空色少女は働きたい   作:とはるみな

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ロールとセーラーな集会 7

 その第一声を聞いたとき、とてつもなく嫌な予感がした。

 

 

「おおー! スッゲェー! 温泉じゃねぇか! どうしたんだこれ!? 昨日まではなかったよな!?」

「ええ!? 温泉!? ホンマやんか!」

 

 異世界に来て丁度三日目の早朝。

 

 騒がしい声と共に起床した俺は、寝床から出て、目の前の光景に思わず絶句した。

 

 昨日はただ荒野が広がるだけだった光景。

 にも関わらず、今目の前には巨大な水溜りが広がっていた。

 

 もくもくと湯気を立てる水に手を入れ「温泉やー!」と叫ぶ藍髪天使を横目に、恐る恐る俺も指をつけた。

 

 熱過ぎず、冷た過ぎず。かと言ってぬる過ぎることもなく。まさに浸かるにちょうど良い温度のお湯がそこにはあった。

 

「んん…こんな朝早くから何事じゃ…」

「我の眠りを妨げるとはな…つまらぬことだったら万死に値するぞ…って何だこれぇええ!?」

「ええい、お前達。静かにしろ!」

 

 騒がしい声に釣られてか、一人また一人と寝床から出てきては目の前の温泉に驚愕し、目を輝かせた。

 その一人、日傘を片手に持った燃えるような赤い髪が特徴の吸血鬼は、温泉を見た後、煩わしそうに空を見上げ「ふん」と鼻を鳴らした。

 

 

「何か知ってそうな素振りだねカガリ」

「知ってるなら教えてくれないかしら」

「レーテとソラか……」

 

 銀髪の少女に続き、俺も訊ねると赤髪吸血鬼はこちらを一瞥した後、恐らくだがなと前置きを入れた。

 

「あの胡散臭い天の声とやらの仕業だ」

「ふーん。恐らくっていってる割にはやけに自信満々だけど何か根拠はあるのかい?」

「一晩で温泉を作り出すなんて偉業を出来るのは天の声くらいだろう?」

 

 それに、と赤髪吸血鬼は牙を剥いて笑った。

 

「流石に体を洗えぬのは堪えるからな。昨日、愚痴っておいた」

「愚痴る? 本人に会ったってこと?」

「会ってなどいない。ただ独り言で愚痴っただけだ。事前に説明もなく私達を強制的に転生させるほどの力を持った者のことだ。どうせ捻くれているに決まってる。そう言った奴に限ってコソコソと盗み見ているものだと思ったからな。まさかこんなに反応が早いとは思わなかったが」

 

 案外、私達の仲に転生者のフリをして紛れ込んでいるのかもしれないな。

 そう続けてクックックと可笑しそうに笑う赤髪吸血鬼に、質問を重ねていた銀髪少女は「それは嫌だなー」と苦笑を浮かべた。

 俺も苦笑いを返そうとして、不意に腕を引っ張られた。

 

「ソラ、一緒に行こ?」

 

 引っ張っていたのは橙色の髪を持った少女だった。

 

「一緒に行くって何処に?」

「あれ? 話ば聞いとらんかったと? 温泉ばい温泉! 女性陣から先に入ることになったんばい!」

「え……」

 

 俺は身の毛がよだつ感覚に襲われた。

 自分の顔がサァーと青ざめていくのが分かる。

 

 え…温泉? え…俺が女風呂に?

 

 よく考えれば当然だ。

 俺は緑髪の少女や銀髪の少女みたく皆の前で元男であると宣言していないのだから。

 女だと捉えられているに決まっていた。

 

 だからと言って今更元男ですとも言えない。

 

 女性陣の寝床で何度も夜を過ごす等、既に一線は超えてしまっている。

 故に、俺は適当な理由で断るしかなかった。

 

「……無理、私肌弱いから温泉に入れないの」

「そうと?」

「うん…だから」

 

「ふむ、それに関しては大丈夫だと思うがな」

 

 無理。そう繋げようとした俺の声を遮ったのは赤髪吸血鬼だった。

 

「え? 大丈夫って?」

「忘れたのか? 私達は転生してるんだぞ? それも魔王を倒す為に。そんな大きな目的があるのに、お湯でやられるような弱い肌にすると思うか?」

「貴女…日光に弱いじゃない。説得力皆無よ」

「私は吸血鬼だからな。種族の特性上仕方ないことだと思ってる。だが、ソラは人間だ」

「…でも。もしかしたらってことがあるかもしれないじゃない?」

「ふん、その時は文句を言えばいい話よ。どうせ近くで見ているんだろうからな。すぐに治してくれる筈だ。ミュー、連れて行ってやってくれ」

「……!? 赤髪吸血鬼…何を.…!?」

 

 思わず強く睨みつける。

 しかし、赤髪吸血鬼はそれを涼しい顔で受け流し、橙色少女の方を向いた。

 

「大丈夫と?」

「あぁ、まぁ一応念のためソラの身体を見ていてくれ。何かあったらすぐお湯から出すように」

「分かった! じゃあ行こっか、ソラ!」

「…………」

 

 最早反論することもできず。

 

 強引に引き摺られながら俺は、何故か恨めしそうな眼差しを太陽に向ける赤髪吸血鬼を睨むことしかできなかった。

 

 

 

「……あぁ…何だこの気持ちは…。何故か太陽が憎くて仕方がない」

「ねぇ、カガリ。道を踏み外さないように気をつけなよ? 自分では気づいてないと思うけど、初めて血を飲んだ時から君が彼女達を見る目付き結構やばい感じになってるよ…」

「無論だ、血の誘惑なんかに私は負けない。むしろレーテの方が心配だな。数年後にはセーラー服を着てそうだ」

「何その予想!? そんなことあり得るわけないじゃんか! ないない、絶対ないから!」

 

 

 

◇

 

 

 

 第一回現代帰還後集会。

 

 その目的は『異世界をどのように過ごしてきたのか。現代に帰還してからどのように生活してきたか』を共有する場となっている。

 

 表向きは。

 

 今回の集会の真の目的は、魔王を倒した『誰か』を見極めること。

 何故隠しているのか。隠さなければならない理由は何なのか。

 

 

 誰がどう話題を投下するのか。

 とりあえず俺たちからは何も言わない。

 黒髪剣士、銀髪小人と相談して事前に決めている。

 

 誰かが話題を切り出すのを待つ状況だった。

 

 

「おい、リーフ! その肉は我が育てていたんだ! 取るな!」

「沢山あるんですし一枚くらいいいじゃないですか。ケチケチしないでくださいよ」

「それ八枚目じゃねぇか!!! おい、しれっと無言で持ってくなクソ林檎! それ我の肉!」

「えーだって落ちてたんだもん。あ、美味し」

「落ちてるわけねぇだろ!! 食うなぁぁ!!」

 

 一部平常運転の馬鹿共を除き、疑心暗鬼に包まれる中、赤髪吸血鬼は平然とした様子で爆弾を投下した。

 

「で、実際誰が魔王を倒した?」

 

 一斉に赤髪吸血鬼に視線が向けられる。

 赤髪吸血鬼はハッと笑い飛ばし、口を三日月みたく歪ませた。

 

「悪いが性分でな。まどろこしいことは嫌いなんだ。で、誰だ? この中にいるのか?」

 

 訊ねる赤髪吸血鬼に応えるものはいない。

 

「まぁ、当然だろうな。このタイミングで名乗りをあげるくらいなら、現代世界(こっち)に帰ってきた時に告げてるか。そうまでして隠したい理由があるのか……それとも本当にこの中にいないのか。現地民が倒した可能性もあるからな。何にせよ知っている者が話すつもりがないなら真相は分からん」

「結局カガリは何が言いたいのさ」

「いないかもしれない人物を探すよりも先にすることがあるだろうって事だ」

 

「すること、と?」

 

「あぁ。既に話した者もいるかもしれないが、こっちでの生活について、だ。各人一文なしで放り出された身だ。どうやって今日まで過ごしてきたのか、生活の知恵を共有する方が今は大事だろう。ギリギリな生活を送ってきた者もいるみたいだしな」

 

「うっ…」

 

 鋭い眼光が自分を捉えているような気がして、思わず声が漏れる。

 

 確かに俺と同様に派手な髪色をした皆がどうやって暮らしているのか。気になってはいた。

 

 それを知ることで就職難から抜け出せるかもしれない。

 

 

 チラリと銀髪小人に視線を移す。

 絶対見つけてやると意気込んでいた銀髪小人は眉を顰めていたが、俺の視線に気づくと表情を戻し、仕方ないとばかりに首を横に振った。

 

 他の皆同様で赤髪吸血鬼の言葉に、反対の意を唱えるものはいなかった。

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