人の言葉を赤髪吸血鬼は笑い飛ばした。

 

「依存が激しいならば私にその依存が向くようにすればいいだけのことだ」

「どうやって?」

「まぁ、私に任せておけ。必ず二人まとめて落としてみせるさ」

 

 そう力強く宣言する赤髪吸血鬼の瞳は紫色に輝いていた。


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