現代に帰れば全て元どおり。ハッピーエンド。
だと思っていた。
「じゃあ一応両親と話をつけて来ますね!」
「だ、大丈夫? リーフちゃんだいぶ変わっちゃったけど」
「口調と姿が変わったくらいで家族の縁は切れませんよ。きっと私だって分かってくれます!」
「心配だなぁ……ソラちゃん付いていってあげたら? 僕はちょっと手が離せないからさ」
「うーん…まぁいいか。わかった」
「え、ソラさんもついて来てくれるんですか! やったー! 両親紹介します!」
「しなくていい! 俺は遠くで見守るだけだ!」
「……え、引っ越し…したんですか…?」
「ええ。何でも一人息子が行方不明になったらしくてね。それがきっかけで数年前に―」
「そう…なんですか」
ペラペラと喋る、近所のおばさんだという人物。
しかし、その言葉のほとんどは俺の頭には全く入ってこなかった。ただただ緑髪が心配だった。
「大丈夫か、リーフ…?」
「はい…何とか…。もう会えないんですかね」
「会えるよ。きっと」
異世界から帰ってくれば元どおりになると思っていた日常。
そんな考えを嘲笑うかの如く。
異世界にて過ぎ去った日々は、同じく現代でも失われていた。
◇
「あ、ソラとリーフばい!」
そんな声が聞こえたのは、俺たちがテラスに出て雑談を興じてから三時間ほど経ったあとのことだった。
火照っていた身体の熱はすっかり治まったものの、醜態を晒した恥ずかしさから戻る気になれず、ただただ時間が過ぎるのを待つだけだった俺とリーフに、声をかけたのは橙髪の少女だった。
彼女は人懐っこい笑みを浮かべるとタッタッタッと小走りで近づいてきて俺の手を取った。
「悪か、遅うなった。都会は人目が多すぎ。ばり見らるーけん恥ずかしか……。ばってん、ソラ、リーフも久しぶりばい。元気やった?」
「あー…うん私は元気だよ」
キラキラした目で見つめてくる橙髪少女に俺は目を逸らす。
俺は彼女が苦手だった。
何を隠そう、彼女こそが俺が元男だと知ったら真っ先に殺しにかかってくるであろう人物だった。
と言うのも、彼女自身に非があるわけではない。
むしろ非は俺の方にある。
自己紹介の時に元男だと伝えなかった俺が圧倒的に悪い。
彼女は俺を同性だと思っていたんだ。
だから……うん。まぁ、ああいったスキンシップを取ることは普通であって。……これ以上はやめておこう。思い出したく無い。
「私も元気ですよ、ミューさん!」
「そっか。よかった。ところで何しよーと、こげんところで? 外は暑かとに、中に入らんとか?」
不思議そうに尋ねる橙髪少女。
確かにこんな炎天下の中テラスで寛いでいるなんて側から見たら不思議で仕方ないだろう。
それに彼女は俺たちが魔法使いであることを知っていても、どんな魔法を使うかまで把握していない。当然の疑問だろうな。
「緑髪、説明してあげて」
俺自身、彼女とあまり話したくないので説明は緑髪に任せることにした。
「えーと。ソラさんが体調を崩してしまいまして、少し風に当たってたんですよ」
「こげん暑いときに外で?」
「ええ、私もソラさんも魔法使いですから。暑さなんて感じないんですよ!」
説明下手か!?
「へぇ。魔法使いってんな凄かばいなあ」
感心したように頷く橙髪少女に、俺は思わず口を挟んだ。
「いや暑さは感じてるから。私の魔法で涼しくしてるだけだから!」
「えっ、どっち?」
論より証拠。
困惑する橙髪少女に「ほら」と魔法をかける。
「え、おお!?」
「どう?」
「ホントや! 涼しか! ありがとソラ! ばり凄かばい!」
効果はすぐ現れたようで橙髪少女は驚いた表情をした後、嬉しそうにはにかんだ。
「…どーいたしまして」
まぁ、褒められて悪い気はしない。
素直に言葉を受け止める。
「じゃあ私も魔法をかけときますね!」
俺たちのやりとりを見て、自分も魔法を使いたくなったのか緑髪がそう言って、魔法を使った。
「おお…! こりゃどげん効果なんか?」
「聞いて驚かないでください、虫除けです!」
「へ?」
「虫除けです!」
「お、おお……? 凄か。…うん凄か…」
「そうでしょう? 虫を近づけさせないんですよ! 凄いに決まってます!」
「うん……」
自慢気に胸を張る緑髪から気まずそうに視線を逸らす橙髪少女。
そんな彼女の仕草を見て、俺と緑髪は顔を見合わせ笑った。
「え…と?」
「ごめんなさい。冗談が過ぎました」
何がなんだか分からないという表情をする橙髪少女に、緑髪が軽く謝る。
「冗談と? あ、虫除けって効果が?」
「あ、いえその効果は本当ですよ。冗談なのは虫除けが凄いってことです」
「え、えぇ………」
ネタバラシしたのにも関わらず、橙髪少女は微妙そうな表情を浮かべたままだった。
気持ちは痛いほど分かるんだけどさ。魔法の効果が虫除けって、なんだそりゃってなるよね。
俺も人のこと言えないんだけど。
なんて考えつつ、俺はところでと話題を切り替えた。
「橙髪は皆に早く会わなくていいの?」
「あっ、そうやった。うち遅刻してきたんやった! じゃあそろそろ行くね。また後で会おう」
俺の言葉にハッとした表情を浮かべ、橙髪少女は屋敷へと駆け込んでいった。
そんな彼女の行動をぼんやり眺めていた緑髪はポツリと呟く。
「嵐のような人でしたね」
「お前が言うな」
◇
「ではではみんな揃ったことだし! 宴と行きましょーか!」
「ボサっと突っ立ってないで料理持ってこい、皇!」
「何故我が……ここは我の城なのに……」
橙髪少女と別れてから一時間後。
俺たちは銀髪小人に呼び戻され部屋の中にいた。
揃っていなかったメンバーが合流し、総勢二十名となった空間で、いよいよ本題に移ろうとしていた。